2013年3月号
特集

第2部 在庫の見える化 現場の即断即決でスピード導入──オリンパス

MARCH 2013  26 生データを本社に集めろ  「海外の在庫データの数が合わない。
現地法人に 問い合わせても、らちが明かない」。
 医療事業部門からの切実な声がIT部門に寄せ られた。
友光徹治IT本部グローバル事業基盤推 進部部長は「問題は深刻だった」と、二〇〇五年 当時の状況を振り返る。
友光部長はその頃、赴任 先の香港から帰国し、グループ全体のIT戦略企 画を担う部署にグループリーダーとして配属された ばかりだった。
社内ヒアリングでは、同じような事 態が以前からあったと判明した。
 オリンパスは六〇を超える海外現地法人を持ち、 売上の過半を海外で上げている。
特に主力の医療 事業部門は海外比率が高く、現在では七七%まで 高まっている。
長年にわたってM&Aを繰り返し てきたこともあり、海外現地法人の基幹システム はそれぞれが異なるERPを導入していた。
SA Pが主流だったものの、かなりバラエティに富んだ 状態だった。
 グループの在庫情報を本社で集約するシステムを 二〇〇二年には構築していた。
現地法人が各々の 在庫データを各々のシステム上でいったん決められ たフォーマットに日次集約し、「サマリー」として 日本に送る仕組みだ。
 しかし、このシステムでは日本の担当者が直接 詳細な分析をす ることはできな かった。
生デー タが手元に無い からだ。
在庫と 出入庫の数に矛 盾が生じているのを発見しても、その都度海外に 問い合わせるしかない。
 すぐに回答が得られるとは限らない。
回答まで 二週間も掛かったり、「サマリー作成プログラムの 作成者が辞めたため、何が間違ったか分からない。
仕様も残っていない」など、回答そのものが得ら れないケースも発生していた。
 M&Aや新規設立等で現地法人の数が増え、日 本を通さずに海外から海外への直接物流も拡大。
オ ーダーレベルの詳細情報を見える化するなど以前は 無かったニーズも生まれてきていた。
 グローバル在庫の可視化は喫緊の課題だった。
し かし、当時オリンパスのIT部門は本体のSAP 導入に完全に手を取られていた。
在庫可視化プロ ジェクトの開始はそれが一段落した〇六年十一月 を待たなければならなかった。
それだけにキックオ フ後は、立ち上げまでの速度が最重要課題の一つ に位置付けられた。
 友光部長はプロジェクトの初期段階で「生データ を本社に持ってくる」と方針を決めていた。
デー タ形式は各国でバラバラだ。
標準化するには大変な 手間と時間の掛かることは明らかだった。
それよ りも各現法のデータをそのまま日本側で集め、そ れを変換して、データベース化するというアプロー チのほうが現実的だと判断した。
 本社IT部門の担当者はわずか三人。
マンパワ ー不足を逆手に取って、小所帯ならではの即断即 決で、それぞれ一〜二カ月というスパンで各種のパ ッケージを選んでいった。
 データウェアハウスは、チューニングやメンテナ ンスに手間が掛からないことを売りにしていた米 国製の「Netezza」を選択。
当時日本での 現場の即断即決でスピード導入 ──オリンパス  このままでは駄目だ──。
IT 担当者の決意がグ ループ全体を動かした。
稼働までのスピードを重視 し、敢えて国内採用実績の少なかったパッケージも 導入。
事業部門や海外現地法人も巻き込んで、8カ 月という短期間でグローバル在庫の可視化システム 「OLIVE」の構築に成功した。
     (渡邉一樹) 友光徹治IT本部グロ ーバル事業基盤推進 部部長 第2部 在庫の見える化 27  MARCH 2013 辞書」はパッケージを導入したものの、実質的にほ ぼ手作りの力仕事となった。
まずはグローバルの在 庫分類とその定義を業務部と話し合って作成した。
 グローバル在庫の定義は「新品」や「積送中」な ど、六種類に分類した。
各現地法人はそれぞれの 在庫定義を採用していたため、まずはグローバルと 現地法人とで在庫定義がどのように異なるかを検 証する必要があった。
 例えばある現地法人では、「倉庫コードとロケー ションコードの組み合わせ」を見れば、それが新品 在庫だと分かるという仕組みになっていた。
この ようにして、データ変換・統合をするロジックを決 定し、データ辞書を編纂していった。
 在庫だけではなく、受払や出荷、購買のステータ スについても、一つ一つ同様の作業が必要だった。
日米で最大一七時間ある時差に対応するため、入 ってくる全てのデータに対して、自動でタイムスタ ンプを押していく必要もあった。
そうやって、現 地法人ごとに全ての商品について変換できる仕組 みをコツコツと作っていった。
気の遠くなるような 膨大な作業だったが、国内海外の業務部とIT部 門の四者が一丸となって取り組むことで、何とか 乗り越えることができた。
メリットを訴えて現法を説得  以前のシステムは、利用者が日本側だけで現地 法人の業務に直接の影響は無かった。
そのためプ ロジェクトでは、構築面でも運用面でも現地法人 側の協力をどう取り付けるかが課題の一つだった。
 各地の現法の説得のため、週何度というペース で、相手の時間に合わせてテレビ会議を開いた。
業 務部門の部長と一緒に直接海外を訪れて、「グルー 導入事例は少なかったが、NECが構築したテス トセンターに過去一年分のデータを加工して持ち込 み、実際の運用に近い形で検証を済ませ、社内の 同意を取り付けた。
 一方でデータを翻訳するために参照する「データ プ全体の戦略としては、このデータがどうしても必 要だ」と繰り返し訴えた。
現法の担当者を日本側 に招き、人間的な繋がりを深めることも含め、粘 り強く交渉を進めていった。
 また複数の現地法人をまたがる受発注のステータ スを一画面で展望できるように設計し、「このシス テムなら、自分たちが取ったオーダーの現状を正確 に把握できる」と海外法人にとってのメリットも訴 えた。
友光部長は「ウルトラCや水戸黄門の印籠 のようなものはない。
必要性を論理的に、滔々と 繰り返し訴えることで、最終的に言語や文化、制 度の壁を越えることができた」と振り返る。
 システムの本格稼働は〇七年六月、プロジェクト の開始からわずか八カ月後のことだった。
システム の名前は、女神アテナが人類にオリーブの木を贈っ たというギリシャ神話のエピソードにちなみ、会社 にとってそれぐらい貴重な贈り物になればとの思 いを込めて、OLIVEと決めた。
 事前に業務側とのミーティングで定めた可視化率 九〇%以上、データ精度はほぼ一〇〇%という目 標はクリアできた。
また、仕掛品や積送中在庫な ど、全体の連結在庫も見えるようになった。
 システムが繋ぐ現地法人はその後も増加し、現 在約五〇社。
システムは今も少しずつ改良を重ねて おり、現在では売値など金額に関する情報も、同 時に表示されるようになってきている。
 積送中在庫情報の精度向上など現在も苦労をし ている部分もあるが、生産計画や在庫計画などS CMの多くの業務がOLIVEのデータを使って 行われるようになった。
友光部長は「このシステ ム無しに今の社内業務は動かない。
社内を流れる 動脈のような存在になった」と満足している。
現地ERP OLIVEシステム 総合化の仕組み (データ辞書) ユーザー 出所:オリンパス 現地の生データを取得 統合DB & DWH オリンパスの在庫可視化システム概要図 特集 物流の 見える化 最新版

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