2004年3月号
特集
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中国物流マーケットの現状と将来性
MARCH 2004 32
中国物流マーケットの現状と将来性
本誌2002年8月号に「中国物流マーケットの現状と将来性」
というテーマで論文を寄せた。
WTO加盟で中国の物流ビジネス や物流マーケットにどのような変化が生じたのか。
さらに各輸 送モードの現状分析やケーススタディをベースに今後の方向性 を探った。
言うまでもなくその後も中国は急速な勢いで発展を 遂げている。
あらためて中国の物流マーケットを検証する。
大出一晴 日通総合研究所 経済研究部物流産業研究グループ研究主査 WTO加盟で加速した変化 中国は二〇〇一年十二月のWTO加盟に際し、国 際社会に対して様々な公約を掲げた。
とりわけ流通分 野を始めとする国内市場の開放は外資系企業にとっ て大きなビジネスチャンスとして捉えられた。
物流業 も例外ではなく、具体的なスケジュールを決めて段階 的に外資規制を緩和していく方向性が示されていた。
ただし、これまでの「法治主義」とは言えない中国 の行動を知る人々の間では懐疑的な見方も根強かっ た。
国内産業保護の揺り戻しが生じ、スケジュール通 りに開放策が実行されないのではないか、という不安 は拭えなかった。
しかし、そうした懸念は杞憂に終わったといってよ さそうだ。
中国はWTO加盟一年後にフォワーディン グと自動車輸送業(トラック運送業)の分野で外資 マジョリティを開放すると約束していた。
そして一年 後。
実際に自動車輸送では「外資投資道路輸送業管 理規定(外商投資道路運輸業管理規定)」で、フォワ ーダー業務では「外資投資国際フォワーディング管理 方法(外商投資国際貨物運輸代理企業管理弁法)」で、 外資マジョリティを七五%にまで引き上げる規制緩和 策を発表した。
ちなみに、フォワーダー企業の場合、当緩和規定が 発表される数日前に、欧州系外資マジョリティのフォ ワーダー企業の北京での会社設立が新聞を賑わせ、実 態ベースを法律が追認する形になった。
当初から参入免許が存在しない梱包、倉庫業は企 業設立を申請すればフォワーダー業やトラック輸送業 に比較してより簡素に外資マジョリティの設立が可能 になったと考えられる。
これに今回の緩和策が加わっ たことで、WTO加盟時の約束は忠実に守られている と評価できる。
一〇〇%外資企業の設立もスケジュー ル通りに認められるようになるのではないか、という 期待はより大きくなった。
WTO事務局も加盟後一年後の総括として「中国 はWTOのルールに基づいて自国の多くの法律を改正 し、貿易政策メカニズムを改革し始め、タイムテーブ ルよりも早く市場開放の改革を完成した事項さえある。
中国が今まで実施したことはすべてWTO加盟時に行 った約束に合致すると見ている」と高く評価した。
中国は加盟三年後には、「貿易権」(中国では自由 に貿易をすることができず、あらかじめ輸出入品目や 数量の認可が必要であり、その枠内でしか輸出入でき ない。
この貿易を行える権利を通常「貿易権」と呼ん でいる)を撤廃することを約束しており、今年はその リミットの年として注目されている。
貿易権の撤廃に より自由な輸出入が可能となることは、確実に中国の 国際物流ビジネスにとって追い風となろう。
拡大する中国物流マーケット中国の物流マーケットはWTO加盟前から大きく 進展していたが、予測を上回るペースで推移している。
国内輸送量をみると、九八年こそトンベース・トンキ ロベースともアジア通貨危機などの影響で前年に比べ て落ち込んだが、その後は増加傾向を維持している。
九八年と二〇〇二年の四年間でトンベースでは一七%、 トンキロベースでは三十三%の大幅な増加となった。
二〇〇〇年と二〇〇二年のわずか二年でもトンベ ースでは九%、トンキロベースでは一四%増という結 果だった。
トンベースに比べトンキロベースが大きく 伸長していることから、中国の物流は遠距離輸送が可 能となってきている様子が窺える。
二〇〇二年はトンベース、トンキロベースともに前 第5部 33 MARCH 2004 特 集 年比六%増だった。
二〇〇一年の伸び率(トンベー ス:三%、トンキロベース:八%)と比較すると、W TO加盟がトンベースに大きく寄与したと考えられる。
今後とも高い経済成長が予想されること、さらに北京 オリンピックや上海万博などのイベントが控えている ことを考慮すると、貨物輸送量の伸びは今後も続く可 能性が高い。
さらに驚くのは国際輸送の伸びである。
特に海上輸 送は驚異的なスピードで伸びている。
人民日報(日本 版二〇〇四年一月十二日付)によると、中国の二〇 〇三年の総海上輸送量は四八〇〇万TEU(二〇フ ィートコンテナ換算)で、米国の三九七〇万TEUを 抜き世界一となった。
二〇〇三年の上海港のコンテナ取扱量は前年より 一〇〇万TEU程度は増加し、一〇〇〇万TEUを 超え世界第三位となった模様だ。
同港では二〇〇三 年に港湾拡張工事を実施し、取扱量を二〇〇万TE U引き上げることに成功した。
二〇〇五年にも同様 の港湾拡張工事を予定するなどインフラ整備を急ピ ッチで進めているが、それでも実勢には追いついてい ない。
ちなみに、深 のコンテナ取扱量も一〇〇〇万T EUを超え、その結果、同港は世界第四位となった 模様だ。
これによって世界の五大コンテナ港のうち三つを中国の港湾が占めたことになる。
それだけ中国で は急速に国際物流が伸びていると言えるだろう。
物流インフラの現状 中国の内陸輸送を考えた場合、これまでは鉄道と 自動車(トラック)が主たる輸送モードであった。
し かし、ここにきて道路輸送への投資が鉄道を大きく上 回るようになっている。
すでに二〇〇〇年時点で中国 の高速道路の総延長は一万六〇〇〇キロメートルに 達し、世界第三位となっていることは前稿(二〇〇二 年八月号)でも触れた。
その後もペースは衰えること なく、二〇〇二年には二万五〇〇〇キロメートルを超 えた。
現在、総延長は世界第二位である。
中国は今後も道路整備のテンポを緩めない方針だ。
図2 中国国内の貨物輸送量の推移 (万トン) (億トンキロ) (年) 1,600,000 1,400,000 1,200,000 1,000,000 800,000 600,000 400,000 200,000 0 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 トンベース トンキロベース 1,234,810 1,298,312 1,278,067 1,267200 1,292,650 1,358,124 1,401,177 1,482,737 35,730 36,577 38,368 38,046 40,496 44,212 47,591 50,543 中国統計年鑑2003年版 一年以内に合弁企業の設立を許可(外資マジョリ ティ認める)。
三年以内に外資一〇〇%企業を許可 外国貿易港として開港しているもののみ (マーケットアクセス条件に合致するもの) ・外資四九%を越えない合弁企業が可能 ・加盟後三年以内に外資マジョリティの設立が可能。
六年以内に外資一〇〇%が可能 ・外資四九%を越えない合弁企業が可能 ・加盟後一年以内に外資マジョリティの設立が可能。
三年以内に外資一〇〇%が可能 ・外資四九%を越えない合弁企業が可能。
加盟後一 年以内に外資マジョリティの設立が可能。
三年以 内に外資一〇〇%が可能 ・加盟時に三年以上の経験があれば五〇%を超えな い合弁企業の設立が可能。
一年以内に外資マジョ リティの設立が可能。
四年以内に外資一〇〇%が 可能 ・最低資本金は最低一〇〇万ドル ・期間は二〇年を超えない ・一年以上の営業で支店設立が可能。
一箇所に資本 金十二万ドルを追加 ・五年後に追加(二つめ)の合弁企業の設立が可能。
ただし加盟後二年以内に期間を二年に短縮 外資マイノリティの合弁企業のみ可能 外資マイノリティの合弁企業のみ可能 外資四九%を超えない合弁企業のみ可能 図1 WTO加盟による参入規制の緩和 通関業 梱包業 (海運) コンテナ ステーション ・デポ 海運 鉄道輸送 内航海運 代理店 自動車 輸送 フォワーディング 倉庫業 サービス 内 容 資料:WTOホームページより MARCH 2004 34 二〇〇一年にスタートした第一〇期五カ年計画では 新たに二〇万キロメートルの幹線道路を整備し、合計 一六〇万キロメートル体制にするという。
地域的には 西部大開発を受けて、新設道路の四〇%を同地域に 集中投資することで、課題であった内陸部輸送のボト ルネックを解消する計画だ。
中国における基幹ルート整備は「五縦七横」の整 備(五つの「縦」は、同江―三亜、北京―福州、北 京―珠海、二連―河口、重慶―湛江、七つの「横」は、 タフン河 ―満州里、丹東―ラサ、青島―銀川、連雲港 ―ホルコス、上海―成都、上海―瑞麗、衝陽―昆明) に代表され、第一〇期五カ年計画では「五縦七横」の 七五%を完成させる。
中長期的には二〇一〇年まで に全国主要道路ネットワークの完成を目指すことにな るが、「五縦七横」はこのネットワークの中核を担う 重要な道路として位置付けられている。
中国の高速道路整備の目的は?五〇〇キロメート ル以内は一日で往復可能、?一二〇〇キロメートル 以内は半日(十二時間内)で到着可能、?二〇〇〇 キロメートル圏内は一日以内で到着可能――にするこ とである。
第一〇期五カ年計画の達成によって、この 目標が現実的なものになると期待されている。
道路だけではない。
車両のレベルも着実に向上して いる。
とりわけ輸出入貨物が積載されるボックスタイ プのトラックの充実ぶりが目立つ。
かつてはボックス タイプのトラックを見掛けるのは沿岸部が中心だった が、最近では内陸都市でも走行している姿を目にする ようになった。
行政サイドも自動車輸送業者(トラック輸送業者) のレベルアップに力を注いでおり、その一環として 「道路貨運企業経営資質管理弁法」を策定した。
?事 業者を格付けし、経営範囲を定めた免許を発給、? 新規参入者は低いランクからスタートして、実績(規 模・歴史・人員構成・経営成績などを基に)に応じ て免許のランクを上げていく――というルールを設け て事業免許と提供サービスを密接にリンクさせること で、事業者のレベルを引き上げようとしている。
総合物流の進展 前稿(二〇〇二年八月号)では中国の物流マーケ ットの「後進性」や「独自性」を説明した。
具体的に は、?中国は共産主義体制を敷いており、計画に従 って「物」を運ぶシステムは整備されている。
しかし、 マーケットのニーズに即してデリバリーを行うといっ た柔軟性に乏しい、?中国企業の多くは、全ての部 門を内製化する体制がベストであるという認識を持っ ている。
そのため、自社で運輸部門を抱えている企業 が少なくない。
物流は「自家輸送」が基本である。
そ の結果、「物流専業者」による効率的な輸送システム ができ上がっていない――ということを指摘した。
中国のこうした状況は経済システム上、大きな問題 であると指摘されている。
わが国の製品価格に占める 物流費の割合は一〇%を切っているといわれるが、こ れに対して、中国の場合は一〇〜二〇%、地方によ っては三〇%を超えていると見られている。
中国は相 対的に物流費が高いのである。
複合一貫輸送など先 進的な物流を導入して効率化を進めることで物流費 用を抑えたいという国家的要請が生まれつつある。
外資系の物流企業はこれまでフォワーディングや国 際コンテナ輸送、道路輸送、倉庫、付帯業務などの サービスを一括で提供してきた。
これに対して中国系 の物流企業は倉庫業や代理店業など単一のサービス の提供にとどまっていた。
日中ではサービスレベルに 大きな格差があったわけだ。
152.7万 1200万 1000万 800万 600万 400万 200万 0 193万 252万 306.6万 421.6万 561.3万 633.4万 946.4万 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 1100万 19 18 11 10 7 6 5 4 3 図4 高速道路総延長 図3 上海港のコンテナ取扱量 2002年のデータは Containerization International Yearbook 各年版より 2003年は人民日報。
Shipping Times 等による予想値 中国交通部ホームページ 2002年度は www.china.org.cn より ※★内の数字は世界のコンテナ扱い 港湾のなかのランキング ? TEU 30000 25000 20000 15000 10000 5000 0 522 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 574 652 1146 1603 2141 3422 4711 8733 11605 16314 19437 25200 35 MARCH 2004 しかし、ここにきて総合物流の提供を目指す中国系 企業が増えつつある。
対外貨物輸送を手掛けていたシ ノトランスが、グループ企業化して総合物流企業体制 を目指しているケースが代表例である。
ただし、中国 の総合物流企業はまだ揺籃期にある。
資本力のあるプ レーヤーは少なく、サービスレベルもそれほど高くは ないというのが実情だ。
総合的物流サービスを提供していく上で、ハードと しての物流センター(ロジスティクスセンター)をい かに充実させていくかが今後の課題であろう。
中国の ロジスティクスセンター機能は、流通業でのオペレー ションを見ると現在のレベルが把握できる。
少数の例外を除いて、店舗には商品が各ベンダーか ら直接納入されており、物量の増加とともにその体制 が限界を迎えつつある。
店舗の接車バースは少なく、 かつ、大都市圏の貨物自動車の走行制限が厳しくな っており、納入時間は長時間化し、周辺環境へ悪影 響を与えている。
また、ベンダーの貨物納入レベルが 均一でなく、人力に頼った数量チェックが欠かせない など検品作業の面での課題もある。
このように中国ではセンター機能が未発達で、その ことが効率的な物流に対するボトルネックとなる可能 性が高い。
センター機能の充実はきわめて重要視され ており、国内各地でロジスティクスセンターの建設が 計画されている。
中国系物流企業の可能性 前稿で中国の物流マーケットはWTO加盟を契機 に進展していくであろうと予測した。
そして現在では その予想を上回る規模でマーケット拡大が期待できる 状況にある。
WTO加盟時に約束された規制緩和ス ケジュールが守られていることは、中国の物流マーケ ットの魅力をさらに高めることになろう。
とはいえ日系物流企業が中国への進出や拠点の拡 充を加速させるのは早計である。
前稿が掲載された当 時から徐々に兆候が見られたが、中国の地場の物流 企業と日系物流企業の競争が激化しているからだ。
も ともと両者は「中国系=単一サービス、国内物流」、「日 系=複合サービス、国際物流」という具合に棲み分け がみられていた。
しかし最近では中国系が急速に「総 合物流」への志向を強めているなど日系企業と競合す るケースが増えている。
中国系が提供する物流サービスの質も着実に向上 している。
先進的な中国系物流企業では、「過去には 外資系の顧客に『サービスレベルの向上』を要求され た。
しかし、それが現在は『コストの削減』に変わっ てきている。
サービス面でのクレームは減っている」 という答えをするものも珍しくない。
しかし、中国の総合物流企業はその歴史がまだ浅く、 外資系企業ほどの競争力を身につけているわけではない。
特に人材の厚み、海外ネットワーク力、情報技術 の面では依然として外資系企業が優位なポジションに ある。
中国の物流マーケットが外資系企業に完全に解 放されるまでには、最長でWTO加盟後六年(鉄道 輸送の外資への開放まで。
フォワーダーなどはその前 に開放される)の「猶予期間」がある。
それまでに中 国系企業がどの程度の競争力をつけることができるか が、今後大いに注目される。
中国をウォッチしていていつも驚かされるのは「改 革のスピード」である。
日本人の目からすると「無理 ではないか」というスピードで、インフラ整備などを 進めていった経緯を考えれば、この「猶予期間」内に 中国系物流企業の競争力が急速に高まっていく可能 性が高いと言えるだろう。
特 集 おおいで・かずはる83年3月慶應 義塾大学商学部卒。
同年4月日本通 運入社。
国際輸送事業部、米国日通 シカゴ海運支店等を経て、92年4月 より日通総合研究所に出向。
主に国 際物流に関する調査・研究を担当。
JIFFA国際複合輸送士資格認定講座 講師、JILS国際物流管理士資格認定 講座講師。
中国の物流に関する論文 として、「中国の物流事情と日系進出 企業の物流課題」(「輸送展望96年夏 号」=発行・日通総研)、「中国にお ける物流変化−1.鉄道輸送の変化、 2.自動車輸送の変化」(「流通問題研 究No.33、34」=発行・流通経済大 学流通問題研究所)などがある。
PROFILE
WTO加盟で中国の物流ビジネス や物流マーケットにどのような変化が生じたのか。
さらに各輸 送モードの現状分析やケーススタディをベースに今後の方向性 を探った。
言うまでもなくその後も中国は急速な勢いで発展を 遂げている。
あらためて中国の物流マーケットを検証する。
大出一晴 日通総合研究所 経済研究部物流産業研究グループ研究主査 WTO加盟で加速した変化 中国は二〇〇一年十二月のWTO加盟に際し、国 際社会に対して様々な公約を掲げた。
とりわけ流通分 野を始めとする国内市場の開放は外資系企業にとっ て大きなビジネスチャンスとして捉えられた。
物流業 も例外ではなく、具体的なスケジュールを決めて段階 的に外資規制を緩和していく方向性が示されていた。
ただし、これまでの「法治主義」とは言えない中国 の行動を知る人々の間では懐疑的な見方も根強かっ た。
国内産業保護の揺り戻しが生じ、スケジュール通 りに開放策が実行されないのではないか、という不安 は拭えなかった。
しかし、そうした懸念は杞憂に終わったといってよ さそうだ。
中国はWTO加盟一年後にフォワーディン グと自動車輸送業(トラック運送業)の分野で外資 マジョリティを開放すると約束していた。
そして一年 後。
実際に自動車輸送では「外資投資道路輸送業管 理規定(外商投資道路運輸業管理規定)」で、フォワ ーダー業務では「外資投資国際フォワーディング管理 方法(外商投資国際貨物運輸代理企業管理弁法)」で、 外資マジョリティを七五%にまで引き上げる規制緩和 策を発表した。
ちなみに、フォワーダー企業の場合、当緩和規定が 発表される数日前に、欧州系外資マジョリティのフォ ワーダー企業の北京での会社設立が新聞を賑わせ、実 態ベースを法律が追認する形になった。
当初から参入免許が存在しない梱包、倉庫業は企 業設立を申請すればフォワーダー業やトラック輸送業 に比較してより簡素に外資マジョリティの設立が可能 になったと考えられる。
これに今回の緩和策が加わっ たことで、WTO加盟時の約束は忠実に守られている と評価できる。
一〇〇%外資企業の設立もスケジュー ル通りに認められるようになるのではないか、という 期待はより大きくなった。
WTO事務局も加盟後一年後の総括として「中国 はWTOのルールに基づいて自国の多くの法律を改正 し、貿易政策メカニズムを改革し始め、タイムテーブ ルよりも早く市場開放の改革を完成した事項さえある。
中国が今まで実施したことはすべてWTO加盟時に行 った約束に合致すると見ている」と高く評価した。
中国は加盟三年後には、「貿易権」(中国では自由 に貿易をすることができず、あらかじめ輸出入品目や 数量の認可が必要であり、その枠内でしか輸出入でき ない。
この貿易を行える権利を通常「貿易権」と呼ん でいる)を撤廃することを約束しており、今年はその リミットの年として注目されている。
貿易権の撤廃に より自由な輸出入が可能となることは、確実に中国の 国際物流ビジネスにとって追い風となろう。
拡大する中国物流マーケット中国の物流マーケットはWTO加盟前から大きく 進展していたが、予測を上回るペースで推移している。
国内輸送量をみると、九八年こそトンベース・トンキ ロベースともアジア通貨危機などの影響で前年に比べ て落ち込んだが、その後は増加傾向を維持している。
九八年と二〇〇二年の四年間でトンベースでは一七%、 トンキロベースでは三十三%の大幅な増加となった。
二〇〇〇年と二〇〇二年のわずか二年でもトンベ ースでは九%、トンキロベースでは一四%増という結 果だった。
トンベースに比べトンキロベースが大きく 伸長していることから、中国の物流は遠距離輸送が可 能となってきている様子が窺える。
二〇〇二年はトンベース、トンキロベースともに前 第5部 33 MARCH 2004 特 集 年比六%増だった。
二〇〇一年の伸び率(トンベー ス:三%、トンキロベース:八%)と比較すると、W TO加盟がトンベースに大きく寄与したと考えられる。
今後とも高い経済成長が予想されること、さらに北京 オリンピックや上海万博などのイベントが控えている ことを考慮すると、貨物輸送量の伸びは今後も続く可 能性が高い。
さらに驚くのは国際輸送の伸びである。
特に海上輸 送は驚異的なスピードで伸びている。
人民日報(日本 版二〇〇四年一月十二日付)によると、中国の二〇 〇三年の総海上輸送量は四八〇〇万TEU(二〇フ ィートコンテナ換算)で、米国の三九七〇万TEUを 抜き世界一となった。
二〇〇三年の上海港のコンテナ取扱量は前年より 一〇〇万TEU程度は増加し、一〇〇〇万TEUを 超え世界第三位となった模様だ。
同港では二〇〇三 年に港湾拡張工事を実施し、取扱量を二〇〇万TE U引き上げることに成功した。
二〇〇五年にも同様 の港湾拡張工事を予定するなどインフラ整備を急ピ ッチで進めているが、それでも実勢には追いついてい ない。
ちなみに、深 のコンテナ取扱量も一〇〇〇万T EUを超え、その結果、同港は世界第四位となった 模様だ。
これによって世界の五大コンテナ港のうち三つを中国の港湾が占めたことになる。
それだけ中国で は急速に国際物流が伸びていると言えるだろう。
物流インフラの現状 中国の内陸輸送を考えた場合、これまでは鉄道と 自動車(トラック)が主たる輸送モードであった。
し かし、ここにきて道路輸送への投資が鉄道を大きく上 回るようになっている。
すでに二〇〇〇年時点で中国 の高速道路の総延長は一万六〇〇〇キロメートルに 達し、世界第三位となっていることは前稿(二〇〇二 年八月号)でも触れた。
その後もペースは衰えること なく、二〇〇二年には二万五〇〇〇キロメートルを超 えた。
現在、総延長は世界第二位である。
中国は今後も道路整備のテンポを緩めない方針だ。
図2 中国国内の貨物輸送量の推移 (万トン) (億トンキロ) (年) 1,600,000 1,400,000 1,200,000 1,000,000 800,000 600,000 400,000 200,000 0 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 トンベース トンキロベース 1,234,810 1,298,312 1,278,067 1,267200 1,292,650 1,358,124 1,401,177 1,482,737 35,730 36,577 38,368 38,046 40,496 44,212 47,591 50,543 中国統計年鑑2003年版 一年以内に合弁企業の設立を許可(外資マジョリ ティ認める)。
三年以内に外資一〇〇%企業を許可 外国貿易港として開港しているもののみ (マーケットアクセス条件に合致するもの) ・外資四九%を越えない合弁企業が可能 ・加盟後三年以内に外資マジョリティの設立が可能。
六年以内に外資一〇〇%が可能 ・外資四九%を越えない合弁企業が可能 ・加盟後一年以内に外資マジョリティの設立が可能。
三年以内に外資一〇〇%が可能 ・外資四九%を越えない合弁企業が可能。
加盟後一 年以内に外資マジョリティの設立が可能。
三年以 内に外資一〇〇%が可能 ・加盟時に三年以上の経験があれば五〇%を超えな い合弁企業の設立が可能。
一年以内に外資マジョ リティの設立が可能。
四年以内に外資一〇〇%が 可能 ・最低資本金は最低一〇〇万ドル ・期間は二〇年を超えない ・一年以上の営業で支店設立が可能。
一箇所に資本 金十二万ドルを追加 ・五年後に追加(二つめ)の合弁企業の設立が可能。
ただし加盟後二年以内に期間を二年に短縮 外資マイノリティの合弁企業のみ可能 外資マイノリティの合弁企業のみ可能 外資四九%を超えない合弁企業のみ可能 図1 WTO加盟による参入規制の緩和 通関業 梱包業 (海運) コンテナ ステーション ・デポ 海運 鉄道輸送 内航海運 代理店 自動車 輸送 フォワーディング 倉庫業 サービス 内 容 資料:WTOホームページより MARCH 2004 34 二〇〇一年にスタートした第一〇期五カ年計画では 新たに二〇万キロメートルの幹線道路を整備し、合計 一六〇万キロメートル体制にするという。
地域的には 西部大開発を受けて、新設道路の四〇%を同地域に 集中投資することで、課題であった内陸部輸送のボト ルネックを解消する計画だ。
中国における基幹ルート整備は「五縦七横」の整 備(五つの「縦」は、同江―三亜、北京―福州、北 京―珠海、二連―河口、重慶―湛江、七つの「横」は、 タフン河 ―満州里、丹東―ラサ、青島―銀川、連雲港 ―ホルコス、上海―成都、上海―瑞麗、衝陽―昆明) に代表され、第一〇期五カ年計画では「五縦七横」の 七五%を完成させる。
中長期的には二〇一〇年まで に全国主要道路ネットワークの完成を目指すことにな るが、「五縦七横」はこのネットワークの中核を担う 重要な道路として位置付けられている。
中国の高速道路整備の目的は?五〇〇キロメート ル以内は一日で往復可能、?一二〇〇キロメートル 以内は半日(十二時間内)で到着可能、?二〇〇〇 キロメートル圏内は一日以内で到着可能――にするこ とである。
第一〇期五カ年計画の達成によって、この 目標が現実的なものになると期待されている。
道路だけではない。
車両のレベルも着実に向上して いる。
とりわけ輸出入貨物が積載されるボックスタイ プのトラックの充実ぶりが目立つ。
かつてはボックス タイプのトラックを見掛けるのは沿岸部が中心だった が、最近では内陸都市でも走行している姿を目にする ようになった。
行政サイドも自動車輸送業者(トラック輸送業者) のレベルアップに力を注いでおり、その一環として 「道路貨運企業経営資質管理弁法」を策定した。
?事 業者を格付けし、経営範囲を定めた免許を発給、? 新規参入者は低いランクからスタートして、実績(規 模・歴史・人員構成・経営成績などを基に)に応じ て免許のランクを上げていく――というルールを設け て事業免許と提供サービスを密接にリンクさせること で、事業者のレベルを引き上げようとしている。
総合物流の進展 前稿(二〇〇二年八月号)では中国の物流マーケ ットの「後進性」や「独自性」を説明した。
具体的に は、?中国は共産主義体制を敷いており、計画に従 って「物」を運ぶシステムは整備されている。
しかし、 マーケットのニーズに即してデリバリーを行うといっ た柔軟性に乏しい、?中国企業の多くは、全ての部 門を内製化する体制がベストであるという認識を持っ ている。
そのため、自社で運輸部門を抱えている企業 が少なくない。
物流は「自家輸送」が基本である。
そ の結果、「物流専業者」による効率的な輸送システム ができ上がっていない――ということを指摘した。
中国のこうした状況は経済システム上、大きな問題 であると指摘されている。
わが国の製品価格に占める 物流費の割合は一〇%を切っているといわれるが、こ れに対して、中国の場合は一〇〜二〇%、地方によ っては三〇%を超えていると見られている。
中国は相 対的に物流費が高いのである。
複合一貫輸送など先 進的な物流を導入して効率化を進めることで物流費 用を抑えたいという国家的要請が生まれつつある。
外資系の物流企業はこれまでフォワーディングや国 際コンテナ輸送、道路輸送、倉庫、付帯業務などの サービスを一括で提供してきた。
これに対して中国系 の物流企業は倉庫業や代理店業など単一のサービス の提供にとどまっていた。
日中ではサービスレベルに 大きな格差があったわけだ。
152.7万 1200万 1000万 800万 600万 400万 200万 0 193万 252万 306.6万 421.6万 561.3万 633.4万 946.4万 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 1100万 19 18 11 10 7 6 5 4 3 図4 高速道路総延長 図3 上海港のコンテナ取扱量 2002年のデータは Containerization International Yearbook 各年版より 2003年は人民日報。
Shipping Times 等による予想値 中国交通部ホームページ 2002年度は www.china.org.cn より ※★内の数字は世界のコンテナ扱い 港湾のなかのランキング ? TEU 30000 25000 20000 15000 10000 5000 0 522 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 574 652 1146 1603 2141 3422 4711 8733 11605 16314 19437 25200 35 MARCH 2004 しかし、ここにきて総合物流の提供を目指す中国系 企業が増えつつある。
対外貨物輸送を手掛けていたシ ノトランスが、グループ企業化して総合物流企業体制 を目指しているケースが代表例である。
ただし、中国 の総合物流企業はまだ揺籃期にある。
資本力のあるプ レーヤーは少なく、サービスレベルもそれほど高くは ないというのが実情だ。
総合的物流サービスを提供していく上で、ハードと しての物流センター(ロジスティクスセンター)をい かに充実させていくかが今後の課題であろう。
中国の ロジスティクスセンター機能は、流通業でのオペレー ションを見ると現在のレベルが把握できる。
少数の例外を除いて、店舗には商品が各ベンダーか ら直接納入されており、物量の増加とともにその体制 が限界を迎えつつある。
店舗の接車バースは少なく、 かつ、大都市圏の貨物自動車の走行制限が厳しくな っており、納入時間は長時間化し、周辺環境へ悪影 響を与えている。
また、ベンダーの貨物納入レベルが 均一でなく、人力に頼った数量チェックが欠かせない など検品作業の面での課題もある。
このように中国ではセンター機能が未発達で、その ことが効率的な物流に対するボトルネックとなる可能 性が高い。
センター機能の充実はきわめて重要視され ており、国内各地でロジスティクスセンターの建設が 計画されている。
中国系物流企業の可能性 前稿で中国の物流マーケットはWTO加盟を契機 に進展していくであろうと予測した。
そして現在では その予想を上回る規模でマーケット拡大が期待できる 状況にある。
WTO加盟時に約束された規制緩和ス ケジュールが守られていることは、中国の物流マーケ ットの魅力をさらに高めることになろう。
とはいえ日系物流企業が中国への進出や拠点の拡 充を加速させるのは早計である。
前稿が掲載された当 時から徐々に兆候が見られたが、中国の地場の物流 企業と日系物流企業の競争が激化しているからだ。
も ともと両者は「中国系=単一サービス、国内物流」、「日 系=複合サービス、国際物流」という具合に棲み分け がみられていた。
しかし最近では中国系が急速に「総 合物流」への志向を強めているなど日系企業と競合す るケースが増えている。
中国系が提供する物流サービスの質も着実に向上 している。
先進的な中国系物流企業では、「過去には 外資系の顧客に『サービスレベルの向上』を要求され た。
しかし、それが現在は『コストの削減』に変わっ てきている。
サービス面でのクレームは減っている」 という答えをするものも珍しくない。
しかし、中国の総合物流企業はその歴史がまだ浅く、 外資系企業ほどの競争力を身につけているわけではない。
特に人材の厚み、海外ネットワーク力、情報技術 の面では依然として外資系企業が優位なポジションに ある。
中国の物流マーケットが外資系企業に完全に解 放されるまでには、最長でWTO加盟後六年(鉄道 輸送の外資への開放まで。
フォワーダーなどはその前 に開放される)の「猶予期間」がある。
それまでに中 国系企業がどの程度の競争力をつけることができるか が、今後大いに注目される。
中国をウォッチしていていつも驚かされるのは「改 革のスピード」である。
日本人の目からすると「無理 ではないか」というスピードで、インフラ整備などを 進めていった経緯を考えれば、この「猶予期間」内に 中国系物流企業の競争力が急速に高まっていく可能 性が高いと言えるだろう。
特 集 おおいで・かずはる83年3月慶應 義塾大学商学部卒。
同年4月日本通 運入社。
国際輸送事業部、米国日通 シカゴ海運支店等を経て、92年4月 より日通総合研究所に出向。
主に国 際物流に関する調査・研究を担当。
JIFFA国際複合輸送士資格認定講座 講師、JILS国際物流管理士資格認定 講座講師。
中国の物流に関する論文 として、「中国の物流事情と日系進出 企業の物流課題」(「輸送展望96年夏 号」=発行・日通総研)、「中国にお ける物流変化−1.鉄道輸送の変化、 2.自動車輸送の変化」(「流通問題研 究No.33、34」=発行・流通経済大 学流通問題研究所)などがある。
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