2013年3月号
ケース

アスクル 通販物流 ヤフーと提携してB2C事業に本格参戦517億円を投じて全国インフラを整備

MARCH 2013  38 埼玉の新拠点に総額一九二億円  アスクルは今年七月、埼玉県入間郡三芳 町で新たに「埼玉物流センター(仮称)」を稼 働する。
延べ床面積が七万二〇〇〇平方メー トルを超える同社最大の物流拠点で、土地・ 建物の取得に約一五二億円、施設内のマテハ ン設備などに約四〇億円を投じる。
 国内六カ所(仙台・東京・横浜・名古屋・ 大阪・福岡)の既存センターは、全て賃貸施 設。
それに対して今回の「埼玉」では自社保 有に踏み切った。
その理由を、アスクルのE CR本部でECR戦略企画を担当する才田啓 三部長は次のように説明する。
 「我々が現在の物流ネットワークを整備した 約一〇年前は、前年比一三〇%、一四〇% という勢いで売り上げが伸びていた。
物件を 自社取得してしまうと、施設の規模を柔軟に 見直せなくなる恐れがあった。
だが今は売上 高二〇〇〇億円のベースがある。
三、四〇億 円のマテハン投資をして一〇年ぐらい稼働す る施設であれば、取得してしまったほうが資 金効率は高まる」  「埼玉」以外の拠点についても大規模投資 を予定している。
今期中に検討を進め、来期 (二〇一四年五月期)は一四五億円を物件の 取得に充てる。
原則として、稼働から一〇 年を超えるセンターはリニューアル、一〇年 未満であれば設備の増強などで対応していく。
これらを合わせて今後五年間で計五一七億円 を物流インフラの整備に費やす計画だ。
 アスクルの一二年五月期の業績は、連結売 上高が二一二九億円で営業利益は六六億円、 当期純利益が二三億円だった。
五〇〇億円を 超える物流投資はさすがに厳しい。
ヤフーの 後ろ盾を得たことでそれが可能になった。
両 社は昨年四月に全面提携し、ヤフーが約三 三〇億円を出資してアスクルの株式の四二・ 六%(議決権ベース)を取得した。
 ポータルサイトとして断トツの実績を持ち、 月間五〇〇〇万人以上が関連サイトを閲覧す るヤフーも、ネット通販事業ではアマゾンジ ャパンや楽天の後塵を拝している。
物流機能 を持たないことが弱点の一つと指摘されてき た。
この課題を、物流に定評のあるアスクル と組むことで一挙に解消することを狙う。
 一方のアスクルにとっても、ヤフーとの提 携は魅力だった。
同社は独自のサプライチェ ーン戦略と物流管理によって法人向け(B2 B)オフィス通販事業でナンバーワンの座に就 いた。
だが近年は成長スピードに陰りが見え ていた。
一一年五月期には東日本大震災に関 連する特別損失を計上した影響もあって、上  2012年4月にヤフーと資本・業務提携を締結。
その半年後に一般消費者向けネット通販サイト 「LOHACO(ロハコ)」を立ち上げた。
ヤフーの集 客力を活かして、これまで苦戦していたB2C事業 を一気に拡大させる。
5年後の連結売上高5000億 円超を目標に掲げ、そのための物流インフラの整 備に517億円を投じる。
通販物流 アスクル ヤフーと提携してB2C事業に本格参戦 517億円を投じて全国インフラを整備 ECR本部ECR戦略企画の才 田啓三部長 39  MARCH 2013 場以来初の最終赤字に陥っている。
 難局を打開するため、近年のアスクルは 「次世代ビジネスモデル」の確立を模索して きた。
大企業向け間接資材の一括購買サービ スや、中国・アジアでの事業展開、個人向け (B2C)ネット通販事業の強化などだ。
し かし、これまでのところ新規事業の成長は期 待通りとは言えない。
そこにヤフーから全面 提携を持ちかけられた。
物流の処理能力を五年で三倍に  アスクルにとって、B2C事業が抱える課 題はとりわけ深刻だった。
同社は九八年から 個人向け通販事業「ぽちっとアスクル」をス タートし、〇九年以降はこれを一〇〇%子会 社のアスマルで展開してきた。
 だが一般消費者向けのネット通販は、アス クルが得意とするB2B通販とは勝手が違っ た。
ネットでの?集客力?が決定的に欠けて いた。
そのため十分な売上規模を確保できな かった。
アスマルの一二年五月期の売上高は 一四億円余り。
売上総利益三・六億円に対 して、販管費に七・五億円を費やしたため、 四億円近い営業赤字だった。
 販管費の中でも物流コストの負担が重かっ た。
この状況がヤフーとの提携で一気に変わ った。
両社は提携後すぐに、「五年以内にB 2C事業をB2B事業に匹敵する規模にまで 成長させ、アスクルは連結売上高五〇〇〇億 円超を目指す」という強気の目標を打ち出し た。
B2BとB2Cの物流を同じプラットフ ォーム上で処理することも決め、そのために 物流インフラの整備計画も策定した。
 提携発表とほぼ同時に公開された物流投資 の計画案は次の通り。
まず一年目に六カ所あ る物流センターの数を倍増させる。
五年間で 物流インフラ全体の処理能力を三倍以上に高 める。
そのために計四八五億円を投じる。
 その後の詳細な検討によって、投資総額は 前掲した五一七億円へと上方修正された。
拠 点数も倍増までは必要ないという結論に至り、 まずは埼玉に新拠点を設置して既存センター の負担を軽くするとした。
一方、これまで物 流センターの無かった北海道と中四国には新 たな拠点の設置を検討する。
センターの運営 は原則として物流子会社のビゼックスが手掛 ける、というのが現在の計画の概要だ。
 「アスマル」の後継となる新たな通販サイト の構築も急ピッチで進めた。
新サイトの名称 は「LOHACO(ロハコ)」に決まり、提 携から半年後の一二年一〇月にスマートフォ ン版のサイトを稼働。
その約一カ月後にPC 版サイトもオープンした。
 ロハコのスタート時点での取扱アイテム数は 約一六万SKU。
競合するアマゾンや楽天に 比べると少ない。
ただし、ロハコが主力とす る日用品に関しては、楽天、アマゾンとも品 揃えはまだ発展途上。
アスクルはこれまでメ ーカーとの太いパイプを培ってきた。
サプライ チェーン全体の競争力では、ライバルにも十 分に対抗できると算盤を弾いている。
B2BとB2Cを同じインフラに  ロハコは、物流サービスで競合と差別化し ていく戦略を明確に打ち出している。
 今のところ対象地域は限られているが、利 用者が午前一〇時までに注文すれば、関東の 一都六県と関西の二府四県の主なエリアでは、 同じ日の一八時〜二〇時か二〇時〜二一時の (単位:億円) 13 年 5月期 計画 合計 14 年 5月期 計画 15年 5月期 以降計 基幹センター取得 150 145 − 295 合計 242 185 90 517 既存センター増強 50 − − 50 既存センター更新 20 20 − 40 物流システム更新 22 − − 22 地方拠点新設 − 20 10 30 首都圏増設 − − 80 80 7 月に稼働予定の「埼玉物流センター(仮称)」と今後の投資計画 〈施設概要〉 所在地:埼玉県入間郡三芳町、敷地面積:約 55,062平方メートル、構造:鉄骨造地上3階建、 延べ床面積:約72,126平方メートル(倉庫スペー ス=1階17,800・2階23,200・3階17,100)、 トラックバース:1階114(両面)・2階49(片面)、 1 階から3 階にはスロープでトラックが直接乗り入れ 可能、投資概算額:土地&建物152.5 億円・マ テハン設備など40 億円(予定) ※各期の投資金額には、すでに取得済みのものと契 約ベースのものが含まれる。
いずれかの時間帯にヤマト運輸が商品を届け る。
午前一〇時以降の注文については、翌日 の午前中か十二時以降、二時間刻みの時間帯 指定に基づいて配送する。
 一回の注文の合計が一九〇〇円以上なら、 例え当日配送でも配送料は無料だ。
一九〇〇 円未満の場合は当日配送で一回五〇〇円、翌 日配送で三五〇円が必要になるが、受注実績 を見る限り「ほとんど無い」と言う。
つまり ロハコの利用者にとっては、送料無料が事実 上の標準サービスになっている。
 埼玉の新拠点が稼働するまでは、とりあえ ず東京と大阪の既存センターの作業ラインに 稼働期間が半年に過ぎないが、それでもアス クルは一八〇億円の売り上げと黒字化という 目標を掲げている。
目標をクリアできるかど うかは未知数だが、手応えは十分に感じてい るようだ。
 B2BとB2Cを同じインフラで手掛ける ことで、効率の向上も図れるとアスクルは見 ている。
同社のB2B事業は、顧客の発注 のうち九五%が朝八時から二〇時に集中する。
曜日別に見ても九二%以上の注文が月〜金曜 の平日に寄せられている。
 これに対して個人を対象とするB2C事業 の発注は夜間と休日が多い。
双方の波動を上 修正を加えて、B2C事業に対応していく。
今後、他の拠点からも出荷できるようになり 次第、当日配送の対象エリアを拡大していく ことになる。
 当日配送に強くこだわるのは、ターゲット を一般的な小売店のユーザーに定めているか らだ。
「納期短縮はEC(eコマース)にと って非常に重要だ。
ネット通販同士の競争に 勝つためだけでなく、ドラッグストアなどリ アル店舗を利用しているお客様に来ていただ くことに繋がる」と才田部長は強調する。
 「くらしをかるくする」というコンセプトを 掲げるロハコが促進しようとしているのはラ イフスタイルの転換だ。
近所の小売店に買い 物に行くのと同じ感覚でネット通販を利用し てもらうには、限りなく料金負担の小さい当 日配送サービスが欠かせない。
 宅配会社として当日配送に本腰を入れるヤ マトグループとがっちりタッグを組むことで、 アスクルは物流サービスによる差別化を追求 しようとしている。
ただし、配送業務をヤマ トだけに依存するつもりはない。
物流子会社 のビゼックスが手掛けているB2Bのルート配 送にB2Cの配送を組み込むかたちで自社配 送網も整備していく。
 現在、ヤフーのトップページには「主なサー ビス」の三番目にロハコのサイトへのリンクが 張られている。
ヤフーの持つ集客力はアスク ルの期待を裏切らないものだったという。
ロ ハコにとって初の決算となる一三年五月期は B2B 事業の物流波動を埋められるB2C 事業 BtoB のお客様の発注件数の状況(時間帯別・曜日別) 95.5% 92.4% 月 火 水 木 金 土 日 祝 0 時 2時 4時 6時 8時 10 時 12 時 14 時 16 時 18 時 20 時 22 時 95.5% BtoC(LOHACO)は夜間・休日の発注が多く、 BtoB の谷埋めが可能 物流センターの効率的な活用を実現 MARCH 2013  40 先行するアマゾンとの物流サービスの比較 Amazon Amazon プライム 送料無料 対象商品 当日配送料金 (時間帯指定) 翌日配送料金 配送日時指定 その他料金 (時間帯指定) 500 円 350 円 無料 0 円 500 円 350 円 350 円 0 円 無料 一部可 一部可一部可 不可 無料 無料 無料 無料 無料 年会費 0円 3,900円 全品全品 ※1,900円/ 注文以上購入 の場合 ※ただし「あわせ買い」商品は 2,500円/注文以上 の購入が必要 1,900 円 未満の 購入 LOHACO 1,900円 以上の 購入 LOHACO ※アスクルのリリースより(2013 年1月9日) フォーカスして効率化を図ってきた。
だが今 は、入荷や梱包の改善も積極的に推進してい る」と才田部長は言う。
 例えば梱包の効率化では、段ボール製造最 大手のレンゴーの協力を得て、新たにフラン ス製の自動梱包機「I─PAC」を導入した。
底面サイズが統一された段ボール箱を使いな がら、オーダーごとの商品の量に応じて箱の 高さを自動で変えて封入できる特殊なマテハ ン機器だ。
箱のサイズをオーダーごとに選ぶ 必要が無いため、庫内オペレーション全般の 効率化を期待できる。
トラックへの積載効率 の向上にも繋がる。
 商品と緩衝材を収めたフタ無しの段ボール 箱が「I─PAC」を通過すると、瞬時に内 41  MARCH 2013 手く組み合わせれば物流センターの稼働率が 上がる。
ユーザーに当日配送による利便を提 供しながら、物流のコスト競争力も高めるこ とができる。
 「われわれはB2Bでティッシュやトイレ ットペーパー、一〇キロあるコピーペーパー、 あるいはボールペン一本といった商品を、い かに早く安く運ぶかを二〇年間ずっと追求し てきた。
B2Cでもそのインフラをフル活用 していく。
この点は競合他社には真似できな い」と才田部長は確信している。
フルフィルメント事業も本格展開  さらにアスクルは、新たに整備する物流拠 点を使って「フルフィルメント事業」も本格 展開する。
既にビゼックスが提供している3 PLサービスとは別に、アスクル自身が自ら の物流インフラを使ってヤフーショッピングの 出店企業などに物流サービスを提供していこ うとしている。
 この事業はヤフーショッピングの出店企業 に、物流の効率化や購買機会の増大といった メリットをもたらす。
ロハコで買った商品と ヤフーショッピングで買った商品が同梱されて 送られてくるので買い物客の利便性も高まる。
そしてアスクルは物流インフラの稼働率を向 上できる。
 物流センターでの現場オペレーションにも磨 きを掛けている。
従来のアスクルは「センタ ー作業の中でも、もっぱらピッキング工程に 容物の高さを測り、最適の高さに箱の側面を 折り畳む。
ここに別の段ボールでフタをする ことで梱包作業が完了する。
一時間に約八〇 〇箱を処理することができる。
 ピッキングについても新たな工夫を凝らし ている。
新設する「埼玉センター」ではダイ フクが個配向けに開発した新型デジタル・ピ ッキング・システム「eye-navi(アイナビ)」 を採用した。
「埼玉」では取扱SKUをアス クルの既存センターの約四万に対し、七万ま で増やす。
SKUはその後もさらに増えてい く見込みで、設備の増強や運用の工夫によっ て対応していこうとしている。
 ロハコ全体の取扱アイテム数も現状の一六 万から二〇万へと増やす計画だ。
センターで 在庫できない商品も増えてくる。
そうなると 「ロングテールの商品の扱いをどうするかがポ イントになっていく」と才田部長。
詳細は検 討中だが、これまでとは異なる考え方で在庫 を管理したり、クロスドックで処理するなど、 さまざまな処理方法を模索している。
 一連のオペレーションの変化に対応するた め、「埼玉」ではWMS(倉庫管理システム) も全面刷新する。
これらの改善の積み重ねに よって、同じ物量を処理するのに必要な作業 者の人数を、既存センターと比べて一割減ら せる見込みだ。
ヤフーとの提携やネット通販 サイトの立ち上げなどの派手な展開の背後で、 物流オペレーションの革新が静かに進行してい る。
   (フリージャーナリスト・岡山宏之) オフィス用品の法人向け通 販で圧倒的な実績を誇るア スクルは、2012年秋から 一般消費者向け通販サイト 「LOHACO(ロハコ)」を稼働 アスクルと組むことでアマゾ ンと楽天を追撃する体制を整 えたヤフー。
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