2013年3月号
現場改善
現場改善
第121回 外資系メーカーF社の量販店向けインフラ構築
MARCH 2013 64
本国が細部までコントロール
精密機械メーカーのF社は年商八〇億円の外
資系企業である。
製品の九割以上は本社を置く 本国で生産している。
そのうちの約八割を空輸、 二割を海上輸送で日本に輸入している。
日本に 置いている物流センターは関東の一カ所のみで、 そこから全国に製品を供給している。
外資系といっても戦後間もなく日本市場に参 入しているため歴史は古く、安定した販売網と 固定客を持っている。
ニッチ市場ながら、その 分野では知る人ぞ知るブランドメーカーであり、 主力とする医療機器は約三五%のシェアを誇っ ている。
その技術力を応用して現在は消費者向け製品 も展開している。
ただし、消費者向けの販売チ ャネルは近年、専門店の淘汰が進み、量販店へ のシフトが顕著になっている。
これに伴いメー カーに求められる物流機能も変化しつつあった。
量販店への納品に対応した物流インフラの構築 が今回のプロジェクトのテーマであった。
我々日本ロジファクトリー(NLF)に連絡 をくれたのは、F社のロジスティクスを統括す るS氏であった。
長年にわたってF社のロジス ティクスに携わってきたS氏は同社のサプライ チェーンのキーマンであった。
医療機器のロジ スティクスについては豊富な知識を持っていた。
しかし、量販店に供給する一般消費者向けの経 験には乏しく、我々のような第三者のサポート を必要としたのであった。
プロジェクトチームは、そのS氏をリーダーと して、営業、調達、情報システム、そしてロジ スティクスの各部門から、それぞれ実務者クラ スがメンバーに参画する、いわゆるハイブリッ ト型となっていた。
これには本国の意向が反映されていた。
この 会社はしっかりとしたロジスティクス管理概念 を持っていた。
「ロジスティクスとは経営活動の 最終工程であり、ロジスティクス単独の部分最 適ではなく、他部署と連携を図り、それぞれの 部署が機能する全体最適が不可欠である」とい うものである。
それだけに改革を進めていく上での制約もあ った。
最終決定権はすべて本国にあった。
日本 で重要な意思決定やプロセスの変更を行う場合 には、その都度、本国に報告し、その指示の下 に施策の進行、軌道修正を行う必要があったの である。
事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表 専門店から量販店へ販売チャネルが急速にシフトし、既存 の物流インフラでは対応が難しくなっていた。
しかし量販店 ビジネスのノウハウは社内にも協力物流会社にも乏しかった。
物流コンサルタントを起用して新たな物流パートナーを選び 直し、インフラを刷新することを決意した。
外資系メーカーF社の量販店向けインフラ構築 第121 回 65 MARCH 2013 我々プロジェクトチームはまず実態の把握に 着手した。
専門店から量販店にシフトしている という販売チャネルの詳細について営業部門を 皮切りにヒアリングしていった。
具体的には量 販店チャネルの構成比と各社の売上金額、納品 条件を始めとする取引条件の確認である。
その結果、量販店の売り上げが今や九割近く にも達していることが分かった。
専門店への納 品を前提に設計された既存の物流インフラで対 応できないことは明らかだった。
これまでオペ レーションを委託してきた主力の協力物流会社 も量販店チャネルにおける実績を持っていなか った。
新たな物流パートナーの発掘が必要であ った。
営業部門へのヒアリングを通じて、プロジェ クト開始から約四カ月後に当たる九月一日に大 手量販店X社との大口取引が始まることが分か った。
それをメドとして新しいインフラを構築 することになった。
具体的には以下の項目をファーストステージ で実施することに決めた。
?物流パートナー候補のリストアップ ?物流パートナー候補の事前調査、確認 ?量販店に納品する製品のマスター整備 ?量販店センターの納品時間、納品付帯業務の 確認 ?量販店各社の販売計画の把握と計画精度の確 認 ?RFP(提案依頼書)の作成 ?物流コンペの開催 このうち「?物流パートナー候補のリストア ップ」は我々NLFの役目であった。
NLFは 過去のコンサルティング実績をベースに構築した 独自の物流会社リストを運用している。
これが クライアントの条件に合うパートナー候補を選ぶ 上で大きな武器になる。
今回はF社の製品分野の取扱実績があるとい うだけでなく、対象エリアに量販店向けの既存 インフラを所有・運用している会社を候補に選 んだ。
既存施設の利用によってイニシャルコス トが抑えられるだけでなく、共同配送や庫内作 業の効率化を期待できるためである。
計二〇社 がリストアップされた。
「?物流パートナー候補の事前調査、確認」で は、リストアップした二〇社とそれぞれコンタ クトを取り、F社の業務に本当に対応できるの か、対応できるとすればどのようなセンター運 営および配送になるのか、大まかなイメージを 確認した。
その結果、七社が候補先として残っ た。
量販店向けに業務プロセスを改革 「?量販店に納品する製品のマスター整備」と は、物流オペレーションに必要となる各製品の 「縦×横×高さ」「重量」「段積み制限」「天地無 用」などの荷扱い、温度や湿度の基準を製品マ スターに登録する作業である。
F社の場合、その基礎となる受発注用の製品 マスター自体、メンテナンスが充分ではなかっ た。
そこでシステム部からプロジェクトに参加 しているメンバーを中心に、「終売」や「改廃」 に伴う修正を同時に行い、さらにはオペレーシ ョンの品質向上に寄与するように、より詳細な 製品情報をマスターに加えることにした。
これに並行して社内ヒアリングレベルで「? 量販店センターの納品時間、納品付帯業務の確 認」を行った。
その結果、量販店向けの納品先 は全て相手方の専用センターで、店舗納品は一 社も無いことが分かった。
また各社から要求されているサービスレベルに はかなりのバラツキがあった。
一時間単位の時 間指定を要求する大手量販店がある一方で、中 堅以下の量販店では「午前中納品」など時間帯 に幅を持たせてくれているところもあった。
こ れを調整弁として利用することで車両の稼働率 を向上することができそうだった。
問題は納品付帯業務であった。
量販店の店舗 納品時における「ノー検品」は今や当たり前の ように普及しているが、比較的付加価値の高い F社の製品でもそれは同様であった。
そのため にセンター納品時点での入荷検品を重視してい る量販店が多かった。
しかも、一部の量販店は入荷検品後に製品 を格納前の仮置きスペースに搬送する荷役作業 を、納品ドライバーにやらせることを取引条件 に加えていた。
搬送に使用するハンドリフトな どのマテハン機器は納品先の設備を使用して良 いことになっているが、数量不足による待ち時 間が発生している可能性があった。
各現場を回 って見ないと実態は確認できないが、非効率要 因として念頭に入れておく必要があった。
「?量販店各社の販売計画の把握と計画精度 MARCH 2013 66 の確認」は、営業部門から参加しているメンバ ーが担当した。
やや時間を要したものの、主要 な量販店の大まかな販売計画や、それらしき数 値データを収集することができた。
その計画精度は各量販店のバイヤーの能力、 資質に依るところが大きいため、蓋を開けてみ ないとはっきりしたことは分からないが、幸い F社の製品には安売りや特売の対象になるよう なものは少ないため、大きな発注のブレや極端 な波動は無さそうだと考えて良かった。
そうなると次の作業は、各社の販売傾向の精 査である。
営業部門を通じて各社の販売実績、 納品しているSKU、棚割り、フェイス数など を確認した。
情報が入手できない場合は同規模 の量販店の売り場を参考にした。
これらの情報をベースに、その量販店は販売 計画および発生予定数量に対して上振れする傾 向があるのか、下振れする傾向があるのか、あ るいは正確な計画(発注予定)値が出てくるの かを整理した。
新規に取引が始まる大手量販店 のB社については四〜六月の計画と実績からそ れを判断した。
そこから製品別の必要数量(在庫)の算出ロ ジックと需要予測の運用ルールを作った。
候補企業八社に個別説明会 一連の調査分析結果をベースに「?RFP (提案依頼書)」を作成した。
具体的には物流コ ンペの説明会で使用することになるRFPを始 め、候補各社の提案をプレゼンテーターの印象 などの感覚や好き嫌いで判断しないようにする ための「物流事業者評価表」、そして「SLA (サービス・レベル・アグリーメント)」と「機 密保持契約書」をそれぞれ用意した。
このうちSLAと機密保持契約書は、本国か らの指示によって、当初のドラフトよりもずっ と緻密なものに修正された。
また新センターで 使用するWMSについても、F社が基幹システ ムとしてグローバルに導入しているERP(S APのR/3)との連動のための詳細な要件定 義書が用意された。
「?物流コンペ」は前述の事前調査で残った 七社と既存の物流パートナーT社を合わせた計 八社が対象であった。
八社に対してそれぞれ個 別に説明会を行った。
そのうち一社は移行期に 当たる時期が他の案件の立ち上げと重なるとい う理由で辞退してきたが、他は各社とも熱心で あった。
F社との共同配送を実施すれば既存荷 主のコストも下げられる。
それによって物流会 社側でも採算が上がるという期待があったから だろう。
各社の説明会から一カ月後を提案書と見積書 の締め切りに設定した。
その資料だけで一次選 考を審査した。
このプロセスで候補企業の一部 から他の候補の質問事項とそれに対する回答を 開示してもらいたいとの要請があった。
しかし、 各社の裸の提案力を見極めるにはかえってノイ ズになると考え、この要請は却下した。
適確な 質問はその会社の能力を測る材料の一つである からだ。
最終選考には、量販店向けの強固なインフラ を持つB社と、F社の製品分野に豊富な実績の あるC社の二社が残った。
どちらも遜色無かっ たが、現場視察の結果、B社が落札した。
最後 の決め手となったのは、現場スタッフの気持ち の良い「挨拶」であった。
些細なことのようで も、これもまたその会社の現場力を示す重要な 手掛かりであり、筆者も異論はなかった。
懸念材料の一つだったERPとWMSの連携 についても、B社には従来からタイアップして いるシステム開発会社があり、そのサポートを 受けることでクリアできるとのことであった。
こうしてF社の量販店向けインフラが稼働し、 四カ月が経過した。
今のところ運営は順調であ る。
システムの連携にも問題は発生していない。
しかも、B社の既存インフラを活かした共同配 送が実現し、予想以上のコストダウンを達成し た。
今回のプロジェクトの目的は必ずしもコスト ダウンではなかったが大きな収穫である。
B社 を選んだのは間違いではなかったようだ。
あおき・しょういち 1964年生まれ。
京都産業大学経済学部卒 業。
大手運送業者のセールスドライバーを経 て、89年に船井総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチーフを務める。
96 年、独立。
日本ロジファクトリーを設立し代 表に就任。
現在に至る。
主な著書に『経営 のテコ入れは物流改善から』(明日香出版社)、 『物流のしくみ』(同文館出版)などがある。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp PROFILE
製品の九割以上は本社を置く 本国で生産している。
そのうちの約八割を空輸、 二割を海上輸送で日本に輸入している。
日本に 置いている物流センターは関東の一カ所のみで、 そこから全国に製品を供給している。
外資系といっても戦後間もなく日本市場に参 入しているため歴史は古く、安定した販売網と 固定客を持っている。
ニッチ市場ながら、その 分野では知る人ぞ知るブランドメーカーであり、 主力とする医療機器は約三五%のシェアを誇っ ている。
その技術力を応用して現在は消費者向け製品 も展開している。
ただし、消費者向けの販売チ ャネルは近年、専門店の淘汰が進み、量販店へ のシフトが顕著になっている。
これに伴いメー カーに求められる物流機能も変化しつつあった。
量販店への納品に対応した物流インフラの構築 が今回のプロジェクトのテーマであった。
我々日本ロジファクトリー(NLF)に連絡 をくれたのは、F社のロジスティクスを統括す るS氏であった。
長年にわたってF社のロジス ティクスに携わってきたS氏は同社のサプライ チェーンのキーマンであった。
医療機器のロジ スティクスについては豊富な知識を持っていた。
しかし、量販店に供給する一般消費者向けの経 験には乏しく、我々のような第三者のサポート を必要としたのであった。
プロジェクトチームは、そのS氏をリーダーと して、営業、調達、情報システム、そしてロジ スティクスの各部門から、それぞれ実務者クラ スがメンバーに参画する、いわゆるハイブリッ ト型となっていた。
これには本国の意向が反映されていた。
この 会社はしっかりとしたロジスティクス管理概念 を持っていた。
「ロジスティクスとは経営活動の 最終工程であり、ロジスティクス単独の部分最 適ではなく、他部署と連携を図り、それぞれの 部署が機能する全体最適が不可欠である」とい うものである。
それだけに改革を進めていく上での制約もあ った。
最終決定権はすべて本国にあった。
日本 で重要な意思決定やプロセスの変更を行う場合 には、その都度、本国に報告し、その指示の下 に施策の進行、軌道修正を行う必要があったの である。
事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表 専門店から量販店へ販売チャネルが急速にシフトし、既存 の物流インフラでは対応が難しくなっていた。
しかし量販店 ビジネスのノウハウは社内にも協力物流会社にも乏しかった。
物流コンサルタントを起用して新たな物流パートナーを選び 直し、インフラを刷新することを決意した。
外資系メーカーF社の量販店向けインフラ構築 第121 回 65 MARCH 2013 我々プロジェクトチームはまず実態の把握に 着手した。
専門店から量販店にシフトしている という販売チャネルの詳細について営業部門を 皮切りにヒアリングしていった。
具体的には量 販店チャネルの構成比と各社の売上金額、納品 条件を始めとする取引条件の確認である。
その結果、量販店の売り上げが今や九割近く にも達していることが分かった。
専門店への納 品を前提に設計された既存の物流インフラで対 応できないことは明らかだった。
これまでオペ レーションを委託してきた主力の協力物流会社 も量販店チャネルにおける実績を持っていなか った。
新たな物流パートナーの発掘が必要であ った。
営業部門へのヒアリングを通じて、プロジェ クト開始から約四カ月後に当たる九月一日に大 手量販店X社との大口取引が始まることが分か った。
それをメドとして新しいインフラを構築 することになった。
具体的には以下の項目をファーストステージ で実施することに決めた。
?物流パートナー候補のリストアップ ?物流パートナー候補の事前調査、確認 ?量販店に納品する製品のマスター整備 ?量販店センターの納品時間、納品付帯業務の 確認 ?量販店各社の販売計画の把握と計画精度の確 認 ?RFP(提案依頼書)の作成 ?物流コンペの開催 このうち「?物流パートナー候補のリストア ップ」は我々NLFの役目であった。
NLFは 過去のコンサルティング実績をベースに構築した 独自の物流会社リストを運用している。
これが クライアントの条件に合うパートナー候補を選ぶ 上で大きな武器になる。
今回はF社の製品分野の取扱実績があるとい うだけでなく、対象エリアに量販店向けの既存 インフラを所有・運用している会社を候補に選 んだ。
既存施設の利用によってイニシャルコス トが抑えられるだけでなく、共同配送や庫内作 業の効率化を期待できるためである。
計二〇社 がリストアップされた。
「?物流パートナー候補の事前調査、確認」で は、リストアップした二〇社とそれぞれコンタ クトを取り、F社の業務に本当に対応できるの か、対応できるとすればどのようなセンター運 営および配送になるのか、大まかなイメージを 確認した。
その結果、七社が候補先として残っ た。
量販店向けに業務プロセスを改革 「?量販店に納品する製品のマスター整備」と は、物流オペレーションに必要となる各製品の 「縦×横×高さ」「重量」「段積み制限」「天地無 用」などの荷扱い、温度や湿度の基準を製品マ スターに登録する作業である。
F社の場合、その基礎となる受発注用の製品 マスター自体、メンテナンスが充分ではなかっ た。
そこでシステム部からプロジェクトに参加 しているメンバーを中心に、「終売」や「改廃」 に伴う修正を同時に行い、さらにはオペレーシ ョンの品質向上に寄与するように、より詳細な 製品情報をマスターに加えることにした。
これに並行して社内ヒアリングレベルで「? 量販店センターの納品時間、納品付帯業務の確 認」を行った。
その結果、量販店向けの納品先 は全て相手方の専用センターで、店舗納品は一 社も無いことが分かった。
また各社から要求されているサービスレベルに はかなりのバラツキがあった。
一時間単位の時 間指定を要求する大手量販店がある一方で、中 堅以下の量販店では「午前中納品」など時間帯 に幅を持たせてくれているところもあった。
こ れを調整弁として利用することで車両の稼働率 を向上することができそうだった。
問題は納品付帯業務であった。
量販店の店舗 納品時における「ノー検品」は今や当たり前の ように普及しているが、比較的付加価値の高い F社の製品でもそれは同様であった。
そのため にセンター納品時点での入荷検品を重視してい る量販店が多かった。
しかも、一部の量販店は入荷検品後に製品 を格納前の仮置きスペースに搬送する荷役作業 を、納品ドライバーにやらせることを取引条件 に加えていた。
搬送に使用するハンドリフトな どのマテハン機器は納品先の設備を使用して良 いことになっているが、数量不足による待ち時 間が発生している可能性があった。
各現場を回 って見ないと実態は確認できないが、非効率要 因として念頭に入れておく必要があった。
「?量販店各社の販売計画の把握と計画精度 MARCH 2013 66 の確認」は、営業部門から参加しているメンバ ーが担当した。
やや時間を要したものの、主要 な量販店の大まかな販売計画や、それらしき数 値データを収集することができた。
その計画精度は各量販店のバイヤーの能力、 資質に依るところが大きいため、蓋を開けてみ ないとはっきりしたことは分からないが、幸い F社の製品には安売りや特売の対象になるよう なものは少ないため、大きな発注のブレや極端 な波動は無さそうだと考えて良かった。
そうなると次の作業は、各社の販売傾向の精 査である。
営業部門を通じて各社の販売実績、 納品しているSKU、棚割り、フェイス数など を確認した。
情報が入手できない場合は同規模 の量販店の売り場を参考にした。
これらの情報をベースに、その量販店は販売 計画および発生予定数量に対して上振れする傾 向があるのか、下振れする傾向があるのか、あ るいは正確な計画(発注予定)値が出てくるの かを整理した。
新規に取引が始まる大手量販店 のB社については四〜六月の計画と実績からそ れを判断した。
そこから製品別の必要数量(在庫)の算出ロ ジックと需要予測の運用ルールを作った。
候補企業八社に個別説明会 一連の調査分析結果をベースに「?RFP (提案依頼書)」を作成した。
具体的には物流コ ンペの説明会で使用することになるRFPを始 め、候補各社の提案をプレゼンテーターの印象 などの感覚や好き嫌いで判断しないようにする ための「物流事業者評価表」、そして「SLA (サービス・レベル・アグリーメント)」と「機 密保持契約書」をそれぞれ用意した。
このうちSLAと機密保持契約書は、本国か らの指示によって、当初のドラフトよりもずっ と緻密なものに修正された。
また新センターで 使用するWMSについても、F社が基幹システ ムとしてグローバルに導入しているERP(S APのR/3)との連動のための詳細な要件定 義書が用意された。
「?物流コンペ」は前述の事前調査で残った 七社と既存の物流パートナーT社を合わせた計 八社が対象であった。
八社に対してそれぞれ個 別に説明会を行った。
そのうち一社は移行期に 当たる時期が他の案件の立ち上げと重なるとい う理由で辞退してきたが、他は各社とも熱心で あった。
F社との共同配送を実施すれば既存荷 主のコストも下げられる。
それによって物流会 社側でも採算が上がるという期待があったから だろう。
各社の説明会から一カ月後を提案書と見積書 の締め切りに設定した。
その資料だけで一次選 考を審査した。
このプロセスで候補企業の一部 から他の候補の質問事項とそれに対する回答を 開示してもらいたいとの要請があった。
しかし、 各社の裸の提案力を見極めるにはかえってノイ ズになると考え、この要請は却下した。
適確な 質問はその会社の能力を測る材料の一つである からだ。
最終選考には、量販店向けの強固なインフラ を持つB社と、F社の製品分野に豊富な実績の あるC社の二社が残った。
どちらも遜色無かっ たが、現場視察の結果、B社が落札した。
最後 の決め手となったのは、現場スタッフの気持ち の良い「挨拶」であった。
些細なことのようで も、これもまたその会社の現場力を示す重要な 手掛かりであり、筆者も異論はなかった。
懸念材料の一つだったERPとWMSの連携 についても、B社には従来からタイアップして いるシステム開発会社があり、そのサポートを 受けることでクリアできるとのことであった。
こうしてF社の量販店向けインフラが稼働し、 四カ月が経過した。
今のところ運営は順調であ る。
システムの連携にも問題は発生していない。
しかも、B社の既存インフラを活かした共同配 送が実現し、予想以上のコストダウンを達成し た。
今回のプロジェクトの目的は必ずしもコスト ダウンではなかったが大きな収穫である。
B社 を選んだのは間違いではなかったようだ。
あおき・しょういち 1964年生まれ。
京都産業大学経済学部卒 業。
大手運送業者のセールスドライバーを経 て、89年に船井総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチーフを務める。
96 年、独立。
日本ロジファクトリーを設立し代 表に就任。
現在に至る。
主な著書に『経営 のテコ入れは物流改善から』(明日香出版社)、 『物流のしくみ』(同文館出版)などがある。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp PROFILE
