2013年4月号
特集

第3部 「現場女子」が物流業を変える

APRIL 2013  42 一万五〇〇〇人の「佐川女子」  SGホールディングスグループが女性の積極採 用に大きく舵を切っている。
今や同グループの全 従業員のうち二割強が女性だ。
その数は二〇一二 年三月末時点で約一万五〇〇〇人。
五年前の一・ 七倍に増えた。
一四年度末には「グループ事業の 三〇%を女性従業員が担う」ことを目指す。
 そんな「佐川女子」の一人、東京・日本橋堀 留町のサービスセンターで働く樋口絵梨香さんは、 一一年から宅配便のセールスドライバー(SD) としてハンドルを握る。
父親もかつては佐川のS Dで、ご主人も現役SDという?佐川一家?だ。
 中学時代は陸上部に所属するなど運動が得意な 上、自動車の運転も好きだった。
佐川急便に勤め る前はホテルや商業施設で接客を経験した。
体を 動かし、人と触れ合う機会が多いSDの仕事は樋 口さんにはうってつけだった。
 佐川に入社する前までトラックを運転したこと はなかった。
それでも「運転席の目線が高く、広 く周りが見えるので運転しやすい」と苦にはなら なかった。
朝は八時ごろから荷物を仕分けし、午 前中に法人向けの配達を済ませた後、個人宅に荷 物を届けたり、オフィスを集荷に回ったりと毎日 奔走している。
 佐川急便東京 本社の人事労務 企画課・三宮加 代係長は「一人 暮らしの女性が 夜に荷物を受け 取る際、同性の 方が安心してドアを開けられる、といったお客様 の声は多い」と明かす。
樋口さんも「小さなお子 さんのいる家庭では、女性が来てくれるとすごく 安心だねと言って下さった」とやりがいを感じて いる。
普段担当している取引先の中には、樋口さ んのためにおやつを用意して待っていてくれると ころもあるそうだ。
 佐川急便では昨年、熊本県八代市で初の女性支 店長も誕生している。
地域のサービスセンターを 統括する支店のトップだ。
樋口さんは「とても格 好いいなと憧れた。
自分もさらに活躍できるよう 挑戦してみたい」と意欲を燃やす。
 三宮係長は「少子化が進めば、当社も男性の労 働力だけには頼っていられなくなる。
他の従業員 がそこを目指したいと感じられるようなモデルを これからもっと増やしていきたい」と語る。
 女性を広く活用するため、樋口さんのようにト ラックを運転する通常のSDとは別に、軽車両や 「現場女子」が物流業を変える  男社会の印象が強い物流現場に女性の進出が目立って きた。
少子高齢化が避けられない以上、若年男性の労働 力ばかりに頼ったオペレーションはいずれ破綻する。
多 様な人材を積極的に受け入れ活用する「ダイバーシティ」 の推進が、物流事業継続の鍵を握っている。
(藤原秀行) 佐川急便東京本社の 三宮加代・人事労務企画 課係長 ハンドルを握る樋口絵梨香さん 特集 43  APRIL 2013 免許が不要な台車、自転車を使った配送方法を整 備。
重量物や大型貨物と宅配便の取り扱い区分を 明確にするなど、着々と布石を打ってきた。
 それと並行して一一年にはグループ全体で女性 従業員の活躍を後押しし、ワーク・ライフ・バラ ンスの推進を図る「わくわくウィメンズプロジェク ト」を開始。
各事業会社に担当者を置き、育児・ 介護規定の見直し、短時間の勤務形態導入などに 取り組んでいる。
その甲斐あって、佐川急便に熱 い視線を送る女性は着実に増えている。
「日本一」の女性ドライバー  昨年一〇月、センコーの社内がわき立った。
全 日本トラック協会が毎年開いている「全国トラッ クドライバー・コンテスト」で、静岡西支店の浜 松PDセンターに所属する花岡さやさんが、初出 場にもかかわらず、同社グループの代表として女 性の部で初めて優勝する快挙を成し遂げた。
 以前は自動車教習所の教官だった花岡さん。
女 性ドライバーの活躍をもっと盛り上げていきたい と周囲に語る彼女の勇姿に、人事や女性の活躍支 援を担当する川瀬由洋取締役執行役員兼人材開 発グループ長は「素晴らしいことだ」と喜ぶ。
 同社は〇七年に「女性躍進推進委員会」を設置。
性別を問わず活躍できる職場環境を実現するため の三カ年計画をまとめ、〇七〜〇九年度にマタニ ティ・看護休暇の導入、結婚や出産の際に勤務地 のエリア範囲を自分で選べる制度の新設、物流セ ンターへの託児所開設などを展開してきた。
 川瀬氏は「三年間で何とか仏を作ることができ た。
後はいかに魂を入れていくか。
長時間労働が 当たり前という職場の意識を変革していくことな どが求められている」と強調する。
 センコー本体の全従業員に占める女性の比率は 〇一年の七%から一三年は十一%に上昇。
現場の リーダー的役割を務める主任や班長の女性は〇一 年の三一人から一三年は七一人まで増えた。
得意 分野の石油化学・樹脂製品や住宅部材の物流に加 え、流通やアパレルの物流支援、商事・貿易、情 報システムなどに事業範囲を広げており、女性が 活躍するフィールドが拡大している。
 花岡さんのようなドライバーのほか、千葉・柏 の物流センターでは自衛隊出身の小俣るみさんが オペレーター職として、入庫作業の段取りなどを 担当。
ほかにも、物流センターの現場主任、商事・ IT事業部で電子購買システムの営業を手掛ける 主任といった職種で、緻密な仕事ぶりや明るさ、 幅広い視点などを生かす女性が増えている。
 川瀬氏は「他業界の先進的な企業に比べれば当 社の女性活用など、まだまだお恥ずかしいレベル。
今後は主任の 中からさらに 上の職位へ挑 戦する人が続 いてほしい。
社内ベンチャ ー部門で社長 への登用も目指したい」と張り切っている。
運送のプロたちと丁々発止  「名古屋まで四平(ヨンピラ=四トン平ボディ車) ありますか?」  「ありがとうございます、それでお願いします」。
 東京・芝のトランコム東京情報センターでは運 び手を探す荷主と荷物を求める運送業者の間を電 話で取り持つ求貨求車事業を行っている。
営業時 間中はひっきりなしに電話が鳴り響く。
応対する 「アジャスター」たちは冷静かつ迅速に相手の要望 を聞き出し、条件に合う相手を見つけ出す。
 全国の情報センターに配属されているアジャス ター約四〇〇人のうち三割程度が女性だ。
物流情 報サービスグループの上林亮・東日本ブロック統 括マネージャーは「三年ほど前から積極的に女性 を採用する動きが出てきた。
女性はいろいろな面 で気が利くし、聞き上手の面もある。
取引先にと っても話しやすい、伝えやすいと感じていただけ ることが多いようだ」と解説する。
 二〇〇五年入社でアジャスターとしてはベテラ ンの部類に入る品川瑶子さんは、アジャスターの チームを統括するチーフを務めている。
「物流は 絶対になくならない企業というイメージがあった。
運送に関係がある業界で働いてみたいと思った」 川瀬由洋センコー取締役 執行役員(人事担当)兼 人材開発グループ長 全国トラックドライバー・コンテストで優勝した花岡さやさん APRIL 2013  44 ことがきっかけでこの世界に足を踏み入れた。
 最初の一年ぐらいは「ただ目の前にある仕事を 何とかこなすだけの日々だった」と振り返る。
運 送のプロから投げつけられる専門用語に、聞き返 すこともできず、時間や料金、荷姿などの条件を 正しくつかめないまま終わったことも度々。
「ハ ンガー車だと言われてああそうですかと情報シス テムに入力しようとして、そもそもハンガー車っ て何だろうと困ったこともあった」という。
 ようやく仕事が面白いと思えたのは二〜三年経 ったころ。
急ぎの手配に応えることができた相手 から「今後はトランコムさんに全部お任せする」 と言われることも出てきた。
いつも電話で話す相 手の声の様子だけで体調や機嫌といった細かな状 況も把握できるようになった。
 今はチーフとして、首都圏から東海エリアに向 かう車両手配、貨物情報の収集を担当するアジャ スターグループを統括する。
メンバーの健康状態 などは常に注意し、全員がベストの状態で仕事に 臨めるようフォローする重要な立場だ。
 同社でチーフ職に就いた女性は品川さんが二人 目だ。
「管理職の職務を果たせなければ、女性は だめだと感じられてしまう可能性が高い。
後に続 く女性のためにも自分がしっかりしなければいけ ない」と気合いを込める。
女性も支える「循環物流」  東京・杉並に本社を置く中堅物流会社のウイン ローダーは、物流事業の一環として、「エコランド」 と称するリユース事業を展開している。
利用者か らトラックで家具やパソコンなど使われなくなっ た品物を集め、自社のネットオークションで販売 したり、リサイクルに回したりすることで、収益 の確立と環境への配慮を両立するのが狙いだ。
 〇九年には三〇歳前後の女性を主なターゲット とした「お片付けサービス」もスタート。
品物を 回収するのに加え、効率的に室内を片付けるアド バイスをする。
基本的に女性スタッフが担当する ため、安心して片付けを頼める点が売り物だ。
 一〇年に入社した神山麻美さんは、エコランド を支える約三〇人の中からドライバーの一人とな った。
しかし、環境に貢献できる仕事がしたいと ウインローダーを選んだものの、当初はドライバー という仕事に就くとのイメージはなかったという。
 運転免許は入社直前に取得し、トラックはもち ろん、自動車の運転自体に不慣れな状態だった。
それでも先輩の助手として製品の回収や運搬など を手伝い、ハンドルも握った。
当初は狭い道に入 って抜け出せなくなり、先輩に運転を代わっても らったこともあったが、必死に仕事を覚えた。
 最初は家電などの重い荷物を運ぶのも一苦労だ った神山さん、今では「一人暮らし用の冷蔵庫や 洗濯機なら一人で持ち運べる」という。
優秀なス タッフを選ぶMVP表彰で四回表彰されるなど、 実力を付けてきた。
 利用者の家を訪問する際は、明るくあいさつし て相手の不安を解消し、引き取った品物がどのよ うに再利用されるかきちんと説明するなど、細や かな気遣いを忘れない。
神山さんはそうしたとこ ろに女性の強みを活かせると強調する。
エコラン ド事業で活躍した後、現在はネットオークション を担当しているが、今でもお片付けサービスの手 伝いでハンドルを握ることがあるという。
 同社では八年ほど前から新卒採用に力を入れ、 今春は十二人のうち女性が七人を占める。
阿賀清 恵広報採用室特命係長は「女性は細かい作業が得 意だったり、繊細だったりして、男性、女性双方 のお客様に安心していただける」と説明する。
今 後はサービス内容を多様化し、より多くの女性が 活躍できる土壌を築きたい考えだ。
顧客と電話でやり取りする品川瑶子さん トラックに乗り込む神山麻美さん 特集 45  APRIL 2013  「労務管理に力を入れ、若い人やベテランが安心 して働ける環境を整えることが不可欠だ。
そうし なければいずれ誰もドライバーという仕事に見向 きもしなくなる」。
千葉県八街市の中堅運送会社、 菱木運送の菱木博一社長はそんな信念に基づき、 若い人が魅力を感じるとともにシルバー層も活躍 できる職場環境の整備に力を入れる。
 二〇〇八年に定年を六五歳まで引き上げ、一一 年には条件に合えば七〇歳まで嘱託社員として継 続して働ける制度を設立した。
さらに、本業の運 送に加え、ペットフードの検査・箱詰め・梱包や 食品のリサイクルといった事業も手掛け、シルバー 層がドライバーを引退しても引き続き同社で働け るよう配慮している。
 〇一年の社長就任以来、「無理に規模拡大を追 うのではなく、労務管理を徹底して事故を防ぎ、 運送会社としての社会的責任を果たすことが大事 だ」との思いから、国が定める「トラック運転者 の労働時間等の改善基準」順守に取り組んできた。
ただ、同基準はドライバーの始業から終業までの 拘束時間を一日最大一六時間などと規定している が、数多くの例外が設定されるなど、管轄の厚生 労働省自身も複雑と認める内容だ。
 同基準を元に運 行計画書を作って も、渋滞状況など が日々変わる中で 頻繁に修正を迫ら れ、同基準を守る のは容易ではない。
そこで菱木社長はドライバー がストレスを感じず、自然に基準を守ることがで きる仕組みを作ろうと決意。
独自の機能を持つデ ジタルタコグラフ(デジタコ)を開発、特許も取っ た。
二〇〇九年にすべてのトラックに搭載した。
 従来のデジタコは、ドライバーがどのように運 行したのか記録することに重点が置かれている。
これに対し、同社のデジタコは各ドライバーの運行 状況に合わせ、液晶画面にあとどれだけ連続して 運転できるのか、休息時間はどれほど残っている のかといったデータが自動表示される。
 ドライバーは、画面に「何分以内に継続して休 憩を何分以上取得し、運転を中断してください」 などと出る指示に従えば、法規の詳しい知識がな くても同基準の規定内で仕事を終えられる仕組みだ。
 デジタコの導入でドライバーはきちんと休息を取 れて疲労が減るため、年間一〇件程度起こってい た交通事故が、導入後は一件程度まで減少。
シル バー層にとっても働きやすい環境となった。
労働 時間短縮や業務効率化で年間一〇〇〇万円以上の 経費抑制効果を生み出した。
 菱木社長は「目の上のたんこぶとも感じた改善基 準だったが、きちんと守れば事故を防ぐことができ た。
法令には意味があると痛感した」と語る。
デジ タコを改良して機能をアップすることも検討中だ。
菱木運送 菱木博一社長 定年延長しシルバー層も活躍可能に──菱木運送 菱木運送が独自に開発し たデジタルタコグラフ デジタコの液晶画面。
ドライバ ーは指示に従い運転、休憩する 御社のドライバー全体に占める 女性の割合は?(N=110) 80 70 60 50 40 30 20 10 0 いない 1割未満 3割未満 5割以上 5割未満 女性を採用したい理由は?(N=110) 50 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 職場の雰囲気が 良くなる 客受けがよい 仕事が丁寧 給料が安い ミスが少ない 仕事のスピードが 早い 採用しやすい 定着率がいい 特にない 女性を採用したくない理由は?(N=110) 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 業務と合わない 無理が利かない 男社会なので 使いにくい 休みが多い 定着率が悪い 仕事のスピードが 遅い ミスが多い 仕事が雑 客受けが悪い 特にない (社) (社) (社) (本誌緊急アンケート調査より)

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから