2013年5月号
特集

第2部 中国最強「順豊速運(SF)」の実像 李瑞雪 法政大学 教授

MAY 2013  18 急成長続く中国の宅配産業  中国で宅配便産業の成長が加速している。
取 扱個数は二〇〇〇年以降、年平均三〇%弱のペ ースで拡大を続けている(図1)。
二〇一一年の 実績は前年比三六・二%増の三九・五億個に上 った。
日本の宅配便の一一年度の取扱個数は三 四億九六万個で、ついに日本を上回った(中国 は暦年、日本は三月期末)。
 調査・コンサルティング会社の中国快逓物流諮 詢網によると、同年の中国宅配産業全体の営業 収入は八四一・四億元(一兆二六二一億円、一 元=一五円で計算)に達したという。
さらに中国 国家郵政局は「宅配サービス産業一二次五カ年 (二〇一一〜一五年)計画」で、一五年の宅配産 業の取扱個数と営業収入を、それぞれ六一億個、 一四三〇億元と見込んでいる。
(編集部注:日本 の宅配便市場の総売上高は一一年度で二兆二〇 〇〇億円程度と推測される。
市場規模でも中国 が日本に肉薄することになる)  また同計画には、二〇一五年までには主要な 宅配便事業者における各省都など大都市間の七 二時間以内の送達率が、九〇%以上に達すると いう予測も盛り込まれている。
 このような中国の宅配便産業の急成長を牽引 しているのは、民間の宅配便事業者と欧米系の 国際インテグレーターである。
 かつて宅配便市場をほぼ独占していた中国郵 政のEMS事業のシェアは今や約二〇%まで低下 した。
それに代わって国内の民間事業者と欧米系 の国際インテグレーターが大きくシェアを伸ばし ている。
現在、民間事業者は、同一都市内宅配 の約九割、国内の域間宅配の約六割を担い、国 際宅配便はFedEx、UPS、DHL、TN Tの欧米系四社が約八割を握っている。
 中国対外経済貿易大学物流研究センターの推計 によれば、中国には現在、民間宅配事業者がお よそ二万社あり、従業者総数は一〇〇万人にも 達しているという。
ただし、その大半は同一都 市内の宅配サービスのみを営む中小零細型業者で あり、広域サービスを展開する大手との二極化が 鮮明になってきている。
 サービスの広域化を実現している比較的規模の 大きな民間事業者としては、順豊速運(SF)、 宅急送快運(ZJS)、申通快逓(STO)、園 通速逓(YTO)、韻達快運(YONDA)、中 中国最強「順豊速運(SF)」の実像  2011年に日本でも営業を開始した「順豊速運(SFエクスプ レス)」は中国最強とされる民間宅配会社だ。
現在もCEOを 務める王衛氏が1993年に設立。
運賃競争には背を向け、直営 店方式の集配ネットワークに裏付けられた高いサービス品質を 武器に、民間最大手へ急成長を遂げた。
これまでベールに包 まれてきた同社の実像を解説する。
李瑞雪 法政大学 教授 450,000 400,000 350,000 300,000 250,000 200,000 150,000 100,000 50,000 0 ‘88 ‘90 ‘95 ‘96 ‘97 ‘98 ‘99 ‘00 ‘01 ‘02 ‘03 ‘04 ‘05 ‘06 ‘07 ‘08 ‘09 ‘10 ‘11 図1 中国 宅配便取扱個数の推移 (万個) 316,000 79,000 395,000 民間宅配便 中国郵政 出所:中国国家郵政局統計データ、快逓物流諮詢網のデータ、『中国国際貨運代 理業発展研究報告』(240 頁〜 241頁)より作成 第 2 部 19  MAY 2013 特 集 中国物流 いるわけではない。
同社の創業者でCEOの王 衛氏自身、謎の多い人物で、メディアの取材も学 者のヒアリングも一切受け付けないという。
CC TV(中国中央テレビ)から「二〇一二年度中 国一〇大経済人物」の候補に選ばれたが本人が 固辞したという逸話も言い伝えられている。
 順豊の一〇年度の売上高は一六〇億元に達し た。
約二〇〇億元と推計される中国郵政速逓物 流(EMS)には及ばないものの、宅配産業全 体の営業収入の約一九%を占める堂々たる民間最 大手である。
 一一年末の時点で全国に五〇〇〇の営業拠点 を持ち、サービス網は中国本土三十一の省・直轄 市・自治区をカバーしている。
さらに毎月平均 一〇拠点新設というペースで拠点数は増え続けて いる。
従業員総数は一四万人を超え、そのうち、 短大卒以上の学歴所持者は約三万人、修士号以 上の高学歴者約三〇〇人を擁している。
 しかし、一七年前の一九九三年に当時まだ二 二歳だった王衛氏が広東省の順徳県(現在の順徳 市)に同社を創業した時には、従業員数が経営 者を含めたった六人の零細業者にすぎなかった。
独自の配送ネットワークを構築  昨年八月、筆者は深圳市にある順豊の本社ビル、 福田万基大厦を訪れた。
その際に、筆者のインタ ビューに応じてくれた同社の戦略企画部の幹部は、 順豊のこれまでの発展過程を誇らしげに次のよう に紹介してくれた。
 一九九三年から九七年までが、順豊の創業期 であった。
当時、多くの香港企業が加工工場を 広東省の順徳県(現在の仏山市順徳区)に移し 通速逓(ZTO)、匯通快運(HTKY)、海航 天天快逓(TTK)、希伊艾斯快逓(CCES) 等が挙げられる。
 広東で発祥した順豊速運と北京で創業した宅急 送快運を除いて、残りの七社はすべて長江デルタ を本拠地としており、それらの創業者はすべて浙 江省の桐蘆という地方の出身者である。
そのため 彼等は、中国宅配産業の「桐蘆邦」と呼ばれている。
 特に、「四通一達」と呼ばれる申通、園通、韻 達、中通、匯通の五社は同じルーツからスピンア ウトして生まれた企業群で、そのサービス内容か ら経営手法までが似通っている。
この「四通一達」 が長い間、中国民間宅配業界では主流派とされ てきた。
 これに対して近年急成長を遂げ、民間最大手 に躍進した順豊速運(以下、順豊)は様々な点 で業界の異端児と言える。
同社は現在、中国国 内宅配市場において、国有企業の中国郵政速逓 物流に次いで第二位のシェアを占めているとされ る。
 それを裏付ける公的な資料は今のところ存在し ないが、先の中国快逓物流諮詢網が独自の市場 調査で各宅配事業者の取扱個数、営業収入、サ ービス範囲、サービス水準を推計し、中国主要宅 配事業者のランキングを発表している。
それによ ると一位は中国郵政速逓物流で、二位は順豊で ある。
ちなみに、三位から七位までは申通、園通、 韻達、中通、匯通の順となっている。
 ここ数年、順豊は急速に業容を拡大しており、 ユーザーの評判も他社を圧倒していることから、 同社の注目度は非常に高まっている。
しかし、そ の実態は中国においても必ずしも明らかにされて ていた。
これに伴い、順徳と香港の間で、加工 貿易の書類や商品サンプルなどの小口商業貨物を 急送する需要が生まれていたが、それに対応でき るサービスは欠如していた。
 そこに着目した王衛は、順徳で順豊速運を設 立し、広東と香港の間のクーリエ・サービスを開 始した。
事業は大成功して、九七年ごろには順 豊は深圳─香港間の陸上貨物輸送の七割程度の シェアを握るようになっていたという。
 それと並行して九五年から、珠江デルタ全圏、 長江デルタ、華北地域にも進出を始めた。
ただし、 この段階ではほかの多くの民間宅配事業者と同 様に、順豊も各地の物流会社と代理店契約ある いは加盟店契約を結ぶという方法でネットワーク を構築していた。
 珠江デルタから上がってくる業務収益は、九七 年の時点で既に同社の売上高全体の過半を占めて いたという。
しかし、このころから加盟店方式 による弊害も目立ち始めていた。
加盟店方式は資 本の節約と迅速な拠点網の形成という点でメリッ トがあるが、サービスの平準化と料金水準の統一 が難しく、組織内における知識の蓄積や浸透が難 しいというデメリットがある。
 王衛は直営店方式への転換を模索し始めた。
昨年8 月、筆者は中国・深圳 市にある順豊速運の本社ビル を訪れた。
MAY 2013  20 そして加盟店の猛烈な抵抗を押し切って、二〇〇 二年までに直営店方式への転換を成し遂げた。
こ れによって、バラツキのあった業務遂行レベルは 統合され、強固なネットワーク基盤ができ上がった。
加盟店方式をベースにした配送ネットワークが常 識の中国の民間宅配業界において、順豊が特異 な存在になったのはこの業務統合の時期からであ った。
 直営店方式への転換と同時に、順豊は本社組 織の整備にも着手した。
それまでは順徳順豊、 広州順豊、上海順豊、杭州順豊など、地域別に 法人を設立していて、本部に当たる本社組織は 存在しなかった。
これを改め、〇二年に順徳順 豊を深圳に移転し、これを本社組織化した。
 続く〇三年に順豊はその後の発展に重要な意味 を持つ決断を下した。
航空輸送への進出である。
このころ、中国では新型肝炎SARSが蔓延し、 荷動きが一時的に大きく落ち込んでいだ。
その影 響で海南航空グループが〇二年に設立したばかり の貨物航空会社・揚子江快運航空公司は経営難 に陥っていた。
 これをチャンスと捉えた王衛は揚子江快運航空 と独占契約を結び、同社の保有する貨物輸送機 (ボーイング737)五機をすべてチャーターして、 宅配貨物の幹線輸送に投入したのであった。
そ れに加えて複数の航空会社と旅客機ベリー利用枠 の協定を結び、航空機による幹線輸送ネットワー クを整備した。
 航空輸送の利用によって輸送スピードの優位性 を獲得した順豊は猛烈な拡張路線に走った。
〇六 年初頭までに二つの仕分けセンター、五二の中継 基地、一一〇〇の営業拠点を設立し、全国二〇 の省の大都市一〇〇余りと中小都市三〇〇以上 をカバーするようになった。
 順豊の取扱個数は〇三年を機に年率五〇%前 後の伸び率で増加していった。
この〇二年から〇 七年までが、順豊の急成長期であった。
 業容拡大に合わせて、順豊は管理システムの高 度化にも取り組んだ。
〇五年にERPシステムを 導入。
〇六年には貨物航空会社として順豊航空 貨物輸送有限公司を設立。
また地域ごとの経営 本部制(華南、華東、華北、華中、東南、海外 の六つの地域経営本部)を採用して経営責任を 明確化する体制を整えた。
 〇八年以降、順豊は新たな段階に入っている。
急成長期の勢いを維持して規模の拡大に邁進しな がら、競合他社との差別化をより明確にしてリー ディング・カンパニーとして業界を牽引する一方、 海外進出を積極的に進めている。
中国大陸、香港、 台湾、マカオに加え、マレーシア、シンガポール、 日本、韓国、アメリカにも拠点を展開、国際宅配 サービスを提供している。
ネット通販物流とは距離を置く  順豊の成功は言うまでもなく、そのユニークな 経営戦略に負うところが大きい。
まず、順豊はB 2Bの小口商業貨物の急送需要をメーンのターゲ ットとする点で、多くの競合と異なる。
 周知の通り、二〇〇〇年以降の中国宅配産業の 成長はネット通販の急拡大に大きく起因している。
『中国物流年鑑』(二〇一二年版)によると、二 〇〇〇年時点では宅配便に占めるネット通販貨物 はごくわずかにすぎなかった。
それが一一年には 取扱個数全体の約五八%、金額ベースで約四六% を占めるに至ったという。
 その結果、宅配事業者の多くはもっぱらネッ ト通販(例えば、淘宝網、京東商城、凡客誠品、 当当網など)の配送需要に依存するようになって いる。
それとは対照的に順豊はネット通販との関 わりが薄い。
同社の取扱に占める通販配送の比率 は約一五%(一二年度)程度と少ない。
 順豊はネット通販の配送需要に興味がないのだ ろうか。
筆者のインタビューに応じた順豊の複数 の経営幹部は口を揃えてこう答える。
「配送料金 が安過ぎて利益が出ない」と。
 中国のネット通販で取引されている商品は廉価 なカジュアル衣料品など格安商品が多く、総じて 運賃負担力は弱い。
通販業者間の熾烈な競争もあ って、配送料金はぎりぎりのところまで抑え込ま れている。
現状では順豊の公表料金の半分から三 分の一程度の水準が相場になっているという。
三 〇%前後の高利益率を享受している順豊から見れ ば、ネット通販の配送需要は明らかにうま味のな い市場であろう。
 順豊がネット通販の配送を敬遠するのは、もう 一つ理由がある。
配達効率の低下を恐れるからだ。
中国におけるネット通販の配達は返品の受け取り を兼ねる。
配達担当者はしばしば着荷主による商 品チェックや試着の間、配達先で待機しなければ ならない。
そのため、一軒あたりの所要時間は通 常の小口商業貨物と比べて倍以上掛かる。
 順豊は集荷・配達の作業標準として「派一送二」 を定めている。
集荷のサイクルタイム(集荷依頼 の電話を受け付けてから集荷完了までの時間)は 一時間以内、配達サイクルタイム(営業所到着か ら配達完了までの時間)は二時間以内におさめな 21  MAY 2013 特 集 中国物流 ければならないというルールである。
 通販の配送を引き受けた場合、配達サイクルタ イム二時間以内という基準が守れなくなり、作業 の効率性とサービスの迅速性に悪影響を及ぼす恐 れがある。
こうした懸念もネット通販への関わり に対する消極的な姿勢につながったと、順豊の経 営本部の某幹部は説明していた。
 一方、小口商業貨物の急送需要は、運賃負担 力は高いが、スピードが求められる。
このセグメ ントで順豊と競争しているのは、主にDHLやF edExなどの外資系と中国郵政速逓物流(EM S)である。
順豊は外資系に遜色のないサービス を目指す一方で、料金は外資系と国内民間事業者 の中間レベルに設定するという戦略を採っている。
 例えば、重さ二キロの小包を上海から北京に送 る場合、順豊は三二元の料金(標準的な宅配サー ビス)を設定してい る。
この料金水準は DHLやFedEx (一〇〇元超)、EM S(五〇元弱)より も大幅に安いが、申 通や宅急送(二〇元) より高い。
ローエン ドの宅配市場に特化 する事業者の料金は さらに低い水準にあ る。
 一般にこうした中 間的価格設定はサー ビスもコストも中途 半端の状態になり、 いわゆる“スタック・ イン・ザ・ミドル” にはまってしまうリ スクがある。
それを 回避するため、順豊 は次のような戦略を 採っている。
?大量の急送貨物の 存在する経済先進地域間での宅配サービスにフ ォーカスして規模の経済性を得る ?経済先進地域間の幹線輸送モードに飛行機を起 用して輸送スピードの優位性を実現する ?大量の末端要員を投入して集荷・配達サービス の迅速性・確実性・柔軟性を確保する  この戦略ミックスによって、順豊は中間レベル の価格とサービスをもって高収益・高成長を実現 しているのである。
エリア展開 経済先進地域に集中  図2と図3は中国宅配市場の地域別シェアを示 している。
この二つの図から中国の宅配需要は、 経済的に発達している東部に集中していることが はっきりと読み取れる。
そして、図4と図5で示 されているように、地域間の宅配需要が中国宅配 市場全体の大半を占めている。
ここから東部にお ける地域間宅配需要こそ、中国宅配産業にとって 最重要市場であることは明白である。
 中国東部の珠江デルタ、長江デルタ、環渤海地帯、 福建省沿海部などには多くの産業が集積しており、 経済活動が活発である。
これら地域の都市間宅配 需要を取り込むことができれば、大量の小口急送 貨物が集められる。
その結果、一個当たりの取扱 コストが下がり、リーズナブルな料金でも利益が 確保できるようになる。
 順豊はまさにこうした状況を踏まえて、経済先 進地域間の宅配サービスに注力している。
このこ とが原因で、順豊の拠点網の広がりは申通など他 の民間業者大手と比べるとやや見劣りする。
たと えば、中西部地域や人口一〇〇万未満の、いわ ゆるTier2以下の都市において、順豊は申通 図2 2011 年度中国宅配市場の地域別シェア (金額ベース) 出所:中国国家郵政局の統計データより 東部 81.0% 中部 10.0% 西部 9.0% 図3 2011年度中国宅配市場の地域別シェア (取扱個数ベース) 出所:中国国家郵政局の統計データより 東部 79.1% 中部 12.0% 西部 9.0% 図4 2011 年度中国宅配市場の構成 (金額ベース) 出所:中国国家郵政局の統計データより 地域間 63.1% 国際及び 香港・マカオ・台湾 28.0% 同一都市内 9.0% 図5 2011年度中国宅配市場の構成 (取扱個数ベース) 出所:中国国家郵政局の統計データより 地域間 74.1% 同一市内 22.0% 国際及び 香港・マカオ・台湾 4.0%   MAY 2013  22 のの、スピードと安定性の優位を維持するために はどうしても必要な施策だと判断している」  中国と同じように、広大な国土面積を有するア メリカでは、宅配事業者が貨物航空機を多用して いる。
それを考えれば中国において宅配事業者が 航空機への依存度を高めることは驚くには当たら ないだろう。
 ただし、順豊の航空機の運航パターンはアメリ カの同業者のそれとは異なっている。
図6は一三 年二月時点の同社の航路網を示している。
この図 からも分かるように、同社の航路は二つの点を結 ぶ直接連結型航路と複数の点を結ぶループ型航路 の二種類で構成される。
FedExをはじめアメ 用を中心に、幹 線輸送の航空化 を進めている。
旅客機ベリーの 利用はあくまで 補完的な幹線輸 送手段と位置付 けている。
 二〇一三年二 月の時点で傘下 の順豊航空貨物 は一一機の自社 保有機と一九機 のチャーター機、 合わせて三〇機 を運用しており、 二〇本以上の夜 間定期航路を運 航している。
一 一年の輸送実績は四四・四万トンで順豊の幹線輸 送全体の六割ほどを占める。
 順豊はこのほかに航空会社の旅客機ベリーも多 くの幹線輸送で利用しているが、今後は毎年数機 のペースで自社保有機を増やし、幹線輸送の自社 化を拡大していく方針だ。
 ベリーの利用に消極的な姿勢を取る理由について、 筆者のインタビューに応じた華北地域経営本部の 幹部はこう述べた。
「旅客便は遅延や運休、振替 輸送が頻発する。
輸送の安定性にとって支障が多い。
それに上海蟹のシーズンや旧正月シーズンなどの繁 忙期になると、ベリーのスペース確保は非常に難 しくなる。
飛行機の自社保有は固定費がかさむも などと比べて明らかに空白エリアが多く、拠点網 が手薄である。
 その一方で、経済先進地域では需要の掘り起こ しに積極的に取り組んできた。
ネットワークの広 がりと充実度は宅配サービスの競争力を左右する という定説があるが、順豊はその定説にはこだわ っていないようだ。
輸送モード 自社航空機を積極投入  経済先進地域間のB2B小口商業貨物の急送 をめぐる競争において、スピードと安定性は最も 重要な要素である。
順豊はスピードと安定性の強 みを獲得するために、航空輸送の運用に乗り出した。
 中国郵政のEMSや一部の民間大手も航空会社 の旅客機ベリーと貨物専用機のスペースを利用し ているが、順豊はそれに留まらず、貨物専用機の 自社保有・自社運用と貨物チャーター機の独占運 幹線輸送は自社貨物機による航空化を進めている 図6 順豊の航空輸送ネットワーク 出所:聞き取りより筆者作成 成都 深圳 香港 泉州 武漢 上海 濰坊青島 北京 瀋陽 天津 長春 西安 無錫 南通 杭州 鄭州 寧波 23  MAY 2013 特 集 中国物流 けたらすぐに軒先に駆け付けられるように担当者 を張り付けている。
顧客サービス 「収一派二」を徹底  中国ではユーザー自身が荷物を営業所や取次店 に持ち込むのは一般的ではないため、取次店の数 は少ない。
その代わりに、全国統一のカスタマー サービス・ホットライン(4008─111─111) を設けている。
 合肥と成都に二か所の大型コールセンターを設 置し、ここで全国の集荷依頼電話を受け付け、ま た貨物追跡などの問い合わせに対応している。
集 荷指示はメールでコールセンターからエリア担当者 の携帯に届く。
エリア担当者は指示に従い、一時 間以内に集荷を完遂しなければならない。
貨物は 最後のノード(到着地の営業所など)に着いてか ら二時間以内に届けなければならない。
先述の「収 一派二」という作業標 準である。
 中国語で「収派員」 と呼ばれるこれらの集 荷配達員は、携帯電話、 無線ハンディターミナ ル、電子式秤、巻き尺 を標準装備とし、携帯 でユーザーと連絡を取 りながら時間と場所に ついて、ユーザーの都 合と要望に合わせて柔 軟に対応する。
 彼らの使う移動・運 搬手段はエリアの交通 リカの宅配事業者が採用しているハブ・アンド・ スポーク型とは明らかに違う。
 現状では中国の宅配貨物は東部地域と中部・西 部の一部の中心都市に偏っている。
そのためハブ・ アンド・スポーク型の導入は時期尚早であり、む しろ直接連結型とループ型のほうが効率的だとい う判断であろう。
 順豊は独自の航空輸送網を整備することによっ て幹線輸送のスピードと安定性における優位性を 獲得しているが、それに相応する強力な末端集荷・ 配達の体制が備わらなければ、航空輸送の強みが 発揮できないだけでなく、高い固定費を吸収でき ずに慢性的な赤字に陥るリスクさえある。
 そのために順豊は大量の集荷配達員を雇用して、 各人の担当エリアを決め、地域密着の体制を敷い ている。
オフィスビルや商業施設など日常的に小 口貨物がたくさん出るエリアには、集荷依頼を受 事情に合わせて、ミニバン、ワゴン車、三輪車、 オートバイク、自転車、台車など様々だが、担当 エリア内で俊敏に動き回るのは同じだ。
 一人一日当たりの集荷件数はエリアによってバ ラツキがあるが、だいたい二〇〜三〇件だ。
歩合 制賃金であるため、業績良好の「収派員」は月収 一万元台にも届くという。
一般の工場労働者より はるかに高収入になることが彼らのモチベーショ ンにつながっている。
サービス水準 直営化で高品質を維持  上述の戦略を効果的に実行するために、順豊は 組織、情報システム、人材面の仕組み作りを積極 的に進めてきた。
 既に触れたように、順豊は創業期には加盟店方 式、代理店方式で拠点網を広げていったが、九七 年以降、徐々に直営化に切り替えてきた。
加盟店 方式では、サービスの平準化が維持できないだけ でなく、企業全体の経営戦略を貫徹することも不 可能になるからだ。
 加盟店が恣意的に料金の値引きを乱発したり、 ターゲット市場以外の顧客開拓に多大な経営資源 を注いだりすれば、企業の統一したイメージが形 成できず、せっかく策定した経営戦略が形骸化し てしまう。
また業務量の多い地域の加盟店・代理 店が何らかの理由で離反すると、大きな損失を被 るというリスクもある。
 拠点の直営化は順豊のサービス品質向上に大き く寄与した。
その結果、順豊はサービスに安定感 のある宅配事業者だというイメージが徐々に定着 してきている。
 中国国家郵政局の統計によると、順豊の一一年 各地の交通事情に合わせて様々な車両を使い分けている 切な経営戦略の組み合わせによって、経済高度 成長期におけるビジネスチャンスを巧みにつかみ、 急速な発展を成し遂げた。
しかしその一方で、数 多くの問題と課題も抱えている。
 一つは、ネット通販との関わり方である。
ネッ ト通販の配送は既に中国宅配全体の六割ほど(個 数ベース)を占めるようになっており、この比率 はさらに高まっていく傾向にある。
順豊としても 宅配業界のリーディング・カンパニーとして、い つまでもネット通販と距離を置いておくわけには いかないであろう。
 しかし、ネット通販貨物を本格的に取り込むこ とで、収益力が損なわれる恐れがある。
順豊のC EO、王偉は友人にこう明したことがあるという。
「いまネット通販物流に関わったら順豊は死滅する だろう。
しかし今から関わっておかないと将来死 滅することになるかもしれない」。
この発言は順 豊のネット通販の配送業務をめぐる苦悩と危機感 を如実に表している。
 ネット通販に対して、順豊はただ手をこまねい てきたわけではない。
実際、数年前に王偉は外部 からネット通販物流に明るい人材を集めて電子商 取引物流部門を立ち上げ、ネット通販物流分野へ の参入を図っている。
しかし、この試みは不振の まま一年足らずで終息し、その後はプレミアム料 金を収受できるネット通販の配送業務を限定的に 手掛けるに留まっている。
 また、傘下に北京電子商取引という子会社を設 立し、食品や飲料を中心に取り扱う通販サイト「順 豊優選網」(http://www.SFbest.com/)も立ち上 げている。
自らネット通販に乗り出して宅配事業 との相乗効果を狙ったものだが、これも大きなボ MAY 2013  24 踏まえて迅速な意思決定を行うことができる。
人材育成 企業内大学設立へ  人材育成にも力を注いでいる。
宅配ビジネスは 典型的な労働集約型サービス業であり、従業員の 質はサービス品質と顧客の信頼を決定づける重要 な要素である。
順豊の経営者はこの点を認識して 二〇〇〇年以降、毎年約四〇%増のベースで教育 訓練の予算を増やしてきたという。
 中間管理層向けには毎年教育プログラムを更新 しながら、外部の専門家を招いて講座を受けさせ ている。
末端の集荷配達員向けには、業務マニュ アルから礼儀作法までトレーニングするプログラム が整備されている。
 そしてすべての教育訓練資料をデータベース化 している。
企業内部のeラーニング・システムを 使えば、いつでも自習できる。
さらに昨年から企 業内教育機構・順豊大学の設立に向けて準備を始 めた。
今年度内に開校する見通しだ。
 末端のドライバーや作業員として入社してくる 社員の教育水準は決して高くない。
彼等に規律を 守らせるために、元軍官や元警官を管理者に起用 して、兵隊統率のノウハウや経験を活用している。
現場の従業員には入社してからまず一週間ほどの 軍事訓練を受けさせて規律順守の意識を叩き込み、 忍耐力を強化する。
その一方で、大学院修了者を 積極的に採用したり、上級管理者を海外研修に派 遣したりして高度人材の確保・育成にも取り組ん でいる。
それでも山積する課題  順豊は多くの中国の成功企業と同じように、適 のクレーム率は〇・〇一六%で、これはDHL(〇・ 〇〇三%)、民航快逓(〇・〇〇八%)、UPS(〇・ 〇一〇%)、FedEx(〇・〇一四%)に次ぐ 水準であった。
民間宅配事業者の中では最もクレ ーム率が低く、中国郵政のEMS(〇・〇七七%) や外資系のTNT(〇・〇九四%)よりも安定的 なサービスを実現しているといえる。
IT化 巨額のシステム投資を断行  一方、IT化では〇六年から一〇年まで五年間 で、総額一五億元に上るシステム投資を行っている。
さらに一一年から一五年までの五年間の投資額は 七〇億元を超える見通しだ。
 同社は傘下に情報技術本部とシステムの開発と 保全を担当する子企業を設立し、五〇〇人ほどの IT技術者を擁している。
IBMと共同開発した 基幹業務システム「ASURA」は、顧客関係管理、 集荷配達管理、倉庫管理、幹線輸送管理、通関 管理など各オペレーション管理のモジュールから構 成され、同社の宅配業務全般を支えている。
 同社の自主開発したシステムの中で、特筆に値 するのは「Eマップ・システム」と呼ばれる業務支援・ 管理プラットフォームである。
GIS技術とGP S技術を取り入れて、車と人員の所在地、貨物の ステータス、各拠点の業務状態、車両の運行状況、 主要顧客分布などの情報をリアルタイムかつ立体 的にマップ上で表示することができる。
本社、地 域経営本部、区部、分部などの各管理階層で情報 を共有化するための有力なツールとなっている。
 Eマップ・システムは様々な統計ツール、分析 ツールも備えている。
管理者はこれらのツールを 駆使しながら、アセットの使用状況と業務動向を 特 集 中国物流 リュームにはなっていない。
 今のところ順豊のネット通販への対応は、市場 の成熟化・高度化を待ちながら、ネット通販物流 に改めて本格参入するタイミングを見計らってい るという状態だ。
 しかし、その間にも脅威は増している。
ネット 通販大手が相次いで物流業務の内部化に乗り出し ている。
アリババ(淘宝網)、京東商城、当当網、 凡客誠品、蘇寧易購、麦考林、好楽買など、主 要ネット通販業者が一〇年から物流子会社の設立 と自社配送センター・ネットワークの建設に一斉 に着手している。
 ネット通販事業者が物流業務をすべて内部化す るとは考えにくい。
しかし、宅配事業者を付加価 値の低い業務の担い手として補完的に使う可能性 は大きくなっている。
そうなれば順豊にとってま すます参入の難しい市場になる。
今後の順豊のネ ット通販対策を注視していく必要がある。
 そしてネット通販物流と並ぶもう一つの課題が 人手不足だ。
集荷配達現場の人海戦術には限界が 見え始めている。
とりわけ中国の東部地域では賃 金高騰と人手不足が深刻化している。
今後は大量 の「収派員」の雇用と配置がだんだん困難になっ てくる。
実際、最近の順豊は約五〇%にも上る現 場従業者の高い離職率に悩んでいるという。
 現場の「収派員」に対してはマニュアルを整備 し基礎的な教育訓練を行っているが、日本の宅配 便ドライバーのような多様な役割を「収派員」に 任せようという考えは順豊にはない。
順豊のある 経営幹部は筆者に対し、「収派員」の役割について、 「効率良く集荷し効率良く配達することに尽きる」 と強調していた。
 集荷配達現場の人海戦術は取次店網を整備する のに比べればコストが低く、迅速性と柔軟性が高 いという利点がある。
その一方、サービス品質は 属人的で、バラツキが大きい。
筆者は中国出張時 に何度も順豊の宅配サービスを利用しているが、「収 派員」によって印象もサービス満足度も大きな差 が感じられた。
取次拠点網の整備やセルフドライ バーの育成など、人海戦術に取って代わる新たな 集荷配達の体制を構築できるかが、今後の順豊に とっての重要な課題であろう。
 最後に、政府の規制強化も民間宅配事業者にと っての懸念材料になる。
〇九年に改正された中国 の郵政法は、「五〇グラム以下の同一都市内宅配と、 一〇〇グラム以下の地域間宅配は郵政局が独占的 に取り扱う」と規定している。
 この法律が厳格に施行されれば、民間宅配事業 者は信書宅配業務の八割を失うと推計される。
現 在、信書宅配業務は民間宅配事業者の取扱量の二 割から三割ほどを占めていると推定され、順豊の 場合はその割合がさらに高いと目される。
改正郵 政法の施行が順豊をはじめ、多くの民間宅配企業 にとって大きな痛手となる可能性がある。
 また改正郵政法と並行して、様々な条例や政策 的ガイダンスも制定されている。
一一年の一年間 だけでも「宅配営業許可年度報告規定」、「宅配 業ライセンシング(加盟)契約標準様式」、「宅配 業務オペレーションに関する規範」、「郵政業界の 安全監督管理方法」、「郵政業の消費者クレーム処 理方法」、「宅配営業許可証変更に関するガイダン ス」の六つが公表されている。
これらの政策は宅 配産業の秩序ある発展を促進するという目的を掲 げているが、行政側の恣意的な運用によって企業 の足かせとなることを懸念する声もある。
【付記】  本ケーススタディは、順豊速運(集団)有限公 司の複数の幹部と退職者に対するインタビューの 内容および既存文献の関連記述を総合して作成し たものである。
インタビューは二〇一二年八月と 一三年二月に実施した。
インタビューに応じてく れた方々は匿名を希望するため、ここでは氏名を 伏せるが心より感謝を申し上げる。
 参考した主要文献は以下のものである。
『中国 物流年鑑』(二〇〇六〜一二各年版)、『中国現代 物流発展報告』(二〇〇六〜一二各年版)、快逓 物流諮詢網オフィシャル・サイト( http://www. cecss.com/)、順豊速運(集団)有限公司オフィ シャル・サイト( http://www.SF-express.com/ cn/sc/)、中国国家郵政局の統計資料( http:// www.spb.gov.cn/folder7/folder31/index.html)、 『中国国際貨運代理業発展研究報告』(一〇年)。
 文責は筆者自身に帰す。
なお、本ケーススタデ ィは企業経営の巧拙を示すことを意図したもので はなく、あくまでも中国物流産業の高度化過程で 活躍している物流企業の実態を解明するために作 成したものである。
25  MAY 2013 李瑞雪(LI, Ruixue ) 1970年生まれ。
92年南京大学 外国語学部日本語学科卒。
2004 年名古屋大学大学院国際開発 研究科修了。
学術博士( Ph.D)。
2004年4月富山大学経済学部 講師。
06年4月同准教授。
12年4 月法政大学経営学部教授、現在 に至る。
専門は物流経営戦略論。

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