2013年5月号
特集
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第4部 ベトナム──物流会社も走り出す バブル崩壊よそに日系の投資ラッシュ
MAY 2013 32
チェーンストアの進出が本格化
ベトナムは現在、不況の真っ只中にある。
ピー ク時には二〇%を超えていたインフレ率を抑制す るため、政府が金融引き締めに動いたことで貸し 渋りが発生。
昨年の倒産件数は五万件にも達した もようだ。
不動産相場は買い手不在で暴落。
欧州 経済危機の影響で輸出も滞り、多くの工場が生産 調整を余儀なくされた。
欧米系は資金を引き上げ、韓国系には夜逃げ同 然で拠点を閉鎖する企業が相次いだ。
国営企業の 経営悪化はとりわけ深刻で、政府補償をバックに 積み上げた巨額の借金が不良債権化している。
現 地報道によると政府は約一三〇〇社の国営企業の うち六割を民営化して、残りのほとんどを解体・ 倒産させる計画だという。
金融機関への影響は避 けられない見通しだ。
それでも日系企業の現地駐在員の表情は決して 暗くない。
ホーチミン市に本社を置き日系企業の 現地進出をサポートしているトーシンコンサルティ ングアジア(TCA)の遠藤祐一代表は「バブル 崩壊はむしろ追い風。
二〇〇七年から現地企業の 買収案件を中心に進出支援に取り組んできたが、 ようやく腰を据えて市場開拓に取り組む環境が整 った。
日系企業の進出意欲も旺盛で、引き合いは 活発化している」という。
この二月にはT C Aが支援する両備ホール ディングスと、ホーチミン株式市場に上場して いるベトナム三位の物流会社、サイゴン運輸 ( Transimex-Saigon : TMS)との資本提携がま とまった。
両備HDがTMSの発行済み株式の二 四・九%を取得し、筆頭株主となった。
両備ホールデ ィングスは岡山 県を地盤とする 交通・運輸企 業で傘下に総合 物流の両備トラ ンスポートカン パニーを擁して いる。
物流事 業における海外 進出は事実上、 今回が初とな る。
国内の既存荷主のベトナム物流を請け負うため、 当初は全額出資の現地法人の設立も検討していた が、検討の末、TMSへの出資に切り替えた。
同社の田中将史ホーチミン駐在員事務所所長は 「ベトナムでの事業は輸入食品や生活品などを国 内の店舗に供給する内需型になる。
我々が今から 独資で参入して、既存の日系大手や現地系に対抗 するのは容易ではない。
それよりTMSに我々の ノウハウを移植し、同社を成長させることで配当 を受け取るというモデルのほうが現実的だと判断 した」という。
来年、イオンはホーチミン近郊の二カ所に大型 ショッピングセンターをオープンする。
キーテナン トとなるGMSのほか、それぞれ百数十店の専門 店が入居する。
一五年には高島屋グループがホー チミン市の中心部に複合商業施設を開業する。
延 べ床五万?のうち一万五〇〇〇?をベトナム高島 屋(仮称)が使い、残りを日系や外資系のブラン ドショップや飲食店で埋める。
コンビニでは既に ファミリーマートとミニストップの進出が始まって バブル崩壊よそに日系の投資ラッシュ 中国ビジネスを補完するチャイナプラスワンの生産基地と してその重要性を増すと同時に、国内市場の成長を見越し たチェーンストアの進出と、内需型工場の新設が相次いで いる。
ただし、国内の販売ロジスティクスには課題が山積 している。
総合商社や日系卸、日系物流会社が、そこに勝 機を見出そうとしている。
(大矢昌浩) 両備トランスポートカン パニーの田中将史ホーチ ミン駐在員事務所所長 トーシンコンサルティング アジアの遠藤祐一代表 ベトナム──物流会社も走り出す ホーチミン市内の配送風景 (フン・トゥイ社) 第 4 部 33 MAY 2013 を拡大し、現在は年間約七〇〇万枚を生産するワ コール最大規模の工場となっている。
外資規制の緩和を受け、〇九年からはベトナム の国内販売も開始。
現在、主要都市に二五店舗を 展開している。
当初内販は赤字でスタートしたが 一一年には黒字化。
景気が大きく落ち込んだ昨年 も前年比で一八%売り上げを伸ばした。
需要は旺盛だ。
しかし、高級下着を取り扱える 商業スペースの限られていることが成長のネック となっている。
ベトナムワコールの左野善一社長 は「既に主だった百貨店や量販店にはほとんど売 り場を出している。
条件の良いところには直営の 路面店も出店しているが、いかんせん数が足りな い」という。
そこで昨年、現地の有力ECサイトを選んで契 約を結び、ネット販売を開始した。
「ベトナムでは クレジットカードの普及率がまだ三割にも満たな いそうで、今のところは実験の域を出ていない。
しかし今からウォッチしておく必要がある。
ベト ナム独自の商品企画も当面の課題だ」と左野社長 は準備を進めている。
日本型の中間流通を現地に移植 食品ではサッポロビールが現地に工場を置いて 販売攻勢を掛けている。
加工食品はこれまでエー スコックがカップ麺で圧倒的シェアを握ってきたが、 昨年、新たに日清食品が現地工場を稼働させた。
ほかにも昨年はキユーピー、今年はハウス食品が 新たに工場を稼働させる。
ただし、その販売ロジスティクスは大きな課題 を抱えている。
スーパーやコンビニなど、現地で「モ ダントレード(MT)」と呼ばれている現代的な小 いる。
WTOのガイドラインに基づきベトナムは二〇 〇九年一月に流通分野の外資規制を撤廃している。
しかし、実際にはまだ外資に対する参入障壁が根 強く残っている。
それでも日系チェーンストアは 事業展開を急いでいる。
二〇一五年にはベトナム の国内市場が大きく飛躍することを確信している からだ。
バブルが崩壊した昨年もベトナム小売業売上高 は前年比で一六%増えた。
人口は約九〇〇〇万人 で国民の平均年齢は約二八歳。
中国やタイなどに 比べて経済発展が遅れた分だけ伸びしろは大きい。
しかも親日国。
条件が揃っている。
有望市場が本 格的な成長期を迎える前に地盤を固めて先行者利 益を得ようという考えだ。
内需型の日系メーカーも動き出している。
昨年 末、花王はベトナムに第二工場を新設し、現地で の売り上げを二倍から三倍に拡大すると発表。
二 月には資生堂が一五年に鎌倉工場を閉鎖し、日本・ ASEAN向け中低価格帯スキンケア製品の主力 工場をベトナム工 場に移管する方針 を打ち出した。
婦人下着服のベ トナムワコールはネ ット通販のトライア ルを開始した。
一 九九八年に日本向 けの輸出工場とし て出発した同社は、 段階的にその規模 と取り扱いアイテム 売店は市場全体の二割程度のシェアを持つにすぎ ない。
残りの八割は「ジェネラルトレード(GT)」 と呼ばれる小規模なパパママストアだ。
GTに商品を供給できない限りマスマーケット はつかめない。
しかし、現地には中間流通業者が 育っていない。
そのため現地の大手メーカーのほ とんどは独自の物流インフラを構築して、末端配 送まで自社で運営している。
新たに現地に進出し た日系メーカーにはハードルが高い。
総合商社や日系物流会社は、そこにビジネスチ ャンスを見出そうとしている。
双日と国分は昨年、 ベトナムの有力食品卸、フン・トゥイに共同で出 資した。
飲料や加工食品、チルド品をメーンする 輸入卸だ。
その株式の五一%を双日が、一九%を 国分が握った。
フン・トゥイは国内のほぼすべてのMTと継続 的な取引があり、ホーチミンを中心に約三万五〇 〇〇店のGMにも直接、商品を納品している。
輸 入コンテナをホーチミン郊外の物流センターにドレ ージして開梱。
そこからトラックで市内五カ所に 配置したデポに送り、末端配送には主にバイクを 使っている。
小規模店の多くが車両の侵入の難し い細い路地にあるためだ。
双日から同社に出向している江口信也社長は「M Tに納品するだけなら誰でもできる。
問題はGT への商品供給。
そこに当社のような卸の存在価値 があると考えている。
もっともフン・トゥイは国 内ではトップクラスの卸とはいえ、日本と比較し てしまうと残念ながら管理レベルは高くない。
そ こで国分さんのノウハウを借りて日本式の多頻度 小口のサービスを移植して、日系メーカーの内販 事業を支援していく」という。
ベトナムワコールの 左野善一社長 フン・トゥイの 江口信也社長 特 集 中国物流
ピー ク時には二〇%を超えていたインフレ率を抑制す るため、政府が金融引き締めに動いたことで貸し 渋りが発生。
昨年の倒産件数は五万件にも達した もようだ。
不動産相場は買い手不在で暴落。
欧州 経済危機の影響で輸出も滞り、多くの工場が生産 調整を余儀なくされた。
欧米系は資金を引き上げ、韓国系には夜逃げ同 然で拠点を閉鎖する企業が相次いだ。
国営企業の 経営悪化はとりわけ深刻で、政府補償をバックに 積み上げた巨額の借金が不良債権化している。
現 地報道によると政府は約一三〇〇社の国営企業の うち六割を民営化して、残りのほとんどを解体・ 倒産させる計画だという。
金融機関への影響は避 けられない見通しだ。
それでも日系企業の現地駐在員の表情は決して 暗くない。
ホーチミン市に本社を置き日系企業の 現地進出をサポートしているトーシンコンサルティ ングアジア(TCA)の遠藤祐一代表は「バブル 崩壊はむしろ追い風。
二〇〇七年から現地企業の 買収案件を中心に進出支援に取り組んできたが、 ようやく腰を据えて市場開拓に取り組む環境が整 った。
日系企業の進出意欲も旺盛で、引き合いは 活発化している」という。
この二月にはT C Aが支援する両備ホール ディングスと、ホーチミン株式市場に上場して いるベトナム三位の物流会社、サイゴン運輸 ( Transimex-Saigon : TMS)との資本提携がま とまった。
両備HDがTMSの発行済み株式の二 四・九%を取得し、筆頭株主となった。
両備ホールデ ィングスは岡山 県を地盤とする 交通・運輸企 業で傘下に総合 物流の両備トラ ンスポートカン パニーを擁して いる。
物流事 業における海外 進出は事実上、 今回が初とな る。
国内の既存荷主のベトナム物流を請け負うため、 当初は全額出資の現地法人の設立も検討していた が、検討の末、TMSへの出資に切り替えた。
同社の田中将史ホーチミン駐在員事務所所長は 「ベトナムでの事業は輸入食品や生活品などを国 内の店舗に供給する内需型になる。
我々が今から 独資で参入して、既存の日系大手や現地系に対抗 するのは容易ではない。
それよりTMSに我々の ノウハウを移植し、同社を成長させることで配当 を受け取るというモデルのほうが現実的だと判断 した」という。
来年、イオンはホーチミン近郊の二カ所に大型 ショッピングセンターをオープンする。
キーテナン トとなるGMSのほか、それぞれ百数十店の専門 店が入居する。
一五年には高島屋グループがホー チミン市の中心部に複合商業施設を開業する。
延 べ床五万?のうち一万五〇〇〇?をベトナム高島 屋(仮称)が使い、残りを日系や外資系のブラン ドショップや飲食店で埋める。
コンビニでは既に ファミリーマートとミニストップの進出が始まって バブル崩壊よそに日系の投資ラッシュ 中国ビジネスを補完するチャイナプラスワンの生産基地と してその重要性を増すと同時に、国内市場の成長を見越し たチェーンストアの進出と、内需型工場の新設が相次いで いる。
ただし、国内の販売ロジスティクスには課題が山積 している。
総合商社や日系卸、日系物流会社が、そこに勝 機を見出そうとしている。
(大矢昌浩) 両備トランスポートカン パニーの田中将史ホーチ ミン駐在員事務所所長 トーシンコンサルティング アジアの遠藤祐一代表 ベトナム──物流会社も走り出す ホーチミン市内の配送風景 (フン・トゥイ社) 第 4 部 33 MAY 2013 を拡大し、現在は年間約七〇〇万枚を生産するワ コール最大規模の工場となっている。
外資規制の緩和を受け、〇九年からはベトナム の国内販売も開始。
現在、主要都市に二五店舗を 展開している。
当初内販は赤字でスタートしたが 一一年には黒字化。
景気が大きく落ち込んだ昨年 も前年比で一八%売り上げを伸ばした。
需要は旺盛だ。
しかし、高級下着を取り扱える 商業スペースの限られていることが成長のネック となっている。
ベトナムワコールの左野善一社長 は「既に主だった百貨店や量販店にはほとんど売 り場を出している。
条件の良いところには直営の 路面店も出店しているが、いかんせん数が足りな い」という。
そこで昨年、現地の有力ECサイトを選んで契 約を結び、ネット販売を開始した。
「ベトナムでは クレジットカードの普及率がまだ三割にも満たな いそうで、今のところは実験の域を出ていない。
しかし今からウォッチしておく必要がある。
ベト ナム独自の商品企画も当面の課題だ」と左野社長 は準備を進めている。
日本型の中間流通を現地に移植 食品ではサッポロビールが現地に工場を置いて 販売攻勢を掛けている。
加工食品はこれまでエー スコックがカップ麺で圧倒的シェアを握ってきたが、 昨年、新たに日清食品が現地工場を稼働させた。
ほかにも昨年はキユーピー、今年はハウス食品が 新たに工場を稼働させる。
ただし、その販売ロジスティクスは大きな課題 を抱えている。
スーパーやコンビニなど、現地で「モ ダントレード(MT)」と呼ばれている現代的な小 いる。
WTOのガイドラインに基づきベトナムは二〇 〇九年一月に流通分野の外資規制を撤廃している。
しかし、実際にはまだ外資に対する参入障壁が根 強く残っている。
それでも日系チェーンストアは 事業展開を急いでいる。
二〇一五年にはベトナム の国内市場が大きく飛躍することを確信している からだ。
バブルが崩壊した昨年もベトナム小売業売上高 は前年比で一六%増えた。
人口は約九〇〇〇万人 で国民の平均年齢は約二八歳。
中国やタイなどに 比べて経済発展が遅れた分だけ伸びしろは大きい。
しかも親日国。
条件が揃っている。
有望市場が本 格的な成長期を迎える前に地盤を固めて先行者利 益を得ようという考えだ。
内需型の日系メーカーも動き出している。
昨年 末、花王はベトナムに第二工場を新設し、現地で の売り上げを二倍から三倍に拡大すると発表。
二 月には資生堂が一五年に鎌倉工場を閉鎖し、日本・ ASEAN向け中低価格帯スキンケア製品の主力 工場をベトナム工 場に移管する方針 を打ち出した。
婦人下着服のベ トナムワコールはネ ット通販のトライア ルを開始した。
一 九九八年に日本向 けの輸出工場とし て出発した同社は、 段階的にその規模 と取り扱いアイテム 売店は市場全体の二割程度のシェアを持つにすぎ ない。
残りの八割は「ジェネラルトレード(GT)」 と呼ばれる小規模なパパママストアだ。
GTに商品を供給できない限りマスマーケット はつかめない。
しかし、現地には中間流通業者が 育っていない。
そのため現地の大手メーカーのほ とんどは独自の物流インフラを構築して、末端配 送まで自社で運営している。
新たに現地に進出し た日系メーカーにはハードルが高い。
総合商社や日系物流会社は、そこにビジネスチ ャンスを見出そうとしている。
双日と国分は昨年、 ベトナムの有力食品卸、フン・トゥイに共同で出 資した。
飲料や加工食品、チルド品をメーンする 輸入卸だ。
その株式の五一%を双日が、一九%を 国分が握った。
フン・トゥイは国内のほぼすべてのMTと継続 的な取引があり、ホーチミンを中心に約三万五〇 〇〇店のGMにも直接、商品を納品している。
輸 入コンテナをホーチミン郊外の物流センターにドレ ージして開梱。
そこからトラックで市内五カ所に 配置したデポに送り、末端配送には主にバイクを 使っている。
小規模店の多くが車両の侵入の難し い細い路地にあるためだ。
双日から同社に出向している江口信也社長は「M Tに納品するだけなら誰でもできる。
問題はGT への商品供給。
そこに当社のような卸の存在価値 があると考えている。
もっともフン・トゥイは国 内ではトップクラスの卸とはいえ、日本と比較し てしまうと残念ながら管理レベルは高くない。
そ こで国分さんのノウハウを借りて日本式の多頻度 小口のサービスを移植して、日系メーカーの内販 事業を支援していく」という。
ベトナムワコールの 左野善一社長 フン・トゥイの 江口信也社長 特 集 中国物流
