2013年5月号
ケース

日本出版販売 SCM 客注品の納品日を書店に確約し優先出荷最速翌日着を実現してネット書店に対抗

MAY 2013  44 注文情報を一〇〇%データ化  出版不況と言われる現在も、新刊の発行点 数は年間七万点を超えている。
そのうち売れ 行きの悪いものは一定期間を過ぎると書店か ら出版取次や出版社に返品されて、店頭から 姿を消してしまう。
それでも消費者が書店に 依頼すれば、必要な本を店頭に取り寄せるこ とができる。
これを「客注」と言う。
 ただし、これまで客注品は書店に尋ねても いつ届くか分からず、入荷までに一週間以上 掛かることも多かった。
それに対してネット書 店ならば、二四時間いつでも注文できて、店 頭で注文するよりも早く確実に本が手に入る ようになった。
 客注を凌ぐ物流サービスを武器とするネッ ト書店の台頭に危機感を抱いた書店は、大手 取次に対し、「ネット書店に対抗できるスピー ドで届けてほしい」、「客注を受けるときに着 荷日を確約できるようにしてほしい」という 不満をぶつけるようになった。
 日本出版販売(日販)はこうした要望を踏 まえて、客注はもとより新刊などの書店の追 加注文に対し、よりタイムリーな供給を行う ため物流機能の強化に乗り出した。
二〇〇六 年に、書籍の送品基地「王子流通センター」 に新棟を建設。
送品のスピードアップや品質 向上を図る「王子NEXTプロジェクト」を 立ち上げた。
 王子流通センターは全国の書店へ日に二〇 〇万冊の新刊・注文品を供給する同社で最大 の物流基地だ。
一九七〇年の開設以来、日 販は数次にわたるリニューアルで同センターの 情報システムおよび物流システムの刷新を行 ってきた。
 八九年には「PBセンター」を新設し文 庫・新書(ペーパーバック)の仕分けを自動 化。
九八年には書籍の注文品を大量に処理す る高速仕分け機「マルチスーパー2(MS2)」 を導入した。
それまでのスリップ(短冊)を 使った紙ベースの作業をバーコードによる機 械処理に変え、作業の迅速化や精度アップを 図るとともに、全工程で履歴を管理できるよ うにした。
さらに出版社との情報連携を進め、 商品の入荷から出荷までの作業を計画的に行 うことができるようにした。
 この時のリニューアルで、客注を含む大半 の注文品について、センターへの入荷予定や 在庫状況などを把握できる態勢が整った。
受 注時に書店に対して在庫の有無や、いつ届く かを答えることが可能になった。
 しかし、課題も残っていた。
日販が書店か ら注文を受ける分については、店のSAシス テムによるオンライン発注はもちろん、電話 やファクスでの注文も受注時に入力処理を行 うことで、一〇〇パーセント近いデータ管理 を実現した。
 ただし出版業界では取次に在庫のない商品 を書店が出版社へ直接発注することがよくあ る。
この分の注文情報はデータ化されておら  書店の支援策として2009年に店頭で客が注文し た本を優先出荷する新サービスを開始した。
書店 の端末でタイトル別の在庫数を確認し、その場で 着荷日も確約される。
さらに今年3月には宅配便 を利用して最速で注文翌日に書店へ届けるサービ スを導入、ネット書店並みのスピードを実現した。
SCM 日本出版販売 客注品の納品日を書店に確約し優先出荷 最速翌日着を実現してネット書店に対抗 45  MAY 2013 ず、旧来のままスリップを介した作業となっ ていた。
このためセンターへ入荷してからの 進捗状況を把握することができなかった。
そ の数は送品全体の一割に近かった。
 書籍によっては版が「MS2」の規格に合 わないものもあった。
これらは別の工程で手 仕分けによる作業を行い、注文が一定の数量 にまとまってから出荷する方法を取っていた。
 注文品の大半を計画的に出荷できても、一 部にこうしたデータ管理されていないものや 例外処理を行うものがあると、その分の店着 が他の商品より遅れる。
このため着荷日を確 約することができなかった。
 NEXTプロジェクトでは、この改善を目 指した。
まずセンターへの入荷時に手書きの フリップなどの注文情報をデータ入力するよ うにして、すべての注文品のトレーサビリテ ィーを確保した。
同時に定形外の商品を効率 よく仕分ける「BCS(ブックス)」というシ ステムを新たに導入した。
どんな版型の商品 も例外なく機械仕分けを行い、すべてのオー ダーを計画的に出荷できるようになった。
当日夜間に出荷作業を開始  作業体制も見直した。
王子流通センターで は出荷方面別に作業を三つのシフトに分けて、 遠方向けから順に処理する。
それが 従来は朝八時に前日のオーダーのピッ キングを開始するというスケジュール であったため、その日の処理量によっ てはシフト時間内に作業が終わらず一 部の商品がトラックの出発時間に間に 合わないことがあった。
その分は翌日 の出荷となるため書店への着荷が一日 遅れる。
 これを解消するために作業開始を前 日の夜間に前倒しして、各シフトの作 業体制を組み替えた。
その結果、締 め切り時間内に受けた注文で、休日を 挟まないという最速のケースであれば、 首都圏で三日目、北海道・九州など の遠隔地で四日目の店着が可能になり、 従来よりも一日早くなった。
 在庫エリアの刷新も行った。
従来のタイト ル別の固定ロケーションからフリーロケーショ ンへ変更した。
これによって保管効率が大幅 に改善し、在庫数を従来の四五〇万冊から一 気に六〇〇万冊へ増やすことができた。
 品質面ではデジタルピッキング台車と重量 検品システムを独自に開発導入し、それまで 目視で行っていた在庫エリアでのピッキング作 業をデジタル化して精度を向上させた。
 在庫エリアには新たに「新刊センター」を 開設した。
一般書・専門書・医書のジャンル 別に分かれた既刊本のエリアとは別に、発売 から一カ月以内の新刊をストックする。
常時 四五万冊の在庫を置いている。
 通常、新刊の配本直後は出版社にも取次に も在庫がない。
このため新刊を短期間で売り 切ってしまった書店は追加注文をしたくても 出版社の重版を待つしかなく、客注にも対応 できない。
こうした機会損失を防ぐために日 販は一〇年ほど前、出版社・書店とマーケッ ト情報を共有して売れ行き良好書をタイムリ ーに供給できるようにする「www(トリプ ルウィン)プロジェクト」をスタートしている。
 売り上げ上位のタイトルを「SCM銘柄」 に指定して専用の在庫を確保し、売り上げ情 報を開示する書店には優先的に?満数出荷? するという内容だ。
文庫やコミックを含めて 常時約二五〇タイトルをSCM銘柄に指定し、 同社と契約を結んだ二〇〇〇軒の書店へこの サービスを提供している。
図1 王子流通センター・物と情報の流れ ●日販・出版社在庫情報 ●注文処理追跡情報 ●着荷予定日情報 物の流れ 情報の流れ 注文 一部出版社 直接注文分 ピッキング 仕分け・ 起票 新刊仕分け 検品 データ入力 日販王子流通センター 新刊 ライン 出版社 MS2 PB センター BCS データイン 新刊 商品管理 医書 センター センター センター PB センター 書店 情報 出荷 システム データ処理 ●在庫確認 ● MAY 2013  46  ただしSCM銘柄の指定は売れ行きを見て から行うもので、発売当初はどのタイトルが ベストセラーになるか判断がつかない。
そこ で原則としてすべての新刊を新刊センターに ストックしておき、SCM銘柄に指定される までの間の追加注文に対応できるようにした。
ネット書店用在庫からも引き当て  NEXTプロジェクトは〇八年に完了。
こ れによって全商品の出荷のスケジュール化とト レーサビリティー管理を実現した日販は、翌 〇九年十二月、懸案だった客注品の流通改善 に向けて、書店向けの新サービス「本の超特 Q! QuickBook」をスタートした。
 「QuickBook」は日販が書店の商 品検索や発注業務を支援するために開発した SAシステム「NOCS9000」を使って 発注を行う書店を対象に、客注品を優先して 取り寄せ、着荷日も確約する有料のサービス だ。
 通常はNOCS9000で商品を検索・発 注しても画面には在庫の有無しか表示されな い。
しかも在庫への引き当てがバッチで行わ れるためタイムラグが生じる。
従って発注し た時に画面のステータスが「在庫有り」と表 示されていても、確実に引き当てられるとは 限らない。
 これに対し「QuickBook」はリア ルタイムで在庫引き当てを行い、タイトル別 の在庫数までNOCS9000の画面に表示  そこでweb − Bookセンターに定期刊 行物専用の在庫エリアを設けて客注に対応で きるようにした。
売り上げ良好なタイトルか ら段階的に在庫を拡充し、昨年秋までに全タ イトルを揃えた。
 「QuickBook」の利用には一冊ごと に所定の手数料がかかるが、サービスの充実 とともに書店の注文冊数は順調に伸びた。
ス タートした当初の一日平均八〇〇〇冊が、三 年間で二・五倍の二万冊に増えている。
翌日納品用の新たなインフラ構築  ただしスピード面ではまだネット書店に水 をあけられていた。
首都圏の着荷は最速で三 日目だが、日曜・祝日を挟むと四日目になる。
北海道や九州ではさらに一日伸びて、書店に 届くのは五日目だ。
これではネット書店のス ピードになじんだ客に利便性をアピールでき ない。
書店からは改善を求める声が上がって いた。
 だが既存の物流システムでこれ以上の時間 短縮を図るのは困難だった。
「QuickB ook」は基本的に王子流通センターの送品 する。
書店は在庫数を確認した上で発注がで きる。
画面上で着荷日も確約される。
 加えて「QuickBook」を利用する 書店の客注には、王子流通センターの在庫の ほか、ネット書店用に日販が確保している在 庫からも引き当てが行われる。
日販は九九年 にネット書店「本やタウン」(現「HonyaClub. com」)を開設し、翌年にその在庫拠点として 埼玉県三芳町に「web −Bookセンター」 を設けている。
 王子流通センターの在庫一〇万点に対しw eb −Bookセンターは五〇万点(二五〇 万冊)の在庫を持つ。
これが引き当ての対象 に加わるため、「QuickBook」のヒ ット率は通常の注文品より格段に高い。
 さらに一〇年八月には出版社の協力を得て、 web − Bookセンターに在庫がない商品 も「QuickBook」で取り寄せできる ようにした。
出版社に在庫があれば通常の注 文品よりも一〜二日早く「QuickBoo k」専用のルートでセンターに搬入してもら い、入荷時のデータインと同時に書店に着荷 日を確約する。
 続いて一一年九月には「QuickBoo k」の対象を雑誌のバックナンバーにも拡大 した。
書籍と違い雑誌は新刊としての販売期 間が過ぎた後の客注は極めて少ない。
このた め日販では従来、新刊配本後の注文に応じて いなかった。
だが書店からは根強い要望があ った。
流通計画室流通計画課の 八田聡明係長 47  MAY 2013 レーションになっている。
 今回、出荷体制を一部見直して、「スーパ ーQuickBook」の午前中の受注分に ついては当日中に出荷できるようにした。
こ れによって午前中の注文なら本州全域へ翌日 に着荷、北海道と九州、沖縄の一部へは翌々 日着荷というスピードを実現した。
 書店が「スーパーQuickBook」で 本を取り寄せる場合は「QuickBoo k」と同様にNOCS9000で発注を行い、 「QuickBook」の手数料に上乗せし て三〇冊ごとに一律二五〇円の宅配手数料を 払う。
書店のコスト負担は増えるが、店着を 早めて客のニーズに応えるという選択肢が新 たに加わった。
スタート以来、遠隔地の書店 を中心に順調に利用が増えているという。
 物流関連プロジェクトの事務局を務める流 通計画室流通計画課の八田聡明係長は「われ われの使命は書店が勝ち残るための武器を提 供すること。
ネット書店並みのスピードで本 が届けば店頭の客をみすみす逃さなくて済む」 と強調する。
 書店のコスト負担をいかに軽減するかが今 後の課題だ。
現状ではサービスを利用できる のはNOCS9000を導入している五〇〇 〇軒の書店だけ。
NOCS9000には店 舗運営を支援するさまざまな機能が装備され、 月額使用料もそれに見合う設定のため中小の 書店にはハードルが高い。
 書店向け物流サービスの窓口部門である流 通管理部の堀江敬彦サービスセンター長は「検 索・発注機能だけに絞って安い料金を設定す るなど、敷居を低くする工夫がいる」とする。
 「QuickBook」自体の料金も、よ り安価な設定に変える必要がある。
そのため に新たなコスト削減策を模索しているところ だ。
王子流通センターとweb − Bookセ ンターの在庫配分を見直してセンター間の横 持ち輸送を減らす方法もその一つ。
 八田係長は「書店の注文が多い(出荷頻度 の)中上位のタイトルを王子に移して、両方 のセンターの在庫のすみ分けを行うことでコス トダウンの余地が生まれるのではないか」と 見ている。
(フリージャーナリスト・内田三知代) 機能を使い、出版物輸送ルートで書店へ届け る仕組みだ。
王子に在庫のないものもweb −Bookセンターの在庫からピックアップ して、王子流通センターへ横持ちする。
そこ で書店別に仕分け、ほかの注文品と一緒に出 版物輸送の定期便で書店へ配送する。
 さらにスピードを上げるためには、王子流 通センターをベースとする既存の枠組みとは別 に新たなインフラをつくる必要があった。
そ こで同社は宅配便による客注品送品の新サー ビスを構築し、今年三月に「スーパーQui ckBook」の名称でスタートした。
 王子流通センターを経由せずにすべてwe b −Bookセンターから出荷し、既存の出 版物輸送ルートではなくヤマト運輸の宅配便 で書店に届ける。
宅配便を使えばもっと日数 を短縮でき、かねてより書店の要望が強かっ た休日の納品にも対応できる。
 web − Bookセンターは同社が運営す る「HonyaClub.com」のほか「楽天ブックス」 や「TSUTAYAonline」など外部 のネット書店のバックヤード機能も兼ねていて、 もともと宅配便による出荷を前提とするオペ 流通管理部の堀江敬彦サービ スセンター長 図2 スーパーQuickBook 送品タイムフロー 1日目2日目3日目4日目 現状スーパーQB 土日月火 店着 店着 AM 発注 日曜日店着 日曜日出荷 宅配ルート 出版ルート配送 発注王子DC 出荷 PM 発注 web-BC 店着 出荷 web-BC 出荷

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