2013年5月号
現場改善

第122回 センター運営会社Z社の3PL参入断念

69  MAY 2013 波動の大きな物流に特化して成長  関西を本拠地とするZ社は年商約三五億円 の物流会社だ。
対象エリアを絞ったドミナント 展開で、八カ所のセンターを運営している。
そ のうち六カ所は賃貸施設、残り二カ所は荷主が 所有する施設で庫内作業だけを請け負っている。
物流会社といっても実質的にはノンアセットの センター業務請負会社である。
 この一〇年近くにわたりZ社は年間二億円の ペースで売り上げを伸ばしてきた。
成長のポイ ントは逆転の発想である。
ギフト商品やキャン ペーン品、販促品など、同業他社やアセット型 物流会社が敬遠しがちな年間波動の大きな仕事 を積極的に受託してきた。
 波動が大きい物流は普通であれば採算が取り にくい。
物量が跳ね上がるピークに合わせて人 員や施設を手当てすれば平時に余力を生んでし まう。
逆に平時に合わせるとピーク時には処理 が追いつかなくなる。
あるいは臨時で人手や施 設を手当しなければならなくなり、割高になっ てしまう。
 しかしZ社は、繁忙期の異なる荷主を組み合 わせて、一年中ほぼコンスタントにピークを迎 えている状態を作ることで波動を解消するとい う独自のアプローチを取ってきた。
 そのためにZ社の上層部は業種・業界を問わ ずに、季節毎の催事はもちろん、一月から十二 月までの各月単位のイベントや慶弔行事をすべ て調べ上げ、荷主だけでなく物流会社まで回っ て、波動が大きく困っている業務を次々に受託 していったのである。
 中には一回限りの仕事もあったが、多くは 毎年決まった時期に同様の波動が発生しており、 受託した顧客の七割がリピート客になっていっ た。
地元には波動の大きな物流を得意とする物 流会社はZ社のほかには珍しく、相見積りはあ ってもコンペするまでには至らないだけの差別 化が図れていた。
 しかし、Z社のA社長とK常務は売り上げ三 〇億円の達成を目の前にして「この快進撃はい つまで続くのか」と将来に対する疑問を抱くよ うになった。
そして波動対応をビジネスの中核 に置きながらも、その周辺業務に事業領域を広 げていこうと考えた。
すなわちセンター運営型 ノンアセット3PLである。
それを目標に輸配 送などの足回り、WMSをはじめとする情報シ ステム、そして提案営業のノウハウの構築に乗 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表  競合他社の嫌がる荷物に的を絞る逆転の発想で一〇年近 くにわたり順調に事業を拡大させてきた。
それでも経営者 は将来に不安を感じていた。
そして3PL事業への参入に今 後の成長を託そうと考えた。
しかし、同社の現状を客観的 に評価すれば、経営者の考えは楽観的過ぎるように感じた。
センター運営会社Z社の3PL参入断念 第122 回 MAY 2013  70 り出したのであった。
 それからしばらくして、Z社の執行役員L氏 から我々日本ロジファクトリー(NLF)に連 絡が入った。
3PL営業の実践と運営体制ノウ ハウの構築に外部の力が必要とのことであった。
 それ以前から筆者はZ社のことは知っていた。
それだけに「なぜZ社が3PLなのか」と首を 傾げずにはいられなかった。
聞けば、3PL営 業を実際に展開しながら、それと並行して内部 体制を固めていきたいという。
楽観的過ぎるよ うに感じた。
依頼された内容に対応できるのか 即答するのは避けることにした。
 Z社の現状を考えると、3PL体制を構築す るのに多くの時間と手間を要することは明らか であった。
社内に3PL事業を構築し、案件を 立ち上げ、安定稼働させることのできるキーマ ンがいるとも思えなかった。
結局、Z社が3P Lを展開する絵は、筆者にはどうしても描けな かったのである。
 そこで今回は我々がZ社の3PL事業化プロ ジェクトのメンバーに加わってその実現を手助 けするのではなく、アドバイザーという立場か ら、Z社が自分自身で新たな体制を構築してい くことを支援するというかたちでコンサルティ ングに入ることにした。
 Z社が3PL事業に本格的に参入するために 解決すべき課題は大まかには以下の六つであっ た。
3PL事業に必要な要件のすべてが課題と いって良かった。
?特定業種・業界における実績の蓄積 ?センター運営ノウハウの向上 ?足回りの強化 ?全国案件対応 ?WMS構築 ?3PL人材の育成・確保  「?特定業種・業界における実績の蓄積」と、 それを?強み?としてPRすることは、3PL 事業の定石である。
大手3PLであれば知名度 や規模などから放っておいてもコンペ参加の打 診は舞い込む。
しかし中小かつノンアセットと なれば、その会社の?強み?が認知されていな いと勝負の土俵にも上がれない。
しかし、Z社 はこれまでジャンルを問わず波動への対応力で 事業を展開してきたことから、荷主の業種、業 界を選ぶという感覚がなかった。
理想と現実の大きな乖離  「?センター運営ノウハウの向上」は、Z社の 本業とも言える業務であるが、その生産性や品 質は、筆者が見た限り合格レベルにあるとは言 えなかった。
 物量に応じた人員設定(レイバーコントロー ル)は、過去には高いスキルを有していたはず だが、波動期が異なる顧客が増えて年間を通し て作業の平準化が進んだことで、そのスキルが 陳腐化していた。
実際、現場では直接雇用のパ ート・アルバイトに比べて割高な派遣の利用が 増えて、コストアップ要因となっていた。
 作業者の熟練度が低いため品質面にも課題を 抱えていた。
その解決に向けてマニュアルの整 備や掲示物のビジュアル化を行ってはいたが、Z 社の荷主の多くは毎年のように製・商品の企画 や包装、シール貼りの方法を変更するため、イ タチごっこになっていた。
 「?足回りの強化」もまた3PL事業のポイ ントである。
足回りの弱い3PL会社が荷主と の取引を長期にわたって継続させるのは困難で ある。
センターの「運営力」と「配送力」は3 PL事業の両輪と言える。
 Z社の場合は路線便(特別積合せ輸送)への 過度な依存を解消する必要があった。
実際、Z 社は近隣エリアの中ロット(一・五tレベル)以 上の荷物まで含めて、足回りのほとんどを路線 便に頼っていた。
これでは運賃は下がらない。
 とはいえ、出荷方面が時期によって大きく変 化するため、自社便や傭車対応では改善は期待 できそうになかった。
地場運送会社のネットワ ーク化による中距離・中ロット貨物の積み合わ せの強化、もしくは共同配送のインフラ作りが 必要であった。
 「?全国案件対応」も検討課題であった。
冒 頭に述べたようにZ社はドミナント型で拠点を 展開している。
他に関東エリアにはアライアン ス先があるとのことであったが、それ以外には 足下の関西エリアも含め、ほとんどコネクショ ンがなかった。
そのため地元以外の拠点ニーズ に対応できていなかった。
各地に提携パートナ ーを作ってネットワーク化を図りたいところで あった。
 「?WMS構築」は、3PLの重要なポイン トである。
例えパッケージをカスタマイズしたも 71  MAY 2013 のであっても3PLが自前のWMSを提供する ことができれば、システム連携によって荷主を 固定客化しやすくなる。
 しかしパッケージのカスタマイズには通常、数 千万円規模の投資が伴う。
これまで順調に成長 してきたZ社もそこまでの投資余力はなかった。
システムの重要性を理解している人物が社内に 不在だったこともあり、自前構築は断念するほ かなかった。
 「?3PL人材の育成・確保」は、Z社が我々 NLFにコンサルティングを依頼しようと考え た、そもそものテーマであった。
 しかし、既存の二名の営業スタッフには御用 聞きスタイルが染みついており、また高齢者と いうこともあって、提案営業や3PL営業を修 得させようとすれば、かなりの時間を要するこ とは明らかだった。
知識を学ぶことはできても、 それを実践レベルで活かすことができるように なるのか疑問であった。
 また3PL営業経験者を新規に採用しようと すれば、当然ながらそれに見合った給料を支払 う必要がある。
既存の営業スタッフとのバラン スが取れなくなって、社内に軋轢の生じる恐れ があった。
通常このような場合、既存メンバー も温存するのであれば、新たに3PL会社を作 るところであるが、Z社にとっては高いハード ルであった。
3PL参入を断念  人材不足はZ社が3PLに参入するに当た っての最も大きな課題であった。
営業マンのみ ならず、現場人材のレベルも十分ではなかった。
先の「?センター運営ノウハウの向上」のため、 我々NLFは現場スタッフの実力と改善ポテン シャルをまずは確認しようと、Z社の各センタ ーを見学して回った。
 すると、どの現場にも共通している点があっ た。
経営陣と各センター長の現場認識が大きく 食い違っていたのである。
しかも、各センター 長と、そのセンター長があずかっている現場の 実態にも大きな乖離があった。
 「朝礼は毎日行っている」とセンター長は言 う。
しかし、現場リーダーに同じ質問をすると 「やれていない日が多い」と返ってくる。
同様 に、センター長は「あいさつについては口うる さく指導している」と言うが、実際には現場ス タッフの半分くらいしか、まともにあいさつが できないという具合である。
 これは我々NLFが現場運営の「三悪」と呼 んでいる問題が原因である。
「三悪」とはすな わち、「決めっ放し」、「言いっ放し」、「やりっ 放し」である。
Z社に限らず多くの会社がこの 「三悪」を抱えて、現場が放置され、やがてほ かの問題へと拡散していくのである。
 「三悪」を解消するには、「やり切る力」が必 要である。
まず経営者、管理者がどこまでやる のか到達点を決め、その経過を常に観測し、目 標を完遂するまで手綱を緩めないようにしなけ ればならない。
 これらの内容を整理して、執行役員L氏にフ ィードバックした。
3PL事業に本格的に参入 するにはZ社の経営陣が予想している以上にハ ードルの高い必要条件をクリアしなければなら ないこと。
必要な機能はそう簡単に手に入るも のではないことを伝えた。
L氏は自信を失くし たようであったが、A社長、K常務と良く話し 合ってみると答えた。
 それから約一カ月後、L氏から筆者にメール が入った。
3PL参入は「保留」になったとの ことであった。
その文面を読んで、ほっとした というのが筆者の正直な感想であった。
無理に 3PLに参入するより、既存の波動対応力に磨 きを掛けることのほうが、Z社にとっては有効 な成長戦略になるだろう。
 これまで多くの物流会社が流行病のように3 PLを意識し、参入を試みようとしてきたが、 そのほとんどは失敗に終わっている。
ブームも 今や一段落した感が出てきた。
改めて物流会社 は自社の立ち位置、すなわち業界におけるポジ ショニングと、強み・弱みを把握した上で、身 の丈に合った成長戦略を組み立てることが求め られている。
あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産業大学経済学部卒 業。
大手運送業者のセールスドライバーを経 て、89年に船井総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチーフを務める。
96 年、独立。
日本ロジファクトリーを設立し代 表に就任。
現在に至る。
主な著書に『経営 のテコ入れは物流改善から』(明日香出版社)、 『物流のしくみ』(同文館出版)などがある。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp PROFILE

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