2013年6月号
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「名もなき戦士たちがそれを築き上げた」 信田洋二 Believe─UP 代表
JUNE 2013 4
ぎてもトラブルになりかねません。
そ のソフトの場合は午前七時が発売時間 でした。
そこから逆算して午前一時か ら五時までの間に確実に店舗へ届ける とすれば、各温度帯のうちのどの便を 使えばいいのかと、ひも解いていった 結果がチルド便でした」 ──ほかのコンビニチェーンも物流は、 セブン─イレブンのやり方をそのまま踏 襲したと考えて良いのでしょうか。
「もちろんセブン─イレブンを意識は していますが、実際の仕組みは似て非 なるものになっています」 ──その理由は? 「ビジネスモデルが違うからです。
何 より『商物分離』に対する姿勢が違 います。
セブン─イレブン・ジャパン本 部は、共配センター運営などの物流業 務をすべて外部の3PLにアウトソー シングしています。
センターフィーな どの取引には直接タッチしていません。
商流と物流を完全に分離しているため、 店舗の販促支援と物流コストの削減に 純粋に取り組める」 「一方、ほかの大手コンビニは特定 の商社の影響下にあります。
物流に も商社の思惑がどうしても入ってくる。
物流のアウトソーシング先と資本系列 でつながっている場合もある。
物流コ ストの削減によって、身内が身を削ら れるとなればさまざまな制約も出てく 物流の常識を無視 ──セブン─イレブン発祥の地は米国で す。
イトーヨーカ堂がライセンス契約 を受けてそれを日本で展開したわけで すが、その物流も米国に起源があるの でしょうか。
「私がセブン─イレブン・ジャパンに 入社したのは一九九五年ですから、創 業時代を直接経験しているわけではあ りませんが、少なくとも私の知る限り、 現在のセブン─イレブンの物流システム は、日本で文字通りゼロから組み立て たものです」 ──それはやはり鈴木敏文会長兼CE O(最高経営責任者)が主導したもの なのでしょうか。
それともトヨタ方式 を体系化した大野耐一氏のようなキー マンがほかにいたのでしょうか。
「今ではセブン─イレブンの代名詞に もなった『単品管理』のコンセプトは、 鈴木会長が打ち出したものですし、セ ブン─イレブンのサプライチェーン整備 が鈴木会長の強烈なリーダーシップの 下で進められたのは間違いありません。
しかし、鈴木会長の考えを実務に落と し込んでいったのは現場の物流担当者 たちでした。
まさしく?名もなき戦士 たち?でした」 「物流担当といっても、実際には私 を含めてほとんどが物流の専門家では ない素人集団でした。
しかし、素人だ からこそ、それまでの物流業界の常識 を全く無視して、『単品管理』を支え る物流はどうあるべきか、各店舗がお 客様の必要な時に必要な商品をきちん とお渡しするために、物流はどうすれ ばいいのかをゼロベースで考えること ができたのだと思います」 ──セブン─イレブンの組織内において 物流部門はどのような位置付けを与え られているのでしょうか。
「一般的な物流部門と比べて、大き な権限と責任が与えられていています。
サプライチェーン全体のスキームを作 ることがその役割で、物流部門が策定 して了承された計画が、そのまま全社 的な活動となって進んでいきます。
商 品部から上がってくる商品政策に対し て、物流部はそれをどうやってメーカ ーから共同配送センターに運び、セン ターからどうやって各店舗に届けるの か。
それには四つの管理温度別のイン フラのどれをどう使えばいいのか、と 検討していきます」 「その結果、例えば、ゲームソフト を常温ではなく、チルド便で配送した こともあります。
ゲームソフトの新商 品は販売開始時間を厳守する必要があ ります。
遅過ぎるのはもちろん、早過 信田洋二 Believe─UP 代表 「名もなき戦士たちがそれを築き上げた」 セブン─イレブンにとって物流は情報システムと並ぶ経営の両輪だ。
コンビニという新しい業態を日本に定着させるには、それまで存在 しなかった物流の仕組みがどうしても必要だった。
そのために物流 部門に配属された無名の実務家たちが、一つひとつ手探りで石を積 み上げていった。
(聞き手・大矢昌浩、藤原秀行) 5 JUNE 2013 るということではないでしょうか」 ──なぜセブン─イレブンはそうしたし がらみから自由でいられるのでしょう か。
「確かに共配センターは常に必要な インフラですから資産として保有して も商売として十分成り立つように思え ます。
しかし、セブン─イレブン・ジ ャパンでは、それこそ創業のころから、 自前で余計な資産を持てば、それがし がらみになるということがずっと言わ れてきました」 「資産はなるべく持たない。
人の知 恵も借りる。
言葉は悪いですが、?人 のふんどしで相撲を取る?ことを大前 提としてきたんです。
ふんどしが気に 入らなければ、別のふんどしを使えば いいという発想です。
そのために環境 の変化に応じて共配センターの立地や 規模などを柔軟に修正できる。
最適な インフラを常に維持していくことがで きるわけです」 「そこでサービスレベルに焦点を合わ せながら、コストとのバランスを取っ て身の丈に合った現実的な物流システ ムを考えることになるわけです。
従っ て物流システムの構築はサービスレベ ルの設定から始まって、それを満たし、 かつコストを最適化するという、複雑 なパズルを解いていくような仕事にな ります」 「そうしたことを考えるのは苦手だ という人は多いでしょうし、その重要 性を分かっている経営者は少ない。
し かし、セブン─イレブンはそれを飽きず に続けてきた。
セブン─イレブンにお いて物流は創業以来、最も大きく変化 し、最も大きな進化を遂げた機能の一 つでしょう。
その結果、物流が彼等の 武器になった。
物流が全国に一万五〇 〇〇もの店舗を展開することを可能し たんです」 ──センター運営のノウハウが蓄積さ れてくると、配送センターの運営委託 先となる3PLの顔触れも絞られてき そうなものですが、そこは固定化され ていないのですか。
「センター運営の委託先を絞り過ぎる と、その会社におんぶに抱っこになっ てしまう。
物流会社にそのエリアはう ちのものだという意識が生まれて既得 権益化する恐れがあります。
パートナ ー同士が競争意識を持つことも大事で す。
そのために物流センター委託先と は常に緊張関係を持ち続けることを基 本方針としています」 セブンから何を学ぶか ──現在のセブン─イレブンの物流体制 が完成したのは、いつごろだったので しょうか。
「共同配送という意味では、米飯が 完全に一日三便となり、常温が酒類、 加工食品、菓子、雑貨の四カテゴリ ーで統合された二〇〇三年から〇四年 あたりではないでしょうか。
当面、共 同配送に関しては大きく改革する必要 はなさそうです。
改善、改良で済むレ ベルに達しています」 「ただし、それは完成形というより も、今の状況に一番適したかたちの物 流になっているという表現の方が適切 だと思います。
環境が変われば当然な がらまた別の最適解が出てくる」 ──PB商品の取り扱いが増えること で、物流に影響はありますか。
「PBのハンドリングは普通のNB商 品と何ら変わりません。
PBがどれだ け増えても、それによって配送センタ ーのオペレーションが影響を受けると は考えられない」 ──セブン─イレブンの物流からほかの 会社が学べる点があるとすれば何でし ょうか。
「世間に物流の改善、改革をしなけ ればいけない企業はたくさんあります が、いざ変革しようとすると二の足を 踏むケースが非常に多いように思いま す。
既にモノが運ばれてきている状態 が出来上がってしまっているため、そ こからスタートしてしまう。
何を変え なければいけないのか考えようとしな いんです」 「まず最初に、誰のために何をした いがための物流なのかを明確にするこ とが必要です。
物流とは端的に言えば、 A地点からB地点にモノを持っていく だけの話です。
今すぐおにぎりを一個 持ってきてくれというオーダーに応え ることも物理的には可能ですし、サー ビスレベルを上げようと思えばいくら でもそうできる。
ただし、それではコ ストと労力ばかり掛かって商売になら ない」 信田 洋二(しのだ・ようじ) 1964年生まれ。
95年セブン─イレ ブン・ジャパン入社。
店舗経営指導員 ( OFC)、情報システム本部の発注システ ム担当マネージャー、物流管理本部の物 流企画担当マネージャーなどを務める。
2009年退社し、10年に「Believe─ Up」を創業。
小売業や物流業向けのコ ンサルティング業務などを精力的に手掛 けている。
今年3月、自らの経験を元に『セブン ─イレブンの「物流」研究』(商業界)を 上梓した(上写真)。
『セブン- イレブンの「物流」研究』 信田 洋二(商業界) 一六八〇円
そ のソフトの場合は午前七時が発売時間 でした。
そこから逆算して午前一時か ら五時までの間に確実に店舗へ届ける とすれば、各温度帯のうちのどの便を 使えばいいのかと、ひも解いていった 結果がチルド便でした」 ──ほかのコンビニチェーンも物流は、 セブン─イレブンのやり方をそのまま踏 襲したと考えて良いのでしょうか。
「もちろんセブン─イレブンを意識は していますが、実際の仕組みは似て非 なるものになっています」 ──その理由は? 「ビジネスモデルが違うからです。
何 より『商物分離』に対する姿勢が違 います。
セブン─イレブン・ジャパン本 部は、共配センター運営などの物流業 務をすべて外部の3PLにアウトソー シングしています。
センターフィーな どの取引には直接タッチしていません。
商流と物流を完全に分離しているため、 店舗の販促支援と物流コストの削減に 純粋に取り組める」 「一方、ほかの大手コンビニは特定 の商社の影響下にあります。
物流に も商社の思惑がどうしても入ってくる。
物流のアウトソーシング先と資本系列 でつながっている場合もある。
物流コ ストの削減によって、身内が身を削ら れるとなればさまざまな制約も出てく 物流の常識を無視 ──セブン─イレブン発祥の地は米国で す。
イトーヨーカ堂がライセンス契約 を受けてそれを日本で展開したわけで すが、その物流も米国に起源があるの でしょうか。
「私がセブン─イレブン・ジャパンに 入社したのは一九九五年ですから、創 業時代を直接経験しているわけではあ りませんが、少なくとも私の知る限り、 現在のセブン─イレブンの物流システム は、日本で文字通りゼロから組み立て たものです」 ──それはやはり鈴木敏文会長兼CE O(最高経営責任者)が主導したもの なのでしょうか。
それともトヨタ方式 を体系化した大野耐一氏のようなキー マンがほかにいたのでしょうか。
「今ではセブン─イレブンの代名詞に もなった『単品管理』のコンセプトは、 鈴木会長が打ち出したものですし、セ ブン─イレブンのサプライチェーン整備 が鈴木会長の強烈なリーダーシップの 下で進められたのは間違いありません。
しかし、鈴木会長の考えを実務に落と し込んでいったのは現場の物流担当者 たちでした。
まさしく?名もなき戦士 たち?でした」 「物流担当といっても、実際には私 を含めてほとんどが物流の専門家では ない素人集団でした。
しかし、素人だ からこそ、それまでの物流業界の常識 を全く無視して、『単品管理』を支え る物流はどうあるべきか、各店舗がお 客様の必要な時に必要な商品をきちん とお渡しするために、物流はどうすれ ばいいのかをゼロベースで考えること ができたのだと思います」 ──セブン─イレブンの組織内において 物流部門はどのような位置付けを与え られているのでしょうか。
「一般的な物流部門と比べて、大き な権限と責任が与えられていています。
サプライチェーン全体のスキームを作 ることがその役割で、物流部門が策定 して了承された計画が、そのまま全社 的な活動となって進んでいきます。
商 品部から上がってくる商品政策に対し て、物流部はそれをどうやってメーカ ーから共同配送センターに運び、セン ターからどうやって各店舗に届けるの か。
それには四つの管理温度別のイン フラのどれをどう使えばいいのか、と 検討していきます」 「その結果、例えば、ゲームソフト を常温ではなく、チルド便で配送した こともあります。
ゲームソフトの新商 品は販売開始時間を厳守する必要があ ります。
遅過ぎるのはもちろん、早過 信田洋二 Believe─UP 代表 「名もなき戦士たちがそれを築き上げた」 セブン─イレブンにとって物流は情報システムと並ぶ経営の両輪だ。
コンビニという新しい業態を日本に定着させるには、それまで存在 しなかった物流の仕組みがどうしても必要だった。
そのために物流 部門に配属された無名の実務家たちが、一つひとつ手探りで石を積 み上げていった。
(聞き手・大矢昌浩、藤原秀行) 5 JUNE 2013 るということではないでしょうか」 ──なぜセブン─イレブンはそうしたし がらみから自由でいられるのでしょう か。
「確かに共配センターは常に必要な インフラですから資産として保有して も商売として十分成り立つように思え ます。
しかし、セブン─イレブン・ジ ャパンでは、それこそ創業のころから、 自前で余計な資産を持てば、それがし がらみになるということがずっと言わ れてきました」 「資産はなるべく持たない。
人の知 恵も借りる。
言葉は悪いですが、?人 のふんどしで相撲を取る?ことを大前 提としてきたんです。
ふんどしが気に 入らなければ、別のふんどしを使えば いいという発想です。
そのために環境 の変化に応じて共配センターの立地や 規模などを柔軟に修正できる。
最適な インフラを常に維持していくことがで きるわけです」 「そこでサービスレベルに焦点を合わ せながら、コストとのバランスを取っ て身の丈に合った現実的な物流システ ムを考えることになるわけです。
従っ て物流システムの構築はサービスレベ ルの設定から始まって、それを満たし、 かつコストを最適化するという、複雑 なパズルを解いていくような仕事にな ります」 「そうしたことを考えるのは苦手だ という人は多いでしょうし、その重要 性を分かっている経営者は少ない。
し かし、セブン─イレブンはそれを飽きず に続けてきた。
セブン─イレブンにお いて物流は創業以来、最も大きく変化 し、最も大きな進化を遂げた機能の一 つでしょう。
その結果、物流が彼等の 武器になった。
物流が全国に一万五〇 〇〇もの店舗を展開することを可能し たんです」 ──センター運営のノウハウが蓄積さ れてくると、配送センターの運営委託 先となる3PLの顔触れも絞られてき そうなものですが、そこは固定化され ていないのですか。
「センター運営の委託先を絞り過ぎる と、その会社におんぶに抱っこになっ てしまう。
物流会社にそのエリアはう ちのものだという意識が生まれて既得 権益化する恐れがあります。
パートナ ー同士が競争意識を持つことも大事で す。
そのために物流センター委託先と は常に緊張関係を持ち続けることを基 本方針としています」 セブンから何を学ぶか ──現在のセブン─イレブンの物流体制 が完成したのは、いつごろだったので しょうか。
「共同配送という意味では、米飯が 完全に一日三便となり、常温が酒類、 加工食品、菓子、雑貨の四カテゴリ ーで統合された二〇〇三年から〇四年 あたりではないでしょうか。
当面、共 同配送に関しては大きく改革する必要 はなさそうです。
改善、改良で済むレ ベルに達しています」 「ただし、それは完成形というより も、今の状況に一番適したかたちの物 流になっているという表現の方が適切 だと思います。
環境が変われば当然な がらまた別の最適解が出てくる」 ──PB商品の取り扱いが増えること で、物流に影響はありますか。
「PBのハンドリングは普通のNB商 品と何ら変わりません。
PBがどれだ け増えても、それによって配送センタ ーのオペレーションが影響を受けると は考えられない」 ──セブン─イレブンの物流からほかの 会社が学べる点があるとすれば何でし ょうか。
「世間に物流の改善、改革をしなけ ればいけない企業はたくさんあります が、いざ変革しようとすると二の足を 踏むケースが非常に多いように思いま す。
既にモノが運ばれてきている状態 が出来上がってしまっているため、そ こからスタートしてしまう。
何を変え なければいけないのか考えようとしな いんです」 「まず最初に、誰のために何をした いがための物流なのかを明確にするこ とが必要です。
物流とは端的に言えば、 A地点からB地点にモノを持っていく だけの話です。
今すぐおにぎりを一個 持ってきてくれというオーダーに応え ることも物理的には可能ですし、サー ビスレベルを上げようと思えばいくら でもそうできる。
ただし、それではコ ストと労力ばかり掛かって商売になら ない」 信田 洋二(しのだ・ようじ) 1964年生まれ。
95年セブン─イレ ブン・ジャパン入社。
店舗経営指導員 ( OFC)、情報システム本部の発注システ ム担当マネージャー、物流管理本部の物 流企画担当マネージャーなどを務める。
2009年退社し、10年に「Believe─ Up」を創業。
小売業や物流業向けのコ ンサルティング業務などを精力的に手掛 けている。
今年3月、自らの経験を元に『セブン ─イレブンの「物流」研究』(商業界)を 上梓した(上写真)。
『セブン- イレブンの「物流」研究』 信田 洋二(商業界) 一六八〇円
