2013年6月号
ケース

米ウェルチ・フーズ 欧米SCM会議㉗ 小売りと共同で評価指標を作成効率化と売上高20%増を実現

JUNE 2013  50 食品SCMの二つのトレンド  ウェルチ・フーズは、ニューヨーク州、ペ ンシルバニア州、オハイオ州、ミシガン州、 ワシントン州の計一〇〇〇以上のブドウ農家 が加盟する「全米ブドウ生協」を親会社に持 つ生協形式の飲料メーカーです。
主力ブラン ドは「Welch,s」として知られる果汁 一〇〇%のブドウジュースや炭酸飲料水、ジ ャムやゼリーなどです。
 当社はコカ・コーラやペプシコ、クラフ ト・フーズなどの大手メーカーと比べると、 売り上げ規模も事業展開も小規模ではありま すが、サプライチェーンの取り組みにおいて は、取引先である小売業界から高い評価を受 けています。
 例えば、過去一〇年の間にウォルマートか ら二回、「サプライヤー・オブ・ザ・イヤー」 を受賞しています。
二〇一二年には二度にわ たってセーフウェイの「ナンバー・ワン・サプ ライヤー」に選ばれています。
 本日はまず当社の歴史や、サプライチェー ンの現状に関する主要な数字などから説明し ます。
ウェルチ・フーズは一八六九年に外科 医のチャールズ・ウェルチによって創業されま した。
ニュージャージー州南部で、自らが所 属する教会の儀式で使う未発酵ワインを作っ たのが始まりです。
 その後、一九五〇年代に「全米ブドウ生協」 がウェルチ・フーズを買収しました。
彼等が 生産したブドウを食料品に加工して販売する 手段としてウェルチ・フーズを傘下に収めた のです。
 現在の当社のアイテム数は約四〇〇SKU (最小在庫管理単位)で、青紫のコンコルド・ グレープと白色のナイアガラ・グレープを使っ た商品の取り扱いでは世界一の実績を誇って います。
各地の農場から集められたブドウや そのほかの果物は、商品ラインごとの専用工 場で生産されます。
 取引のある小売業者は七九〇社に上ります。
主要取引先は、ウォルマートやセーフウェイ、 フード・ライオン、クローガーなどのナショ ナルチェーンですが、フロリダ州にあるパブリ ック・スーパーマーケットなどの地場のスーパ ーにも商品を卸しています。
 商品の半分は貸切輸送(TL:Truckload) でそれぞれの小売業者の物流センターに納品 しています。
残りの半分はLTL(Less Than Truckload:日本の特別積み合わせ輸送に相 当)で出荷しています。
 私自身は入社以来三五年のほとんどをサプ ライチェーンにかかわる業務に携わってきま した。
振り返ってみると一〇年ほど前までは、 食料品業界におけるサプライチェーンやロジ スティクス業務は非常に単純でした。
自社の 倉庫や物流センターに保管してある商品をト ラックに積んで出荷することが業務のほとん どと言って良いくらいでした。
 しかしその後、業界全体に二つの流れが生  取引先の小売業者と共同プロジェクトを組み、 サプライチェーンの評価指標を作成、全体最適 化に取り組んだ。
在庫削減と欠品率の改善、業 務の効率化を実現することができた。
その小売 業者における自社製品の売上高は20 %増えた。
同プロジェクトを牽引したディー・ビッグス氏が、 評価指標の活用法を解説する。
欧米SCM会議㉗ 米ウェルチ・フーズ 小売りと共同で評価指標を作成 効率化と売上高20%増を実現 社名 ウェルチ・フーズ 創業 1869 年 本社 マサチューセッツ州コンコルド 親会社 全米ブドウ生協 CEO 兼社長 ブラッド・アービン 売上高 6 億4950 万ドル(643 億50 万円) 純利益 8000 万ドル(79 億2000 万円) 加盟農家 1026 農場 従業員数 806 人 (注1) 2012 年の年次報告書より (注2) 1ドル=99 円で換算 会社概要 51  JUNE 2013 まれました。
一つは自社のサプライチェーン の守備範囲を広げて、全体最適を図ろうとす る動きです。
当社の場合、現時点でサプライ チェーンがカバーする範囲は、購買から製造、 輸送、保管、在庫管理、需要予測、顧客サ ービスにまで広がりました。
 もう一つは、顧客である小売業者、特に ウォルマートのような大手小売業者が主導す る形で、自社のサプライチェーンだけでなく、 当社のような納入業者のサプライチェーンま で統合する形で、合理化を進めようとする流 れです。
 小売業者がそれぞれ独自の評価基準やスコ アカードを作成し、納入業者をランク付けし たり、あるいはふるいに掛ける手段として使 うようになりました。
例えば、遅配・誤配や、 オンタイム配送率が極端に悪いと、取引を縮 小されたり、最悪の場合打ち切られたりする ことが起きるようになったのです。
 そうした流れの中で当社が注目したのが 評価指標(metrics)の積極的な活用でした。
評価指標をどこまで利用するのかについては、 現在も業界内の評価は定まっていません。
評 価指標や情報の共有に時間や人材を費やすの は無駄だと考える企業も少なくはありません。
 しかし当社は、はっきりと数字で測定する ことによって、質の高い仕事が完遂できると 考えています。
評価指標をうまく使いこなす ことで、原料の購買から、顧客への配送まで のサプライチェーン業務が常に計測され、そ れによって業務を改善することができるとい う考えです。
評価指標を絞り込む  サプライチェーンの評価指標の原型とも言 える「パーフェクト・オーダー・メトリック ス」は約二〇年前に、大手日用雑貨品メーカ ーのプロクター&ギャンブルによって作られた と言われています。
具体的には「オンタイム 配送」、「注文配送の完了」、「商品破損がな いこと」、「正確で時間通りの送り状の発行」 ──という四項目からスタートしました。
 その後、二〇〇五年にアメリカの食品業界 団体の「FMI(Food Marketing Institute= 食品マーケティング協会)」や「G M A (Grocery Manufacturers Association=全米 食品製造者協会)」が評価指標を改定しました。
先の四項目に加え、「在庫日数」、「注文から 納品までの時間」、「注文に対する納品率(fill rate)」、「データの同期性」、「小売店頭の棚に おける在庫率」などが含まれるようになりま した。
 それをさらに進化させたのが、複数の国や 地域にまたがるサプライチェーンの効率化を 目的に組織された国際標準化団体「GS1 (Global Standard One)」による評価指標で す(図1)。
GS1は評価項目を「売上高」、 「サプライチェーン」、「オペレーション」、「デ ータの正確さ」の四つに分けて、それぞれの 指標を作っています。
現時点では、このGS 1がアメリカの食品業界において、評価指標 の最大公約数とみなされています。
 評価指標の活用に向けて我々が最初に取り 組んだのは、当社のサプライヤーと顧客のサ プライチェーンを一体のものとみなし、その 全体を効率化することのできる評価指標を選 ぶことでした。
そのために当社のサプライチ ェーン部門をいくつかのグループに分けて、ど の評価指標を用いればサプライチェーンの全 体最適を図ることができるのかを研究しまし た。
 その結果としてたどり着いたのが、サプラ イチェーンの効率化の達成度を測定する以下 の三つの指標です。
一つは「サービスレベル の向上」、二つ目は「サプライチェーンに掛か るコストの軽減」、最後は「売上高の伸び」で す。
優先順位もこの順番であることが大切で 図1 GS1が作成したSCM の業務評価指標 売上高 ●売上高の伸び率(%) ●市場占有率(%) ●売上予測の正確さ(%) ●粗利(%) ●値引き販売率(%) サプライチェーン ●在庫切れ(%) ●在庫日数(日) ●注文に対する納品率(%) ●納品までの時間(時) ●オンタイム配送率(%) オペレーション ●販売できない商品(%) ●インボイスの正確さ(%) ●支払い期限の支払い率(%) データの正確さ ●データの同期性(%) ●データの正確さ(%) JUNE 2013  52 す。
つまり、「サービスレベルの向上」や「コ ストの軽減」を果たした先に「全体の売上高 の伸び」が実現するという考え方に立ってい ます。
サービスレベルの測定点を拡張  社内のそうした研究に呼応するかのように、 ある小売業者から共同プロジェクトの打診を 受けました。
一緒にサプライチェーンの効率 化に取り組んで、毎月、その結果を検証して みないかという申し出でした。
今から七年ほ ど前のことです。
 その会社は当社と長年の取引があり、売 上規模ではトップレベルとは言えないものの、 サプライチェーンの取り組みにおいては先駆 的な小売業者として知られていました。
当 社との間でもそれまでに、「VMI(Vendor- Managed inventory :ベンダー主導型在庫 管理)」の実施や「ASN(Advanced Ship Notice = 事前出荷予定)」の導入などの取り 組みを行っていました。
 このプロジェクトの最初の会議の席で、そ の会社のサプライチェーン担当責任者はこう 言いました。
 「このプロジェクトによってコストが削減さ れるのなら、それに越したことはないけれど、 それ以上に我々が求めているのは、どうすれ ばサプライチェーンを効率化できるのか、そ の方法を見つけることです。
両社の取り組み で、その道筋が見えてくればそれをほかの取 引先にも広げて、さ らなる効率化につな げられます。
そうや って実際にコスト削 減効果が生まれた場 合には、我々だけで なくあなた方にもそ れを還元したいと考 えています」  小売側責任者の この発言によって、 我々のプロジェクト に対する姿勢は大き く違ってきました。
どうやってコスト削 減という目に見える 成果を上げようかという当初の気負いがなく なり、どうすればサプライチェーンを効率化 できるかということに集中できるようになり ました。
 同時に、このプロジェクトが成功するかど うかは、小売業者と共同でどのような評価指 標を設定するかにかかっているとも考えまし た。
 我々は先行するたくさんの評価指標の中か ら、一〇のKPI(重要業績評価指標)を選 びました(図2)。
その特徴は、従来なら小 売業者の物流センターに納品する時点のサー ビスレベルまでだった我々の管理対象範囲を、 その先の店舗納品にまで拡大したところにあ ります。
 小売業者の物流センターにいくら商品在庫 が積まれていても、それが店舗に納品されな ければ、我々の売り上げにはつながりません。
しかし、それを我々が管理するには小売り側 からデータを提供してもらうことが必要にな るため、これまではなかなか踏み込めずにい た部分でした。
 将来的には店舗納品時点からさらに進んで、 店頭の棚に対するサービスレベルを指標として 使いたいとも考えています。
商品が店舗に納 品されても、その商品が棚に並ばない限り、最 終消費者である一般顧客の手には届かず、売 り上げにはつながらないわけですから。
図2 顧客と共同で策定したSCM のKPI 項目 図3 在庫日数 ●売上高 ●オンタイム配送 ●販売できない商品 ●在庫日数 ●納品までの時間 ●小売りの物流センターへのサービスレベル ●データの同期性 ●送り状の測定 ●小売物流センターから店舗へのサービスレベル ●店舗の棚へのサービスレベル(今後の課題) 30 25 20 15 10 5 0 全商品 26 28 30 32 34 36 38 40 42 44 46 48 50 52 2 4 6 8 10 2011 年2012 年 日々の実数 目標 傾向ライン 53  JUNE 2013 までのリードタイムは、八月や一二月の繁忙 期を除けば、目標を達成することができるよ うになりました(図4)。
 こうした評価指標による管理と並行して 両社の現場にも足を運びました。
最も驚いた のは、当社で仕立てた貸切輸送のトラックが、 小売りの物流センターに到着した後、積み下 ろしに四時間近く掛かっていることを知った 時でした。
毎日の作業に膨大な無駄が発生し ていたのです。
 原因はパレットのサイズの違いにありまし た。
当社は二六枚でトラックが満載になるサ イズのパレットを使っていました。
一方、小 売業者の物流センターで使っているパレット はその半分以下の大きさでした。
当社のパレ ットのままでは物流センターのラックに収ま らないため、そのセンターで使っているパレ ット六〇枚に載せ換える必要がありました。
 これを改善するため当初は、我々が運んだ パレットを一時保管所に置いて、トラックの 搬入口を一五分以内に空けるようにして、次 のトラックが商品を納入できるようにしまし た。
さらにその後、我々側で小売業者の物流 センターに合わせたパレットを使うことで、作 業効率を大きく改善しました。
 こうしてKPIによる継続的な評価を元に 改善に取り組んだ結果、プロジェクト初年度 に、その小売業者における当社の商品の売上 高は前年比で二〇%増加しました。
その一方 で、その小売業者の物流センターや店舗にお ける在庫を前年比一〇%削減することができ ました。
納品率(Fill rate)も、九五%から 九八・五%にまで引き上げることができまし た。
 取り組みの次年度以降は、売上高の伸びに ついては横ばいになっていたのですが、一年 半前からPOS(販売時点)データを提供し てもらえるようになり、これによって売り上 げが再び前年比で三〜五%増加するようにな りました。
 このプロジェクトによって我々はKPIの 利用法について次のことを学びました。
(1) KPIは重要なものに絞り込み、かつ明確 に定義すること (2) そのKPIは原料の調達から最終消費まで の全体最適を見据えた横断的な指標である こと (3) そ れ ぞ れ の 指 標 に つ い て 目 標 値 を 設 け 、 そ の結果を広く共有すること (4) KPIを元に、サプライチェーンのすべて の関係者を巻き込むことができるスコアカ ードを作成し、関係者からのフィードバッ クを求めること (5) プロジェクトの結果データは、全て蓄積し て開示すること  このプロジェクトを通して得られたノウハウ を、今後はほかの小売業者との取引にも応用 し、当初の目的である業務の効率化やコスト削 減、売上高の拡大につなげていきたいと考え ています。
(フリージャーナリスト・横田増生)  商品補充の理想は、商品が一つ売れるごと に、新たに商品を一つ棚に補給することです。
しかし現時点では、残念ながら我々の取り組 みはそのレベルには達していません。
今後の 課題となっています。
KPI活用のポイント  KPIの利用法について一例を挙げると、 在庫については「全商品」のほか、カテゴリ ー別に「ジュース類」、「冷蔵食品」、「乳製品」 の計四項目について、それぞれ在庫日数の目 標値を設定し、日々の実数の推移と傾向ライ ン(Trendline)を毎月報告するようしまし た(図3)。
 もちろん、その他の指標についても目標値 を設定し、毎月の両社会議で実績データを発 表しています。
そのうち例えば発注から納品 図4 納品までの時間 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 8月 9月 10 月 11 月 12 月 1月 2月 2011年2012 年 日数 全商品 納品までの平均時間 目標

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