2013年6月号
現場改善

第123回 先代社長が改革の抵抗勢力に

JUNE 2013  66 営業所に近過ぎる拠点の問題点  E社は九州を商圏とする老舗の金物卸であ る。
地方卸としては中堅レベルで、年商は約八 〇億円。
本社を含め三カ所に営業所を置いてい る。
最近では通販事業にも参入し、まだ売上 規模は小さいものの九州圏以外の金物店やプロ 志向のエンドユーザーにも販路を拡大している。
取り扱いアイテム数は約一万二〇〇〇。
本社の 隣接地に物流センターを構えて自社で運営して いる。
 E社は三〇年以上も前に商物分離を実施して いる。
業種・業態を越え九州における商物分離 の先駆けであったとされる。
それ以降、営業マ ンが商品を乗せた車両を運転して小売店を回る という伝統的なルート営業は行っていない。
 その間に金物の小売業態は中小規模の路面店 からホームセンター(HC)へのシフトが進ん だ。
E社の商物分離はこれとうまくマッチした。
主要販売先だった路面店の減少をHC向け業務 の拡大で補うかたちで、微増ながらも売り上げ を伸ばしてきた。
HC向けの売上構成比は年々 増え続け、今では全体の四分の三を占めるまで になっている。
 これに伴いE社の役割は、メーカーの販売と 与信管理機能を代行する伝統的な卸から、H Cの調達物流を担うベンダーへと変化してきた。
HCのように取扱い品目が多く、売り手(供給 側)に中小のメーカーや商社、一次卸等が多数存 在する業種では、E社のような地方卸が流通の ?まとめ役?としていまだ一定の役割を果たし ているのである。
 そんなE社の三代目経営者に当たるM社長か ら、我々日本ロジファクトリー(NLF)に直 接コンタクトがあった。
物流センターの移転問 題を含め、物流のあるべき姿を提示してほしい との依頼であった。
これまで物流センターの継 ぎ足し的な増築で物量の増加に対応してきたが、 いよいよそれが限界に来ているという。
 それから一〇日後、E社を訪問した。
M社長 との面談、関係者へのヒアリング、現場視察が その目的である。
テーマによっては最初に現場 視察を行い、その後に面談およびヒアリングと いう初回対応を取ることもあるが、今回はトッ プの考えありきの改革ということで、まず社長 室で話を聞くことになった。
 一時間ほどの面談で分かったM社長の悩みは、 大きく以下の四つであった。
事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表  地方の老舗卸の三代目が物流改革に乗り出した。
自社運 営の物流センターが狭隘化したのを機に、物流のあり方をゼ ロベースで見直すことにした。
資産売却やリストラも辞さず、 合理的な判断を下す覚悟だった。
ところがそこに先代社長 で実父の現会長から横やりが入った。
先代社長が改革の抵抗勢力に 第123 回 あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産業 大学経済学部卒業。
大手運送 業者のセールスドライバーを経 て、89年に船井総合研究所入 社。
物流開発チーム・トラッ クチームチーフを務める。
96 年、独立。
日本ロジファクトリー を設立し代表に就任。
現在に 至る。
主な著書に『経営のテ コ入れは物流改善から』(明日 香出版社)、『物流のしくみ』(同 文館出版)などがある。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp PROFILE 67  JUNE 2013 ?センターの自社運営を続けるべきか、外注化 すべきか ?センター移転先の選定 ?センター移転後の旧物件の活用法 ?センター運営における業務品質の向上  「?センターの自社運営を続けるべきか、外 注化すべきか」を検討するには、その前提とし てM社長に確認しておかなければならないこと があった。
外注化した場合、既存の物流センタ ー従業員・パートの雇用をどうするかという点 である。
 具体的には「雇用維持」、「委託先との調整 次第」、「雇用を維持する考えはない」という三 つの選択肢がある。
地方の老舗企業となると大 半の経営者が「雇用維持」を選ぶ。
ところがM 社長の考えは「委託先との調整次第」であった。
これは我々としては意外であった。
老舗の三代 目ながらM社長は合理的かつドライな考え方を 持っていたのである。
 続いて外注化によるコストメリットの算出で ある。
ただし、これには現状のトータル物流コ ストの算出と、現場のパートスタッフのスキル (コストシミュレーションには現れない習熟性と いう財産)のチェックが不可欠で、一定の工数 が掛かる。
 「?センター移転先の選定」については、ま ず大前提としてセンターの自社所有は得策では ないことを伝えた。
納品先の変化によって最適 な物流拠点の立地は変化する。
そのため物流拠 点として利用する以外に使い道がないような土 地・建物を自前で所有することは避けるべきだ と説明した。
M社長はこれに納得した様子であ った。
 そして筆者の経験から、本社や営業所に近過 ぎる場所にセンターを置くのは避けるようにア ドバイスした。
営業マンを甘やかすことになっ てしまうからである。
安易な追加注文や、発 注ミス、取り置きなどを招く。
その結果として、 物流コストがいたずらに増えるだけでなく、営 業力そのものが低下してしまう。
 逆に遠過ぎると今度は管理に支障を来す。
本 社の物流管理スタッフやシステム部隊の活動を 阻害してしまう。
そのため地方であれば本社か ら車で三〇〜四〇分程度の距離、関東・関西な どの都市部であれば約六〇分の距離が目安にな ると我々はアドバイスしている。
コスト重視で自社運営を選択  「?センター移転後の旧物件の活用法」は、こ の手の案件では常に直面する問題である。
売却 する以外には、委託先企業(物流会社)に借り てもらう、自社もしくは関連会社や仕入先など の集約拠点として活用する、機会ロスは出るが そのままにしておく等の対策が取られる。
 E社の場合、老朽化が進んでいるために建物 は取り壊し、一部を本社用の駐車場として利用 するほかは、有効な活用法が出てくるまで、コ インパーキングとして一時利用するという案が 挙がった。
ほぼ市内に位置し、交通量も多い場 所であるため現実的であった。
 「?センター運営における業務品質の向上」は E社にとってハードルの高いテーマであった。
物 流センターは社員六人、パート延べ一一五人と いう陣容で運営されていた。
パート比率が高く、 かつ時給単価も割安であるため、コスト効率に 大きな問題は見られなかった。
ただし、作業品 質に関しては、それを管理し、向上させる体制 が全く整っていなかった。
 主要な得意先からは納品率(納品総行数/発 注総行数)九七%以上というサービスレベルを 最低ラインとして要求されていた。
しかし、E 社の実績は年間平均で九五・四%。
九四%を割 込んでいる月さえあった。
現場をざっと見た限 りでも、作業ミスを誘因する以下のような様々 な問題点が目についた。
●全在庫の三割強にも上る滞留在庫 ●循環棚卸しの精度低下による在庫差異の 増大 ●メーカー欠品に対する改善要求への未着 手 ●棚番地およびロケーションの不備による 入庫間違い ●ハンディターミナルによるスキャン作業が 部分的にしか導入されていない。
そのた め?思い込みピッキング?や?あるだろう 検品?が多発している  外部の物流会社に運営を委託すれば、すぐに 作業品質が向上するのは明らかだった。
例えH C関連のセンター運営に実績のない物流会社で あっても、当たり前のことを当たり前にやれる JUNE 2013  68 会社であれば、現状の自社運営よりずっとまし だろう。
ただし、外部委託によってコストは上 がる可能性が高かった。
 実際、M社長は我々NLFにコンサルティン グを依頼する以前に、近隣の物流会社二社か ら外部委託の見積りを取っていたが、その費用 は現状のコストをはるかに上回っていたという。
しかも、二社の見積りはいずれも改善活動によ る人員削減を前提としていたため、見積り通り の費用で運営できるという保証もなかった。
 E社は卸として安定した経営を続けてきたが、 その営業利益率は三%にも満たない。
コストア ップは是が非でも回避しなければならないとこ ろだった。
 結局、E社はセンター移転後も自社運営を継 続し、作業品質の改善にも先に挙げた課題を一 つひとつ潰していくかたちで我々NLFととも に自力で取り組むことになった。
従って移転先 となる拠点は倉庫会社もしくは物流会社から借 庫し、配送業務の一部を委託する条件で物件を 探すことになった。
 この方針に基づき、我々NLFは詳細な改善 実施項目を抽出し、それに優先順位を付け、ス ケジューリングを行い、現場改善に着手した。
そ れと並行して移管先候補物件のリストアップを 進めたのである。
二代目が三代目に“待った”  それから約一カ月が過ぎようとしていた。
突 然、M社長からプロジェクトを中止するとの連 絡が入った。
取締役会で承認が下りなかったと いう。
実の父親である会長が、今回の取り組 みに反対した。
自分の目の黒いうちは本社に隣 接した現在の建物を残しておきたかったようで、 「物流拠点の移転はせずに何とかやり繰りして、 既存施設でできる方法を考えろ」とのことであ った。
 会長とM社長との確執は今回始まったことで はなかった。
それまでも互いに意見の相いれな いことがしばしばあり、その度に幹部以下社員 たちはどちらの考えに従って動くべきか、右往 左往させられていた。
 M社長は父親を継いでトップに就く以上、権 限も委譲されて大抵の事柄は自分が最終決定権 者になると考えていた。
ところが、いざ三代目 に就任してみると、むしろ専務時代よりも父親 とぶつかる場面が増えてしまった。
今回の件で もM社長はいくどか会長の説得を試みた。
しか し頑として聞き入れてもらえなかった。
むしろ 火に油を注ぐことになってしまった。
 こうしてプロジェクトは暗礁に乗り上げた。
そ の後、番頭役が会長をなだめるかたちで間に入 った。
そして会長が納得するところまではいか ないまでも、M社長の方針に口を挟まなくなる までに約三カ月掛かった。
 大切な時間を浪費してしまったが現在、プロ ジェクトは再スタートを切っている。
ロケーショ ン、レイアウトに関しては、新しく移管する建 物の大きさや形状に影響を受けるため移管後の テーマとして、現在は棚卸し方法の変更、少人 数で検品を徹底するための「たすき掛け検品」 の導入、入荷から出荷までの作業フローとタイ ムスケジュールの再設計、人員配置の見直しな ど、主に作業に軸足を置いた改善に取り組んで いる。
 現場のベテランパートたちは改善活動に必ず しも協力的ではない。
自分たちで試行錯誤して 作り上げた作業方法や作業手順に少なからず自 負を持っているため、それを変更しようとする ことには抵抗を示す。
 そのためリーダー格のパートに個人面談を行 い、改善活動の背景と理由、目的をしっかりと 伝え、我々NLFとE社の考えを理解させる説 明の場を頻繁に設けている。
プロジェクトはま だ序盤戦にすぎないが、今のところM社長の意 向の下、取り組みは順調に進んでいると言って いいだろう。
 E社のように、周囲の誰もが認める後継者が 存在するにもかかわらず、事業承継と権限委譲 がうまくいかないクライアント先は決して珍し くない。
上場企業も例外ではない。
?失われた 二〇年?とも言われるほど、低調な経済環境が 続いたため、安心して後継者にバトンタッチで きるタイミングがなかったこともあるのだろう が、主な原因はやはり先代である。
 気力、体力とも衰えていないため、いったん は任せたつもりでも、息子(社長)の経営が甘 く、頼りなく見えてしまう。
あるいは、体力的 に衰えが来ているにもかかわらず、実権を手放 そうとしない。
そこに親子の愛憎まで絡んでく るだけにやっかいだ。
残念ながら、我々もこの 問題については今のところ決定的なソリューシ ョンを見出せていない。

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