2013年7月号
特集

解説 苦情から始めるアスクル式SCM

JULY 2013  14 アマゾンに勝てる物流サービスを分析  消費者が何気なくツイッターにあげた「つぶや き(ツイート)」に、企業から正式な返事が突然届く。
オフィス用品通販大手のアスクルが昨年五月に開 始した顧客サポートサービスだ。
「アスクル(AS KUL)」をはじめ関連用語をキーワードとしてシ ステムに登録し、その単語を含んだツイートを自 動収集している。
 「頼んだ商品がまだ届かない」というツイートを 見つければ、サポートサービスの担当者が「申し 訳ありません。
すぐに配送会社に確認致します」 と返信して、物流部門に対応を指示する。
クレー ムとして表面化する以前の顧客の不満に応えると 同時に、消費者の生の声を蓄積している。
 通常の電話や問い合わせには東京、仙台、福岡 の三カ所に設置したコールセンターで対応している。
総ブース数は約四二〇席。
「コミュニケーター」と 呼ぶ担当者を約七〇〇人投入している。
受注方法 はファクスかインターネットだけなので、注文対 応は一切ない。
純粋に顧客の声を聴くことに役割 を特化させている。
 一日当たり平均五〇〇〇〜六〇〇〇件、繁忙 期には約一万件の問い合わせがある。
そのほとん どは商品やサービスに対する不満や苦情だ。
同社 の才田啓三ECR本部ECR戦略企画部長は「そ うしたネガティブ 情報にこそ価値 がある。
その収 集力に通販会社 の真の実力が表れ る」と言う。
 実際、同社はサービスレベルの設定からサプラ イチェーンの設計に至るまで、顧客の声に基づい て全てを判断している。
昨年十一月に大手ポータ ルサイトのヤフーと協力してスタートした個人向 け通販の「ロハコ(LOHACO)」では、B2 C市場で先行するアマゾンと互角以上に勝負でき る物流サービスの設定がテーマだった。
 図1はロハコとアマゾンの物流サービス比較だ。
送料無料はLOHACOが一九〇〇円以上の注文 を条件にしており、アマゾンに分がある。
ただし、 アマゾンは二〇一二年十一月に従来の全品無料を 部分的に廃止し、一部の低価格商品を「あわせ買 い商品」に指定して、二五〇〇円以上の注文を送 料無料の条件としている。
 一方で当日配送のサービスレベルはLOHAC 苦情から始めるアスクル式SCM  アスクルはあらゆる手段を駆使して顧客の声を収 集している。
その多くは不満やクレームだ。
そこか ら出発して物流サービスレベルを設定し、ロジステ ィクスを組み立て、オペレーションの改善を進めて いる。
ネガティブ情報の収集力に差別化の鍵がある と考えている。
           (大矢昌浩) 才田啓三ECR本部 ECR戦略企画部長 Amazon Amazon プライム 送料無料 対象商品 当日配送料金 (時間帯指定) 翌日配送料金 配送日時指定 その他料金 (時間帯指定) 500 円 350 円 無料 0 円 500 円 350 円 350 円 0 円 無料 一部可 一部可一部可 不可 無料 無料 無料 無料 無料 年会費 0円 3,900円 全品全品 ※1,900円/ 注文以上購入 の場合 ※ただし「あわせ買い」商品は 2,500円/注文以上 の購入が必要 1,900 円 未満の 購入 LOHACO 1,900 円 以上の 購入 LOHACO 図1 LOHACOとAmazon の物流サービス比較 アスクル作成 15  JULY 2013 特集 という消費者の声にも対応した。
今年七月末に稼 働予定の「埼玉物流センター(仮称)」と「大阪 DCM」にフランス製の自動梱包機「I─Pack」 を導入した。
商品の寸法を自動計測して最適な高 さの段ボール箱をフルオートで組み立て梱包する。
荷姿が小さくなる上、緩衝材を大幅に削減できる。
ミシン目を切り取って開封するタイプなのでガム テープも使わない。
 自動化によって梱包品質のバラツキがなくなる。
一〇〜一五%の輸送積載率改善も期待できる。
投 資額は非公開だが梱包作業の省人化効果だけでも 数年で回収できるという。
先行導入した施設の運 用を確認した上で、ほかの拠点にも順次展開して いく計画だ。
クラウド化で情報と物流を分離  社名の通り同社はその創業当初から物流サービ スを最大の売りにしてきた。
顧客情報の収集と活 用がその運用を支えてきた。
 そのため二〇〇一年に東京都江東区辰巳に初め て社屋を建設した際には、本社機能を物流センタ ー内に置き、広大なオフィスフロアの中心に同心 円状にコールセンターを配置した。
顧客からの苦 情や問い合わせにインカムで対応しているコミュ ニケーターの声が、オフィス全体に波紋のように 広がっていく。
そこにいる社員の誰もが顧客の存 在を肌で感じることになる。
 本社と物流センターを物理的に結び付けること は、サービスレベルにも決定的な影響を与えた。
モノの動きが嫌でも目に入る。
センター運営にト ラブルが生じれば、オフィス総出で商品を仕分ける。
経営と現場との距離は、そのまま顧客との距離を Oのほうが上回っているとアスクルは自負してい る。
アマゾンの当日配送は年会費三九〇〇円の「A mazonプライム」への加入が配送無料の条件 で時間指定もできない。
それに対してLOHAC Oは一九〇〇円以上の注文は配送料が全て無料で、 首都圏と近畿圏では時間指定もできる。
 才田部長は「LOHACOの注文はほとんどが 一回一九〇〇円以上。
そのうち過半数が時間指定 を利用している。
そして夕方に時間指定のピーク が来る。
全て事前の想定通りだ」と手応えを感じ ている。
これまでに蓄積した問い合わせ情報の分 析から、平日の夕方に届けてほしいというニーズ が強いことをサービスの開始前からつかんでいた。
それに合わせて物流サービスメニューを設計する ことで差別化を図った。
 「ネット通販は必要以上に大きな箱に入れてくる」 表していた。
 それからちょうど一〇年後の二〇一一年、同社 は現在の東京・豊洲に改めて本社を移した。
“お 客様の声が聴こえるオフィス”をコンセプトに「live market center」と名付けた新オフィスを設計した。
旧オフィスと同様に一五〇〇坪以上ある巨大フロ アの中心にコールセンターを置いた。
 ただし、今回は物流センターとは分離した。
「情 報システムのクラウド化によって、それが可能に なった」と才田部長は説明する。
電話、ファクス、 メール、SNSなどさまざまなメディアを通して 寄せられた顧客情報を同一システムに集約した。
「シ ンクロハート」と呼ぶ社内ポータルを通じて個別 のクレーム対応状況がいつでもどこに居てもリア ルタイムで確認できる。
 問い合わせ情報は分野別・機能別に検索できる。
そのうち群を抜いて件数が多いのが、「倉庫」、「物 流」、「配送」分野だ。
その詳細情報の画面に進む と、同時に注文した商品がバラバラに届く「小口 割れ」、「梱包がつぶれていた」、「時間指定通りに 来なかった」といった具体的なクレーム内容と対 応の進捗が表示される。
 クレームのトレンドを週次や月次で追っていく ことで物流の課題は自ずと見えてくる。
梱包の問 題が多く発生している商品カテゴリーは、その梱 包方法を見直す。
態度やマナーに対するクレーム が多いドライバーがいればその協力会社に指示を 出し対策を促す。
それでも改善の進まない協力会 社は担当エリアを減らし、その分を成績の良い別 の協力会社に回す。
社内ポータルをツールとして、 苦情から始まる物流管理のPDCAサイクルが構 築・運営されている。
東京・豊洲の本社オフィス。
広大なフロアの中心にコールセンター を置いている

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