2013年7月号
特集

第3部 現場で学んだ国際物流の事故対応 佐藤達朗 内外トランスライン 常勤監査役

JULY 2013  24 クレーム対応は日常業務  筆者はフォワーダーの内外トランスラインで同社 初のクレーム専任担当として、二〇〇一年九月か ら〇七年まで約六年間、国際海上輸送のクレーム 対応チームリーダーを経験した。
大きなトラブル が起きた時に顧客との窓口である営業担当者や輸 送管理部などと連携し、事実関係の確認や顧客へ の状況説明などに当たることがその役割であった。
 輸出入の貿易取引におけるクレームとは、実質 的には損害賠償請求を意味する。
輸送中に貨物の 損傷や遅延などで損害が生じた場合、運送人であ る船会社やフォワーダーに責任があれば、荷主が 直接運送人に損害賠償を請求することもある。
 一方、運送人が運送約款に基づき免責される場 合には、荷主は保険会社に保険金の支払いを求め る。
さらには、その保険会社が運送人に「代位求償」 を行う場合もある(図)。
この一連の枠組みの下で、 クレーム専任担当チームは賠償請求の交渉にも携 わっている。
 内外トランスラインの場合、貨物の破損や汚損、 海水による濡れ、遅延といった理由でクレームに なるのは年間で平均三〇〇〜四〇〇件である。
読 者の方々はこの数字を多いと感じるかもしれないが、 同社は現在B/L(船荷証券)の発行件数ベース で年間一六万〜一七万件程度の貨物を扱っている。
全体に占めるクレームの割合は〇・二五〜〇・三% 程度ということになる。
これは信頼に値する水準 と言えるはずだ。
それだけクレームは頻繁に起きる。
 我々が手掛けている国際海上輸送は長距離、長 期間にわたる上、厳しい天候下での航海を余儀な くされることもある。
さらに、積地と揚地の双方 でさまざまな業者の協力を得て初めて成り立つ業 務のため、「事故ゼロ」が理想ではあるが残念な がら不可能と言わざるを得ない。
そのためフォワ ーダーはクレーム対応を日常業務の中に組み込む 必要がある。
 クレーム処理の実務は初動が肝心だ。
クレーム が届いたら、荷主から貨物の損害等、証拠となる 情報や資料をできるだけ多く収集する。
港でコン テナに積み込む業者が貨物の数量や形態などを記 した「バンニング・レポート」、出荷主からの「包 装明細書」、現地で第三者の鑑定人が実際に荷物 の損害状況をチェックした「損害鑑定書」等だ。
 海外の荷受人から輸送人ではなく、先に出荷主 へ事故の情報が伝わってしまえば「お前のところ に情報は入っていないのか」と怒られてしまうこ とになる。
収集した情報から原因を特定することで、 同様の事故の再発防止策を講じることも可能にな る。
例えば国内の倉庫で貨物をバンニングする作 業に問題があったと判明すれば、その業者にきち んとクレームを伝え、作業内容の改善を要請する。
梱包が不十分だった場合には荷主と協議して改善 策を考えることもできる。
 筆者は民間の損害保険会社に二五年以上在籍し た後、現在の内外トランスラインに招かれた。
損 保時代の経験と貿易実務や国内外の関連法令など の知見を買われてのことだった。
しかし、転職し た当初はクレーム専任チームとして何にどう取り 組むべきか大いに迷っていた。
 そんな時、当時の営業ラインの統括責任者が社 員に対して、「グラウンドには一円、二円がいく らでも落ちている。
それを拾い集めてくるのが営 業担当の仕事だ」と話すのを耳にした。
その言葉 現場で学んだ国際物流の事故対応 佐藤達朗 内外トランスライン 常勤監査役  輸送が長距離・長期間にわたる国際海上フォワーディ ングは「事故ゼロ」が不可能だ。
それだけに、クレーム 対応の巧拙がフォワーダーの重要な評価基準の一つとな る。
輸送中の事故で荷物に多大な損害が出た場合でも、 徹底した情報開示で荷主を丁寧にフォローすることで、 フォワーダーはトラブルをリピーター獲得の好機にできる。
25  JULY 2013 特集 十一月、シンガポールから欧州に向かっていた貨 物船がコロンボ沖で爆発、炎上した。
救出された 貨物は全体の三割程度にとどまる深刻な事態だっ た。
弊社が請け負った貨物もB/Lベースで一〇 数件あり、大きな損害を受けた。
 もう一つは、〇七年七月に伊豆大島沖合で発生 した衝突事故だ。
航行中のコンテナ船に別のバル クキャリアーが突っ込んだ。
コンテナ船の船尾部 分が大破、荷物の多くが押しつぶされた。
このコ ンテナ船は主に日本から香港や東南アジアに向か う貨物を輸送していて、弊社からもB/Lベース で一五〇件程度の貨物を積み込んでいた。
 こうした大事故の際の荷主の最大のニーズは「自 社が輸送を委託した貨物に損害はあるのか」「現 在の状態はどうか」 「今後の輸送がどう なるのか」「目的地 にいつ到着するの か」といった情報だ。
 J I T 物流は今 や国際海上輸送も 例外ではない。
ト ラブルが起きて荷 物がタイムリミット に間に合わないと いうことになれば、 代替品の調達を依 頼するなど、荷主 は次の手を考えなけ ればならない。
我々 は荷物に関する正 確な情報を開示し、 から、顧客の不満を解消するよう努めるのと同時 に、クレームに絡むコストを一円、二円でも減らし、 利益の外部流出を食い止めることが自分の役目だ と認識した。
 保険会社や荷主から損害賠償請求があった場合、 主張すべき点は主張し、免責を認めてもらう。
事 故原因を特定できれば当事者から損害賠償金を回 収し、クレーム経費の削減効果が期待できるかも しれない。
日本と欧米では対応に違い  日本のフォワーダーと比べると欧米フォワーダー は直接的なクレームコスト、すなわち損害賠償金 の圧縮を重視する傾向がある。
実際、賠償請求さ れる保険会社や荷主との交渉は非常にシビアで、 トラブルが発生した際の荷主サイドへの情報開示 にも消極的だ。
 荷主側でもフォワーダーのサービスは「こんな ものだろう」と考えている節がある。
欧米のフォ ワーディング事業の歴史は日本とは比較にならな いくらい長い。
そのため合理主義に根差したドラ イなクレーム処理の流儀が根付いているのだろう。
 しかし、日本は違う。
荷主がまさに「かゆいと ころに手が届く」きめ細かなサービスを求める。
フォワーダー側でもマイナスをプラスに転換して顧 客満足の拡充を図ろうとする意識が強い。
料金が 安いというだけでクレーム対応が不十分な業者を 選択する荷主はまれだ。
丁寧なクレーム対応によ って顧客の信頼を勝ち取り、リピーターを増やす ことができる。
 クレーム対応チームのリーダーを務めていた際、 特に印象に残る事故が二件あった。
一つは〇二年 荷主の不安解消に努める義務がある。
 前述の二つの事故でも、我々は把握した情報を 適時、適確に荷主へ提供することを心掛けた。
窓 口の営業担当者を通じ、事故が起きた船が現在ど のような状態なのか、無事だった荷物は代わりの 船で目的地に運ぶことが可能か、スケジュールは 当初予定よりどの程度遅れそうか、といった事柄 を逐次発表し、損害が見込まれる荷主には早い段 階で貨物保険会社への保険金請求を勧めるなどし た。
海外の受荷主には代理店を通じて連絡した。
 いずれの事故も収束までには結局三カ月程度を 要した。
しかし、荷主から対応について大きな不 満の声は寄せられず、顧客離れを招くことなく済 んだ。
事故によるマイナスイメージを、そのまま で終わらせることはなかったと自負している。
 クレーム対応の巧拙が、その会社の業績にどれ だけ影響しているのか具体的に数値で評価するの は難しい。
しかし、経営の神様と呼ばれる故松下 幸之助氏は「欠陥は宝。
一つ一つ解決すれば全部 会社の財産に変わる」との認識で経営に当たって いた。
この言葉は国際海上貨物のクレーム対応に も通用すると筆者は信じている。
さとう・たつろう  1949年生まれ。
74年日本火災海上 保険(現日本興亜損害保険)入社、貿易 保険や輸出入保険のクレーム対処実務な どを担当。
2001年内外トランスライン に移り、07年までクレーム対応チームリー ダー。
執行役員システム部長などを経て、 11年3月常勤監査役(現職)。
著書に『国 際物流のクレーム実務—NVOCCはいか に対処するか—』(成山堂書店)。
事故発生時の一般的なクレームの流れ 荷主 運送人 保険会社 (船会社、フォワーダー) ?クレーム?保険金請求 ?情報提供等 ?賠償 ?代位求償(賠償請求) ?保険金支払い ?、?がないなどこの流れ通りにならない場合もある

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから