2013年7月号
特集

第5部 何が物流会社の明暗を分けるのか 日本ロジファクトリー 青木正一 代表

JULY 2013  40 顧客の期待を超える  ドイツの大手スーパーマーケット、アルディ(A ldi)の創業者カール・アルブレヒトは、その 著書『逆さまのピラミッド』(日本能率協会)の中で、 顧客第一主義における組織の在り方を図1のよう に示した。
これはそのまま物流業にも当てはまる。
身近な事例で見ていこう。
 A社は関東に基盤を置く、年商約一〇〇億の中 堅倉庫会社である。
自社で十数カ所の汎用拠点を 所有・運営し、小売りと外食チェーンを除く、あ らゆる業種の荷主に対応している。
 同社の主要拠点の一つ、Tセンターで出荷漏れ のミスが発生した。
すぐに気付いて発荷主のM社 に報告したが、大いに憤慨し、A社に早急な対応 を求めた。
納品予定時間の明日の午後一番に何と しても間に合わせろと言う。
 それまでA社とM社は非常に良好な関係にあっ た。
A社にとってM社は取引額としては中位の荷 主にすぎなかった。
それでもA社は、M社の新体 制の立ち上げから安定軌道化まで、多大な人員を 投入してフルサポートを行った。
その貢献にM社 は感謝していた。
 しかし、今回の出荷漏れはM社にとって看過で きない事態であった。
納品の得意先はM社にとっ て最重要顧客であり、信用失墜はどうしても避け なければならなかった。
 このクレームはすぐさまA社のトップにまで伝 わった。
創業者一族の三代目社長である。
社長就 任以来、顧客第一主義を経営理念に掲げ、それを 実行してきた。
今回のクレーム対応でも三代目は 自ら陣頭指揮を取り、すぐに行動に出た。
 しかし、即座に緊急輸送に対応できる傭車、路 線会社は見つからず、間に合うか分からないと渋 る軽貨物業者に頼み込んで出荷漏れの商品を届け るしか方法がなかった。
その手配を指示した後、 三代目はM社の本社に出向き、物流責任者、さら には以前から懇意にしていたM社の社長に対し、 深々と頭を下げて謝罪した。
何が物流会社の明暗を分けるのか  物流業はサービス業である。
我々はサービスを売ってい るということを組織の誰もが理解している会社と、単に モノを運べばいいと考えている会社では、小さなクレー ム一つの扱い方も大きく違ってくる。
どちらを顧客が選 ぶのかは明らかだ。
日本ロジファクトリー 青木正一 代表 図1 顧客満足経営のための意識転換 今まで ●企業(モノ)第一主義 ●社員は部品? ●商品は売って  しまえばおしまい CI リストラ リエンジニアリング トップの 権威 いかに売るか (モノ) 社員 PUSH 顧客(クレーム埋没) 出典:『逆さまのピラミッド』カール・アルブレヒト(日本能率協会) これから ●商品は  買ってもらってから  スタートする  (顧客相談窓口) ●お客様(サービス)  第一主義 ●社員は企業サービス提供  の代表者 トップの権威 抑圧 (平等) いつ買ってもらえるか (サービス) 社員(情報収集) INTER ACTION 顧客(クレームの開示) あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産業大学経済学部卒 業。
大手運送業者のセールスドライバーを経 て、89年に船井総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチーフを務める。
96年、 独立。
日本ロジファクトリーを設立し代表に 就任。
現在に至る。
主な著書に『経営のテコ 入れは物流改善から』(明日香出版社)、『物 流のしくみ』(同文館出版)などがある。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp PROFILE 41  JULY 2013 特集  M社を後にした三代目は、その足で納品先であ るM社の最重要得意先に向かった。
その道すがら 軽トラの配送状況を電話で頻繁に確認しつつ車を 走らせた。
緊急輸送の軽トラックとほぼ同時に納 品先に到着した。
 結局、納品には間に合った。
しかし、そのまま 黙って引き返すのではなく、何かできることはな いかと三代目は考えた。
そして納品先に事情を話 し、幸い被害は出なかったものの今後このような ことで心配を掛けることのないよう最善の注意を 払う旨の説明を行った。
 後日、今回の出荷漏れに対する改善書をM社に 提出した。
各納品先への到着履歴と報告をルーテ ィン業務の中に組み込んだことを報告した。
それ を見ていたM社の社長からは「A社さん、もうい いよ。
そこまでやらなくても」と好意的なコメン トをもらうことができた。
 それでも三代目は満足しなかった。
その後も何 度もM社の本社に自ら足を運び、物流面、自社運 営面での課題と要望を念入りにヒアリングして、 その都度、提案書や改善書を提出し続けたのであ った。
 この一件をきっかけに、M社はA社に委託する 物流業務の割合を増やしていった。
その結果、A 社にとってM社は売上ランクの上位に入る上得意 先へと成長したのである。
 A社のクレーム対応は決して洗練されたものと は言えないだろう。
特別なテクニックを駆使した わけでも、効果的なマニュアルを整備していたわ けでもなかった。
しかし経営トップが誠意を持って、 これでもかというほど徹底して行動した。
それが 結果としてクレームをビジネスチャンスに変えたの である。
 筆者のこれまでの経験を振り返っても、深刻な クレームはその多くが良好な関係を構築できてい る取引先で発注することが多い。
自社のファンと なってくれている顧客である。
ファンでない顧客 の仕事で発生したトラブルはクレームにもならない。
そのまま黙って契約を切られるだけである。
 ファンは自社に対する期待が大きいだけに、そ の期待を満足させることができなかった時の憤り や落胆も大きくなる。
それを覆すには、直球で真 っ向勝負が一番だと筆者は考えている。
時にはコ ストなど度外視して、相手の期待を超える対応を 見せることが、長い目で見れば結局はプラスになる。
「顧客第一主義」の損得勘定  A社のように全てのクレームに社長が先頭に立 って対応するというのは現実的ではないだろう。
しかし、現場レベルでクレームに対応する時も基 本は同じである。
顧客の期待を超えることで、ロ イヤルティの高いファンを作ることができる。
 僭越ながら筆者のドライバー時代の経験を一つ ご紹介しよう。
筆者は学校を卒業してしばらくの 間、大手宅配会社でセールスドライバーとして勤 務していた。
その勤務先であった関西地区のN営 業所で問題は起こった。
 段ボールケースの一つを着店であるN営業所で 破損させてしまった。
中身は東京ディズニーラン ド(以下、TDL)の関連グッズやお菓子などの 土産物で、その中のティーカップ皿が二枚とも割 れている。
 荷物は発送人が自宅へ送ったものだった。
すぐ に連絡を入れておわびを申し上げた。
荷主は二〇 代の女性で、そのティーカップはTDL内のショ ップでしか手に入らないものだという。
通常、宅 配便の商品破損は金銭弁済か代品での対応になる が、その女性は金銭弁済では納得せず、そうかと いっても代品が手に入るはずもなく、宅配便で送 ったこと自体をひどく後悔していた。
 たまたまN営業所はその翌週に慰安旅行を控え ていた。
一泊二日の温泉旅行であったが、営業所 の事務担当のS氏と筆者の二人は急遽予定を変更 して、男二人でTDLに行くことにした。
我々の 意を汲んで所長もそれを黙認してくれた。
図2 クレーム処理の仕組み作り 〈仕組み構築の優先順位〉  1.スピード  2.被害拡大防止  3.現場教育 【応対】 1.電話応対教育 2.対応マニュアル 3.報告書類 4.統一性作り 【対応】 1.QRシステム 2.原因分析技術 3.発生部署特定 4.信賞必罰体制 【処理】 1.処理ルール 2.金銭的対応 3.感情的対応 4.被害拡大防止 5.法的バックアップ 【フィードバック】 1.現場教育体制 2.商品企画 3.品質管理 4.再発防止 1.窓口は明確に、責任は全社 2.処理は1秒でも早く 3.不明な点は調べる体制 4.同じ間違いを2度   繰り返さない体制作り 5.次の仕事に活かす   フィードバック体制 クレーム発生! 〈クレーム処理の基本〉 JULY 2013  42  壊してしまったティーカップと同じものが手に 入るという保証はなかった。
TDL内にはたくさ んのショップがある。
そのうちどの店で売ってい たのかも分からず、手掛かりは割れてしまったテ ィーカップ皿の欠片だけだった。
 苦戦を強いられると予想していたが幸いにも入 場してから三軒目に入ったギフトショップで、そ れらしきティーカップを見つけた。
皿を引っくり 返し、皿底に印字された緑色の図柄と文字を突き 合わせてみると、ピタリと一致する。
念のため店 員にも確認してもらったところ、「同じものです」 という。
それを聞いて事務のS氏と筆者は、ほっ と胸をなで下ろした。
 我々二人はそのまま宿泊もせず、一路、N営業 所へとんぼ帰りした。
一刻も早く、ティーカップ を女性に渡したかったのである。
筆者は残念なが らその場に居合わせることができなかったが、S 氏によると、その女性はまさか我々が現地まで行 ってティーカップを調達してくるとは想像もして いなかったようで、商品を手渡すと大変に感激し ていたという。
 とても割に合わないクレーム対応ではあったが、 お金で償えない失敗を“足”で挽回できたことに、 我々は達成感を得ることができた。
今振り返ると、 そうした小さな自信を現場で積み上げていくことが、 後の成長に大きく役立ったことがよく分かる。
 その宅配会社もまた、従来から「顧客第一主義」 を社是に掲げていた。
言葉だけでなく「我々は給 料を誰からもらっているのか。
それは会社ではな くお客様である」という考え方が組織に根付いて いた。
そのため筆者たちの“やり過ぎ”を受け入 れる土壌があったのである。
急成長3PLのつまづき  逆の事例もある。
 B社は、特定業種に対象を絞った特化型3PL として年々業績を拡大していた。
当時の年商は約 一八〇億円で全国に約二〇カ所の事業所およびセ ンターを所有していた。
B社の急成長に競合他社 たちは戦々恐々であり、またB社に対する荷主の 期待は売り上げが伸びていくのに伴ってぐんぐん と高まっていた。
 そんなある日、B社の関東のある拠点でトラブ ルが発生した。
納品先Aと納品先Bの商品を間違 える、いわゆる「テレコ」が起きたのである。
納 品先から発荷主のN社にクレームが入り、N社か らB社に連絡が回った。
 それ以前から同拠点ではテレコ納品こそ、それ ほど多くはなかったものの、商品の間違いや数量 間違いなどの誤納品、商品破損をしばしば起こし ていた。
その度にN社から改善要請を受けていた。
しかし、B社の対応は一時的かつ表面的であり、 ミスを発生させた原因の究明や抜本対策はおろそ かになっていた。
その結果、ミスやクレームが一 向に減らなかった。
 B社のサービス品質がなかなか改善されないこ とに業を煮やしたN社は、現場レベルではなく会 社同士の問題として上層部と話し合いを持ちたい とB社に申し入れた。
そしてB社の担当役員がN 社の本社に呼び出されることになった。
 その担当役員は話し合いの前に該当拠点の所長 からレクチャーを受け、N社向けの仕事で発生し たミスやクレームの内容とその対応などを確認し、 準備は済ませていた。
ところが、本社を訪問して あいさつもそこそこに、大きく出鼻をくじかれて しまった。
 「昨日の誤納品はなぜ、あのようなことになっ たのですか」とN社から説明を求められた。
担当 役員の耳には入っていない話であった。
この日に 担当役員がN社を訪問することはB社の所長レベ ルは承知していた。
ところが、その所長レベルに ミスの報告が上がっていなかったのである。
 ご想像の通り、担当役員の訪問は火に油を注ぐ 結果となってしまった。
担当役員はただ平謝りす 図3 クレームマネジメントのポイント (1)基本サービスを充実し徹底する クレームの九〇%は本来行われるべき当たり前の作業やサービスが なされていなかったり、担当者のうっかりミスによって起こっている (職場が荒れている傾向) ↓モラル面から見直し、朝礼・ハウスルールの徹底 (2)重点管理すべきポイントを絞り込む クレームは件数別にQSC(Quality、Service、Cleanl iness)などの部門別に分類し、分析すると問題点が見えてくる Quality(基本機能) Service(補完機能) Cleanliness(情緒的機能) (3)人事考課と個別トレーニングを強化する クレームは特定の人間が起こす傾向がある 各スタッフ個々人の得意、苦手などの現状把握が必要(人事考課) ↓個人別にテーマを設定し、教育、トレーニングを施す 新人は一週間ごとにチェック ベテランでも一カ月に一回はチェックが必要 ※命令、指示ではなく、カウンセリングをして一緒に考え気付か せる動きが必要 (4)分業体制でクレームを事前に予防する 新規受注後の導入時や頻繁な人事異動、モラルの著しく低い職 場を立て直す時は、分業体制で対応し、当面のクレームを予防 する策が必要 管理者が安心して公休を取れる体制づくり ?スタッフの業務の棚卸(できることできないこと) ?それぞれの得意部署に配置し、二〜三名の分業体制を敷く ?時間帯責任者の育成 ?現場の雰囲気、状況の定期的なチェック ※業務開始後六カ月間の苦情、不満点への対応はすべて管理者 を通して行う (5)クレーム発生時の処理をルール化する(図4) 特集 るしかなかった。
その日の帰り際には、「来年の 契約更新はないものと思っておいて下さい」とい う厳しいコメントが投げ付けられた。
 このトラブルはB社が抱える問題点を象徴した 出来事であった。
現場⇔所長、所長⇔担当役員、 それぞれの段階で、いわゆる「報・連・相(報告・ 連絡・相談)」が全く機能していなかった。
事業 の急成長に組織体制の整備が追い付いていなかっ たのである。
クレーム管理の五か条  物流業はサービス業であると同時に、通信や電 気、水道などのインフラ産業と同様に「できて当 たり前」、「対応して当たり前」とされる商売であ る。
確実な納品、追加注文の対応、物量増への対 応など、物流会社が必死の思いで対処していても、 それにはお構いなく、発荷主や着荷主は当然のこ ととして受けとめている。
 そんな「当たり前」がなされなかった時には、 また当たり前のようにクレームが発生する。
従っ て物流クレームはゼロにはならない。
クレームは 常に発生するものと見なして、それに対応する仕 組みを整えておく必要がある。
 図4は基本的なクレーム対応マニュアルである。
この手のツールは二〇〇〇年の雪印集団食中毒事 件をきっかけに各社が急ぎ整備に乗り出したもの と筆者は記憶している。
それ以前から体系的にノ ウハウを整理していた企業など例外的で、クレー ムに対しては属人的な対応を取っているところが ほとんどであった。
 クレームの多くは些細なこと からスタートする。
最前線の現 場スタッフのちょっとした判断 ミスが後々、契約の打ち切りや 思いも寄らぬ悪評を世間に振り まく元になってしまう。
クレー ムの発生による被害、損害をい たずらに大きくさせないためには、 その初動について対応方法をき っちり固めておくべきである。
 しかし、それはクレームマネ ジメントの入口にすぎない。
立 派なマニュアルを備えても、全 ての情報が上に報告されている 現場など筆者の知る限り皆無で ある。
上司から叱られたり、自 分の評価が下がってしまうこと を恐れ、当事者同士で完結させているクレームが どんな現場にも必ずある。
それを前提にクレーム マネジメントに当たることが不可欠である。
 クレーム管理に当たるマネジャーは以下の五か 条を心に刻んでほしい。
?常に聞く耳を持つ  管理者が口にしてはいけない台詞がある。
「そ んな話は、どんな会社でもある」「初めての仕事 なのにできるわけない」「そんなことを言う客の 方が悪い」などである。
それを聞いた現場のスタ ッフたちは、次回以降その管理者にクレーム対応 を相談したり、頼もうとはしなくなってしまう。
?小さなクレームを大事にする  些細なクレームが取り返しの付かないほど大き な問題になってしまうのは、おしなべて管理者の 受け止め方にあると心得る。
?クレーム客はファンである  クレームは期待の裏返し。
いつもはきちんとで きていたのに‥‥というファンの残念な気持ちが 言葉になったものがクレームだと理解する。
?クレームは増殖する  顕在化したクレーム一つにつき、その二〇倍も の潜在的クレームが発生していると理解する。
し かも、クレームは増殖する。
米国の調査によると、 サービスに対する不満を感じた人は周囲の一七人 にそれを言いふらすという。
?本質的な解決策は行動しかない  間違いに対して誠意を持って謝ることは大事だ が、それだけで問題は解決しない。
金銭的な保証 も妥協の産物にすぎない。
本質的な解決策とは、 クレームの原因を究明し、それを解決するという 行動を通し、良い仕事をすることだ。
43  JULY 2013 図4 クレーム処理の基本的対応マニュアル 苦情発生 お客様の苦情の内容をよく聞く (5W1H) 自分のミス、自社のミスなら すぐに謝る 自分で判断できない場合 お客様に責任者を呼ぶと告げる 責任者にすぐ報告 責任者が苦情内容を確認 責任者が判断し対応 内容により自分も臨席し 必要なら謝る 内容により、解決後もう一度 責任者とともに謝る お客様のおしかりの感情が おさまらない場合 三変手法を判断 対応する人を変える 対応する場所を変える 対応する時を変える 責任者にすぐ報告 責任者より改めて謝る 自分もそばで謝る

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