2013年7月号
ケース

米カーギル 欧米SCM会議㉘ 納品先を単純取引先とパートナーに区分その上でパートナーを3分類し関係性構築

JULY 2013  54 「パートナーシップ」を定義  カーギルは、ミネソタ州ミネアポリスに本 社を置く大手穀物商社です。
非上場企業なが ら、二〇一二年五月期の決算では一三三九 億ドル(十三兆三九〇〇億円、一ドル=一〇 〇円換算)の売上高と十一億七〇〇〇万ドル の純利益を上げています。
 現在当社は食品、農産品、海上輸送、金 融商品、工業用品、エネルギーという核とな る六事業の下に七一のビジネス部門を置いて います。
世界六五カ国で一四万人の従業員が 働いています。
取引先の数も膨大です。
イン ドで数頭の乳牛を飼う零細農家から、米イリ ノイ州で五〇〇エーカー(約二平方キロメート ル)の農場を持つ大豆農家まで、幅広い生産 者から農産物を調達し、ユニリーバやコカ・ コーラ、ウォルマート、英テスコなどの国際 企業と大きな取引をしています。
 当社のサプライチェーン部門がこの一〇年 間の課題として取り組んできたのが、取引先 とのパートナーシップの構築です。
 「取引先は大切なパートナーだ」という言い 方は、ビジネスの世界では広く幅を利かせて いますが、当社が考えているパートナーシップ はそんな言葉だけの話ではありません。
 どの取引先をパートナーと考えるのか、ど ういったタイプのパートナーシップが望ましい のか、ということについて、常に社内でコン センサスを取り、取引先とのより良い関係を 構築することをこれまで模索してきました。
 ただし、今私が申し上げている「パートナ ーシップ」は現状では、北米が対象となって いて、海外ではまだそのやり方を採り入れて いません。
従って今回の講演内容は、北米に 限定した話であるとご理解ください。
 さて、サプライヤーや顧客とどのようなパ ートナーシップを結ぶべきかを考えるには、ま  サプライチェーンにおけるパートナーシップを 独自に定義して、その対象を取引先全体の2割以 下に絞り込んだ。
その上でパートナーを3段階に 区分して、各レベルに応じた取り組みを進めて いる。
同社のグローバル・サプライチェーンを担 当するグレッグ・グッド氏が解説する。
欧米SCM会議㉘ 米カーギル 納品先を単純取引先とパートナーに区分 その上でパートナーを3分類し関係性構築 企業名 カーギル 創業 1865 年 本社 ミネソタ州ミネアポリス 会長兼CEO グレッグ・ページ 売上高等 1339 億ドル(13 兆9900 億円) 利益 11 億7000 万ドル(1170 億円) 従業員数 14 万人 (注1) 2012 年の年次報告書より (注2) 1ドル=100 円で換算 会社概要 図1 サプライチェーンの略図 第3層の サプライヤー 第2層の サプライヤー 第1層の サプライヤー 第1層の 顧客 第2層の 顧客 エンドユーザー/ 消費者 最初のサプライヤー 第3層のサプライヤー 第3層の顧客 1 1 1 1 1 2 n 12 n n 2 3 n 1 n 1 n 2 3 n 1 1 1 2 23 n n n エンドユーザー/消費者 当社 管理されたリンク モニターされたリンク 管理されないリンク 他社のリンク 当社 当社のサプライチェーンのメンバー 他社 55  JULY 2013 ずサプライチェーンという観点に立つことが重 要です。
仮にあなたの企業のサプライチェー ンが、サプライヤーから生産者、顧客まで一 直線に結ばれた昔ながらの単純な形態である ならば、パートナーシップについて深く考え る必要はないのかもしれません。
 しかし、当社のサプライチェーンは、多く のサプライヤーや顧客を巻き込んだ複雑な形態 を取っています。
こうした場合には、どの取 引先と、どのようなパートナーシップを結ぶ のかということが難しい課題となってきます (図1)。
最初の供給者から最後の一般消費者 までの流れに、「顧客との関係管理」、「需要 管理」、「製造フロー管理」、「返品管理」とい った多くの項目についての管理が複雑に絡ん でくるからです。
 先ほど述べたように当社にとって「パート ナーシップ」という言葉は、特別な意味を持 っています。
当社はパートナーシップを「相 互の信頼と情報の開示、リスクと成果の共有 に基づいた特別仕立てのビジネスの結び付き であり、パートナーシップを結ばなかった場合 と比べ、双方がより良い業務実績を残せる関 係である」と定義しています。
 これだけ聞くと、難解な言葉遊びのように も思われるかもしれません。
しかし次に挙げ るいくつかの実例から、当社がパートナーシッ プをどのようにとらえて、ビジネスに活用し ているのかを理解してもらえると思います。
パートナーを三種類に選別  当社は全ての取引先とパートナーシップ を結ぼうとは考えていません。
取引先全体 の八〜九割までは、「通常の取引先(Arm's Length)」にとどまります。
残りの一〜二割の パートナーを、図2に示す通り、「タイプ?」 「タイプ?」「タイプ?」の三つのカテゴリーに 分けています。
取引の多寡よりも、取引の内 容やタイプを重視して、その選別を行ってい ます。
 例えば、当社では梱包用の段ボールを常に 大量に発注しており、その調達先とはパート ナーシップを結ぶ必要があると考えています。
しかし、段ボール箱の取引には戦略的な意味 合いは薄いため、その取引先は「タイプ?」 に分類されます。
 「タイプ1」のパートナーとの取引は双方の 担当者が一人ずつで、業務の統合にもそれほ ど深く踏み込みません。
一回の契約期間は一 年から二年くらいです。
これに対して「タイ プ?」では、双方に複数の担当者が付き、長 い時間を掛けて業務の統合を進めていきます。
さらに「タイプ?」のパートナーとは、継続的 な取引を前提としてさまざまな業務領域で協 業を行います。
当社としては「タイプ?」を 「ジョイント・ベンチャー」を立ち上げる一歩 前の段階ととらえています。
それだけ双方の コミットメントは大きくなり、それに比例し て成果も求められます。
 この「タイプ?」から「タイプ?」までの パートナーシップを説明すると、よく誤解さ れることがあります。
「タイプ?」よりも「タ イプ?」の方が良い関係なのではないか、さ らには「タイプ?」よりも「タイプ?」の方 が良いはずだという誤解です。
 必ずしもそうではありません。
全ての取引 がパートナーシップを組むのに適しているわけ ではないのです。
パートナーシップの構築と 維持には、時間も資金も人的資源も投入しな ければならないからです。
 パートナーシップはお互いのコミットメント が求められます。
それを避けたいという気持 ちが働くのなら、そうした関係を結ばないこ 図2 パートナーシップの3段階 通常の取引 タイプ? タイプ? タイプ? ジョイント・ ベンチャー 企業買収 による 垂直統合 一カ所の コンタクト・ ポイント 複数の コンタクト・ ポイント 制限のある 協業と業務 の統合 業務の統合 短期間の 契約 長期間の 契約 重要な業務 の協業 継続的な 契約 JULY 2013  56 とです。
また、双方の業績におけるメリット が数字としてはっきり現れなければパートナ ーシップは維持できません。
 つまり、取引先とパートナーシップとは、 取引の開始と同時に行うようなものではなく、 ある程度の年月にわたって取引をして、お互 いに市場における地歩を固めた後で、初めて 着手すべきことなのです。
取引先の評価方法  具体的に当社がどのようにパートナーシッ プを構築していったのかを説明致します。
 最初にお話しするのは食品メーカーA社と の取引です。
当社がA社を「パートナー?」 としたのは、五年前のことです。
それ以前か らA社とは長年にわたって取引がありました。
我々はA社を当社にとって最初のパートナー 企業になってもらいたいと考え、プロジェク トを立ち上げました。
 最初に行ったのは、双方の企業から役員や 現場の担当者などそれぞれ二〇名強が参加し て行った二日がかりの会議でした。
この席で 今後両社がパートナーとしてやっていけるの かどうかを徹底的に話し合いました。
 どのようにパートナーシップを築き、どのよ うにそれを維持するのか。
両社の誰が、何に 対して責任を負うのか。
どのように共同で新 商品を開発していくのか。
R&Dの費用分担 はどうするか。
 さらにはパートナーシップによる成果をどの ように計測し、それ を報告して、その成 果をどのような比率 で配分するのか。
ま たサプライチェーン 上で、どのように業 務を効率化していく のかなどを話し合い ました。
 いくつもの問題点 をクリアして、当初 の目標としては、五 年で双方の取引額を 二倍にすることを 落としどころとして 定めて、「パートナー?」がスタートしました。
その後、A社とのパートナーシップは順調に 進んでいます。
今では四半期ごとに、双方の 経営陣への報告会が開かれ、年に二回、役員 や現場担当者が集まって会議を行っています。
 しかし、五年で取引額を二倍にするという 当初の目標はまだ実現できていません。
また、 お互いの需要予測に関する情報を開示するの に、心理的な抵抗も残っています。
 最近の会議でのことですが、A社の調達部 門の上級副社長が、A社の今後一年間の需要 予測の数字を、会議の席でつい漏らしてしま うという事件がありました。
その席にいた彼 の同僚は、「そんなことを社外の人間の前で 口外するな」と叱責しました。
先の上級副社 長は、言ってしまったことは仕方ない、と開 き直るしかありませんでした。
しかし、この 事件は結果として、良いきっかけとなりまし た。
需要予測の数字を共有する下地を作って くれたのです。
 次にパートナーシップの「タイプ?」から 「タイプ?」までを選別する方法をお話ししま す。
パートナーシップを組む前に行う最初の 二日間の会議で、相手をお互いに評価してそ れを判断します。
 評価方法には二つの軸があります。
一つは 「事業面での得点(Drivers Point)」です。
双 方の企業がそれぞれ相手企業との取引によっ て、自社にどれだけのメリットがあるのかを 査定するのです。
 当社が持っている資産をどれほど有効に活 用できるのか、コスト面で採算は取れるのか、 サプライチェーンを含めた顧客サービスは同業 他社と比べて優位性を保てるのか、事業に安 定性と継続性はあるのかなどの各項目を評価 して、二四点満点で合計点を出します。
 もう一つの軸は、企業風土や企業文 化はマッチするかという側面からの得点 (Facilitators Point)です。
マネジメントに関 する哲学や手法はうまくかみ合うのか、双方 が持っている技術や企業体質は互恵的な関係 を築くのに役立つか、経営基盤やブランドイ メージは釣り合っているのかなどを、二五点 満点で評価します。
 この二つの軸の得点を図3のマトリックス 図3 パートナーを求めるマトリックス 業務面での得点 企業風土 などでの得点 8-11 点 通常の取引 タイプ? タイプ? タイプ? タイプ? タイプ? タイプ? タイプ? タイプ? 8-11 点 12-15 点 16-25 点 12-15 点16-24 点 57  JULY 2013 しまいます。
そうした判断から、B社をそれ まで通りの通常取引先に戻しました。
 八カ月という時間を費やすことにはなりま したが、このパートナーシップを解消したこ とで、当社はそこに投入するはずだった経営 資源をもっと大きな利益を期待できるセクシ ョンに振り分けることができました。
 A社とB社はいずれも当社にとっては販売 先ですが、調達先との関係にもパートナーシ ップを導入しています。
それまでの当社と米 国内農家との関係は、当社が得をすれば農家 が損をし、当社が損をすれば農家が得をする 「ゼロ―サム・ゲーム」のような敵対的な関係 と言えました。
 しかし、農家を調達先ではなく顧客として とらえ直し、共存共栄の関係を築くことに向 けて動き始めました。
ここ五〜六年のことで す。
一〇年前に私が米国の農家を訪ね「あな た方のビジネスがうまくいくようにお手伝い します」とでも言おうものなら、恐らく犬を けしかけられていたことでしょう。
それほど 双方の仲は険悪だったのです。
 しかし、農業製品を主力商品の一つとして 扱う当社にとって、主要な取引先であり、ま たサプライチェーンの最初の入口となる農家と 長期的なパートナーシップを結ぶことは、当 社の利益と農業製品の安定供給につながると 考えを改めたのです。
 当面の課題は、パートナーシップに関する業 務の優先順位が低くなり、業務が遅滞気味に なってしまう点を解消することです。
「パート ナー?」や「パートナー?」との取り組みに は複数の担当者を束ねるまとめ役が必要です。
それを現状では、専任者ではなく通常業務と の兼務で当たっているのですが、まとめ役と しての役割だけでフルタイムの仕事に相当す ると認識を改めて人員配置を修正する必要が あります。
また人事異動の際に新しい担当者 にパートナーシップ関連の業務を適切に引き継 ぐ体制も整えていかなければいけません。
そ して今後はこのパートナーシップの取り組みを、 北米以外にも広げていこうと考えています。
(フリージャーナリスト・横田増生) に当てはめて、どのレベルのパートナーシップ がふさわしいのかを決定します。
 その後は次の三つの段階を経てパートナー シップの構築を進めていきます。
まずは当社 単独で相手企業との取引を改めて査定しま す。
次のステップで両社共通の目標を作りま す。
最後のステップで実行のための準備を行 います(図4)。
パートナーシップ解消も経験  食品メーカーのB社とは、いったんパート ナーシップを結びながらも、その後に解消し、 通常の取引先に関係性を戻すという道を選び ました。
 事の始まりは、両社のトップが、これまで の両社の取引に物足りないものを感じていた ことでした。
B社はA社と同様、当社の長年 の取引先で、国際企業であると同時に、成長 志向が非常に強い企業でした。
 まずは例の二日間にわたる会議を開きまし た。
最初はパートナーシップを結ぶ方向で話 が進みました。
パートナーシップの大枠を決 め、当社がB社と国際的に取引するための新 しいシステムも作りました。
 しかし、このプロジェクトは八カ月で破綻 しました。
B社が当社に望んだのは、食品の 原材料を安い価格で納入することだけだった からです。
低価格だけを求められると、当社 の利幅は低くなり、それがある段階を超えれ ば当社にとって利益を生まない関係に陥って 図4 パートナーシップに至る3つのステップ 相手企業との取引査定共通の目標実行手段 ●お互いに相手企業との 取引内容を査定する ●両社がパートナーシッ プの目標を達成するた めに必須の条件を作り 上げるコンセンサスを 取り付ける ●目標は同じところに置 きながらも、それに至る 手段は必要に応じて変 える ●必要な手段を開発する ●マネジメントの構造を作 る ●行程表を決定する ●経営資源を分け当てる ●業務の測定手段を確 定する ●業務からの学習体験を 将来に活かせるような フィードバックの体制を 作る

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