ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年4号
値段
日本通運

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2004 54 株式市場では鉱工業生産指数や国内総生産 (GDP)といったマクロ指標の改善度合いと ともに、内需関連の指標の一つとして日本通 運の業績動向に関心が集まっている。
直近の 取扱数量が増加傾向にあるうえ、人件費、傭 車・下請費などの抑制効果やペリカン便の選 別受注などにみられる「シェア拡大から採算 重視への転換」で、二〇〇五年三月期には経 常利益の増加が見込まれているからだ。
三菱証券では同社の二〇〇五年三月期連結 業績を売上高一兆六八〇〇億円(二〇〇四年 三月期の日通自身の業績見込み比で一・三% 増)、経常利益五三〇億円(同一〇・四%増)、 当期利益三〇〇億円(同二十一・七%増)の 増収大幅増益と予想している。
日通の過去三年間の連結売上高は二〇〇二 年三月期が前年比三・〇%減、二〇〇三年三 月期が同一・八%減、二〇〇四年三月期が同 一・一%減(見通し)と伸び悩みが続いた。
し かし、二〇〇三年度を最終年度とする中期三 カ年経営計画では、ブロック地域総括制導入 による収益性改善や、グローバルロジスティ クス案件の獲得など一定の成果も見られた。
今 期から始まる新たな中期経営計画では増収に 向けた何らかのシナリオが必要だといえよう。
以下では足元の動向を踏まえながら、各事業 それぞれの増収シナリオについて検討してい くことにする。
シナジー効果に期待 日通単体での売り上げは「トラック」四四%、 「航空貨物」一五%、「付帯事業」一五%、「海 運」十一%、「鉄道」七%、「倉庫」五%、「重 量品・建設」三%(いずれも二〇〇四年三月 期中間決算での実績)という構成だ。
このう ち主力の「トラック」運送事業では、最近の 景気改善や事業者に対する環境規制強化が取 扱数量や単価にどのような影響を及ぼすかが 注目されている。
環境規制によってトラック 運送事業者の供給過剰状態は一時的に解消さ れる。
さらに景気改善による需要増加(取扱 数量の増加)で需給バランスの好転が加速す る。
結果として運賃が下げ止まる。
そんな期 待も大きい。
ただし、実際には特別積み合わせトラック の単価がペリカン便の選別受注などで多少改善しているものの、一般(貸し切り)トラッ クの単価の低迷が続いており、トラック事業 全体の単価は前年水準割れとなった。
昨年十 二月が前年同月比一・六%増、今年一月が同 四・二%増と取扱数量は前年水準を上回って 推移しているが、運賃はまだ下げ止まったと は言い難い状況にある。
荷主企業が生産拠点の海外シフトを進めて いる影響で、国内貨物輸送量は中期的に減少 していくことが予想される。
今後はトラック 運送事業そのもので収入を確保することがよ り困難になっていく。
そのため、トラック運 送事業単独ではなく各事業との連携、つまり 経営資源をフルに活用して総合力で収益を上 第1回 日 本 通 運 人気連載の一つ「物流企業の値段」が帰ってきました。
前回の連載 では野村證券金融研究所のアナリストの方々に執筆をお願いしてきま したが、今回からは複数の証券会社のアナリストの方々に持ち回りで 担当してもらうことになりました。
新連載の第一弾は業界最大手の「日 本通運」。
三菱証券の土谷康仁アナリストが解説します。
土谷康仁 三菱証券アナリスト 55 APRIL 2004 げていく体制を構築することが望ましい。
具体的には需要拡大が見込める輸出入ビジ ネス(航空貨物、海運)への取り組みやモー ダルシフトの動き(鉄道、内航海運など)へ の対応、3PL事業(付帯作業、倉庫事業) の拡充などによる各事業とのシナジー効果に 大いに期待したい。
マクロ的な統計数字を見 るかぎり、トラック輸送量の減少傾向は続く とされているが、他事業で副次的に発生する などトラック輸送の潜在的な需要を掘り起こ すことは不可能ではないと見ている。
3PL事業で強み活かせ 航空貨物事業は引き続き堅調な動きを示す だろう。
アジア向けの半導体電子部品や音響 映像機器などの取り扱いが大幅に増えており、 さらに中期的にはデジタル家電製品(薄型テ レビなど)の需要増も見込まれている。
アジ アの中でもとりわけ期待されているのは中国 でのビジネスの伸長だ。
現在、日通は中国(香港を含む)に二〇万 平方メートルを超える倉庫施設を構えている。
中国国内のトラック輸送免許(道路運輸免許) も保有する。
現地に進出した日系企業向けに 日本と遜色のない物流サービスを提供できる 体制を構築している。
中国発先進国向けの輸 出貨物のオペレーション、さらに着地である 日本での国内輸送サービスまでを一括して提 供できるという強みがある。
海運事業は海上利用運送費の上昇でやや苦 戦を強いられている。
しかし昨年からスター トした上海―福岡間の海上シャトル便、さら に海上シャトル便と国内航空便を組み合わせ た新サービスが発売以降、顧客企業から高い 支持を受けているなど明るい材料も少なくな い。
航空と同様、海運が伸長することは日本 国内の物流を活性化することにもつながる。
鉄道事業が好調を維持している背景には、政 府米輸送量の増加という一時的な要因のほか に、一部の荷主企業がトラック輸送から鉄道 輸送へとモーダルシフトを進めていることが ある。
同事業の収益性は航空や海運に比べる と低い。
しかし鉄道輸送に付随して発生する 作業の取り込み余地は大きいと見ている。
輸出入関連とともに今後の需要増が期待で きる事業は「物流受託ビジネス」である。
た だしこの分野にはライバル企業も目を向けて いる。
ヤマト運輸は「BIZ ―ロジ事業」、日 立物流は「システム物流事業」、ハマキョウレ ックスは「物流センター事業」、トランコムは 「ロジスティクス・マネジメント事業」という 名称で、新規顧客の開拓に力を注いでいる。
物流受託ビジネスの収益性は各社のマネジ メントノウハウに大きく左右される。
高度な ノウハウを蓄積している企業は高い成長率を 確保しており、株式市場での評価も高い。
日 通は他社のように同事業の業績を個別に開示 していないが、付帯作業や倉庫作業などが当 該事業の収入に相当すると見られる。
化粧品メーカーであるマンダムから受託し た案件は調達、輸出入、リサイクルなどを含 めた全面受託で画期的なケースと言える。
こ の案件では部分的な物流受託に比べて人材や 各事業部の既存設備を有効活用できるという メリットがある。
日通は物流受託ビジネスで やや出遅れた感があったが、こうした案件を 積み上げていくことで、増収増益を達成して もらいたいと期待している。
つちや やすひと 九七年三 月神戸大学大学院卒。
九八年 四月和光証券入社。
その後い ちよし証券を経て、二〇〇一 年三月国際証券(現三菱証券) 入社。
現在、リサーチ本部エ クイティリサーチ部のアナリ ストとして活躍中。
著者プロフィール 株価(円) 日本通運の過去10年間の株価推移 取引高

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