2013年8月号
特集

第1部 生産・調達・出荷を30分サイクルで同期──NECパーソナルコンピュータ

AUGUST 2013  18 国内の販売物流をレノボと統合  二〇一一年七月、NECとレノボのパソコン事 業が統合し、 “NEC レノボ・ジャパン グループ (NECレノボ)” が誕生した。
 N E Cレノボは両社の共同出資で設立した 「Lenovo NEC Holdings B.V.(登記上の本社はオラ ンダ)」(レノボ五一%、NEC四九%)と、その 傘下に一〇〇%子会社として配置した「レノボ・ ジャパン」および「NECパーソナルコンピュータ(N ECPC)」の三社で構成されている。
 統合により、NECレノボは国内のパソコン市 場で首位となる約二五%のシェアを握ることにな った。
NECはそれ以前から単独で国内首位をキ ープしていたが、その地位をより強固にした格好だ。
 さらに、グローバル市場でヒューレット・パッカ ードと激しく首位の座を争うレノボの部品購買力 を、サプライヤーとの価格交渉に活用。
調達コス トの大幅な削減を狙った。
統合からこれまでの約 二年で、既に大きな成果が出ているという。
 一方のレノボにもメリットはある。
中国で誕生し た同社は二〇〇四年にIBMのパソコン部門を買 収したことで先進国市場に営業エリアを一気に拡 大したが、日本市場でのシェアや知名度はまだ十 分ではない。
NECが持つ国内の家電量販店との パイプや供給ネッ トワークを共有す ることで、日本 市場におけるプ レゼンス向上を図 ることができる。
 これまでに部 品調達のほか、コールセンターの統合などが進め られてきたが、物流面でのシナジーを探る動きも 出始めた。
今年七月、両者は国内の販売物流を統 合した。
それまでNECは物流子会社のNECロ ジスティクスに、レノボは外資系の大手物流企業 にそれぞれ国内配送を委託していたが、これをN ECロジに一本化した。
 統合後のフローとしては、主に中国から海上輸 送で運ばれてきた製品をNECロジの東京・大井 の倉庫に集約し、そこから全国の物流拠点や量販 センターに輸送する。
既存のNEC製品にレノボ 製品の物量が加わることで積載率が向上。
国内輸 送のトラック便数を約一〇%削減できる見込みだ。
 NECロジへの業務委託を意志決定したのはレ ノボ側だった。
それまでレノボが物流を委託して いた外資系大手3PLにも、システム連携などの 面でアドバンテージがあった。
しかし、最終的に はこれを切り離し、統合相手の物流企業を起用す る決断を下した。
 NECロジが持つ国内の物流ネットワークに加 えて、これまで蓄積してきた家電量販向けの物 流ノウハウを評価したと見られる。
日本の家電量 生産・調達・出荷を30分サイクルで同期 ──NECパーソナルコンピュータ  かつての週次生産をデイリーへ、そして今では30分単位 で生産・調達・出荷を同期化し、パソコン版トヨタ生産方 式を構築した。
輸入部品は米沢事業場に隣接したインラン ドデポに保税状態で保管、納入指示が出た時点で外貨を内 貨に切り替え生産ラインに納品する保税JITを運用している。
RFIDとIT技術の活用がそれを可能にしている。
(石鍋 圭) 7 月16日、大井倉庫で出荷式を行った NEC のトラックにレノボPC を積み込む NECロジの鳥井恭取締役 執行役員常務 第1 部 19  AUGUST 2013 特集 調達物流 このベースカーゴを背景にほかのPCメーカーにア ピールすれば、PC物流のプラットフォーム化も現 実味を帯びてくる。
鳥井常務も「物流はパイ。
同 業他社に外販をかける用意はある」と意欲を見せる。
 ただし、物流子会社である以上、親会社の意志 は無視できない。
いくら物流が改善されても、荷 主であるNECレノボがSCM戦略や情報漏洩な どの観点から協力を見送る可能性もある。
それで も、NECロジは合理化につながる提案はグルー プ内外に向け積極的に行っていくつもりだ。
 今後は日本通運との経営統合も予定されている。
今年一〇月をめどに日通がNECロジの株式の四 九%を、来年一〇月をめどに五一%を段階的に取 得する。
日本最大の物流企業の子会社となること で、プラットフォーム化に向けた新たな可能性が 生まれることも十分考えられる。
トヨタ方式をベースに業務改善  販売物流が統合に向けて動き出した一方、調達 物流に関しては、まだその兆候はない。
それぞれ の体制をしばらくは維持していくとみられる。
 NECPCは二〇〇〇年前後からトヨタ生産方 式(TPS)をベースとする生産革新を推進して きた。
製造現場や部材ストア(ライン側の部品棚) の在庫、調達物流などの合理化を、サプライヤー とともに継続している。
並行して先端IT技術の 導入なども進 めた結果、こ れまでに生産 性、リードタ イム、在庫削 減の面で大き 販が物流に要求するサービスレベルは極めて高い。
単に納品するだけでなく、例えば店舗や量販物流 センターの状況に同期しながら納品する能力など、 多様なサービスが求められる。
 NECロジの鳥井恭取締役執行役員常務は「レ ノボ製品の受託はもちろん当社にとって大きなビ ジネスだが、それだけに責任も重い。
期待に応え られるよう全力を尽くす」と気を引き締めている。
 統合により、NECロジは国内最大のパソコン 物流の担い手としての地位を確固たるものにした。
な成果を挙げている。
 NECPCの須田修生産事業部(ものづくり改 革)グループマネージャーは「パソコンは季節変動 やデイリー変動が大きく、商品のライフサイクルも 三〜四カ月と短い。
部材の価格変動も激しい。
製 品のコモディティ化が進み、他社との差別化も難 しくなっている。
こうした環境を勝ち抜くために も、サプライチェーンの高度化は必須だった」と 説明する。
 その舞台となったのがNECPCの米沢事業場 (山形県)だ。
現在、月間約二〇万台のパソコン を生産している。
そのうち約八割は企業や学校、 官公庁などに販売するコマーシャルPCで、残り が家電量販に販売するコンシューマーPCだ。
 コマーシャルPCは受注生産を基本としている。
仕様があらかじめ決まっているコンシューマーP Cとは違い、採用する部材やスペックは顧客によ ってそれぞれ異なる。
受注モデル数は二万以上に 及ぶ。
受注量の変動が大きいため、より柔軟でス ピーディな調達・生産体制が求められる。
 TPSをベースとしているだけに、調達にも「か んばん」を使用している。
工場周辺のサプライヤ ーにかんばんを振り出し、必要な部材を必要なだ けJITで工場に納めてもらう。
もしくは、ミル クランでNECPCが集荷する。
 ただし、米沢事業場の近郊に全てのサプライヤ ーが集積しているわけではない。
むしろ工場周辺 に位置するサプライヤー数は一部に限られている。
特にCPUやメモリ、ハードディスクドライブ(H DD)といったパソコンのキー部品を生産するの はグローバルサプライヤーだ。
その工場の多くは中 国にある。
コモディティ化が進んだベースユニット 変動に対応する3つの調達方式 ODM 中国工場 キー部材サプライヤー (HDD、メモリ、ODD、他) (ベースユニット) (一般部材) 山形市 地方工場での 保税JIT 方式は Original Design Manufacturing Vender Managed Inventory 国際輸送 保税輸送 一括輸送 国際輸送 国内法人 経由 米沢 事業場 成田空港/東京湾 通関 国内初 保税JIT VMI 調達 かんばん調達 東京税関出張所 近郊サプライヤー NECパーソナルコンピュータ 1 2 3 RFIDかんばんシステム 30 分サイクル調達 片子倉庫 片子倉庫 NECパーソナルコンピュータ資料より作成 NECPCの須田修 生産事業部(ものづくり改 革)グループマネージャー AUGUST 2013  20 の生産も中国のODM工場に委託している。
 海外調達とJITを両立するために重要な役割 を果たしているのが、米沢事業場の近隣に位置す るインランドデポ(内陸型保税倉庫)、片子倉庫だ。
中国で生産されたベースユニットを国際輸送で持 ち込み、外貨貨物のまま保管することができる。
 生産サイドが納入指示(プルシグナル)を出し たタイミングで在庫を「外貨」から「内貨」に切 り替え、工場に納品する。
NECPCの須田グル ープマネージャーは「地方工場における保税JI Tとしては国内初の事例だ」と胸を張る。
 さらに片子倉庫はVMI機能も備えている。
メ モリやハードなどのキー部品をサプライヤー資産と して保管する。
生産ラインからのプルシグナルを きっかけにNECPCの資産に切り替え、米沢事 業場に供給している。
短サイクル化への挑戦  米沢事業場の生産・調達・出荷などは全て “三 〇分サイクル”を基本としている。
三〇分刻みで 生産を計画・実行し、それに伴う調達や出荷も同 様に三〇分サイクルで連動している。
須田グルー プマネージャーは「それぞれのサイクルを同期さ せることでサプライチェーン上のよどみを解消し、 無駄な在庫の発生を防いでいる」と説明する。
 具体的に見てみよう。
米沢事業場は一日八時間 の稼働だ。
これを三〇分ごとに一六分割して生産 を行っている。
一回の生産ごとに、必要となる部 品の種類や数量を記載したかんばんを振り出す。
部品を供給する片子倉庫もこれに連動する。
かん ばんの指示に従って部品をピッキングし、荷揃え する。
一日一六便体制で米沢事業場に納品する。
 一連のオペレーションはNECロジが担当して いる。
同社の鳥井常務は「効率良くピッキング作 業をしなければ出荷時間に間に合わず、生産ライ ンに迷惑を掛けてしまう。
そのため、よく出る部 品はピッキングしやすい場所に保管している。
同 じ部品でも商品改廃のたびに出荷頻度は変わるの で、保管場所を随時見直すなど庫内ロケーション の管理を徹底する必要がある」と言う。
 生産された製品はライン側で方面別に仕分ける。
そこから、調達便と同じように三〇分サイクルで 全国の拠点や納品先に出荷していく。
 三〇分サイクルは試行錯誤の上にたどり着いた 最適化のリズムだ。
以前は需給計画に一・五週、 生産に一週間を要していた。
二・五週先までスケ ジュールが固定されており、市場の変化に機敏に 対応することができなかった。
その結果、過剰在 庫や欠品を招いていた。
 生産革新のプロセスの中で、徐々に生産サイク ルを短縮してきた。
現在では、需給計画に三日、 生産はデイリー(日次)にまで短縮することに成 功している。
これにより、週末に発生した市場変 化をすぐにキャッチアップし、翌週の生産に反映 することが可能になった。
 さらにそのデイリー生産を、三〇分サイクルとい う細かなメッシュまで落とし込んだ。
一日の生産 の中でも、出荷を急ぐ製品とそうでない製品の生 産順序を入れ替えることができる体制が整っている。
 ただし、これ以上の短縮化は現在のところ検討 していない。
仮に一五分サイクルまで短縮すれば、 生産ラインや部材ストア、片子倉庫における段取 りの工数が今の二倍に増える。
全体の生産性はか えって悪化してしまう。
 一連の短サイクル化を実現するためには、IT の活用が欠かせなかった。
特に大きな役割を果た したのがRFIDだ。
生産ラインに始まり、部材 ストアやサプライヤー、物流倉庫へと、段階的に その導入範囲を拡げていった。
 最初は生産指示にRFIDを活用した。
従来は 紙の生産指示書にバーコードが印刷されていた。
生産指示内容を表示するには、それをハンディス キャナで読み込む必要があった。
生産指示書の数 変動対応リードタイムを2.5週から1 週に短縮 従来 需要計画1.5週 3日 週次生産/出荷 週次生産/出荷 2.5週後 Daily 翌週 需給計画改革 土 日 月 火 水 木 金 土 日 月 火 水 木 金 土 日 月 火 水 木 金 土 日 強化 VCM 導入 市場 変化 市場 変化 市場 変化 生産固定期間変更可能時期 即納体制強化 1.5週後 NECパーソナルコンピュータ資料より作成 21  AUGUST 2013 特集 調達物流 は膨大で、一日に一〇万回もの読み取り作業が発 生していた。
生産性に大きな影響を及ぼしていた。
 そこで、生産指示書の代わりにRFIDカード を導入し、それを読み込むアンテナを設置した。
RFIDカードをアンテナの近くに置くだけで、 生産指示内容がライン作業者の前に設置されたモ ニタに表示される。
膨大なバーコードの読み取り 作業を一切排除した。
その結果、生産性は導入前 に比べて三倍に上がり、同時に品質改善にもつな がった。
 かんばんにもRFIDを採用した。
部材ストア からサプライヤーにかんばんを振り出す際、紙ベ ースだとどうしてもタイムラグが生じる。
そこで、 かんばんの情報をデータで転送し、サプライヤー 側でRFIDかんばんを自動発行する仕組みを整 えた。
リアルタイムの情報伝達が可能になり、か んばんの流通枚数の管理からも解放された。
 もっとも、これだけなら従来のE─かんばんで も実現できる。
部材と一緒に納入されるRFID かんばんの場合は、工場側に設置されたRFID ゲートを通過するだけで自動一括検品ができるこ とが大きい。
従来のような目視検品が必要なくなる。
RFIDかんばんの導入によって生産や調達に掛 かるリードタイムが短縮された結果、工場在庫は 四分の一に削減された。
RFIDが改善を後押し  RFIDデータを活用することで、サプライヤ ーが仕立てているトラックの積載率を可視化する ことも容易になった。
七〇%程度の積載率を想定 していたが、実際はそれよりも低かったことが判明。
これを改善するため、NECPC主導によるミル クランを開始した。
この結果、調達物流のトラッ ク便数が三分の一に減った。
 須田グループマネージャーは「こうしたRFI Dやミルクランを導入するにはサプライヤーの理解 が不可欠だったが、彼らにとっても生産から出荷 までのリードタイムが短くなるなどのメリットがあ る。
工場単位で研究会を設立するなど日ごろから サプライヤーとの関係を重視してきたこともあり、 導入はスムーズに進んだ」と振り返る。
 米沢事業場の部材ストアでは、二年ほど前から デジタル・ピッキング・システム(DPS)を導 入している。
ピッキング指示書のバーコードを読 み込むと、対象となる部材が保管されている棚の ランプが光る。
ピッキング数量も表示される。
作 業に慣れていないピッカーでも、素早く正確に部 材をつかみ取ることができる。
 今年八月からは、このDPSにもRFIDを導 入することを検討している。
ピッキング指示書の バーコードを読み込むのではなく、RFIDが付 いたピッキングカートがゲートを通過しただけで、 ランプが点灯し、数量を表示する仕組みを整える。
 個々に導入してきた各RFID機能を統合し、 ERPシステムとシームレスにつないでいる。
デ ータをサプライチェーン上のイベントマネジメント などに活用しているほか、RFIDがゲートを通 過しただけでサプライヤーからの買掛情報をリア ルタイム処理できるなど、財務管理の効率化にま で一役買っているという。
 須田グループマネージャーは「当初から現在の ような青写真を描いていたわけではない。
試行錯 誤の中でヒントを得て、改善を繰り返してきた。
今後もTPSとITを組み合わせ、さらなる現場 の高度化を図る」と語る。
RFID かんばん かんばんにもRFIDを活用 NECパーソナルコンピュータ資料より作成 導入前導入後 サプライヤ・JIT倉庫NECPC米沢事業場 製造倉庫納入 受入 目視検査 部材ストア生産ライン 持ち帰り 回収 自動一括検品 情報転送自動読取 自動発行 在庫削減 リアルタイム 人手管理 ピッキング かんばんかんばん RFID かんばん かんばん RFID ゲートシステム 米沢事業場では月間20 万台のPC を生産 RFID を導入した生産ライン

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