2013年8月号
特集

第2部 クラウドを使って国際輸送を可視化──富士ゼロックス

AUGUST 2013  22 世界中のハブにVMI担当者を派遣  富士ゼロックスは、米ゼロックス・コーポレー ションおよびゼロックスヨーロッパと販売・サービ スエリアのすみ分けを行っている。
富士ゼロック スは日本・中国を中心とするアジア・パシフィッ ク地域、米ゼロックス・コーポレーションは北米・ 中南米、ゼロックスヨーロッパはヨーロッパ・中東・ アフリカを担当している。
 生産は富士ゼロックスが一手に引き受けて全世 界に供給している。
従来は日本での生産が中心だ ったが、二〇〇〇年代以降、段階的に中国へシフ トさせた。
現在、日本にはハイエンドの大型機械 やトナーなどの消耗品および高額電子部品の生産 を残すのみで、オフィス向け複合機やプリンター をはじめ同社の製品の九割は中国の深圳と上海で 生産している。
 一極集中生産のため、欧米に海上輸送する場合 には、工場から主要市場まで三〇〜四〇日は掛か ってしまう。
リードタイムが長いことから輸送期 間中にも需給ギャップが発生しやすい。
また富士 ゼロックスが営業権を持たない地域は、需給コン トロールに制約も多い。
こうしたハンデを克服し、 各市場の実需に即してタイムリーに商品を供給す ることが、富士ゼロックスのSCMにおける主要 課題となっている。
 その対策の一つとして二〇〇四年から、富士ゼ ロックス自らをベンダーとする「VMI( Vendor Managed Inventory:ベンダー主導型在庫管理)」 を採用している。
 それ以前はグループの米ゼロックスおよびゼロ ックスヨーロッパと、主に「FOB(本船渡し)」 もしくは「DDU(仕向け地持ち込み渡し)」の 条件で取引していた。
各極の販売パートナーのマ ーケティング部門が販売計画を立て、商品を発注。
それを元に富士ゼロックスは工場へ生産を指示し て世界各極の「ハブ(中央倉庫)」に供給するだ けだった。
現地にある在庫は販売側の資産で管理 にも直接タッチしていなかった。
 しかし、海外からの発注数量は、予想もつかな い振れ幅で大きく増減することがあった。
そのた め工場の操業が安定しない。
その一方、急な追加 オーダーに対応できず、販売機会を逃す恐れも常 クラウドを使って国際輸送を可視化 ──富士ゼロックス  クラウドサービスを利用して中国の工場から世界各地の ハブまでの輸送状況を可視化するシステムを構築した。
着 荷情報の精度が上がり、明確な納期回答が即時にできるよ うになった。
ハブに余分な在庫を持つ必要もなくなった。
さらにオーダー引き当ての対象を海上輸送中の在庫にも広 げて一層の在庫削減を目指しいる。
図1 富士ゼロックスの生産拠点と取引先 ■主要生産拠点(中国工場)から、Worldwideに製品を供給 中国工場 富士ゼロックス シンガポール =生産=ハブ オランダ シドニー 西海岸 東海岸 Fuji Xeroxテリトリー Xerox Corporationテリトリー Xerox Europeテリトリー 第2 部 23  AUGUST 2013 特集 調達物流 大きいと判断した。
 このVMIの導入に続いて組織の見直しを行っ た。
〇六年に本社に「B&SC改革部(現生産本 部グローバルSCM部)」を新設。
それまで本社 や生産本部、各販売部門に分散していた需給コン トロール機能を同部に集約し、同時に同部が各極 の需給管理に責任を負う体制を敷いた。
同部がパ ートナーの年間事業計画を基に数量ベースの生販 計画を立案。
さらに各極のハブをガバナンスして、 現地の需給プランニングや実際のオペレーションに も関与する。
 現在、ハブは七カ所に置いている。
アジア・パ シフィック地域は東京、大阪、シンガポール、シ ドニーの四カ所。
北米は東海岸、西海岸の二カ所。
ヨーロッパはオランダの一カ所だ。
これらのハブへ グローバルSCM部からスタッフを派遣している。
 彼らが各極のパートナーのマーケティング部門と 共同で中長期のプランニングを行い、各国の販社 や代理店などの情報を基に現地の需給担当者と一 緒に「PSI(仕入れ・販売・在庫)」を回して いる。
中国の工場に対し、週次サイクルで発注見 込み情報や発注確定情報、出荷指示を出す。
 工場の生産能力が足りなくなったり、需給バラ ンスが崩れて各極間の調整が必要になった場合は、 日本側で総量を管理しながら在庫の割り当てを行 う。
発注番号からもトラッキング  この体制に移行しても全ての問題が解消された わけではなかった。
最長三〇〜四〇日にもわたる 輸送期間が、顧客に対する納期回答の制約になっ ていた。
二〇一一年に東日本大震災とタイの洪水 に抱えていた。
そもそも各極のパートナーのマー ケティング部門が立案した販売計画は正確に実需 を反映しているのか、突発的な需要変動は何が原 因で起きるのか、日本では判断できずにいた。
 そこで体制を大きく改めた。
各極のハブに富士 ゼロックスが自分の資産として在庫を持ち、現地 で直接需給をコントロールするようにした。
富士 ゼロックスの在庫負担は増えるが、需要の変化に 機敏に反応できるようになればメリットのほうが に相次いで見舞われたことで、この問題は一気に 表面化した。
 サプライヤーが被災して一部のキーパーツを調 達できなくなり、生販計画の大幅な乱れが生じた。
限られた部品でどの製品の生産を優先すればよい のか。
グローバルSCM部は難しい判断を迫られた。
 それと同時に各地の販売会社から寄せられる納 期の問い合わせの対応に追われた。
明確な回答は できなかった。
需給の調整に手間取ったことに加 え、輸送中の製品在庫ステータスを正確に把握で きる態勢になかったことが大きな原因だった。
 強い危機感を抱いた同社は、グローバルな輸送 状況を可視化するシステムの構築に乗り出した。
同社が輸送業務を委託する船社やフォワーダーは 常時六〇〜一〇〇社に上る。
しかも毎年入札によ って方面別にコストや品質で最適な業者を選定し ているため、そのたびに協力会社の顔触れが替わ る。
協力会社の中には自社でトラッキングシステ ムを構築・運用し、荷主に情報を提供していると ころもあるが、この条件では協力会社と個別にデ ータをやりとりする方法は現実的ではない。
 協力会社が常に入れ替わることを考慮してIT 企業のクラウドサービスを共通基盤に利用するこ とにした。
 EDIなどで複数の物流業者と接続実績のある GXSの企業間データ連携クラウドサービス「G XS Managed Services」を 介して、船社やフォワーダーの輸送ステータス情 報を収集、これをNECの物流総合クラウドサー ビス「NeoSarf/Logistics」の データベースに登録し、必要な情報をいつでも検 索できるようにした。
図2 業務プロセス変更点(供給プランニング) ■一律に平均輸送リードタイムを使用した供給計画を作成し、過剰(安心)在庫を確保している。
■着荷情報精度の向上により、安心在庫分が不要となる供給計画を作成。
従来 次回入庫のバラツキが大きい 最遅着を想定 した不足分 正確な納期が 分からない? α: 回転在庫次回入庫 安全在庫 次回入庫のバラツキが大きい 回転在庫次回入庫 安全在庫 α:安心 ※平均リードタイムを  使用した供給計画 新体制 次回入庫計画精度UP 貨物情報が 正確! 次回入庫計画精度UP 回転在庫次回入庫 安全在庫 安心分削減 安心分を排除 した供給計画 回転在庫次回入庫 安全在庫 α:安心 最小安全在庫 不要な在庫 ※安心在庫がなくなる ※無駄なAir代を削減 AUGUST 2013  24 ないため、「入庫予測日」というあいま いな回答しかできなかった。
新システム の稼動とともに各部署の担当者がシステ ムに直接アクセスして検索を行い、即時 に回答を得られるようになった。
輸送中の在庫にも引き当てる  輸送の可視化にはさらに大きな狙いも あった。
同社の製品はオフィス向けが大 半で、ユーザーが事務所の移転に伴って 新機種に買い換えるケースが多い。
この 場合、ユーザーの事務所移転の日程に合 わせて製品を納品する必要があり、一 日でも納期の遅れは許されない。
 納期を確実に守るため、これまでは 原則として受注時の引き当てはハブにあ る在庫に対してしか行わないことをルー ルにしていた。
工場からハブに向けて輸 送中の在庫があることが分かっていても、 天候の悪化や通関手続きのトラブルなど で貨物の到着が遅れることはしばしばあ る。
入庫日が確実でなければ顧客に納 期を確約できない。
このため輸送中の 在庫からの引き当ては慎重に行うべきだ との判断が働いた。
 ハブの在庫数量を設定する際も、輸 送の遅れを見越してリードタイムを計算 していた。
想定される最大限の遅延日 数を平均的な輸送期間に加えてリードタ イムを算出し、これを基に在庫設定を行 っていた。
その結果、通常の安全在庫 とは別に、同社が“安心在庫”と呼ぶ  貨物情報を収集するトラッキングポイントは一 五カ所に設定した。
工場の出荷から、積み港・揚 げ港での通関やコンテナヤードへの移動、仕向け 港で陸揚げした後の陸送の出発・到着、ハブ倉庫 への入荷、コンテナ返却まで、システムで細かく ステータス管理を行う。
 このシステムの最大のポイントは、販社やハブ、 工場の担当者が発注番号、送り状番号、船荷証券 番号など、それぞれの管理する番号で貨物のトラ ッキング情報を検索できる点だ。
各トラッキング ポイントで船社やフォワーダーの貨物追跡情報を 「NeoSarf」に吸い上げ、富士ゼロックス の基幹システムの受注・出荷・船積み情報などと ひも付けている。
 今年二月に中国〜日本間で運用を開始し、その 後、中国〜欧米間に対象を拡大している。
 貨物の出荷や入庫日などに関する海外の販社な どからの問い合わせはそれまで月間平均一八〇〇 件を数えていた。
組織によって問い合わせ番号は さまざまで、グローバルSCM部ではその都度、 手作業で発注番号からパッキングリスト、コンテ ナ番号などへ順に照合を行いながら該当する貨物 を積んだ船便を特定し、船社やフォワーダーに電 話などで照会していた。
このため回答には時間が 掛かった。
 トラッキングポイントも工場からの出荷時、出 港時、仕向け 港への入港時、 ハブへ着荷時 の四ポイント だけだった。
詳細が分から 生産本部グローバル SCM部の中澤菊男 サプライチェーン・スト ラテジイズグループ長 海外輸入元 図3 業務プロセス変更点(入庫計画開示) 従来新体制 貨物情報 サービス 輸送トレース管理 ■海上輸送、通関事情など入庫遅延リスクによりマーケットサイドで保有している在庫のみに引き当てシステムで納期回答を行っているため、  在庫切れの場合顧客への納期回答に時間が掛かり、在庫増加につながっている。
■貨物情報サービスの活用により全拠点生産品に機種を拡大し、全量の入庫計画に引当基幹システムで納期回答を行うため、  ほぼ即時に期限回答が可能となる。
中国工場A 倉庫通関通関 出港接岸 HUB お客様 お客様 営業 営業 調整 需給担当 基幹システム (商談引当) 基幹システム (商談引当) CY 在庫CY 在庫 引当 未着品在庫 引当 中国工場B 他海外工場 倉庫 調整後 納期回答 需給担当 (貨物情報把握) 引当 引当 海外輸入元 中国工場A 倉庫通関通関 出港接岸 HUB CY在庫CY在庫 引当 未着品在庫 引当 中国工場B 他海外工場 倉庫 引当 引当 引当 引当 引当 引当 引当 25  AUGUST 2013 特集 調達物流 報プロセス改革グループの礒貝敦チーム長は「ト ラッキングデータが完全でないと納期の回答まで はとてもできない。
集まったデータの評価を行い、 入力方法などの改善を求めていくプロセスが必要 だ」とする。
 現在、「NeoSarf」の機能を使って船社 のデータを抽出し、航路ごとに入力ミスはないか、 こちらの要求するタイミングで入力されているか など“精度”と“鮮度”の二つの切り口でチェッ クを行っている。
それを基にデータの活用がどの レベルまで可能かを判断する。
 中澤グループ長は「全般に港に陸揚げ後のイン ランドでのトラッキングがまだ弱い。
今後は入札 する際の条件に“提供される情報の質の高さ”を 加えていくことも検討する必要がある」と考えて いる。
 富士ゼロックスは今秋、中国への生産の一極集 中を避ける目的でベトナムに新工場を稼動させる。
それに伴いグローバルSCM部では新たにベトナ ムを基点とするサプライチェーンの構築に取り組む。
 また近年はブラジル、インド、ロシア、南アフ リカなど新興国の売り上げが急速に伸びて、グロ ーバル市場の構図が変わりつつある。
これらの国 へはこれまで北米やオランダのハブから商品を供 給してきたが、市場の成長とともに従来の枠組み では効率が悪くなった。
最近は工場から商品を直 送するモデルも試みている。
物量が増えればその 比率を上げていく考えだ。
 二極生産体制への移行、および新興市場の成長 に伴う供給ルートの多様化で、同社のSCM戦略 は新たな局面を迎えることになる。
(フリージャーナリスト・内田三知代) トロールの精度を高められるはず。
今後は輸送中 を含むトータル在庫で需要をカバーする考え方を 採っていく」と説明する。
 輸送コストの削減も狙いの一つに上げている。
緊急のオーダーが入ったり需給が逼迫したときに は航空便を手配するケースが多い。
だが詳細なト ラッキングによって「どの船便がどんな製品を積 んでいつ入港する」という情報が分かれば、船の 到着を待っていても十分間に合うといった判断が できるようになり、航空輸送の利用抑制につなが ると同部では見ている。
 まずは日本市場向けの製品を対象に受注時の在 庫引き当てロジックを変更した。
納期が差し迫っ たオーダーについては従来通りハブの在庫だけで 引き当てるが、余裕がある場合は日数によって輸 入通関後のコンテナヤードの在庫、さらに陸揚げ 前の海上輸送中の在庫についても引き当てをでき るようにした。
トラッキング情報を基に納期の回 答まで行う。
データの“精度”と“鮮度”を上げる  ただし、欧米市場向けは、今のところ輸送中 在庫の引き当ては見合わせている。
中国〜欧米ル ートは中国〜日本ルートに比べてトラッキングの 精度が低い。
データを収集できない協力会社もい て、航路によってデータが抜け落ちることがある。
必要なタイミン グでデータが取 れていなかった り、入力ミスも 発生している。
 生産本部情 過剰在庫を発生させていた。
 生産本部グローバルSCM部の中澤菊男サプラ イチェーン・ストラテジイズグループ長は「トラッ キング情報を可視化することで、プランニングす る際の無駄な“安心在庫”を排除して、需給コン 図4 貨物輸送状況可視化システム(G-CATS)概念図 海外販売会社など 可視化サービス 富士ゼロックス 自社システム 照会 実績 オーダー/ 出荷情報 輸送ステータス 物流総合クラウドサービスNeoSarf / Logistics 可視化サービス NeoSarf / Logistics 企業間データ連携 クラウドサービスManaged Services 物流可視化基盤 貨物追跡イベント管理可視化アラート管理KPI オーダー/出荷情報と 輸送ステータス情報をひも付け 輸送ステータスの情報収集GXS GXS Managed Services 輸送ステータス 輸送業者 輸送ステータス 輸送業者 輸送ステータス 輸送業者 生産本部情報プロセス 改革グループの 礒貝敦チーム長

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