2013年8月号
特集
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第7部 ミャンマーへの生産シフトに先手打つ──住金物産
AUGUST 2013 34
人件費は中国の五分の一
住金物産の繊維事業は、大手SPA(製造小
売業)やアパレルメーカー向けのOEM生産を主
軸としている。
一般的な商社のように単にアパレ ル商材を右から左へ流すのではなく、自らが主体 となって素材開発から製品企画、生産、物流まで を一貫して手掛けている。
生産する商材は、レデ ィース衣料、メンズ衣料、機能衣料、ホームファ ッションなど多岐にわたる。
OEMメーカーとしての機能を強みとするだけ に、生産拠点と物流拠点の整備は最重要テーマの 一つだ。
生産した最終製品はほぼ全て日本国内の 顧客に納めるが、人件費などの観点から縫製工場 や、それに伴う物流倉庫、検品・検針施設などは これまで海外、特にアジア諸国に求めてきた。
「中でも、目下の注力国はミャンマーだ」と住 金物産・繊維カンパニーの山内秀樹SCM・事業 開発部部長は言う。
民主化の進展などにより、この一〜二年ほどの 間にミャンマーへの注目度は急速に高まっている。
住金物産は同国でのOEM生産を二〇〇五年から 開始するなど他社に先駆けてビジネスを手掛けて きた。
その動きをさらに加速させている。
住金物産の同国における年間のOEM生産量は、 〇九年度時点で約三〇万枚だった。
これが一二年 度には約三三〇万枚に拡大した。
その全てを日本 に輸入している。
これは日本がミャンマーから輸 入する繊維製品全体の一〇分の一以上に相当する 量だという。
今後はその規模を一層拡大し、今年 度中に五〇〇万枚、早期に七〇〇万枚体制を確立 する方針を打ち出している。
その一環と して今年五月、 ミャンマーでコ ートやジャケッ トなどを製造 するスーツスタ ー社の株式の八〇%を取得した。
スーツスター社 とは一一年から生産ライン保証契約を結んでいた が、ミャンマーでのさらなる生産強化を図るため 買収に踏み切った格好だ。
ほかにも住金物産はミャンマーでこれまでに三 社と同様の生産ライン保証契約を締結しているが、 資本を直接投下した “自社工場” はこれが初めて。
ミャンマービジネスへの意欲の表れと言えるだろう。
今年度はこの自社工場において六〇万枚の生産を 見込んでいる。
住金物産の海外生産は中国を源流とする。
同社 は年間約二万TEUのアパレル商品を日本に輸入 しているが、ピーク時にはそのうちの九割以上を 中国で生産していた。
現在でも七割以上は中国か らの輸入だ。
一九九〇年代初頭から中国で生産能力の拡充に 汗をかいてきた。
その結果、現在では一〇カ所以 上の自社工場と二〇〇〜三〇〇カ所の契約工場を 構えるまでに至った。
検品を担当する現地法人「上 海恵幸服装整理」を設立するなど、製品品質の向 上にも努めてきた。
それだけに、中国の人件費高騰や尖閣問題に代 表されるカントリーリスクの増大には敏感になら ざるを得ない。
チャイナプラスワンを摸索し、こ れまでタイやインドネシア、ベトナムなど東南アジ ア諸国への生産移転を段階的に実施してきた。
ミャンマーへの生産シフトに先手打つ ──住金物産 ミャンマーをチャイナプラスワンの有力候補と位置付け ている。
今年5月に初の自社工場を構え、同国における 生産能力の拡充を急いでいる。
それに伴い、調達物流の 構築が喫緊の課題に。
物流子会社をパートナーに現地ネ ットワークを整備して、先行者利益を狙う。
(石鍋 圭) 住金物産・繊維カンパ ニーの山内秀樹SCM・ 事業開発部部長 第7 部 35 AUGUST 2013 る。
輸入前にミャンマー政府に対してはインポート・ ライセンス(IL)を提出している。
そこに記載 されている数量と実際の輸入量に少しでも齟齬が あれば、一律で跳ねられてしまう。
ILと実数を 一〇〇%合致させるというのは現実的ではない。
しかし、国際貿易の運用経験に乏しいミャンマー の通関はそこまで配慮してくれない。
「見える化」システムを自社開発 こうしたリスクに対応するため日本の物流子会 社を元請けに使うことにした。
住金物産は〇九年 に物流子会社のエージーエル(AGL)を設立し ている。
山内部長が同社の社長を兼任している。
設立当初は中国から日本に輸入する繊維製品のバ イヤーズ・コンソリデーションがメーンだったが、 段階的にその機能と取扱量を増やし、現在は住金 物産から繊維商品の半分弱の物流を受託している。
そして最終的に行き着いた先がミャンマーだ。
人件費の水準は中国の五分の一程度で、労働者の 質は高く、十分な人口もある。
若年労働者を大量 に必要とする繊維工場にはうってつけの場所だった。
ただし、同国で生産を加速した当初は壁にも直 面した。
特に調達物流では苦闘が続いたという。
山内部長は「契約工場を開拓したり自社工場を 作れば、すぐにその国で生産ができるわけではな い。
むしろチャレンジはそこから始まる。
サプラ イヤーから必要となる生地やボタン、ジッパーな どを、タイムリーに縫製工場に集めなければなら ない。
しかし、法制や物流上の制約などさまざま なことがハードルとなった。
タイやインドネシアな どに進出した時もトラブルはあったが、ミャンマ ーでの調達はとりわけ難しかった」と振り返る。
まずネックになったのが、ミャンマー国内に全 くと言って良いほどサプライヤーがいない点だ。
いくら将来有望とはいえ、ミャンマーの生産規模 はまだまだ小さい。
そのためサプライヤーも同国 への投資には二の足を踏んでいるのが現状だ。
ほ ぼ国内だけで調達が完了する中国とは事情が違う。
サプライヤーが国内にいなければ、海外から調 達するしかない。
しかし、直行便は限られている。
海上輸送はシンガポールでフィーダー船に積み替え る必要がある。
航空輸送はタイ経由だ。
それだけ リードタイムは長くなる。
しかも、ミャンマー航路には信頼の置ける輸送 業者は少ない。
輸送中のステータスはほとんど把 握できず、フィーダー船への積み替え時にはオペ レーション上のミスが頻発した。
積み残しや紛失 も珍しくない。
無事にミャンマーに到着しても通関で引っ掛か AGLはまずミャンマーへの輸送を任せる物流 会社の選定に乗り出した。
シンガポールの積み替 え現場の視察などを繰り返し、業務を委託できる 物流企業をリストアップ。
そこに貨物を集中した。
これに伴い、住金物産はサプライヤーとの契約 を変更した。
それまでは物流費込みで契約を結ん でいたため、荷物を届ける物流会社はサプライヤ ーが選定していた。
これをFOB(本船積込渡し) やEx─Factory(工場渡し)に切り替え、 住金物産が物流企業を指定できるように改めた。
輸送中のステータスを把握するため、ミャンマ ー物流専用の「見える化」システムも自社構築した。
開発に要するコストと期間は、商社としてのネッ トワークやノウハウを活用することで抑え込むこ とに成功したという。
インターネット上で貨物の 位置情報や状態が把握できるようになったことで、 代替輸送の意志決定や生産計画の見直し、顧客へ の伝達などが円滑になった。
通関においても、ミャンマー独特のルールを体 得していくことで次第にハードルは低くなってい った。
ミャンマー自体も国際貿易の経験値を積む ことで、より現実に即した運用を志向する流れに あることも追い風になっている。
一連の取り組みにより、ミャンマーでの調達レ ベルは合格ラインまで上がってきた。
山内部長は 「今後はミャンマー国内で保税倉庫の整備なども検 討し、より高度な生産を支える物流体制を整えて いく。
さらに、ミャンマーへの調達物流のネット ワークを積極的に外販する。
当社はミャンマーに おいては荷主としても物流企業としても先駆者の 立場にある。
今後もそのメリットを最大化できる よう取り組みを加速させていく」と語る。
ミャンマー物流を外販 ※AGLホームページより 東京 上海 神戸 広州 香港 バンコク シンガポール ミャンマー ヤンゴン AGLでは現地有力フォ ワーダーと提携し、常 に最新の情報を入手 日本あるいは中国から の資材“輸出”にも対応 (三国間貿易) ミャンマーとの貿易実 務に精通した専任担当 者が的確な輸送を提案 特集 調達物流
一般的な商社のように単にアパレ ル商材を右から左へ流すのではなく、自らが主体 となって素材開発から製品企画、生産、物流まで を一貫して手掛けている。
生産する商材は、レデ ィース衣料、メンズ衣料、機能衣料、ホームファ ッションなど多岐にわたる。
OEMメーカーとしての機能を強みとするだけ に、生産拠点と物流拠点の整備は最重要テーマの 一つだ。
生産した最終製品はほぼ全て日本国内の 顧客に納めるが、人件費などの観点から縫製工場 や、それに伴う物流倉庫、検品・検針施設などは これまで海外、特にアジア諸国に求めてきた。
「中でも、目下の注力国はミャンマーだ」と住 金物産・繊維カンパニーの山内秀樹SCM・事業 開発部部長は言う。
民主化の進展などにより、この一〜二年ほどの 間にミャンマーへの注目度は急速に高まっている。
住金物産は同国でのOEM生産を二〇〇五年から 開始するなど他社に先駆けてビジネスを手掛けて きた。
その動きをさらに加速させている。
住金物産の同国における年間のOEM生産量は、 〇九年度時点で約三〇万枚だった。
これが一二年 度には約三三〇万枚に拡大した。
その全てを日本 に輸入している。
これは日本がミャンマーから輸 入する繊維製品全体の一〇分の一以上に相当する 量だという。
今後はその規模を一層拡大し、今年 度中に五〇〇万枚、早期に七〇〇万枚体制を確立 する方針を打ち出している。
その一環と して今年五月、 ミャンマーでコ ートやジャケッ トなどを製造 するスーツスタ ー社の株式の八〇%を取得した。
スーツスター社 とは一一年から生産ライン保証契約を結んでいた が、ミャンマーでのさらなる生産強化を図るため 買収に踏み切った格好だ。
ほかにも住金物産はミャンマーでこれまでに三 社と同様の生産ライン保証契約を締結しているが、 資本を直接投下した “自社工場” はこれが初めて。
ミャンマービジネスへの意欲の表れと言えるだろう。
今年度はこの自社工場において六〇万枚の生産を 見込んでいる。
住金物産の海外生産は中国を源流とする。
同社 は年間約二万TEUのアパレル商品を日本に輸入 しているが、ピーク時にはそのうちの九割以上を 中国で生産していた。
現在でも七割以上は中国か らの輸入だ。
一九九〇年代初頭から中国で生産能力の拡充に 汗をかいてきた。
その結果、現在では一〇カ所以 上の自社工場と二〇〇〜三〇〇カ所の契約工場を 構えるまでに至った。
検品を担当する現地法人「上 海恵幸服装整理」を設立するなど、製品品質の向 上にも努めてきた。
それだけに、中国の人件費高騰や尖閣問題に代 表されるカントリーリスクの増大には敏感になら ざるを得ない。
チャイナプラスワンを摸索し、こ れまでタイやインドネシア、ベトナムなど東南アジ ア諸国への生産移転を段階的に実施してきた。
ミャンマーへの生産シフトに先手打つ ──住金物産 ミャンマーをチャイナプラスワンの有力候補と位置付け ている。
今年5月に初の自社工場を構え、同国における 生産能力の拡充を急いでいる。
それに伴い、調達物流の 構築が喫緊の課題に。
物流子会社をパートナーに現地ネ ットワークを整備して、先行者利益を狙う。
(石鍋 圭) 住金物産・繊維カンパ ニーの山内秀樹SCM・ 事業開発部部長 第7 部 35 AUGUST 2013 る。
輸入前にミャンマー政府に対してはインポート・ ライセンス(IL)を提出している。
そこに記載 されている数量と実際の輸入量に少しでも齟齬が あれば、一律で跳ねられてしまう。
ILと実数を 一〇〇%合致させるというのは現実的ではない。
しかし、国際貿易の運用経験に乏しいミャンマー の通関はそこまで配慮してくれない。
「見える化」システムを自社開発 こうしたリスクに対応するため日本の物流子会 社を元請けに使うことにした。
住金物産は〇九年 に物流子会社のエージーエル(AGL)を設立し ている。
山内部長が同社の社長を兼任している。
設立当初は中国から日本に輸入する繊維製品のバ イヤーズ・コンソリデーションがメーンだったが、 段階的にその機能と取扱量を増やし、現在は住金 物産から繊維商品の半分弱の物流を受託している。
そして最終的に行き着いた先がミャンマーだ。
人件費の水準は中国の五分の一程度で、労働者の 質は高く、十分な人口もある。
若年労働者を大量 に必要とする繊維工場にはうってつけの場所だった。
ただし、同国で生産を加速した当初は壁にも直 面した。
特に調達物流では苦闘が続いたという。
山内部長は「契約工場を開拓したり自社工場を 作れば、すぐにその国で生産ができるわけではな い。
むしろチャレンジはそこから始まる。
サプラ イヤーから必要となる生地やボタン、ジッパーな どを、タイムリーに縫製工場に集めなければなら ない。
しかし、法制や物流上の制約などさまざま なことがハードルとなった。
タイやインドネシアな どに進出した時もトラブルはあったが、ミャンマ ーでの調達はとりわけ難しかった」と振り返る。
まずネックになったのが、ミャンマー国内に全 くと言って良いほどサプライヤーがいない点だ。
いくら将来有望とはいえ、ミャンマーの生産規模 はまだまだ小さい。
そのためサプライヤーも同国 への投資には二の足を踏んでいるのが現状だ。
ほ ぼ国内だけで調達が完了する中国とは事情が違う。
サプライヤーが国内にいなければ、海外から調 達するしかない。
しかし、直行便は限られている。
海上輸送はシンガポールでフィーダー船に積み替え る必要がある。
航空輸送はタイ経由だ。
それだけ リードタイムは長くなる。
しかも、ミャンマー航路には信頼の置ける輸送 業者は少ない。
輸送中のステータスはほとんど把 握できず、フィーダー船への積み替え時にはオペ レーション上のミスが頻発した。
積み残しや紛失 も珍しくない。
無事にミャンマーに到着しても通関で引っ掛か AGLはまずミャンマーへの輸送を任せる物流 会社の選定に乗り出した。
シンガポールの積み替 え現場の視察などを繰り返し、業務を委託できる 物流企業をリストアップ。
そこに貨物を集中した。
これに伴い、住金物産はサプライヤーとの契約 を変更した。
それまでは物流費込みで契約を結ん でいたため、荷物を届ける物流会社はサプライヤ ーが選定していた。
これをFOB(本船積込渡し) やEx─Factory(工場渡し)に切り替え、 住金物産が物流企業を指定できるように改めた。
輸送中のステータスを把握するため、ミャンマ ー物流専用の「見える化」システムも自社構築した。
開発に要するコストと期間は、商社としてのネッ トワークやノウハウを活用することで抑え込むこ とに成功したという。
インターネット上で貨物の 位置情報や状態が把握できるようになったことで、 代替輸送の意志決定や生産計画の見直し、顧客へ の伝達などが円滑になった。
通関においても、ミャンマー独特のルールを体 得していくことで次第にハードルは低くなってい った。
ミャンマー自体も国際貿易の経験値を積む ことで、より現実に即した運用を志向する流れに あることも追い風になっている。
一連の取り組みにより、ミャンマーでの調達レ ベルは合格ラインまで上がってきた。
山内部長は 「今後はミャンマー国内で保税倉庫の整備なども検 討し、より高度な生産を支える物流体制を整えて いく。
さらに、ミャンマーへの調達物流のネット ワークを積極的に外販する。
当社はミャンマーに おいては荷主としても物流企業としても先駆者の 立場にある。
今後もそのメリットを最大化できる よう取り組みを加速させていく」と語る。
ミャンマー物流を外販 ※AGLホームページより 東京 上海 神戸 広州 香港 バンコク シンガポール ミャンマー ヤンゴン AGLでは現地有力フォ ワーダーと提携し、常 に最新の情報を入手 日本あるいは中国から の資材“輸出”にも対応 (三国間貿易) ミャンマーとの貿易実 務に精通した専任担当 者が的確な輸送を提案 特集 調達物流
