2013年8月号
SOLE
SOLE
設備管理のグローバル化の動向
SOLE 日本支部の報告
AUGUST 2013 78
設備管理も各方面で進むグローバ
ル化と無縁ではない。
世にある設備 は一つ一つが個性に満ちたものであ り、業界、国、地域、運営組織ごと の個別事情の違いは大きく、同一の 管理手法が普遍的に通用するように なることは考えられない。
しかしながら、ここ一〇年ほどの 動きを見ていると、我々の想像を超 えるほどの深さとスピードで設備管理 のグローバル標準が形成されつつある ことが分かる。
今後の製品輸出、海外事業展開、 外資との連携、国際認証取得などさ まざまな事業展開を契機として、設 備管理のグローバル化を意識する必要 が生じてくるであろう。
グローバル標準に含まれる手法を、 自主的に採り入れていくことで、競 争力の強化や未来の変化の先取りが達 成できる可能性もある。
本稿では設 備管理の領域でグローバルに進行して いる動きを整理し、日本の企業、事 業者に特に参考になると思われる考え 方を紹介する。
(プラントアルファ 菅伸介 社長) メンテナンスの意義をとらえ直す 設備管理分野における世界の動向 をウォッチしていて、二〇年ほど前の ISO9000ベースの品質保証シ ステム導入期の状況を思い出すことが ある。
当時の国内での一般的な受け止め られ方は「今まで立派な品質管理の 仕組みを作ってきたのに今さら新しい 仕組みが必要なのか?」「海外のやり 方を日本に導入してもうまくいくは ずがない」「書類が多くなるばかりで 我々のやり方にはなじまない」とい ったものだった。
このような印象論は必ずしも間違 っていたわけではないし、場合によ っては現在の目から見ても意味のあ る批判を内包していたかもしれない。
しかしながら、ISO9000ベー スの品質マネジメントやISO14 000ベースの環境マネジメントが一 般化した現在から振り返ってみると、 世界的な動きを頭ごなしに否定する のではなく、新たな動きの持つ問題 意識を自社のシステムに上手に取り込 んで改革や改善の契機にしていくと いう付き合い方が重要だったのではな いかと考えられる。
設備管理の分野でも二〇年後のグ ローバル化がさらに進んだ世界では何 が起こっているかを想像しながら、現 時点での取り組みを考えるという視点 が求められるのではないだろうか。
設備のメンテナンスは、壊れたもの を直す、あるいは決められた点検や 部品交換を定期的に行うといった作 業が中心となりがちであり、とかく 受け身のものと受け止められやすい。
このような風潮に対し、メンテナンス に積極的な意義を見出していく方向 として図1に示す二つの視点が提起さ れている。
一つは技術の視点からの取り組み である。
設備の信頼性の維持を基軸 に置いてメンテナンスの考え方を徹底 的に見直す体系的な検討を行う。
そ れによって過去の設備管理のやり方に とらわれず、信頼性維持に本当に必 要な作業を厳選して適切なタイミング で実施することを目指すものである。
この面を強調する立場では、メンテ ナンスを「Maintenance & Reliability (メンテナンスと信頼性、以下M& R)」と呼び変えることが多い。
海外のプラントの組織では Reliability Engineerなる担当者を任 命していることがよく見受けられる。
日本語で呼ぶならば設備信頼性担当 技術者というところだろうか。
この 担当者は、日々のメンテナンス作業の 実行や管理からは一歩離れて、設備 信頼性の監視、設備管理方針の検討 や見直し、信頼性向上のための全体 調整などの責任を担う。
信頼性担当 ということをその名をもってアピール することにより、コストを食うばかり のメンテナンスではなく、信頼性の向 上によって業績にプラスの効果をもた らす設備管理を行うという立場を示 しているととらえることもできる。
もう一つの立場からのメンテナンス のとらえ直しは、経営的な視点からラ 設備管理のグローバル化の動向 図1 メンテナンスをとらえ直す視点 メンテナンス 信頼性維持という 本来の目的に 基づく原理的見直し ライフサイクル視点と 経営の視座の重視 メンテナンスと信頼性 (Maintenance and Reliability) アセットマネジメント (Asset Management) 79 AUGUST 2013 る取り組みにおいて、自社の人材を 育成することなく、スピード感を持っ てプロジェクトを進めることができる ようになってきている。
上記 (2) の技術と方法論の整備につ いては、リスクベース方法論の発展と ITソリューションの活用が重要であ る。
適切な設備管理方針を定めるに当 たっては、リスクベース方法論を採用 することが標準的な考え方となってき ている。
これは、設備の故障、破損、 ヒューマンエラー、不具合などの好ま しくない事象について、それが発生 する可能性と発生した場合に影響を 見積ることによってリスクの大小や性 質を評価し、それに応じたメンテナン ス方針を定めるという考え方である。
動的な機能を持つ機器類について は、故障時の機能喪失の影響評価に 基づいてメンテナンス方針を定める 「Reliability Centered Maintenance (RCM、信頼性重視保全)」が良く 用いられる。
また耐圧部の破損によ るリスクの影響評価とそれを予防す るための検査計画の立案には、「Risk Based Inspection(RBI、リスクベ ース検査)」が標準的な手法となって いる。
そのほか、運転時の異常現象を評 価するためのHAZOP、実際に発 生した事故や不具合を解析するための ミュニティの中心となるのは、設備信 頼性を担う専門家が加入する団体で ある。
これらの団体は、メンバーの交 流や研鑽、専門分野に関わる文書・ ツール類の整備、資格認定などを行 う機能を持っている。
このような団体に加え、学術機関 や商業ベースのコンファレンス運営会 社、設備管理関連の製品・サービス 提供業者なども積極的に人の集まる 場を設けている。
そのような場では、 製造業、公共部門、防衛部門など所 属や業界を越えた活発な交流があり、 その中で共通言語が形成されて情報 交換や議論が活発に行われている。
人材面でもこのような団体の存在 意義は大きい。
専門家団体の運営 するウェブサイトには信頼性担当者、 メンテナンス担当者などの求人情報が 多く掲載されている。
また、M&R に関わる人材についてはコンサルタン トというかたちで外部調達ができる環 境が整ってきたことも重要である。
大 手コンサルティングファーム、事業会 社のコンサルティング部門、中小の分 野特化型コンサルティング会社、個 人の独立コンサルタントなどさまざま な形態のサービス提供業者が人材や各 種サービスを提供する体制を整えてお り、経営改善、信頼性改善、現場改 善、人材教育、設備状態監視、IT 関連サービスなど特殊なスキルを要す イフサイクル全体を見渡すことによっ てなされる。
ライフサイクルとは、設 備の計画から廃却に至るまでの全て の過程のことであり、JIS C 57 50─3─3(ライフサイクルコスティ ング)では図2のようなステップを含 むものとして定義されている。
経営的な視点から設備に求められ るのは、そのライフサイクル全体にわ たって最大限の価値を生み出すことで ある。
ライフサイクルの段階の中では、 メンテナンスは「運用および保全」に 含まれる活動の一部ということにな る。
保全をライフサイクルの中に位置 付けて最適化するためには以下の二 点を実現しなければならない。
●「構想および定義」「設計および開 発」などの段階において、メンテ ナンスの方針や実施内容を構想し、 設備の設計や運用体制の整備に際 して必要な考慮を行っておくこと。
●「運用および保全」の段階におい て、ライフサイクル全体を見渡し て価値を最大化させるような保全 を行うこと。
つまり保全をライフサイクルマネジ メントの中で適切に位置付けるのが肝 要だということである。
メンテナンスと信頼性(M&R) M&Rというキーワードに象徴され るメンテナンスのとらえ直しは、多方 面の取り組みによって支えられた一種 の改革運動でもある。
特に注目すべ き動きとして以下の三つがある。
(1) M&Rを担うプロフェッショナルコ ミュニティの形成 (2) M&Rを支える技術と方法論の整 備 (3) 設備信頼性担当技術者が習得すべ き知識体系の整理 このうち (1) のプロフェッショナルコ 図2 設備ライフサイクルの各段階(JIS C 5750-3-3による) 構想および定義設計および開発製造据え付け運用および保全廃却 「Root Cause Analysis(RCA、根 本原因分析)」なども重要なリスクベ ース手法である。
このようなリスクベース方法論は、 設備のリスク要因一つ一つについて系 統的かつ深い評価を行うものである ため、必要な情報の収集や評価結果 の取りまとめに大変な時間と手間を要 する。
しかし、リスクの見落としによ る大規模設備事故の事例が多く見ら れる中、体系的な手法によってリスク を洗い出すことの重要性は今後高ま っていくものと考えられる。
設備管理業務においては大量の情 報を長期にわたって管理する必要が あり、IT活用による業務の高度化 や効率化が一貫して求められてきた。
最近のグローバルな動向で注目すべき は、標準化されパッケージ化されたI Tソリューションの充実と普及である。
世界的に見ると、設備管理業務の ための情報システムを構築する際はパ ッケージ化されたソフトウェアをベー スとすることが一般的になってきてい る。
日本でも会計や人事などの業務 システムを導入する際はパッケージソ フトウェアの利用を一義的に考えるよ うになってきた。
それと同様のこと が設備管理でも起きているのである。
このようなことができるようにな った理由は、一つには前述した設備 管理のプロフェッショナルコミュニテ ィなどの場を通じて共通の用語や概念 が形成されていることである。
もう一つの要因は、情報通信技術 の発展によりパッケージソフトウェア の使い勝手や柔軟性が改善され、独 自開発に比べてコスト、導入期間、 機能などの面で優位に立てるようにな ったことである。
設備管理で使用さ れる代表的な情報システムを図3にま とめる。
(3) の知識体系の整理とは、M&R の実務を担う技術者が学ぶべきこと を整理し体系化することである。
欧 米の大学ではM&Rについての専門 コースを開設しているところもある。
例えば米国テネシー大学ノックスビル 校では信頼性・保全性工学コースで 修士号を取得できる(http://www. engr.utk.edu/rme/)。
大学を卒業し て設備管理の現場で数年の勤務を経 た技術者が、ステップアップを目指し て大学院で学ぶことが多い。
大学の教育コース以外では、前述 した専門家団体の資格認定制度があ る。
例えばS M R Pは「Certified M a i n t e n a n c e & R e l i a b i l i t y Professional(CMRP、認定メン テナンス信頼性プロフェッショナル)」 という資格を運営している。
これは、 ペーパーテストで所定の成績を収める ことによって資格が取得し、その資 格を維持するためには三年ごとに再 認定を受けることが求められている というものである。
試験内容は以下の五つの分野にわ たる。
●業務管理 ●生産プロセス信頼性 ●機器信頼性 ●組織とリーダーシップ ●作業管理 SMRPは上記の五分野について 習得すべきBody of Knowledge(基 本知識)を整理し、人材育成のガイ ドラインを与えている。
米国などの企 業では従業員によるCMRP資格の 取得を奨励しているところも多いと 聞いている。
メンテナンスから アセットマネジメントへ 設備管理の分野でライフサイクル全 体に目を向けた取り組みはアセットマ ネジメントと呼ばれる。
前述のように、 これは設備管理を経営的視点でとら えるものと理解することもできる。
こ の分野では、英国規格協会(BSI) が発行した物理的資産を対象とする マネジメントシステム規格である。
● BSI PAS 55-1:2008 Asset management. Specification for the optimized management of physical assets ● BSI PAS 55-2:2008 Asset management. Guidelines for the application of PAS 55-1 本規格はマネジメントシステム規格 であり、ISO9001などと同様 に要求事項を列挙するスタイルを取っ ている。
要求事項に従ってマネジメン トシステムを整備し、それに従って業 AUGUST 2013 80 図3 設備管理で使用されるパッケージソフトウェアの種類 英文名称略称使用目的 Computerized Maintenance Management System Enterprise Asset Management Reliability Management/ Asset Performance Management Electronic Document Management System CMMS EAM − EDMS 設備情報の管理と作業の計画実施などメンテ ナンス業務をサポートする管理システム CMMSの機能を拡充し、設備管理業務全 般のニーズに応える機能を持った統合管理シ ステム 設備のパフォーマンスや信頼性に関わるデー タを管理し、設備管理に関する意思決定を支 えるシステム 電子化文書の保管、履歴管理、閲覧などを 行う情報システム 81 AUGUST 2013 ● ISO 55002 Asset Mangement ─ M a n a g e m e n t s y s t e m s ─ Guidelines on the application of ISO 55001(アセットマネジメン ト−マネジメントシステム−ISO 55000の適用のためのガイドライ ン) これらの規格は、ISO9000 シリーズ等の規格との共通点が多く、 トップダウン的なマネジメント志向、 PDCAサイクルによる継続的改善 をベースに置いている。
ISO31 000(JIS Q 31000)シリ ーズで規定されるリスクマネジメント 手法との協調が図られており、それ によってM&Rの考え方の中核である リスクベース手法の採用が必然となる。
以上、本稿では設備管理分野にお けるグローバルな動向を紹介した。
グ ローバル標準が形成されたからと言っ て、国内での設備管理業務をその標 準に適合させる必要は当面はないだ ろう。
しかし、海外との関わりの中 でグローバル標準の方法論を使いこな すことも必要になるはずであり、そ の動向を無視することは決して得策 ではない。
また、海外での設備管理の考え方 について、「つまみ食い」的に取り入 れて業績向上を図ることも大いに結 構と考えられる。
ISO規格制定の動きについては 継続的なウォッチを行い、可能な範囲 で日本からも積極的な関与を行うこと が望ましい。
改めてISO9000 導入期を思い出していただきたい。
規 格制定当初は影響が小さいように見 えても、一〇年、二〇年を経過する うちに規格対応が当然視されるよう になる可能性は充分考えられる。
ま た、国際的な検討を経て作成される 規格文書は、一見無味乾燥に見えて も多くの知恵が含まれており、現在の 設備管理が抱える課題を解く鍵が見つ かることも多いだろう。
ドオフ PAS55の要求事項は以下のよ うに整理されている。
これはISO 9000シリーズ、ISO1400 0シリーズなどと同様の、我々にとっ てもなじみ深いマネジメントシステム 規格の形式である。
●トップダウンの方針展開に基づく業 務遂行 ●ライフサイクル管理 ●設備ポートフォリオ管理 ●モニタリングと継続的改善 ここ数年にわたり、PAS55を 発展させてアセットマネジメントのI SO規格を制定する動きが進んでいる。
ISOが設置した専門委員会(IS O/PC251委員会)が二〇一四 年を規格発行のターゲットとして以下 の規格文書作成を進めている。
● ISO 55000 Asset Mangement ─ Overview, principles, and terminology(アセットマネジメン ト−概要、原則、用語) ● ISO 55001 Asset Mangement ─ M a n a g e m e n t s y s t e m s ─ Requirements(アセットマネジメ ント−マネジメントシステム−要求 事項) 務を遂行していることを審査員が認め ればPAS55の認証を取得できる。
正規の規格にはなっていないものの、 一部の認証機関はアセットマネジメン トシステムについてのサービスを開始 しており欧州などでは実際に認証を 取得する会社も現れている。
PAS55ではアセットマネジメン トを以下のように定義している。
「系 統的かつ協調の取れた活動と実践によ って、資産および資産からなるシステ ム、それに関わるパフォーマンス、リ スク、組織の戦略計画を達成するた めの資産ライフサイクル全体での支出 を、組織が最適かつ持続可能な方法 で管理すること(筆者訳)」 これをかみ砕いて表現すると「設 備のパフォーマンスとリスクを所定の 水準に維持しつつ、コストを適切に管 理することによってライフサイクル全 体にわたる価値を最大化する」とい うことになる。
抽象的な表現である が、設備管理の場でしばしば遭遇す る以下のようなトレードオフの全てを 包含するものと言える。
●短期的なコストダウンと長期的な信 頼性のトレードオフ ●パフォーマンス向上とそのために必 要な費用支出のトレードオフ ●信頼性維持のための計画停止と信 頼性低下による故障停止のトレー ※ S O L E(The International Society of Logistics:国際ロジスティクス学会)は一 九六〇年代に設立されたロジスティクス団体。
米国に本部を置き、会員は五一カ国・三〇 〇〇〜三五〇〇人に及ぶ。
日本支部では毎 月「フォーラム」を開催し、講演、研究発 表、現場見学などを通じてロジスティクス・ マネジメントに関する活発な意見交換、議 論を行っている。
次回フォーラムのお知らせ 次回フォーラムは2013年8月13 日(火)、東京・浜松町の商工会館 6Fで開催する。
「システム・リスク管 理」などの研究発表が予定されてい る。
このフォーラムは年間計画に基づ いて運営しているが、単月のみの参 加も可能。
一回の参加費は6000円。
お問い合わせは事務局(s-sogabe@ mbb.nifty.ne.jp)まで。
世にある設備 は一つ一つが個性に満ちたものであ り、業界、国、地域、運営組織ごと の個別事情の違いは大きく、同一の 管理手法が普遍的に通用するように なることは考えられない。
しかしながら、ここ一〇年ほどの 動きを見ていると、我々の想像を超 えるほどの深さとスピードで設備管理 のグローバル標準が形成されつつある ことが分かる。
今後の製品輸出、海外事業展開、 外資との連携、国際認証取得などさ まざまな事業展開を契機として、設 備管理のグローバル化を意識する必要 が生じてくるであろう。
グローバル標準に含まれる手法を、 自主的に採り入れていくことで、競 争力の強化や未来の変化の先取りが達 成できる可能性もある。
本稿では設 備管理の領域でグローバルに進行して いる動きを整理し、日本の企業、事 業者に特に参考になると思われる考え 方を紹介する。
(プラントアルファ 菅伸介 社長) メンテナンスの意義をとらえ直す 設備管理分野における世界の動向 をウォッチしていて、二〇年ほど前の ISO9000ベースの品質保証シ ステム導入期の状況を思い出すことが ある。
当時の国内での一般的な受け止め られ方は「今まで立派な品質管理の 仕組みを作ってきたのに今さら新しい 仕組みが必要なのか?」「海外のやり 方を日本に導入してもうまくいくは ずがない」「書類が多くなるばかりで 我々のやり方にはなじまない」とい ったものだった。
このような印象論は必ずしも間違 っていたわけではないし、場合によ っては現在の目から見ても意味のあ る批判を内包していたかもしれない。
しかしながら、ISO9000ベー スの品質マネジメントやISO14 000ベースの環境マネジメントが一 般化した現在から振り返ってみると、 世界的な動きを頭ごなしに否定する のではなく、新たな動きの持つ問題 意識を自社のシステムに上手に取り込 んで改革や改善の契機にしていくと いう付き合い方が重要だったのではな いかと考えられる。
設備管理の分野でも二〇年後のグ ローバル化がさらに進んだ世界では何 が起こっているかを想像しながら、現 時点での取り組みを考えるという視点 が求められるのではないだろうか。
設備のメンテナンスは、壊れたもの を直す、あるいは決められた点検や 部品交換を定期的に行うといった作 業が中心となりがちであり、とかく 受け身のものと受け止められやすい。
このような風潮に対し、メンテナンス に積極的な意義を見出していく方向 として図1に示す二つの視点が提起さ れている。
一つは技術の視点からの取り組み である。
設備の信頼性の維持を基軸 に置いてメンテナンスの考え方を徹底 的に見直す体系的な検討を行う。
そ れによって過去の設備管理のやり方に とらわれず、信頼性維持に本当に必 要な作業を厳選して適切なタイミング で実施することを目指すものである。
この面を強調する立場では、メンテ ナンスを「Maintenance & Reliability (メンテナンスと信頼性、以下M& R)」と呼び変えることが多い。
海外のプラントの組織では Reliability Engineerなる担当者を任 命していることがよく見受けられる。
日本語で呼ぶならば設備信頼性担当 技術者というところだろうか。
この 担当者は、日々のメンテナンス作業の 実行や管理からは一歩離れて、設備 信頼性の監視、設備管理方針の検討 や見直し、信頼性向上のための全体 調整などの責任を担う。
信頼性担当 ということをその名をもってアピール することにより、コストを食うばかり のメンテナンスではなく、信頼性の向 上によって業績にプラスの効果をもた らす設備管理を行うという立場を示 しているととらえることもできる。
もう一つの立場からのメンテナンス のとらえ直しは、経営的な視点からラ 設備管理のグローバル化の動向 図1 メンテナンスをとらえ直す視点 メンテナンス 信頼性維持という 本来の目的に 基づく原理的見直し ライフサイクル視点と 経営の視座の重視 メンテナンスと信頼性 (Maintenance and Reliability) アセットマネジメント (Asset Management) 79 AUGUST 2013 る取り組みにおいて、自社の人材を 育成することなく、スピード感を持っ てプロジェクトを進めることができる ようになってきている。
上記 (2) の技術と方法論の整備につ いては、リスクベース方法論の発展と ITソリューションの活用が重要であ る。
適切な設備管理方針を定めるに当 たっては、リスクベース方法論を採用 することが標準的な考え方となってき ている。
これは、設備の故障、破損、 ヒューマンエラー、不具合などの好ま しくない事象について、それが発生 する可能性と発生した場合に影響を 見積ることによってリスクの大小や性 質を評価し、それに応じたメンテナン ス方針を定めるという考え方である。
動的な機能を持つ機器類について は、故障時の機能喪失の影響評価に 基づいてメンテナンス方針を定める 「Reliability Centered Maintenance (RCM、信頼性重視保全)」が良く 用いられる。
また耐圧部の破損によ るリスクの影響評価とそれを予防す るための検査計画の立案には、「Risk Based Inspection(RBI、リスクベ ース検査)」が標準的な手法となって いる。
そのほか、運転時の異常現象を評 価するためのHAZOP、実際に発 生した事故や不具合を解析するための ミュニティの中心となるのは、設備信 頼性を担う専門家が加入する団体で ある。
これらの団体は、メンバーの交 流や研鑽、専門分野に関わる文書・ ツール類の整備、資格認定などを行 う機能を持っている。
このような団体に加え、学術機関 や商業ベースのコンファレンス運営会 社、設備管理関連の製品・サービス 提供業者なども積極的に人の集まる 場を設けている。
そのような場では、 製造業、公共部門、防衛部門など所 属や業界を越えた活発な交流があり、 その中で共通言語が形成されて情報 交換や議論が活発に行われている。
人材面でもこのような団体の存在 意義は大きい。
専門家団体の運営 するウェブサイトには信頼性担当者、 メンテナンス担当者などの求人情報が 多く掲載されている。
また、M&R に関わる人材についてはコンサルタン トというかたちで外部調達ができる環 境が整ってきたことも重要である。
大 手コンサルティングファーム、事業会 社のコンサルティング部門、中小の分 野特化型コンサルティング会社、個 人の独立コンサルタントなどさまざま な形態のサービス提供業者が人材や各 種サービスを提供する体制を整えてお り、経営改善、信頼性改善、現場改 善、人材教育、設備状態監視、IT 関連サービスなど特殊なスキルを要す イフサイクル全体を見渡すことによっ てなされる。
ライフサイクルとは、設 備の計画から廃却に至るまでの全て の過程のことであり、JIS C 57 50─3─3(ライフサイクルコスティ ング)では図2のようなステップを含 むものとして定義されている。
経営的な視点から設備に求められ るのは、そのライフサイクル全体にわ たって最大限の価値を生み出すことで ある。
ライフサイクルの段階の中では、 メンテナンスは「運用および保全」に 含まれる活動の一部ということにな る。
保全をライフサイクルの中に位置 付けて最適化するためには以下の二 点を実現しなければならない。
●「構想および定義」「設計および開 発」などの段階において、メンテ ナンスの方針や実施内容を構想し、 設備の設計や運用体制の整備に際 して必要な考慮を行っておくこと。
●「運用および保全」の段階におい て、ライフサイクル全体を見渡し て価値を最大化させるような保全 を行うこと。
つまり保全をライフサイクルマネジ メントの中で適切に位置付けるのが肝 要だということである。
メンテナンスと信頼性(M&R) M&Rというキーワードに象徴され るメンテナンスのとらえ直しは、多方 面の取り組みによって支えられた一種 の改革運動でもある。
特に注目すべ き動きとして以下の三つがある。
(1) M&Rを担うプロフェッショナルコ ミュニティの形成 (2) M&Rを支える技術と方法論の整 備 (3) 設備信頼性担当技術者が習得すべ き知識体系の整理 このうち (1) のプロフェッショナルコ 図2 設備ライフサイクルの各段階(JIS C 5750-3-3による) 構想および定義設計および開発製造据え付け運用および保全廃却 「Root Cause Analysis(RCA、根 本原因分析)」なども重要なリスクベ ース手法である。
このようなリスクベース方法論は、 設備のリスク要因一つ一つについて系 統的かつ深い評価を行うものである ため、必要な情報の収集や評価結果 の取りまとめに大変な時間と手間を要 する。
しかし、リスクの見落としによ る大規模設備事故の事例が多く見ら れる中、体系的な手法によってリスク を洗い出すことの重要性は今後高ま っていくものと考えられる。
設備管理業務においては大量の情 報を長期にわたって管理する必要が あり、IT活用による業務の高度化 や効率化が一貫して求められてきた。
最近のグローバルな動向で注目すべき は、標準化されパッケージ化されたI Tソリューションの充実と普及である。
世界的に見ると、設備管理業務の ための情報システムを構築する際はパ ッケージ化されたソフトウェアをベー スとすることが一般的になってきてい る。
日本でも会計や人事などの業務 システムを導入する際はパッケージソ フトウェアの利用を一義的に考えるよ うになってきた。
それと同様のこと が設備管理でも起きているのである。
このようなことができるようにな った理由は、一つには前述した設備 管理のプロフェッショナルコミュニテ ィなどの場を通じて共通の用語や概念 が形成されていることである。
もう一つの要因は、情報通信技術 の発展によりパッケージソフトウェア の使い勝手や柔軟性が改善され、独 自開発に比べてコスト、導入期間、 機能などの面で優位に立てるようにな ったことである。
設備管理で使用さ れる代表的な情報システムを図3にま とめる。
(3) の知識体系の整理とは、M&R の実務を担う技術者が学ぶべきこと を整理し体系化することである。
欧 米の大学ではM&Rについての専門 コースを開設しているところもある。
例えば米国テネシー大学ノックスビル 校では信頼性・保全性工学コースで 修士号を取得できる(http://www. engr.utk.edu/rme/)。
大学を卒業し て設備管理の現場で数年の勤務を経 た技術者が、ステップアップを目指し て大学院で学ぶことが多い。
大学の教育コース以外では、前述 した専門家団体の資格認定制度があ る。
例えばS M R Pは「Certified M a i n t e n a n c e & R e l i a b i l i t y Professional(CMRP、認定メン テナンス信頼性プロフェッショナル)」 という資格を運営している。
これは、 ペーパーテストで所定の成績を収める ことによって資格が取得し、その資 格を維持するためには三年ごとに再 認定を受けることが求められている というものである。
試験内容は以下の五つの分野にわ たる。
●業務管理 ●生産プロセス信頼性 ●機器信頼性 ●組織とリーダーシップ ●作業管理 SMRPは上記の五分野について 習得すべきBody of Knowledge(基 本知識)を整理し、人材育成のガイ ドラインを与えている。
米国などの企 業では従業員によるCMRP資格の 取得を奨励しているところも多いと 聞いている。
メンテナンスから アセットマネジメントへ 設備管理の分野でライフサイクル全 体に目を向けた取り組みはアセットマ ネジメントと呼ばれる。
前述のように、 これは設備管理を経営的視点でとら えるものと理解することもできる。
こ の分野では、英国規格協会(BSI) が発行した物理的資産を対象とする マネジメントシステム規格である。
● BSI PAS 55-1:2008 Asset management. Specification for the optimized management of physical assets ● BSI PAS 55-2:2008 Asset management. Guidelines for the application of PAS 55-1 本規格はマネジメントシステム規格 であり、ISO9001などと同様 に要求事項を列挙するスタイルを取っ ている。
要求事項に従ってマネジメン トシステムを整備し、それに従って業 AUGUST 2013 80 図3 設備管理で使用されるパッケージソフトウェアの種類 英文名称略称使用目的 Computerized Maintenance Management System Enterprise Asset Management Reliability Management/ Asset Performance Management Electronic Document Management System CMMS EAM − EDMS 設備情報の管理と作業の計画実施などメンテ ナンス業務をサポートする管理システム CMMSの機能を拡充し、設備管理業務全 般のニーズに応える機能を持った統合管理シ ステム 設備のパフォーマンスや信頼性に関わるデー タを管理し、設備管理に関する意思決定を支 えるシステム 電子化文書の保管、履歴管理、閲覧などを 行う情報システム 81 AUGUST 2013 ● ISO 55002 Asset Mangement ─ M a n a g e m e n t s y s t e m s ─ Guidelines on the application of ISO 55001(アセットマネジメン ト−マネジメントシステム−ISO 55000の適用のためのガイドライ ン) これらの規格は、ISO9000 シリーズ等の規格との共通点が多く、 トップダウン的なマネジメント志向、 PDCAサイクルによる継続的改善 をベースに置いている。
ISO31 000(JIS Q 31000)シリ ーズで規定されるリスクマネジメント 手法との協調が図られており、それ によってM&Rの考え方の中核である リスクベース手法の採用が必然となる。
以上、本稿では設備管理分野にお けるグローバルな動向を紹介した。
グ ローバル標準が形成されたからと言っ て、国内での設備管理業務をその標 準に適合させる必要は当面はないだ ろう。
しかし、海外との関わりの中 でグローバル標準の方法論を使いこな すことも必要になるはずであり、そ の動向を無視することは決して得策 ではない。
また、海外での設備管理の考え方 について、「つまみ食い」的に取り入 れて業績向上を図ることも大いに結 構と考えられる。
ISO規格制定の動きについては 継続的なウォッチを行い、可能な範囲 で日本からも積極的な関与を行うこと が望ましい。
改めてISO9000 導入期を思い出していただきたい。
規 格制定当初は影響が小さいように見 えても、一〇年、二〇年を経過する うちに規格対応が当然視されるよう になる可能性は充分考えられる。
ま た、国際的な検討を経て作成される 規格文書は、一見無味乾燥に見えて も多くの知恵が含まれており、現在の 設備管理が抱える課題を解く鍵が見つ かることも多いだろう。
ドオフ PAS55の要求事項は以下のよ うに整理されている。
これはISO 9000シリーズ、ISO1400 0シリーズなどと同様の、我々にとっ てもなじみ深いマネジメントシステム 規格の形式である。
●トップダウンの方針展開に基づく業 務遂行 ●ライフサイクル管理 ●設備ポートフォリオ管理 ●モニタリングと継続的改善 ここ数年にわたり、PAS55を 発展させてアセットマネジメントのI SO規格を制定する動きが進んでいる。
ISOが設置した専門委員会(IS O/PC251委員会)が二〇一四 年を規格発行のターゲットとして以下 の規格文書作成を進めている。
● ISO 55000 Asset Mangement ─ Overview, principles, and terminology(アセットマネジメン ト−概要、原則、用語) ● ISO 55001 Asset Mangement ─ M a n a g e m e n t s y s t e m s ─ Requirements(アセットマネジメ ント−マネジメントシステム−要求 事項) 務を遂行していることを審査員が認め ればPAS55の認証を取得できる。
正規の規格にはなっていないものの、 一部の認証機関はアセットマネジメン トシステムについてのサービスを開始 しており欧州などでは実際に認証を 取得する会社も現れている。
PAS55ではアセットマネジメン トを以下のように定義している。
「系 統的かつ協調の取れた活動と実践によ って、資産および資産からなるシステ ム、それに関わるパフォーマンス、リ スク、組織の戦略計画を達成するた めの資産ライフサイクル全体での支出 を、組織が最適かつ持続可能な方法 で管理すること(筆者訳)」 これをかみ砕いて表現すると「設 備のパフォーマンスとリスクを所定の 水準に維持しつつ、コストを適切に管 理することによってライフサイクル全 体にわたる価値を最大化する」とい うことになる。
抽象的な表現である が、設備管理の場でしばしば遭遇す る以下のようなトレードオフの全てを 包含するものと言える。
●短期的なコストダウンと長期的な信 頼性のトレードオフ ●パフォーマンス向上とそのために必 要な費用支出のトレードオフ ●信頼性維持のための計画停止と信 頼性低下による故障停止のトレー ※ S O L E(The International Society of Logistics:国際ロジスティクス学会)は一 九六〇年代に設立されたロジスティクス団体。
米国に本部を置き、会員は五一カ国・三〇 〇〇〜三五〇〇人に及ぶ。
日本支部では毎 月「フォーラム」を開催し、講演、研究発 表、現場見学などを通じてロジスティクス・ マネジメントに関する活発な意見交換、議 論を行っている。
次回フォーラムのお知らせ 次回フォーラムは2013年8月13 日(火)、東京・浜松町の商工会館 6Fで開催する。
「システム・リスク管 理」などの研究発表が予定されてい る。
このフォーラムは年間計画に基づ いて運営しているが、単月のみの参 加も可能。
一回の参加費は6000円。
お問い合わせは事務局(s-sogabe@ mbb.nifty.ne.jp)まで。
