2013年8月号
現場改善

第125回 中堅日雑メーカーの自社運営センター改善

83  AUGUST 2013 荒れた現場が映すもの  A社は年商約三〇〇億円の日用雑貨品メーカ ーである。
北関東の同じ敷地内に本社と工場を 置き、全国を七つのブロックに分けて、それぞ れ支社を構えている。
物流拠点は工場隣接型 の本社センターのほか、関西と九州の計三カ所。
いずれも自社運営である。
 このうち本社センターにおける品質改善が今 回のコンサルティングのテーマであった。
かねて からA社は「長年の自社運営で染みついた?我 流?の物流で本当に良いのか」という疑念を持 っていたという。
さらには「物流品質の悪化が 進み、納品先の顧客から改善要請が出た」こと でプロジェクトの実施を決意した。
 短時間の現場見学とヒアリングを済ませただ けの「初期診断」の段階で既に多くの課題が抽 出された。
主なものをランダムに列記すると以 下の通りである。
●現場スタッフの若返りとパート比率の向上 ●整理・整頓(2S)の徹底 ●不動在庫の削減を含めた在庫の圧縮 ●資材発注点の定期的、能動的メンテナンスに よる過剰発注の抑制 ●製品破損、ピッキングミス(数量過剰)の撲滅 ●センターのワンフロア化による生産性の向上 ●ロケーションの見直しとメンテナンスルールの 設定  管理組織面にも課題があった。
今回のプロ ジェクトチームは経営管理室を中心に、工場長、 資材購買(調達)スタッフ、営業課長がレギュ ラーメンバーとして参画し、テーマに応じてシ ステム部担当者を招集するという体制であった。
A社に物流部はあるのだが、専任マネジャーは 不在で営業本部長が物流部長を兼務している状 態だった。
プロジェクトの仕切りを任せるには 無理があった。
 A社の支払物流費(主に運賃)は年間約九億 円で、約三〇〇億円の売上高に対する比率は三 %。
社内物流費を含むトータル物流コストは約二 一億円で、売上高の七%に達していた。
それだ けのコストが発生するメーカーであれば、生産部 門や営業部門から独立した物流部を持つのが定 石である。
 それが難しい場合には、営業ではなく、生産 に物流を付けたほうが得策だ。
営業に物流を任 せると、顧客の無理な要求や営業マンのイレギ ュラーな指示を黙って吸収してしまいコストア 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表  創業以来、自社運営を続けてきた物流センターの品質が悪 化している。
ついには納品先から改善要求まで突き付けら れた。
?我流?の管理に限界を感じた経営陣は外部の支援を 仰ぐことにした。
その結果、現場の状況は経営陣の予想し ていた以上に深刻であることが判明した。
中堅日雑メーカーの自社運営センター改善 第125 回 あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産業 大学経済学部卒業。
大手運送 業者のセールスドライバーを経 て、89年に船井総合研究所入 社。
物流開発チーム・トラッ クチームチーフを務める。
96 年、独立。
日本ロジファクトリー を設立し代表に就任。
現在に 至る。
主な著書に『経営のテ コ入れは物流改善から』(明日 香出版社)、『物流のしくみ』(同 文館出版)などがある。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp PROFILE AUGUST 2013  84 ップを招く傾向がある。
 物流にはその会社の実情が如実に現れる。
物 流現場を視察すれば、その会社の営業力や資材 調達力、システムに対する認識、人員配置の適 正度などが赤裸々に見えてくる。
A社の場合も そうだった。
右に挙げた課題は、物流だけにと どまらず、資材調達、受発注から製造、営業、 システム、人事にまで及ぶ、A社全体が抱える 問題を示唆していた。
 とはいえ、今回のプロジェクトの主目的は決 まっている。
それに従って改善課題に優先順位 を付けた。
 ?本丸?とされた物流品質の改善には、通常で あれば先述の「製品破損、ピッキングミス(数 量過剰)の撲滅」が最も効果的である。
しかし、 改めて現場を一回りしてみたところ、すぐさま それに取り掛かれる状態ではないことが分かっ た。
ミスの撲滅以前に現場環境の整備が全くで きていなかった。
具体的には以下のような症状 が見られた。
●照明が暗い ●棚番地表示が不明瞭 ●通路上にも在庫がある ●不要物が廃棄・処分されていない ●定物定位(置)の不徹底 ●身体に負荷の掛かる?かがみ?作業がある ●パレットの縦置き保管 ●製造シールのななめ貼り ●朝礼・昼礼の不徹底 ●作業動線が長い ●バラピッキングエリアの保管棚の背が高すぎる ●エリアを明確化するためのイエローラインが 消えたままになっている ●天地(無用)の不徹底 ●元箱管理ができていない ●あいさつができない  このラウンド視察を通じて筆者は、A社の言 う「物流品質の悪化」とは、製品破損やピッキ ングミスの問題に収まるものではないであろう ことを確信した。
それだけ現場が荒れていたの である。
破損事故は輸送中に起きていた  そこでまずはプロジェクトメンバーたちの ?目線?を合わせることにした。
メンバーを連 れて再度、センターを一回りして、何が、どの ように良くないのか、一つ一つ説明して、現状 認識の共有を図った。
 次にメンバーからA社の物流品質の実績デー タを見せてもらった。
案の定、そのリストには 「製品破損」と「ピッキングミス」の二項目しか 設けられていない。
「その他」の欄さえなかった。
これでは実態は把握できない。
A社の経営陣が 物流品質に対して不安になるのも当然だった。
 こうなると品質項目の設定とデータ収集方法か ら着手して、KPIを開発するところまで持っ ていかなくてはならない。
プロジェクトチームの 仕事が当初の想定より大幅に増えることになる。
 また、その時点で入手できた限られた実績デ ータだけでも、品質の悪化が進んでいることは 明らかであった。
二〇一〇年には出荷量ベース で製品破損とピッキングミスが合わせて〇・一 一%だったものが、一二年三月には〇・三〇% に悪化していた。
 この事態を受けて、プロジェクトチームを「企 画チーム」と「改善チーム」の二つの班に分け た。
企画チームは品質管理項目の設定と情報収 集を担当し、改善チームは「製品破損・ピッキ ングミス」の重点二項目の原因究明と改善策の 抽出、実行、定着を担当するという役割分担だ。
 我々日本ロジファクトリー(NLF)は企画チ ームに対して会議形式で進め方を指導する一方、 改善チームにはNLF自身も入り込んで、現場 検証、ヒアリング、再調査を通じて仮説を立て、 それを一つ一つつぶしていくという作業に直接 当たることになった。
 まず「製品破損」の内容を調べた。
センター 内の落下事故は皆無に等しく、リフトマンのス キルも悪くなかった。
出荷時の検品もダブル検 品をそつなく処理していた。
そこでクレーム窓 口の担当者に詳しく話を聞いてみたところ、破 損事故が発見されるのは通常、納品先での検品 時だという。
 破損の多くは輸送中に起きている可能性があ った。
顧客への納品には主に路線便(特別積合 せトラック運送)の朝一便と最終の五便を利用 していた。
両便とも同じ路線会社がメーンであ った。
その路線会社にすぐに連絡を取り、視察 の了承を得て、クレーム窓口担当を連れて現地 に向かった。
 A社のセンターから車で一五分ほどの距離に その路線会社の集荷ターミナルがあった。
一連 の作業を見ていると、エリア別に仕分けるため 85  AUGUST 2013 に同じ荷物を四回もハンドリングしている。
荷 扱いも決して良いとは言えなかった。
 その場で筆者はクレーム窓口担当に尋ねた。
「破損は外装破損ですか」「はい、大半が外装で す。
中身の製品自体が破損しているというクレ ームはほとんどありません」「ほとんどという のは、どれくらいの期間に一件発生するレベル ですか」「一年に一回あるかないかです」  正確を期すには、企画チームによる実績データ の再集計の結果を待つ必要があったが、これで 目星は付いた。
そこから、協力運送会社を対象 とする「定期的な輸送品質会議の開催」と「ペ ナルティ制度の導入」の二点を具体的な改善策 として提示した。
ポイントは以下の通りである。
?定期的な輸送品質会議の開催 ──当初は月一回の開催とする。
改善が進んだ 段階で、三カ月に一回に頻度を下げる。
ただし、 重大クレーム発生時には、その協力会社との個 別会議および臨時招集会議を行う。
──協力運送会社全体で品質情報を共有する。
クレームや事故が発生した時に作成する「クレ ームおよび事故事例文書」に画像を添付して回 覧。
各社は内容を確認した後、完了メールをA 社に送付する。
──明快な資料を準備する。
毎回の輸送品質会 議で、要因別、路線会社別の品質実績の集計資 料を配付する。
分かりやすい資料にして、A社 からの改善要望事項は三つまでに絞る。
?ペナルティ制度の導入 ──それまでA社は協力運送会社への弁済保障 を基本的に行っていなかった。
これを改め、協 力運送会社の責任が明確な場合には金銭弁済の 請求を行う。
 さらに、これらの取り組みを翌月の四月に開 始するという計画書をまとめて、A社の社長に 承諾を取り付けた。
奇妙なローカルルールを発見  次は「ピッキングミス」の撲滅である。
その 内容を調べてみると大半は「数量過剰」であっ た。
通常、数量過剰はクレームにならない。
数 量不足が大半であるはずだ。
それがA社の場合 は逆だった。
 ここから納品先がバーコードによる入荷検品 を行っていて、その実績データを残す仕組みを 持っていると推測できた。
A社の主な納品先は ホームセンターをはじめとする量販店の専用セン ターで、ほとんどがノー検品のはずだから、こ れは意外であった。
 さらに調べていくと、B社とC社という二つ の納品先で数量過剰が集中して発生しているこ とが分かった。
そこで現場の基本動作をチェッ クしたが、原因はつかめなかった。
ところが現 場のパートたちと雑談を交えてヒアリングして いるうち、気になる話を耳にした。
 「こうして数量に自信がない時は一つか二つ、 多めに入れておくんです」とベテランパートが 漏らした。
その理由を尋ねると、前任のセンタ ー長からB社とC社に関しては、このように作 業するよう指示を受けたという。
 この話をプロジェクトメンバーたちにぶつけて みた。
するとB社とC社は、一定の納品率を下 回った場合に、欠品ペナルティをA社に課して いることが分かった。
それを避けるために現場 では、不安がある時には多めに出荷することを ルールにしていたのである。
そこで次の対策を 打った。
■B社とC社に対するローカルルールを撤廃し、 他社の出荷と同様に扱う ■国内自社製品はJANコードによるバーコー ド検品を行っているが、海外調達品の一部は バーコードがないため現状では目検品になっ ている。
システム部を中心に海外調達品の荷 受け時に自社コードを発行する仕組みを作り、 バーコード検品の対象を全品に広げる  こうして改善活動が動き出した。
その後、企 画チームから、ほぼ正確と言える実績データも 上がってきた。
その結果、数量過剰以外に、品 違いや納品先シールの貼り間違い等が多発して いることが分かった。
問題が起きても現場の当 事者間で解決してしまい、上層部に報告が上が っていなかったのである。
 着手から四カ月目に入った現在、少しずつ成 果が表れてきた。
しかし、まだまだ?モグラた たき?の域を出ていない。
あいさつや整理整頓 の徹底を継続できないと、すぐにリバウンドを 起こして、ミスを多発させてしまうだろう。
「環 境整備」をおろそかにしたまま、品質が向上す ることはないのである。

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