{literal} {/literal}

2013年11月号
keyperson

「衰退への危機感が革新へと駆り立てる」 ヤマトホールディングス 木川眞 社長

NOVEMBER 2013  6 から社内にはあったんです。
従来の宅 急便のネットワークは年間の取扱個数 が三億個ぐらいの時に確立したもので す。
それが今や一五億個弱。
これが一 九年に二〇億個になれば、従来のまま で機能するわけがない」  「しかし、それまで築き上げてきた、 きれいなハブ&スポークの仕組みや ドライバーが培ってきたノウハウなど、 宅急便の仕掛けを大きく変革しようと すれば失うものだってある。
問題は変 革のボタンを誰がいつ押すのかという 問題でした。
それには私のような外部 から来た人間の方が、しがらみがない だけかえっていい」 ──バンカーとして木川社長は多くの 企業と対峙してきたはずです。
その目 にヤマトという会社、あるいは“小倉 イズム”はどう映ったのでしょうか。
 「〇五年に私がヤマトに来た時点で、 当時の有富慶二ヤマト運輸会長(現・ ヤマトホールディングス相談役)は既 に強い危機感を持っていました。
『今 のままだとコスト倒れになる。
荷物は 増えても利益が上がらない企業になる。
つまり成長力を失う。
国内だけだと人 口減少でパイも減ってくる。
今から一 〇年後にはヤマトグループが成長力を 維持できているか分からない』と」  「世間から見れば、ぶっちぎりのナン バーワンを走っているのに、社内では “小倉イズム”の本質 ──今年七月、ヤマトHDは「バリュ ー・ネットワーキング構想」を発表し ました。
これを路線便事業進出、宅 急便開発に続く「第三のイノベーショ ン」と位置付けています。
 「過去二回のイノベーションはいずれ も明確な業態転換でした。
それに対し て今回やろうとしているのは事業構造 改革です。
その一つにコスト構造改革 があります。
宅急便の取扱個数は通販 の成長などでまだまだ伸びると思いま す。
しかし、従来の構造のままでは 荷物の量が増えていくに従って人や拠 点、車両も増やし続けなければいけな い。
これから少子高齢化で人は雇いに くくなっていくし、固定費ばかり膨ら んでしまう。
取扱個数が増えてもコス トは抑え、サービスレベルを維持した まま荷物を届けられる仕組みに作り変 える必要がありました」  「また我々は『 to C(消費者向け)』 で圧倒的な強みを発揮してきた会社で すが、日本経済の置かれた状況を考え れば、 to Cだけに依存した形で将来の 成長戦略を描くのは難しい。
そこで宅 急便の強みを生かしながら、『B to B (企業間物流)』の領域でも新しい価値 を生み出せるようにネットワークを進 化させることで成長を続けていこうと 考えています。
今やお客様の荷物はボ ーダーレスに海外とつながっているの で、必然的に我々もネットワークを海 外に広げていくことになります」 ──そのための新たな拠点として九月 には約一四〇〇億円を投じた「羽田ク ロノゲート」がオープンしました。
こ の他、八月に稼働した「厚木ゲートウ ェイ(GW)」と関西、中部のGWで、 総額二〇〇〇億円にも上る設備投資 は、ヤマトにとっても大きなチャレン ジです。
 「その通りです。
これまでの仕事の 仕組み、やり方のままでは、とても回 収できない金額でしょう。
来年度から 始まる次期三カ年は、財務負担も重く なる。
しかし、それを乗り越えていく 過程で、新たなビジネスが定着し、新 たな利益が生まれてくる。
そのために、 仕事のやり方からネットワークまで大 きく作り変えるんです」 ──ヤマトの生え抜きではない、メー ンバンク出身の木川社長が、二〇〇七 年には事業会社のヤマト運輸の社長を 務め、ホールディングスの社長になっ たら今度はリスクを取って大改革に乗 り出した。
やや意外感があります。
 「幹線輸送を五月雨式に運行させる ゲートウェイ構想などのアイデアは昔 ヤマトホールディングス 木川眞 社長 「衰退への危機感が革新へと駆り立てる」  業績好調な今、あえてリスクを取って「第三のイノベーション」 に踏み切った。
三〇年掛けて築き上げた宅急便のビジネスモデルに メスを入れ、ハブ&スポークのネットワークから社員の働き方まで変 革する。
成功体験に安住せず、常に次の手を打ち続けることに“小 倉イズム”の本質があるという。
(聞き手・大矢昌浩、藤原秀行) 7  NOVEMBER 2013 『このままでは滅びるぞ、どうするん だ』と常に侃々諤々やっている。
その 姿が私にはとても新鮮で、そこに小倉 イズムの本質を見た気がしました。
世 間では宅急便という新しいビジネスモ デルを作り出して経営危機を乗り越え たことが賞賛されているけれど、その 成功体験を誇るのではなく、二度とあ あいう苦しい思いはしたくない。
だか ら常にイノベーションを起こす。
元気 なうちに次の手を打ち続ける。
それが 小倉イズムなのだと受け止めています」 ──そんな会社は珍しい?  「業績が悪化した会社が大なたを振 るう場面には、銀行マンとして何度も 居合わせてきました。
しかし、優良と いわれている企業が次の一〇年のため に、ここまで大きなリスクを取るとい うのはあまりない。
宅急便がこれほど 成長したのも成功に安住せず、小倉さ んが良い意味で危機感を煽ってきたか らだと思います。
その風土は今も綿々 と受け継がれています」 ──事業構造改革を急ぐのは少子化や グローバル化と並んで、ネット通販の 爆発的な拡大も大きく影響しているは ずです。
 「その通りです。
今や宅急便全体の 半分近くが to Cの荷物で、純粋にC to Cの荷物は全体の一割くらい。
残りの 四割以上がB to Cで、それが市場の成 GWは二四時間三六五日稼働で、通 常のターミナルと違って発着の同時処 理ができる。
レギュラーのチャーター 便に積みきらなかった荷物だけを持ち 込んでもらってもいい。
我々はそれを 『クラウド型』の物流と呼んでいますが、 宅急便のインフラをつまみ食いしてい ただくことで、荷主は物量の変動に対 応する必要がなくなる。
トータル物流 コストを削減できます。
クラウド型の 物流ネットワークを使えば、在庫を分 散させたままでも必要な場所に即座に 届けられる。
在庫水準を抑制できます。
物流が付加価値を生み、これまででき なかったビジネスが可能になります」 ──それが「バリュー・ネットワーキ ング」だとすると、新しい発想だけに 使いこなす側にもかなりの創造性が求 められそうです。
 「具体的な事例を積み上げていくこ とで、自ずと理解してもらえるように なるはずです」 長を牽引している。
しかも、eコマー スの事業者もそうだし、コンシューマ ーの意識がどんどん変わっている。
と もかく発注したらすぐ欲しい。
品質に 対する信頼感はもともと日本は抜群で すから、速く届けることが満足度の決 め手になる。
納品が早いと返品も減る。
そのニーズに我々は応えていかなくて はなりません」 宅急便の締め時間がなくなる ──B to Cの拡大とともに宅急便の単 価が下がっています。
 「大口のお客様は集荷や仕分けが不 要だったり、積載効率が良かったり、 サイズが安定していたりで、必然的に 単価は安くなる。
そのため大口が増え ると全体の平均単価は下がるけれど、 サービスに見合う対価はちゃんと頂い ています。
特にこの一、二年は着実に 値段が上がってきている。
価格競争が 落ち着いて、以前のように無理に値段 を下げてライバルの荷物を取りに行く という動きはなくなりました」 ──大手ネット通販には配送の自社化 を進める動きもあります。
新たなライ バルになる可能性は?  「ネットスーパーやコンビニが配送を 自前でやられるというのは顧客に対す るメッセージとしてよく理解できます。
しかし、それを全国展開しようとは考 えていないはずです。
そうした細やか なエリア配送と、ネットワークをベー スにした我々の配送は棲み分けができ る。
むしろ協力関係を持つことで共存 共栄できます」 ──ネット通販が配送自社化に取り組 む一つの理由は、宅急便をはじめとす る宅配便が高度にパッケージ化された サービスで柔軟性に欠けるからだと思 います。
その一つが受け渡しの締め時 間の問題です。
ホームページも物流セ ンターも二四時間動いているから深夜 にも出荷したいというニーズがある。
 「分かっています。
既に我々は通販 向けの『T S S(Today Shopping Service』で、深夜〇時に受注した商 品をその日の午前中に届けるというサ ービスを行っています。
しかし、それ を広域でやるには、従来の宅急便の インフラを変えなければならなかった。
宅急便に締め時間があるのは、幹線輸 送の最終便の出発時間が決まっていて、 それに間に合わせないと翌日に届けら れないからです。
夜九時になると全国 六九のベース店から各ベース店に向けて、 六九×六八便の幹線輸送車が一斉に出 発する。
その幹線輸送車をGW間では 一日何便も五月雨式に走らせます」 ──GWに商品を持ち込めば締め時間 が事実上なくなるということですか。
 「そう考えていただいて構いません。
木川眞(きがわ・まこと) 1949年生まれ。
広島県出身。
一橋大学商学部を卒業後、73 年富士銀行( 現みずほ銀行) に入行。
2002年みずほコーポ レート銀行常務執行役員、04 年常務取締役。
05年ヤマト運 輸入社、06年4月ヤマトホール ディングス代表取締役常務執行 役員、11年4月より現職。

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから