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2013年11月号
特別レポート

日系化学メーカーの3PL活用導入計画が頓挫する3つの要因 デロイト トーマツ コンサルティング 森田哲平 シニアマネジャー

NOVEMBER 2013  40 化学業界の物流は特別なのか  日本の化学業界では3PLが他の業界ほど普及 していない。
図1に挙げた通り、これまでに大手 総合化学企業による大規模な3PL導入や、外資 と日系の合弁企業による取り組みなどが先行事例 として伝えられているが、その後が続かない。
 筆者のこれまでのコンサルティング経験から、3 PLの導入が検討の俎上に載ったことがない化学 メーカーはほとんど存在しないものと認識してい る。
しかし、実際に導入を図り、コスト削減や物 流管理の高度化などの果実を享受している企業は あまりに少ない。
その理由として以下のような声 を耳にしている。
 「これまでも継続してコスト削減を含めた物流高 度化を進めてきた。
3PLの枠組みを導入して本 当に大きな効果が出るのか(余計なマージンを取ら れるだけではないか)」  「業務や物流がブラックボックス化してしまい足 抜けできなくなる( =結果としてコストが上がる) リスクは担保できるのか」  「化学業界の物流は安全品質が絶対だ。
外から来 た業者でこれまでの安全品質レベルを維持できる のか」  はたして、化学業界の物流は特別であり、3P Lはなじまないのであろうか。
他の業界と違って 化学業界だけは、今後も物流子会社や歴史的に付 き合いのある既存協力会社との取引を中心とした 自己完結的な物流が続くのであろうか。
 筆者の答えは否である。
我々が把握している限 り、荷主企業が自分で合理化を進めた時のトータ ル物流コストの削減率(三〜四年間の実績)は年 間せいぜい数%である。
これに対して3PL化し た企業は一〇〜二〇%のコスト削減を実現してい る。
3PL化のもたらす効果はあまりに大きい。
 3PL化が非連続的な物流機能の強化をもたら すことは化学業界においても変わりはない。
そこ で本稿では、これまで化学業界で3PL化が進ま なかった原因を考察し、適切な3PLの導入と運 用によって継続的に効果を創出するための考え方・ 方向性を論じていきたい。
3PL化が頓挫する要因  3PL化が頓挫する要因については、企業によ って事業環境が多様である上、物流子会社を保有 しているか否かなどの違いもあり、一口で答えを 言うことは難しい。
トップを含めた推進体制に問 題がある場合もあれば、導入時の契約・ビジネス スキーム上の不具合により、自社・3PL両者の モチベーションが上がりきらないなど、個別の理由 はいくつも挙げることができる。
 それでも、これまでのコンサルティング経験や、 日系化学メーカーの3PL活用 導入計画が頓挫する3つの要因  日本の化学業界は3PL 市場拡大の波から取り残され ている。
各社とも物流の現状に危機感を抱き、3PL の 導入を検討しながら、実施には踏み切れずにいる。
大 きく3 つの理由がある。
それをどう克服すべきか。
化 学業界の最前線で活躍するコンサルタントが解説する。
デロイト トーマツ コンサルティング 森田哲平 シニアマネジャー 図1 化学業界における代表的な3PL事例 日系総合 化学企業 A社 合弁基礎 化学企業 B社 ●徹底的な物流合理化を目的に  3PLを導入 ●元請けとして全面委託していた 物流子会社は本体に吸収、物 流オペレーション子会社は物流 専業会社に売却するなど組織 改革も断行 ●物流合理化とITシステムの充 実を目的に3PLを導入 ●物流の全面委託によってデータ 可視化レベルが向上し、物流 機能基盤の構築に成功 41  NOVEMBER 2013 化学業界各社との日々の意見交換から、数々の問 題点は次の三つの要因に収斂されるものと考える (図2)。
要因ごとにそれぞれ説明したい。
?物流データの不備  化学業界の多くの企業が自社物流の状態を把握・ 理解できていない状況にある。
管理システムが十 分に機能し、オペレーションが標準化され、十分な 見える化が進んでいるケースはまれである。
 先日、筆者が訪問した某メーカーでは、情報シ ステム上で見える化されている領域が同社の物流 全体の四割程度に限られていた。
かつ輸送データ は事業別・工場別に分かれており、全社横断での 情報収集や比較検討は取っ掛かりすらつかめない 状況にあった(図3)。
 化学メーカーの物流担当者は一般的な日本企業 のジョブローテーションの枠組みの中で物流部門に 配属されている。
異動のスパンは三年前後で、現 場の実態を理解し始めた段階で次のローテーション にかかってしまうことが非常に多い。
 抜本的な物流の変革を検討しろと命じられても、 事業・工場横断での自社業務の活動上の課題を棚 卸し、輸送実態を把握し、外部活用によるコスト 削減余地を検討するとなれば、情報収集だけで任 期が終わってしまう状況にある。
 物流子会社を保有しているケースでも大きな違 いはない。
子会社が親会社の全ての物流をカバー しているケースはまれである。
しかも、親子間で 毎年タリフ交渉があるため、子会社は物流の実態 を親会社へ全て開示することには抵抗がある。
そ のために前向きな検討が行えない状況に陥ってい ることが多い。
?知識武装の不足  二つ目の要因は、3PL活用を検討する上での 知識武装不足である。
「外部へ一部業務を任せるこ とに対する不安感がぬぐえない」「ガバナンスが担 保できないために改革が進まない」「3PL化の目 的・目標に対する認識がずれており議論がかみ合 わない」などの取り組み推進上の壁は、ほぼこの ポイントに原因を求めることができる。
 3PLという言葉や他社の成功事例に踊らされ て、何を目的に、どのように外部を活用すべきな のかを真剣に議論せず、自社にとって最適な姿を 固めないまま、他社の物まねや3PL事業者の提 案をうのみにして改革を進めれば、取り組みが頓 挫するのは火を見るより明らかである。
 3PL化とは外部事業者との協業スキームを構 築することであり、役割分担のあり方やスキーム構 築におけるパターンは細かく分ければ会社の数だけ 存在する。
 そのため、現状の自社物流機能に対する課題だ けでなく、トップから現場に至るまでの3PL化 に伴う懸念事項や課題の棚卸しを行うことが重要 である。
その結果、通常は図4のように「効果に 対する懸念」から「物流オペレーションの継続性へ の懸念」まで幅広い課題が抽出されることになる。
図2 3PL 化検討・導入が頓挫する3つの理由 3PL 化検討・導入が進まない 個別の問題点(例示) 3つの理由 ●導入に対する懸念事項を解消できず 改革導入につきものである、「改革効果」や「ブラック ボックス化」への懸念、「安全品質」への懸念などが 解消できなかった(⇒結果、検討のみで導入まで至ら ず) など ●実行が中途半端/最後まで推進できず 工場主体の導入で、営業側からの協力が得られず、 効果がなかなか出なかった 導入まで1 年以上掛かる取り組みのはずが、中途半 端なタイミングでプロジェクト体制が縮小したため、実 行まで改革コンセプトが伝わりきらなかった など ●ビジネススキームがうまく組めず 荷主サイドに一方的に偏った契約スキームとなり、 3PL事業者側のやる気がなかなか出なかった( 結果、 合理化も進まず) 契約内容(特にSLA)の定義が甘く、導入後に荷主 側と3PL 事業者側で業務の押し付け合いが発生 など ? 物流変革推進の要となる 物流データの不備 ? 3PL 活用に対する 知識武装の不足 ? 導入段階での パワーバランスの偏り 図3 物流データ整備状況(例) 加重平均 40% 75% 45% 30% 70% 55% A事業部 25% B 事業部 C 事業部 出所:デロイト トーマツ コンサルティングプロジェクト事例より 基幹システムで一括取得可能 基幹システムと事業部データとの突き合わせが必要 基幹システムと工場データとの突き合わせが必要  その上で外部の有識者や既に3PLを導入して いる業界他社へのヒアリング等を通じて、課題や懸 念事項を総合的に解決する「自社にとって最適な 3PLの姿」を定義する。
抽出された課題を丁寧 に解きほぐし、改革の進め方や3PL事業者との 役割分担、契約・ビジネススキームなどの詳細を詰 めていき、3PL化の姿を総合的に描く。
 それによって、多重のセーフティーネットを張っ た自社にとって最適な3PL化の枠組みを構築す ることが可能となる。
繰り返すが、取り組みの当 初に、懸念事項や課題の棚卸しを幅広く行う、外 の意見を柔軟に取り入れるなどの丁寧さが求めら れるのである。
?パワーバランスの偏り  最後の要因は荷主と3PL事業者間のパワーバ ランスである。
 日本の化学企業は物流に限らず歴史的に自前で 業務機能を構築してきた。
特定の業務機能を外部 に任せる/協業するというスキームを大規模に導入 した経験は多くはない。
そのために導入段階で荷 主側・3PL事業者側のどちらか一方にパワーバラ ンスが過度に傾いてしまうことがある。
その結果、 スキームに歪みが生じて取り組みが頓挫してしまう。
 荷主側(化学企業側)に偏ったスキーム構築は、 短期的には大きな効果創出が見込めるものの、長 期的には提携解消となるリスクが高い。
さらには、 危険物・毒劇物などを扱うことのできる3PL事 業者は限られており、最初に提携する3PL事業 者からの悪評は3PLの枠組みを長期的に継続す る上で致命傷となる可能性もある。
 一方で、3PL事業者側に偏ったスキーム構築 は、コスト削減効果が創出されにくく、長期的に 3PL契約が白紙に戻るリスクが高い。
 パワーバランスの偏りは多様な理由から生じ得る。
荷主の事業部主導で契約・スキーム交渉を行う場 合には、短期的利益創出の観点から荷主側に偏っ た条件になりやすい。
また、3PL事業者側も強 い意志と中長期的な戦略視点を持った担当者が交 渉に当たらないと、荷主と物流企業という上下関 係に流されて、3PL事業者が一方的に搾取され るような偏った契約条件に陥りやすい。
 これらの問題を避けるには、荷主の物流部門が 主導権を持って取り組みを進めていくことが望ま しい。
物流部門が事業部と3PL事業者の中間に 立ち、長期的に双方がメリットを享受可能である ことを前提に、適度な緊張関係を保ちつつ、可能 な限りのメリットを得るという視点で、スキームを 構築するのである。
“強い物流”への変革モデル  ここまで述べてきた3PL化の検討・導入が頓 挫する要因に鑑み、期待した効果を確実に創出で きる3PLの導入を行うには、次の三つのポイン トを押さえた取り組みを進めていくことが有効で ある。
三つのポイントとはすなわち「1.コンセ プトを練り上げる」「2.入念な事前準備により本 気の提案を引き出す」「3.契約・ビジネススキー ムに魂を込める」である(図5)。
NOVEMBER 2013  42 図4 典型的な懸念事項(例) 戦略面 サービスレベル低下 既存物流会社の抵抗 合理化効果不足 営業機密漏洩 荷主の物流機能低下 法令違反 ブラックボックス化 安全・品質レベル低下 長期契約による モチベーション低下 財務面 業務面 顧客の声が3PL事業者で止まってしまい、従来の自社物 流よりも顧客へのサービスレベルが低下するのではないか 既存物流会社から3PLへの参画を断られ、顧客への安定 供給/輸送責任が果たせなくなるリスクがあるのではないか 既存物流会社と荷主の間に3PL事業者が入ることで、マー ジンが上がるだけではないのか 競合他社と同じ物流事業者を起用することで、営業機密 が漏洩するのではないか 化学業界の荷物は取扱条件や法規制が特殊なものが多 く、安全・品質が現状よりも低下するのではないか 長期に契約すると、3PL事業者のモチベーションが下がり、 改善提案が出てこなくなるのではないか タリフ等に対する荷主のチェック機能や、トラブル対応能 力が失われるのではないか 中小物流事業者に対するタリフ引き下げが、独禁法等の 法規制に触れてしまわないか 委託した業務が不透明化し、3PL 事業者に依存してしまう のではないか 図5 変革を推進する3つのポイント 【基本コンセプト】 1.自社に最適な3PLコン セプトを練り上げる 【入札プロセス】 2.入念な事前準備により 本気の提案を引き出す 【契約・スキーム】 3.契約・ビジネススキーム に魂を込める ポイント 1 コンセプトを練り上げる  取り組み初期に内部・外部を含めて情報を洗い 出し、徹底的な議論により自社にとって最適な3 PLの姿を明らかにすることは、その後の全ての 活動のよりどころとなる。
具体的には次の三点を 中心に、自社物流企画機能の客観的な評価を行う ことが有用である。
?現在の自社物流企画機能は、先進他社(大手3 PL業者)と比較して、どのレベルにあるのか? ?レベルが低い領域は、事業戦略を実現するため の物流戦略を実行していく上で、ボトルネックと なり得るか? ?ボトルネックとなり得る場合、強化に向けて(外 部からの人材登用や情報システム化などの)投資 を積極的に行っていけるか?行っていけない場 合、どこまで外部能力を活用していくべきか?  当社のこれまでの経験では、化学企業の物流企 画機能を大手3PL事業者と比較検証すると、ほ とんどの場合、「コスト削減」「管理インフラ」の 面で荷主側が大幅に劣っているという結果が出る (図6)。
 「コスト削減」において、3PL事業者に一日の 長があるのは当然であろう。
しかも、荷主と違っ て3PL事業者は数多くの荷主から委託された物 流全体をベースに施策を検討することができる。
 日本では大手物流業者が事業部門として3PL を行っていることが多く、物流コストの実態と構 造を把握している点も大きい。
物流業者にとって は、決められたタリフの中で利益を最大化するた めに徹底した合理化を行うことが、最も大切な業 務遂行能力の一つである。
 「管理インフラ」についても同様だ。
化学企業は 歴史的に多様な荷姿や物流特性を持った各種製品 の新規立ち上げ・撤退を繰り返してきており、物 流情報システムの整備がそれに追い付いていないこ とが多い。
情報システムが物流実態を部分的にし かカバーしていないと、施策検討の前段階でつま ずくことになる。
 一方、物流業者でもある3PL事業者は、荷主 に料金を請求する上で、また自社の損益管理上も、 オペレーションの実態把握を欠かすことができない ため、情報システム投資を継続的に行ってきてい る。
荷主はこれを利用することでシステム開発の負 担を軽減できる。
 こうして3PLや先進他社との比較検討を通じ て、自社機能の強化が必要な領域が明確化された 後は、課題ごとに強化の方向性を見極めていくこ とになる。
領域ごとに自前 VS 他力活用を検討し、 どの領域においてどのように外部活用を行ってい くのか、コンセプトを構築する。
 ある中堅化学メーカーは、それまで中期計画の 検討・策定の都度、事業・工場ごとに3PL化の 43  NOVEMBER 2013 図6 弊社支援実績における物流機能評価結果 3PL 優位 安全・品質機能 グリーン物流機能 海外物流機能 管理インフラ機能 コスト削減機能 出所:デロイト トーマツ コンサルティングプロジェクト事例より 荷主優位 10% 90% 60% 40% 70% 30% 80% 20% 90% 10% 図7 3PLコンセプト(例) 共同企画型 3PL 事業者と荷主が協 力して企画業務を実施 戦略 企画 作業 コスト削減機能 海外物流機能 管理インフラ機能 委託企画型 3PL事業者に企画業務 を全面委託 ブラックボックス化の懸念 から採用されず 戦略 企画 作業 自前企画型 自社で構想・企画を行い、 作業のみ外部委託 戦略 企画 作業 自社保有 安全・品質機能 グリーン物流機能 検討を行いながら、一度も実行には至ったことが なかった。
自社内の意見を集約できないことが主 な原因であった。
その反省を生かして、新たに立 ち上げたプロジェクトでは事業・工場横断での物流 企画機能の評価を一定の期間を掛けて入念に行い、 事業部長・工場長から各現場の統一見解をまとめ 上げることに注力した。
 コスト削減を主眼とした企画機能が3PL事業 者と比較して劣っていることは調査結果から明ら かであった。
足元の事業収益が悪化局面にある現 状では看過できる問題ではなく、物流の状況が致 命的であるとの認識が組織内に共有された。
そこ から外部活用によって弱い領域を強化し、同時に その他の企画機能については自社で行っていくと いう「3PLコンセプト」を作り上げた(図7)。
 出来上がったコンセプトは、これまで何度も頓挫 した際の検討結果と大きく違うわけではなかった。
それでも客観的な評価とキーマンを巻き込んだ検討 プロセスによって、無事に実行につながり、四年 間で一五%以上の合理化効果を発現させるという 目標を達成することができた。
ポイント 2 入念な準備で本気の提案を引き出す  3PLコンセプトの策定後は、いかに自社にとっ て適切な外部パートナー(3PL事業者)を選ぶ ことができるかが最重要ポイントになる。
その選 定プロセス自体は、原材料や高額設備、サービス等 の調達と大きく変わらないため、経験がなくても イメージしやすいだろう。
 ただし、前項でも触れた通り、化学企業は特定 業務機能の委託や協業というスキームに不慣れであ る。
我々の経験上、当該スキームの構築・導入は、 荷主側、3PL側とも本気となって取り組む関係 を築くことができるかに掛かっている。
抽象的な 表現になるが、両者の相性にその成否は大きく左 右される。
 では、相性を見抜くために何を行うべきか。
各 社の文化や担当者の雰囲気などの定性的で直感的 な評価も大事だが、最も大切なことは、3PL事 業者に本気で提案してもらうことである。
3PL 事業者のエース級の人材を提案チームに入れてもら い、十分な事前検討を踏まえた提案をもらうこと である。
 そして本気の提案をもらうための肝は、「RFP (Request for proposal=入札依頼書)」にある。
R FPには、自社の3PLコンセプトを実現するため に期待することを明示するのは当然として、精度 の高いコスト削減余地の見積りや安全品質上の取 り組み提案などに向けて、徹底的に自社の物流実 態を開示することが重要である(図8)。
 設備投資やIT投資の時と同様に、パートナー として協業することになる3PL事業者を選ぶ際 には、現場作業を含めた実態を把握している既存 の協力会社が圧倒的に有利である。
既存協力会社 は、それまでに蓄積された現場情報や企業内の人 的ネットワークをフル活用し、実現性が高く効果も 大きなコスト削減施策や、現場実態を理解した心 に刺さる品質改善の提案を行うことができるとい うアドバンテージがある。
 本来選ばれるべき力を持った新規事業者であっ ても、RFP上での情報開示が限定的であれば、 既存会社に対して勝ち目がないと判断する。
その ため、次のコンペに呼んでもらえる程度の提案で 済ませてしまおうということになりやすい。
 そうなると、新規・既存の括りを超えて、自社 のコンセプトに最も合致した、中長期的にも相性が 良い3PLを選定したいという希望が叶わないだ けでなく、既存協力会社側でも“自社が選ばれる ことは既定路線”と勘違いして、提案に手を抜く ということまで起こり得る。
 また、これも先に触れた通り、多くの化学企業 において、コスト削減余地を見積ることが可能な レベルの詳細な物流コストの金額データは情報シス テム上に半分程度しか存在しておらず、残りは紙 ベースや個人のExcelファイルなどに情報が散 在しているのが実態である。
 我々の経験上、RFPに必要な物流データを整 理するのに少なくとも三カ月以上の時間が掛かる。
当然ながら、データの精度が低ければ、コスト削減 NOVEMBER 2013  44 図8 RFP掲載項目(例) 要件伝達 実態伝達 乗り越えるべき課 題・目標を共有する 事業特性を反映した 物流ニーズを伝える ケイパビリティを最 大限に発揮させるた めに、徹底的に実 態を開示する ●入札の背景と目的 ●改革方針 ●必要応札項目 ●契約方針 ●評価基準概要 ●検討スケジュール ●会社・事業・製品概要 ●委託対象範囲 ●詳細物流データ 狙い掲載項目(例) 効果などの見積り精度は低くなる。
事業者選定の 評価は難しくなり、かつ契約交渉時に大きな溝を 生んでしまう。
3PLコンセプトが確定した以上、 すぐに実行に移したいというはやる気持ちを抑え、 適切な検討・準備期間を設けることが大事である。
ポイント 3 契約・ビジネススキームに魂を込める  三つ目のポイントは、契約・ビジネススキームで ある。
荷主と3PL事業者が企画業務を共同で行 うことを志向した3PLコンセプトでは、報酬体系 (プロフィットシェアの考え方・仕組み)が最も難 しい検討事項の一つになる。
 報酬体系は3PL事業者側のモチベーションやコ スト削減効果に大きな影響を及ぼす。
しかし、我々 がこれまで見聞きしてきた数々の3PL化の検討の 中で、十分な検討・討議を経て報酬体系を決定し た例はまれである。
検討中に数々の論点が噴出し、 その優先順位や整理ができないまま、スケジュール 上のデッドラインを迎えて時間切れになり、安易な 決着をしてしまうことが多い。
 報酬体系の設計 は、「発生コストの 実態を踏まえた報 酬の考え方」を整 理することがポイ ントとなる。
 共同で企画を行 う3PLの場合、 発生するコストは 「企画業務に関わ るもの」と「実物 流業務に関わるもの」に分けられる(図9)。
 このうち「企画業務」コストは、荷主側にとっ て本来的にはコスト削減を含めた効果創出を狙うた めの投資であり、効果が出なければ払わないとい うスキームもあり得る。
一方の「実物流業務」コ ストは、実費が発生するコストであり、業務に合 わせて対価を支払うべき領域である。
 上記の発生コストの実態と支払いに対する考え 方を前提に、報酬体系のパターンは大きく二つに分 けられる。
?企画と実物流を分けて報酬体系を構 築するパターン、?企画と実物流をまとめて報酬 体系を決めるパターン──である。
 発生コストの実態を踏まえると、?のように二つ を分けたほうが適切に見えるが、実際には半分以 上が?の「全て込み」での報酬体系を組んでいる。
いわゆる“元請型3PL”のかたちである。
この パターンが選ばれている最も大きな理由は、タリフ での契約がメーンとなるため、管理が単純で合理 化効果が見えやすいことにある。
 一方で、企画費用と実物流費用がタリフに合算 されているため、物流の実態(金額含め)が見え づらく、ブラックボックス化の温床となるリスクも 高い。
3PL導入から数年経ったころになって荷 主側から「実態が見えず、継続した合理化が進め られない」という声の上がることが多い。
 一方、?のパターンで企画費用と実物流費用を 分けて報酬体系を組むには、企画機能に対する対 価の支払い(成果報酬スキームの構築)という非 常に難易度の高い課題をクリアしなければならな い。
どれだけのコスト削減余地があるのか、各施 策の実行にどれだけマンパワーが必要なのかを精査 して、荷主側と3PL事業者側の最終的に得られ る想定利益を試算しながら、一方に偏ったスキー ムとならないようにすることが必要である。
 前述の通り、荷主の物流部門が事業側と3PL 事業者側の中間地点に立ち、中長期的なWin─ Winの視点での適切な交渉のマネジメントを行う ことが重要である。
結びに代えて  物流はビジネスを支えるインフラであり、そのパ フォーマンスは企業の競争力に大きな影響を与え る。
しかし、日本の化学業界の物流は国内物量が 減少傾向にある中で、化学企業と物流会社各社が 細切れの契約でつながっており、同一エリアに数 多くの物流拠点が存在しているなどの非効率が目 立っている。
 本稿で紹介した3PL化は、適切な3PL事業 者をパートナーとして活用することで、化学業界の 物流インフラを集約・強化していく取り組みであ る。
3PLの導入が進めば、日本の化学業界の物 流面での競争力は格段に上がり、成長分野やさら なる競争力を高めたい領域への投資原資が生まれ ることにつながり得る。
本稿がその一助となれば 幸いである。
45  NOVEMBER 2013 図9 3PLのコスト 企画業務 コスト 実物流業務 コスト コスト削減や安全・品質向上 など、3PL 事業者が提供する ハイレベルな物流企画能力に 対するコスト 結果が出てこそ認められる性 質のコストとも言える 物流が発生する以上、確実・ 継続的に生じる性質のコスト であり、実際の業務に合わせ て支払うべき領域 輸送・保管業務に掛かる実費 森田哲平(もりた・てっぺい) デロイトトーマツコンサルティング シニアマネジャー 一橋大学商学部卒。
化学、消費財、 機械等の製造業を中心に、全社/ 事業戦略、新規事業開発、組織・ 経営管理改革、SCM / CRMオペ レーション改革・システム化構想、 各種コスト削減など幅広い領域にお けるコンサルティングを行っている。
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