2013年12月号
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「CPOの不在が食材偽装問題を招いた」 日本サプライマネジメント協会 上原修 理事長
DECEMBER 2013 6
げていました。
しかし、『とびこ(ト ビウオの卵)』を『レッドキャビア(鱒 の卵)』と称し、冷凍魚を鮮魚として 客に出すなど、どう考えても法律解釈 以前の問題です」 「しかも『現場の認識が甘かった』あ るいは『現場の商品知識がなかった』 というのは、その企業が現場担当者の 教育を怠っていたことを意味していま す。
その全責任はCPOにある。
CP Oがいないのなら経営トップが責任を 取るしかない」 ──一連のマスコミ報道の中にはサプ ライヤーが材料を安いものにごまかし て納品したのが悪いといった論調も見 られました。
「しかし、ホテルの仕入れ現場では 『検収業務』を行っていたはずです。
当 然のことながら、検収が済んで初めて 取引は成立し、代金の支払いが実施 される。
もし検収が機能していなか ったとすれば、その会社の『SRM (Supplier Relationship Management =購買管理システム)』を疑わなければ なりません」 「SRMとは企業がサプライヤーと理 想的な関係を構築し、戦略的調達を実 現するための仕組みです(表)。
この点 で多くの日本企業はガラパゴス現象に陥 っている。
欧米の取引では購買側がサ プライヤーのところまで商品を引き取り CPOがいない日本 ──有名ホテルチェーンやレストラン で食材偽装問題が相次いで発覚してい ます。
「日本企業と欧米企業の大きな違い の一つが『CPO(Chief Procurement Officer :最高購買責任者)』の存在で す。
今回の食材偽装もそのことと無縁 ではないと見ています。
問題の発端と なった阪急阪神ホテルズに限らず日系 のホテルチェーンにはCPOがいない。
同じホテルチェーンでもヒルトンやマリ オットなどの外資は必ずれっきとした CPOを置いている」 ──購買部門を担当する役員なら日本 企業にもいます。
「日本企業に多くあるところの購買 物流管掌役員とCPOは、その役割か ら必要とされるスキルまで全く違いま す。
CPOは購買サプライチェーンの プロであり、かつ経営者として食材の 品質に最大の責任を持っています。
そ のため時にはコストに目をつぶっても 企業イメージやブランドを守らなけれ ばならないこともある」 「実際、欧米企業ではCPOとCF O(最高財務責任者)が社内でしょっ ちゅうぶつかっている。
原材料・資材 の品質責任者と原価・収益管理の責 任者を明確に区分することで最終的な 顧客満足を担保しているわけです。
そ うした欧米企業の対応には外部にいる 私から見ても厳しいものがあり、実に しっかりしています」 ──CPOの仕事というのは? 「例えば私も面識のある米ヒルトン・ ワールドワイドの専務執行役兼CPO のアンソニー・ニーブス氏は、数年前 まで米サプライマネジメント協会(IS M)の会長を務め、現在はISMの購 買景気動向指数(PMI)の発行責任 者の立場にある人物です」 「彼はヒルトングループが世界中に展 開しているホテルの食材と飲料のグロ ーバルソーシングを管理するため、常 に各地を飛び回って品質とプロセスを チェックしています。
同社はブランド 力の維持・向上のために毎年相当額の 投資をしていますが、その実行部隊が サプライチェーン部門であり、その最 高責任者がCPOなんです」 ──今回の問題で阪急阪神ホテルズは 社長の辞任にまで追い込まれました。
CPOを置いていれば別の展開もあっ たかもしれない。
「今回の問題の記者会見で、阪急阪 神ホテルズのトップは食品偽装の原因 として『景品表示法およびJAS法に 対する従業員の認識・知識不足』を挙 日本サプライマネジメント協会 上原修 理事長 「CPOの不在が食材偽装問題を招いた」 業界トップクラスのホテルチェーンやレストラン、百貨店で食材 偽装問題が次々に発覚している。
購買・調達を軽視した代償はあ まりに大きい。
これを他山の石として改めてサプライチェーンを洗 い直すべきだ。
供給源を把握し、従業員教育に投資することを怠 れば会社の存続自体が危うくなる。
(聞き手・大矢昌浩) 7 DECEMBER 2013 に行くのが一般的ですが、日本は真逆 で、ほぼ一〇〇%サプライヤーが納品 する。
購買側が完全な優位に立ち、サ プライヤーに対して『早く持ってこい』 という図式になっている。
相手をイコ ールパートナーとして扱っていない」 「阪急阪神ホテルズの社長会見を見 ていても、同社がサプライヤーを尊重 していないことは明らかでした。
買い 叩きや支払いの先延ばしなどの不当な 下請けいじめはなかったのかと勘ぐり たくなる。
同ホテルの従業員は、上司 から『原価を落とせ。
コスト削減が第 一』と繰り返し指示されて、コスト削 減こそが至上命令だったと証言してい ます。
別の従業員は『客から見えない ところで、こそこそ隠蔽しようとする 姿勢が腹立たしい。
自分はこんなとこ るプログラムが出来上がっています」 「企業でも同様です。
不祥事が起き てから、『社内管理や品質管理委員会 を設置して業務を徹底的に洗い直しま す』とか、『社長直属の仕入れ監視委 員会を設立して徹底します』、『社外か ら有識者を入れて社内体制を見直しま す』など、その場を取り繕っても手遅 れです。
バイヤー育成プログラムの構 築と人材育成への継続的な投資が企業 の存続に不可欠であることを認識する 必要があります」 「この三点を、これまで日本企業は 疎かにしてきました。
そのために深刻 な不祥事が途切れることなく発生して いる。
いったん不祥事を起こせば、そ の会社のブランド、顧客満足は地に落 ちます。
経営破綻や身売りに追い込ま れることにもなりかねない。
経営トッ プは自分がサプライチェーンを軽視す れば会社が潰れるということを改めて 肝に銘じるべきです」 ろで仕事をしていたのかと思った』と 話していました。
社員のモラル低下は 明らかで、今後同社の経営に長く暗い 影を落とすことになるはずです」 調達業務の“三権分立”を ──今回の不祥事から何を教訓として 学ぶべきでしょうか。
「次の三つを挙げたいと思いま す。
一つは調達の基本『QCD:品 質(Quality)、コスト(Cost)、納期 (Delivery)』です。
その中でも『品質』 が最も重要であることを強調しておき たい。
それが最終的に顧客満足に影響 するものであるからです。
顧客満足を 忘れたコスト削減やリードタイム短縮 は企業の存続自体を危うくします」 「調達の?三権分立?を確立する必 要があります。
『買う人』、『使う人』、 『お金を払う人』をそれぞれ独立させ ないといけない。
食材偽装は仕入れ担 当と調理部門がグルだったとしか思え ません。
料理人は食材の良し悪しを誰 よりも分かっているはずです。
経営ト ップがいくらコストダウンを叫んでも、 『使う人』である料理人が納得のいく 材料を、『買う人』が仕入れない限り、 美味しい料理は完成しない。
またサプ ライヤーが偽装食材を納入すれば当然、 検収で不合格になり、『お金を払う人』 は支払いを止める」 「二つ目はサプライチェーンの把握で す。
東日本大震災はBCP(事業継続 計画)の観点からサプライヤーを把握 することの重要性を再認識させること になりました。
それと同様に品質およ びブランド力の維持という観点でもサ プライヤーの把握が不可欠であること を、何よりトップが認識しなくてはな りません」 「そして最後の三つ目が従業員教育 に投資することです。
日本では『購買 など誰にでもできる』と思われている 節がある。
だから、サプライチェーン を教える大学もない。
米国では現在一 五〇以上の大学や大学院がサプライチ ェーン人材の育成コースを設けていま す。
座学とインターンシップで専門知 識をしっかり身に付けてから社会に出 上原修(うえはら・おさむ) 大学卒業後、日本鉱業(現: JXホールディングス)で購買業 務に従事。
米系電子調達会社の 常務・購買本部長を経て、米サ プライマネジメント協会( ISM) 日本代表に就任。
特定非営利活 動法人日本サプライマネジメン ト協会を設立。
理事長に就任、 現在に至る。
仏ESSECビジネ ススクール特任教授。
法政大学 経営大学院講師。
企業がサプライヤーとの関係を見 直し、その関係を戦略的にマネジメン トしていくことで、設計から購買・調 達に至る業務全体を統合的に改善す るための仕組み。
これによって企業 は、サプライヤーと理想的な関係を 構築し、戦略的調達を実現できる。
業務プロセスの改善と原価低減まで 達成することが可能となる。
SRM は、サプライヤーと直接関係する購 買・調達業務だけでなく、開発設計 業務の部品選択などの構造の中にも 含まれる。
例えば製造業のR&D(開 発設計業務)では、調達品目やサプ ライヤーの情報を一元管理したデータ ベースを開発者が参考にしながら部品 を選択し、設計を進めていくというこ とを行う。
このように、設計・調達、 さらには生産・製造まで含む各部門 が、マネジメントされた共通の部品・ サプライヤーのデータを使って戦略的 に調達業務を進めることによって、統 合的な改善を行い、原価低減、利益 創成を実現することが可能となる。
SRM (Supplier Relationship Management)とは?
しかし、『とびこ(ト ビウオの卵)』を『レッドキャビア(鱒 の卵)』と称し、冷凍魚を鮮魚として 客に出すなど、どう考えても法律解釈 以前の問題です」 「しかも『現場の認識が甘かった』あ るいは『現場の商品知識がなかった』 というのは、その企業が現場担当者の 教育を怠っていたことを意味していま す。
その全責任はCPOにある。
CP Oがいないのなら経営トップが責任を 取るしかない」 ──一連のマスコミ報道の中にはサプ ライヤーが材料を安いものにごまかし て納品したのが悪いといった論調も見 られました。
「しかし、ホテルの仕入れ現場では 『検収業務』を行っていたはずです。
当 然のことながら、検収が済んで初めて 取引は成立し、代金の支払いが実施 される。
もし検収が機能していなか ったとすれば、その会社の『SRM (Supplier Relationship Management =購買管理システム)』を疑わなければ なりません」 「SRMとは企業がサプライヤーと理 想的な関係を構築し、戦略的調達を実 現するための仕組みです(表)。
この点 で多くの日本企業はガラパゴス現象に陥 っている。
欧米の取引では購買側がサ プライヤーのところまで商品を引き取り CPOがいない日本 ──有名ホテルチェーンやレストラン で食材偽装問題が相次いで発覚してい ます。
「日本企業と欧米企業の大きな違い の一つが『CPO(Chief Procurement Officer :最高購買責任者)』の存在で す。
今回の食材偽装もそのことと無縁 ではないと見ています。
問題の発端と なった阪急阪神ホテルズに限らず日系 のホテルチェーンにはCPOがいない。
同じホテルチェーンでもヒルトンやマリ オットなどの外資は必ずれっきとした CPOを置いている」 ──購買部門を担当する役員なら日本 企業にもいます。
「日本企業に多くあるところの購買 物流管掌役員とCPOは、その役割か ら必要とされるスキルまで全く違いま す。
CPOは購買サプライチェーンの プロであり、かつ経営者として食材の 品質に最大の責任を持っています。
そ のため時にはコストに目をつぶっても 企業イメージやブランドを守らなけれ ばならないこともある」 「実際、欧米企業ではCPOとCF O(最高財務責任者)が社内でしょっ ちゅうぶつかっている。
原材料・資材 の品質責任者と原価・収益管理の責 任者を明確に区分することで最終的な 顧客満足を担保しているわけです。
そ うした欧米企業の対応には外部にいる 私から見ても厳しいものがあり、実に しっかりしています」 ──CPOの仕事というのは? 「例えば私も面識のある米ヒルトン・ ワールドワイドの専務執行役兼CPO のアンソニー・ニーブス氏は、数年前 まで米サプライマネジメント協会(IS M)の会長を務め、現在はISMの購 買景気動向指数(PMI)の発行責任 者の立場にある人物です」 「彼はヒルトングループが世界中に展 開しているホテルの食材と飲料のグロ ーバルソーシングを管理するため、常 に各地を飛び回って品質とプロセスを チェックしています。
同社はブランド 力の維持・向上のために毎年相当額の 投資をしていますが、その実行部隊が サプライチェーン部門であり、その最 高責任者がCPOなんです」 ──今回の問題で阪急阪神ホテルズは 社長の辞任にまで追い込まれました。
CPOを置いていれば別の展開もあっ たかもしれない。
「今回の問題の記者会見で、阪急阪 神ホテルズのトップは食品偽装の原因 として『景品表示法およびJAS法に 対する従業員の認識・知識不足』を挙 日本サプライマネジメント協会 上原修 理事長 「CPOの不在が食材偽装問題を招いた」 業界トップクラスのホテルチェーンやレストラン、百貨店で食材 偽装問題が次々に発覚している。
購買・調達を軽視した代償はあ まりに大きい。
これを他山の石として改めてサプライチェーンを洗 い直すべきだ。
供給源を把握し、従業員教育に投資することを怠 れば会社の存続自体が危うくなる。
(聞き手・大矢昌浩) 7 DECEMBER 2013 に行くのが一般的ですが、日本は真逆 で、ほぼ一〇〇%サプライヤーが納品 する。
購買側が完全な優位に立ち、サ プライヤーに対して『早く持ってこい』 という図式になっている。
相手をイコ ールパートナーとして扱っていない」 「阪急阪神ホテルズの社長会見を見 ていても、同社がサプライヤーを尊重 していないことは明らかでした。
買い 叩きや支払いの先延ばしなどの不当な 下請けいじめはなかったのかと勘ぐり たくなる。
同ホテルの従業員は、上司 から『原価を落とせ。
コスト削減が第 一』と繰り返し指示されて、コスト削 減こそが至上命令だったと証言してい ます。
別の従業員は『客から見えない ところで、こそこそ隠蔽しようとする 姿勢が腹立たしい。
自分はこんなとこ るプログラムが出来上がっています」 「企業でも同様です。
不祥事が起き てから、『社内管理や品質管理委員会 を設置して業務を徹底的に洗い直しま す』とか、『社長直属の仕入れ監視委 員会を設立して徹底します』、『社外か ら有識者を入れて社内体制を見直しま す』など、その場を取り繕っても手遅 れです。
バイヤー育成プログラムの構 築と人材育成への継続的な投資が企業 の存続に不可欠であることを認識する 必要があります」 「この三点を、これまで日本企業は 疎かにしてきました。
そのために深刻 な不祥事が途切れることなく発生して いる。
いったん不祥事を起こせば、そ の会社のブランド、顧客満足は地に落 ちます。
経営破綻や身売りに追い込ま れることにもなりかねない。
経営トッ プは自分がサプライチェーンを軽視す れば会社が潰れるということを改めて 肝に銘じるべきです」 ろで仕事をしていたのかと思った』と 話していました。
社員のモラル低下は 明らかで、今後同社の経営に長く暗い 影を落とすことになるはずです」 調達業務の“三権分立”を ──今回の不祥事から何を教訓として 学ぶべきでしょうか。
「次の三つを挙げたいと思いま す。
一つは調達の基本『QCD:品 質(Quality)、コスト(Cost)、納期 (Delivery)』です。
その中でも『品質』 が最も重要であることを強調しておき たい。
それが最終的に顧客満足に影響 するものであるからです。
顧客満足を 忘れたコスト削減やリードタイム短縮 は企業の存続自体を危うくします」 「調達の?三権分立?を確立する必 要があります。
『買う人』、『使う人』、 『お金を払う人』をそれぞれ独立させ ないといけない。
食材偽装は仕入れ担 当と調理部門がグルだったとしか思え ません。
料理人は食材の良し悪しを誰 よりも分かっているはずです。
経営ト ップがいくらコストダウンを叫んでも、 『使う人』である料理人が納得のいく 材料を、『買う人』が仕入れない限り、 美味しい料理は完成しない。
またサプ ライヤーが偽装食材を納入すれば当然、 検収で不合格になり、『お金を払う人』 は支払いを止める」 「二つ目はサプライチェーンの把握で す。
東日本大震災はBCP(事業継続 計画)の観点からサプライヤーを把握 することの重要性を再認識させること になりました。
それと同様に品質およ びブランド力の維持という観点でもサ プライヤーの把握が不可欠であること を、何よりトップが認識しなくてはな りません」 「そして最後の三つ目が従業員教育 に投資することです。
日本では『購買 など誰にでもできる』と思われている 節がある。
だから、サプライチェーン を教える大学もない。
米国では現在一 五〇以上の大学や大学院がサプライチ ェーン人材の育成コースを設けていま す。
座学とインターンシップで専門知 識をしっかり身に付けてから社会に出 上原修(うえはら・おさむ) 大学卒業後、日本鉱業(現: JXホールディングス)で購買業 務に従事。
米系電子調達会社の 常務・購買本部長を経て、米サ プライマネジメント協会( ISM) 日本代表に就任。
特定非営利活 動法人日本サプライマネジメン ト協会を設立。
理事長に就任、 現在に至る。
仏ESSECビジネ ススクール特任教授。
法政大学 経営大学院講師。
企業がサプライヤーとの関係を見 直し、その関係を戦略的にマネジメン トしていくことで、設計から購買・調 達に至る業務全体を統合的に改善す るための仕組み。
これによって企業 は、サプライヤーと理想的な関係を 構築し、戦略的調達を実現できる。
業務プロセスの改善と原価低減まで 達成することが可能となる。
SRM は、サプライヤーと直接関係する購 買・調達業務だけでなく、開発設計 業務の部品選択などの構造の中にも 含まれる。
例えば製造業のR&D(開 発設計業務)では、調達品目やサプ ライヤーの情報を一元管理したデータ ベースを開発者が参考にしながら部品 を選択し、設計を進めていくというこ とを行う。
このように、設計・調達、 さらには生産・製造まで含む各部門 が、マネジメントされた共通の部品・ サプライヤーのデータを使って戦略的 に調達業務を進めることによって、統 合的な改善を行い、原価低減、利益 創成を実現することが可能となる。
SRM (Supplier Relationship Management)とは?
