2013年12月号
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第89回 ANAホールディングス 羽田発着枠の傾斜配分が大きな追い風に国際線収入でもJALと逆転の可能性も

DECEMBER 2013  74 スターアライアンスの優位性向上  国土交通省が一〇月二日に発表した羽田空港 国際線新規発着枠の配分は、ANAホールディ ングス(以下「ANA」)にとって大きな朗報と なった。
既に二国間合意が整った国に係る新規 発着枠三一枠に関し、日本側航空会社に割り当 てられる一六枠のうち十一枠がANAに配分さ れ、ライバル日本航空(以下「JAL」)への配 分は五枠にとどまった(表)。
 ANAにとっての優位性は発着枠配分の数の 差だけにとどまらない。
国交省は「適切な競争 環境の確保の観点から」(同省プレスリリース)、 JALに対して基本的に羽田発着新規路線の開 設を認めない方針を明らかにしたのである。
こ れにより、ドイツ、カナダ、ベトナム、インドネ シア、フィリピンへの新規路線開設はANAの みに認められることになった。
 さらに、アライアンスを基準に考えると、今 回発着枠が割り当てられた相手国一〇カ国のう ち、ドイツ、中国(北京)、シンガポール、タイ、 カナダ計五カ国のナショナルフラッグキャリアは ANAの加盟するスターアライアンスのパートナ ーキャリアである。
JALの加盟するワンワール ドのパートナーキャリアは英国のブリティッシュ エアウェイズのみにとどまる。
 仮に相手国側発着枠が全てナショナルフラッ グキャリアに割り当てられるとすれば、枠の配 分はスターアライアンス一九枠(うちANA十一 枠)、ワンワールド七枠(うちJAL五枠)とな り両陣営の格差は極めて大きいものとなる。
 特に欧州、アジア方面の利用者にとって、羽 田発着便でANAもしくはスターアライアンスキ ャリアを利用する機会は他陣営を大きく上回る ことになるだろう。
また、日本の各地方から羽 田で国際線に乗り継ぐケースにおいても、国内 線でANA便を選好する機会が拡大するだろう。
 マイレージ獲得の有利不利を気にするフリーク エントフライヤー(高頻度かつ相対的に高単価 のケースが多い)にとって、ANA(スターア ライアンス)のマイレージカードをメーンカード とするインセンティブが大きく高まると考えられ る。
直接的な新規発着枠への路線開設による増 収効果に加え、こうした高頻度・高単価旅客の 流入が、中期的にじわじわとANAの収益力を 強化していくものと思われる。
 なお、直接的な新規発着枠への路線開設によ る増収効果としては、一枠当たり年間一〇〇億 円前後が見込まれる。
最終的な発着枠の配分が ANA一四枠(既決枠十一枠+未定枠三枠)、J AL七枠(五枠+二枠)となったと仮定すると、 配分差七枠分で約七〇〇億円の収入格差につな がり得る。
二〇一三年三月期時点でANAの国 際線収入規模はJALに対して約五八〇億円少 ANAホールディングス 羽田発着枠の傾斜配分が大きな追い風に 国際線収入でもJALと逆転の可能性も  羽田空港の国際線発着枠獲得でライバルの JALに大差をつけた。
羽田からの新規路線 を全てANAが取得。
スターアライアンスとワ ンワールドの格差も大きく開くことになる。
マ イレージプログラムに敏感な高頻度・高単価客 の取り込みを期待できる。
国内線だけでなく国 際線でもANAの収入規模がJALと逆転す る可能性が高くなってきた。
第89回 板崎王亮 SMBC日興証券 シニアアナリスト 75  DECEMBER 2013 ない状況であったが、今回配分された発着枠を フルに活用することで国内線だけでなく国際線 でもANAの収入規模がJALを逆転する可能 性が高くなったと言えるだろう。
 ANAは一三年四月から持ち株会社に移行し た。
航空旅客事業においてはフルサービスキャリ ア(FSC)としてのANA(事業会社)、L CC子会社のエアアジア・ジャパン(十一月一 日にバニラ・エアに社名変更)、持分法適用会社 ピーチ・アビエーションのマルチブランド戦略を 推進するとともに、一三年八月にミャンマー二 位の航空会社「Asian Wings Airways」への出 資(四九%)を決定、アジアを中心とするネッ トワーク拡充へ動いた。
 また、関連事業分野では、一三年七月、米国 最大のパイロット訓練会社「Pan Am Holdings」 の全株式を取得した。
今後ひっ迫の予想される パイロット市場で自社グループパイロットの確保 を盤石にするとともに、成長性の見込まれるア ジア市場を中心に訓練事業のグローバル展開を加 速させ、外部収益の拡大を図る。
今後も、一二 年に実施した公募増資による調達資金を活用し た戦略投資を継続するものとみられる。
 一方、航空貨物事業では、〇九年一〇月に開 始した「沖縄貨物ハブ」を活用した日本各地か らアジア各地への貨物専用機(フレーター)によ る翌日輸送サービス拡充に動いている。
現在保 有するB767フレーター九機に、日本郵船系 列の日本貨物航空(NCA)の大型チャーター 機導入、さらにもう一機自社保有機材を追加し、 今年度内に自社フレーター一〇機体制とする方 針だ。
就航地に日本側で中部国際空港(八月)、 アジア側で青島(中国、一〇月)を加え、その 後もインドネシアやベトナムなどアジア路線の拡 充を図る。
来年四月に貨物専門新会社を設立  同サービスはANAのフォーマットによる独自 のサービスであるが、当初狙っていた高単価の エクスプレス貨物が十分に集まらず、さらに航 空貨物業界全体で旅客便増加による旅客便貨物 室(ベリー)の供給が過剰になったことから一 般貨物の輸送単価が大幅に低下。
サービス開始 後四年経過した現状でも黒字の確保に至ってい 表 羽田空港国際線増便枠の配分 出所:国土交通省資料 イギリス フランス 中国(北京) シンガポール タイ ドイツ ベトナム インドネシア フィリピン カナダ   計 2 2 2 2 2 2 1 1 1 1 16 日本側 発着枠 相手側 発着枠 全日空 日本航空 (参考) 1 1 1 1 1 2 1 1 1 1 11 1 1 1 1 1 ─ ─ ─ ─ ─ 5 2 2 2 2 1 2 1 1 1 1 15 DECEMBER 2013  76 いたざき おおすけ 一九八八年三月神戸市外国語大 学卒業、同年四月岡三証券入社。
シュローダー証券、INGベアリ ング証券、クレディ・スイス証券 を経て現職。
八八年以来、運輸セ クターを中心にアナリスト活動を 展開している。
ないようだ。
 しかし、宅配便大手のヤマトホールディングス (以下「ヤマトHD」)と一二年に業務提携を結 び、同年末から香港向けに特定の大手eコマー ス企業を通じた国際クール宅急便の翌日配達を 試験的に開始。
一〇月二八日からは一般向けに 商品化することで本格展開に入る予定。
 また、沖縄県は一二年四月に物流ハブのある那 覇市に国際物流特区を設置。
法人税率の二〇% への軽減措置などを導入したほか、特区内に物 流センターを新設し割安賃料などを武器にパーツ センターなどの誘致を実施。
今年八月からヤマト HDを含む複数テナントが運用を開始している。
 ネットワーク拡充、需要開拓に加え、一四年 四月には貨物事業全体を新規で立ち上げる貨物 専門子会社に移管する方針で、独立採算を強化 し事業拡充、収支改善を図る。
 業績面については、一〇月三〇日に公表され た一四年三月期上期決算は、営業利益が前年同 期比四二・五%減の四三三億円となり、通期会 社予想は従来予想一一〇〇億円から六〇〇億円 に引き下げられるなど厳しさの目立つものであ った。
通期業績予想五〇〇億円引き下げの要因 は、次の通りである。
(1) B787デリバリー遅延による路線開設延期 など事業計画見直しによる収入未達:▲一〇 〇億円 (2) 国内線単価低下や中国線需要回復の遅れなど 収入計画見直し:▲一四〇億円 (3) 円安(下期為替前提を一ドル=九五円→一〇 〇円に変更)による減益効果:▲四〇億円 (4) LCC事業の収支悪化:▲四五億円 (5) コスト構造改革(期初計画二五〇億円)の未 達:▲五〇億円 (6) B787代替機としての大型機使用など費用 計画見直し:▲一二五億円  円安やB787のデリバリー遅延、LCC子 会社の合弁解消に伴う持ち分拡大や一時的運休 による影響など、さまざまな悪条件が一時的に 重なったという面が大きいが、先行き需要拡大 の見込みにくい国内線の運賃低下傾向やコスト 削減の遅れなど構造的な問題も内包されており、 自助努力による経営効率化、収支構造改善が求 められることは言うまでもない。
 とはいえ、羽田空港国際線枠で有利な配分を 受けたことにより、ANAは次年度以降の利益 成長トレンド回帰に向け大きなチャンスを獲得し た。
同社は向こう二年間、国際線で年間一〇〜 一五%のASK( =有効座席キロ) 拡大を計画 しており、この供給増に見合った旅客増が見込 めるかどうかが中期的な利益成長見通しに対し て重要なポイントとなろう。
 二〇〇〇年代後半以降、JALの路線撤退な どにより日系航空会社二社の国際線総供給量は 大幅に減少した。
その減少トレンドは出国日本 人数のトレンドからも大きく下方にかい離してい る。
この間に日系航空会社から海外航空会社へ の日本人旅客のシェアシフトが進んだものと推察 される。
 しかし今後、日系キャリアの国際線総供給量は 再び増加基調となる。
日本人の日系航空会社利 用志向が高いことを前提とすれば、ANAを含 め日系航空会社が供給量増加(回復)に見合っ た旅客数を確保することは十分可能だろう。
供 給拡大とそれに伴う旅客数獲得、さらに羽田発 着という優位性を生かした適切な単価コントロ ールに成功すれば、次年度以降の利益V字回復 は大いに期待できるところである。
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