2013年12月号
現場改善
現場改善
第129回 物流会社U社の事務・管理体制づくり
DECEMBER 2013 94
らしくない物流会社
U社は近畿地区に本社を置く年商約八億の物
流企業である。
創業から一八年。
輸配送を中心 に保管、産業廃棄物回収などの付帯業務にも対 応し、毎年一歩ずつ着実に売り上げを伸ばして きた。
オーナー経営者のS社長はまだ四二歳。
二〇 代の頃に脱サラで同社を立ち上げた。
親の跡を 継ぐでもなく、身近に物流業に携わっている人 物がいたわけでもない、全くの異業種からの起 業であった。
そのことが逆に功を奏したのであ ろう。
業界の既成概念や悪しき慣習にとらわれ なかったことが、結果としてU社に業容拡大を もたらした。
しかし、それと同時にS社長が物流につい て誰からも、何の教えも受けなかったことから、 U社は物流会社としてのバックオフィス機能、十 分な事務・管理体制が整っていないという課題 も抱えていた。
初めてU社を訪れ、S社長と面談した時のこ とである。
事務所は倉庫と車庫を併設した、ご く一般的な物流会社の建物であった。
事務所玄 関に向かう筆者に作業中のリフトマンが「こん にちは」と声を掛けてくれた。
教育されている というより自然体の挨拶であった。
悪い気はし なかったが、物流会社によくある「いらっしゃ いませ」という軍隊調の挨拶に慣れた筆者には 少し意外に感じた。
事務所の内部は広々としていて照明は明るく、 きれいに整理・整頓されていた。
一般の物流会 社と比べると贅沢な作りで、事業規模を考える と女性スタッフが多過ぎるようにも感じた。
た だし、社長室は設けられていない。
無駄と節約 が同居しているような印象であった。
パーテーションで仕切られた打ち合わせスペ ースで待っていると、S社長らしき人物が女性 スタッフを伴って現れた。
S社長はスーツ姿で も作業服でもなく、今風のカジュアルな服装で あった。
このあたりも普通の物流会社とは少し 違う。
それでもオーナー経営者らしく、前置き もなしにすぐに本題に入ってきた。
ここで筆者は同席している女性スタッフを意 識した。
交換した名刺を見ると「マネジャー」 という役職に就いている。
初回時から管理職ス タッフとして同席した彼女は恐らくU社の運営、 実務のキーマンであろう。
U社のような中小規模の物流会社のコンサル 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表 創業以来、順調に事業を拡大してきた物流会社が成長の 壁に突き当たった。
業界の既成概念にとらわれない経営で 顧客をつかむことには成功したが、物流会社に必要な事務・ 管理体制の整備が遅れていた。
その結果、請求書の出し忘 れや金額の間違いなどが目立つようになっていた。
物流会社U社の事務・管理体制づくり 第129 回 あおき・しょういち 1964年生まれ。
京都産業 大学経済学部卒業。
大手運送 業者のセールスドライバーを経 て、89年に船井総合研究所入 社。
物流開発チーム・トラッ クチームチーフを務める。
96 年、独立。
日本ロジファクトリー を設立し代表に就任。
現在に 至る。
主な著書に『経営のテ コ入れは物流改善から』(明日 香出版社)、『物流のしくみ』(同 文館出版)などがある。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp PROFILE 95 DECEMBER 2013 ティングは、通常ならトップダウン案件である。
事前に先方の幹部スタッフたちと我々で根回し をすることはあっても、意思決定はすべてトッ プ一人に掛かっている。
しかし、U社の場合は打ち合わせに同席した 女性マネジャーの意見を最重視して事を進める 必要がありそうであった。
経営者がやり手の女 性幹部に実務を任せている場合には、良い悪い は別にして、その女性幹部が改善手法になじめ るかどうか、好きか嫌いかによって、大きくプ ロジェクトが左右されてしまうことがよくある ためである。
それを踏まえて本題に入っていった。
S社長 は取り扱い業務の拡大や東・名・阪への展開状 況などを熱心に説明し、会社が成長軌道に乗っ ていることを強調した。
実際、売上面では順調 な様子であった。
問題はバックヤードであった。
事業の成長に 社内の管理体制が追い付いていなかった。
その 具体例として「配車台帳の書き忘れによる請求 書の発行漏れが出ている」という。
U社では、電話やFAXで入ってくる車両の オーダーは事務スタッフから三人の配車係に回 されて、自社便と傭車に振り分けられる。
自 社便分は「自社便台帳」、傭車は「傭車台帳」 に、配車マンがそれぞれ実績を記入する決まり で、それを元に月末に請求書を発行する。
しかし、自社便分は配車マンがオーダーを手 元のメモに書き留めて、すぐにドライバーに指 示を出すことがある。
台帳記入が後回しにされ て、そのまま忘れられがちだった。
U社のような単純な運行管理のやり方でも車 両台数が一〇台程度であれば、それほど大きな 問題は起きないだろう。
しかし、今やU社は五 〇台もの車両を保有し、八〇社もの顧客を抱え ている。
創業当初と同じ仕組みのままでは無理 が生じるのも当然と言えた。
原始的な台帳管理が限界に とはいえ、体制整備に投入できる資金には限 りがある。
今回のプロジェクトでは我々日本ロジ ファクトリー(NLF)に支払うコンサルティン グ費用も発生する。
そのため短期決戦で臨む必 要があった。
業務の流れと作業方法のチェック、インタビ ューなどを数日間で済ませ、そこから次の八つ の改善テーマを設定した。
?事務所のワンフロア化 ?ダブルチェック体制の強化 ?台帳レス ?運行管理システムの活用 ?後決め運賃の解消 ?請求フローの最適化 ?請求書発行カルテの作成 S社長と女性マネジャーはこれを承認し、早 速、改善に着手することとなった。
「?事務所のワンフロア化」は、必要以上に広 い事務所スペースの有効活用と社内の情報連携、 いわゆる?報・連・相?の改善が狙いであった。
その必要性はS社長自身、従来から感じている ところだった。
そのため今回の改善に先立って、 事務作業を行う場所がそれまで同一敷地内の三 カ所に分かれていたのを二カ所に集約したとい う。
それでも事務部門と配車係の仕事場は依然と して分かれたままだった。
配車マンは声が大き いので女性スタッフたちが業務に集中できない という、理由にもならない理由であった。
普段は雑音にしか聞こえない配車マンのやり 取りも必ずしも無駄とは限らない。
そうしたイ ンプットがいざという時に役立つ。
何が起きた のか、事務所にいる他のスタッフでも想像でき るようになるため、結果として職場の生産性が 向上する。
コンサルティング会社や大手システ ム会社などでは実証済みのことである。
多少の 反対はあっても事務所は一カ所に集約すべきで あった。
「?ダブルチェック体制の強化」は請求書な どのミスをなくそうという狙いだが、従来から ダブルチェック自体は実施されていた。
ただし、 同一人物が自分の仕事を再確認するというやり 方だった。
これを改め、新たに短時間勤務のパ ートスタッフを採用して二名でチェックするこ とにした。
「?台帳レス」はすぐに手を打つ必要があっ た。
U社レベルの規模にもなれば普通は運行管 理にパソコンを使う。
一度の入力で配車の割り 振りから日報の管理、請求書の発行まで処理で きるのでミスが減り、作業負担も軽減できる。
それに対してU社の台帳方式は、大型のバイ ンダーに配車の結果を書き込んでいくだけの原 DECEMBER 2013 96 始的な仕組みだった。
台帳は自社分と傭車分そ れぞれ一部しか作らない。
それを配車マンや経 理担当、そして自分の仕事を確認するドライバ ーたちがそれぞれ利用するため、手待ちが発生 していた。
“後決め運賃”にもメス そこで当面の対策として「台帳方式」を「伝 票(個票)方式」に切り替えることにした。
配 車マンは配車結果をそれぞれカーボン複写式の 伝票に書き込み、その写しをドライバーへの出 荷指示に、別の写しを請求書の発行等の事務処 理に使用することで入力作業の重複と手待ちを 解消した。
配車マンや事務スタッフと話し合って、伝票は メモとしても使えるようにA4サイズを採用し、 記入欄もできるだけ大きく取った。
また各部署 の窓口デスクには伝票入れ用のトレイを設けた。
FAXによる車両手配分については伝票に転 写する作業が新たに発生したが、そもそもFA Xの注文は内容が曖昧で先方に確認を取る必要 のあるものが多かったため、起票業務に確認・ チェックの意味合いを持たせた。
伝票方式への移行によって、受注から配車、 請求の各作業を分散して処理できるようになり、 手待ち時間がなくなって生産性は著しく向上し た。
配車マンの一日当たりの残業時間は一・五 時間×三人分減った。
別途、事務社員一名の余 剰人員も生まれて、来年開設予定のB事業所に スタッフを振り分けることができた。
「?運行管理システムの活用」によるペーパー レス化もいずれは必要であった。
実はU社は過 去に運行管理用のパッケージソフトを購入して いた。
事業の立ち上げから間もない初年度の終 わりに、わずかな利益の中から次年度につなが る投資との思いで、S社長が思い切って購入し たソフトであった。
ところが当時は運営規模が小さすぎて導入の メリットが得られなかった。
それを物置からほ こりを払って持ち出してきたところ、運行管理 よりもむしろ請求書の発行に主眼が置かれたソ フトで、現在のU社にはうってつけだった。
ただし、配車マン三人に対して端末が一台し かない。
月末の締め切り時にも一人で入力作業 をするしかない。
これを三台に増やせばコスト は掛かっても費用対効果は十分であることをS 社長に進言して了承を得た。
来年四月にU社は隣県にB事業所を開設して 人員増となる。
そのタイミングまでにシステム をベースとした新しい業務運営の仕組みを安定 化させておきたいところだ。
そのために、まず は伝票の定着化を図り、年内の繁忙期を乗り切 る必要があるが、ワンフロア化も手伝って大き な混乱は避けられる見込みである。
「?後決め運賃の解消」の?後決め運賃?と は、実車した後に運賃を決めるという、何と も丼勘定かつ下請けいじめのような行為である。
物流業界の悪しき慣習とも言える根深い問題で、 この慣習は変えられないとあきらめてしまって いる物流会社が実に多い。
しかし、本コーナーでも過去に何度か事例を お伝えしているが、改善は可能である。
例えば、 大手倉庫会社や物流会社、物流子会社の下請け 仕事をメーンにしている筆者の知人の二代目社 長は、まだ配車マンだった頃に元請けとの交渉 を根気よく続けて後決め運賃を一〇〇%解消す ることに成功している。
他にも顧客に対する継 続的な働き掛けにより、ゼロまではいかなくと も大幅に削減したというケースは少なくない。
そうした他社の成功事例を、U 社の 営業マン一名と配車マン三名に対して詳 しく説明し、交渉の進め方とツールを指 導していった。
それと同時にS 社長には、 ?継続した訴え?によっても変わらない荷主と は取引自体を見直すことも必要であると強く 伝えた。
後決め運賃の問題は月次損益を出す スピードと精度にも大きく影響を及ぼすからで ある。
「?請求フローの最適化」は、請求書金額の 間違いをなくすことが主な目的である。
U社の 月次損益のスピードと精度を上げて、トップが 素早く正しい経営判断をするためにも必要な改 善であった。
そのポイントは傭車先等の協力会社からU社 への請求作業を改善することであった。
下請け からの請求がスピーディーかつ正確にU社へ届 かなければ、当然ながらU社から荷主への請求 に支障を来してしまう。
そのために協力会社を大きく二つに分類した。
請求書の締め切り厳守を改めて要請して対応を 強化してもらう下請けと、U社側で請求書を作 成してしまう下請けとに分けたのである。
後者 は小規模事業者が対象だ。
97 DECEMBER 2013 「請求書発行カルテ」を作成 「?請求書発行カルテの作成」の「請求書発 行カルテ」とは、請求書の発行や入金処理に関 する基本情報と注意事項を顧客別にまとめた資 料である。
初回の打ち合わせに同席した女性マ ネジャーが従来から自主的に進めていた取り組 みであったが、完成に至っていなかったためサ ポートを行った。
請求書発行に関しては顧客ごとに、「締め日」、 「発行日」、「請求書日付」、「到着〆切日」、「宛 先担当者」、「振込銀行先」(顧客が財閥系企業 等の場合には入金先の銀行を指定されたり、配 慮する必要がある)、「入金日」、「その他注意事 項」など、多くの条件や取り決めがある。
ルー ルにのっとって対応しないと、処理を翌月に回 されたりして入金が遅れることになる。
また、西日本の取引に多いのだが、消費税 分を勝手に顧客が値引いて入金してくることが ある。
そうしたケースがU社でも発生していた。
そのために売り上げの集計値と入金実績が合わ なくなる。
そうした顧客の?癖?も「その他注 意事項」に記載することにした。
こうしてU社は社内整備を進めていった。
U社は成長の踊り場に差し掛かっていたとい えるだろう。
しかし、そう恐れることはない。
事業が拡大していけば必ず突き当たる問題であ り、適切な手を打てば必ず乗り越えられる。
経 営はやはり?勝てば官軍?である。
結局は売り 上げが全てを癒してくれると改めて筆者は実感 している。
受注早急納品業務日報準備伝票準備? 伝票準備? ピッキングリスト まとめ 現場へ移動 移動伝票 分離 移動伝票 移動伝票 (早急納品) 移動伝票 (副資材) 早急納品分 の追加 副資材分 の追加 封筒への 封入 センター連絡票 チェック 実棚・帳簿 在庫確認 出荷商材 入力 商品別 ピッキングリスト 出力 商品別 ピッキングリスト 出力 ルート別店別 バット数集計 バット数入力 業務日報出力 業務日報 ピッキングリスト (冷凍・鮮魚・ 豆腐・めいらく) チェック 発注書作成 発注書 仕入れ先へ FAX センター連絡票 記入 センター連絡票 ReFAX 納品伝票作成 伝票チェック 移動伝票 センター 連絡票 在庫が確実にある 在庫あり 在庫なし 在庫量に不安 【仕入れフロー】【現場指示フロー】 集信 出力順調整 商品別 ピッキングリスト 出力 商品別店舗別 ピッキングリスト 商品別店舗別 ピッキングリスト 商品別店舗別 ピッキングリスト センター 連絡票 移動伝票 移動伝票出力 事務作業フロー(例) 理論在庫確認
創業から一八年。
輸配送を中心 に保管、産業廃棄物回収などの付帯業務にも対 応し、毎年一歩ずつ着実に売り上げを伸ばして きた。
オーナー経営者のS社長はまだ四二歳。
二〇 代の頃に脱サラで同社を立ち上げた。
親の跡を 継ぐでもなく、身近に物流業に携わっている人 物がいたわけでもない、全くの異業種からの起 業であった。
そのことが逆に功を奏したのであ ろう。
業界の既成概念や悪しき慣習にとらわれ なかったことが、結果としてU社に業容拡大を もたらした。
しかし、それと同時にS社長が物流につい て誰からも、何の教えも受けなかったことから、 U社は物流会社としてのバックオフィス機能、十 分な事務・管理体制が整っていないという課題 も抱えていた。
初めてU社を訪れ、S社長と面談した時のこ とである。
事務所は倉庫と車庫を併設した、ご く一般的な物流会社の建物であった。
事務所玄 関に向かう筆者に作業中のリフトマンが「こん にちは」と声を掛けてくれた。
教育されている というより自然体の挨拶であった。
悪い気はし なかったが、物流会社によくある「いらっしゃ いませ」という軍隊調の挨拶に慣れた筆者には 少し意外に感じた。
事務所の内部は広々としていて照明は明るく、 きれいに整理・整頓されていた。
一般の物流会 社と比べると贅沢な作りで、事業規模を考える と女性スタッフが多過ぎるようにも感じた。
た だし、社長室は設けられていない。
無駄と節約 が同居しているような印象であった。
パーテーションで仕切られた打ち合わせスペ ースで待っていると、S社長らしき人物が女性 スタッフを伴って現れた。
S社長はスーツ姿で も作業服でもなく、今風のカジュアルな服装で あった。
このあたりも普通の物流会社とは少し 違う。
それでもオーナー経営者らしく、前置き もなしにすぐに本題に入ってきた。
ここで筆者は同席している女性スタッフを意 識した。
交換した名刺を見ると「マネジャー」 という役職に就いている。
初回時から管理職ス タッフとして同席した彼女は恐らくU社の運営、 実務のキーマンであろう。
U社のような中小規模の物流会社のコンサル 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表 創業以来、順調に事業を拡大してきた物流会社が成長の 壁に突き当たった。
業界の既成概念にとらわれない経営で 顧客をつかむことには成功したが、物流会社に必要な事務・ 管理体制の整備が遅れていた。
その結果、請求書の出し忘 れや金額の間違いなどが目立つようになっていた。
物流会社U社の事務・管理体制づくり 第129 回 あおき・しょういち 1964年生まれ。
京都産業 大学経済学部卒業。
大手運送 業者のセールスドライバーを経 て、89年に船井総合研究所入 社。
物流開発チーム・トラッ クチームチーフを務める。
96 年、独立。
日本ロジファクトリー を設立し代表に就任。
現在に 至る。
主な著書に『経営のテ コ入れは物流改善から』(明日 香出版社)、『物流のしくみ』(同 文館出版)などがある。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp PROFILE 95 DECEMBER 2013 ティングは、通常ならトップダウン案件である。
事前に先方の幹部スタッフたちと我々で根回し をすることはあっても、意思決定はすべてトッ プ一人に掛かっている。
しかし、U社の場合は打ち合わせに同席した 女性マネジャーの意見を最重視して事を進める 必要がありそうであった。
経営者がやり手の女 性幹部に実務を任せている場合には、良い悪い は別にして、その女性幹部が改善手法になじめ るかどうか、好きか嫌いかによって、大きくプ ロジェクトが左右されてしまうことがよくある ためである。
それを踏まえて本題に入っていった。
S社長 は取り扱い業務の拡大や東・名・阪への展開状 況などを熱心に説明し、会社が成長軌道に乗っ ていることを強調した。
実際、売上面では順調 な様子であった。
問題はバックヤードであった。
事業の成長に 社内の管理体制が追い付いていなかった。
その 具体例として「配車台帳の書き忘れによる請求 書の発行漏れが出ている」という。
U社では、電話やFAXで入ってくる車両の オーダーは事務スタッフから三人の配車係に回 されて、自社便と傭車に振り分けられる。
自 社便分は「自社便台帳」、傭車は「傭車台帳」 に、配車マンがそれぞれ実績を記入する決まり で、それを元に月末に請求書を発行する。
しかし、自社便分は配車マンがオーダーを手 元のメモに書き留めて、すぐにドライバーに指 示を出すことがある。
台帳記入が後回しにされ て、そのまま忘れられがちだった。
U社のような単純な運行管理のやり方でも車 両台数が一〇台程度であれば、それほど大きな 問題は起きないだろう。
しかし、今やU社は五 〇台もの車両を保有し、八〇社もの顧客を抱え ている。
創業当初と同じ仕組みのままでは無理 が生じるのも当然と言えた。
原始的な台帳管理が限界に とはいえ、体制整備に投入できる資金には限 りがある。
今回のプロジェクトでは我々日本ロジ ファクトリー(NLF)に支払うコンサルティン グ費用も発生する。
そのため短期決戦で臨む必 要があった。
業務の流れと作業方法のチェック、インタビ ューなどを数日間で済ませ、そこから次の八つ の改善テーマを設定した。
?事務所のワンフロア化 ?ダブルチェック体制の強化 ?台帳レス ?運行管理システムの活用 ?後決め運賃の解消 ?請求フローの最適化 ?請求書発行カルテの作成 S社長と女性マネジャーはこれを承認し、早 速、改善に着手することとなった。
「?事務所のワンフロア化」は、必要以上に広 い事務所スペースの有効活用と社内の情報連携、 いわゆる?報・連・相?の改善が狙いであった。
その必要性はS社長自身、従来から感じている ところだった。
そのため今回の改善に先立って、 事務作業を行う場所がそれまで同一敷地内の三 カ所に分かれていたのを二カ所に集約したとい う。
それでも事務部門と配車係の仕事場は依然と して分かれたままだった。
配車マンは声が大き いので女性スタッフたちが業務に集中できない という、理由にもならない理由であった。
普段は雑音にしか聞こえない配車マンのやり 取りも必ずしも無駄とは限らない。
そうしたイ ンプットがいざという時に役立つ。
何が起きた のか、事務所にいる他のスタッフでも想像でき るようになるため、結果として職場の生産性が 向上する。
コンサルティング会社や大手システ ム会社などでは実証済みのことである。
多少の 反対はあっても事務所は一カ所に集約すべきで あった。
「?ダブルチェック体制の強化」は請求書な どのミスをなくそうという狙いだが、従来から ダブルチェック自体は実施されていた。
ただし、 同一人物が自分の仕事を再確認するというやり 方だった。
これを改め、新たに短時間勤務のパ ートスタッフを採用して二名でチェックするこ とにした。
「?台帳レス」はすぐに手を打つ必要があっ た。
U社レベルの規模にもなれば普通は運行管 理にパソコンを使う。
一度の入力で配車の割り 振りから日報の管理、請求書の発行まで処理で きるのでミスが減り、作業負担も軽減できる。
それに対してU社の台帳方式は、大型のバイ ンダーに配車の結果を書き込んでいくだけの原 DECEMBER 2013 96 始的な仕組みだった。
台帳は自社分と傭車分そ れぞれ一部しか作らない。
それを配車マンや経 理担当、そして自分の仕事を確認するドライバ ーたちがそれぞれ利用するため、手待ちが発生 していた。
“後決め運賃”にもメス そこで当面の対策として「台帳方式」を「伝 票(個票)方式」に切り替えることにした。
配 車マンは配車結果をそれぞれカーボン複写式の 伝票に書き込み、その写しをドライバーへの出 荷指示に、別の写しを請求書の発行等の事務処 理に使用することで入力作業の重複と手待ちを 解消した。
配車マンや事務スタッフと話し合って、伝票は メモとしても使えるようにA4サイズを採用し、 記入欄もできるだけ大きく取った。
また各部署 の窓口デスクには伝票入れ用のトレイを設けた。
FAXによる車両手配分については伝票に転 写する作業が新たに発生したが、そもそもFA Xの注文は内容が曖昧で先方に確認を取る必要 のあるものが多かったため、起票業務に確認・ チェックの意味合いを持たせた。
伝票方式への移行によって、受注から配車、 請求の各作業を分散して処理できるようになり、 手待ち時間がなくなって生産性は著しく向上し た。
配車マンの一日当たりの残業時間は一・五 時間×三人分減った。
別途、事務社員一名の余 剰人員も生まれて、来年開設予定のB事業所に スタッフを振り分けることができた。
「?運行管理システムの活用」によるペーパー レス化もいずれは必要であった。
実はU社は過 去に運行管理用のパッケージソフトを購入して いた。
事業の立ち上げから間もない初年度の終 わりに、わずかな利益の中から次年度につなが る投資との思いで、S社長が思い切って購入し たソフトであった。
ところが当時は運営規模が小さすぎて導入の メリットが得られなかった。
それを物置からほ こりを払って持ち出してきたところ、運行管理 よりもむしろ請求書の発行に主眼が置かれたソ フトで、現在のU社にはうってつけだった。
ただし、配車マン三人に対して端末が一台し かない。
月末の締め切り時にも一人で入力作業 をするしかない。
これを三台に増やせばコスト は掛かっても費用対効果は十分であることをS 社長に進言して了承を得た。
来年四月にU社は隣県にB事業所を開設して 人員増となる。
そのタイミングまでにシステム をベースとした新しい業務運営の仕組みを安定 化させておきたいところだ。
そのために、まず は伝票の定着化を図り、年内の繁忙期を乗り切 る必要があるが、ワンフロア化も手伝って大き な混乱は避けられる見込みである。
「?後決め運賃の解消」の?後決め運賃?と は、実車した後に運賃を決めるという、何と も丼勘定かつ下請けいじめのような行為である。
物流業界の悪しき慣習とも言える根深い問題で、 この慣習は変えられないとあきらめてしまって いる物流会社が実に多い。
しかし、本コーナーでも過去に何度か事例を お伝えしているが、改善は可能である。
例えば、 大手倉庫会社や物流会社、物流子会社の下請け 仕事をメーンにしている筆者の知人の二代目社 長は、まだ配車マンだった頃に元請けとの交渉 を根気よく続けて後決め運賃を一〇〇%解消す ることに成功している。
他にも顧客に対する継 続的な働き掛けにより、ゼロまではいかなくと も大幅に削減したというケースは少なくない。
そうした他社の成功事例を、U 社の 営業マン一名と配車マン三名に対して詳 しく説明し、交渉の進め方とツールを指 導していった。
それと同時にS 社長には、 ?継続した訴え?によっても変わらない荷主と は取引自体を見直すことも必要であると強く 伝えた。
後決め運賃の問題は月次損益を出す スピードと精度にも大きく影響を及ぼすからで ある。
「?請求フローの最適化」は、請求書金額の 間違いをなくすことが主な目的である。
U社の 月次損益のスピードと精度を上げて、トップが 素早く正しい経営判断をするためにも必要な改 善であった。
そのポイントは傭車先等の協力会社からU社 への請求作業を改善することであった。
下請け からの請求がスピーディーかつ正確にU社へ届 かなければ、当然ながらU社から荷主への請求 に支障を来してしまう。
そのために協力会社を大きく二つに分類した。
請求書の締め切り厳守を改めて要請して対応を 強化してもらう下請けと、U社側で請求書を作 成してしまう下請けとに分けたのである。
後者 は小規模事業者が対象だ。
97 DECEMBER 2013 「請求書発行カルテ」を作成 「?請求書発行カルテの作成」の「請求書発 行カルテ」とは、請求書の発行や入金処理に関 する基本情報と注意事項を顧客別にまとめた資 料である。
初回の打ち合わせに同席した女性マ ネジャーが従来から自主的に進めていた取り組 みであったが、完成に至っていなかったためサ ポートを行った。
請求書発行に関しては顧客ごとに、「締め日」、 「発行日」、「請求書日付」、「到着〆切日」、「宛 先担当者」、「振込銀行先」(顧客が財閥系企業 等の場合には入金先の銀行を指定されたり、配 慮する必要がある)、「入金日」、「その他注意事 項」など、多くの条件や取り決めがある。
ルー ルにのっとって対応しないと、処理を翌月に回 されたりして入金が遅れることになる。
また、西日本の取引に多いのだが、消費税 分を勝手に顧客が値引いて入金してくることが ある。
そうしたケースがU社でも発生していた。
そのために売り上げの集計値と入金実績が合わ なくなる。
そうした顧客の?癖?も「その他注 意事項」に記載することにした。
こうしてU社は社内整備を進めていった。
U社は成長の踊り場に差し掛かっていたとい えるだろう。
しかし、そう恐れることはない。
事業が拡大していけば必ず突き当たる問題であ り、適切な手を打てば必ず乗り越えられる。
経 営はやはり?勝てば官軍?である。
結局は売り 上げが全てを癒してくれると改めて筆者は実感 している。
受注早急納品業務日報準備伝票準備? 伝票準備? ピッキングリスト まとめ 現場へ移動 移動伝票 分離 移動伝票 移動伝票 (早急納品) 移動伝票 (副資材) 早急納品分 の追加 副資材分 の追加 封筒への 封入 センター連絡票 チェック 実棚・帳簿 在庫確認 出荷商材 入力 商品別 ピッキングリスト 出力 商品別 ピッキングリスト 出力 ルート別店別 バット数集計 バット数入力 業務日報出力 業務日報 ピッキングリスト (冷凍・鮮魚・ 豆腐・めいらく) チェック 発注書作成 発注書 仕入れ先へ FAX センター連絡票 記入 センター連絡票 ReFAX 納品伝票作成 伝票チェック 移動伝票 センター 連絡票 在庫が確実にある 在庫あり 在庫なし 在庫量に不安 【仕入れフロー】【現場指示フロー】 集信 出力順調整 商品別 ピッキングリスト 出力 商品別店舗別 ピッキングリスト 商品別店舗別 ピッキングリスト 商品別店舗別 ピッキングリスト センター 連絡票 移動伝票 移動伝票出力 事務作業フロー(例) 理論在庫確認
