2023年1月号
特集
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アクセンチュア×トランコムが変革仕掛ける
物流会社のシステム子会社を評価
──アクセンチュアはトランコムITS(以下、ITS)の外販事業を買収して、そのスタッフ約190人をアクセンチュアのDX推進部隊「インダストリーX本部」に加えました。
コンサルティング会社が物流会社の情報システム子会社を吸収する狙いは何ですか。
アクセンチュア 太田陽介 ビジネスコンサルティング本部 サプライチェーン&オペレーション(COO Advisory)プラクティス 日本統括 マネジング・ディレクター「端的に言えば、コンサルティング会社の能力や知見だけでは十分ではないところがあったからです。
当社はサプライチェーンや物流の課題解決に向けて、単に絵を描くだけではなく、それを実現まで持っていくことを一つの意義としています。
足回りまで含めて実現性のあるプランを作り、それをお客さまと一緒に実行するわけです」 「そのために、現場が分かってITも分かる、一方で理論も大事にできる、全てをカバーできる人材を育てようとしています。
しかし、そんなパーフェクトな人が最初からいるわけではありません。
そのためチームでそれをカバーしています。
そこにプランを作る最初の段階から現場系の知見と経験を持った人材に参画してもらいたい。
続いて実行に移ってからも、想定していなかった課題は必ず出てくるので、現場と適切にコミュニケーションをとってプランを修正して、現場と一緒に取り組みを進めていける人材が必要でした」 ──その相手がなぜトランコムだったのですか。
アクセンチュア・太田「これはお世辞ではなくトランコムについては以前から、『あの会社はすごい』という評判を聞いていました。
実際のところ大組織でひたすら与えられた仕事をしている人たちとは違って、自分で課題を考えることのできる人が多い。
大手物流会社のシステム部門をカーブアウトする(切り出す)よりも、そうした会社の方が、意味も効果もあると判断しました」 ──アクセンチュアのオファーをトランコムはどう受けとめたのですか。
トランコム 上林 亮 取締役専務執行役員「それこそ『何でウチなんですか?』というのが最初の反応です。
ITSの他にもシステム会社は世間にいくらででもありますから。
ただし、先ほどご指摘いただいた通り、当社の場合は決して官僚的ではありません。
型にはまっていないところはあるかと思います。
そこを評価いただいた、ということでした」 「ITSの売り上げの内訳は、約3分の1がトランコムグループ向けで、残り3分の2がいわゆる外販です。
ITの世界が日進月歩で変化していくなか、物流会社のシステム子会社がどうやって外販を伸ばしていくかということについては、従来から課題を感じていました。
外販をグループ向けとは切り離し、アクセンチュアという世界有数の企業に譲渡すれば事業の成長が期待できる。
そのことがITSの既存のお客さまにとってもプラスになると判断しました」 ──単に事業を譲渡するだけでなく、アクセンチュアとの協業に踏み込んだ狙いは? トランコム・上林「ITSに残った3分の1はトランコムのDXに集中するわけですが、そこではアクセンチュアさんの支援を受けたいと、われわれからお願いしました」 アクセンチュア・太田「トランコムがDXの支援をITSの事業を譲渡する条件の一つに挙げられたことに正直、われわれは驚きました。
マッチング事業を中心に継続的に成長を続けていて、端から見れば順調そのものなのに、自分たちは変わらなければいけないと強烈に思っている。
そのことに驚くと共に、果たしてわれわれに何ができるのかと考えさせられました」 トランコムのDX戦略 ──振り返るとトランコムは、家電メーカーの共同物流を軌道に乗せて1990年代に株式公開を果たしましたが、その後、家電量販チェーンの自社物流が広がったことで、事業基盤が崩れました。
しかし、そこから求貨求車事業と3PLに大きく舵を切ることで再生を果たしました。
2000年前後のITバブルの時代には、国内だけでも求貨求車システムが数十も乱立しましたが、そのほとんどがバブル崩壊と共に消えていくなか、トランコムだけは成長を続けました。
これはトランコムがマッチングをITに頼ろうとはせず、電話を使った人間系のやりとりにこだわったことが大きかった、と考えられています。
その後もトランコムはITの活用には継続的に取り組んでいますが、「アジャスター」と呼ぶマッチング担当者の業務を支援することがその狙いであって、ビジネスモデルそのものを変革するようなデジタル化や自動化は必ずしも志向していないと、私は理解しています。
トランコム・上林「確かにマッチングのインタフェースは今でも人間系でやっています。
ただし、そこから先の部分ではかなりIT化を進めてきたつもりです。
最近でもAI開発のPKSHA Technology(パークシャテクノロジー)と組んで、22年10月に当社としては初めてマッチングにAIを導入しました」 「宅配のラストマイルと違って、BtoBの輸送は荷姿や荷扱い、積み降ろし場所のルールなどの条件がさまざまなので、簡単に自動化することができません。
そのため当社ではアジャスターが荷請けできるかどうかを判断しています。
しかし、判断には属人性があり、後から振り返ると『あれはマッチングできたのに』ということがかなりありました」 「そこでAIに過去のマッチング実績と需給傾向を学習させて、貨物情報からマッチングできる可能性をAIで予測して100点満点でスコア化する仕組みを構築しました。
アジャスターの荷請け判断の精度が上がり、マッチングのロスを抑制できます。
従来は荷請けしていなかった貨物情報のうちの約1割、年間1万個以上が荷請けできるようになる見込みです」 「他にもオンラインチャネルの活用や他のプラットフォーマーとの情報連携については常にウオッチしています。
それでもやはり、お客さまとのタッチポイントを人間系でやるという基本線は当面、変えるつもりはありません。
われわれが足元で問題視しているのはむしろ、物流センター周りやコーポレート機能の情報化です」 アクセンチュア・太田「これまで私はトランコムが人間系を鍛えてそれを存在意義にしている会社だと思い込んでいたのですが、今回、深く関わることになって実際にはITやデジタルを相当に研究して取り組んできた会社であることを知りました。
アジャスターを支援する仕組みなど本当にレベルが高い。
しかし、そのやり方にしても進化を続けていかないと、お客さまの課題に寄り添っていくことが難しくなるのもまた事実だと思います」 「われわれが、トランコムとならやっていける、価値観も合うと考えたのは、DXと言っても、少なくとも物流においては、ここまでがデジタル、ここまでがアナログときれいに切り分けられる世界にはならず、まだら模様になると考えている点です。
全てがデータに落ちることなど相当先までない。
もしかしたら、ずっとないのかも知れない」 「つまり人間が判断する領域はいつまでも残り、アナログとデジタルのまだら模様になる。
その点ではアクセンチュアという会社には、多少なりとも知見と経験を持っているという自負があります。
トランコムに対しても、アナログとデジタルをどううまく組み合わせて進めていくかというところで価値を提供できるだろうということから、協業を前に進めさせてもらうことにしました」 メーカー物流が再び焦点に ──DXという言葉はかなり曖昧です。
トランコムあるいは上林さんご自身は、物流企業にとってのDXをどう受けとめていますか。
トランコム・上林「太田さんとはよく、DXは『X』から始めるという話をしています。
つまり、自分たちがどうありたいかということが出発点としてあって、そこに向かってデジタルをどう使っていくかということであり、場合によってはデジタルツールではなく、やっぱり人間でやった方がいいという結論になるかも知れない。
そのためマッチングのオペレーションもそうですが、3PL事業にしても、自分たちがどういう物流センターを作りたいのかを最初に起草しないといけない」 ──アクセンチュアに持ち込まれている物流DXの案件は、具体的には何をしたいという話が多いのでしょうか。
アクセンチュア・太田「物流DXの案件でそろそろ一巡したのかなと感じているのが、ECに対応する物流の構えを作りたいという内容です。
ECはデータが取りやすいし、自動化のROI(投資利益率)も成り立ちやすいので、そこには全自動のコンセプトを入れやすかった。
それに対して今はBtoB、ものづくりに関連するメーカー間物流のDXが大きなテーマになっています。
需給と物流を結びつけるという古くからの課題に、DXという手段であらためて取り組もうという話です」 ──古くて新しい課題とは、どういうことですか。
「これまで何十年にもわたって、物流部門は物流のことだけ、調達部門は調達のことだけしか、課題を設定できずにきました。
需給を預かるサプライチェーン部門、企画部門に物流部門がモノを申すなどあり得ないという会社さえあります。
しかし、物流のキャパシティーが有限であり、物流コストが上がり続けている今、物流レイヤーの改革だけでは経営にミートするような成果を打ち出せない。
計画から実行までを縦につなげなければいけない。
それは30年も前から指摘されていたことで、みんなが分かっている。
それが『古くから』の意味です」 「一方で縦につなぐ手段は今たくさん出てきている。
以前であれば1日の終わりにバッチを切って夜中に3〜4時間かけて回したデータを翌朝に見て、さて、ここからどう実行系につなげるかというスピードで動いていたものを、今は数十分もかからずに処理できる。
ところが、そうしたツールを実際にはうまく使えていない。
縦がつながらないために、企業間の横の連携も取れない。
その縦横が連携しないと、物流のひっ迫という社会課題は解決しない。
そこでもう一度、縦をつなげようということになっているわけです」 ──そもそも荷主企業が2000年代にSCM部を立ち上げたり、需給調整機能を物流部門に移管したのは、縦をつなぐためでした。
それをなぜ今さらやり直す必要があるのでしょうか。
「身も蓋もない言い方になりますが、結局のところ経営者の問題です。
経営者が『この課題と、この課題を別々に考えるのはやめろ』と指示すれば済む話です。
ロジスティクスがビジネスの勝敗を決めるという自覚のある会社はどこもそうしています。
物流に関する意思決定を、経営に近いところでやっている」 「ところが、そうした自覚のない経営者は、物流の細かい話など自分のところに持ってくるなと言う。
あるいは、そう思っていると取り巻きたちが忖度して、経営会議なりのアジェンダを組む。
本来であれば、われわれのようなコンサルティング会社がそうした場合に間に入ればいいわけですが、コンサルタントもまた管理部門やサプライチェーン部門ばかりと話をしていて、物流部門の課題や悩みが分からない。
われわれがトランコムと共に一歩踏み出すことを決意した背景にも、そうした反省があります」 ──それが荷主企業の物流DXだとすると、物流会社としてトランコムに何ができますか。
トランコム・上林「われわれが荷主の物流部門と目先の問題をシェアしているだけでは構造は変わらない。
いかに荷主のトップマネジメントとコンタクトするか、構造を変える機会を得ることができるか、というところだと思います」 ──「2024年問題」はそのきっかけになりますか。
トランコム・上林「期待はしていますが、問題に正面から取り組んで解決していこうと考えている荷主は実際にはそう多くありません。
当社としても24年問題に対応するため、中継輸送に挑戦しているのですが、従来と比べて輸送コストは1・5倍近くに跳ね上がってしまいます。
大量輸送をしている荷主はとても受け入れてくれません」 ──受け入れないと荷主の商売が止まってしまう。
トランコム・上林「そうなんです。
それでも物流会社に『なんとかうまくやってよ』と」 ──結局は運賃がさらに上昇することになる。
トランコム・上林「そう思います。
ドライバー不足は既に10年近く叫ばれてきたわけですが、これまではドライバーの高齢化によって何とか乗り切ってきました。
それがいよいよ厳しくなっていきます。
一方、コロナ禍で工業製品の荷量が減って燃料費も高止まりしていることから、長距離中心だった運送会社が近距離にシフトしています。
それで長距離がますます減っている。
工業製品の材料や部品がきちんと調達できるようになって、フル生産に戻った時には恐らく大きな問題になる」 「それを見越して当社は今、マッチング事業で燃料費の値上がり分を荷主から収受できていなくても、輸送パートナーには先行してお支払いするようにしています。
決して胸を張れる運賃を払っているわけではありませんが、『少しでも』ということです。
そのために他の物流大手が好決算を続けているのとは対象的に、当社は現在、収益的には厳しい状況に置かれています。
少しDXとは離れた話になってしまいましたが」 アクセンチュア・太田「やはり荷主は縦につなげて、今までの方法論を見直さないと費用を抑えることはできませんね。
多頻度小口化にしても、エンド・トゥ・エンドで見た時に本当にJITの必要があるのかを問い直す必要がある」 トランコム・上林「指定納品時間の幅を広げるなど、荷主企業が輸送条件を緩める動きは、数年前から少しずつは起きています。
それによって当社では複数件数降ろしの混載のマッチングができるようになってきた」 プラットフォーム戦略の罠 ──DXの出発点となる、あるべき姿をトランコムはどう描きますか。
トランコム・上林「まだはっきりとお答えできる段階ではありませんが、具体的な話を少しすると方向性としては二つあります。
一つは業務・オペレーションの改革。
もう一つがデータの有効活用です。
例えば3PL事業は、現状ではお客さまごとにシステムが組まれている。
従業員やドライバーの管理システムも目的別に分かれている。
それら全体を俯瞰した上で点を線にしていきます。
共通で使える機能は汎用化する。
またマッチング事業でもアクセンチュアの力を借りて、自分たちの技術ではできなかったサービスを開発していきたい」 ──物流プラットフォームの構築に向けた競争が起きています。
トランコムの求貨求車システムは有力候補の一つです。
トランコム・上林「そこはおっしゃる通りだと思います。
現在、当社は運送会社1万3千社と取引があり、年間約20万台のトラックをマッチングしています。
そのために全国650人のアジャスターがそうした会社と日々コンタクトを取っている。
そのため空車情報だけでなく車両そのものの情報まで入手できる。
口座も既に開いているわけですから、そうした情報を車両の売買やフリートマネジメントに展開することはできるかも知れない。
あるいは、われわれの持つ情報やデータを物流以外のビジネスに活かせるかも知れない」 アクセンチュア・太田「しかし、私の知る限り、トランコムはプラットフォームになりたいとは言っていない。
それよりも、どうしたらもっとお客さまの役に立てるかと考えている。
それでいいんだと思います。
現在のプラットフォーム検討ブームに、私は個人的に少し違和感があります。
プラットフォームを作ることが目的化して、どうやったらプラットフォーマーになれるかというスキームの話ばかりしている」 「実際に成功しているプラットフォームは必ずしも最初からプラットフォーマーを目指していたわけではありません。
お客さまに小さな『嬉しい』や『助かる』をちゃんとサービスとして提供していくうちに、データがたまっていって結果としてプラットフォームになったという話です」 トランコム・上林「確かに当社もプラットフォームを意識してやってきたわけではありませんでした。
マッチングを1件1件積み重ねた結果として今の状況がある」 アクセンチュア・太田「きちんとしたサービスを打ち出し、それを積み重ねていくことがとても大事です。
その結果、データがたまってきたら、それをグルグル回して活用する。
われわれがトランコムを支援できるとすれば、そのグルグル回す部分を高速化することだと考えています」
コンサルティング会社が物流会社の情報システム子会社を吸収する狙いは何ですか。
アクセンチュア 太田陽介 ビジネスコンサルティング本部 サプライチェーン&オペレーション(COO Advisory)プラクティス 日本統括 マネジング・ディレクター「端的に言えば、コンサルティング会社の能力や知見だけでは十分ではないところがあったからです。
当社はサプライチェーンや物流の課題解決に向けて、単に絵を描くだけではなく、それを実現まで持っていくことを一つの意義としています。
足回りまで含めて実現性のあるプランを作り、それをお客さまと一緒に実行するわけです」 「そのために、現場が分かってITも分かる、一方で理論も大事にできる、全てをカバーできる人材を育てようとしています。
しかし、そんなパーフェクトな人が最初からいるわけではありません。
そのためチームでそれをカバーしています。
そこにプランを作る最初の段階から現場系の知見と経験を持った人材に参画してもらいたい。
続いて実行に移ってからも、想定していなかった課題は必ず出てくるので、現場と適切にコミュニケーションをとってプランを修正して、現場と一緒に取り組みを進めていける人材が必要でした」 ──その相手がなぜトランコムだったのですか。
アクセンチュア・太田「これはお世辞ではなくトランコムについては以前から、『あの会社はすごい』という評判を聞いていました。
実際のところ大組織でひたすら与えられた仕事をしている人たちとは違って、自分で課題を考えることのできる人が多い。
大手物流会社のシステム部門をカーブアウトする(切り出す)よりも、そうした会社の方が、意味も効果もあると判断しました」 ──アクセンチュアのオファーをトランコムはどう受けとめたのですか。
トランコム 上林 亮 取締役専務執行役員「それこそ『何でウチなんですか?』というのが最初の反応です。
ITSの他にもシステム会社は世間にいくらででもありますから。
ただし、先ほどご指摘いただいた通り、当社の場合は決して官僚的ではありません。
型にはまっていないところはあるかと思います。
そこを評価いただいた、ということでした」 「ITSの売り上げの内訳は、約3分の1がトランコムグループ向けで、残り3分の2がいわゆる外販です。
ITの世界が日進月歩で変化していくなか、物流会社のシステム子会社がどうやって外販を伸ばしていくかということについては、従来から課題を感じていました。
外販をグループ向けとは切り離し、アクセンチュアという世界有数の企業に譲渡すれば事業の成長が期待できる。
そのことがITSの既存のお客さまにとってもプラスになると判断しました」 ──単に事業を譲渡するだけでなく、アクセンチュアとの協業に踏み込んだ狙いは? トランコム・上林「ITSに残った3分の1はトランコムのDXに集中するわけですが、そこではアクセンチュアさんの支援を受けたいと、われわれからお願いしました」 アクセンチュア・太田「トランコムがDXの支援をITSの事業を譲渡する条件の一つに挙げられたことに正直、われわれは驚きました。
マッチング事業を中心に継続的に成長を続けていて、端から見れば順調そのものなのに、自分たちは変わらなければいけないと強烈に思っている。
そのことに驚くと共に、果たしてわれわれに何ができるのかと考えさせられました」 トランコムのDX戦略 ──振り返るとトランコムは、家電メーカーの共同物流を軌道に乗せて1990年代に株式公開を果たしましたが、その後、家電量販チェーンの自社物流が広がったことで、事業基盤が崩れました。
しかし、そこから求貨求車事業と3PLに大きく舵を切ることで再生を果たしました。
2000年前後のITバブルの時代には、国内だけでも求貨求車システムが数十も乱立しましたが、そのほとんどがバブル崩壊と共に消えていくなか、トランコムだけは成長を続けました。
これはトランコムがマッチングをITに頼ろうとはせず、電話を使った人間系のやりとりにこだわったことが大きかった、と考えられています。
その後もトランコムはITの活用には継続的に取り組んでいますが、「アジャスター」と呼ぶマッチング担当者の業務を支援することがその狙いであって、ビジネスモデルそのものを変革するようなデジタル化や自動化は必ずしも志向していないと、私は理解しています。
トランコム・上林「確かにマッチングのインタフェースは今でも人間系でやっています。
ただし、そこから先の部分ではかなりIT化を進めてきたつもりです。
最近でもAI開発のPKSHA Technology(パークシャテクノロジー)と組んで、22年10月に当社としては初めてマッチングにAIを導入しました」 「宅配のラストマイルと違って、BtoBの輸送は荷姿や荷扱い、積み降ろし場所のルールなどの条件がさまざまなので、簡単に自動化することができません。
そのため当社ではアジャスターが荷請けできるかどうかを判断しています。
しかし、判断には属人性があり、後から振り返ると『あれはマッチングできたのに』ということがかなりありました」 「そこでAIに過去のマッチング実績と需給傾向を学習させて、貨物情報からマッチングできる可能性をAIで予測して100点満点でスコア化する仕組みを構築しました。
アジャスターの荷請け判断の精度が上がり、マッチングのロスを抑制できます。
従来は荷請けしていなかった貨物情報のうちの約1割、年間1万個以上が荷請けできるようになる見込みです」 「他にもオンラインチャネルの活用や他のプラットフォーマーとの情報連携については常にウオッチしています。
それでもやはり、お客さまとのタッチポイントを人間系でやるという基本線は当面、変えるつもりはありません。
われわれが足元で問題視しているのはむしろ、物流センター周りやコーポレート機能の情報化です」 アクセンチュア・太田「これまで私はトランコムが人間系を鍛えてそれを存在意義にしている会社だと思い込んでいたのですが、今回、深く関わることになって実際にはITやデジタルを相当に研究して取り組んできた会社であることを知りました。
アジャスターを支援する仕組みなど本当にレベルが高い。
しかし、そのやり方にしても進化を続けていかないと、お客さまの課題に寄り添っていくことが難しくなるのもまた事実だと思います」 「われわれが、トランコムとならやっていける、価値観も合うと考えたのは、DXと言っても、少なくとも物流においては、ここまでがデジタル、ここまでがアナログときれいに切り分けられる世界にはならず、まだら模様になると考えている点です。
全てがデータに落ちることなど相当先までない。
もしかしたら、ずっとないのかも知れない」 「つまり人間が判断する領域はいつまでも残り、アナログとデジタルのまだら模様になる。
その点ではアクセンチュアという会社には、多少なりとも知見と経験を持っているという自負があります。
トランコムに対しても、アナログとデジタルをどううまく組み合わせて進めていくかというところで価値を提供できるだろうということから、協業を前に進めさせてもらうことにしました」 メーカー物流が再び焦点に ──DXという言葉はかなり曖昧です。
トランコムあるいは上林さんご自身は、物流企業にとってのDXをどう受けとめていますか。
トランコム・上林「太田さんとはよく、DXは『X』から始めるという話をしています。
つまり、自分たちがどうありたいかということが出発点としてあって、そこに向かってデジタルをどう使っていくかということであり、場合によってはデジタルツールではなく、やっぱり人間でやった方がいいという結論になるかも知れない。
そのためマッチングのオペレーションもそうですが、3PL事業にしても、自分たちがどういう物流センターを作りたいのかを最初に起草しないといけない」 ──アクセンチュアに持ち込まれている物流DXの案件は、具体的には何をしたいという話が多いのでしょうか。
アクセンチュア・太田「物流DXの案件でそろそろ一巡したのかなと感じているのが、ECに対応する物流の構えを作りたいという内容です。
ECはデータが取りやすいし、自動化のROI(投資利益率)も成り立ちやすいので、そこには全自動のコンセプトを入れやすかった。
それに対して今はBtoB、ものづくりに関連するメーカー間物流のDXが大きなテーマになっています。
需給と物流を結びつけるという古くからの課題に、DXという手段であらためて取り組もうという話です」 ──古くて新しい課題とは、どういうことですか。
「これまで何十年にもわたって、物流部門は物流のことだけ、調達部門は調達のことだけしか、課題を設定できずにきました。
需給を預かるサプライチェーン部門、企画部門に物流部門がモノを申すなどあり得ないという会社さえあります。
しかし、物流のキャパシティーが有限であり、物流コストが上がり続けている今、物流レイヤーの改革だけでは経営にミートするような成果を打ち出せない。
計画から実行までを縦につなげなければいけない。
それは30年も前から指摘されていたことで、みんなが分かっている。
それが『古くから』の意味です」 「一方で縦につなぐ手段は今たくさん出てきている。
以前であれば1日の終わりにバッチを切って夜中に3〜4時間かけて回したデータを翌朝に見て、さて、ここからどう実行系につなげるかというスピードで動いていたものを、今は数十分もかからずに処理できる。
ところが、そうしたツールを実際にはうまく使えていない。
縦がつながらないために、企業間の横の連携も取れない。
その縦横が連携しないと、物流のひっ迫という社会課題は解決しない。
そこでもう一度、縦をつなげようということになっているわけです」 ──そもそも荷主企業が2000年代にSCM部を立ち上げたり、需給調整機能を物流部門に移管したのは、縦をつなぐためでした。
それをなぜ今さらやり直す必要があるのでしょうか。
「身も蓋もない言い方になりますが、結局のところ経営者の問題です。
経営者が『この課題と、この課題を別々に考えるのはやめろ』と指示すれば済む話です。
ロジスティクスがビジネスの勝敗を決めるという自覚のある会社はどこもそうしています。
物流に関する意思決定を、経営に近いところでやっている」 「ところが、そうした自覚のない経営者は、物流の細かい話など自分のところに持ってくるなと言う。
あるいは、そう思っていると取り巻きたちが忖度して、経営会議なりのアジェンダを組む。
本来であれば、われわれのようなコンサルティング会社がそうした場合に間に入ればいいわけですが、コンサルタントもまた管理部門やサプライチェーン部門ばかりと話をしていて、物流部門の課題や悩みが分からない。
われわれがトランコムと共に一歩踏み出すことを決意した背景にも、そうした反省があります」 ──それが荷主企業の物流DXだとすると、物流会社としてトランコムに何ができますか。
トランコム・上林「われわれが荷主の物流部門と目先の問題をシェアしているだけでは構造は変わらない。
いかに荷主のトップマネジメントとコンタクトするか、構造を変える機会を得ることができるか、というところだと思います」 ──「2024年問題」はそのきっかけになりますか。
トランコム・上林「期待はしていますが、問題に正面から取り組んで解決していこうと考えている荷主は実際にはそう多くありません。
当社としても24年問題に対応するため、中継輸送に挑戦しているのですが、従来と比べて輸送コストは1・5倍近くに跳ね上がってしまいます。
大量輸送をしている荷主はとても受け入れてくれません」 ──受け入れないと荷主の商売が止まってしまう。
トランコム・上林「そうなんです。
それでも物流会社に『なんとかうまくやってよ』と」 ──結局は運賃がさらに上昇することになる。
トランコム・上林「そう思います。
ドライバー不足は既に10年近く叫ばれてきたわけですが、これまではドライバーの高齢化によって何とか乗り切ってきました。
それがいよいよ厳しくなっていきます。
一方、コロナ禍で工業製品の荷量が減って燃料費も高止まりしていることから、長距離中心だった運送会社が近距離にシフトしています。
それで長距離がますます減っている。
工業製品の材料や部品がきちんと調達できるようになって、フル生産に戻った時には恐らく大きな問題になる」 「それを見越して当社は今、マッチング事業で燃料費の値上がり分を荷主から収受できていなくても、輸送パートナーには先行してお支払いするようにしています。
決して胸を張れる運賃を払っているわけではありませんが、『少しでも』ということです。
そのために他の物流大手が好決算を続けているのとは対象的に、当社は現在、収益的には厳しい状況に置かれています。
少しDXとは離れた話になってしまいましたが」 アクセンチュア・太田「やはり荷主は縦につなげて、今までの方法論を見直さないと費用を抑えることはできませんね。
多頻度小口化にしても、エンド・トゥ・エンドで見た時に本当にJITの必要があるのかを問い直す必要がある」 トランコム・上林「指定納品時間の幅を広げるなど、荷主企業が輸送条件を緩める動きは、数年前から少しずつは起きています。
それによって当社では複数件数降ろしの混載のマッチングができるようになってきた」 プラットフォーム戦略の罠 ──DXの出発点となる、あるべき姿をトランコムはどう描きますか。
トランコム・上林「まだはっきりとお答えできる段階ではありませんが、具体的な話を少しすると方向性としては二つあります。
一つは業務・オペレーションの改革。
もう一つがデータの有効活用です。
例えば3PL事業は、現状ではお客さまごとにシステムが組まれている。
従業員やドライバーの管理システムも目的別に分かれている。
それら全体を俯瞰した上で点を線にしていきます。
共通で使える機能は汎用化する。
またマッチング事業でもアクセンチュアの力を借りて、自分たちの技術ではできなかったサービスを開発していきたい」 ──物流プラットフォームの構築に向けた競争が起きています。
トランコムの求貨求車システムは有力候補の一つです。
トランコム・上林「そこはおっしゃる通りだと思います。
現在、当社は運送会社1万3千社と取引があり、年間約20万台のトラックをマッチングしています。
そのために全国650人のアジャスターがそうした会社と日々コンタクトを取っている。
そのため空車情報だけでなく車両そのものの情報まで入手できる。
口座も既に開いているわけですから、そうした情報を車両の売買やフリートマネジメントに展開することはできるかも知れない。
あるいは、われわれの持つ情報やデータを物流以外のビジネスに活かせるかも知れない」 アクセンチュア・太田「しかし、私の知る限り、トランコムはプラットフォームになりたいとは言っていない。
それよりも、どうしたらもっとお客さまの役に立てるかと考えている。
それでいいんだと思います。
現在のプラットフォーム検討ブームに、私は個人的に少し違和感があります。
プラットフォームを作ることが目的化して、どうやったらプラットフォーマーになれるかというスキームの話ばかりしている」 「実際に成功しているプラットフォームは必ずしも最初からプラットフォーマーを目指していたわけではありません。
お客さまに小さな『嬉しい』や『助かる』をちゃんとサービスとして提供していくうちに、データがたまっていって結果としてプラットフォームになったという話です」 トランコム・上林「確かに当社もプラットフォームを意識してやってきたわけではありませんでした。
マッチングを1件1件積み重ねた結果として今の状況がある」 アクセンチュア・太田「きちんとしたサービスを打ち出し、それを積み重ねていくことがとても大事です。
その結果、データがたまってきたら、それをグルグル回して活用する。
われわれがトランコムを支援できるとすれば、そのグルグル回す部分を高速化することだと考えています」
