2023年1月号
特集

《輸配送の見える化》日立物流「SSCV」 デジタル基盤で中小運送の経営安定化を支援

輸配送を取り巻く三つの課題に対処  日立物流が開発した「SSCV(Smart & Safety Connected Vehicle)」は、輸送現場を取り巻く課題を「安全性」「生産性向上と法令対策」「車両の利便性向上」の三つに大別して、輸送のデジタル化によって改善・解決を図ることを目指すプラットフォームだ。
 輸送DXで業務を効率化する「SSCV-Smart」、IoT/AIを活用して運行の安全性を向上する「SSCV-Safety」、フリートマネジメントの導入によって車両整備を最適化する「SSCV-Vehicle」の三つのソリューションで構成している。
 2015年に同社の同一事業所でノーブレーキの追突事故が半年間に3件も発生したことが、開発のきっかけだった。
いずれの事故もドライバーの目は前方を向いていたが、注意力が低下していて危険回避などの判断が遅れた“漫然運転”が原因だった。
 日立物流の南雲秀明DX戦略本部スマート&セーフティソリューションビジネス部部長は、「ドライバー自身も自覚していない疲労やストレスが漫然運転を誘発する。
各人の努力で防げるものではなく、通常の点呼でも見つけられない。
現場任せの安全管理には限界があると判断して全社的なプロジェクトで対処することを決めた」と語る。
 市販の対策ツールを軒並み試してみたが、1年かけても満足するものは見つからなかった。
そこで17年に医療機関との共同研究を開始。
自社グループのトラック運転手4千人日分の運行前後の体調と車両動態に関する1年間分の実績データを分析して、疲労とヒヤリハットの相関性を解明した。
 これを基に日立製作所が、運行前後の体調から事故リスクを予測するアルゴリズムを開発。
日立物流DX戦略本部と日立物流ソフトウェアが中心となってSSCV-Safety(セーフティ)を設計した。
19年に自社トラック1300台に導入、トライアル&エラーを繰り返しながら精度・品質・使い勝手を向上させ、20年度から本格運用を始めた。
 現在はグループの所有トラック計約2300台に導入済みで、協力会社1350社が所有する計約1万台への導入が進んでいる。
その結果、導入開始時点の19年1月に、自社車両全体で月間約600件発生していたヒヤリハットが、21年3月までに94%減少した。
月間の事故件数は同じく35件から10件に減少した。
 急加速・急減速・急ブレーキ・急ハンドルが減少したことでエコドライブにもなり、燃費は7・4%改善した。
1台当たりの管理者工数は1日30分から10分に軽減できた。
これらの効果で、車両1台当たり月間約9千円のコスト削減が実現した。
なお、漫然運転起因事故は16年以降発生していない。
 協力会社にセーフティの導入を働きかけていく過程で、安全性以外にも、輸送の手配の効率性や法令順守に関する悩み事も耳にするようになった。
日立物流は輸送業務の約9割を協力会社に委託している。
大部分が中小運送だ。
その経営を支援することがオペレーションの安定には必要と判断して、業務効率化ソリューションの開発にも乗り出し、19年にSSCV-Smart(スマート)をローンチした。
 スマートは荷主や輸送依頼主と輸送業者の双方をクラウドシステムで結び、求貨求車、見積もり、受発注、請求書のやり取りや、配車、運行指示書の作成・発行を全てWeb上で処理する。
属人化した配車管理や運行管理から脱却できる。
一般的な求貨求車システムとは異なり、積み降ろしにクレーンが必要な大型機械や特殊な形状の物品など、特定の輸送設備や荷扱いに対応できる運送事業者を絞り込む機能なども搭載している。
 やり取りした情報は全てクラウド上に保存される。
取り引きのエビデンスが残るので、法令順守の強化にも役立つ。
22年1月に改正された電子帳簿保存法に対応済みで、23年10月から始まるインボイス制度で求められる適格請求書の発行・保存機能も23年春に実装する計画だ。
 グループの茨城地区の輸送事業所で協力会社約80社にスマートを導入して21年4月から運用を開始した。
その結果、月間267人時の業務工数の削減と、月間約4800枚の紙の削減が実現した。
 21年4月には車両管理ソリューションSSCV-Vehicle(ビークル)の導入も開始した。
車両の調達からメンテナンス、買い取りまで、ライフサイクルを通じてサポートする。
既にグループのほぼ全車両と協力会社の計8千台以上が導入している。
 特徴の一つが、車検費用などの法定定期点検費用、各種消耗品交換費用、故障時の修理料金などを含めたサブスクリプション方式の定額メンテナンスサービスだ。
メンテナンスリースと違い、購入済みの車両や他社のリース車も対象になる。
 運送会社はメンテナンスのスケジュール管理、見積書取得、発注、整備工場との調整、請求書の処理などの業務を全てアウトソーシングできる。
車両管理業務が1台当たり年間約11時間削減される。
さらに現在、車載器から各種データを取得して故障予兆をつかみ予防整備を行う「車両遠隔管理ソリューション」の開発も進めている。
赤字覚悟で外部にもサービス提供  22年4月、グループと協力会社以外の運送会社に対してもSSCVの販売を本格的に開始した。
費用はセーフティが導入費・通信費込みで車両1台当たり月額9800円。
スマートは1事業所当たり月額1千円。
運行指示書の発行は1通100円の従量課金制。
運行指示書発行し放題のプランは同3千円。
 南雲部長は、「いずれの価格も当社にとって利益が見込める額ではないが、業界全体を支えなければ当社も共倒れになるという危機感のもとで提供している。
スマートにしても、当社が輸送の大半を自社で手掛けていたら、開発することはなかっただろう」と振り返る。
 同社によると、外部ユーザーの一社・香川県高松市の大運組は、全日本トラック協会のセミナーでセーフティを知り導入した。
ドライバーがイライラ運転を自覚しやすくなったことでヒヤリハットが減少したほか、構内で軽い接触事故が起きた日に、セーフティが点呼時に予測した「リスク予報」を振り返ると「曇り」になっていたことから精度にも納得できたという。
 今後のSSCVの展開として、日立物流は三つのソリューションに横串を通す考えだ。
セーフティ、スマート、ビークルの導入が進み利用データが増えてきたことから、ソリューション間でデータ連携し、新たな機能の創出を図る。
 現在、セーフティに蓄積された車両の位置情報などの走行データを、スマートの配車情報や運行指示に活用する機能の開発を進めており、23年4月にはサービスの提供を開始する計画だ。
 SSCVの実績データを公開して、ソリューションの開発を促すオープンイノベーションにも取り組んでいる。
その一環として、大和ハウス工業「第4回スマートロジスティクス オープンデータチャレンジ」に協力している。
 セーフティに蓄積した1年分の実績データを、個人を特定できないよう処理した上で、オープンデータとして提供している。
グループ車両2300台の位置情報・日時・速度・走行距離・加速度、自社ドライバー約1500人の出発前後と運転中の生体データ・疲労度・注意レベル、ヒヤリハット発生時点で取得した内容・日時・位置情報・ドラレコ映像などがそこに含まれている。

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