2023年1月号
特集
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《海外論文》デジタルサプライチェーンの技術と実装
デジタルサプライチェーンへの変革
KPI(重要業績評価指標)に関する近年の調査によると、リーディングカンパニーのサプライチェーンリーダーたちが最も重要な指標としているのは、「製品の品質」「コスト」「納期遵守」の三つだという。
こうしたトレンドや変化に対応するには、サプライチェーンはより速く、柔軟に、きめ細かく、効率的に、そしてはるかに精確なものでなくてはならない。
そしてそのためには、労働者を支援して生産性を向上させるオートメーションの力を借りる必要がある。
情報とプロセスの統合、在庫レベルのリアルタイムモニタリング、製品に関する顧客とのコミュニケーションなど、長年にわたってデジタルサプライチェーンの一翼を担っている技術には、GPS追跡・RFID・バーコード・スマートラベル・位置情報・無線センサーネットワークなどがある。
アマゾンやアリババのようなグローバルリテーラーは、荷物をハンドリングするロボットや配送用ドローンなどに投資をしてきた。
一方、BMWは、組立工場の完全デジタル化や、調達部品に関するデータ分析主導型のダイナミックなサプライチェーンセグメンテーションに取り組んでいる。
デジタル化によってサプライチェーンは一変する。
デジタルサプライチェーンの主目的は、いま何が起きているかをシステムが素早く察知し、その条件下で最適なパフォーマンスが得られるよう、チェーンの物理的プロセスを即座に変えてゆくところにある。
SCMの変革スピードは、そうした技術の性能向上とコスト低下をどこまで実現するかにかかっている。
われわれは今回、SCMのためのデジタル技術として図表1の八つの領域を取りあげる。
以下のセクションでこれらの技術を概観し、現今の技術動向がサプライチェーンをどう変えてゆくのかを見た後に、デジタルサプライチェーンへの変革に向けたコンセプトを紹介する。
◦ロボティクス ロボット化の進む倉庫では、トラックの荷下ろし・梱包・オーダーピッキング・在庫棚卸・出荷など、各種作業を担う多彩なロボットが導入されている。
こうしたロボットの多くは移動可能かつ自己完結型である。
しかし、プランニングソフトウェアを搭載した高度な倉庫管理システム(WMS)が、それらを一元管理して在庫の動きを把握し、注文を極めて正確に処理する。
倉庫作業員は単純作業から解放されて、より大きな責任を与えられる。
オペレーションの管理・フローの調整・ロボットの修理・例外的なオーダーの処理など、より高度なタスクを遂行することになる。
コンピュータービジョンやモーションセンサーの技術革新は、「協働ロボット(cobot)」として知られる新しいタイプの産業用ロボットを生み出した。
人と一緒に働く協働ロボットは、重量物や危険物の持ち上げや運搬といった困難な仕事を、人間の監視下で支援する。
協働ロボットの市場は現段階ではまだそれほど大きくはないが、この先の10年間で販売台数が飛躍的に伸びることが予想されている。
開発中もしくは現在利用可能なロジスティクス分野のロボットシステムを、以下にいくつか紹介する。
また図表2には、物流向けの先進ロボティクスの概要と、ロボットの主要なベンダーを列挙した。
①トレーラーおよびコンテナからの荷下ろしロボット 箱をピックアップし、荷物をコンテナから仕分けセンターへと搬送するコンベヤに載せる。
②据え置き型ピース・ピッキング・ロボット 商品棚をピックアップし、定位置にいるピッカーのところまで持ってくる。
ピッカーが目的の品物を取り出すと棚が移動し、また別の棚がやってくる。
③モバイル・ピース・ピッキング・ロボット 旧来型の倉庫の棚を動き回り、人がやるのと同じように品物をピッキングする。
④宅配ロボット 小型の移動ロボットが低速で歩道を走行し、荷物を消費者宅に直接届ける。
⑤ドローン この技術は、今後もラストマイルの配送を変革していくものと考えられている。
◦ブロックチェーン技術 ブロックチェーンアプリケーションを最も活用しているのは金融業界だが、製造業においても関心が高まっている。
分散型台帳は製造業に限らず、輸送中のコンテナの追跡やサプライチェーン全体にわたる重要な製品の情報など、SCMの課題解決に役立てることができる。
SCMにおける主要なブロックチェーンのアプリケーションは、主に次の二つである。
①サプライチェーントレーサビリティー ブロックチェーン技術は、サプライチェーンのトレーサビリティーと透明性の分野で大きな可能性がある。
ブロックチェーンにはすべての詳細記録が保存されており、生産の過程で各メーカーはそれにアクセスすることが可能だ。
サプライチェーンの上流から下流まで、すべてを見通すことができる。
ブロックチェーンは、実態があいまいになりがちな書類上のトラッキングや手作業の検査システムの代わりとなり、情報共有がスピードアップする。
②ロジスティクスへのインパクト ブロックチェーン技術のロジスティクスへの適用は、事務処理量の削減、関連情報のより迅速な提供、詐欺行為の防止、配送コストの劇的削減などをもたらす。
実際に、ロジスティクスにブロックチェーンアプリケーションの活用を試みた企業もある。
IBMと海運大手のマースクは、ブロックチェーンは輸送中のコンテナを効率的にトラッキングし労力を削減する、という結論に至っている。
◦3Dプリンター(積層造型法) 従来型サプライチェーンへの影響 3Dプリンターに利用されているAM(アディティブマニュファクチャリング=積層造型法)技術は、生産の柔軟性の向上と分散化、原材料の無駄の削減など、さまざまな面でサプライチェーンに影響を与える。
AMをサプライチェーンの複雑性を減少させる強力なツールとしてとらえる研究者もいる。
バラバラの部品を一つの製品に仕立て上げることで、在庫の複雑さを軽減できるというわけである。
また、組立工程やその準備段階が不要になることや、サプライヤーの数を減らせる可能性があることも指摘されている。
いずれにしても3Dプリンターがロジスティクスと在庫に大きな影響を与えるということについては、大方の意見が一致する。
図表3に見るように、企業はAMを利用してサプライチェーンの見直しを行い、主にコスト・スピード・品質・環境という四つの分野でパフォーマンスを向上させている。
グローバルサプライチェーンへの影響 AMは、サプライチェーンのグローバルな体制に非常に大きな破壊力を及ぼす可能性がある。
大量生産設備も単純作業をする組立工も不要になり、サプライチェーンコストが劇的に低下するかもしれないのである。
どのような場所であってもほぼ同じコストで生産が可能になるため、世界中から各顧客のもとまで商品を運ぶことは、もはや経済的合理性をもたなくなる。
リショアリングや現地調達につながる可能性をもつこの技術により、グローバルサプライチェーンは解体され、新しい地域システムとして再構成されることになるかもしれない。
デザイン・生産・マーケティングの関係もより近くなる。
また、最終目的地の近くで商品を生産することで、物流コストと環境への悪影響も減少する。
そのためAMの活用は、生産の一部を低賃金の国々から消費者に近いところに移すことになる可能性を孕んでいる。
グローバルサプライチェーンは、グローバルにつながると同時にローカルなサプライチェーンへと変貌することになるだろう。
グローバルロジスティクスへの影響 最新の研究によれば、3Dプリンターはリードタイムとコストを劇的に削減し、ロジスティクス業界に再編成を促す要因になり得る可能性をもつ。
ロジスティクス業界には、3Dプリンターに供給するプラスチック・粉体・接着剤・セラミックスなどの原材料の保管と輸送を担う新たなセクターが登場する。
3Dプリンターの普及とともにこうした原材料の宅配市場が成長し、輸送距離も短くなることが予想される。
AMがますます普及するにつれて、未来のサプライチェーンにおけるその役割も大きくなっていく。
AMが切り開く新しいサプライチェーンモデルの概要を図表4に示す。
◦IoT IoT(モノのインターネット)はあらゆる機器をインターネットにつなげる、あるいは機器同士を相互に接続するというコンセプトである。
SCMを支援する優れた手段を提供し、アセットの利用率と稼働時間、エンドツーエンドのサプライチェーンパフォーマンス、可視性と信頼性、といったサプライチェーンにかかわる幅広い分野に大きな影響を与える。
IoTデバイスは、ある製品がサプライチェーンのどの段階にあるかを即時に探知し、始点から配送完了にいたる取扱履歴を明らかにする。
IoTがサプライチェーンに及ぼす影響を図表5にまとめた。
サプライチェーンにおけるIoTの課題 IoTはサプライチェーンへの応用が期待される一方、その導入にはさまざまな課題もある。
サプライチェーンにおけるIoTのフル活用を阻む要因は、セキュリティー・プライバシー・拡張可能性にある。
IoTは無線技術であり、そのアプリケーションは多くのセンサーノード(センサーの付いた無線端末)で構成される。
そのため無線通信やデータ保管時のデータ漏洩、あるいは保管サイトのセキュリティーについて、ユーザー側に懸念が生じるのである。
IoTが収集するデータの中には、機密性が非常に高く社会的に重大な影響があるため、法律によって保護されているものもある。
安全対策が万全でないと、消費者のプライバシー侵害や人権への脅威にもなりかねない。
またIoTシステムには、産業規模の大小を問わず、同じように効率的なオーダーメイドのソリューションを提供できるだけの拡張可能性および適用性が求められる。
◦クラウド技術 クラウドコンピューティング技術(CCT)は、協働と情報共有にかかわるサプライチェーンプロセスで利用される(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント、サプライヤー・リレーションシップ・マネジメント、カスタマー・サービス・マネジメントなど)。
自社のサプライチェーンとサプライヤーおよび顧客のそれとを、CCTによって一つのネットワークで結ぶことで、関係者全員のコスト最適化を実現する。
相互接続されたデータベースには、アクセス管理規定にもとづいて自動的に情報が共有される。
CCTはサプライチェーンのデジタル化を、より管理しやすくより低コストで実現する。
スタートアップや小規模な企業を短期間で立ち上げたり、インフラへ多額の投資をすることなく、独自のデジタルサプライチェーン(DSC)機能をもつことができるのだ。
また、収益を生み出す製品やサービスを市場に投入するペースも速くなる。
従来型のサプライチェーンを擁する企業は、そこに再び投資をする必要が生じることになる。
2016年に実施された調査によれば、クラウドコンピューティングは、ほぼすべてのサプライチェーンにおいて決定的な役割を果たしている。
CCTをDSC内の在庫水準や輸送・倉庫の空き状況などの情報共有に活用することで、コスト削減と競争力の獲得、デジタルプロセスと価値提案、製品・プロセス・設備の規格化と拡張性の向上、などが実現している。
また、在庫水準の減少と在庫回転率の向上も確認されている。
これとは別の研究では、ビジネスアジリティ(ビジネスの俊敏さ)およびキャパシティーの柔軟性の向上、ニューテクノロジー受容の迅速化、予測能力の向上、サプライヤーのパートナーとのより進んだコラボレーション、などがCCTの効果として報告されている。
◦アドバンストアナリティクス 数十年もの歴史をもつアナリティクス(分析、解析)テクニックは、大量の非構造化・半構造化・構造化データをインサイト(洞察)へと導くために利用されている。
具体的用途としては需要予測、総合的事業計画、サプライコラボレーション、リスク分析、在庫管理などが挙げられる。
サプライチェーンのプロフェッショナルたちは、予測分析をサプライチェーンの効率改善のために活用している。
指定日の指定時間に製品を正確に届けることがますます求められるメーカーは、その目的達成のために予測分析を利用している。
顧客が今何を求めているのか、そしてこの先、何を求めるようになるかについて、アナリティクスがもたらすインサイトを利用することで、企業はより適切な意思決定をすることができるようになる。
サプライチェーンの各構成要素が企業の社会的責任をどれだけ果たしているかについて、企業にデータ収集能力を与えるのもアナリティクスツールである。
この透明性のおかげで、サプライチェーンのパートナーは、グリーンオペレーションとロジスティクスのベストプラクティスの開発と共有が可能になる。
SCM分野のデータアナリティクスへの投資による効果は、出荷用在庫の削減、SCMリスクの低減、在庫レベルの上昇を伴わない納期の短縮、輸送ルートの改善、オーダー・生産・発送のバッチサイズ最適化などである。
図表6には、サプライチェーン分野のアナリティクスアプリケーションの概要を示した。
以下は、SCM改善の可能性についてである。
①戦略的プランニングの改善 高度なアナリティクスでオペレーションを常時可視化することで、継続的なインサイトが得られる。
サプライチェーンマネジャーは、これにより全体的な目標が達成されているかどうか、そして必要に応じてどのように調整するかを見極めることができるようになる。
②競争優位性の獲得 アナリティクスツールを使えば、企業は顧客と競合相手についてより深く知ることができる。
具体的な状況に即した説得力のある分析的インサイトにより、企業には確固とした競争優位性がもたらされる。
③プロセスの最適化 サプライチェーンのリーダーたちがアナリティクスツールを活用すれば、オペレーションに関する複雑な問題への解答や、もしそうなら何が起こるかというシナリオ(what if シナリオ)の作成、あるいはあるシナリオの結果が出るのを待たず(つまり実際のプロセスに影響を与えず)に予想される結果を評価することなどができる。
◦拡張現実 デジタルと物理的な世界とを隔てる境界を消滅させてしまうバーチャルリアリティ(VR)と拡張現実(AR)は、いま最も急速に成長している分野の一つである。
例えばサプライチェーンにおいても、製造・倉庫・ロジスティクスにおける修理・メンテナンス機能の強化など、従業員と顧客のデジタルエクスペリエンスを推進する役割を担っている。
以下は、サプライチェーンにおけるAR・VRの活用例である。
①製造設備・配送センター・倉庫などでプロセスが予定どおり進行しているかどうか、マネジャーがいつでも確認することが可能に。
②オーダーピッキングのプロセスを高速化するとともにミスを減らす。
スマートグラスを使えば、ピッキングをしながらカートの中の商品の正確な位置がわかるようになる。
③最適な配送ルートにより、配送プロセスの効率化と時間どおりのデリバリーを実現。
④パッケージングと中身の詳細な情報により透明性を改善。
⑤顔認証技術を利用した本人確認によるセキュリティの強化。
◦RFID RFIDとは、無線チップを人・場所・モノなどの物理的対象に貼り付け、それをコンピューターとのインターフェースに利用する技術であり、バーコードよりも多くの情報を伝えることができる。
こうした情報は、小売店舗やサプライチェーンにおける在庫管理の改善に役立てることが可能だ。
在庫レベルの圧縮やリードタイムの短縮、あるいは在庫切れや減耗を減らすことで、サプライチェーンパフォーマンスを劇的に改善する。
また、スループット、在庫の可視性、在庫や注文の正確性、顧客サービス、品質、サプライチェーンメンバー同士のコラボレーションなども向上させる。
一般にRFID技術は、あらゆるSCMにおいて、次の三つのレベルのビジネス価値を生み出すことができる。
①現状 RFIDリーダーには複数のタグを同時に読み取ることが可能であり、人の視線や介入を必要としない。
そのためチェックアウト・在庫管理・ロス防止などのコストが削減される。
②短期的展望 アセットトラッキング、製品の原産地追跡、製品リコールなどにより、サプライチェーンを改善。
③長期的展望 RFIDの情報共有によって、サプライチェーンパートナーは適切なアイテムを、適切な時間・適切な価格で、適切な場所に配することができる。
そして需要主導型のプロダクト・フルフィルメント・システムによって、消費者行動が在庫計画やロジスティクスへとフィードバックされる。
変革プロジェクトの進め方 デジタルサプライチェーンへの変革プロジェクトは、すべての企業に成功が約束されているものではない。
SCMプロセスの合理化は、慎重に計画を立てる必要がある。
企業は往々にして、それを使いこなす人よりもテクノロジーを偏重しがちである。
ところが、テクノロジーがあれば万事解決というわけにはいかないのだ。
あらゆる新規投資と同じく、選ばれたテクノロジーがビジネス戦略全体と合致しており、大きな付加価値をもたらすかどうかが肝心なのである。
サプライチェーンのパフォーマンス改善を目的とするデジタル技術の導入は、次に見るとおり多段階のプロセスから成る。
■フェーズ1:ディスカバリー(発見)フェーズ デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進プロセスにおいては、経営者層が大きな役割を果たす。
このフェーズでは、以下の設問に答えを出すことが重要である。
⃝あなたの会社では、テクノロジーを受け入れる態勢が整っていますか? ⃝あなたの会社では、時間とスピードが要求される膨大な量のデータを扱っていますか? ⃝あなたの会社では、業務の大半を外注していますか? ⃝あなたの会社は、デジタル技術の統合に伴うコストを負担できますか? ⃝あなたの会社のビジネスプロセスは、デジタル・ディスラプションに対応できますか? ⃝あなたの会社の従業員と管理職は、この変化に対応することができますか? ⃝あなたの会社は、ゆっくりと進んでいくべきですか、それとも新しい技術を取り入れてインフラ全体を変えるべきですか? デジタル技術の導入を成功裏に終わらせるためには、マネジャーとITスタッフのトレーニングが欠かせない。
各部門の管理職やリーダーはその技術と、組織内のプロセスを変えていくノウハウを学ばなければならない。
■フェーズ2:社内ブロセス評価 経営者や関係する社員は、CIO(最高情報責任者)とともに、デジタル・サプライチェーン・ソリューションが社内プロセスに及ぼす影響について分析をする必要がある。
その結果、非効率的なプロセスの平均化・変更・再編・改良・排除や、単純な手作業の自動化などが課題として浮かび上がってくることもある。
■フェーズ3:導入、強化、進化 企業は既存のやり方を継続的に改善し、デジタル技術のソリューションを最大限活用することで、ユーザーの支持を得るよう努めなければならない。
(翻訳構成 大矢英樹)
こうしたトレンドや変化に対応するには、サプライチェーンはより速く、柔軟に、きめ細かく、効率的に、そしてはるかに精確なものでなくてはならない。
そしてそのためには、労働者を支援して生産性を向上させるオートメーションの力を借りる必要がある。
情報とプロセスの統合、在庫レベルのリアルタイムモニタリング、製品に関する顧客とのコミュニケーションなど、長年にわたってデジタルサプライチェーンの一翼を担っている技術には、GPS追跡・RFID・バーコード・スマートラベル・位置情報・無線センサーネットワークなどがある。
アマゾンやアリババのようなグローバルリテーラーは、荷物をハンドリングするロボットや配送用ドローンなどに投資をしてきた。
一方、BMWは、組立工場の完全デジタル化や、調達部品に関するデータ分析主導型のダイナミックなサプライチェーンセグメンテーションに取り組んでいる。
デジタル化によってサプライチェーンは一変する。
デジタルサプライチェーンの主目的は、いま何が起きているかをシステムが素早く察知し、その条件下で最適なパフォーマンスが得られるよう、チェーンの物理的プロセスを即座に変えてゆくところにある。
SCMの変革スピードは、そうした技術の性能向上とコスト低下をどこまで実現するかにかかっている。
われわれは今回、SCMのためのデジタル技術として図表1の八つの領域を取りあげる。
以下のセクションでこれらの技術を概観し、現今の技術動向がサプライチェーンをどう変えてゆくのかを見た後に、デジタルサプライチェーンへの変革に向けたコンセプトを紹介する。
◦ロボティクス ロボット化の進む倉庫では、トラックの荷下ろし・梱包・オーダーピッキング・在庫棚卸・出荷など、各種作業を担う多彩なロボットが導入されている。
こうしたロボットの多くは移動可能かつ自己完結型である。
しかし、プランニングソフトウェアを搭載した高度な倉庫管理システム(WMS)が、それらを一元管理して在庫の動きを把握し、注文を極めて正確に処理する。
倉庫作業員は単純作業から解放されて、より大きな責任を与えられる。
オペレーションの管理・フローの調整・ロボットの修理・例外的なオーダーの処理など、より高度なタスクを遂行することになる。
コンピュータービジョンやモーションセンサーの技術革新は、「協働ロボット(cobot)」として知られる新しいタイプの産業用ロボットを生み出した。
人と一緒に働く協働ロボットは、重量物や危険物の持ち上げや運搬といった困難な仕事を、人間の監視下で支援する。
協働ロボットの市場は現段階ではまだそれほど大きくはないが、この先の10年間で販売台数が飛躍的に伸びることが予想されている。
開発中もしくは現在利用可能なロジスティクス分野のロボットシステムを、以下にいくつか紹介する。
また図表2には、物流向けの先進ロボティクスの概要と、ロボットの主要なベンダーを列挙した。
①トレーラーおよびコンテナからの荷下ろしロボット 箱をピックアップし、荷物をコンテナから仕分けセンターへと搬送するコンベヤに載せる。
②据え置き型ピース・ピッキング・ロボット 商品棚をピックアップし、定位置にいるピッカーのところまで持ってくる。
ピッカーが目的の品物を取り出すと棚が移動し、また別の棚がやってくる。
③モバイル・ピース・ピッキング・ロボット 旧来型の倉庫の棚を動き回り、人がやるのと同じように品物をピッキングする。
④宅配ロボット 小型の移動ロボットが低速で歩道を走行し、荷物を消費者宅に直接届ける。
⑤ドローン この技術は、今後もラストマイルの配送を変革していくものと考えられている。
◦ブロックチェーン技術 ブロックチェーンアプリケーションを最も活用しているのは金融業界だが、製造業においても関心が高まっている。
分散型台帳は製造業に限らず、輸送中のコンテナの追跡やサプライチェーン全体にわたる重要な製品の情報など、SCMの課題解決に役立てることができる。
SCMにおける主要なブロックチェーンのアプリケーションは、主に次の二つである。
①サプライチェーントレーサビリティー ブロックチェーン技術は、サプライチェーンのトレーサビリティーと透明性の分野で大きな可能性がある。
ブロックチェーンにはすべての詳細記録が保存されており、生産の過程で各メーカーはそれにアクセスすることが可能だ。
サプライチェーンの上流から下流まで、すべてを見通すことができる。
ブロックチェーンは、実態があいまいになりがちな書類上のトラッキングや手作業の検査システムの代わりとなり、情報共有がスピードアップする。
②ロジスティクスへのインパクト ブロックチェーン技術のロジスティクスへの適用は、事務処理量の削減、関連情報のより迅速な提供、詐欺行為の防止、配送コストの劇的削減などをもたらす。
実際に、ロジスティクスにブロックチェーンアプリケーションの活用を試みた企業もある。
IBMと海運大手のマースクは、ブロックチェーンは輸送中のコンテナを効率的にトラッキングし労力を削減する、という結論に至っている。
◦3Dプリンター(積層造型法) 従来型サプライチェーンへの影響 3Dプリンターに利用されているAM(アディティブマニュファクチャリング=積層造型法)技術は、生産の柔軟性の向上と分散化、原材料の無駄の削減など、さまざまな面でサプライチェーンに影響を与える。
AMをサプライチェーンの複雑性を減少させる強力なツールとしてとらえる研究者もいる。
バラバラの部品を一つの製品に仕立て上げることで、在庫の複雑さを軽減できるというわけである。
また、組立工程やその準備段階が不要になることや、サプライヤーの数を減らせる可能性があることも指摘されている。
いずれにしても3Dプリンターがロジスティクスと在庫に大きな影響を与えるということについては、大方の意見が一致する。
図表3に見るように、企業はAMを利用してサプライチェーンの見直しを行い、主にコスト・スピード・品質・環境という四つの分野でパフォーマンスを向上させている。
グローバルサプライチェーンへの影響 AMは、サプライチェーンのグローバルな体制に非常に大きな破壊力を及ぼす可能性がある。
大量生産設備も単純作業をする組立工も不要になり、サプライチェーンコストが劇的に低下するかもしれないのである。
どのような場所であってもほぼ同じコストで生産が可能になるため、世界中から各顧客のもとまで商品を運ぶことは、もはや経済的合理性をもたなくなる。
リショアリングや現地調達につながる可能性をもつこの技術により、グローバルサプライチェーンは解体され、新しい地域システムとして再構成されることになるかもしれない。
デザイン・生産・マーケティングの関係もより近くなる。
また、最終目的地の近くで商品を生産することで、物流コストと環境への悪影響も減少する。
そのためAMの活用は、生産の一部を低賃金の国々から消費者に近いところに移すことになる可能性を孕んでいる。
グローバルサプライチェーンは、グローバルにつながると同時にローカルなサプライチェーンへと変貌することになるだろう。
グローバルロジスティクスへの影響 最新の研究によれば、3Dプリンターはリードタイムとコストを劇的に削減し、ロジスティクス業界に再編成を促す要因になり得る可能性をもつ。
ロジスティクス業界には、3Dプリンターに供給するプラスチック・粉体・接着剤・セラミックスなどの原材料の保管と輸送を担う新たなセクターが登場する。
3Dプリンターの普及とともにこうした原材料の宅配市場が成長し、輸送距離も短くなることが予想される。
AMがますます普及するにつれて、未来のサプライチェーンにおけるその役割も大きくなっていく。
AMが切り開く新しいサプライチェーンモデルの概要を図表4に示す。
◦IoT IoT(モノのインターネット)はあらゆる機器をインターネットにつなげる、あるいは機器同士を相互に接続するというコンセプトである。
SCMを支援する優れた手段を提供し、アセットの利用率と稼働時間、エンドツーエンドのサプライチェーンパフォーマンス、可視性と信頼性、といったサプライチェーンにかかわる幅広い分野に大きな影響を与える。
IoTデバイスは、ある製品がサプライチェーンのどの段階にあるかを即時に探知し、始点から配送完了にいたる取扱履歴を明らかにする。
IoTがサプライチェーンに及ぼす影響を図表5にまとめた。
サプライチェーンにおけるIoTの課題 IoTはサプライチェーンへの応用が期待される一方、その導入にはさまざまな課題もある。
サプライチェーンにおけるIoTのフル活用を阻む要因は、セキュリティー・プライバシー・拡張可能性にある。
IoTは無線技術であり、そのアプリケーションは多くのセンサーノード(センサーの付いた無線端末)で構成される。
そのため無線通信やデータ保管時のデータ漏洩、あるいは保管サイトのセキュリティーについて、ユーザー側に懸念が生じるのである。
IoTが収集するデータの中には、機密性が非常に高く社会的に重大な影響があるため、法律によって保護されているものもある。
安全対策が万全でないと、消費者のプライバシー侵害や人権への脅威にもなりかねない。
またIoTシステムには、産業規模の大小を問わず、同じように効率的なオーダーメイドのソリューションを提供できるだけの拡張可能性および適用性が求められる。
◦クラウド技術 クラウドコンピューティング技術(CCT)は、協働と情報共有にかかわるサプライチェーンプロセスで利用される(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント、サプライヤー・リレーションシップ・マネジメント、カスタマー・サービス・マネジメントなど)。
自社のサプライチェーンとサプライヤーおよび顧客のそれとを、CCTによって一つのネットワークで結ぶことで、関係者全員のコスト最適化を実現する。
相互接続されたデータベースには、アクセス管理規定にもとづいて自動的に情報が共有される。
CCTはサプライチェーンのデジタル化を、より管理しやすくより低コストで実現する。
スタートアップや小規模な企業を短期間で立ち上げたり、インフラへ多額の投資をすることなく、独自のデジタルサプライチェーン(DSC)機能をもつことができるのだ。
また、収益を生み出す製品やサービスを市場に投入するペースも速くなる。
従来型のサプライチェーンを擁する企業は、そこに再び投資をする必要が生じることになる。
2016年に実施された調査によれば、クラウドコンピューティングは、ほぼすべてのサプライチェーンにおいて決定的な役割を果たしている。
CCTをDSC内の在庫水準や輸送・倉庫の空き状況などの情報共有に活用することで、コスト削減と競争力の獲得、デジタルプロセスと価値提案、製品・プロセス・設備の規格化と拡張性の向上、などが実現している。
また、在庫水準の減少と在庫回転率の向上も確認されている。
これとは別の研究では、ビジネスアジリティ(ビジネスの俊敏さ)およびキャパシティーの柔軟性の向上、ニューテクノロジー受容の迅速化、予測能力の向上、サプライヤーのパートナーとのより進んだコラボレーション、などがCCTの効果として報告されている。
◦アドバンストアナリティクス 数十年もの歴史をもつアナリティクス(分析、解析)テクニックは、大量の非構造化・半構造化・構造化データをインサイト(洞察)へと導くために利用されている。
具体的用途としては需要予測、総合的事業計画、サプライコラボレーション、リスク分析、在庫管理などが挙げられる。
サプライチェーンのプロフェッショナルたちは、予測分析をサプライチェーンの効率改善のために活用している。
指定日の指定時間に製品を正確に届けることがますます求められるメーカーは、その目的達成のために予測分析を利用している。
顧客が今何を求めているのか、そしてこの先、何を求めるようになるかについて、アナリティクスがもたらすインサイトを利用することで、企業はより適切な意思決定をすることができるようになる。
サプライチェーンの各構成要素が企業の社会的責任をどれだけ果たしているかについて、企業にデータ収集能力を与えるのもアナリティクスツールである。
この透明性のおかげで、サプライチェーンのパートナーは、グリーンオペレーションとロジスティクスのベストプラクティスの開発と共有が可能になる。
SCM分野のデータアナリティクスへの投資による効果は、出荷用在庫の削減、SCMリスクの低減、在庫レベルの上昇を伴わない納期の短縮、輸送ルートの改善、オーダー・生産・発送のバッチサイズ最適化などである。
図表6には、サプライチェーン分野のアナリティクスアプリケーションの概要を示した。
以下は、SCM改善の可能性についてである。
①戦略的プランニングの改善 高度なアナリティクスでオペレーションを常時可視化することで、継続的なインサイトが得られる。
サプライチェーンマネジャーは、これにより全体的な目標が達成されているかどうか、そして必要に応じてどのように調整するかを見極めることができるようになる。
②競争優位性の獲得 アナリティクスツールを使えば、企業は顧客と競合相手についてより深く知ることができる。
具体的な状況に即した説得力のある分析的インサイトにより、企業には確固とした競争優位性がもたらされる。
③プロセスの最適化 サプライチェーンのリーダーたちがアナリティクスツールを活用すれば、オペレーションに関する複雑な問題への解答や、もしそうなら何が起こるかというシナリオ(what if シナリオ)の作成、あるいはあるシナリオの結果が出るのを待たず(つまり実際のプロセスに影響を与えず)に予想される結果を評価することなどができる。
◦拡張現実 デジタルと物理的な世界とを隔てる境界を消滅させてしまうバーチャルリアリティ(VR)と拡張現実(AR)は、いま最も急速に成長している分野の一つである。
例えばサプライチェーンにおいても、製造・倉庫・ロジスティクスにおける修理・メンテナンス機能の強化など、従業員と顧客のデジタルエクスペリエンスを推進する役割を担っている。
以下は、サプライチェーンにおけるAR・VRの活用例である。
①製造設備・配送センター・倉庫などでプロセスが予定どおり進行しているかどうか、マネジャーがいつでも確認することが可能に。
②オーダーピッキングのプロセスを高速化するとともにミスを減らす。
スマートグラスを使えば、ピッキングをしながらカートの中の商品の正確な位置がわかるようになる。
③最適な配送ルートにより、配送プロセスの効率化と時間どおりのデリバリーを実現。
④パッケージングと中身の詳細な情報により透明性を改善。
⑤顔認証技術を利用した本人確認によるセキュリティの強化。
◦RFID RFIDとは、無線チップを人・場所・モノなどの物理的対象に貼り付け、それをコンピューターとのインターフェースに利用する技術であり、バーコードよりも多くの情報を伝えることができる。
こうした情報は、小売店舗やサプライチェーンにおける在庫管理の改善に役立てることが可能だ。
在庫レベルの圧縮やリードタイムの短縮、あるいは在庫切れや減耗を減らすことで、サプライチェーンパフォーマンスを劇的に改善する。
また、スループット、在庫の可視性、在庫や注文の正確性、顧客サービス、品質、サプライチェーンメンバー同士のコラボレーションなども向上させる。
一般にRFID技術は、あらゆるSCMにおいて、次の三つのレベルのビジネス価値を生み出すことができる。
①現状 RFIDリーダーには複数のタグを同時に読み取ることが可能であり、人の視線や介入を必要としない。
そのためチェックアウト・在庫管理・ロス防止などのコストが削減される。
②短期的展望 アセットトラッキング、製品の原産地追跡、製品リコールなどにより、サプライチェーンを改善。
③長期的展望 RFIDの情報共有によって、サプライチェーンパートナーは適切なアイテムを、適切な時間・適切な価格で、適切な場所に配することができる。
そして需要主導型のプロダクト・フルフィルメント・システムによって、消費者行動が在庫計画やロジスティクスへとフィードバックされる。
変革プロジェクトの進め方 デジタルサプライチェーンへの変革プロジェクトは、すべての企業に成功が約束されているものではない。
SCMプロセスの合理化は、慎重に計画を立てる必要がある。
企業は往々にして、それを使いこなす人よりもテクノロジーを偏重しがちである。
ところが、テクノロジーがあれば万事解決というわけにはいかないのだ。
あらゆる新規投資と同じく、選ばれたテクノロジーがビジネス戦略全体と合致しており、大きな付加価値をもたらすかどうかが肝心なのである。
サプライチェーンのパフォーマンス改善を目的とするデジタル技術の導入は、次に見るとおり多段階のプロセスから成る。
■フェーズ1:ディスカバリー(発見)フェーズ デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進プロセスにおいては、経営者層が大きな役割を果たす。
このフェーズでは、以下の設問に答えを出すことが重要である。
⃝あなたの会社では、テクノロジーを受け入れる態勢が整っていますか? ⃝あなたの会社では、時間とスピードが要求される膨大な量のデータを扱っていますか? ⃝あなたの会社では、業務の大半を外注していますか? ⃝あなたの会社は、デジタル技術の統合に伴うコストを負担できますか? ⃝あなたの会社のビジネスプロセスは、デジタル・ディスラプションに対応できますか? ⃝あなたの会社の従業員と管理職は、この変化に対応することができますか? ⃝あなたの会社は、ゆっくりと進んでいくべきですか、それとも新しい技術を取り入れてインフラ全体を変えるべきですか? デジタル技術の導入を成功裏に終わらせるためには、マネジャーとITスタッフのトレーニングが欠かせない。
各部門の管理職やリーダーはその技術と、組織内のプロセスを変えていくノウハウを学ばなければならない。
■フェーズ2:社内ブロセス評価 経営者や関係する社員は、CIO(最高情報責任者)とともに、デジタル・サプライチェーン・ソリューションが社内プロセスに及ぼす影響について分析をする必要がある。
その結果、非効率的なプロセスの平均化・変更・再編・改良・排除や、単純な手作業の自動化などが課題として浮かび上がってくることもある。
■フェーズ3:導入、強化、進化 企業は既存のやり方を継続的に改善し、デジタル技術のソリューションを最大限活用することで、ユーザーの支持を得るよう努めなければならない。
(翻訳構成 大矢英樹)
