2023年4月号
特集

現地報告 アマゾンvsウォルマート最新動向

ウォルマートの「オムニチャネル宣言」  米ウォルマートは今年2月22日、店舗数情報をアップデートした。
同社の国内事業部となるウォルマートUSの店舗数は1月31日現在4716店で、前年から23店舗減少した。
減少は4年連続だ。
さらに3月にはシカゴ郊外やフロリダ州、ウィスコンシン州、ニューメキシコ州などにあるスーパーセンターやネイバフッドマーケットの一部を閉鎖する。
新規出店のニュースは聞こえてこない中、5年連続して売り場が減少する可能性も高くなっている。
 その一方で業績は伸びている。
2月21日に発表した2022年度第4四半期(11~1月期)決算でウォルマートUSの既存店売上高は前年同期比8・3%増加した。
14年8月~10月期から34四半期連続で前年を上回っている。
 これまでチェーンストアの成長戦略は店舗数の増加を大前提としていた。
しかしウォルマートは店舗数を減らしながら売り上げを伸ばしている。
小売業界の巨人が従来のチェーンストア理論のフレームに収まらない成長戦略を取っているのだ。
 同社の23年1月期通期の総売上高(会員費含む)は前年比6・9%増の6112・9億ドルだった。
そのうちECの売上高が800億ドル超を占めている。
ネットスーパーをはじめとするオンライン売り上げだけでも日本円にして1兆円を優に超えているのである。
 今回の決算発表でウォルマートCEOのダグ・マクミラン氏は「われわれは従業員によって牽引され、ITによって力を与えられたオムニチャネルリテーラーだ(We're a people-led, tech-powered omnichannel retailer)」と述べた。
続いてジョン・デビッド・レイニーCFOも「われわれはオムニチャネルリテーラーになった(We have become an omnichannel retailer)」と言い切った。
 過去の決算発表でも同社は「オムニチャネル」というキーワードを使っている。
しかし、ここまで強い調子で自分たちのアイデンティティを「オムニチャネルリテーラー」と表現したのは初めてだ。
同社の「オムニチャネル宣言」と受けとめることができるだろう。
 オムニチャネルとはPCやスマートフォンによるネット通販や実店舗などのさまざまなチャネル(販売経路)を組み合わせ、いつでもどこでも顧客が好きな時に注文ができて、自由に決済方法を選び、都合のよい時に都合のよい場所で受け取ることができるシームレスな買い物を指す。
 これを実現するためにリテーラーは、購入オプション(選択肢)、配達・受け渡しオプション、決済オプション、商品のピッキングオプションなど、さまざまな選択肢を用意しなければならない。
それらを顧客の要望に合わせて効率よく商品を供給する仕組みも要る。
 アメリカでオムニチャネルが一般的に広まったのは11年1月に全米小売業協会(NRF)の年次報告書「モバイル・リテーリング・ブループリント」で、オムニチャネルの概念が紹介されたことがきっかけだった。
アマゾンに顧客を奪われたチェーンストアが多店舗展開の強みを生かし、ネット販売と実店舗を組み合わせることで対抗しようとするものだった。
 続いて老舗百貨店のメイシーズが12年3月に証券取引委員会に提出した11年度の年次報告書でオムニチャネル戦略を公表したことで、日本にもオムニチャネルリテーリングが知られるようになった。
その後、オムニチャネルはバズワード化したが、現在は米国では廃れてきていて、代わってDXが新たなパワーワードとなっている。
 しかし、ウォルマートは今になってその言葉を改めて掲げたのである。
登記上の社名の「ウォルマートストアーズ(Wal-Mart Stores Inc.)」から「ストアーズ」を外し「ウォルマート(Walmart Inc.)」に変更して6年、同社はさらなるIT化を図りオムニチャネル戦略を進めることになる。
迷走するアマゾンのリアル店舗展開  数年前からバズワードとなっている「アマゾン効果(Amazon Effect)」とは、アマゾンの急成長・大躍進が産業界に及ぼす影響のことを指している。
実際、アマゾンの生み出す破壊的イノベーションは同業のEC事業者だけでなく、さまざまな業界に変革をもたらしている。
 玩具チェーンのトイザらスやスポーツ用品チェーンのスポーツオーソリティは店舗数の縮小レベルでは済まず、破綻・清算に追い込まれた。
メイシーズなどの百貨店やGAPなどのアパレルチェーン、最近ではホームファーニッシング最大手のベッド・バス・アンド・ビヨンドも深刻な打撃を受けている。
 しかし、アマゾンもまた、リアル店舗展開では苦戦している。
アマゾンは今年2月2日、自社開発した食品スーパー「アマゾンフレッシュ(Amazon Fresh)」(写真2)とレジなしコンビニエンスストア「アマゾンゴー(Amazon Go)」の一部店舗閉鎖を発表した。
 アマゾンのブライアン・オルサブスキーCFOは22年第4四半期(10月~12月期)決算発表でアマゾンフレッシュとアマゾンゴーの一部店舗の閉鎖を決定して、同期中に7・2億ドル(約940億円)の減損処理を計上したことを明かした。
さらにアンディ・ジャシーCEOは「(アマゾンフレッシュの)差別化と経済価値の方程式が見つかるまでアマゾン・フレッシュをしばらく出店しないと決めた」と述べた。
 閉鎖する店舗数や場所などの詳細は伝えられていないが、アマゾンフレッシュ1号店の出店からわずか2年余りで異例の方針転換となった。
アマゾンフレッシュとアマゾンゴーが期待した通りではないことを事実上、認めたことになる。
 アマゾンフレッシュは20年9月に1号店をオープンして現在までに44店舗を開店している。
さらに40店舗以上の出店が計画されているが、22年9月15日にオープンしたパサデナ店を最後に5カ月以上にわたって新規オープンがない。
1号店のオープンから毎月のように続いていた新規出店が止まったのだ。
 しかも、40カ所以上あるアマゾンフレッシュの建築工事中の物件は施工が中断されており、各地の地元メディアから「ゾンビ」と揶揄されている(写真3)。
当然ながらアマゾンフレッシュのイメージは悪化した。
ジャシーCEOがわざわざ別のインタビューで「実店舗はやりきる」と明言して火消しに追われるほどだった。
 21年7月に創業者ジェフ・ベゾス氏に代わってジャシー氏がアマゾンのCEOに就任して以来、同社は次々に不採算事業からの撤退を発表している。
昨年3月にはリアル店舗の「アマゾンブックス(Amazon Books)」「アマゾン4スター(Amazon 4-Star)」「アマゾンポップアップ(Amazon Pop-up)」の全店の閉鎖を発表した。
そしてロンドンに一昨年にオープンしたばかりの4スターの2店舗を含め、4月末までに68店を閉鎖した(写真4)。
 同5月にはアマゾン傘下で自然食品スーパーを約530店を展開するホールフーズマーケットの6店舗の閉鎖を発表している。
その中には16年9月にオープンしたばかりのシカゴのイングルウッド店も含まれていた。
犯罪が多発するフードデザート(食の砂漠)地区に出店したことで全米から注目された店舗だ。
 同店舗は地域の雇用を促進するためシカゴ市が2千万ドルを投じたプロジェクトの一環であり、ネイバーフッド型ショッピングセンター「イングルウッド・スクエアSC」内に500坪の広さでオープンして、黒人人口比率が98%を占めるイングルウッドの住民85人を採用した。
その多くは犯罪歴のある人たちだったと報道されている。
 シカゴ市のロリ・ライトフッド市長はイングルウッド店閉鎖の発表を受けて「大変残念であり、地域社会にとって大きな打撃である」と表明した。
アマゾンは閉鎖の理由を明かしていないが、不採算店であったと見られている。
ネットスーパーのラストマイル競争  現在、米国内の食品販売シェア(22年6月30日までの52週間)でウォルマートは20・9%のシェアを誇っている。
2番手のスーパーマーケットチェーン最大手のクローガーのシェアは9・9%、アマゾンは1・6%に過ぎない。
ホールフーズマーケットは1・3%だ。
 しかし、ネットスーパーを含むEC(22年6月時点)のシェアはアマゾンが37・8%と圧倒的で、2位のウォルマートは6・3%に過ぎない。
これにはアマゾンが早くから導入した定額制で毎回の配達量を無料にするサブスクリプションサービス「アマゾンプライム」が大きく貢献している。
 米調査会社のCIRPによると米国のアマゾンプライムの会員数は22年時点で1億6800万人にも及んでいる。
それに対して20年9月にローンチしたウォルマートのサブスクリプションサービス「ウォルマート+(プラス)」の会員数は1100万人と推定されている。
ウォルマートにとってはネットスーパー市場でアマゾンをキャッチアップすることが至上命題となっている。
 今年2月28日、アマゾンはネットスーパーの2時間宅配サービス「アマゾンフレッシュ」の最低注文金額を35ドルから150ドルに大幅に引き上げた。
アマゾンフレッシュはアマゾンプライムの加入者向けサービスであり、アマゾンプライムの年会費も昨年119ドルから139ドルに値上げしたばかりであった。
 今回の料金改定では最低注文金額に満たない注文の手数料も上げた。
従来は35ドル未満(ニューヨーク市など一部の地域では50ドル未満)の注文で4・99ドルだったところを、50ドル未満9・95ドル、50ドル~100ドル未満6・95ドル、100ドル~150ドル未満3・95ドルに変更した。
 この価格改定直後にウォルマートがアップしたツイートがメディアで大きな話題になった。
1月31日にアップされた画像には「35ドル以上の食品注文で宅配サービスにかかるお客さまのご負担は?(Cost to deliver your $35+ grocery order?)」とあり、「私たち」と「彼ら」を比較している。
「私たち」すなわちウォルマートの宅配は「無料(FREE)」、「彼ら」すなわちアマゾンは「有料(NOT FREE)」と強調されている。
 ウォルマート+は年額98ドル(月額12・95ドル)の定額で当日宅配が何回でも無料になるサブスクリプションサービスだ。
35ドル未満の注文には5・99ドルの手数料がかかるが、アマゾンの150ドル未満とは大きな開きがある。
その優位性も宅配サービスの敷居を上げたアマゾンに露骨に反応して強調したわけである。
「ラスト15フィート」の戦い  ラストワンマイルだけではない。
ウォルマートは「ラスト15フィート」でもアマゾンを出し抜こうとしている。
ラスト15フィートとは、配送員が留守宅に入り込んで冷蔵庫等に冷蔵・冷凍食品を届ける「インホーム・デリバリー(In Home Delivery)」のことである(写真5)。
ウォルマートが19年10月に開始したサービスで、その配達実績が今年2月に225万個に上ったことが公表された。
 インホーム・デリバリーの利用者はスマートフォンアプリの遠隔操作でドア(もしくはガレージドア)を開錠・施錠できるレベル(Lebel)社のスマートロックを購入して、ウォルマート・アプリとは別にインホーム・デリバリーの専用アプリをダウンロードする。
 宅配時間は午前9時~午後6時。
配達員は専用アプリで利用者宅のドアを開錠。
シューズカバーに手袋・マスク姿で留守宅に入り、注文品をキッチンやガレージの冷蔵庫に収める。
返品も配達員が持ち帰る。
返品を梱包したり宛先ラベルを貼る必要はなく、ドアの近くに置いておけばOK。
翌日には返品処理が完了する。
 配達員はカメラを装着しており、利用者は宅配の様子をリアルタイムでスマートフォンで確認できる。
録画(録画データの保存期間は宅配から7日間)でも専用アプリを介してチェックできる。
配達員が事故を起こしたり、利用者宅に損害を与えた場合に備えて最大100万ドル(約1・1億円)が支払われる損害賠償保険も付帯している。
 インホーム・デリバリーは当初、単独のサービスとして運用されていたが、22年7月にウォルマート+に統合された。
ウォルマート+の会員が年額40ドル(月額7ドル)のオプション料金を支払うことでインホーム・デリバリーを利用できるようにするとともに、22年末までに対象エリアを主要都市の3千万世帯まで拡大した。
 狙いは富裕層の取り込みだ。
ウォルマートは22年第3四半期決算で年収10万ドル以上の顧客が75%増加したと発表している。
記録的なインフレの影響で富裕層が節約のため、中低所得者層をメーンの顧客とするウォルマートを利用するようになっているのである。
 ただし、富裕層は売り場で買い物するのではなく、カーブサイド・ピックアップを主に利用している。
そのためウォルマートは昨年10月から返品もカーブサイド・ピックアップで受け付けるサービスを開始した。
同様に宅配サービスの配達員がサブスク会員宅で返品を受け取るオプションを50州の3500店で展開したことも明らかにしている。
 ウォルマートはマーケットプレイスもスケールしている。
22年度第3四半期(8~10月期)の決算発表では、マーケットプレイス「ウォルマートコム」の取扱品目数が第2四半期(5~7月期)から50%以上も増加して3・7億SKUになったことを明かした。
 マーケットプレイスの成長はウォルマートの広告代理店事業「ウォルマート・コネクト」の躍進を支える原動力ともなっている。
マーケットプレイスの出店業者がこぞってスポンサープロダクト広告を利用しているのである。
その結果、22年1月期の広告事業の年間売上は前年から30%近く増加して27億ドル(約3700億円)となった。
米国内広告代理店の上位10社に食い込むという目標に向けて着実に進んでいる。
 こうしてウォルマートは“シン・オムニチャネルリテーラー”として生まれ変わることで、アマゾン効果を克服しようとしているのである。

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