2023年4月号
特集
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中国のECモデル:集中型から脱集中型へ
成長率の鈍化と消費市場の構造変化
爆発的な成長を遂げてきた中国のEC市場に転機が訪れている。
ここに来て伸びが鈍化している。
国家統計局のデータによれば、2022年ネット小売販売額は前年比4・0%増の13兆7853億元だった。
うち実物商品のネット販売額は11兆9642億元の前年比6・2%増で、初めて一桁台の成長率にとどまった。
社会消費財小売総額に占める実物商品ネット販売額の割合(日本のEC化率にあたる)も27・2%と、伸びが緩やかになってきている(図1)。
EC市場の成長減速は、消費市場の構造的変化が主因と考えられる。
少子高齢化の進行に伴い、中国でもついに人口減少が始まった。
22年の出生数は956万人で、1千万を割り込んだ。
、総人口数は85万人減少し、自然成長率(労働生産性の増加率と労働人口の増加率を加えたもの)も0・06パーセントながらマイナスに転じた。
一方、中国ネット情報センター(CNNIC)が発表した『第50回中国互聯網絡発展状況統計報告』によると、22年6月時点の中国ネットユーザー数は10億5100万人に達し、ネット普及率は74・4%となった。
ネットユーザーを世代別にみると、30~39歳が最大のボリュームゾーンであり、全体の20・3%を占めている。
50歳以上も合計25・8%とかなりのボリュームになっている。
15年以降、19歳以下の比率がどんどん下がり、50歳以上が拡大する傾向にある。
ネットの利用習慣と購買行動は世代によって大きく異なる。
中国のデータ分析企業のQuestmobileによれば、50歳以上のネットユーザーの月平均1人当たり利用時間は121・6時間であり、ショート動画、SNS、ニュースなどのアプリがよく利用されている(22年8月時点)。
それに対して、1995年から2009年生まれの「Z世代」の月平均1人あたりの利用時間は160時間を超えている。
利用のピーク時間帯(22年6月時点)は夜21時から零時までの夜間であり、アプリ別ではショート動画、SNSの他にモバイルゲームなどが上位にあがっている。
ショート動画を含めたネット動画とライブコマースを含めたライブ配信の利用者数はここ数年急速に増え、22年6月時点でそれぞれ9億9488万人、7億1627万人に達した。
ショート動画のコンテンツで興味を引いたり、ライブ動画を見ながらその場で注文するといった買物パターンが急速に浸透している。
さらに、コロナによる外出制限が続いた影響もあり、即時配達(「即時物流」ともいう。
日本のフードデリバリーにあたる)の利用が若年層を中心にすっかり定着した。
『2021-2022中国即時物流行業発展報告』によれば、21年の即時配達のユーザー数は6億3300万人にのぼった。
食事のみならず、生鮮食品、日用品、医薬品など即時物流の取り扱いカテゴリーも拡大しており、小売りとの連携による「即時小売」も普及している。
「もはや宅配を頼まなくても、フードデリバリーが全てを届けてくれる」と言われるほど、即時配達が消費者の生活に浸透している。
中国EC市場は、これまでBtoC、CtoCを主流のモデルとしてきた。
“2強”のアリババ集団と京東集団(JD)の21年度のGMV(流通取引総額)は、それぞれ8兆3170億元、3兆2900億元であり、両社を合わせるとEC市場全体の8割以上のシェアを占めている。
この2社をはじめとする既存の大手ECは、検索、推薦、取引を基本機能に、プラットフォーム上にユーザー数や取扱商品数を多く集め、膨大なトラフィックを作りながら、取引額を増やしてきた。
これを「集中型EC(Centralized E-commerce)」と呼ぶことにしよう。
集中型ECは新規ユーザーの増加によるトラフィックの拡大を前提としている。
しかし、人口の減少やネット普及率の頭打ちを背景として、顧客獲得コスト(Customer Acquisition Cost:CAC)が大きく上昇している。
国海証券の調査によれば、1人あたりの平均顧客獲得コストを15年と19年で比較すると、アリババでは166元から536元に、京東では146元から757元に上がっている。
一方で、SNSや位置情報サービス(Location Based Service:LBS)を活用したり、ライブやショート動画などのコンテンツをベースとした多様なEC形態が登場し、「脱集中化(decentralization)」の動きが進んでいる。
⃝拼多多(PDD) 中・低所得者向け共同購買が急拡大 例えば、地方都市や農村市場の中・低所得者を主な対象にECを展開する「拼多多(PDD)」は、SNSやモール内の掲示版を使った共同購入によって格安で商品が手に入る新しいECの仕組みを作り、アリババとJDが独占していた市場を切り崩し、短期間で急成長を遂げている。
15年に設立した同社の取引総額は、21年には前年比46・4%増の2兆4410億元に達した。
SNSの活用によって顧客獲得コストを安く抑えながら、ユーザー数を急速に伸ばしている。
その結果、同社の年間アクティブユーザー数は18年6月にJDを抜き、21年3月にはアリババをも抜き去り、トップに立った。
22年3月末時点のPDDのアクティブユーザー数は8億8190万人に上っている。
⃝ティックトック(TikTok) 即時配達と連携し「全域趣味型EC」 ショート動画最大手の「ティックトック(TikTok)」は19年にEC事業に参入した。
やはり動画配信やライブコマースなどを活用して事業を急拡大させている。
19年に約5千億元だった同社の流通総額は22年には約1兆元と倍増している。
22年5月、同社は「全域趣味型EC」をコンセプトに掲げて、コンテンツ作者や新規ブランドの育成をサポートしながら、EC事業を強化していく方針を打ち出した。
即時配達と連携して「ライブコマースを見ながら欲しい商品がすぐに手に入る」新たな生活シーンを提案している。
⃝美団 フードデリバリーからEC全域に展開 中国最大の即時配達ネットワークを持つ美団は、利用頻度の高いフードデリバリーを切り口に積極的にECに取り組んでいる。
18年以降、即時小売の「美団閃購」、ダークストア「美団買菜」、医薬品販売「美団医薬」、住宅地共同購入「美団優選」などのEC事業を次々に立ち上げている。
21年9月には、自社の戦略ドメインをそれまでの「食品+プラットフォーム」から「小売+技術」に切り替え、取扱カテゴリーを拡大して、さまざまな生活シーンにサービスを浸透させていくことで、ECのあり方を「なんでもある=Everything Store」から、「なんでもすぐ手に入る=Everything Now」に変えていくと発表した。
⃝ウィーチャット(WeChat) チャットアプリにECの「場」 中国最大のSNSアプリ「ウィーチャット(WeChat)」を展開するテンセントは、「プライベートトラフィック(私域流量)」という概念を用いて、チャットを基本機能に、モーメンツ、購読号、WeChat Pay、ミニプログラム、動画チャネル、ライブコマースなど次々と機能を追加することで、WeChat上にプロモーションや取引などが可能となる新たなECの「場」を作った。
業種や規模を問わず、ユーザーに直接アプローチできることから、流通総額が急増し、22年は約3兆元に達している。
ここに来て伸びが鈍化している。
国家統計局のデータによれば、2022年ネット小売販売額は前年比4・0%増の13兆7853億元だった。
うち実物商品のネット販売額は11兆9642億元の前年比6・2%増で、初めて一桁台の成長率にとどまった。
社会消費財小売総額に占める実物商品ネット販売額の割合(日本のEC化率にあたる)も27・2%と、伸びが緩やかになってきている(図1)。
EC市場の成長減速は、消費市場の構造的変化が主因と考えられる。
少子高齢化の進行に伴い、中国でもついに人口減少が始まった。
22年の出生数は956万人で、1千万を割り込んだ。
、総人口数は85万人減少し、自然成長率(労働生産性の増加率と労働人口の増加率を加えたもの)も0・06パーセントながらマイナスに転じた。
一方、中国ネット情報センター(CNNIC)が発表した『第50回中国互聯網絡発展状況統計報告』によると、22年6月時点の中国ネットユーザー数は10億5100万人に達し、ネット普及率は74・4%となった。
ネットユーザーを世代別にみると、30~39歳が最大のボリュームゾーンであり、全体の20・3%を占めている。
50歳以上も合計25・8%とかなりのボリュームになっている。
15年以降、19歳以下の比率がどんどん下がり、50歳以上が拡大する傾向にある。
ネットの利用習慣と購買行動は世代によって大きく異なる。
中国のデータ分析企業のQuestmobileによれば、50歳以上のネットユーザーの月平均1人当たり利用時間は121・6時間であり、ショート動画、SNS、ニュースなどのアプリがよく利用されている(22年8月時点)。
それに対して、1995年から2009年生まれの「Z世代」の月平均1人あたりの利用時間は160時間を超えている。
利用のピーク時間帯(22年6月時点)は夜21時から零時までの夜間であり、アプリ別ではショート動画、SNSの他にモバイルゲームなどが上位にあがっている。
ショート動画を含めたネット動画とライブコマースを含めたライブ配信の利用者数はここ数年急速に増え、22年6月時点でそれぞれ9億9488万人、7億1627万人に達した。
ショート動画のコンテンツで興味を引いたり、ライブ動画を見ながらその場で注文するといった買物パターンが急速に浸透している。
さらに、コロナによる外出制限が続いた影響もあり、即時配達(「即時物流」ともいう。
日本のフードデリバリーにあたる)の利用が若年層を中心にすっかり定着した。
『2021-2022中国即時物流行業発展報告』によれば、21年の即時配達のユーザー数は6億3300万人にのぼった。
食事のみならず、生鮮食品、日用品、医薬品など即時物流の取り扱いカテゴリーも拡大しており、小売りとの連携による「即時小売」も普及している。
「もはや宅配を頼まなくても、フードデリバリーが全てを届けてくれる」と言われるほど、即時配達が消費者の生活に浸透している。
中国EC市場は、これまでBtoC、CtoCを主流のモデルとしてきた。
“2強”のアリババ集団と京東集団(JD)の21年度のGMV(流通取引総額)は、それぞれ8兆3170億元、3兆2900億元であり、両社を合わせるとEC市場全体の8割以上のシェアを占めている。
この2社をはじめとする既存の大手ECは、検索、推薦、取引を基本機能に、プラットフォーム上にユーザー数や取扱商品数を多く集め、膨大なトラフィックを作りながら、取引額を増やしてきた。
これを「集中型EC(Centralized E-commerce)」と呼ぶことにしよう。
集中型ECは新規ユーザーの増加によるトラフィックの拡大を前提としている。
しかし、人口の減少やネット普及率の頭打ちを背景として、顧客獲得コスト(Customer Acquisition Cost:CAC)が大きく上昇している。
国海証券の調査によれば、1人あたりの平均顧客獲得コストを15年と19年で比較すると、アリババでは166元から536元に、京東では146元から757元に上がっている。
一方で、SNSや位置情報サービス(Location Based Service:LBS)を活用したり、ライブやショート動画などのコンテンツをベースとした多様なEC形態が登場し、「脱集中化(decentralization)」の動きが進んでいる。
⃝拼多多(PDD) 中・低所得者向け共同購買が急拡大 例えば、地方都市や農村市場の中・低所得者を主な対象にECを展開する「拼多多(PDD)」は、SNSやモール内の掲示版を使った共同購入によって格安で商品が手に入る新しいECの仕組みを作り、アリババとJDが独占していた市場を切り崩し、短期間で急成長を遂げている。
15年に設立した同社の取引総額は、21年には前年比46・4%増の2兆4410億元に達した。
SNSの活用によって顧客獲得コストを安く抑えながら、ユーザー数を急速に伸ばしている。
その結果、同社の年間アクティブユーザー数は18年6月にJDを抜き、21年3月にはアリババをも抜き去り、トップに立った。
22年3月末時点のPDDのアクティブユーザー数は8億8190万人に上っている。
⃝ティックトック(TikTok) 即時配達と連携し「全域趣味型EC」 ショート動画最大手の「ティックトック(TikTok)」は19年にEC事業に参入した。
やはり動画配信やライブコマースなどを活用して事業を急拡大させている。
19年に約5千億元だった同社の流通総額は22年には約1兆元と倍増している。
22年5月、同社は「全域趣味型EC」をコンセプトに掲げて、コンテンツ作者や新規ブランドの育成をサポートしながら、EC事業を強化していく方針を打ち出した。
即時配達と連携して「ライブコマースを見ながら欲しい商品がすぐに手に入る」新たな生活シーンを提案している。
⃝美団 フードデリバリーからEC全域に展開 中国最大の即時配達ネットワークを持つ美団は、利用頻度の高いフードデリバリーを切り口に積極的にECに取り組んでいる。
18年以降、即時小売の「美団閃購」、ダークストア「美団買菜」、医薬品販売「美団医薬」、住宅地共同購入「美団優選」などのEC事業を次々に立ち上げている。
21年9月には、自社の戦略ドメインをそれまでの「食品+プラットフォーム」から「小売+技術」に切り替え、取扱カテゴリーを拡大して、さまざまな生活シーンにサービスを浸透させていくことで、ECのあり方を「なんでもある=Everything Store」から、「なんでもすぐ手に入る=Everything Now」に変えていくと発表した。
⃝ウィーチャット(WeChat) チャットアプリにECの「場」 中国最大のSNSアプリ「ウィーチャット(WeChat)」を展開するテンセントは、「プライベートトラフィック(私域流量)」という概念を用いて、チャットを基本機能に、モーメンツ、購読号、WeChat Pay、ミニプログラム、動画チャネル、ライブコマースなど次々と機能を追加することで、WeChat上にプロモーションや取引などが可能となる新たなECの「場」を作った。
業種や規模を問わず、ユーザーに直接アプローチできることから、流通総額が急増し、22年は約3兆元に達している。
