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2022年11月号
特集

現場の自走化を促し人手不足を克服する方法

「人手不足など経験したことがない」  ドライバー不足で影が薄くなってしまっているが、庫内作業員も恒常的に人手が足りていない。
募集をかけても応募はない。
しかも、最近は派遣会社に依頼しても希望する人員数を満たせない、という現象が首都圏を中心にあちらこちらで発生している。
 その一方、筆者と知己のある、ある医療材料・機器メーカーのベテランの物流センター長は「ウチのセンターではもう10年以上にわたって、人手不足というものを経験したことがない」という。
 そのセンターは決して作業者がダブついているわけではない。
年末と年度末には繁忙期もある。
繁忙期には臨時アルバイトを雇うのだが、募集広告を打つまでもなく、レギュラーとして働いているパートタイマーが、ご近所さんや冬休み・春休み中の子供たちを連れてきて必要な人員が満たされてしまう。
なぜ知り合いを紹介するのか、筆者がパートタイマーに尋ねたところ、「楽しい職場には身近な人にも来てほしいから」という。
 この物流センターではいったい、どのようなことが行われているのか。
以下に特徴的なことをいくつか挙げてみよう。
 まずは休憩室。
社員・パートタイマーを問わず全ての従業員が休憩や昼食時に利用している。
中に入ってまず驚くのは掲示物の量だ。
全面が窓になっている南側を除いた残りの壁三面が掲示物で埋め尽くされている。
その半分以上は、会社の方針やセンターの年度目標、連絡事項、安全衛生上の注意点など、パッと見たところ、ごく普通の内容だ。
 ただし、見せ方に工夫がある。
例えば、物流品質事故に関する掲示であれば、通常は「事故の内容」「原因」「注意喚起」という内容になる。
さらに踏み込んで「実施した対策」などを掲示して再発防止に努めているセンターを見ることもある。
 だが、この物流センターの掲示内容はそれにとどまらない。
事故の発生から2カ月~3カ月を経過した時点で同様の品質事故が再発しているのかいないのか、その顛末まで掲示している。
 具体的には、壁の上から下に向けて、それぞれ「事故の内容」「原因」「注意喚起」「実施した対策」がA4用紙に記載されて貼り出されている。
その下に事故が発生した次の月以降の「〇〇の原因による品質事故0件!」という実績データとともに、「再発防止に努力・協力してくださった従業員の皆さん、ありがとうございました!!」と感謝の言葉が続く。
全従業員に詳しく結果をフィードバックしているのである。
 現場で働く人たちに注意を喚起する。
それを見たパートタイマーが同じ事故を起こすまいと気を付けて仕事する。
そこまでは、どの現場も同じだろう。
で、その結果はどうだったのか? 「結果」を知らせない現場が実際にはとても多い。
 結果をフィードバックして作業者に知らせることで、作業者に「自分たちの努力の甲斐があった」「会社が努力を認めてくれた」という感情が生まれる。
結果を知らせるか知らせないか、ほんの少しの違いではあるが、現場で働く作業者のモチベーションは全く違ったものになる。
 同センター長によると、現場で起こっていることは可能な限り全てをパートタイマーにまで開示しているという。
物流センターで起こっていることを「見せる化」することにより、パートタイマーは「私たちの職場」という意識を持つようになるからである。
センター運営への参加意識を高めていく目的もあるという。
 このセンターの休憩室の掲示物の一つに人時生産性や誤出荷率を表示した棒グラフがある。
毎日、データを集計して壁に貼り出している。
グラフには月別と昨日の結果が、個人別に表示されている。
実名は公表していない。
代わりに個人をスペルで表記している。
それぞれ本人が該当するスペルを、その人だけに教えている。
 例えばAさんが、個人別の人時生産性のグラフを見て、自分の生産性が平均値より下回っていたとする。
その後のアクションは人によって2通りに分かれる。
一方は、生産性を上げようと努力する人たちだ。
自分自身で考えて作業を工夫する人もいれば、生産性が高いと思う人にコツなどを聞きにいく人もいる。
もう一方は、全く関心がない、あるいはそれが自分の能力だと諦めてしまう人たちだ。
 同センター長の感覚では、「ほとんどの人は今より成績を上げようと努力する。
もちろん努力しない人もいるけれど、努力する人がいるなら、掲示することに意味はある」という。
 それでは、平均値よりも生産性の高い人たちはグラフにどう反応するのだろうか。
例えば生産性がセンターでトップクラスのBさん。
彼女は「トップクラスから落ちたくない」という気持ちになり、順位を落とさないようにさらに工夫を凝らすようになる。
現場の約8割は成長を望んでいる  この物流センターは「改善提案用紙」の運用も一味違う。
ここ以外でも現場の作業者に改善提案を募り、それを基に改善活動を進めている現場はよく見かける。
しかし、提案本数は月に数件レベルで「なかなか提案が上がってこない」と管理者が嘆いているケースが多い。
多くの現場に共通する悩みであろう。
 それに対してこの物流センターでは月に数十件もの提案が、社員ではなく、パートタイマーから出されている。
これも仕組みは先程の生産性の「見せる化」と同じ。
提案本数を個人別に集計して、休憩室に掲示している(図1)。
 もう一工夫ある。
提出された改善提案に、ポイントを付与している。
ポイント数は「採用して目に見えた効果があった」が5点、「採用して効果があったように思える」が3点、「採用したが効果が確認できなかった」も、提案書を提出した努力を認めて1点という具合だ(図2)。
 ポイントは半期に一度集計されて、半年に一度の賞与の時期にパートタイマーに支給する「寸志」の金額に反映される。
具体的には半年間の個人別のポイント数に0・1円を乗じた金額が寸志として支給される。
ポイント×0・1円なので、個人間でそれほど大きな差がつくわけではない。
せいぜい百数十円である。
それでも寸志を受け取ったパートタイマーは「会社が自分たちの努力を認めて、寸志に反映してくれた」と思ってくれる。
それで十分だ。
パートタイマーの努力に会社側がきちっとフィードバックすることが大切なのである。
 この物流センターでは人時生産性について、センター開設時と現在の対比を算出している。
センター開設時の人時生産性を100とすると、現在のそれは170を超えている。
センター長は「われわれ社員は何もやっていない。
全てパートタイマーの改善提案と努力のおかげ」という。
 その言葉には謙遜もあるだろうが、センター長が業務改善について現場に口出ししてこなかったのは事実である。
同センターは、数多くの掲示物を作成し、それを休憩室に掲示して「見せる化」することにより、現場の作業者が自ら考えて改善する環境を整えた。
作業者同士の競争意識を刺激することで、センター全体の生産性や品質を向上させたのである。
 筆者は直接雇用の作業員中心で運営されている現場の業務改善のコンサルティングを依頼されて、現場の作業者全員にヒアリングすることがある。
主目的は詳細な作業フローや不具合などの確認を行うことではあるが、業務内容以外にもいくつか必ずヒアリングしている項目がある。
 その中の一つに「職場で働くことについて、賃金以外にも目的はありますか?」という質問がある。
約8割の人が「自身の成長」や「職場に貢献したい」など、賃金以外の目的を持っていると答えている。
 残念ながら残りの約2割の人は「賃金だけもらえればいいです」という考えではあるが、収入を得るために働いているのは確かでも、「せっかく多くの時間を費やして働いている職場なのだから、そこで何かを実現したい」と前向きな考えの人が約8割も存在するわけである。
そうである以上、彼ら/彼女たちに改善活動の一翼を担ってもらうことは極めて合理的であろう。
「見せる化」が現場の「自走」を促す  次に、「見せる化」の効果測定を目的とした、ある「実験」を紹介する。
アパレル卸の物流センターの事例である。
センターは5階建て。
各フロアを「メンズ」「レディース」「アウター(上着)」「インナー(下着)」などカテゴリー別に分けて運用している。
 実験は、ピッキング作業の人時生産性をフロア別に毎日集計して日別の折れ線グラフを作成、休憩室に掲示して毎日更新する、というもの。
センター長は現場に何も言わない。
何もしない。
グラフを見せるだけで、従業員や生産性にどのような変化が出るのかを調べた。
 ピッキングの生産性は、同じアパレル品でも、カテゴリーによってもともと大きく異なる。
例えば、インナーのピッキングは至ってシンプルだ。
指定されたロケーションの棚に行き、包装された商品をピックアップして、台車に積載した容器に入れて次のロケーションに移動する、という作業の繰り返しである。
 それに対してアウターのピッキングはインナーよりも工程が多い。
しかも、作業に時間がかかる。
例えばピックアップは、ハンガーラックから商品の掛かったハンガーを取り出して商品を外し、ハンガーだけをラックに戻す。
さらに商品を折り畳んで容器に詰める、という作業になる。
 そのため最初に休憩室に掲示されたグラフは、予想された通り、インナーの生産性がアウターの生産性を大きく上回っていた。
アウターのフロアリーダーはそれを見ても「アウターの生産性が低くなるのは仕方がない」との感想だった。
実際、他のフロアもそれぞれカテゴリーの特性が違うため、生産性が大きく異なっていた。
 それでもセンター長は毎日フロア別の生産性を集計して折れ線グラフを更新し、休憩室に掲示し続けた。
しばらくすると現場に変化が起きた。
生産性が低いアウターのフロアで、スタッフ同士で打ち合わせをする姿がよく見られるようになったのだ。
商品の配置を変えたり、棚を動かしたり、ということを頻繁に繰り返すようになった。
 アウターのフロアリーダーは口では「仕方がない」とはいうものの、インナーのフロアに生産性で大きく水をあけられたままでいるのは面白くない。
インナーのフロアを逆転するのは難しいかもしれないが、せめて生産性を近づけたいという心境だったようだ。
 そうするうちに、アウターのフロアの生産性が上昇してきた。
生産性が下位だった他のフロアにも同じ傾向が見られた。
フロアリーダーを中心に彼らなりに考えた改善策が効果を出し始めた瞬間であった。
 一方、最初から生産性が高かったフロアでも改善活動は進められていた。
社内で改善活動が活発になったことに触発されたという側面と、このまま上位に留まっていたいという気持ちと、両方あったようである。
 グラフの掲示を続けて半年後、順位が低かったフロアの生産性は上昇し、全センターの生産性も向上した。
また当初、上位のフロアと下位のフロアの間に存在した大きな生産性の開きは時間とともに収束していった。
 最後までセンター長は現場に対して何ら口出しをしなかった。
ひたすらフロア別の生産性を集計して掲示しただけであった。
各フロアの従業員たちが自ら改善の施策を考え、自ら実行した。
「見せる化」が現場の自走化を促したのであった。
物流現場には「承認」が欠けている  今回紹介した二つの事例から、物流センターの人手不足問題に対する、一つの方向性が見えてくる。
それは作業者がやりがいを持って働ける環境を整えることである。
 作業者のモチベーションが高まれば離職率は低下する。
より長期にわたり働いてくれる。
作業者が「良い職場」と判断すれば、新たに作業者を募集する際にも身近な人を勧誘してくれる。
 医療機器・材料メーカーの事例がそうであったように、直接雇用の現場の作業者はいわゆる「ご近所さん」である場合が多い。
通勤時間も働き場所を選ぶ条件として考慮に入れるからである。
 「ご近所さん」とその「ご近所さん」との世間話には、自然と職場の話題も上る。
新たな作業者を募集したときに、その職場に勤めている「ご近所さん」から良い話を聞いている場合は「行ってみようか」となるだろう。
悪い話を聞いていれば「あそこはダメと聞いた」となる。
作業者のモチベーションが募集広告の反応を大きく左右することになるのである。
 人のモチベーションが上がる要因、いわゆる動機づけの要因は、心理学的には大きく六つあるとされている。
物事を成し遂げたときに得られる喜びや感動などの「達成感」。
できなかったことができるようになったときなどに感じる「成長」。
役職が上がったときの「昇進」。
新たに仕事や後輩を任されたときなどに感じる「責任感」。
自分を価値ある存在として認められたいという「承認」。
そして「仕事そのもの」である。
 どれも大切であるが、残念ながら物流現場の仕事そのものが好きという例は、そう多くはないだろう。
しかし、それ以上に筆者が物流現場に不足していると感じているのが「承認」である。
 先ほどの「賃金以外の働く目的」の他に、筆者が改善コンサルティングで現場の全作業者にヒアリングしていることが、もう一つある。
「職場で不満な点は何ですか?」という質問だ。
 回答としては、賃金や休日、勤務時間に関する不満が多いのだが、それらと並んで多いのが「社員が私たちを下に見ている」という不満である。
極端な例では「社員があいさつを返さない」などの言葉も飛び出す。
パートタイマーが、社員に認められていない、すなわち承認されていないと感じるのも当然だろう。
 新たな仕事を任されて「責任」を持って取り組み、昨日までできなかったことができるようになった「成長」を実感し、仕事をやり切った「達成感」を得たとしても、それらの実績が承認されていないときに、人はどう感じるだろうか。
「自分が成長したと思っているだけで、実は成長していない?」と自信を失ってしまうかもしれない。
少なくともモチベーションは上がらない。
 物流現場のマネジャーは最低限の声掛けができているか、あらためて確認してほしい。
そして作業者の「承認」欲求が満足されるように、今やっていることをもう少し工夫できないか、考えてみよう。
医療機器・材料メーカーの事例のように、掲示物の最後に感謝の一言を添えるという、たったそれだけのことでも作業者のモチベーションに変化をもたらすのである。
人手不足に困らない現場を目指せ  現場の人手不足対策として昨今は作業の自動化投資が活発化している。
大幅な省人化を達成した先進センターも数多く紹介されている。
しかし、物流ロボットや高度なマテハン設備は当然ながら高額だ。
投資を回収できるだけの条件がそろった拠点は限られている。
中小企業にはまず縁がないものと考えておいたほうが現実的だ。
 しかし、現場のモチベーションの向上はどんな企業にも適用できる。
今回の事例をまねて、個人別の生産性や提案書提出本数などの実績を休憩室に掲示して、「見せる化」することはすぐにでも始められる。
 「見せる化」によって作業者の「成長」や「達成感」を刺激する仕組みを作ることで、現場のモチベーションは大きく上昇する。
同時に作業者一人一人が自分自身でさまざまな工夫を考え、実行することで現場は「自走化」する。
作業者の離職率が低下して勤続年数が長くなり、新たな募集に対して人が集まりやすくなる。
そうした好循環を作ることにより、人手不足を解消する方法もある。

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