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2022年11月号
特集

《海外論文》フィジカルインターネットにおけるリーン方式

イントロダクション  新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大は、いまや世界が不可分一体の関係にあり、ロジスティクスもその例外ではないことを明らかにした。
しかもこのロジスティクスのハイパーコネクションという動きは、勢いを増す一方である。
結びつきはあらゆる場所、あらゆる組織、あらゆる人々へと広がっている。
この状況に対して手をこまねいていようものなら、われわれは一歩も前進することができなくなるだろう。
 全面的な常時接続が必要不可欠となったことで、ロジスティクスおよびサプライチェーンマネジメントにおける総合的かつグローバルな視点の重要性と、その効率を最大化する必要性にあらためて注目が集まることになった。
 こうした背景から、デジタルインターネットの概念を物理的なモノに当てはめることを提唱したのが「フィジカルインターネット」である。
新しいビジネスモデルを携えた企業の手を借り、より持続可能なロジスティクスネットワークを構築していくことで、ロジスティクスの最適化を成し遂げることがその目的である。
 そこで重要となるのは、柔軟性と適応性に関係する技術と専門的スキルである。
企業が常に変動するマーケットに適応していくには、柔軟であることが必須の条件である。
そしてそれは、企業の全領域にわたって継続的な改善を実践していくということを意味している。
 その目的の遂行のために導入するいわゆる「リーン生産方式」とは、付加価値を生まない作業を排除することや、廃棄物管理を通じた経営資源の最適化などにより、生産の最適化を図るシステムのことをいう。
 リーンという考え方の根底にあるのは、コスト削減とムダの排除という原則だ。
顧客のニーズに注意しながら、より少ない人力・設備・時間・スペースで、できるだけ多くのことを行うということである。
 そしてここに「バリュー・ストリーム・マップ(VSM)」が登場する。
VSMとは、サプライヤーから顧客に至るモノと情報の流れの両方を表すリーン生産方式のツールである。
VSMを見れば、製品を作るために行われる全ての活動とバリューチェーンの姿を、シンプルかつ視覚的に把握できる。
 VSMを利用することで、市場の実需を上回る生産による過剰在庫、必要以上もしくは必要のない待ち時間、不良品、再加工、輸送、必要のない動作など、付加価値のない活動を特定することができる。
過剰在庫・待ち時間・輸送、不必要な移動などの回避がリーン理論の骨子であり、これらはフィジカルインターネットのそれと共通する。
 フィジカルインターネットとリーン生産方式の関係性、そして両者を統合してロジスティクスネットワークに価値をもたらす可能性について、VSMを用いながら分析することが、本稿の主旨である。
フィジカルインターネット  フィジカルインターネット(PI)は、ロジスティクスやマテリアルハンドリング、設備設計の根幹を変革するべく誕生したコンセプトである。
この新しいパラダイムの出発点には、製品が国境を越えて輸送・加工・保管・生産・配送・利用されるそのやり方が、エコフレンドリーではない、経済合理性に適っていない、社会的責任を果たしていないなどの問題意識がある。
 PIの提唱者のブノア・モントルイユ教授は、ロジスティクスを持続不可能で非効率にしている13の要因を挙げている(図表1)。
こうした課題に対処するため、彼はロジスティクスの世界に新たなインフラを導入することが可能となるような展開を、長期的視野に立って構想した。
 PIとは「グローバルなロジスティクスの効率および持続可能性の改善を念頭に、物理的なモノの操作・移動・保管・実現・供給・利用を、デジタルインターネットのパケット通信を手本にして組織化し遂行する体系である」と定義することができるだろう。
 PIが依拠するものは、「ロジスティクスウェブ」とグローバルインターコネクション、そしてイノベーションである。
ロジスティクスウェブは、人・組織・社会のロジスティクス活動の円滑化を目的とした、一つのウェブサイトとして捉えることができる。
 それはさらに「モビリティ」「流通」「実現」「供給」「サービス」の五つに分類されるが、その目指すところは、効率的で持続可能なロジスティクスを可能にするグローバルインターコネクションである。
 PIの特徴は、図表2の通り主に13の項目に集約される。
 ロジスティクスが効率的で持続可能であるためには、グローバルであることが必須の条件である。
物理的原則・規格・プロトコルなど、PIに共通する概念的枠組みに基づいて設計し、ローカルネットワークをより広大なグローバルネットワークへと統合する。
 PIのこの全世界的な相互接続性は、そのために特別に設計されたカプセル化、インターフェース、プロトコルなどによって達成されるはずである。
しかしこれらを設計するには、新たなビジネスモデル・技術・インフラがなくてはならない。
 PIに特に関心が深い欧州では、「ALICE(Alliance for Logistics Innovation through Collaboration in Europe)」が、PIをベースとしたSCMの包括的イノベーション研究戦略を作成し、それを2050年までに完遂することを目標に掲げている。
 ALICEが提唱する相互に関連する五つのロードマップ、そしてその目的達成に向けて何を分析し、何を遂行していかなければならないかは、以下の通りである。
・持続可能で安心安全なサプライチェーン  このロードマップの目標としては、輸送量の削減、輸送手段の改善(容量・積載量)、排出量削減、再利用の推進、サプライチェーンコストの削減、サプライチェーンサービスの改善などが挙げられる。
・回廊、ハブ、シンクロモーダリティ  CO2排出量を削減して効率性を上げるため、大量の荷を運ぶことのできる輸送モード(はしけや貨物列車)を活用する。
これにより、欧州横断輸送ネットワーク(Ten-T)のようなネットワークやPIが、持続可能な輸送の実現に大きな役割を果たすようになる。
・ インターコネクテッドロジスティクスを支える情報システム  情報の透明性を確保するとともに低侵入型の検査メソッドを採用し、より高度なセキュリティを実現する。
・ グローバルサプライネットワークの連携とコラボレーション  動脈・静脈両方向の物流に、水平および垂直のコラボレーションを導入することで、持続可能性の向上および効率的な大量輸送を目指す。
・アーバンロジスティクス  効率性の向上や排出量とコストの削減をするためには、ロジスティクスのファーストマイルおよびラストマイルの分析と、都市部の車両台数を減らすことが必要不可欠である。
リーン生産方式  リーン生産方式では、あらゆる部分を全体に貢献させることで生産システムの最適化を図る。
生産システムの活動の一部、あるいは全部の最適化がその目的であり、生産プロセスにおいて付加価値を生まない作業を排除し、ムダをコントロールして企業資源を最適化する。
 リーン生産方式は、日本のトヨタ生産方式(TPS)をベースにしている。
TPSが真っ先に取り組むのは、顧客の視点から生産工程を見直すことである。
つまり「顧客はこの工程に何を求めているのか?」ということである。
顧客には2種類、すなわち生産ラインの後工程に控えている内部顧客、そして外部顧客(最終消費者)がある。
 リーンは「ムダ」を排除する仕組みである。
ムダを特定して排除し、品質を改善し、生産にかかる時間とコストを削減する「ツール」である。
リーン生産方式のツールの概要を図表3に示す。
 ムダは「手待ち」「作りすぎ」「不良」「動作」「加工」「在庫」「運搬」の七つに分類される(図表4)。
そしてこれらと関連するもう一つのムダ、つまり働く者の創造性や知性を活用しない「何もしない」ムダをここに加えることができる。
この7プラス1のムダの中で、少なくとも手待ち・動作・在庫・運搬の四つはロジスティクスと関係がある。
 PIは、技術・ビジネスモデル・インフラのイノベーションを通じて、ロジスティクスバリューチェーンの経済的・環境的・社会的な効率性をより高めることを目指す。
リーンアプローチはそれを可能にするものである。
 リーンの考えに基づいて、手待ち・動作・在庫・運搬の四つのムダを低減することにより、サプライチェーンのコスト削減(経済面)、顧客満足度の向上と欠品防止(社会面)、エネルギー消費の削減・再生可能エネルギーの共有・温室効果ガス排出削減(環境面)、などが実現する。
 こうした目標を達成する方法には次のようなものがある。
・ サプライチェーン全体を俯瞰しながら、必要な製品を、必要な量だけ、適切なやり方で供給する。
・ バリューチェーンの次のリンクに目を向け、効率化を積極的に推進する。
・ オペレーションの効率改善のため、チェーンの各リンクにおいてあらゆる種類のムダを徹底的に排除する。
・ 一刻も早く顧客のもとに届けるため、チェーンの各段階における配送時間を短縮する。
 ロジスティクスセクターでムダを排除するためには、プロセスのバリューフロー(価値の流れ)だけではなく、何が顧客にとっての価値を生み出すのかを分析し、その顧客のニーズに基づいて新しいバリューフローを構築し直さなければならない。
 求められているものを正しい数量で、しかるべき場所に、しかるべきタイミングで配置することによってムダをなくし、その上で変化にも柔軟に対応できるようオープンであることが、リーンの本質である。
リーンという考え方に立ち、生産から顧客のもとへの配送に至るサプライチェーン全体でコストを削減し、企業価値を高め、利益を増加させるのである。
 リーンアプローチでは、組織は最大の価値を生む水平的プロセスに注力すべきであるとされる。
なぜなら生み出される価値は全てこのプロセスに由来するものであり、それを実際に担う従業員・マネジャーや顧客、そしてプロセスの最終的な目的なども考慮に入れる必要があるからである。
五つあるリーンシンキングの原則を図表6に示しておく。
バリュー・ストリーム・マップ  バリュー・ストリーム・マップ(VSM)は、最初のアクティビティから顧客への配達という最終段階に至るまで、全てのロジスティクスプロセスを一枚のマップで見渡すことができる。
そこではプロセスに価値をもたらさない活動、すなわち多すぎる在庫、過剰生産、不必要な待ち時間、不足、廃棄、再加工、必要のない移動や輸送などが浮かび上がってくる。
 VSMが示すこうした不要な活動のいくつかは、PIの基本であり、先に分析したロードマップにおいて合理化されるべき対象となっている。
また、他にもPIによって削減されるべき項目、すなわち空荷や不必要な二酸化炭素の排出なども明らかになってくる。
VMSを活用すれば、価値を生まないアクティビティを探り当て、それらを排除することでプロセスを改善し、リソースのムダ使いを回避することができる。
 まず始めに現状を定義して、ロジスティクスチェーンの問題点と存在する全てのプロセスを特定すると同時に、見つかった問題点から派生するムダが何かを見極める(図表7)。
 以下は、実際にVSMを作成するために必要な手順である。
・ 顧客、サプライヤー、製造管理用にそれぞれ別のアイコンを割り当てる。
・ 月次、日次の顧客ニーズを特定する。
・ 毎日の生産量と必要なコンテナ数を計算する。
・ 配送頻度を表すアイコンを描く。
・ 左から右へプロセスボックスを順に置いていく。
・ 各プロセスの下にデータボックスとタイムラインを追加する。
・ コミュニケーションの流れを示す矢印を加え、方法と頻度を確認する。
・ プロセスデータを取得し、それをデータテーブルに加える。
・ オペレーターの記号と人数を加える。
・ 需要のある日のロケーションと在庫レベルを加える。
・ 矢印やその他の有用な情報を加える。
・ 時間、シフト、休憩時間、利用可能時間のデータを加える。
・ プロセスの最後に労働時間、付加価値、納期を加える。
・ サイクルタイム、総付加価値、トータルの処理時間を計算する。
 通常、この手順を現在・未来・理想型という三つの状況を想定して行う。
ここでは、プロセスをどのように機能させるかを決定する必要がある。
そのためには分析を行って、「どのプロセスを統合するか?」「ラインのオペレーターは何人必要か?」「どの程度の設備がいるか?」「必要なスペースはどのくらいか?」「仕掛品の期間はどのくらいか?」などの課題に答えを出すことが求められる。
 VSMのロジスティクスプロセスへの適用は、ロジスティクスプロセスを視覚化した図表をモニタリングし、その各フェーズを注意深く観察することで成り立つ。
これにより全体のフローおよび個々のフェーズ・活動のグローバルなビジョンを得ることになり、ムダとその原因を一つ一つ特定することができるようになる。
 また、今後のVSMを準備する過程で、付加価値を生まない・ムダな活動と管理の不充分なリソースが分かってくるため、フローに導入する改善策の効果が視覚化され、それがアクションプランを検討する土台となる。
 VSMは、PIとリーン方式の橋渡し役をするだけでなく、その二つを統合することで、ロジスティクスネットワークに新しい価値をもたらす可能性を秘めている。
 このプロセスは、前出のロードマップの課題解決に貢献する。
最初の段階の分析で集めた情報を活用すれば、プロセスのセキュリティを向上させることができる。
また、水平プロセスと垂直の関係性に注力することで、輸送力の増強とシンクロモーダル化が推進される。
さらに、サプライヤーリレーションシップと顧客の分析により、ファーストマイル(サプライヤーからの調達)とラストマイルにおける改善が見込まれる。
 VSMの貢献は、主に空荷および不要なCO2排出の回避とコスト削減と、効率的で持続可能な輸送への移行を促進するところに求められる。
VSMの活用メリット  PIとリーン生産方式には密接な関係があり、両者を同時に活用することでバリューチェーンの分析が可能になる。
 ごく単純化していえば、リーンとは適切なモノを適切な場所に適切なタイミングで適量を調達することである。
その結果、コストが削減されて企業価値と利益が向上する。
これは生産地点から顧客のもとに至るサプライチェーンに適用することも可能であり、PIの目標達成に貢献する。
 リーンアプローチではプロセスが重視される企業はより多くの価値を生むプロセスに全力を傾けるため、その結果、得られる価値は全てプロセス由来となる。
しかしながらそれは、プロセスの恩恵を受ける社内外の人々や顧客、そしてプロセスを支えて価値を生む側の従業員やマネジャーを軽視することではない。
 PIとリーンの関係性について分析し、その関係性が物流企業にも適用できるかどうかを検討するには、目的達成に当たって両者のどういったツールを使えばよいのかを見極める必要がある。
 VSMのツールはバリューチェーン、すなわちプロバイダーから顧客に至る生産フローにおけるアクションおよび活動で構成されており、価値を生み出すものもあればそうでないものもある。
いずれにしてもこのツールは、プロセスの可視性の増加やリードタイムと在庫の削減に効果を発揮することになる。
その主な効用には以下のようなものがある。
・製品コストの把握 ・プロセスの明確化 ・仕掛品の削減 ・在庫削減 ・サイクルタイムの削減 ・柔軟性──需要の変化への素早い対応 ・品質問題対応の迅速化 ・顧客からのフィードバックの重視 ・付加価値の増大と生産プロセスの標準化  VSMの活用によって、企業はムダを排除するアクションを実行し、フィジカルインターネットが追求する他の目標をも達成することが可能となる。
ロジスティクスにおけるVSMの設計とアプリケーションに関する文献が示唆するように、各段階のエネルギー消費とそこからの廃棄物のレベルが明らかになるため、価値を生まないエネルギー消費を特定し、それを減らす方法を確立することができるようになる。
そして機械設備を更新したりデザインを変更することで、省エネルギーを確実に一歩進めるきっかけにもなり得るのである。
(翻訳構成 大矢英樹)

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