2022年8月号
特集
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法令順守点検ツール「トラドック」の検証
人間ドックのトラック事業版
貨物自動車運送における事故件数および死者数の削減は長年の課題であり、国レベル、事業者レベル、関係団体レベル、それぞれの立場から取り組みが行われている。
本稿では、そのうち関係団体である各都道府県のトラック協会の取り組みに着目し、特に岐阜県トラック協会(以下、岐ト協)が進める事故削減のための取り組み支援の効果を明らかにする。
各都道府県のトラック協会は、地方運輸局長から適正化事業実施機関としての指定を受け、運送事業者に対する巡回指導、改善指導、ならびに交通安全対策などへの取り組みを評価・認定する安全性評価事業(Gマーク)の推進などの活動をしている。
Gマークは法令順守を通じて運送事業者が安全対策をより確実に行っていくための制度であり、適正化事業は事業者に法令順守を指導する取り組みと言える。
図表1は、岐ト協の適正化事業の枠組みを示したものである。
巡回指導を「テスト」と位置づけ、それに対して「予習・復習」「補習」「特別授業」「実験」を設定して、事業者自身による安全や事業のレベルアップを支援している。
図表2に示すように、巡回指導時に改善要請を行なったC・D・E評価の事業者に対しては、「補習」として指導員がフォローアップ講習を行なっている。
岐ト協は、事業者自らが指導項目の点検を行う「予習・復習」として2013年度に「事前・自主点検表」の運用を開始した。
文字通り事前に事業者の現況を把握するためのものであり、巡回指導の実施案内に同封して送付する。
事業者は点検表に現状を記入してファクスで実施機関に返信、指導員がチェックする。
事業者は点検表に基づく指導員とのやり取りを通じて関連法令の解説に触れることができる。
しかし、その対象は巡回指導を実施した事業者だけに限られていた。
そこで、全ての事業者に「年に1度」は法令に触れる機会を提供することを目的に、15年度より事前・自主点検表に代わって「事業者概要書」(図表3)の運用を始めた。
事業者は年度初めに送付される「事業者概要書」に記入して岐ト協へ返送、指導員が記入された概要書をチェックする。
これによって全ての事業者を支援の対象とすることができたが、事業者概要書の内容は、事前・自主点検表と大きく変わるものではなかった。
そこで次に課題として上がったのは、月単位で状況が変わる問題、例えば従業員の出入りや健康診断の受診、管理者講習の受講、指導教育の実施、適性診断の受診、トラックの増減車や代替などへの対応だった。
そこから「トラドック」が考案されて、18年度から運用されている。
トラドックは、事業者が法に触れる機会をそれまでの「年に1度」から「月に1度」に増やすために開発された運送事業向けの法令順守点検ツールであり、従業員が管理者としてのステップを踏んで自主点検に取り組むことを支援するものである。
岐ト協によれば、トラドックの名称の由来は人間ドックの「トラック事業版」であるという。
事業者の管理状態を健康状態に見立て、毎年度の初めに「トラドック解説書・年間チェック表」を送付(2020年度は703事業所)し、自社の法令順守状況(38項目)を把握する。
その目的は「点呼の実施、運転者の健康状態の把握、車両の定期点検等の実施およびこれら運行管理に係る帳票類の整備・保管等の法令順守項目を、自己チェック(問診)することで事業の管理状況(健康状態)を自らが把握し、未遵守(病気)となっている項目を定期的に措置(処方)することで良好な管理状況の維持(予防)を図る」としている。
チェック項目と手順は、点検時期で次の四つに区分している。
①毎月チェックする(11項目)、②変更があった場合にチェックする(14項目)、③事故や法改正があった場合にチェックする(4項目)、④一定の時期にチェックする(4項目)である。
図表4に示した、「トラドック年間チェック表」を職場に掲示することで、管理者のみならず広く従業員が確認できる形をとる。
年間チェック表の縦軸には事業者が順守すべき事項が列記されている。
横軸は4月から翌3月までの12マスがあり、毎月決めた日にち(例えば月末)に実施状況などを記入する。
トラドックの導入効果は例えば、前回の巡回指導時にC・D・Eの評価を受けた事業者を対象に、トラドック活用の有無と今回の評価を把握することで分析できる。
活用事業者に指摘事項数の減少が認められれば効果があったと推論できる。
実際、前回C・D・E評価事業者(30事業所)のうち、トラドック活用事業所(18事業所)、トラドック未活用事業所(12事業所)を比較すると、活用事業所の指摘事項数が有意に減少していることを確認できた(第37回日本物流学会全国大会研究報告集, pp.149-152, 2020)。
ただし、岐ト協では、トラドックと同時に多様な取り組みも進めているため、指摘事項が減少した要因は複合的であり、一義的な検証は難しい面もある。
他方、事業者自身の取り組みとして、デジタコなどの管理ツールも普及して、情報技術の活用が進展している点も考慮しなければならない要因の一つとして指摘できる。
そこで視点を変えてみることにした。
そもそもトラドックは法令順守を目的とするものであり、社内における点検体制の強化は、交通事故の減少にも寄与するはずである。
交通事故が減少すれば当然ながら事故に係る関連費用も減少する。
しかしながら、これまで交通事故の側面からは十分な検証ができていなかった。
そこで筆者を含む朝日大学大学院経営学研究科グローバルロジスティクス研究会(http://gl.asahi-u.ac.jp/)のメンバーで、「トラドックは交通事故を減らせたのか」を検証し、その結果を「貨物自動車運送事業における法令順守と事故削減のための取組支援」(朝日大学大学院経営学研究科紀要第21号, pp.17-26, 2021)としてまとめた。
その概要は次の通りである。
取組効果の分析 (1)分析方法 事故の少ない事業者は、車両の修繕費や保険料が抑えられる分、会社の利益が上がり、よって人件費(給料)を多く出すことができるとの仮説が立てられる。
事業者のトラドック導入前と導入後で、「修繕費・保険料」の比率が明らかに減少し、「人件費」の比率が明らかに増加していれば、交通事故防止に効果があると推論できる。
このことから、「修繕費」「保険料」「人件費」の各項目を『トラドック活用を開始した2018年度と翌年の2019年度』ならびに『トラドック活用事業者と未活用事業者』を比較することで、トラドックによる交通事故削減の効果を分析する。
(2)分析項目 17年度、18年度および19年度の決算分事業報告書の一般貨物自動車運送事業損益明細表に記載された「修繕費」「保険料」「人件費」の各項目と、営業収益との比率を計算する。
(3)分析対象の概要 巡回指導を実施した岐阜県の事業者のうち、18年度のトラドック活用事業者は95者、19年度のトラドック活用事業者は75者だった。
そのうち、一般貨物自動車運送事業損益明細表のデータを入手できた事業者は、17年度が21者、18年度は22者、19年度は24者だった。
また、トラドック未活用の事業者で同データを入手できたのはいずれも37者だった。
(4)分析結果 図表5~図表7は、「人件費」「修繕費」「保険料」の推移を比較したものだ。
グラフ表示による視覚的評価を箱ひげ図で観察すると、人件費と修繕費では値の変動に有意な傾向はみられなかった。
保険料の推移には減少傾向がみられるが、一部の事業者の値は高い値を示している。
図表8は、営業収益における「人件費」「修繕費」「保険料」の比率をトラドック活用事業者数、未活用事業者数で平均したものである。
トラドックを開始する前の17年度に比べて保険料はやや減少しているものの、明確な差として表れてはいない。
(5)分析結果に対する考察 分析結果より、トラドック活用事業者と未活用事業者に大きな違いはみられなかった。
活用事業者によってそれぞれさまざまな要因があることが示唆される。
ただし、追加分析として二元配置分散分析を行ったところ、トラドック活用事業者に保険料の低下が有意にみられた。
下がった要因を現在検証中である。
また、保険料と修繕費に注目すると、保険料は車両の自賠責保険と任意保険(事故対策費を社内でプールしている大手を除く)に係る費用であり、固定費に相当する。
しかし、任意保険の有無や保有車両台数はもちろん、事故率などが保険料に影響するため、少なくとも一台当たりの保険料の算出が必要となる。
修繕費は、一般修理、車検整備、定期点検などに係る費用であり、一定期間ごとに整備や点検などが発生するほか、事故が起きれば費用が増加する。
修繕費もやはり一台当たりの算出が必要となる。
修繕費のうち点検・整備は、自動車に不具合が起こる前の予防的措置であり、対症療法的な一般修理と違って修繕費の総額を減らすことにつながる。
従って事業者としては、修繕費のうち整備費にかかる費用は予定通りに支出して、修理費を削減しようとするだろう。
これらの考察から論点として以下の四つが考えられる。
◦トラドック活用事業者は基本的に、A評価以外のB・C・D・E評価の事業者が対象となっている。
ただし、A評価でトラドックの活用を希望する事業者も含まれている。
また、「活用」の捉え方には巡回指導の指導員の判断も含まれることから、対象の範囲を整理する必要がある。
◦導入1年後の数値だけでトラドックの効果を評価するのは難しい面がある。
前述の通り岐ト協では13年度から、トラドックの前身となる「事前・自主点検表」を開始して、その後も改善を進め、名称を変えながら現在まで取り組みを継続してきた。
事業用トラック1万台当たりの第一当事者による死者数は、全国平均が2・2人であるのに対して、岐阜県の死亡事故率は1・0人と大幅に少ない。
それを岐ト協の継続的な活動の成果として捉えることはできないだろうか。
◦ステップを踏んで一つ一つチェックするトラドックのアプローチは、事業が急成長して管理が追いつかない事業者、順法体制が整っていない事業者に特に有効である。
◦トラドックの活用・未活用の比較は、車両1台当たりの財務データを用いることが重要である。
今回の調査データをあらためて整理して、トラック保有台数の視点から再検討することが望ましい。
トラドックを通した今後の展開 本稿では、法令順守に関する日々の取り組みを点検する支援ツールとしてのトラドックの導入効果を検討した。
その結果、「修繕費」「保険料」「人件費」に注目することが、有効であることが示唆された。
他方、さらに踏み込んだ分析をするために、具体的な保険料、修繕費に関わる事業者向けのアンケートを実施するなどして正確なデータを入手することが求められるとともに、今後5年程度の追跡研究が重要である。
トラドックの事故削減効果をより詳細に検討するには、巡回指導やGマーク制度との関係などを整理して、その効果を捉える必要もある。
周辺の取り組みと紐づけて、定量的評価の精度を高める必要がある。
事業者への法令順守に関する支援の形としては、①個別企業マンツーマン型(家庭教師型)、②会場に集める研修型、③動画配信学習が考えられる。
事業者の規模・事業内容、各地域に即した支援策を模索していく必要がある。
大手の物流事業者は法令順守体制・事故防止体制が社内で整備されているため、支援の対象者としては、事業を開始して間もない事業者が中心となるだろう。
なおトラドックは、岐ト協のサイト上に冊子として公開されており、最新バージョンの「トラドック2022」が更新されている(https://www.gitokyo.or.jp/)。
事業者は法令などの改正について自力では追いきれない面がある。
トラドックは見逃してはならない法改正を認識する手段として有効であり、法令などの改正に対応するためにバージョンアップを毎年行うことが求められる。
さらに現在、紙ベースの運用に加えて、Webベースでの開発計画が進んでいる。
Webアプリ化が実現すれば、事業者と指導員の双方向のコミュニケーションなどが可能になる。
トラドックの効果を検証するデータやノウハウの蓄積も期待される。
朝日大学大学院経営学研究科グローバルロジスティクス研究会でも、そうした構想やトライアルについて活発な議論がなされている。
事業者にとって、トラドックが法令順守のための点検ツールとしてのみならず、従業員の待遇改善につながる各種費用の削減や、安全運行に努める優良ドライバーの確保・育成を促進し、適正な事業を継続する原動力となることが期待される。
また適正化事業実施機関の諮問機関である地方評議委員会においても、トラドックをベースに各種の取り組みや活用事業者を評価できるようになることが望まれる。
本稿では、そのうち関係団体である各都道府県のトラック協会の取り組みに着目し、特に岐阜県トラック協会(以下、岐ト協)が進める事故削減のための取り組み支援の効果を明らかにする。
各都道府県のトラック協会は、地方運輸局長から適正化事業実施機関としての指定を受け、運送事業者に対する巡回指導、改善指導、ならびに交通安全対策などへの取り組みを評価・認定する安全性評価事業(Gマーク)の推進などの活動をしている。
Gマークは法令順守を通じて運送事業者が安全対策をより確実に行っていくための制度であり、適正化事業は事業者に法令順守を指導する取り組みと言える。
図表1は、岐ト協の適正化事業の枠組みを示したものである。
巡回指導を「テスト」と位置づけ、それに対して「予習・復習」「補習」「特別授業」「実験」を設定して、事業者自身による安全や事業のレベルアップを支援している。
図表2に示すように、巡回指導時に改善要請を行なったC・D・E評価の事業者に対しては、「補習」として指導員がフォローアップ講習を行なっている。
岐ト協は、事業者自らが指導項目の点検を行う「予習・復習」として2013年度に「事前・自主点検表」の運用を開始した。
文字通り事前に事業者の現況を把握するためのものであり、巡回指導の実施案内に同封して送付する。
事業者は点検表に現状を記入してファクスで実施機関に返信、指導員がチェックする。
事業者は点検表に基づく指導員とのやり取りを通じて関連法令の解説に触れることができる。
しかし、その対象は巡回指導を実施した事業者だけに限られていた。
そこで、全ての事業者に「年に1度」は法令に触れる機会を提供することを目的に、15年度より事前・自主点検表に代わって「事業者概要書」(図表3)の運用を始めた。
事業者は年度初めに送付される「事業者概要書」に記入して岐ト協へ返送、指導員が記入された概要書をチェックする。
これによって全ての事業者を支援の対象とすることができたが、事業者概要書の内容は、事前・自主点検表と大きく変わるものではなかった。
そこで次に課題として上がったのは、月単位で状況が変わる問題、例えば従業員の出入りや健康診断の受診、管理者講習の受講、指導教育の実施、適性診断の受診、トラックの増減車や代替などへの対応だった。
そこから「トラドック」が考案されて、18年度から運用されている。
トラドックは、事業者が法に触れる機会をそれまでの「年に1度」から「月に1度」に増やすために開発された運送事業向けの法令順守点検ツールであり、従業員が管理者としてのステップを踏んで自主点検に取り組むことを支援するものである。
岐ト協によれば、トラドックの名称の由来は人間ドックの「トラック事業版」であるという。
事業者の管理状態を健康状態に見立て、毎年度の初めに「トラドック解説書・年間チェック表」を送付(2020年度は703事業所)し、自社の法令順守状況(38項目)を把握する。
その目的は「点呼の実施、運転者の健康状態の把握、車両の定期点検等の実施およびこれら運行管理に係る帳票類の整備・保管等の法令順守項目を、自己チェック(問診)することで事業の管理状況(健康状態)を自らが把握し、未遵守(病気)となっている項目を定期的に措置(処方)することで良好な管理状況の維持(予防)を図る」としている。
チェック項目と手順は、点検時期で次の四つに区分している。
①毎月チェックする(11項目)、②変更があった場合にチェックする(14項目)、③事故や法改正があった場合にチェックする(4項目)、④一定の時期にチェックする(4項目)である。
図表4に示した、「トラドック年間チェック表」を職場に掲示することで、管理者のみならず広く従業員が確認できる形をとる。
年間チェック表の縦軸には事業者が順守すべき事項が列記されている。
横軸は4月から翌3月までの12マスがあり、毎月決めた日にち(例えば月末)に実施状況などを記入する。
トラドックの導入効果は例えば、前回の巡回指導時にC・D・Eの評価を受けた事業者を対象に、トラドック活用の有無と今回の評価を把握することで分析できる。
活用事業者に指摘事項数の減少が認められれば効果があったと推論できる。
実際、前回C・D・E評価事業者(30事業所)のうち、トラドック活用事業所(18事業所)、トラドック未活用事業所(12事業所)を比較すると、活用事業所の指摘事項数が有意に減少していることを確認できた(第37回日本物流学会全国大会研究報告集, pp.149-152, 2020)。
ただし、岐ト協では、トラドックと同時に多様な取り組みも進めているため、指摘事項が減少した要因は複合的であり、一義的な検証は難しい面もある。
他方、事業者自身の取り組みとして、デジタコなどの管理ツールも普及して、情報技術の活用が進展している点も考慮しなければならない要因の一つとして指摘できる。
そこで視点を変えてみることにした。
そもそもトラドックは法令順守を目的とするものであり、社内における点検体制の強化は、交通事故の減少にも寄与するはずである。
交通事故が減少すれば当然ながら事故に係る関連費用も減少する。
しかしながら、これまで交通事故の側面からは十分な検証ができていなかった。
そこで筆者を含む朝日大学大学院経営学研究科グローバルロジスティクス研究会(http://gl.asahi-u.ac.jp/)のメンバーで、「トラドックは交通事故を減らせたのか」を検証し、その結果を「貨物自動車運送事業における法令順守と事故削減のための取組支援」(朝日大学大学院経営学研究科紀要第21号, pp.17-26, 2021)としてまとめた。
その概要は次の通りである。
取組効果の分析 (1)分析方法 事故の少ない事業者は、車両の修繕費や保険料が抑えられる分、会社の利益が上がり、よって人件費(給料)を多く出すことができるとの仮説が立てられる。
事業者のトラドック導入前と導入後で、「修繕費・保険料」の比率が明らかに減少し、「人件費」の比率が明らかに増加していれば、交通事故防止に効果があると推論できる。
このことから、「修繕費」「保険料」「人件費」の各項目を『トラドック活用を開始した2018年度と翌年の2019年度』ならびに『トラドック活用事業者と未活用事業者』を比較することで、トラドックによる交通事故削減の効果を分析する。
(2)分析項目 17年度、18年度および19年度の決算分事業報告書の一般貨物自動車運送事業損益明細表に記載された「修繕費」「保険料」「人件費」の各項目と、営業収益との比率を計算する。
(3)分析対象の概要 巡回指導を実施した岐阜県の事業者のうち、18年度のトラドック活用事業者は95者、19年度のトラドック活用事業者は75者だった。
そのうち、一般貨物自動車運送事業損益明細表のデータを入手できた事業者は、17年度が21者、18年度は22者、19年度は24者だった。
また、トラドック未活用の事業者で同データを入手できたのはいずれも37者だった。
(4)分析結果 図表5~図表7は、「人件費」「修繕費」「保険料」の推移を比較したものだ。
グラフ表示による視覚的評価を箱ひげ図で観察すると、人件費と修繕費では値の変動に有意な傾向はみられなかった。
保険料の推移には減少傾向がみられるが、一部の事業者の値は高い値を示している。
図表8は、営業収益における「人件費」「修繕費」「保険料」の比率をトラドック活用事業者数、未活用事業者数で平均したものである。
トラドックを開始する前の17年度に比べて保険料はやや減少しているものの、明確な差として表れてはいない。
(5)分析結果に対する考察 分析結果より、トラドック活用事業者と未活用事業者に大きな違いはみられなかった。
活用事業者によってそれぞれさまざまな要因があることが示唆される。
ただし、追加分析として二元配置分散分析を行ったところ、トラドック活用事業者に保険料の低下が有意にみられた。
下がった要因を現在検証中である。
また、保険料と修繕費に注目すると、保険料は車両の自賠責保険と任意保険(事故対策費を社内でプールしている大手を除く)に係る費用であり、固定費に相当する。
しかし、任意保険の有無や保有車両台数はもちろん、事故率などが保険料に影響するため、少なくとも一台当たりの保険料の算出が必要となる。
修繕費は、一般修理、車検整備、定期点検などに係る費用であり、一定期間ごとに整備や点検などが発生するほか、事故が起きれば費用が増加する。
修繕費もやはり一台当たりの算出が必要となる。
修繕費のうち点検・整備は、自動車に不具合が起こる前の予防的措置であり、対症療法的な一般修理と違って修繕費の総額を減らすことにつながる。
従って事業者としては、修繕費のうち整備費にかかる費用は予定通りに支出して、修理費を削減しようとするだろう。
これらの考察から論点として以下の四つが考えられる。
◦トラドック活用事業者は基本的に、A評価以外のB・C・D・E評価の事業者が対象となっている。
ただし、A評価でトラドックの活用を希望する事業者も含まれている。
また、「活用」の捉え方には巡回指導の指導員の判断も含まれることから、対象の範囲を整理する必要がある。
◦導入1年後の数値だけでトラドックの効果を評価するのは難しい面がある。
前述の通り岐ト協では13年度から、トラドックの前身となる「事前・自主点検表」を開始して、その後も改善を進め、名称を変えながら現在まで取り組みを継続してきた。
事業用トラック1万台当たりの第一当事者による死者数は、全国平均が2・2人であるのに対して、岐阜県の死亡事故率は1・0人と大幅に少ない。
それを岐ト協の継続的な活動の成果として捉えることはできないだろうか。
◦ステップを踏んで一つ一つチェックするトラドックのアプローチは、事業が急成長して管理が追いつかない事業者、順法体制が整っていない事業者に特に有効である。
◦トラドックの活用・未活用の比較は、車両1台当たりの財務データを用いることが重要である。
今回の調査データをあらためて整理して、トラック保有台数の視点から再検討することが望ましい。
トラドックを通した今後の展開 本稿では、法令順守に関する日々の取り組みを点検する支援ツールとしてのトラドックの導入効果を検討した。
その結果、「修繕費」「保険料」「人件費」に注目することが、有効であることが示唆された。
他方、さらに踏み込んだ分析をするために、具体的な保険料、修繕費に関わる事業者向けのアンケートを実施するなどして正確なデータを入手することが求められるとともに、今後5年程度の追跡研究が重要である。
トラドックの事故削減効果をより詳細に検討するには、巡回指導やGマーク制度との関係などを整理して、その効果を捉える必要もある。
周辺の取り組みと紐づけて、定量的評価の精度を高める必要がある。
事業者への法令順守に関する支援の形としては、①個別企業マンツーマン型(家庭教師型)、②会場に集める研修型、③動画配信学習が考えられる。
事業者の規模・事業内容、各地域に即した支援策を模索していく必要がある。
大手の物流事業者は法令順守体制・事故防止体制が社内で整備されているため、支援の対象者としては、事業を開始して間もない事業者が中心となるだろう。
なおトラドックは、岐ト協のサイト上に冊子として公開されており、最新バージョンの「トラドック2022」が更新されている(https://www.gitokyo.or.jp/)。
事業者は法令などの改正について自力では追いきれない面がある。
トラドックは見逃してはならない法改正を認識する手段として有効であり、法令などの改正に対応するためにバージョンアップを毎年行うことが求められる。
さらに現在、紙ベースの運用に加えて、Webベースでの開発計画が進んでいる。
Webアプリ化が実現すれば、事業者と指導員の双方向のコミュニケーションなどが可能になる。
トラドックの効果を検証するデータやノウハウの蓄積も期待される。
朝日大学大学院経営学研究科グローバルロジスティクス研究会でも、そうした構想やトライアルについて活発な議論がなされている。
事業者にとって、トラドックが法令順守のための点検ツールとしてのみならず、従業員の待遇改善につながる各種費用の削減や、安全運行に努める優良ドライバーの確保・育成を促進し、適正な事業を継続する原動力となることが期待される。
また適正化事業実施機関の諮問機関である地方評議委員会においても、トラドックをベースに各種の取り組みや活用事業者を評価できるようになることが望まれる。
