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2022年8月号
特集

《海外論文》国際調査:物流市場におけるCSRの価値

物流企業のCSRと取締役会  サプライチェーンの社会的・環境的な取り組みにおいて、中心的な役割を果たすのが物流企業である。
物流企業はネットワーク内の企業同士を結びつけているだけでなく、その活動の多くを化石燃料に依存し、多量の炭素を排出している。
経済成長を追求しながら、一方で社会・環境への影響を最低限に抑えるためには、持続可能な物流が必要不可欠であることに疑いの余地はない。
 これまで物流企業はコスト・納期・正確さを使命としてきた。
しかし昨今は、業務上のコンプライアンスについて、政府およびステークホルダーから厳しい視線が向けられるようになっている。
持続可能で環境に配慮した物流への関心が高まるにつれ、物流セクターにおける企業の社会的責任(CSR)の重要性が一段と増してきている。
 企業が売り上げや利益の目標とそれ以外の目標のバランスをとる、あるいは多様なステークホルダーの利害を調整する、CSRパフォーマンスの向上を図るといった際に、大きな役割を果たすのが取締役会である。
取締役会の顔ぶれや組織構造は、環境や社会に関連する意思決定を左右する要因となり得る。
今回の調査で物流セクターにおける取締役会の特性とCSRパフォーマンスの関係性を分析することにしたのはそうした理由による。
 企業がCSRに配慮するのは、主要なステークホルダーとの強い関係性の構築、企業固有のリスク(制裁金などのリスク)の緩和、ブランド価値・オペレーション・経済的パフォーマンスの向上などを目的としている。
その反面、CSRに無頓着な態度でいると、企業の評判を損なって潜在顧客を失い、利益率を低下させて株価にも悪影響が出る可能性がある。
 取締役会の成り立ちとCSRパフォーマンスの関係性についての研究は、近年目覚ましく進展している。
しかし、こと物流セクターについては、いまだ手つかずの状態であるといってもいい状況にある。
そこで今回は、物流企業の取締役会の特色および株式の所有構造が、CSRへの取り組みや実践と何らかの因果関係があるかどうかについて調査を行った。
具体的には、取締役会の規模(人数)・ジェンダーダイバーシティ・独立性、所有と経営の分離(取締役会会長とCEOの分離)、CSR委員会の設置などが、CSRパフォーマンスの環境・社会・ガバナンスという側面にどのような役割を果たしているかについて、見ていくことにする。
またCSRパフォーマンスが、物流セクターの企業価値に何らかの影響を与えているかどうかについても分析を行った。
研究課題1 物流セクターにおいて、CSRパフォーマンスを向上させる取締役会レベルの要因は何か? 研究課題2 物流セクターにおいて、CSRパフォーマンスと企業価値の間にはいかなる関係があるのか?  調査に利用したデータは、トムソン・ロイター社(TR)のデータベースEIKONに収められている物流企業100社(表1参照)に関する情報である。
そこからさまざまな項目について比較検討を実施した。
*調査方法の詳細については省略(表2) 理論的フレームワークおよび仮説  コーポレートガバナンスとサステナビリティの関係性を理解する理論としては、エージェンシー理論とステークホルダー理論の二つが最も一般的である。
エージェンシー理論によれば、企業はプリンシパル(依頼人=株主、投資家)の保護、そしてプリンシパルとエージェント(代理人、経営者)の間の軋轢を回避するため、コーポレートガバナンスのような管理メカニズムを利用する。
 一方、ステークホルダー理論では、企業の社会的正当性(レジティマシー)を維持向上させるには、ステークホルダーとの緊密な関係性を確立することが重要であると強調される。
つまり、コーポレートガバナンスが有効に機能することは、その企業が適切に管理されてステークホルダーの利害にも配慮が行き届いている、というメッセージを社会に発信することを意味するのである。
こうした見方からすれば、CSRマネジメントとその公表は、ステークホルダーの期待に応える上で必要欠くべからざるものといえる。
取締役会の規模(人数)  取締役会の規模は、その機能を規定する主な要因の一つとされる。
規模が大き過ぎると管理監督機能にマイナスの影響が及び、その結果機能が低下するというのが定説である。
 ところがその一方で、取締役会に属するオーナーと少数株主の軋轢をうまく調整するには、規模の大きい方が好都合であるという見方もある。
この立場からすれば、取締役の人数の多いことが、マネジャークラスの恣意的な振る舞いを抑制して取締役会の監視機能を強化し、ひいては価値創造能力を促進することにつながる。
要するに、取締役会の規模とサステナビリティパフォーマンスの関係性に関して、研究者間の統一的見解は存在しないのである。
ここでは差し当たり、後者の立場に立って次の仮説を提出しておく。
仮説1 物流セクターにおいて、取締役会の規模が大きいことは、ESGパフォーマンスにプラスの影響を与える。
取締役会のジェンダーダイバーシティ  取締役会の男女比は、サステナビリティパフォーマンスに影響を与えるコーポレートガバナンスと密接な関係があると考えられる。
女性取締役は男性とは異なるバックグラウンド(教育、能力、専門知識など)を持つケースが多いため、取締役会での議論に斬新な視点と多様なステークホルダーの価値観をもたらす傾向があるからである。
 ジェンダーダイバーシティには、取締役会の監視機能やステークホルダーマネジメントを強化してサステナビリティイニシアチブを推進するとともに、企業がより環境問題に対して責任を負う姿勢を強化する効果がある。
仮説2 物流セクターにおいて、取締役会のジェンダーダイバーシティはESGパフォーマンスにプラスの影響を与える。
取締役会の独立性  エージェンシー理論によると、当該企業から独立している社外取締役は、エージェント(マネジャーなど)の行動を効果的に管理監督できる。
ステークホルダー理論からすると、社外取締役はマネジャーや株主からのプレッシャーをあまり受けないため、そのことによって得られる取締役会の独立性は、高度なサステナビリティパフォーマンスの実現に寄与することになる。
 社外取締役は、社外のステークホルダーの利益を考慮に入れることで、企業とステークホルダーの橋渡しができる。
その客観性を担保するものが取締役会の独立性であり、そのことが企業の社会的・環境的責任に対する多様な視点をもたらす。
仮説3 物流セクターにおいて、取締役会の独立性はESGパフォーマンスにプラスの影響を与える。
CEOと取締役会会長の分離  いわゆる「CEOの二重性」とは、CEOと取締役会会長を同じ人物が兼任することを意味する。
これによって権限と権威が1人に集中し、ステークホルダーの意向に左右されることなく意思決定をすることが可能になる。
 マネジャーとステークホルダーの間で経営資源の活用に関する利害が一致しない場合、この体制では後者の立場があまり尊重されない傾向が見られる。
CEOの二重性が社会的活動やコミュニティへの貢献を顧みないことになりかねない一方、両者の分離には、企業がステークホルダーの利益をも考慮し、社会や環境に対してより責任のある行動をとるように促す効果が期待できる。
仮説4 物流セクターにおいて、CEOと取締役会会長の分離はESGパフォーマンスにプラスの影響を与える。
CSR(サステナビリティ)委員会  サステナビリティポリシーの策定、およびステークホルダーエンゲージメント(ステークホルダーの意向を把握して意思決定プロセスに反映させること)を強化するため、多くの企業がCSR委員会を設置している。
 企業の方針と戦略にCSRという視点を取り入れる上で、こうした委員会の専門知識、ナレッジ、スキルなどは大きな役割を果たす。
そのためCSR委員会は、ステークホルダーとの関係を調整する機関として、そしてサステナビリティパフォーマンスの改善をモニタリングする効果的なメカニズムとして捉えることが可能である。
仮説5 物流セクターにおいて、サステナビリティ委員会(CSR)は、ESGパフォーマンスにプラスの影響を与える。
株式所有構造  上場企業がCSRを実践しやすいのは、メディアや一般社会の目に触れる機会が多く、その分世間の厳しい視線が注がれるからである。
非上場企業の場合、それとは逆にサステナビリティポリシーの追求に一定の限界がある。
「そんなに費用のかかることは経営資源の無駄遣いだ」と判断されることも少なくない。
 株式市場に上場している物流企業が、自社のCSRへの取り組みについて詳細なレポートを公表するケースが多いことは、それだけステークホルダーからの圧力が強いことを物語っている。
仮説6 物流業界において、株式の公開は、ESGパフォーマンスにプラスの影響を与える。
企業価値  ESGパフォーマンスが企業に価値をもたらすのか、あるいは逆に棄損するのかについて、理論的な評価は二つに分かれる。
一つはコストが増加することで企業の経済的負担が増え、それが市場価値を低下させるというもの。
そしてもうひとつは、ESGに熱心に取り組む姿勢が企業の評判を高め、競合他社と差別化されることで競争力も増加するという立場である。
 競争力の話はともかく、物流企業の社会的・環境的パフォーマンスが向上することは、業務の効率化やコスト削減などといった経済的価値につながり、それが結果として市場価値を押し上げることになる。
例えば、輸送に伴う温室効果ガス排出量の削減は、燃油の使用量削減に直結する。
 Humphreyら(2012)の実証研究によれば、ESGスコアの高い企業への投資には、特段の財務的コストはかからない代わりに際立った利益も認められない。
Velte(2017)は、ESGパフォーマンスは企業の収益性を向上させるが、市場価値には影響しないとする。
Crisostomoら(2011)に至っては、CSRが企業価値にはマイナスであるとまで主張する。
その一方でLo and Sheu(2007)などは、それらとは正反対の結論に達している。
ここでは後者の立場をとり、次の仮説を立てることにする。
仮説7 物流セクターにおいて、サステナビリティパフォーマンスは、企業価値と正の相関がある。
調査結果  今回の調査結果からは、取締役会の規模ならびにCEOと取締役会会長の分離について、CSRパフォーマンスとの関係性は特に認められなかった。
物流セクターの取締役会の規模は、CSRパフォーマンスを予測する指標としては適切なものではないようである。
監視機能という点では、規模よりもメンバーの顔ぶれの方が重要である可能性もある。
規模とサステナビリティの間に特別な関係性がないということは、いくつかの先行研究でも指摘されており、ある程度予想された結果ではある。
 所有と経営の分離についても、有意な関係性は得られなかった。
これまでの研究でもJo and Harjoto(2011)がCEOの二重性とCSRパフォーマンスの間に正の相関を認める一方、Naciti(2019)は両者の分離にプラスの効果があるとしている。
ところがMichelon and Parbonetti(2012)は関係性自体を否定する立場である。
このように相反する研究結果が複数混在し、いまだ統一的な結論には至っていない。
 一方、取締役会のジェンダーダイバーシティは、CSRおよびガバナンスのパフォーマンスと正の相関がある。
この結果は、女性取締役の方がサステナビリティ・企業市民・ステークホルダーエンゲージメントなどをより積極的に推進する、という見解を裏付ける。
 ただし女性取締役は、CSRとガバナンス全般の改善に対する影響力はあるものの、環境および社会については因果関係が認められない。
これについては、物流企業の取締役会における女性比率が低い(平均11・49%)ことが一因であると考えられる。
物流企業で権限を持つ女性取締役の人数が増加すれば、環境や社会的アジェンダへの取り組みは一層加速することであろう。
 取締役会の独立性については、ガバナンスとの関係性がかろうじて認められる程度であった。
株主の圧力から比較的自由な社外取締役には、株主とステークホルダーの利害調整をすることで取締役会を有効に機能させる役割が期待されたのであるが、やや意外な結果となった。
 いくつかの例外を除けば、既存の研究の大部分は独立性とCSRの間に正の相関を認めている。
今回の調査でそれほど明確な関連性が浮かび上がらなかった理由は、社外取締役の資質や独立性の実態にあるという可能性も考えられる。
真の意味で独立している取締役は、経営資源の分配によって価値を創造できるはずだからである。
あるいは社外取締役の人数が多すぎると管理監督機能が低下する、という説明にもそれなりの妥当性はありそうである。
 サステナビリティ委員会を設置している企業は、そうではない企業よりCSRパフォーマンス(全般および社会)が高い傾向にある。
CSR委員会という組織には、専門知識とスキルが備わっていることがその理由である。
しかしながら、環境とガバナンスに関してはさほどの関連性は認められず、有効性はあくまで相対的なレベルにとどまる。
環境面での効果がないことは、物流企業が業務上のリスクにさらされていることを示唆する。
 また、所有構造が分散している企業ほど、ESGの「社会」のパフォーマンスは高い。
これは株主たちが、ESGの他の側面よりも社会的責任への取り組みを重視していることを示す。
これまでの研究でも、例外はあるにしても、分散型所有構造とCSRコミットメントの間に正の相関を指摘するものが大半である。
 ところが、浮動株と「環境」には特段の関係性は認められない。
これは所有構造の分散が、そのままエコロジー問題への取り組みにつながるとは限らないことを示唆しており、物流企業のCSRパフォーマンスにおけるミッシングリンクとなっている。
環境を悪化させる原因となり得る物流セクターには、ステークホルダーの厳しい目が光っており、企業がそうした懸念を軽減するために何をしているかについて、株主たちはもっと関心を向けるべきであろう。
 企業価値については、予想に反してCSRパフォーマンスが何らかの価値を創造するという証拠を得ることはできなかった。
企業価値との関係は、ESGスコア全体では若干の、「社会」については明らかな負の相関がある。
 CSRパフォーマンスと企業パフォーマンスの関係性については、過去の研究でポジティブ・ネガティブ・あるとしてもごくわずか、といった結果が混在している。
顕著な正の相関というデータが見あたらないことには、いくつかの理由が考えられる。
 一つはそもそも株価というものが、CSRへの取り組みや開示を適切に評価・反映しないということがある。
もうひとつは、物流セクターの各企業がCSRを通して追求しているのが、利益よりもむしろコミュニティの発展や企業市民としての義務に力点が置かれていることである。
そして三つ目に、株主がCSRへの投資を物流企業の当然の前提と見なしていることを挙げることができるだろう。
考察  女性取締役とCSR委員会は、CSRを遂行することを通じて、マネジャー層と投資家の軋轢を緩和するコントロールメカニズムとして機能する。
物流企業のCSRの実践が不十分、もしくは欠如していると、最終的には投資家に不利益をもたらす環境的・社会的リスクを抱えることになる。
 ステークホルダー理論に従えば、女性取締役とCSR委員会は、ステークホルダーの懸念を払拭してかれらの要望に応えることができる。
従って女性取締役の存在しない、あるいは取締役会の女性比率の少ない企業には、意思決定プロセスをCSR寄りへと軌道修正するため、取締役の顔ぶれを多様化することが求められる。
 今回の調査では、物流企業における女性取締役の割合は平均で11・49%、最低のゼロから最高が50%となっている。
この数字からすれば、CSRに必要なスキルと経験を備えた女性取締役を率先してリクルートしなければならない物流企業の数は、決して少なくない。
 CSR委員会を置いていない企業には、CSR戦略の策定と実践、そしてその進行状況を評価するため、可能な限り早期の設置が推奨される。
この分野に精通した専門家もいる委員会があることで、サステナビリティという目標へ向けて物流セクター全体の足並みがそろい、そのことがエコロジーに関するステークホルダーの懸念を軽減することになる。
 物流セクターのこうした委員会は、企業が環境に配慮したサプライチェーンへ向けた雇用・管理体制を確立する上でも役立つであろう。
またCSR委員とそれに対応した人事制度があることで、やがてはCSRパフォーマンスの監視と報告を行う情報システムの構築につながる可能性もある。
ところが、調査した企業の約半数はCSR委員会を設置していない。
 次に、物流部門を管轄する国家機関は、各企業任せではないイノベーティブなCSR政策を奨励することで、その流れにさおさす積極的な役割を果たすことができる。
従業員・一般社会・行政当局・メディアなどステークホルダーは、物流業務によって生じる望ましからぬ環境的・社会的影響への深い関心を、それぞれの立場から明らかにすべきである。
 CSRパフォーマンスが市場価値に反映されないことには、いくつかの理由が考えられる。
物流業務をより環境に配慮したものとするには、割高な梱包材の購入・従業員教育・安全対策・リサイクル技術・公害防止・廃棄物のろ過など、さまざまな追加コストがかかる。
そのため投資家はこうした施策が企業の収益性には貢献しないものと判断し、そのことがCSRパフォーマンスの評価されない原因となっていることが考えられる。
 しかしこういった対策をとらず、生態系への懸念に対処しなければ、コンプライアンス違反による制裁、企業市民たる資格への疑問符、競争力の低下(ますます多くの顧客が環境への配慮を求めている)など、前記とは別のコストを覚悟しなければならなくなる。
また、CSRの実践に関する情報が投資家にうまく伝わっていないという可能性もある。
企業はウェブサイトやSNSなども含む新旧のコミュニケーション手段を駆使しながら、投資家や他のステークホルダーに自社の取り組みをアピールしていく必要があろう。
(翻訳構成 大矢英樹)

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