2022年7月号
特集
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5年間EVEを使い倒して分かったこと
棚搬送ロボットが現状の最適解
──前職のアッカ・インターナショナルでは、ギークプラス製の「EVE」を2017年に導入して、棚搬送ロボットを日本で初めて本格的に実装しました。
どんな勝算があったのでしょうか。
「当時はちょうど物流が大きく変わろうとしていた時期でした。
ECがどんどん拡大して、BtoCとBtoBの境目がなくなっていき、在庫も一元化する動きが強くなっていた。
しかし、それは同じ物流センターで『コストコ』のような倉庫型店舗とコンビニ店の双方に対応するようなものですから現場は大変です。
広大なフロアでコンビニのピースピッキングをやろうとすれば、作業員はとてつもなく長い距離を歩かなければならない。
そのためピッカーが商品を取りに行くのではなく、ピッカーの目の前に必要な商品を持ってくるソリューションを探していました」 ──米アマゾン・ドット・コムが13年にKiva Systems(キバ:現アマゾンロボティクス)を買収して棚搬送ロボットの大量導入を始めたことも意識していましたか。
「アマゾンがキバをどれだけ継続して使うのかに注目していました。
すると、ずっと使い続けて台数も増やしている。
それを見て、これは間違いないぞ、と。
ECが進むと品揃えはロングテールになっていく。
その結果、物流センターでは、カバーしなければならないスペースが増える。
BtoBであっても同じような傾向になります。
従ってこれからは庫内作業員の歩行距離をゼロにしないと、どんどん厳しくなる。
そう確信しました」 ──従来型のマテハン設備では解決できませんか。
「巨大な自動倉庫やシャトルシステムがあれば対応できますが、アッカの規模ではとても手が出ません。
しかも、巨大なマテハンにはフレキシビリティがまったくない。
3PLは3年単位や1年単位で荷主と契約を更新していくわけですから、それでは困る」 ──アマゾンがキバを囲い込み、アマゾン以外への供給を止めてしまったことを受けて、同タイプの棚搬送ロボットを開発するスタートアップが世界各地で立ち上がりました。
その中から中国のギークを選んだのは何が理由ですか。
「各社のロボットのデモを見て、実装している現場も調べましたが、本当に使えるのか、どれも実用性という点では疑問がありました。
しかし、ギークの現場は他とは違いました。
ギークの本社がある北京まで行き、社長に現場を見せてほしいと頼みこんで、広州にある通販センターを紹介してもらいました」 「そこで朝8時の朝会から見学していると、センター長が今日の出荷量は3千件余りと説明している。
その場で日本に電話して、アッカのスタッフに現場の規模感を伝えて、そこで1日3千件の通販貨物を出荷するとしたら何人のピッカーが必要かと尋ねたら、『慣れているメンバーで20人くらいですね』という。
広州のセンターはそれをたった2人で処理していました」 「実際にワーキングステーションの横に立ち、ピッキング作業員の姿をスマホで撮影して計測してみたところ1時間に350〜400件を処理している。
ピッカーは2人いるので少なく見積もっても1時間当たり600件、5時間あれば3千件を処理できる計算です。
その動画を日本のスタッフに送ったらやはり、『すごいスピードだ』と驚いている」 「その日のうちに北京に戻り、ギークの社長にEVEを日本に持ち込みたいと頼みました。
ところが日本に売る気はないという。
当時のギークは創業してからまだ2年余りで社員も20〜30人しかいませんでした。
中国の国内市場もままならないのにとても日本まで手を広げられないというわけです。
そこで、われわれがパートナーになって日本市場に供給することになった、という経緯です」 ──そのアッカの代表取締役を今年4月に退任して、ギーク(日本法人)のCEOに転じました。
「われわれがアッカで5年間にわたって経験した失敗や成功は、これからAGVを導入しようというユーザーにとって大変に価値のあるものだと思います。
同じ過ちや回り道をしないで済みますから。
それをギークを通して、できる限り多くの人に伝えることで業界全体に貢献したい。
私自身にとってもそうすることが有効な時間の使い方だろうと考えました」 ──必ずしもギークでロボットを売りたいということではない? 「違います。
もしかしたらギークの看板自体それほど重要ではないのかもしれない。
棚搬送ロボットは現時点では最も汎用性が高い設備です。
しかし、今後もテクノロジーのレベルは上がっていくし、専門性は研ぎ澄まされていく。
物流の効率性は、さまざまなテクノロジーや設備が連携していくことで達成されます。
ギークのプロダクトラインナップだけではとても対応しきれない。
従って施設全体をインテグレートする技術力が必要になってきます。
そこを目指しています」 「しかも、この動きは日本のわれわれだからできる。
ギークの本国の中国や欧米の先進国で同じことをやろうとしても恐らくは難しい。
ロボット市場が既にレッドオーシャン化して、価格競争になっているからです。
プレーヤーが乱立して、統一的な基準を敷くことなどとてもできない。
それに対して日本市場はギークが棚搬送型ロボット市場で8割近いシェアを持っている(20年実績76・9%。
矢野経済研究所調べ)。
インテグレーターとして活動するのに、すごくいい位置にいるわけです。
そのため今後はギーク以外の製品も仕入れてソリューションを構築するといった、従来とは違った展開も想定しています」 ロボット教習所『DOJO』開講 ──アッカでロボットを導入した5年前と比べて現場の運用はどれだけ進化しているのでしょうか。
「当初導入したのは800坪のフロアで棚数も800本、ロボットは30台でした。
それが今では大規模な施設、例えばナイキの千葉のセンターだと棚が6千本、ロボットは200台以上入っている。
そうなると同じソリューションでもやれる内容が全く違ってきます。
800坪の規模だとステーションの数は最大でも四つ。
それに対してナイキのセンターには31もステーションがある。
閑散期にはそのうち半分だけ動かしておいて、入出荷が跳ね上がったら全て稼働させる。
さらには1日3交替シフトで回すといった運用をすることで1日十数万件といった規模の出荷にも対応できます」 「それがECビジネスでは決定的な意味を持つんです。
通販業界では年間で需要が極端に跳ねるタイミングを『スパイク』と呼ぶのですが、それが通販会社の稼ぎ時となっている。
そしてスパイクの高さと頻度は年を追うごとに増しています。
例えば『楽天スーパーセール』が始まると1日当たりの出荷が一気に10倍くらいに増える。
それを従来型のマニュアル作業で処理すれば、初日は何とかクリアできたとしても2日目、3日目とセールが進むにつれて残オーダーが積み上がっていく。
最終日に注文した人のお届けは下手をすれば1週間後ということになってしまう」 「そうなるとそのお客は二度とそのサイトで買い物をしなくなる。
やればやるほどお客が逃げていってしまう、ということが起きる。
一方、大量の波動を吸収して出荷できているサイトは評価が上がって、どんどん客が集まってくる。
そうやって、足回りがビジネスのトップラインに直結するような状態が今、作られているんです」 ──ロボットを導入する前には予想していなかったこと、導入して初めて気付いたことはありますか。
「もちろんあります。
例えばこれはスポーツ用品チェーンのセンターのケースですが、同じ棚にピンポン球やらグローブやら、洋服やら、さまざまな商品がたくさん入っている。
そうなると、ピッキングが宝探しのようになって大渋滞が起きてしまう。
そのためピンポン球のように特に小さい商品は、小さい商品だけを集めて処理した方がいい。
あるいはシューズはかさばるのでカートピッキングだとカートがすぐいっぱいになってしまう。
これはロボットに入れた方がいい。
そういったファインチューニングが実際の運用では大変に大事になります」 ──運用が下手だと何が起きますか。
「ロボットを使うとマニュアル作業より効率が落ちてしまうので、それをもってロボットの生産性が悪いと判断して、自動化設備の入っていない平場のエリアを増やして作業するようになります。
せっかくの棚搬送ロボットが単なる“移動する物置”になってしまう。
そうしたことを避けるには、現場の責任者は目の前の個別の現象ではなく庫内全体を見て、何が起きているのか、どうしたらいいのかと、発想していかなくてはなりません」 ──しかし、現場のセンター長にそんな経験はないし、そうした訓練も受けていません。
「そのためギークは昨年12月に物流ロボットの教習所『DOJO(ドージョー)』を神奈川県相模原市にオープンしました。
今年4月から実際に受講生を受け入れて講習を始めています。
主な受講者層は荷主や大手3PLのセンター長、それと営業担当です」 倉庫の立地や設計も変わる ──3PLの営業担当ですか。
「そうです。
彼らはAGVを使ったことがなかったり、荷主と自動化について深い議論ができないとコンペに負けてしまう。
荷主から『当社は今後5年間、毎年150%成長を続けていきます。
どんな提案をしてくれますか』と投げかけられて『AGVを導入します』と答えても、『それでは当社の荷姿、インとアウトはこうなので具体的に提案してください』と求められて『そこはギークに任せています』と逃げたら落とされてしまう。
そこを乗り越えて導入まで持っていく方法をDOJOで指導しています」 「単なるショールームやデモンストレーションでは、Youtubeで動画を見ているのと一緒です。
そうではなくてDOJOでは、受講者が稼働中の倉庫で実際にピッキングステーションに立ち、ロボットが持ってきた棚から荷物をピックしてボタンを押す。
DAS(デジタル・アソート・システム)に商品をセットしていく、といった作業を経験してもらう」 「それによって『あれ。
今の紐付け、ちゃんとやれたかな。
もう一度戻りたいけど、戻り方が分からない。
管理者も見ていないからこのまま次に進んでしまおう』といった本当に初歩的なところから、作業者の不安や、ミスが起きた時の管理者の役割などを身をもって知ることができる。
そのためにDOJOでは、棚搬送システムをはじめとする自動化設備を導入した2500坪の倉庫に実際にECの荷主を誘致して、荷主の許可をもらって受講者に作業を体験させています」 ──ギークにとってDOJOはマーケティング活動ですか、それとも新しいタイプの3PL事業なのでしょうか。
「今のところは啓蒙活動の一つです。
しかし、それと並行してギークでは現在、物流倉庫のフロアスペース、そこで働く庫内作業員、彼らが使用するロボットやマテハン設備などのリソースをシェアリングするためのシステムを開発しています。
『ネスト』と呼んでいますが、複数の倉庫をネットワーク化して、そのプラットフォームに荷物を投入すれば、後は自動的に処理される、物流版のAWS(アマゾンウェブサービス)のようなサービスを実現するためです。
そのパートナーをDOJOを通して広げていきたい」 「そのためにDOJOの開講と同じ4月1日に、初期費用ゼロで、作業数量に応じてロボットの利用代金を支払う、ロボットの従量課金サービス『LaaS(Logistics as a Service)』をスタートしました。
DOJOとLaaSという二つのサービスによって、投資リスクとロボットを使いこなすことへの不安という、ロボット導入の二大ハードルを解消しました」 ──倉庫1棟丸ごとではなく、空いているスペースだけでもシェアリングできるのですか。
「もちろんです。
3PLは通常、3年や5年の定期借家契約で拠点を確保します。
荷主の事業計画に合わせて1万坪を借りたけれど、そのうち3千坪は当面は空いているなら、そこにシェアリングの荷物を入れることでキャッシュアウトを防げる。
そうした物流の世界観、プラットフォームのコンセプトをわれわれが3PLや荷主にいくら説明しても、それを理解して進めてもらえるものでもないので、まずはギークが自分で構築して見せる。
そのためのDOJOであり、LaaSです」 日本市場向けロボットを開発 ──中小零細の物流企業もネットワーク化の対象ですか。
「もちろんです。
ただし、攻め方として、当初は大手3PLを対象にして、グループ内のリソースをネットワーク化するプラットフォーム『プライベートネスト』を提供するところから始めます。
各拠点の入荷と出荷、作業の進捗、倉庫の空き状況が見える。
日々の収支も分かるし分析もできる」 ──各地に分散した倉庫がネットワーク化されることで、物流センターの拠点展開や設計はどう変わっていくことになりますか。
「全国に出荷するECセンターであれば、本来は大手宅配会社のハブ拠点の近くに置くのが一番なのですが、簡単にスペースを確保できるわけでもないので結局、坪単価がそれほど高くなくて、人を集められる場所がこれまでは選ばれてきました。
しかし、AGVを使えば人はそれほど必要ではなくなるので、空室率の高い地方エリアにも持っていける。
物流立地の概念が変わります」 「倉庫の設計自体も変わる。
これまでの倉庫はトラックバースをたくさんとるために横に長く、歩行距離を短くするために奥行きは長くとらない、横長の設計になっています。
しかし、搬送をロボットにやらせると歩行の必要がないので奥行きを長くとれる。
実際、今のアマゾンの物流センターはほぼ正方形です」 ──棚搬送ロボット以外のテクノロジーはどう評価していますか。
「物流ロボットは基本的に世界市場を視野に開発されているのですが、もっとローカライズされたマテハンが必要になってきています。
例えば、日本は消防法が非常に厳しいために海外から持ち込めないマテハンがかなりある」 「現在の棚搬送ロボットにしても、棚から手で商品を取り出すとなると、脚立を使っても棚の高さは最大2・5メートルが限界です。
そこから天井までの高さがもったいないという問題がある。
そこで海外には『ACR(Autonomous Case-handling Robot)』という高さが10メートルもある自動倉庫型の搬送ロボットが製品化されています。
しかし、日本の倉庫は梁下が5〜5・5メートルなので、それに合わせたACRを作っても割に合わない。
日本の倉庫には防火シャッターもあるので、その高さに合わせたロボットが一番いいわけです。
生産性も上がるし、保管効率も上がる」 「それを今回、中国で生産して『PopPickステーション』として製品化しました(図表2)。
最大1・2トンまで持ち上げられるEVEシリーズの棚搬送ロボットが背の高い大型ラックを運んでくると、ステーションが自動でピッカーの目の前に荷物を降ろしてくれる。
1時間当たり650箱を処理できます。
コストは自動倉庫の約半分。
拡張性があって引っ越しもできる。
日本向けに開発した日本にベストマッチした製品です」
どんな勝算があったのでしょうか。
「当時はちょうど物流が大きく変わろうとしていた時期でした。
ECがどんどん拡大して、BtoCとBtoBの境目がなくなっていき、在庫も一元化する動きが強くなっていた。
しかし、それは同じ物流センターで『コストコ』のような倉庫型店舗とコンビニ店の双方に対応するようなものですから現場は大変です。
広大なフロアでコンビニのピースピッキングをやろうとすれば、作業員はとてつもなく長い距離を歩かなければならない。
そのためピッカーが商品を取りに行くのではなく、ピッカーの目の前に必要な商品を持ってくるソリューションを探していました」 ──米アマゾン・ドット・コムが13年にKiva Systems(キバ:現アマゾンロボティクス)を買収して棚搬送ロボットの大量導入を始めたことも意識していましたか。
「アマゾンがキバをどれだけ継続して使うのかに注目していました。
すると、ずっと使い続けて台数も増やしている。
それを見て、これは間違いないぞ、と。
ECが進むと品揃えはロングテールになっていく。
その結果、物流センターでは、カバーしなければならないスペースが増える。
BtoBであっても同じような傾向になります。
従ってこれからは庫内作業員の歩行距離をゼロにしないと、どんどん厳しくなる。
そう確信しました」 ──従来型のマテハン設備では解決できませんか。
「巨大な自動倉庫やシャトルシステムがあれば対応できますが、アッカの規模ではとても手が出ません。
しかも、巨大なマテハンにはフレキシビリティがまったくない。
3PLは3年単位や1年単位で荷主と契約を更新していくわけですから、それでは困る」 ──アマゾンがキバを囲い込み、アマゾン以外への供給を止めてしまったことを受けて、同タイプの棚搬送ロボットを開発するスタートアップが世界各地で立ち上がりました。
その中から中国のギークを選んだのは何が理由ですか。
「各社のロボットのデモを見て、実装している現場も調べましたが、本当に使えるのか、どれも実用性という点では疑問がありました。
しかし、ギークの現場は他とは違いました。
ギークの本社がある北京まで行き、社長に現場を見せてほしいと頼みこんで、広州にある通販センターを紹介してもらいました」 「そこで朝8時の朝会から見学していると、センター長が今日の出荷量は3千件余りと説明している。
その場で日本に電話して、アッカのスタッフに現場の規模感を伝えて、そこで1日3千件の通販貨物を出荷するとしたら何人のピッカーが必要かと尋ねたら、『慣れているメンバーで20人くらいですね』という。
広州のセンターはそれをたった2人で処理していました」 「実際にワーキングステーションの横に立ち、ピッキング作業員の姿をスマホで撮影して計測してみたところ1時間に350〜400件を処理している。
ピッカーは2人いるので少なく見積もっても1時間当たり600件、5時間あれば3千件を処理できる計算です。
その動画を日本のスタッフに送ったらやはり、『すごいスピードだ』と驚いている」 「その日のうちに北京に戻り、ギークの社長にEVEを日本に持ち込みたいと頼みました。
ところが日本に売る気はないという。
当時のギークは創業してからまだ2年余りで社員も20〜30人しかいませんでした。
中国の国内市場もままならないのにとても日本まで手を広げられないというわけです。
そこで、われわれがパートナーになって日本市場に供給することになった、という経緯です」 ──そのアッカの代表取締役を今年4月に退任して、ギーク(日本法人)のCEOに転じました。
「われわれがアッカで5年間にわたって経験した失敗や成功は、これからAGVを導入しようというユーザーにとって大変に価値のあるものだと思います。
同じ過ちや回り道をしないで済みますから。
それをギークを通して、できる限り多くの人に伝えることで業界全体に貢献したい。
私自身にとってもそうすることが有効な時間の使い方だろうと考えました」 ──必ずしもギークでロボットを売りたいということではない? 「違います。
もしかしたらギークの看板自体それほど重要ではないのかもしれない。
棚搬送ロボットは現時点では最も汎用性が高い設備です。
しかし、今後もテクノロジーのレベルは上がっていくし、専門性は研ぎ澄まされていく。
物流の効率性は、さまざまなテクノロジーや設備が連携していくことで達成されます。
ギークのプロダクトラインナップだけではとても対応しきれない。
従って施設全体をインテグレートする技術力が必要になってきます。
そこを目指しています」 「しかも、この動きは日本のわれわれだからできる。
ギークの本国の中国や欧米の先進国で同じことをやろうとしても恐らくは難しい。
ロボット市場が既にレッドオーシャン化して、価格競争になっているからです。
プレーヤーが乱立して、統一的な基準を敷くことなどとてもできない。
それに対して日本市場はギークが棚搬送型ロボット市場で8割近いシェアを持っている(20年実績76・9%。
矢野経済研究所調べ)。
インテグレーターとして活動するのに、すごくいい位置にいるわけです。
そのため今後はギーク以外の製品も仕入れてソリューションを構築するといった、従来とは違った展開も想定しています」 ロボット教習所『DOJO』開講 ──アッカでロボットを導入した5年前と比べて現場の運用はどれだけ進化しているのでしょうか。
「当初導入したのは800坪のフロアで棚数も800本、ロボットは30台でした。
それが今では大規模な施設、例えばナイキの千葉のセンターだと棚が6千本、ロボットは200台以上入っている。
そうなると同じソリューションでもやれる内容が全く違ってきます。
800坪の規模だとステーションの数は最大でも四つ。
それに対してナイキのセンターには31もステーションがある。
閑散期にはそのうち半分だけ動かしておいて、入出荷が跳ね上がったら全て稼働させる。
さらには1日3交替シフトで回すといった運用をすることで1日十数万件といった規模の出荷にも対応できます」 「それがECビジネスでは決定的な意味を持つんです。
通販業界では年間で需要が極端に跳ねるタイミングを『スパイク』と呼ぶのですが、それが通販会社の稼ぎ時となっている。
そしてスパイクの高さと頻度は年を追うごとに増しています。
例えば『楽天スーパーセール』が始まると1日当たりの出荷が一気に10倍くらいに増える。
それを従来型のマニュアル作業で処理すれば、初日は何とかクリアできたとしても2日目、3日目とセールが進むにつれて残オーダーが積み上がっていく。
最終日に注文した人のお届けは下手をすれば1週間後ということになってしまう」 「そうなるとそのお客は二度とそのサイトで買い物をしなくなる。
やればやるほどお客が逃げていってしまう、ということが起きる。
一方、大量の波動を吸収して出荷できているサイトは評価が上がって、どんどん客が集まってくる。
そうやって、足回りがビジネスのトップラインに直結するような状態が今、作られているんです」 ──ロボットを導入する前には予想していなかったこと、導入して初めて気付いたことはありますか。
「もちろんあります。
例えばこれはスポーツ用品チェーンのセンターのケースですが、同じ棚にピンポン球やらグローブやら、洋服やら、さまざまな商品がたくさん入っている。
そうなると、ピッキングが宝探しのようになって大渋滞が起きてしまう。
そのためピンポン球のように特に小さい商品は、小さい商品だけを集めて処理した方がいい。
あるいはシューズはかさばるのでカートピッキングだとカートがすぐいっぱいになってしまう。
これはロボットに入れた方がいい。
そういったファインチューニングが実際の運用では大変に大事になります」 ──運用が下手だと何が起きますか。
「ロボットを使うとマニュアル作業より効率が落ちてしまうので、それをもってロボットの生産性が悪いと判断して、自動化設備の入っていない平場のエリアを増やして作業するようになります。
せっかくの棚搬送ロボットが単なる“移動する物置”になってしまう。
そうしたことを避けるには、現場の責任者は目の前の個別の現象ではなく庫内全体を見て、何が起きているのか、どうしたらいいのかと、発想していかなくてはなりません」 ──しかし、現場のセンター長にそんな経験はないし、そうした訓練も受けていません。
「そのためギークは昨年12月に物流ロボットの教習所『DOJO(ドージョー)』を神奈川県相模原市にオープンしました。
今年4月から実際に受講生を受け入れて講習を始めています。
主な受講者層は荷主や大手3PLのセンター長、それと営業担当です」 倉庫の立地や設計も変わる ──3PLの営業担当ですか。
「そうです。
彼らはAGVを使ったことがなかったり、荷主と自動化について深い議論ができないとコンペに負けてしまう。
荷主から『当社は今後5年間、毎年150%成長を続けていきます。
どんな提案をしてくれますか』と投げかけられて『AGVを導入します』と答えても、『それでは当社の荷姿、インとアウトはこうなので具体的に提案してください』と求められて『そこはギークに任せています』と逃げたら落とされてしまう。
そこを乗り越えて導入まで持っていく方法をDOJOで指導しています」 「単なるショールームやデモンストレーションでは、Youtubeで動画を見ているのと一緒です。
そうではなくてDOJOでは、受講者が稼働中の倉庫で実際にピッキングステーションに立ち、ロボットが持ってきた棚から荷物をピックしてボタンを押す。
DAS(デジタル・アソート・システム)に商品をセットしていく、といった作業を経験してもらう」 「それによって『あれ。
今の紐付け、ちゃんとやれたかな。
もう一度戻りたいけど、戻り方が分からない。
管理者も見ていないからこのまま次に進んでしまおう』といった本当に初歩的なところから、作業者の不安や、ミスが起きた時の管理者の役割などを身をもって知ることができる。
そのためにDOJOでは、棚搬送システムをはじめとする自動化設備を導入した2500坪の倉庫に実際にECの荷主を誘致して、荷主の許可をもらって受講者に作業を体験させています」 ──ギークにとってDOJOはマーケティング活動ですか、それとも新しいタイプの3PL事業なのでしょうか。
「今のところは啓蒙活動の一つです。
しかし、それと並行してギークでは現在、物流倉庫のフロアスペース、そこで働く庫内作業員、彼らが使用するロボットやマテハン設備などのリソースをシェアリングするためのシステムを開発しています。
『ネスト』と呼んでいますが、複数の倉庫をネットワーク化して、そのプラットフォームに荷物を投入すれば、後は自動的に処理される、物流版のAWS(アマゾンウェブサービス)のようなサービスを実現するためです。
そのパートナーをDOJOを通して広げていきたい」 「そのためにDOJOの開講と同じ4月1日に、初期費用ゼロで、作業数量に応じてロボットの利用代金を支払う、ロボットの従量課金サービス『LaaS(Logistics as a Service)』をスタートしました。
DOJOとLaaSという二つのサービスによって、投資リスクとロボットを使いこなすことへの不安という、ロボット導入の二大ハードルを解消しました」 ──倉庫1棟丸ごとではなく、空いているスペースだけでもシェアリングできるのですか。
「もちろんです。
3PLは通常、3年や5年の定期借家契約で拠点を確保します。
荷主の事業計画に合わせて1万坪を借りたけれど、そのうち3千坪は当面は空いているなら、そこにシェアリングの荷物を入れることでキャッシュアウトを防げる。
そうした物流の世界観、プラットフォームのコンセプトをわれわれが3PLや荷主にいくら説明しても、それを理解して進めてもらえるものでもないので、まずはギークが自分で構築して見せる。
そのためのDOJOであり、LaaSです」 日本市場向けロボットを開発 ──中小零細の物流企業もネットワーク化の対象ですか。
「もちろんです。
ただし、攻め方として、当初は大手3PLを対象にして、グループ内のリソースをネットワーク化するプラットフォーム『プライベートネスト』を提供するところから始めます。
各拠点の入荷と出荷、作業の進捗、倉庫の空き状況が見える。
日々の収支も分かるし分析もできる」 ──各地に分散した倉庫がネットワーク化されることで、物流センターの拠点展開や設計はどう変わっていくことになりますか。
「全国に出荷するECセンターであれば、本来は大手宅配会社のハブ拠点の近くに置くのが一番なのですが、簡単にスペースを確保できるわけでもないので結局、坪単価がそれほど高くなくて、人を集められる場所がこれまでは選ばれてきました。
しかし、AGVを使えば人はそれほど必要ではなくなるので、空室率の高い地方エリアにも持っていける。
物流立地の概念が変わります」 「倉庫の設計自体も変わる。
これまでの倉庫はトラックバースをたくさんとるために横に長く、歩行距離を短くするために奥行きは長くとらない、横長の設計になっています。
しかし、搬送をロボットにやらせると歩行の必要がないので奥行きを長くとれる。
実際、今のアマゾンの物流センターはほぼ正方形です」 ──棚搬送ロボット以外のテクノロジーはどう評価していますか。
「物流ロボットは基本的に世界市場を視野に開発されているのですが、もっとローカライズされたマテハンが必要になってきています。
例えば、日本は消防法が非常に厳しいために海外から持ち込めないマテハンがかなりある」 「現在の棚搬送ロボットにしても、棚から手で商品を取り出すとなると、脚立を使っても棚の高さは最大2・5メートルが限界です。
そこから天井までの高さがもったいないという問題がある。
そこで海外には『ACR(Autonomous Case-handling Robot)』という高さが10メートルもある自動倉庫型の搬送ロボットが製品化されています。
しかし、日本の倉庫は梁下が5〜5・5メートルなので、それに合わせたACRを作っても割に合わない。
日本の倉庫には防火シャッターもあるので、その高さに合わせたロボットが一番いいわけです。
生産性も上がるし、保管効率も上がる」 「それを今回、中国で生産して『PopPickステーション』として製品化しました(図表2)。
最大1・2トンまで持ち上げられるEVEシリーズの棚搬送ロボットが背の高い大型ラックを運んでくると、ステーションが自動でピッカーの目の前に荷物を降ろしてくれる。
1時間当たり650箱を処理できます。
コストは自動倉庫の約半分。
拡張性があって引っ越しもできる。
日本向けに開発した日本にベストマッチした製品です」
