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2022年7月号
特集

《海外論文》破壊的企業は倉庫の世界をどう変えるのか

 ここ10年間のEコマースの急激な普及によって、消費者からの注文は少量化かつ小型化し、その頻度も増加した。
大部分を人手に頼る従来の“クラシック”なピッキングオペレーションは、BtoB向けに最適化されているため、今となっては極めて非効率的でコストのかかるものとなってしまった。
ある研究によれば、倉庫業務の中で最もコストのかかるのがピッキングプロセスであり、倉庫費用全体の55パーセントを占める。
 いまひとつの課題は、倉庫業務を担う労働力の確保が年々難しくなってきていることである。
当然のことながらそれは給与水準の上昇、つまりは倉庫費用の増大に直結する。
 デジタル化の進展は、ロジスティクス分野にもプラスの影響を及ぼす。
中でも倉庫作業員のサポートにロボットを利用することは、コストを削減するだけでなく生産性の向上も期待できる。
 Eコマースの成長と人手不足の時代を迎えた今日、ピッキングプロセスの技術的改善ソリューションの評価、そしてその実例を素描することが本稿の主な目的である。
直面する課題  今日の倉庫ロジスティクスには、以下のようなトレンドが認められる。
⃝Eコマースの販売増:独Statista社の調べによれば、通販大手は2009〜19年の10年間で飛躍的成長を遂げた。
米アマゾンの世界全体の売上高は245億1千万ドルから2805億2千万ドルに拡大し、独ザランド(ドイツのアパレル通販大手)は600万ドルから64億800万ドルに成長した。
そこにはその成長に見合う倉庫キャパシティの増強と、全てのロジスティクスプロセスの最適化があった。
これほどまでの急激な成長は、そうした条件が整わなければ到底不可能であった。
⃝顧客の期待:アマゾンは翌日配送ないしは当日配送をうたうことにより、顧客の期待を限界にまで押し上げた。
そのため競合他社と倉庫ロジスティクスは、サービスの質に対する厳しいプレッシャーにさらされることになった。
⃝労働力不足:米ボストン コンサルティング グループが14年に予測していたように、人口統計学的リスクを背景とする労働力の不足は深刻化する一方である。
ドイツでは、30年までに1千万人分が足りなくなるとされる。
従来型のオーダー・ピッキング・プロセスは、人手に頼るところが極めて多いため、労働力不足の影響を直接被ることになる。
⃝インダストリー4・0、デジタル化、IoT:プロセスや機械、そして製品さえもがリアルタイムで相互接続されることで、自律分散型の意思決定が可能となり、そのことがシステムの柔軟性と堅牢性を強化することにつながる。
 デジタル化というトレンドは、企業にプロセスやシステムの改善、つまりはこの経済的に不安定な時代において、テクノロジーへのさらなる投資を強いることでもある。
それは、来るべき人手不足という事態へのソリューションとなり、迅速な配送による顧客満足度の向上を実現する。
そうすることで、Eコマースの成長から利益を得ることができるようになるのである。
 倉庫ロジスティクスにデジタルソリューションを導入することには、労働者の作業時間短縮という側面もある。
De Kosterによると、従来型ピッキングプロセスは、歩行と商品探しが大半(作業時間全体のおよそ70パーセント)を占めている(図表1)。
純粋なピッキング作業の割合はわずか15パーセント程度にすぎない。
市場にはピッキングプロセスをロボットに置き換える技術も散見されるが、われわれのこの論文では歩行と商品探しを代替するテクノロジーに焦点を当てる。
 倉庫の自動化の分野では50を超える企業が市場に存在し、18年に130億ドルであった市場規模は、25年までに270億ドルに増加すると予測されている。
自動化ソリューションを従来型オーダー・ピッキング・プロセスと比較するに当たり、今回は以下のテクノロジーに焦点を絞る。
▼Kiva Systems:アマゾンが買収し、現在はアマゾン・ロボティクス(同社は研究対象であるKiva Systems以外の要素を含むため、本稿では引き続きKivaの名称を用いる)へと社名変更されている。
▼CarryPick KMP600:独KUKA社傘下のSwisslog社の自動搬送装置(AGV) ▼AutoStore:空間効率に優れるGTP(Goods-To-Person*編集部注:GTPとは、ロボットや機械がモノを作業者の手元まで運ぶことを指す)タイプの保管システム(AutoStoreSystem, 2020) Kiva Systems  アマゾンは12年、物流ロボットを製造するスタートアップのKiva Systemsを7億7500万ドルで買収して、当日ないしは翌日配送に対応する態勢を整え、他の通販企業との差別化を推し進めた。
 Kivaが提供するのは、自律走行搬送ロボット(AMR)という当時としては最新のテクノロジーを利用した、非常に革新的な方式のオーダーピッキングプロセスであった。
 このシステムのポイントは、これまでの「人からモノへ(Person-To-Goods)」とは正反対の「モノから人へ(Goods-To-Person:GTP)」という考え方にある。
図表2にある通り、GTP方式は従来型の「人からモノへ」のピッキングと比べて通路を狭くすることができるため倉庫スペースの節約になり、庫内作業員1人当たりの歩行距離を最大16キロメートル、同じく作業時間を少なくとも最大50パーセント削減することが可能である。
 ただし、アマゾンはKiva Systemsを買収後、同社のシステムを独占しており、前述の通り現在は社名もアマゾン・ロボティクスとなっている。
他の企業が利用できるシステムとして次にCarryPickを見る。
CarryPick  倉庫業務およびピッキング作業向けに開発されたCarryPickは、倉庫規模の大小を問わない拡張性を備えたシステムである。
Kivaと同様にGTPのコンセプトに基づいており、AMRが倉庫作業員の手元まで商品の入ったラックを運ぶ。
それに加え「ピック・バイ・ライト(pick−by−light、ピッキング対象となるアイテムの詳細がディスプレイに表示されるシステム)」という技術が、目的の商品を探す時間を節約する。
 同システムはラック、AMR、作業者のワークステーション、そして自律的なプロセス制御のための倉庫管理ソフトウエアによって構成される。
ソリューションの成り立ちはKivaのそれと非常によく似ている。
 最も注目すべき特徴の一つはその拡張性である。
必要とあらば、既存のシステムに商品を保管するラックとAMRを追加することができる。
Swisslog社の説明では、ラックの全体構造が非常に効率的であるため、これまでのラックシステムと比べて空間効率が最大300パーセント改善されるという。
 しかしながらCarryPickは高さが2・5メートルであるのに対し、例えばAutoStoreは5・4メートルまで積み上げることができるなど、市場には一層効率の優れたシステムも存在する。
AutoStore  同システムは、最大32個に分割できる最大荷重30キログラムの「ビン(bin)」と呼ばれるプラスチック製の専用コンテナで構成される。
ビンは24段まで積み上げることが可能で、「ロボット」がそれらを動かす。
 図表3に示したように、ロボットはラックシステムの最上段を縦横に動き回り、縦方向に移動させるために“ダイブ”をする(図表3右)。
ロボットの移動速度は時速13キロメートルと極めて高速で、ビンがどの位置にあっても「コンベヤーポート」まで2分以内に運ぶことができる。
 作業者はピック・バイ・ライトやウェイト・コントロール・システムの助けを借りながら、コンベヤーポートで商品をピッキングする。
 図表3右側はCarryPickとAutoStoreの違いを示したものだ。
AutoStoreの方が高さのある分、倉庫スペースの効率は高まる。
その一方、取り扱える商品のサイズは最大649×449×425ミリメートル、重さが30キログラムまでという制約がある。
それでもオンラインで販売される商品の大部分はこのスペック内に収まるので、Eコマースで活用する際には大きな障害とはならない。
また両者とも拡張性と柔軟性に富むため、必要に応じて両者を組み合わせることも可能である。
システムの比較  その他のテクノロジーと比較した場合、KivaとCarryPickについては本質的な違いがさほど認められないことから、ここでは一つのものとして取り扱う。
評価項目の選定は、専門家からのフィードバックとともに、導入時と倉庫業務全体における重要性を考慮した。
 例えばハードウエアへの投資額や人件費が「低」であるのは、肯定的な評価である。
ところがそれが、1時間当たりのピッキング数や拡張可能性についての評価である場合、「低」は否定的な意味合いを帯びる。
そのためここでは、項目を効率性で評価することにした。
 一例を挙げると、倉庫スペースの低効率は、そのテクノロジーが広大なスペースを必要とすることを意味する。
あるいは、1時間当たりのピッキング数が「低」というのは、高い効率のテクノロジーと比較して生産性が低いことである。
このアプローチによって共通項による評価、簡単な点数づけ(低効率=1点、中効率=2点、高効率=3点)と、均質なビジュアルマッピングを可能にした。
 図表4に明らかなように、従来型のオーダー・ピッキング・プロセスは、効率が最も悪く、18点満点中8点しか獲得できていない。
フォークリフトや倉庫用ラックといったハードウエアへの投資については辛うじて「中」評価だが、人件費が高く、広い倉庫スペースに費用がかさみ、生産性も低い(商品のピッキングに、1日1人当たり最大16キロメートルという歩行距離が必要)上、スケジューリングにも柔軟性を欠く。
 Eコマースの顧客が基本的に翌日配達を期待していることからすれば、入ってきた注文を即日ピッキングするリアルタイムのスケジューリングが求められる。
さもないとピッキングが最短でも翌日となり、配達にかかる期間が無駄に伸びることになる。
 今日の倉庫オペレーションにとっては、拡張性も大切なポイントである。
Eコマース市場は毎年約9パーセントの成長を続けているため、企業側は倉庫キャパシティの拡張、新たな倉庫の建設、ハードウエアの導入、作業員の雇用などの対応に常に追われている。
 従来型システムと比べ、KivaとCarryPickはハードウエアへの必要投資額が少なく、人件費も安い(作業員は“走り回る”必要がなく、ピッキングに専念できる)。
 また、フォークリフトには一定の幅の通路が要るのに対し、ロボットはそれほどのスペースを必要としない。
さらにリアルタイムスケジューリングにより、顧客からの注文に応じて当日のスケジュールを調整することができるため、より柔軟な対応が可能になる。
 両システムともに拡張性も高いが、ロボットとラックを追加する際には、渋滞やロボット同士の衝突を避けるため、ルートの再設定が必要である。
CarryPickに前述の点数づけを施すと、18点中15点となる。
 AutoStoreシステムは、ラックが高価なためハードウエアへの投資額は若干高くつくが、CarryPickのラックの高さが低いのに対し、こちらは24段まで積み上げることができる。
必要な投資額を考慮すると、同じ理由で拡張性については「中」という判断になる。
拡張性という点では、CarryPickと比べて見劣りするからである。
 人件費が三つのシステムの中で最も安く済むのは、作業員が自動化の恩恵を受ける割合が最も多いからであり、その分だけ1時間当たりのピッキング数も増える。
 AutoStoreは棚と棚の間のスペースがないだけに、商品保管の空間効率という点では最も有利である。
また、ロボットがリアルタイムでスケジューリングされて動くというだけでなく、必要に応じて顧客の注文をピッキングオーダーへとリアルタイムで変換することが、このテクノロジーを最も柔軟で迅速なシステムとしている。
以上のような理由から、このシステムは18点中16点という最高点を得ている。
 新しいテクノロジーはオーダー・ピッキング・プロセスに極めて高い効率性をもたらす。
しかしながらそのアプリケーションには、いくつかの制限があることも明らかである。
次節ではそのことについて考える。
アプリケーションの限界  CarryPickとAutoStoreのテクノロジーには多くの利点があるが、その技術データに基づくアプリケーションにはいくつかの制限がある。
AutoStoreは、専用のビンと同じかそれ以下のサイズの製品にしか用いることができない。
同様にCarryPickとKivaも、AutoStoreよりは相当大きいとはいえ、製品の大きさにはやはり一定の制限がある(AutoStoreのビンのサイズに対して、こちらの場合はラックの長さと幅)。
 またCarryPickでは、通販で販売される家具や自転車といった大型商品はピッキングできない。
こうした大型の商品は、原則的に配送条件が異なる(2人組での配送)ため、小口サイズの注文とは別に配送される。
例えばガーデンテーブルとそのデコレーションを同じオンラインストアで注文したとしても、顧客はそれぞれを別々に受け取ることになる。
一つはDHLやDPDによる小包で、もう一方はキューネ・アンド・ナーゲルのようなトラック運送会社が運んでくる。
こうした理由から倉庫では大型商品を別扱いにしているため、小型および中型の商品をさばく自動化プロセスが影響を受けることはないのである。
企業は自社の商品ラインナップをよく見極めた上で、それに最も適したシステムまたは組み合せを選ぶことが求められる。
 新たなテクノロジーは、次の通り倉庫ロジスティクスのさまざまな側面に影響を与える。
⃝倉庫レイアウト:費用のかさむ倉庫スペースは、CarryPickやAutoStoreの技術で有効活用が可能になり、投資回収に要する期間も短くなる。
その一方、作業員のエリアとロボットが動くエリアがきっちりと分かれるように、倉庫のレイアウトを見直す必要がある。
⃝ピッキングコンセプト:「人からモノへ」という従来型のコンセプトは、生産性が低く極度に非効率的であるため、長期的に見れば、ロボットが商品を作業員の所まで持ってくる「モノから人へ」というコンセプトに取って代わるものと考えられる。
⃝工程計画:需要計画に基づくスケジューリングは、(ほぼ)リアルタイムの受注状況に対応するリアクティブスケジューリングへと、完全に置き換わるだろう。
企業戦略には需要計画というプロセスが欠かせないことは確かだが、当日の注文状況に応じたリアルタイムスケジューリングには対応できない。
計画プロセスの分散化と自律化が進むのは、こうした理由による。
⃝人材:CarryPickやAutoStoreといった新しいテクノロジーは、倉庫作業員の確保がますます困難になっている状況への一つの回答である。
それと同時に、これまでのオーダー・ピッキング・プロセスよりも人に優しい環境を創ることで、倉庫作業員という仕事をもっと魅力的なものとすることに役立っている。
(翻訳構成 大矢英樹)

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