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2022年6月号
特集

物流子会社:令和の時代のモデルと戦略

親会社への貢献とは何か  当社のデータベースにはピーク時の2003年には1500社を超える物流子会社が登録されていた。
それが現在は約700社に半減している。
物流子会社にとって平成の時代は激変期であったと言えるだろう。
多くの物流子会社が親会社の事業戦略から外されて、M&Aによりグループを離脱(売却)した。
 物流子会社の多くは親会社の機能分担会社として高度経済成長期に設立された。
そこから自立成長を志向して、競争に勝ち残り、成功した一部の物流子会社は上場を果たした。
その代表格とされる日立物流はこの度、親会社の日立製作所に莫大な株式売却益をもたらして次のステージへと進むようである。
 物流業界において物流子会社は特殊な存在である。
他の陸運系・倉庫系・港湾系・フォワーダー系などの物流専業者は、物流事業を通して当然のことながら利益と成長を追求している。
しかし、物流子会社は事業会社であっても必ずしも利益や成長を最大の目的とはしていない。
親会社への貢献を第一に求められている。
 それでは親会社への貢献とは何か。
それは何をもって評価すべきなのか。
以下に①物流オペレーション、②シェアードサービス、③事業会社化という三つの軸で整理した(図表1)。
①物流オペレーション  グループ内の製品物流や調達集約を取りまとめることでボリュームメリットを実現する。
規模の経済によってコストダウンや安定的な物流オペレーションの供給を可能にする。
さらにグループ内における物流のプロ集団として、物流品質やコストなどの各種の指標を一元管理する。
それにより物流面におけるDX推進も実行しやすくなる。
 親会社の守秘性の高い事業や領域で、外部の物流専業者にアウトソーシングするのは難しい場合でも、物流子会社であればその一翼を担うことができる。
例えば、商品開発や新商品に関わる業務、通信衛星・医薬関連・軍事産業など極めて機密性の高い事業の物流などである。
②シェアードサービス  物流子会社が事業領域を広げて、シェアードサービスセンター化することで、グループメリットを実現する。
例えば、国際貿易における各種のコンプライアンスチェックや国内委託先の管理・ガバナンスなど、専門性が求められる業務を物流子会社に集約することでノウハウが蓄積されて機能を強化できる。
同様に受注やカスタマーサービス、調達代行などの間接業務も物流子会社に移すことで専門性が高まり、合理性が発揮されてコストダウン効果を期待できる。
③事業会社化  物流子会社が自律的に外部荷主を開拓して、売り上げの拡大や利益を創出することでグループの連結業績に寄与する。
物流子会社の二つの成長モデル  このように物流子会社には親会社への貢献というミッションを与えられていることから、その経営戦略にも物流専業者とは異なる特徴が見られる。
その方向性は大きく、外販に主眼を置く「アウトサイドグロース型」と、グループ内の物流を100%受託することに向かう「インサイドグロース型」の二つに分かれる(図表2)。
 アウトサイドグロース型は、自社内に外販拡大のための営業開発部門やマーケティング部門を有している。
外販比率50%を超えてもさらなる拡大・成長を目指す。
親会社への還元は、外販によるボリュームメリットを基にしたコストダウンと配当である。
 物流事業会社として一般の物流専業者と競争する環境は物流子会社を強くする。
物流コンペに参加してたとえ失注しても、提示した価格が高かったのか、基本設計が及ばなかったのかなど、敗因を分析することがその後の成長の糧になる。
多様な荷主との接点が増えればそれだけ多くの情報も入ってくる。
DXや省人化などのイノベーションにも有利に働く。
 一方、インサイドグロース型は、グループ内の未受注領域への積極的な拡大を戦略の柱とする。
親会社の事業規模が十分に大きい場合、あるいは親会社の事業が急拡大している場合には、無数の物流専業者がひしめくレッドオーシャンに乗り出すよりも効率が良く、時間もかからない。
現実的な成長戦略である。
 インサイドグロース型は業務改善を得意としているのが特徴的である。
社内に改善専門部隊やチームを置いてPDCAサイクルを回している。
DXや省人化にも積極的で、現場のイノベーションも起こりやすい。
「長年の活動で改善のネタが尽きた。
めぼしいものは残っていない」といった声をこのところ耳にすることが増えている。
しかし、筆者に言わせればそんなことはあり得ない。
物流は常に変化している。
品質の向上とコストダウンに終わりはないのである。
 親会社およびグループ企業への内販営業には、親会社からそれなりのポジションの人材を出向もしくは転籍で物流子会社に受け入れるのが効果的だ。
グループ内の横展開ではあっても人脈を上手に活用することで受注活動が効率的になる。
運用におけるコミュニケーションもスムーズになる。
 アウトサイドグロース型とインサイドグロース型のどちらを選ぶのか、両者の事業展開は大きく異なるため、長期ビジョンを明確にしてブレないことが重要だ。
グループの経営戦略およびグループ内における物流子会社の位置付け、強み・弱みなど、経営環境と物流会社としての実力を客観的に評価した上でビジョンを打ち立てる。
 実態としてはアウトサイト・インサイド両面で「キープ型」とも呼ぶべき物流子会社が数としては圧倒的に多い。
図表2の左側のポジションである。
このうち「アウトサイドキープ型」とは、外販志向ながら一般物流企業との競争に勝てない物流子会社である。
外販荷主は親会社の一部のサプライヤーだけ。
そこから広げていくことができない。
営業人材の育成から始めなければならない段階である。
 「インサイドキープ型」はさらに危険な状態である。
親会社から赴任した経営トップが短期間で交代して、その度に経営方針が変わり組織も再編するため、成果が上がらず人材も育たない。
場当たり的な経営には社員も付き合いきれないため、新任のトップが「外販するぞ」と旗を揚げれば、外販に向いているふりをする。
「グループ最適化だ」と唱えるトップが来ると今度は首を逆に振る。
上手にポーズをするだけで実態は何ら変わらない。
 そうした物流子会社を筆者は数多く見てきた。
中には部長級以上のポストを全て親会社の出向・転籍者で占めている子会社もあった。
プロパー社員は将来に希望を持てないため優秀な人材から早々に転職してしまう。
残った社員のモチベーションは低く、変化を嫌うため改善活動も進まない。
そうした会社の行く末は、想像するに難くない。
令和時代に求められる親会社への貢献  今日の物流子会社が求められている最大の使命は、親会社およびグループ会社の物流を何があっても止めない安定的なオペレーションの実施である。
 既に上場企業のほとんどは物流BCPを策定済みである。
しかし、常に有事における代替計画や外部企業との調整を行っていないと、いざという時にBCPが機能しないことは、今回のコロナ禍でも思い知らされたはずである。
物流子会社が主体的に非常事態や災害発生時の対策や実行に取り組むことで、グループにおけるプレゼンスを発揮できる。
 昨今はESG経営への貢献も期待されている。
とりわけ親会社が上場している場合にはサプライチェーン排出量「スコープ3」の把握と削減が、物流子会社の新たなタスクに加わることになる。
 そして目の前には物流の2024年問題が迫っている。
ドライバーの時間外労働時間に上限が設定される2024年4月1日まで残り2年を切った。
行政機関の査察でコンプライアンス違反が発覚した場合には荷主の社名公表もあり得る。
ニュースのトップラインには「○○工業の子会社○○物流がドライバーの残業規制違反で行政処分」と、親会社の社名が先に載る。
親会社のブランドを背負っている物流子会社にとっては致命的な事態である。
 物流子会社は現状を再委託している協力運送会社に対して善管注意義務を負っている。
少なくとも幹線輸送や顧客へのルート配送など日常的に行われている輸配送業務で違反があれば、知らなかったでは済まされない。
 輸配送だけでなく、センター運営でも「偽装請負」問題がある。
現場作業を業務委託しているにもかかわらず、物流子会社の社員が現場作業者への朝礼・昼礼を行い、委託先の作業者へ指示を出している場合、労働派遣法、職業安定法、労働基準法に抵触する。
出来高払いの業務委託(請負契約)を時給で支払っている場合にも悪質と見なされる。
 こうした物流コンプライアンスの順守には、庫内作業管理(偽装請負・労働時間管理・安全管理など)、輸配送管理(過積載・ドライバー労働時間・付帯作業など)、輸出入貿易管理(関税・各種国別規制など)の三つの知見が求められる。
 物流子会社が親会社への貢献を果たしていくためのステップを、次の6段階のロードマップにまとめた(図表3)。
すわなち「安定物流の供給」→「人材受け入れ」→「コスト改善オペレーション」→「コスト削減ソリューションの拡大」→「外販による利益創出」→「脱炭素計画および実行」である。
 このうち「人材受け入れ」とは、親会社やグループ企業の余剰従業員の受け皿としての機能を指しており、従来は不要とされていた。
しかし、高齢化社会を迎えて定年の延長などが広がっていることから、昨今は見直しが進められている。
 親会社やグループ企業に残っている物流機能あるいは間接業務を人材ごと物流子会社に移管することで、シェアードサービス化がスムーズに進む利点もあり、必ずしも否定する必要はないだろう。
むしろ有効な選択肢になり得ると筆者はアドバイスしている。
オペレーション・ケイパビリティ評価  当社は物流子会社のM&Aに伴うデューデリジェンス(企業評価)をこれまでに数多く受託している。
その評価手法の一つに「オペレーション・ケイパビリティ評価」がある。
物流子会社の物流センター・倉庫運営ノウハウや能力を評価するものである。
そこでは物流センターの運営パターンを図表4の通り五つに分類している。
 評価の最上位は「1.完全自社運営型」である。
物流事業者に必要なセンターや倉庫の運営ノウハウを有し、継続的な改善活動を実施できている場合である。
それを自己申告ではなく、当社のコンサルタントが現場視察とヒアリングを行って判断する。
一つの目安としてPDCAサイクルが明確に回っている場合は高い確率でローコストオペレーションを実現できている。
 一般的に多いのは「2.主要拠点は自社運営だが一部の拠点は外部委託」や「3.一部の拠点は自社運営だが地方拠点は外部委託」というパターンである。
例えば、首都圏と中部・近畿は自社運営、九州・北海道は地場物流会社へ運営を委託しているといった場合である。
この企業群も一定のノウハウは持っている。
継続的な改善活動も可能である。
しかし、完全自社運営型に比べると組織力、人的資産、外部ネットワークが劣っている。
 昭和の時代には、倉庫や物流センターの運営を自社で行う物流子会社が大半であった。
そこから平成に入って物流オペレーションを外部企業へ再委託する形態が普及した。
しかし、「4.事務所は自社運営だが現場は外部委託」や「5.完全外部委託」は、今でもそう多くはない。
 物流子会社に限らず3PLも、日本では米国流の完全なノンアセット型は例外的だ。
海外の先進的な3PLには、在庫の適正化や調達、グローバル物流、コスト削減など、荷主マネジメント層の付加価値業務を代行しているところもある。
 しかし、日本の荷主企業は今のところそこまで求めていない。
3PLに与えられる権限は限定的であり、主な評価基準はオペレーションのノウハウや実績である。
そのため陸運・倉庫系のアセットに土台を置いた、いわば“日本型3PL”が主流となっている。
 物流子会社も同じである。
自社運営モデルの方が企業価値は高く評価される。
外部の物流事業者への完全委託は“丸投げ”と見なされてしまう傾向にある。
丸投げ方式でも、管理や委託先を評価するノウハウを蓄積することはできる。
しかし、拠点運営ノウハウは手放すことになる。
結果的に物流子会社はコストセンター化してしまう。
コストセンターから脱却する方法  物流子会社がコストセンターから脱却するには、“あるべき姿”をビジョンとして打ち出し、その実現に向けて計画的かつ段階的に組織を成長させていく長期戦略が必要だ。
そのステップを図表5に整理した。
 親会社の物流だけを取り扱っている「第1段階」は完全なコストセンターである。
そこからまずは「第2段階」を目指す。
その際に物流子会社は一般の物流専業者には真似のできない戦術が使える。
親会社が調達購買をしているサプライヤーを外販営業のターゲットに据えて、親会社との協業で営業展開を行うのである。
親会社のバイイングパワーを利用するわけだが、使えるものは使った方がいい。
難易度は低く実際に受け入れてもらいやすい。
 なお、このステップを進めていく上で、「WMS(倉庫管理システム)は誰が保有すべきか?」という論点がある。
物流子会社はWMSを自社開発すべきなのか、あるいは再委託先にオペレーションと併せて任せた方がいいのか、という問題である。
筆者もよく相談を受ける。
 その違いを戦略的な観点から図表6に比較した。
原則としてWMSは倉庫・物流センター業務の中枢であり、オペレーションと一体化している必要がある。
従って業務を再委託する場合に、委託先のWMSを利用するという選択は間違ってはいない。
 グループの物流が短期間で拡大して新規の立ち上げや集約が続けざまに起こる局面では、車両や倉庫だけでなくWMSも保有をしない完全なノンアセット型でいることが、WMSの開発に関わる人的リソースや投下資本を考えればむしろ現実的であることも多い。
しかし、その状態が長く続くとリスクやデメリットが発生してくることには注意が必要だ。
 完全なノンアセット型は現場オペレーションへの関心が失われて、継続的な改善やイノベーションがまず起きない。
再委託先とは単価だけの交渉となってしまう。
それでいて再委託先の見直しや変更はWMSの開発を伴うため二の足を踏むようになる。
物流子会社にとってWMSの保有は、単なるツールではなく経営ビジョンに関わる問題であることを認識しておく必要がある。
 物流子会社の成長ステップの「第3段階」では、親会社やグループ企業のライバルを外販のターゲットに据える。
一般の物流会社と競合することになる。
グループ向けの物流で蓄積した商材に関する知識や業界慣習、インフラを横展開することで差別化を図る。
そこで受注実績が積み上がると、一般貨物をターゲットとした「第4段階」に入る。
完全な自立成長が可能になり、株式の公開も期待できる。
やはり、物流子会社は、物流プロフェッショナル集団として自立して成長していく組織体になることが、あるべき姿だと筆者は信じている。

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