{literal} {/literal}

2022年6月号
特集

物流パートナーを協働に導く仕組みを作る

「丸投げ」の歴史を振り返る  荷主が物流業務の丸投げに至った背景は1970年代にまでさかのぼる。
「物流」という言葉が使われ始めた頃である。
モノを作れば売れた時代であったため、物流は増え続ける物量をいかに効率的にさばくかということに主眼が置かれた。
物流事業者は「安全に」「確実に」そして「迅速に」、荷主から指図された業務を遂行することで評価された。
結果として、物流事業者の“受け身”の経営体質が作られたと考えられる。
 80年代後半になると、市場にモノが行き渡り、消費者の嗜好の多様化により、必要なものを必要な時に納品する小口・多頻度化のニーズが高まった。
荷主はこのような変化に対応すべく物流の諸機能を高度化し、調達、生産、販売、回収などの分野を統合して最適化するロジスティクスに焦点を当てるようになった。
物流事業者もこれに応えるためさまざまな施策を実行した結果、実力が向上した。
荷主が安心して任せられる物流事業者が増えた。
 90年代に入ると物流事業者は規制緩和で競争が激しくなったこともあり、物流の周辺業務にサービス領域を拡大していった。
そして90年代中頃になって日本にも3PLが登場して、荷主の物流部の業務を包括的に代行するようになった。
それから今日に至るまで日本の3PL市場はほぼ一貫して拡大を続けている。
 そのようにして、荷主の物流管理レベルと物流事業者の業務レベルが高度化し、また3PLのような新業態も登場したことで、物流のオペレーションはそれまでよりも円滑に行われるようになった。
そして皮肉なことにそれによって、実際には“丸投げ”の状態であっても、その実態が見えなくなったのである。
 ところが、近年の技術革新や物流を取り巻く環境の変化によって、その問題点がにわかにあぶり出されている。
DXが叫ばれるようになり、荷主は変革を進めたくても、業務は物流事業者に任せきりであるため詳細が分からず、現場には紙の帳票が横行しており、どこから手を付ければよいのか分からない状況に陥っている。
 また、コロナ禍で生産プロセスでは原料調達の遅れや調達自体ができない事態が発生し、販売側でも納品に時間がかる、納期回答ができないなどの問題が起きている。
生産地や仕入れ先の変更、物流体制の修正など、臨機応変な対応が必要になっているが、思い通りに進めることができずにいる。
 いずれも物流業務を広範囲に外部に委託しているにもかかわらず、適切な委託先の管理やコミュニケーションなどが不足して、物流の実態がブラックボックス化していることが原因である。
 現在、顕在化している主な問題を列記すると以下の通りである。
●現状把握の不足  コンサルティング案件のヒアリングで、荷主に物流の現状を確認すると、「任せているので物流事業者に聞かないと分からない」という答えが返ってくることが多い。
また、物流全体についての質問に対して、明確な回答が得られる領域と不明確な回答しか得られない領域がある。
自社の物流やロジスティクスの現状把握が十分でないことが分かる。
物流コストについても、物流事業者の委託料金は決まっているが、そのサービス内容はあいまいである。
そのため何か問題が起きると、料金に含まれるサービス内容に対する両者の認識の違いが浮き彫りになる。
●情報共有の不足  荷主に物流事業者とのコミュニケーションについて尋ねると、「必要の都度、コミュニケーションをとっており、問題は感じていない」という返答が多い。
しかし、物流事業者との認識の隔たりを見る限り、本当に十分な情報共有がされているのかは疑わしい。
KPIの活用状況についても同様だ。
「KPI管理を実施しており、必要な指標を設定している」という荷主に、その体系などについて確認すると実際には十分に整備されていないことが多い。
●物流事業者の提案不足  「物流業務は滞りなく回っている」という荷主にその理由を聞くと「長年委託しているので、あうんの呼吸。
持ちつ持たれつだから」との答えが返ってくる。
続いてその物流事業者に対する評価を聞くと、「提案はないが、指示したことはやってくれる」という。
提案がないことは不満ながら、信頼はできるという評価である。
 しかし、これを物流事業者の立場で考えると、荷主に対する効率化の提案は自分の売り上げや利益を削ることになりかねない。
つまり業務を委託している物流会社は提案する力がないのではなく、できれば提案したくないのである。
果たしてそのような相手をパートナーと呼べるだろうか。
 以上いくつか例を挙げたが、これらは最近になって始まったことではない。
昔から指摘されていたことが、環境変化によってクローズアップされるようになっただけである。
これらの問題を解決するには以下の取り組みが必要である。
●見える化  自社の物流やロジスティクスの全体を整理して現状を把握するには、定期的な「棚卸し」が必要である。
物流とは荷主と物流事業者が一体となって行っている活動である。
その全体像を把握するには、両者が共同で現状の「見える化」に取り組まなくてはならない。
 現状把握の進め方にはその目的に応じたバリエーションがある。
しかし、いずれも基本は定量・定性の両面からの把握である(図1)。
実物流業務の改善を進める場合、定量的な把握は、取扱物量、費用、投入されたリソースなどの実績、安全・品質などのレベルについて調べる。
一方、定性的な把握は、全体の物流フロー、業務フロー、情報システム活用、物流管理体制などを整理する。
 定性的な把握では、業務フローと合わせて、荷主と物流事業者間の取り決めについても確認する。
当社ではそれを「業務基準」と呼び、荷主と物流事業者の接点業務を中心に業務基準を明文化することを推奨している(図2)。
物流サービスの内容とその対価として料金があることを明確にするのである。
 例えば、12:00締切で当日出荷の物流センター業務に対して料金が設定されている場合でも、実際には締切時間以降のオーダーにも現場レベルで何とか対応しているということは多い。
そうした融通の利く物流事業者は当然ながら荷主から評価される。
 しかし、その結果として発生する追加コストの負担は往々にしてあいまいになっている。
そのあいまいさを排除することで問題点が明確になる。
両者で行う改善活動につなげていくことができる。
これも「見える化」の一つである。
 当社では全体像が十分把握できていない荷主に対して「物流診断」を推奨している。
健康診断と同じように物流の現状を把握して問題点を整理、改革・改善施策を抽出する。
それらを評価して今後の方向性やその優先順位を導き出していく。
現場の改革・改善だけでなく、経営戦略レベルのテーマを扱うことも多いが、いずれもその入り口は現状把握、すなわち「見える化」なのである。
●荷主と物流事業者の情報共有  荷主が物流事業者とのコミュニケーションについて「問題ない」と考えていても、あらためて見直してみることを勧める。
実務者レベルの月次ミーティングなどの定期的なコミュニケーションの場だけでなく、年に一度もしくは半期に一度は、荷主の上席者が参加して将来の事業構想や年度方針、新商品計画などを物流事業者と共有すべきである(図3)。
 物流事業者はその情報に基づいて荷主の経営展開に沿った体制整備や提案を行う。
例えば、筆者の知る某物流事業者は、コロナ禍でECが大きく伸長したことを受けて荷主が通販に乗り出すことを検討していると知り、そのために必要な物流の再構築を荷主に提案して、荷主と協力してそれに取り組むことで迅速な施策の実行を支援している。
●KPI管理  KPI管理は、売上高や利益率などの「KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)」を頂点として、KGIの目標にリンクしたKPIをプロセス別に設定して、その取り組みの達成状況を把握する。
さらにKPIの下位指標として個別の業務に紐づいた「PI(Performance Indicator)」を設定して体系づける。
加えてKPIやPIの悪化に対する施策を事前に検討しておくことも求められる。
 KPI管理の導入で、荷主と物流事業者間においてまず実行すべきは、同じ指標を共有することである。
その際には、問題点や結果について双方が共通の認識を持ち、コミュニケーションが取れるように、KPIの算出基準を明確に、分かりやすいものにすることが大切である。
 KPI管理を運用することで、荷主と物流事業者は月次ミーティングで改革・改善・高度化を議論することが容易となる。
さらには半期に一度、もしくは1年に一度、荷主と物流事業者の双方で当該期間の改善実績を評価することで、緊張感のある関係を維持していくことができる。
荷主が期待通りに改善が進まない場合には、委託先の切り換えを検討するきっかけになるからである。
●委託先の選定  前述のように委託先の物流事業者が「提案はないが、言ったことはやってくれる」という状況であれば、そもそも委託先として今後も継続的に業務を委託すべきかどうかを評価してみる必要がある。
委託先の切り替えは非常に工数がかかる。
しかし、物流事業者と改革・改善・高度化を共同で進めていく体制を整備することは、それ以上に重要である。
 委託先の選定方法の一つに物流コンペがある。
コンペの開催に際して荷主は要件を整理した「提案依頼書(RFP)」を作成して、物流コンペに参加する企業に提案を依頼する。
RFPには、前述の定量・定性の見える化情報、荷主と物流事業者間の情報共有の内容・方法、提案依頼内容などを盛り込む。
 物流コンペは競争見積もりではなく、実現可能な物流体制の提案競争である。
荷主はコストだけでなく、物流事業者を総合的に評価してパートナーを決定する。
そのために荷主の方針に基づいて評価項目やウエイト付けを決めたコンペの評価表を事前に用意する。
コンペは通常、「1次選定」「2次選定」の2段階もしくはそれ以上のステップを踏む。
それぞれについて評価表を作成する。
 2次選定では、あえてアナログ的な「企業文化」を評価項目に加えるように当社では推奨している。
自社にフィットした物流事業者を選定することが、中長期的に物流体制を維持・向上していく上で、一般に考えられている以上に重要だからである。
自社との相性を評価する採点ガイドを作成して、その他の評価項目と同様に評価者の感覚を定量化して評価する(図4)。
●協働の推進  物流事業者から継続的に提案を受けるには、物流事業者の自発的な提案を促す仕組み作りが大事である。
その一つが改善活動の成果を荷主と物流事業者で分け合うゲインシェアリング(成果配分方式)の導入である。
3PLと同じ時期に日本に紹介されたが、今のところ国内ではまだ導入事例が限られている。
 成果配分においては、貢献度を反映した配分割合、配分期間、配分方法などのルールを事前に決めておくと運用がスムーズになる。
配分割合は、アイデア提案、検討期間中の負荷などを考慮する。
また、配分方法は料金表の改訂などではなく、別精算とした方が分かりやすい。
 成果配分をスタートした当初は大きな成果が上がっても、時間の経過とともに改善テーマが小粒になり成果も小さくなっていくことが多い。
活動を継続していくには、前提条件の見直しや、生産・販売などの関連部署とのルール変更などに踏み込んで、改善の対象を広げていくのが有効である。
非財務的価値が新たなテーマに  改善活動のテーマアップにおいては、コスト面だけでなく、安全品質の向上や環境負荷低減なども取り上げる。
安全対策や環境対策はむしろコスト増になることもあり、成果配分方式となじまない。
それでも、筆者の知る荷主と3PLは従来から、共同で環境負荷低減活動に取り組んでいる。
 現状ではその荷主がコストとのバランスを考慮して、慎重に対応することで実物流事業者の協力を引き出している。
しかし、企業の物流活動は環境負荷と密接に関係しており、非財務的な評価の重要性は日を追うごとに増している。
今後は荷主と物流事業者が非財務的指標の改善に共同で取り組むことを促す新たなインセンティブ制度が必要になってくるだろう。
 労働力不足への対応、新技術の導入や応用、SCMの範囲の拡大、あるいは災害の激甚化・頻発化、環境対策など、「総合物流施策大綱(2021年度〜2025年度)」でも指摘されている通り、今日の物流は大きな変動のさなかにある。
 環境の変化の少ない時代には、荷主が単独で物流の改革・改善・高度化を検討して、自ら施策を推進して成果を上げることも可能であった。
しかし、これからは、さまざまな施策をパートナーと協力して進めていかないと十分な成果を挙げることができなくなる。
 ロジスティクスや物流面においては提案型の物流事業者や3PLが今後も最も有力なパートナーであろう。
強固なパートナーシップは、地道な活動に共同で取り組んでいくことによって醸成される。
それはさらに高度な施策の土台になる。
 物流は物流事業者に任せておけば安心という時代は既に過去のものとなり、3PLとの協業が必要になっている。
物流アウトソーシングにパラダイムの変革が求められている。

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから