2022年6月号
特集
特集
オムニチャネル時代の物流KPI管理
流通業における物流KPIの基本
「損益計算書(PL)」と「貸借対照表(BS)」の話になると「数字は苦手で」という方は多いだろう。
実は筆者もその1人だ。
学生時代の数学の成績はちょっと他人には言いたくないレベルであった。
また筆者は現在「オムニチャネルコンサルタント」を名乗りデジタルビジネスに深く関わっているものの、文学部歴史学科の出身であり、典型的な文系脳である。
社会に出て最初に就職した三省堂書店では、恥ずかしながら売上高の対前年比と粗利くらいしか経営指標を意識していなかった。
その後、ソフトバンクのイー・ショッピング事業部(現セブンネットショッピング)に移ってから、セブン&アイ・ホールディングスグループ前CIOの鈴木康弘氏にビジネスで見るべき数字について教わった。
「経営は全て数値化して客観的に可視化する」「切り取った数字ではなく経年変化を見る」「数字同士の相関関係を知る」など、鈴木氏には口酸っぱく指導いただいた。
そのおかげでビジネスと経営指標が自分の中で結びつくようになり、両者の因果関係が見えるようになった。
ビジネスの現状を、PL/BSの観点と各種のKPIで把握して、それを基に仮説を立て対策を打てるようになった。
対策が思い通りにいかない場合でも、因果関係が分かっていると仮説を修正できる。
数値化がいかに大切なのか身をもって学ぶことができた。
本稿では店舗とECの二つを融合させたオムニチャネル企業における物流KPI管理の実務について解説する。
その前提として念のためPL/BSの基本的な関係を確認しておきたい。
筆者はいつもシンプルに次の三つで説明している(図1)。
・BSの右側(負債の部)は、どこからお金を調達してきたかを示している。
・BSの左側(資産の部)は、そのお金がどんな形で会社にあるのかを示している。
・PLは、BSの左側にあるものを使って営業活動をした結果、儲けたのか損したのかを示している。
図2は流通業の一般的なPLとBSである。
そこに記載される項目(勘定科目)は、業態や規模によって多少のバリエーションはあるが、見るべき数字は基本的に変わらない。
PLでは「売上高」「粗利・販管費(経費)」「営業利益」、BSでは「売掛金」「買掛金」「在庫商品」を見る。
そして売上高と仕入と在庫商品から計算する「在庫回転率」もしくは「在庫回転日数」が重要である。
在庫の回転が上がると、経費は減り、業務効率は向上する。
商品を仕入れて代金を支払ってから、販売して入金されるまでの期間が早くなり、キャッシュフローも良くなる。
いわゆる「回転差資金」にプラスに働く。
流通業の場合、粗利は売り上げから商品仕入れを引いた金額であり、利益の大元である。
そこからさらに営業に必要な経費を差し引いて残ったものが営業利益である。
営業に必要な経費には社員の人件費や施設の賃料などのほかに、物流業務に関わるものが多く含まれている。
その一つが配送に関わる費用だ。
ちなみにトラックドライバーはトラックの運転だけではなく、荷物の積み下ろしにも関わっていることを忘れてはいけない。
支払い運賃にはその業務負担までが含まれている。
もちろん倉庫費用もある。
センターに商品が届くと、荷受け側では商品を検品して保管棚に格納する作業が発生する。
続く出荷では、各納品先の注文に応じて在庫をピッキングして、段ボールやオリコンに投函して検品、伝票を発行して運送会社に引き渡す。
その業務を自社運営している場合には庫内作業員の人件費が固定費として発生する。
外部に委託している場合は、商品1個当たり、オーダー1件当たりなどの作業量に応じた費用を支払うことになる。
メーカーや卸などのベンダーが小売りの物流センターに商品を納品する場合には「センターフィー」も発生する(図3)。
小売り側の物流網で各店舗に配送する費用を、ベンダー側が負担するという商慣行だ。
海外ではあまり見られないが日本ではいまだに広く採用されている。
通常、センターフィーは商品仕入額に一定の料率を乗じて計算する。
ベンダーはその分を値引きする、あるいは別途手数料として支払う。
店舗における物流関連費用 物流に関する費用は店舗でも発生する。
店舗の物流業務は単純化すれば次の通りである。
まず店舗に届いた商品を検品する。
メーカー・卸から店舗に届いた商品はもちろん、自社センターからの納品であっても店舗であらためて検品していることがある。
検品した商品は店舗のバックヤードに保管する。
もしくはそのまま売り場に補充する。
バックヤードに保管した在庫は開店前後や開店中の決まったタイミングで売場に補充する。
いずれの業務もそのコストは店舗の人件費に含まれている。
こうした店舗で発生する物流費はチェーンの規模が大きくなるほど見えにくくなる傾向がある。
チェーン本部が店舗業務を代行する範囲が増え、その費用を店舗の売り上げに応じて機械的に按分(配賦)することが多いためである。
現状の店舗業務には以下のような課題がある。
店頭のどの陳列棚にどの商品をいくつ置くか、いわゆる「棚割」はチェーン本部で管理していることが多い。
そのため各店舗の販売状況がリアルタイムに反映されず、売れなくなった商品をカットする(棚割から外す)のが遅くなる。
店舗発注は基本的には棚の欠品に基づく補充発注なので売れない商品を発注してしまうことになる。
しかも、店舗に届くのは、店舗が発注した商品だけではない。
本部のバイヤーが仕入原価の低減もしくはリベートによる利益補填を狙ってメーカーと商談した一括送品もある。
その商品が正価で売れるのであれば構わないが、値引きしたり売れ残ったりすれば粗利が減ってしまう。
まとめて店舗に納品されるとその保管場所も必要になる。
溢れた在庫は店舗の動線を悪化させて業務効率が低下する。
人件費負担が増して在庫回転も悪化する。
店舗内に置ききれず、別倉庫を借りるという本末転倒なことも起きる。
本部のバイヤーが良かれと思って下した判断がキャッシュに逆に作用してしまう。
ECにおける物流業務とKPI 店舗業務は、入荷→陳列→顧客自身が商品を手に持ってレジを通過する、という流れで販売が完了する。
それに対してECは、倉庫から出荷した時点で売り上げを計上して、顧客に商品が届いて取引が完了する。
その流れの全てのプロセスで費用が発生する。
その全ての費用を把握して営業利益が残るように管理する必要がある。
中でも配送費は最大の費用項目だ。
1オーダーの商品数が多い場合にどのサイズの箱を使うか、複数個口はどの配送業者に依頼するか、大型商品を出荷する場合の設置や回収(商品引取)まで含めた費用はいくらなのかなど、配送費の管理次第で利益が大きく左右される。
そのために配送方法別/サイズ別/条件別の資材・配送費用をそれぞれ把握して、毎月末には集計して可視化する。
それを物流部門だけでなく社内で共有する。
その場合、売上高物流費率や出荷単価など、分かりやすい指標を選んで過去3カ月の実績を示すと理解を得やすい(図4)。
・EC倉庫の運営 ECは店舗と比べて同じアイテムをまとめて仕入れることが多い。
その分、在庫が長期滞留する可能性は高くなる。
売れ続けている商品ならいいが、一定期間を超えて販売(注文)がない商品はカットしなければならない。
そのために大事なことは、在庫の滞留日数の目安を作ることである。
EC倉庫を巡回すると1~2個だけピースで残っている商品をよく見かける。
その入荷日を調べることでカットすべきか判断できる。
またEC倉庫は店舗以上に動線の設計が重要である。
EC倉庫には入荷と出庫という正反対の流れが常に発生する。
その出入りを基準にして棚の位置や庫内の動線を工夫することで人時生産性を高めることができる。
なお流通業のEC倉庫にロボットや自動化ラインを導入する場合には、その前後の工程で渋滞が発生しないかを十分に注意する必要がある。
特定の業務の処理スピードだけが上がると仕掛品の山を生むだけで倉庫全体のスループットはむしろマイナスになってしまうことがある。
・返品処理 EC倉庫の業務は出荷して終わりではない。
いったん売り上げを立てた商品が、初期不良や配送中の汚破損事故により、返品されることがある。
その際には商品の返品処理だけでなく、顧客への返金処理と売り上げの取り消しが発生する。
そのため物流部門だけではなく、カスタマーサポート(CS)部門や経理部門と連携して業務を進めることになる。
CSが顧客から返品の理由を聞き、返品を受け付けた後、商品がセンターに送り返されてくる。
それをCSの履歴と突き合わせて検品、通常は庫内に用意した返品用のロケーション(棚)に一時保管する。
続いてその商品をメーカーに返品するか、再販売可能かを判断する。
メーカー返品の場合は、メーカー担当者の確認・承認を取り付ける。
再販売可能であれば販売用の保管棚に戻して在庫登録して通常サイトで販売する。
メーカー返品が認められず、再販もできない場合は、アウトレット品として扱うことを検討する。
値引販売にはなるが、廃棄するよりはずっといい。
店舗販売において返品・返金はイレギュラー業務だが、ECでは当たり前に発生する。
ここでクレームが発生すると顧客の離反を招く。
関連部署と共に一連の手順をしっかり決めておくことで損失を最小限に抑えることができる。
返品商品の紛失による棚卸差損益の発生も防げる。
・ECの発注 ECは店舗販売と比べてメーカーや卸の在庫を取り寄せて販売することが多い。
その管理は、取り寄せ発注したオーダー番号、商品コード/商品名、個数、日付、担当者、メーカー・卸の出荷予定日を履歴として残すことから始まる。
ベンダーの出荷予定日に納品リードタイムを加えた日付を入荷予定日に設定する。
それをリスト化した帳票で入荷検品する。
入荷予定日に到着しなかった場合はすぐにベンダーに確認する。
その返答を基に、顧客に入荷の遅延や納品予定などを連絡する。
ベンダーとのやり取りはデータ化しておく。
ファクスや電話では人件費が膨れ上がってしまう。
他の作業の遅延を引き起こす要因にもなる。
その反対に効率的な取り寄せ販売の仕組みを構築すれば顧客体験が向上する。
差別化の武器にできる。
取り寄せ販売は値引きが不要で、倉庫内の滞在日数は短く、回転率が良いためPL/BSに直接貢献する。
オムニチャネル企業の物流管理 オムニチャネル企業は、これまで述べてきた店舗販売とECの流れを統合してビジネスを回している。
そこで必要になるのが、モノの流れをルール化してデータ化することである。
ネットで注文した商品を、宅配で受け取るか、最寄りの店舗で受け取るか、選択ができるケースが増えている。
このうち店舗受け取りには、顧客が受け取りを希望した店舗に在庫がありそのまま販売する場合、その店舗には在庫がなく社内の他の店舗や倉庫の在庫を振り替える場合、ベンダーに注文して取り寄せる場合などがある。
現在、社内振替の多くは、できるだけ近くの店舗や倉庫から宅配便を使って転送をかけている。
それを店舗納品のルート便で回収して、顧客が受け取りを希望した店舗にもやはりルート便で届ける仕組みに変えれば、社内振替に使っている宅配便を全廃できる。
コスト効果の大きな改善策であることから、一部の全国チェーンはそのために地域倉庫に集約したり、基幹店に戻したりして、社内振替の納品リードタイムを維持したままコストセーブを図ろうとしている。
しかし、コストを重視するあまり顧客が期待するサービスを見失うとクレームや顧客離反を招いてしまう点には注意が必要だ。
こうした仕組みを作る際にリアルタイムの在庫移動をデータで管理できていれば、顧客のマイページ上にステータス情報を表示することができる。
顧客の利便性と満足度が上がり、問い合わせに対応する手間やコストを抑制できる。
ただし、オムニチャネルの実務は物流の仕組みだけではスムーズに進まない。
売れ筋商品の在庫を他店やEC事業部に振り替えた店舗は、それによって売り上げが減ってしまう可能性がある。
店の成績を売り上げと利益だけで評価していれば、在庫を渡すことを嫌がる店が出てくる。
他店の売り上げ支援やエリア全体の売り上げなど、店の評価にその店の売り上げと利益以外の評価項目を加えることで、そうした事態を避ける。
図5はその一例である。
店舗が直接販売に関わらないECの「宅配売上」、ECで販売して顧客が店舗受け取りを指定した「店受取受注」、その二つの合計額を「EC関与売上」と位置付け、EC関与売上の最大化に全社で取り組むことで組織間の協力関係を引き出すことを狙ったものだ。
物流はプロフィットセンターだ これまで物流に関わるコストは「必要経費」であった。
やむを得ず発生する費用であるため、少しでも安くしたいという考え方だった。
立場の弱い取引先や現場はそのしわ寄せで苦しめられてきた。
しかし、国内市場が人口減とともに減少に転じて、単純な右肩上がりの成長が見込めなくなり、デジタル化が進んでさまざまな実態が可視化されてきたことで、従来の物流管理は正しくなかったことが明らかになった。
誰かに損を押し付けることで得ができる時代は終わったのである。
とりわけ店舗販売とECを統合したオムニチャネル企業は、現場レベルではなく、物流部門だけでもない、取引先まで含めたサプライチェーンのフロー全体を対象に最適化をしなければ継続的に利益を上げていくことが難しい。
そのために次のステップで物流KPI管理を高度化していくことを推奨する。
①物流費を固定費と変動費に分ける 社内人件費や倉庫家賃、自社保有トラックの維持費、傭車でも専属契約している場合などは固定費である。
その稼働率を100%に設定してしまうと、販促や新製品効果で売り上げが上振れした時に遅延を起こす。
作業量の増加に緊急で対応しようとすれば、経費が跳ね上がる一方で生産性は落ちてしまう。
事故の危険性も高まる。
平時は70〜90%の稼働率で余裕を持たせておくのが現実的だ。
一方、変動費は売り上げに対して一定の比率で発生するコストである。
宅配便や特積みの支払い運賃、1件当たりや1個当たりで契約している庫内作業、庫内から在庫が溢れて一時的に借りた保管賃料などが該当する。
コントロールが可能なコストであり、固定費とは分けて管理することが重要である。
②物流予算の立て方を改める ①を踏まえて予算の立て方を改める。
固定費の予算とは別に、変動費の予算を売り上げと連動する費用として予算化する。
そうしなければ、予算に達した段階で事業活動を止めてしまうことになる。
従来は変動費の占める割合が小さかったため、何とか帳尻を合わせることもできた。
しかし、物流費の変動費化が進んでいることに加え、オムニチャネル企業は従来型の企業よりも変動費の割合が大きいためごまかしが利かない。
③物流費を〝見える化〟する 社内の業務フローを基に他部署の活動と物流業務の関係を整理して、そこで発生している物流関連費用を可視化する。
その情報を物流部門だけではなく、他部署や経営陣に提示して共有することで、物流に対する社内の認識と理解を深める。
④他部署の活動と連動する物流KPIを開発する 例えば商品部門の政策に物流費は影響を受ける。
販促部門の成果として売り上げが増えれば物流費の変動費も増える。
CS部門が返品返金をスムーズに行うためには物流部門との連携が必須である。
こうした物流部門と他部署との連動を可視化することで、全社業務と連動したその会社の物流KPIが見えてくる。
現在の顧客は、同じ企業から購入する以上、店舗で買おうがECだろうが同じであり、その会社のCSにメールや電話で伝えた問い合わせは社内で共有されていて当たり前と考えている。
在庫がどこにあろうが、誰に仕入れ責任があるかなど、顧客にとって関係ない話である。
企業が従来の縦割構造のまま、オムニチャネル化に対応するのは不可能である。
とりわけモノの動きは顧客体験(CX)と従業員体験(EX)に密接に連動している。
物流は全社の利益と継続的な成長に大きく関わるものへと変化した。
オムニチャネル企業は物流そのものをプロフィットセンターと位置付け、サプライチェーンを最適化に導く物流KPIを自ら開発していく必要がある。
実は筆者もその1人だ。
学生時代の数学の成績はちょっと他人には言いたくないレベルであった。
また筆者は現在「オムニチャネルコンサルタント」を名乗りデジタルビジネスに深く関わっているものの、文学部歴史学科の出身であり、典型的な文系脳である。
社会に出て最初に就職した三省堂書店では、恥ずかしながら売上高の対前年比と粗利くらいしか経営指標を意識していなかった。
その後、ソフトバンクのイー・ショッピング事業部(現セブンネットショッピング)に移ってから、セブン&アイ・ホールディングスグループ前CIOの鈴木康弘氏にビジネスで見るべき数字について教わった。
「経営は全て数値化して客観的に可視化する」「切り取った数字ではなく経年変化を見る」「数字同士の相関関係を知る」など、鈴木氏には口酸っぱく指導いただいた。
そのおかげでビジネスと経営指標が自分の中で結びつくようになり、両者の因果関係が見えるようになった。
ビジネスの現状を、PL/BSの観点と各種のKPIで把握して、それを基に仮説を立て対策を打てるようになった。
対策が思い通りにいかない場合でも、因果関係が分かっていると仮説を修正できる。
数値化がいかに大切なのか身をもって学ぶことができた。
本稿では店舗とECの二つを融合させたオムニチャネル企業における物流KPI管理の実務について解説する。
その前提として念のためPL/BSの基本的な関係を確認しておきたい。
筆者はいつもシンプルに次の三つで説明している(図1)。
・BSの右側(負債の部)は、どこからお金を調達してきたかを示している。
・BSの左側(資産の部)は、そのお金がどんな形で会社にあるのかを示している。
・PLは、BSの左側にあるものを使って営業活動をした結果、儲けたのか損したのかを示している。
図2は流通業の一般的なPLとBSである。
そこに記載される項目(勘定科目)は、業態や規模によって多少のバリエーションはあるが、見るべき数字は基本的に変わらない。
PLでは「売上高」「粗利・販管費(経費)」「営業利益」、BSでは「売掛金」「買掛金」「在庫商品」を見る。
そして売上高と仕入と在庫商品から計算する「在庫回転率」もしくは「在庫回転日数」が重要である。
在庫の回転が上がると、経費は減り、業務効率は向上する。
商品を仕入れて代金を支払ってから、販売して入金されるまでの期間が早くなり、キャッシュフローも良くなる。
いわゆる「回転差資金」にプラスに働く。
流通業の場合、粗利は売り上げから商品仕入れを引いた金額であり、利益の大元である。
そこからさらに営業に必要な経費を差し引いて残ったものが営業利益である。
営業に必要な経費には社員の人件費や施設の賃料などのほかに、物流業務に関わるものが多く含まれている。
その一つが配送に関わる費用だ。
ちなみにトラックドライバーはトラックの運転だけではなく、荷物の積み下ろしにも関わっていることを忘れてはいけない。
支払い運賃にはその業務負担までが含まれている。
もちろん倉庫費用もある。
センターに商品が届くと、荷受け側では商品を検品して保管棚に格納する作業が発生する。
続く出荷では、各納品先の注文に応じて在庫をピッキングして、段ボールやオリコンに投函して検品、伝票を発行して運送会社に引き渡す。
その業務を自社運営している場合には庫内作業員の人件費が固定費として発生する。
外部に委託している場合は、商品1個当たり、オーダー1件当たりなどの作業量に応じた費用を支払うことになる。
メーカーや卸などのベンダーが小売りの物流センターに商品を納品する場合には「センターフィー」も発生する(図3)。
小売り側の物流網で各店舗に配送する費用を、ベンダー側が負担するという商慣行だ。
海外ではあまり見られないが日本ではいまだに広く採用されている。
通常、センターフィーは商品仕入額に一定の料率を乗じて計算する。
ベンダーはその分を値引きする、あるいは別途手数料として支払う。
店舗における物流関連費用 物流に関する費用は店舗でも発生する。
店舗の物流業務は単純化すれば次の通りである。
まず店舗に届いた商品を検品する。
メーカー・卸から店舗に届いた商品はもちろん、自社センターからの納品であっても店舗であらためて検品していることがある。
検品した商品は店舗のバックヤードに保管する。
もしくはそのまま売り場に補充する。
バックヤードに保管した在庫は開店前後や開店中の決まったタイミングで売場に補充する。
いずれの業務もそのコストは店舗の人件費に含まれている。
こうした店舗で発生する物流費はチェーンの規模が大きくなるほど見えにくくなる傾向がある。
チェーン本部が店舗業務を代行する範囲が増え、その費用を店舗の売り上げに応じて機械的に按分(配賦)することが多いためである。
現状の店舗業務には以下のような課題がある。
店頭のどの陳列棚にどの商品をいくつ置くか、いわゆる「棚割」はチェーン本部で管理していることが多い。
そのため各店舗の販売状況がリアルタイムに反映されず、売れなくなった商品をカットする(棚割から外す)のが遅くなる。
店舗発注は基本的には棚の欠品に基づく補充発注なので売れない商品を発注してしまうことになる。
しかも、店舗に届くのは、店舗が発注した商品だけではない。
本部のバイヤーが仕入原価の低減もしくはリベートによる利益補填を狙ってメーカーと商談した一括送品もある。
その商品が正価で売れるのであれば構わないが、値引きしたり売れ残ったりすれば粗利が減ってしまう。
まとめて店舗に納品されるとその保管場所も必要になる。
溢れた在庫は店舗の動線を悪化させて業務効率が低下する。
人件費負担が増して在庫回転も悪化する。
店舗内に置ききれず、別倉庫を借りるという本末転倒なことも起きる。
本部のバイヤーが良かれと思って下した判断がキャッシュに逆に作用してしまう。
ECにおける物流業務とKPI 店舗業務は、入荷→陳列→顧客自身が商品を手に持ってレジを通過する、という流れで販売が完了する。
それに対してECは、倉庫から出荷した時点で売り上げを計上して、顧客に商品が届いて取引が完了する。
その流れの全てのプロセスで費用が発生する。
その全ての費用を把握して営業利益が残るように管理する必要がある。
中でも配送費は最大の費用項目だ。
1オーダーの商品数が多い場合にどのサイズの箱を使うか、複数個口はどの配送業者に依頼するか、大型商品を出荷する場合の設置や回収(商品引取)まで含めた費用はいくらなのかなど、配送費の管理次第で利益が大きく左右される。
そのために配送方法別/サイズ別/条件別の資材・配送費用をそれぞれ把握して、毎月末には集計して可視化する。
それを物流部門だけでなく社内で共有する。
その場合、売上高物流費率や出荷単価など、分かりやすい指標を選んで過去3カ月の実績を示すと理解を得やすい(図4)。
・EC倉庫の運営 ECは店舗と比べて同じアイテムをまとめて仕入れることが多い。
その分、在庫が長期滞留する可能性は高くなる。
売れ続けている商品ならいいが、一定期間を超えて販売(注文)がない商品はカットしなければならない。
そのために大事なことは、在庫の滞留日数の目安を作ることである。
EC倉庫を巡回すると1~2個だけピースで残っている商品をよく見かける。
その入荷日を調べることでカットすべきか判断できる。
またEC倉庫は店舗以上に動線の設計が重要である。
EC倉庫には入荷と出庫という正反対の流れが常に発生する。
その出入りを基準にして棚の位置や庫内の動線を工夫することで人時生産性を高めることができる。
なお流通業のEC倉庫にロボットや自動化ラインを導入する場合には、その前後の工程で渋滞が発生しないかを十分に注意する必要がある。
特定の業務の処理スピードだけが上がると仕掛品の山を生むだけで倉庫全体のスループットはむしろマイナスになってしまうことがある。
・返品処理 EC倉庫の業務は出荷して終わりではない。
いったん売り上げを立てた商品が、初期不良や配送中の汚破損事故により、返品されることがある。
その際には商品の返品処理だけでなく、顧客への返金処理と売り上げの取り消しが発生する。
そのため物流部門だけではなく、カスタマーサポート(CS)部門や経理部門と連携して業務を進めることになる。
CSが顧客から返品の理由を聞き、返品を受け付けた後、商品がセンターに送り返されてくる。
それをCSの履歴と突き合わせて検品、通常は庫内に用意した返品用のロケーション(棚)に一時保管する。
続いてその商品をメーカーに返品するか、再販売可能かを判断する。
メーカー返品の場合は、メーカー担当者の確認・承認を取り付ける。
再販売可能であれば販売用の保管棚に戻して在庫登録して通常サイトで販売する。
メーカー返品が認められず、再販もできない場合は、アウトレット品として扱うことを検討する。
値引販売にはなるが、廃棄するよりはずっといい。
店舗販売において返品・返金はイレギュラー業務だが、ECでは当たり前に発生する。
ここでクレームが発生すると顧客の離反を招く。
関連部署と共に一連の手順をしっかり決めておくことで損失を最小限に抑えることができる。
返品商品の紛失による棚卸差損益の発生も防げる。
・ECの発注 ECは店舗販売と比べてメーカーや卸の在庫を取り寄せて販売することが多い。
その管理は、取り寄せ発注したオーダー番号、商品コード/商品名、個数、日付、担当者、メーカー・卸の出荷予定日を履歴として残すことから始まる。
ベンダーの出荷予定日に納品リードタイムを加えた日付を入荷予定日に設定する。
それをリスト化した帳票で入荷検品する。
入荷予定日に到着しなかった場合はすぐにベンダーに確認する。
その返答を基に、顧客に入荷の遅延や納品予定などを連絡する。
ベンダーとのやり取りはデータ化しておく。
ファクスや電話では人件費が膨れ上がってしまう。
他の作業の遅延を引き起こす要因にもなる。
その反対に効率的な取り寄せ販売の仕組みを構築すれば顧客体験が向上する。
差別化の武器にできる。
取り寄せ販売は値引きが不要で、倉庫内の滞在日数は短く、回転率が良いためPL/BSに直接貢献する。
オムニチャネル企業の物流管理 オムニチャネル企業は、これまで述べてきた店舗販売とECの流れを統合してビジネスを回している。
そこで必要になるのが、モノの流れをルール化してデータ化することである。
ネットで注文した商品を、宅配で受け取るか、最寄りの店舗で受け取るか、選択ができるケースが増えている。
このうち店舗受け取りには、顧客が受け取りを希望した店舗に在庫がありそのまま販売する場合、その店舗には在庫がなく社内の他の店舗や倉庫の在庫を振り替える場合、ベンダーに注文して取り寄せる場合などがある。
現在、社内振替の多くは、できるだけ近くの店舗や倉庫から宅配便を使って転送をかけている。
それを店舗納品のルート便で回収して、顧客が受け取りを希望した店舗にもやはりルート便で届ける仕組みに変えれば、社内振替に使っている宅配便を全廃できる。
コスト効果の大きな改善策であることから、一部の全国チェーンはそのために地域倉庫に集約したり、基幹店に戻したりして、社内振替の納品リードタイムを維持したままコストセーブを図ろうとしている。
しかし、コストを重視するあまり顧客が期待するサービスを見失うとクレームや顧客離反を招いてしまう点には注意が必要だ。
こうした仕組みを作る際にリアルタイムの在庫移動をデータで管理できていれば、顧客のマイページ上にステータス情報を表示することができる。
顧客の利便性と満足度が上がり、問い合わせに対応する手間やコストを抑制できる。
ただし、オムニチャネルの実務は物流の仕組みだけではスムーズに進まない。
売れ筋商品の在庫を他店やEC事業部に振り替えた店舗は、それによって売り上げが減ってしまう可能性がある。
店の成績を売り上げと利益だけで評価していれば、在庫を渡すことを嫌がる店が出てくる。
他店の売り上げ支援やエリア全体の売り上げなど、店の評価にその店の売り上げと利益以外の評価項目を加えることで、そうした事態を避ける。
図5はその一例である。
店舗が直接販売に関わらないECの「宅配売上」、ECで販売して顧客が店舗受け取りを指定した「店受取受注」、その二つの合計額を「EC関与売上」と位置付け、EC関与売上の最大化に全社で取り組むことで組織間の協力関係を引き出すことを狙ったものだ。
物流はプロフィットセンターだ これまで物流に関わるコストは「必要経費」であった。
やむを得ず発生する費用であるため、少しでも安くしたいという考え方だった。
立場の弱い取引先や現場はそのしわ寄せで苦しめられてきた。
しかし、国内市場が人口減とともに減少に転じて、単純な右肩上がりの成長が見込めなくなり、デジタル化が進んでさまざまな実態が可視化されてきたことで、従来の物流管理は正しくなかったことが明らかになった。
誰かに損を押し付けることで得ができる時代は終わったのである。
とりわけ店舗販売とECを統合したオムニチャネル企業は、現場レベルではなく、物流部門だけでもない、取引先まで含めたサプライチェーンのフロー全体を対象に最適化をしなければ継続的に利益を上げていくことが難しい。
そのために次のステップで物流KPI管理を高度化していくことを推奨する。
①物流費を固定費と変動費に分ける 社内人件費や倉庫家賃、自社保有トラックの維持費、傭車でも専属契約している場合などは固定費である。
その稼働率を100%に設定してしまうと、販促や新製品効果で売り上げが上振れした時に遅延を起こす。
作業量の増加に緊急で対応しようとすれば、経費が跳ね上がる一方で生産性は落ちてしまう。
事故の危険性も高まる。
平時は70〜90%の稼働率で余裕を持たせておくのが現実的だ。
一方、変動費は売り上げに対して一定の比率で発生するコストである。
宅配便や特積みの支払い運賃、1件当たりや1個当たりで契約している庫内作業、庫内から在庫が溢れて一時的に借りた保管賃料などが該当する。
コントロールが可能なコストであり、固定費とは分けて管理することが重要である。
②物流予算の立て方を改める ①を踏まえて予算の立て方を改める。
固定費の予算とは別に、変動費の予算を売り上げと連動する費用として予算化する。
そうしなければ、予算に達した段階で事業活動を止めてしまうことになる。
従来は変動費の占める割合が小さかったため、何とか帳尻を合わせることもできた。
しかし、物流費の変動費化が進んでいることに加え、オムニチャネル企業は従来型の企業よりも変動費の割合が大きいためごまかしが利かない。
③物流費を〝見える化〟する 社内の業務フローを基に他部署の活動と物流業務の関係を整理して、そこで発生している物流関連費用を可視化する。
その情報を物流部門だけではなく、他部署や経営陣に提示して共有することで、物流に対する社内の認識と理解を深める。
④他部署の活動と連動する物流KPIを開発する 例えば商品部門の政策に物流費は影響を受ける。
販促部門の成果として売り上げが増えれば物流費の変動費も増える。
CS部門が返品返金をスムーズに行うためには物流部門との連携が必須である。
こうした物流部門と他部署との連動を可視化することで、全社業務と連動したその会社の物流KPIが見えてくる。
現在の顧客は、同じ企業から購入する以上、店舗で買おうがECだろうが同じであり、その会社のCSにメールや電話で伝えた問い合わせは社内で共有されていて当たり前と考えている。
在庫がどこにあろうが、誰に仕入れ責任があるかなど、顧客にとって関係ない話である。
企業が従来の縦割構造のまま、オムニチャネル化に対応するのは不可能である。
とりわけモノの動きは顧客体験(CX)と従業員体験(EX)に密接に連動している。
物流は全社の利益と継続的な成長に大きく関わるものへと変化した。
オムニチャネル企業は物流そのものをプロフィットセンターと位置付け、サプライチェーンを最適化に導く物流KPIを自ら開発していく必要がある。
