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2022年5月号
特集

日本郵便 配達員10万人超×全軒巡回のデータ基盤にDX

3千億円を投じてデータ駆動型に転換  日本郵政グループは2025年度までの新5カ年計画で、「データドリブンによる郵便・物流事業改革」に3千億円を投資する。
日本郵便の発足以来、最大級のシステム投資で、ライバルのヤマト運輸やSGホールディングスのデジタル投資と比べても突出して多い。
背景には、郵便事業を取り巻く事業環境への危機感がある。
 年間の郵便物数は01年度の約263億通をピークに減少に転じて、20年度には約152億通に減少した。
さらに今後5年間で半減するとの予測がある。
これまでは年率2%程度だった減少率が、コロナ禍でリモートワークやペーパーレス化が加速して10%まで跳ね上がるとの見方だ。
実際、デジタル化に先行した北欧諸国では減少率が10%を超えているという。
 日本郵便はこれまで郵便物が減っていく穴を宅配貨物で埋めてきた。
民営化後初の通年決算となった08年度の郵便事業会社(当時)の収支は、郵便事業が約1兆5千億円、物流事業が約3千億円という内訳だった。
それが19年度は郵便事業が約1兆3千億円と2千億円減る一方、物流事業は2倍以上の6700億円を確保した。
 しかし、今後は郵便事業の縮小ペースが大幅に加速する。
日本郵便は全国約40万人の従業員と約2万4千の郵便局を維持して、ユニバーサルサービスを継続していくために、事業変革のギアを上げる必要がある。
データドリブンがその対応策だ。
 現在、郵便の集配局や区分局(ターミナル)では、実際に荷物が到着してみないと、その日に取り扱う物量や届け先が分からない。
輸送ルートはハブ・アンド・スポークのネットワークによって固定されており、予想以上に荷物が多ければ作業の遅れや残業が発生し、少ない時にはリソースの稼働率が落ちる。
 それをフィジカルインターネット型のネットワークに変革する。
差出人から荷物を受け取った時点で、集荷担当者がスマートフォンで必要な情報をデジタル化、AIがデータを解析して拠点間輸送からラストワンマイルに至る最適な経路と作業計画を組み立てる。
 昨年6月に楽天との共同出資でJP楽天ロジスティクスを立ち上げた協業関係を生かし、「差出」の前段階で発生するEC事業者の「受注」や「購買」のデータにも手を広げる。
上流工程の情報を基に下流の幹線輸送を調整することでリードタイムの短縮や積載率の向上が可能になる。
既にその仕組み作りに取り組んでいるという。
 日本郵便の従業員数は、高齢化による退職などの自然減と人手不足で25年4月には、20年4月比で3万人減少することが見込まれている。
それに対して「ゆうパック・ゆうパケット」の取扱個数は20年度の10・9億個から25年度は約25%増の13・6億個を見込む。
物量が増えても人員を増やさず対応できる体制を整備して収益性を改善する。
 千葉県松戸市の「プロロジスパーク市川3」内に設置された松戸南郵便局市川分室では現在、新たなオペレーションの構築に向けたトライアル&エラーが進められている。
複数のロールパレットを自動搬送するAGV9台を導入、現在開発中の新たな小包区分機およびパケット区分機と組み合わせて運用することを想定して、大口荷主の「ゆうパケット」をハンドリングしている。
 市川分室で開発した運用技術は、同施設にほぼ隣接する「三井不動産ロジスティクスパーク市川塩浜Ⅱ」に23年2月の稼働を予定している新たな地域区分郵便局に実装される。
千葉県北西部(郵便番号上2桁が27の地域)の郵便物・ゆうパックなどの仕分け作業を受け持つ。
一帯には大手通販の物流センターが集中して立地しており、ECの上流工程と連携しやすい環境にある。
 日本郵便の五味儀裕執行役員郵便・物流事業企画部部長は「市川は首都圏全体の配送ネットワークを強化するために従来から拠点の増設を計画していた地区だった。
発送量も宛先数も多いので、ここにハブを置けばフィジカルインターネットの考え方に近いネットワークを構築しやすい」という。
郵便配達員を“街のセンサー”に  対象エリアの一部の配達員にはスマートフォンを配備している。
配達ルートの自動作成やリアルタイムのステータス管理、電子受領などさまざまな活用法を検証している。
五味執行役員は「データ駆動型の郵便・物流事業において、全国の配達員は“街のセンサー”としての役割を果たすことになる。
荷物を届けた対価として料金を得るだけでなく、毎日、街を巡回すること自体が付加価値となっていく」という。
 郵便と宅配便は配達方法が大きく異なっている。
宅配便のドライバーが1日に配達できる届け先数は最大でも150件程度とされる。
毎日、届け先が変わるので、その日の荷物に合わせて配達ルートを組み立てる。
それに対して郵便は毎日ほぼ2軒に1軒の割合で郵便物がある。
そのため毎日同じルートで全軒を回る。
宅配会社とは比較にならない規模のビッグデータがそこから生成される。
 居住者情報は通常は自治体が管理する「住民基本台帳」がベースになる。
しかし、更新が遅れたり届け出されないケースもあり、リアルタイムの実態が正確に反映されているわけではない。
それに対して日本郵便は毎日現地を巡回している配達員の情報を反映した「配達原簿」を保持している。
詳細な地図情報も路地裏の工事の進捗に至るまで日々更新している。
 郵便局データのビジネス活用には、個人情報保護の観点から懸念もある。
それでも金子恭之総務相は「郵便局を通じて保有するデータを有効活用し、新たなビジネスモデルを構築することが郵政事業の持続的な成長に欠かせない」としており、昨年10月に「郵便局データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会」が設置された。
データ活用の具体的なガイドラインがそこで整理される見通しだ。
 データドリブンによる郵便・物流事業改革は、「データ駆動型サービス」の開発を、データ駆動型オペレーションの構築による効率化と並ぶ柱に据えている。
「差出情報のデジタル化を踏まえた商品設計」「2次元コードの活用等、差出情報の充実化による利便性向上」「受取時間/場所変更の拡充・柔軟化による利便性向上」がその具体例として挙げられている。
 しかし、郵便データの活用領域は宅配便事業だけにとどまらない。
全国10万人超の配達員がキャッチした独自のビッグデータを起点にして、サービスの領域を見直し、ビジネスモデルを再構築することで、日本郵便が宅配会社や物流会社とは全く異なる事業会社に進化していく可能性がある。

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