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2022年5月号
特集

需給オープンPFを用いた地域物流の実装

需給ギャップの拡大と物流クライシス  サプライチェーンを支える物流のサービス価格は現在、バブル期の水準を上回るインフレ状態にある。
その大きな要因に物流現場の人手不足、つまり需給ギャップの拡大がある。
現状のまま推移すると、供給が需要を大幅に下回る「物流クライシス」が常態化することになる。
 トン数ベースで国内輸送の9割を占めるトラック輸送はとりわけ事態が深刻だ。
営業用貨物自動車の需給バランスの推移予測によると、2030年には物流需要(31・7億トン)の約36%(11・4億トン)が運べなくなる恐れがある。
今から10年もしないうちに荷主企業間で輸送力の争奪戦が始まることを意味する。
 しかもトラック運賃をはじめとする物流サービスの価格は、24年からトラックドライバーに時間外労働の上限規制(働き方改革)の適用という新たな供給制約が加わることで、さらに高騰する可能性が高い。
 トラックドライバーの年間所得額は全産業平均と比べて、大型トラックドライバーは1割少なく、中小型トラックドライバーでは2割少ない。
一方で年間労働時間は全産業平均と比べて2割長い。
 待遇と労働負荷の両面で厳しい環境に置かれた結果、トラックドライバーは今では若年層が就業を敬遠する代表的な職業になってしまった。
ドライバーの低賃金・長時間労働は運送事業者だけでは解決できない構造的な問題だ。
解決には荷主企業(荷送人企業、荷受人企業)の協力が必要だ。
 今から約30年前の1993年にトラックの積載効率は54%だった。
それが現在は30%台にまで落ち込んでいる。
積載効率が低下を続けている大きな理由は二つある。
「多品種・小ロット輸送貨物の増加」と「時間指定貨物の増加」である。
 これらは運送事業者が自ら調整することが困難な内容である。
改善するためには貨物輸送を委託する側、すなわち荷主企業(荷送人企業、荷受人企業)の関与が不可欠である。
 関与が求められる荷主は大企業だけに限らない。
日本企業の99・7%は中小企業が占めている。
中小荷主の関与が積載効率向上の重要な鍵を握る。
そのための具体的な取り組みの一つが「SIP」におけるスマート物流サービスだ。
 「SIP」とは内閣府が推進する「戦略的イノベーション創造プログラム」の略称である。
スマート物流サービスは、その第二期からスタートしている。
それは個社・業界の垣根を越えて川上から川下まで物流・商流のデータを共有・活用しサプライチェーンを効率化するサービスの実現を目指す国家プロジェクトである。
 セイノー情報サービスはスマート物流サービスにおける研究開発内容の一つである「地域物流」に代表研究機関として参画している。
2019年12月に始まった「プロトタイプのデータ基盤構築とその概念検証」、続く「プロトタイプ基盤の高度化および社会実証」の研究開発ステップを終え、現在は社会実装の実現に向けた活動を加速させている。
■解決すべき四つの課題  「人手不足(需給ギャップ)の拡大」「トラックドライバーの低賃金・長時間労働」「積載効率の低下」の三つの現象を具体的な「問題」として、誰が、どの立場で、どう捉えればよいのかという点では、さまざまな解決の道筋や取り組みの領域が存在する。
 SIPスマート物流サービス「地域物流」では、これら三つの問題を真正面から受け止め、「直前運送依頼の削減」「時間指定の緩和」「中・長距離輸送力の確保」「異業種による輸配送の共同化」という四つの課題の解決に取り組んでいる。
 われわれは荷主企業間の商取引(垂直取引)、荷主企業と運送事業者との関係、運送事業者同士の物流取引(水平取引)の「つながり」の三つに解決すべき問題が潜んでいるのではないかと考えた。
 言い換えれば、目指す姿・あるべき関係という点において、関係各所の間には、まだまだ「へだたり」があるのではないか。
垂直・水平の「つながり」を強化し、「へだたり」を埋める「デジタル化」を、具体的な構造変革にどう結びつければよいのかという問題意識から取り組みをスタートした。
 SIPスマート物流サービス「地域物流」では、これらを踏まえ「協働化の新しいスタイル」として、「商流需給・物流需給オープンプラットフォームサービスを通じて荷主企業と運送事業者の『つながり』をデジタルイノベーションし、よりスマートな地域物流を創造する」という理念を掲げた。
 荷主企業の垂直統合と物流企業の水平連携を同時に狙う「地域物流」の目的は、物流クライシスの常態化を緩和し、コンプライアンスを順守しつつ、物流の持続可能性を高めることにある。
■持続可能な物流へのアプローチ  「地域物流」は、その範囲を「地域内の集荷・配達」および「地域間の幹線輸送」とし、共同輸配送ネットワークモデルを基本とする(図1)。
 取扱対象の貨物は「中ロット貨物(おおむね1トン/件以上~5トン/件未満を指す)」とし、貸切運送では非効率かつ不経済、特積み(路線便)では運ばないとされる重量帯のパレット貨物である。
 輸配送は、各工程別にコンプライアンスを順守した上での計画を立てる。
これにより夜間長距離運行(泊付運行)を抑制し、可能な限り昼間の中近距離運行(日帰運行)への転換を促す。
 集配時の煩雑な作業は、送り状レスの専用荷札とスマホアプリの活用によって負荷を軽減する。
展開地域での取り組みを主導することが期待できる中核運送事業者が地域物流の運営に参画することによって、地域内の集荷・配達を地場の運送事業者と連携、地域物流を活性化する。
 各荷送人企業から集荷された中ロット貨物は集荷地域の集約拠点から、配達地域の集約拠点まで幹線共同輸送する。
■輸配送物量の山崩しによる平準化  「地域物流」で具体的に何をどう変えるべきなのか。
従来の輸送手配は、サプライチェーンのステークホルダー間でPSI情報(Production=プロダクション・生産、Sales=セールス・販売計画、Inventory=インベントリー・在庫)が分断されており、情報の伝達は出荷の直前に行われる。
 これに対して「地域物流」では、PSI情報を事前に共有し、輸送手配を計画的に行うことで共同輸送を実現する。
出荷日・納品日を調整して輸配送物量を“山崩し”して、平準化する(図2)。
 具体的には商流情報から輸送の見通しを立てて早期に配送計画を立案して納期を調整することで、必要な輸送リソース(トラック、ドライバーなど)を平準化し、輸送力の安定供給を図る。
(※PSI=日本では製販在庫計画とも呼ばれる管理手法) ■商流情報の早期共有による計画的な輸配送への転換  「地域物流」が目指す新しい協働化の柱の一つが「早期情報共有」である。
図3は、製造業における「受注から運送依頼までの流れ」の略図である。
商流情報の早期連携は物流効率化・物流生産性向上の要であり、それが可能な業種・業態、可能な企業間から、「当たり前化」していく。
 これまで物流企業は荷主からの「出荷直前の運送依頼」に対応してきた。
しかし、輸送力の需給ギャップの拡大が見込まれることから、荷主は受注から運送依頼までのプロセスの中で、納期回答時から出荷計画の立案を始め、運送依頼情報を運送事業者と早期に共有できる新たなスタイルを確立する必要がある。
 その際に運送依頼は「共有後の変更」を許容することが必要になるだろう。
いずれ一部に変更があるのだから「全ての運送は『確定』してから依頼する」という「慣習」は改めていかなければならない。
 荷送人企業には、確定した運送依頼を出荷直前に出すのではなく、出荷計画を確定する時期を前倒しして、予定する運送依頼を運送事業者と共有することが期待される。
そうすることで、計画的輸配送に組み込むことができる。
運送事業者側からの「運び方」に関わる選択・レコメンドが得られるようになる。
 この実現には、受注者である荷送人企業だけではなく、発注者である「荷受人企業の協調」が不可欠である。
これまで物流業界では、荷送人企業が出荷直前に運送依頼を出すことが許容されてきた。
しかし、輸送の需給ギャップが拡大していく今後は、できる限り早期に運送依頼を行う必要がある。
 このような運用への変更によって、トラックの運行モデルも刷新される。
現状の一般的な運行では、荷送人企業各社が荷受人企業ごとに運行便を仕立てている。
一方、「地域物流」の運行では、荷送人企業の最寄りの集約拠点から集荷して、配達地域の集約拠点まで幹線輸送を行い、配達地域の集約拠点から各荷受人企業へ配達が行われるようになる。
 運行モデルそのものが変わることで、以下の二つも変えることを期待できる。
・これまでの物流の在り方や商慣習の変革 ・トラックドライバーの労働環境改善  「地域物流」ではこうした物流課題の解決を通して、将来にわたる輸配送サービスの継続的かつ安定的な提供を可能とする社会を目指す。
いわば「価値創造型物流SDGs」に向けた取り組みである。
二つの需給オープンプラットフォーム  「地域物流」のプロジェクトでは、二つのオープンプラットフォームのプロトタイプを構築している(図4)。
「商流需給オープンプラットフォーム」と「物流需給オープンプラットフォーム」だ。
 商流需給オープンプラットフォームは、サプライチェーン企業間のPSI連携を支援するプラットフォームである。
荷送人企業が取引する荷受人企業からの発注情報、荷送人企業からの納期回答情報が共有され、その情報を基に輸送計画を立案する。
 一方、物流需給オープンプラットフォームは、共同輸配送を支援するためのプラットフォームだ。
「商流需給オープンプラットフォーム」上の受発注情報を輸送情報として「物流需給オープンプラットフォーム」に連携し、トラックの空き情報(運送能力)を考慮して輸送リソースを割り当てる。
 この二つのオープンプラットフォームと物流・商流データ基盤との連携は、SIP「物流標準ガイドライン」に準拠して、要素技術(データマッピングとコード変換)とのAPI連携を実現している。
 需給オープンプラットフォームのプロトタイプを用いた地域物流運行モデルの「概念検証」を行ったところ、幹線トラックの積載率が平均で22%上昇し、さらに長距離ドライバーの拘束時間が平均で18%も短縮するという結果が得られた(図5)。
輸送のムダ・ムラ・ムリをなくす  「地域物流」の取り組みは、商流取引と物流取引の間にある三つのギャップに着目している。
「時間」のギャップ、「プロセス」のギャップ、「マネジメント・意思決定」のギャップである。
 「地域物流」のサービス提供者は、荷主企業間における商流取引から発生した情報を「仮運送依頼」として早期に共有し、物量を予測(フォーキャスト)する。
 そして、地域のさまざまな運送事業者のトラックの空きスペースのシェアリング、未来の空きトラック・空きスペースとのマッチング、共同輸配送の計画(アジャスティング)によって、物量を平準化する。
さらには、発着荷主企業に対する集荷・配達の調整(ネゴシエーション)を行い、三つのギャップを埋め、効率性を追求する。
 イノベーションのポイントは、荷主企業間における商流取引から発生した納期回答情報を基に「物量を予測(フォーキャスト)」し、荷主企業に対して「納期調整(ネゴシエーション)」を行い、輸送のムダ・ムラ・ムリをなくすことである。
 具体的には、早期予約割引と日付調整協力割引によって、より効率的な輸配送計画を実現する。
荷主企業は早い段階で出荷計画を立案して運送を依頼することで早期予約割引を受けられる。
物流費を削減できる。
 また、荷主企業が出荷する荷物のピークを抑制することで、荷主企業自身が日付調整協力割引を受けられるだけでなく、ドライバーなどの物流リソースの平準化を期待できる。
これは人手不足に悩む運送事業者にとって、要員を増加することなく利益を増やせることを意味する。
■21年に地域物流モデルの試験運用を実施  「地域物流」の社会実証(試験運用)を21年8月から9月にかけて実施した。
この社会実証では既に実用化されている輸配送ネットワークに「地域物流モデル」を投入したため、実証上の前提や制約が多少発生したが、必要な検証を行う上では問題ないレベルと判断した。
 対象地域は「東海地域(岐阜県・三重県・滋賀県の全域)」と「関東地域(東京23区、千葉県全域・埼玉県と茨城県の一部)」とし、対象地域にある荷主企業と運送事業者の協力の下、セイノー情報サービスがサービス提供者の役割を担った。
 実施期間のうちの1週間の集荷データおよび配達データを用いて配送計画の試算による検証を行った。
検証対象とした運送件数は、協力荷主企業57社の268件を含む4324件。
「出荷前日以前の早期運送依頼」の割合は38%である。
 フォーキャスト情報を踏まえた手動配車では、集配効率が従来型の「直前の運送依頼」による配車と比べて、東海地域でプラス5・5ポイント、関東地域でプラス6・1ポイントの向上がみられた。
また、幹線の運行効率は東海→関東間でプラス2・2ポイント、関東→東海間でプラス2・1ポイントとなった。
この結果から、サプライ側にある受注者・荷送人企業だけではなく、デマンド側の発注者・荷受人企業とのさらなる調整の必要性を感じた。
 一方、自動配車による集配のマッチング、アジャスティングおよびネゴシエーションによる輸送の効率性は、試算から東海地域でプラス39・7ポイント、関東地域でプラス17・4ポイントという大幅な向上を確認できた。
■配車計画のAI化と公平な配車  地域物流では、大手運送事業者のみのネットワークではなく、地域の中核運送事業者、実行運送事業者の参画による共同輸配送ネットワーク構築が必要となる。
今後、複数の運送事業者が参加する際にはトラックドライバーの仕事量、売り上げに公平感が感じられるような業務環境作りが求められる。
 トラックドライバーが公平感を享受するためには、配車計画において、仕事量のポイント化と、売り上げを含めた平準化が重要となる。
AIを活用した平準化の取り組みでは、仕事量をポイント化する際の対象を、車両と運送依頼の二つに設定した。
 車両単位のポイント化の要素は「車格」「走行時間」「走行距離」である。
また、運送依頼のポイント化における要素は「重量」「積卸回数」「輸送荷姿」「輸送個数」「附帯作業」となる。
仕事量のポイント=①車格+②走行時間+③走行距離+(④重量+⑤積卸回数+(⑥輸送荷姿×⑦輸送個数)+(⑥輸送荷姿×⑧附帯作業))  この取り組みで用いた車両に紐づく運送依頼の実績データは、トラックドライバーの仕事量、売り上げの双方で、バラツキ(標準偏差)の上昇傾向が見られた。
一方、AIによる仕事量と売り上げの二つを軸とした平準化では、仕事量および売り上げ共にバラツキの抑制を確認できた。
 今後は配車担当者の知恵と経験への依存から脱却して、AI配車計画の機能を「荷主企業(集荷先・配達先)とドライバーの相性」や、「ドライバー単位の希望売り上げに合わせた重み付け」などまで考慮したものに高めていく必要があるだろう。
SIP地域物流ネットワーク化推進協  SIPスマート物流サービス「地域物流」の社会実装、つまり事業化には商習慣の見直しなども含めた大胆かつ包括的なイノベーションの推進が必要である。
1企業、1企業グループが単独で活動するだけではなく、できるだけ多くの荷主企業、運送事業者、さらに物流をサポートする立場の企業の認知・理解・賛同を得て、衆知を集める協調・協働の取り組みが重要となる。
 「地域物流モデル」の社会実装に向けて、荷主企業と物流事業者の新たな「協働」を促す枠組みとして21年10月に「SIP地域物流ネットワーク化推進協議会」が設立された。
その会員数は、22年4月1日現在で100を数えている。
同協議会は、地域の中堅・中小企業における企業間の「連携・協働」による「中ロット貨物パレット共同輸配送」の構築、普及ならびに啓蒙を目指している。
 業種業態を越えた共同輸配送により、自社単独や同業者だけでは達成できない積載率および運行効率の向上を図り、人手不足によって懸念される輸送力低下の解消やドライバーの働き方改革・待遇改善を促進するものと期待している。

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