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2022年5月号
特集

《海外論文》SCMにおけるAI活用──体系的文献調査

イントロダクション  世界は年を追うごとにデジタル化が進行しており、ブロックチェーン、IoT、クラウドコンピューターなどをはじめとする「インダストリー4・0」のテクノロジーは、未来へと続く道とされている。
 そうした中でも最も重要なテクノロジーの一つが人工知能(AI)である。
それは機械が人間とコミュニケーションを取り、人間の能力を模倣する能力として定義される。
AIを活用すれば、大量のインプットによって、より高精度かつ高速の問題解決が可能になる。
 AIは決して新しいテーマではなく、新たな学術研究分野というわけでもない。
しかし近年、技術開発が進み、AIにはアプリケーションの広大な沃野が広がっていることが次第に明らかになると、SCMを含む多種多様な分野のプロセスにAIが適用されるようになり、世間の注目を集めることになった。
 ITの一部がその必要性を低下させる一方で、AI技術が競争優位をもたらすものとして浮上してきたのである。
実際、多くの企業が機能性改善を目的として、リモートモニタリングから最適化、果てはAIをベースとする最新の自律システムへとシフトしつつある。
 産業界における重要性が大きくなるに伴って、学術的言説におけるAIのプレゼンスもより広く大きくなっている。
そのことがビジネスリサーチなど多くの分野に影響を及ぼしている。
 現在ではAIは全体論的視点からの研究が進められているが、そのなかでもSCMは、AIを利用したアプリケーションから最も恩恵を受ける領域として認知されている。
そして、AIに関する膨大な数の研究は、実務家と研究者からそれが大きな注目を集めていることを示している。
 しかしながら、AIのSCMに対する貢献についての調査はあまり行われていない。
そこで本稿では、AIがSCMにどのように貢献しているのかを、研究論文の体系的調査に基づいて明らかにしていきたい。
調査方法  最終的に調査対象とした研究論文は、全部で64件に上る(編集部注:その他、調査方法などについては省略)。
調査結果 最も注目されるAI技術は何か?  SCM分野に活用できるAI技術は多岐にわたるが、その中でも特に目立つものがいくつかある。
最も普及し、かつ影響力も大きいものが「人工ニューラルネットワーク(ANN=Artificial Neural Network)」である。
 ANNは大量のデータからパターン・知識・モデルを発見するために利用される情報処理技術である。
通常、入力層と出力層のストリームを相互関連させる回帰的手法を用いる。
驚くほどの汎用性があり、計算知能における主要な技術として利用されることが多い。
 こうしたアプリケーションは、SCMの分野では販売予測・マーケティング意思決定支援システム・価格設定・顧客セグメンテーションなどから、生産予測・サプライヤー選定・需要管理・需要予測などにまで利用される。
 今日のビジネスにおいてANNは、ますます一般的なものになってきている。
その理由は、問題解決のルールやアルゴリズムが分からない、もしくは明確ではないデータ集約型問題に対するANNの問題解決能力にあるといえよう。
 ANNに次いで注目されているのが「ファジィ論理(fuzzy logic)」である。
1965年にカリフォルニア大学バークレー校のロトフィ・ザデーが最初にファジィ理論を提唱してから既に半世紀以上経つ。
しかし、それが複雑なモデルやシステムを扱う卓越した技術として広く認められるようになったのは、ごく最近のことである。
ファジィ論理が急速に発展し普及が進んでいる理由は、定性的情報を、人間が推論や判断を行うのと同じような方法で完璧に処理できることにある。
 SCM研究においては、「エージェント・ベース・システム(ABS=Agent Based System)」と「マルチエージェントシステム(MAS=Multi-Agent System)」もしばしば用いられる技術である。
 ABSは、計算モデルの一種であり、個体もしくは集合体である自律したエージェントの行為と相互作用が、システム全体に及ぼす影響をシミュレートする。
この技術はゲーム理論、計算社会科学、進化的プログラミングなどから成る複雑なシステムである。
言い方を変えるなら、エージェントとは、周囲の環境を認識し、特定の課題に対して自律的かつ予測的に行動できる存在のことである。
 また、目標達成に向けてエージェント同士が連携すれば、それがエージェントのネットワーク、すなわちマルチエージェントシステムとなる。
それらがコードとデータを含むソフトウエアの一部として機能することで、複雑なシステムのモデル化・設計・実装が可能となる。
 エージェントは、SCMやその他の分野におけるある種の問題を解決するため、90年代の半ば以降、広く用いられるようになった。
分散型サプライチェーンプランニング、サプライチェーンシステムの設計とシミュレーション、サプライチェーンの複雑な動きの分析、交渉ベースのコラボレーションモデルなどがその応用例である。
 「遺伝的アルゴリズム(GA=Genetic Algorithm)」 は、最も影響力の大きいAI技術の一つである。
自然淘汰を範とする探索手法であり、問題を適切に解決できる段階までアルゴリズムが進化する。
こうしたアルゴリズムでは、特定の問題に対する潜在的な解決策を、染色体に似たデータ構造を用いてエンコードする。
そしてその構造に重要な情報を保存するというやり方で、遺伝子操作が施される。
 一般的にはGAは、最適化問題の解法とされており、適用される問題の範囲は非常に幅広い。
SCM研究においては、そのアプリケーションの多様さから一般的な技術となっており、サプライチェーンネットワークの多目的最適化、グリーンサプライチェーンにおけるパートナー選択、マルチプロダクト・サプライチェーン・ネットワーク、クローズド・ループ・サプライチェーンの問題解決などに用いられる。
 データベースの巨大化を背景に、いくつかの分野が融合して生まれた新しい学問分野──それが「データマイニング(data mining)」である。
巨大データベースには価値のある情報が含まれており、データベースの所有者は、それらにデータマイニングを施すことで、意思決定その他のプロセスに役立てることができる。
 SCM分野では倉庫のコントロールとモニタリング、食品サプライチェーンとその持続可能性、ナレッジマネジメント、マーケティング、サプライチェーン・イノベーション・ケイパビリティの強化などに応用が可能である。
 いくつかの研究は「事例ベース推論(CBR=Case-Based Reasoning)」を扱っている。
これは人間がさまざまな問題を解決することを通じて学んでいくという、認知心理学の知見を基にしている。
類似の問題を解決したエピソードを収集・保存した“事例”集を検索し、その解決策を新しいニーズに適合するよう手直しすることにより、新たな問題を解決する。
 SCM研究では、需要が安定しないサプライチェーンの設計メカニズム、サプライチェーン・リスク・マネジメント、サプライヤー評価、アジャイルSCM、サプライチェーンネゴシエーションなどの分野で用いられている。
 集団的知性の一種である「群知能(swarm intelligence)」は、社会性昆虫の行動研究であり、巣と食糧源の最短ルートを発見したり、複数の巣を組織したりといった複雑な問題の解決を図る際に、その効率性を判断する。
 こうした技法はこの20年間、エンジニアリング・科学・工業のほぼあらゆる領域で大きな注目を集めてきた。
SCM分野では、価格戦略のシステムデザイン、製品ラインの最適化、在庫補充、サプライチェーンネットワークの構造最適化、サプライチェーンコストの最小化、アジャイル・サプライチェーン・ネットワークの設計、などに利用される。
 「サポート・ベクター・マシン(SVM=Support Vector Machine)」は、データ分類に線形識別器を利用し、ノイズの多い煩雑なデータセットから微かなパターンを読み取る。
90年代に登場して、サプライチェーンの需要予測や時系列分類、サプライヤーの選定、サプライチェーンネットワークのシステム設計など、種々の目的で多くの研究に用いられてきた。
 上記の主要なAI技術以外にも、焼きなまし法、自動計画、相関ルール、樹木モデル、山登り法、k平均法、エキスパートシステム、ヒューリスティクス、ロボットプログラミング、確率的シミュレーション、ベイジアンネットワーク、粘菌モデル、ルールベース推論、決定木、ガウスモデルなど、注目すべき技術は数多い。
今後、活用が期待されるAI技術は何か?  これからのSCM研究で大いに役立つにもかかわらず、研究者からはあまり、あるいはまったく注目されていないAI技術も数多い。
そうした中で最も期待できるものの一つが、人間の言葉(自然言語)をコンピュータープログラムへインプットする「自然言語処理(NLP=Natural Language Processing)」である。
そのアプリケーションは、簡単なもの(単語に品詞を割り当てるなど)から高度なもの(質問に対する回答など)まで多岐にわたる。
 簡単に言うとこれは、コンピューターを使って人間の言葉を解釈し、それをテキストやスピーチというかたちで処理することである。
機械翻訳(テキストやスピーチをある言語から別の言語へと自動的に翻訳すること)は、コンピューターの歴史のごく初期から試みられており、今ではさまざまな業界の多くのタスクで幅広く活用されている。
 自然言語処理インターフェースによって、人間が自然言語を通してデータベースへ問い合わせをすることなどが可能になる。
人間と機械の相互作用が容易になり、さらには強化されるポテンシャルを持つことから、SCMにおいて自然言語処理は、橋渡し役として欠くことのできない役割を果たしている。
例えば種々の文章の中から、生産・製造・ロジスティクスに役立つ情報を見つけ出すテキストマイニングは、その実例の一つである。
 「タブー探索法(TS=Tabu Search)」は、より悪い改悪解(もしくは実行不可能な解)であっても受け入れ、さらに現在の解の近傍にある探索履歴に範囲を限定することで、局所的最小値の罠を回避する近傍探索メソッドである。
可能な解を限定した局所探索アルゴズムといってもよい。
 焼きなまし法と同様に、自然言語処理はSCMの分野でもクローズド・ループ・サプライチェーン・ネットワークの問題解決や、多層構造サプライチェーンネットワークに活用されている。
 しかしこの技術には、SCM分野でさらに幅広く深く活用され得るポテンシャルがある。
昨今では、焼きなまし法・遺伝的アルゴリズム・タブー探索法といったヒューリスティックな技法が、ある種の最適化問題の解決策として提唱されているが、その中でもタブー探索法はとかく見落とされがちなのである。
 「ロボットダイナミクス」が、シミュレーションと制御のための加速度計算の問題に重点を置くのに対し、「ロボットプログラミング」は、ロボット(電子システムと連動した機械装置)に何をすべきか指示を与える。
消費者が迅速で間違いのない配送を求めるようになったことで、よりアジャイル(機敏)なサプライチェーンが必要であると考えられるようになったことが、こうした技術が求められる理由の一つである。
 SCMでいまひとつその本領を発揮できていないAI技術が、「エキスパートシステム(expert system)」である。
主に推論と意思決定の分野で使われるこのシステムは、人間の意思決定能力の模倣をする。
意思決定支援システムで活用できるが、中でもロットまとめ、サプライヤー/バイヤー選びなどに適している。
AIを活用して既に改善を達成しているSCMのサブカテゴリーにはどういったものがあるか?  ロジスティクスでは主に、コンテナターミナルの管理運営とロットまとめという二つのサブカテゴリーが目立つ。
こうした分野では、ターミナルオペレーターが、それぞれのケースで最も適切なソリューションを見つけ出すことができるよう、意思決定支援システムを活用することが一般的である。
 ヒューリスティックプランナー(コンテナを適切な場所に割り当てるために入れ替えが必要な数量を計算)と、貪欲ランダム化適応探索モデルの手順(現状のバースの制約下で船舶の最適な順番を決める)を組み合わせることで、バースとコンテナクレーンの割当問題に対処するのである。
 「メタヒューリスティクス」とは、簡単なルールとヒューリスティクスを組み合わせることで、計算の難しい組合わせ最適化問題に対する近似解を得るという、全般的に高度なプロセスのことをいう。
 「貪欲ランダム化適応探索モデル(GRASP =Greedy Randomized Adaptive Search Procedure)」は、マルチスタート(多出発)あるいは反復を特徴とするメタヒューリスティクスであり、全ての反復は構築と局所探索という二つのフェーズで構成される。
前者がソリューションを生み出し、もしそれが実行可能でなければ、手直しをした探索法が適用される。
 「自動計画(automated planning)」は、予想される結果をあらかじめ計算した上で、行動を選択・組織化する思考プロセスのことである。
一般的には、製品・工場・輸送機器などに関する情報を利用して、積込作業を全て自動化することに用いられる。
 インバウンドロジスティクスのプロセスも、データマイニング技術によって改善が図られてきた分野である。
AIが作る多次元の概念フレームワークが、ロジスティクスシステムの自動化における人間と機械のコラボレーションシステムを支える。
 人工ニューラルネットワーク・ファジィ論理・データマイニング・サポートベクターマシンなどによるサプライチェーンの需要予測と管理は、より高精度で高性能な効果的アプローチによる予測メソッドとして、SCMの中心的存在であり続けている。
 研究者たちの注目を集めるいま一つの分野が、サプライヤー選定である。
この分野ではベイジアンネットワーク・人工ニューラルネットワーク・ファジィ論理などを活用して、より効果的で質の高いサプライヤー選定モデルを実現している。
 マルチエージェントシステムは、SCMプロセス管理のシミュレーションに利用される。
確率的シミュレーションは人道的施設の立地の意思決定支援システムに、粘菌モデルはサプライチェーン・ネットワーク・デザインの効率と実用性の向上に、ファジィ論理はリスクマネジメントとモニタリングシステムの効率向上に、それぞれ利用される。
 共進化粒子群最適化アルゴリズムは、従来のものより費用対効果という面で優るアルゴリズムを用いることで、点在する工場・倉庫・小売店舗への在庫補充の問題に取り組む。
サプライチェーンプランニングでは、エージェント・ベース・システムが、基準に素早く反応してより良い戦略に適応するフレームワークの設計に用いられる。
 グローバリゼーションとアウトソーシングの波が押し寄せてくるとともに、危機管理が重要な課題として浮上することになった。
AI研究者たちは、マルチエージェントシステムを用いてこの問題に対処しようとしている。
消費予測にはサポート・ベクター・マシンと人工ニューラルネットワークが使われ、石油消費予測モデルの改善に寄与している。
また、グローバル・バリュー・チェーンおよびサプライチェーンの統合には、それぞれマルチエージェントシステムと人工ニューラルネットワークが利用され、モデルの改善と予測に役立っている。
まとめ  AIアプリケーションの成長と精緻化の背景には、近年、計算能力が目覚ましく発展したことがある。
しかしAI技術と一口に言っても、その中には他と比べてより広い範囲で活用されているものがあることが、今回の調査で明らかになった。
 最も普及しているAI技術は「人工ニューラルネットワーク」であり、これは通常、人間には見分けることができない複雑なパターンを発見するために用いられる。
具体的には、パターンの分類・概算・最適化・クラスタリング・関数・予測・内容検索・プロセス制御などである。
 2番目に挙げられるのが、部分的な真を扱う多値論理、すなわち「ファジィ論理」である。
ある集合に属すか属さないかの二者択一である従来の集合論とは異なり、ファジィ集合は0と1の間の任意の値をとる。
ファジィ論理は曖昧な事象を自然言語で表すことができる。
モデリングツールとして広く活用されているだけでなく、ハイブリッドインテリジェントシステムを生みだす技法としても一般的である。
 3番目の「エージェント・ベース・システム」および「マルチエージェントシステム」には、SCM分野の幅広いアプリケーションがある。
普及の進んだこの技術では、まず周囲の環境を認識し、そして何かしらの課題を解決するため自律的・能動的に行動する。
 こうしたエージェントはサプライチェーンプランニング、サプライチェーンシステムの設計とシミュレーション、サプライチェーンの複雑な動きの分析、コラボレーションモデリング、交渉ベースのコラボレーションモデリングなど、いくつかのタイプの問題を解決するのに用いられる。
 その他、研究文献に現れる主立った技術には以下のようなものがある。
すなわち、さまざまなカテゴリーの最適化問題に対応できる自然淘汰に倣った検索手法である「遺伝的アルゴリズム」、ビッグデータに基づく意思決定やインサイトの獲得を目的に用いられる「データマイニング」、収集・保存された問題解決エピソードから同じような事例を検索し、そういったソリューションを新たな要請に適合させる、認知心理学ベースの「事例ベース推論」、複雑な問題に社会性昆虫の行動を模倣することで取り組む「群知能」、混沌としたデータセットから、線形識別器を利用して微細なパターンを読み取る「サポートベクターマシン」等々である。
 今回の調査でわれわれは、ネットワークベースのSCMとロジスティクスには、AIを実装するためのフレームワークが自ずから備わっているということをあらためて確認した。
例えば、大量のデータを生み出すサプライヤーのネットワークでは、アジャイル(迅速)な意思決定が必要とされる。
こうした場合には、ビッグデータ分析と意思決定支援システムに、AIツールを活用することが強く推奨される。
 SCM企業は、膨大な物量・無駄のないアセットアロケーション・薄利・納期厳守という環境下にあって、統一的に機能する物理ネットワークおよびデジタルネットワークに依存している。
AIはネットワークの調和的な統合を効率的なやり方で改善・最適化するが、それは人間には不可能なことである。
だからこそ、対話型の意思決定支援システムが、AIソリューションに関する理解を深め、そのケイパビリティをも改善することになるのである。
 こうしたシステムを援用することで、AIはこの業界の慣行を再定義することになる。
すなわちオペレーションは事後に動くリアクティブから事前に動くプロアクティブに、プロセスは人の手から自律に、サービスは統一規格からカスタマイズに、生産計画はあいまいな推測からデータに基づく予測へと、それぞれ進化するのである。
 AIの普及には、コンピューターチップ技術の進歩が必要不可欠である。
輸送に関わるロジスティクス分野では、トラッキングのためにコンピューターチップを利用することがどうしても必要になる。
そしてトラッキングは大量のデータを生み出し、それらは種々の目的に応じて分析・解釈されるため、こうしたプロセスの研究が求められるのである。
(翻訳構成 大矢英樹)

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