2022年3月号
特集
特集
問題の本質は何か、物流に何が起きるのか
24年問題の前史としての「物流二法」
1990年(平成2年)の貨物自動車運送事業法と貨物運送取扱事業法、いわゆる「物流二法」の施行に伴う規制緩和によって、トラック運送事業は「免許制」から「許可制」に移行した。
これにより新規参入事業者が増え、以降の約25年間で事業者数が1・5倍以上に増加した。
一方、「失われた20年」とも呼ばれる景気低迷期には輸送需要が低迷し、減っていく貨物を増えていく事業者が取り合うという構図の中で事業者間の荷主獲得競争が激化した。
これらが相まって物流業界では運賃や料金の水準が低迷していくこととなった。
トラック運送事業は、総経費の約半分を人件費が占める典型的な労働集約産業である。
運賃水準の低迷は人件費の圧縮に直結し、荷主獲得競争の激化はトラック業界の荷主に対する相対的な立場の低下を招いた。
そのことが「他業種と比べて労働時間が2割長く、年間賃金が2割低い」という現在のトラックドライバーの労働環境へとつながっていったのである。
トラックドライバーについては「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(以下、改善基準告示)と呼ばれる、ドライバー特有の法的ルールが存在している(図表1)。
この「改善基準告示」の中では、一般的な労働者とは大きく異なるトラックドライバーの労働時間や運転時間、休息期間などにおける特別な規制が設けられている。
他産業ではみられない労働時間と休憩時間を合わせた「始業から終業までの時間」、いわゆる「拘束時間」についても規定されている。
しかし、こうしたルールに関する違反が高水準で推移しているのが実態である。
物流業界の多重的な請負構造によって適切な運行管理がなされていないという問題が長年にわたって指摘されている。
ドライバー特有のルールが存在していること自体を、荷主が十分に理解していないケースもかなりある。
ドライバーは脳・心臓疾患の労災支給決定件数が最も多い職種にもなっており、その労働条件および安全衛生の確保と改善を一層推進することが喫緊の課題となっている。
「働き方改革関連法案」の成立と 「貨物運送事業法」の改正 2018年6月29日、「働き方改革の総合的かつ継続的な推進」「長時間労働の是正と多様で柔軟な働き方の実現等」「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」の三つを柱とした、いわゆる「働き方改革関連法案」が可決・成立した。
これにより、大企業については19年4月1日から、中小企業については20年4月1日から、年720時間の時間外労働の罰則付き上限規制が適用されることとなった。
しかし、トラックドライバーを含む自動車の運転業務に関しては、移行のための十分な猶予期間を設定するため、その適用時期を24年4月1日とした。
さらに「将来的には一般則の適用を目指す」こととして、上限については年960時間(=月平均80時間以内)から段階的に実施することで、長時間労働を是正するための環境整備を強力に推進することとされた。
こうしたことを背景として、トラック運送業の働き方改革の実現と労働力の確保に向けて、1990年の物流二法施行によって緩和されたトラック運送業への参入規制を再び強化するとともに、悪質な事業者の排除と荷主対策の深度化を柱とする改正貨物運送事業法が2018年12月8日に可決・成立した。
改正貨物運送事業法では、荷主の配慮義務の新設や荷主勧告制度の強化に加えて、23年度末までの時限措置として標準運賃の告示制度を導入するとともに、国土交通大臣による荷主への働きかけなどの規定を新設した。
トラックドライバーの労働環境改善のためには荷主の協力が不可欠であることを明示的に盛り込むことで、荷主の理解・協力のもとで働き方改革・法令遵守を進める内容となっている。
一連の流れを時系列で示したのが図表2である。
見て分かる通り、トラックドライバーの働き方改革に関しては19年以降、毎年のように新たなルール改正が進められている。
その総仕上げと位置付けられる内容が24年4月1日の「年960時間の時間外労働の罰則付き上限規制が適用」なのである。
これに合わせて、先に示した改善基準告示についても改正することが決まっており、厚生労働省で既に検討が進められている。
それでは、なぜ自動車運転者の上限規制適用にだけ5年もの猶予期間が設定されたのか。
その理由は、960時間という上限値が実際のトラックドライバーの労働時間とあまりにもかけ離れていたからである。
従来から36協定で定める時間外労働については上限の基準が、一応は定められていた。
しかし、このルールには罰則による強制力がなかった。
その上、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合には、「特別条項付きの36協定」を締結することで、限度時間を超える時間であっても、上限なく時間外労働を行わせることが可能だった。
そこには、一般則である720時間に対して240時間も長い960時間であっても、一朝一夕にはこれを遵守させることが難しいという行政の判断があった。
そのために、上限規制適用に5年の猶予期間が設けられたわけである。
トラックドライバーの労働環境がいかに厳しかったのかを雄弁に物語っているといえよう。
これが今回の改正によって、24年以降は特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が年960時間に定められ、違反した場合には6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金という「罰則」が課されることになった(図表3)。
働き方改革関連法の中には、実はもうひとつ、多くのトラック運送事業者に適用が猶予されていた内容がある。
それが「割増賃金率の引き上げ」である。
月60時間を超える時間外労働については、大企業に対しては既に10年より50%の割増賃金率が適用されていた。
だが、中小企業に対しては従前の25%に据え置かれ、当面の間は適用が猶予されていた。
つまり、大半が中小零細企業であるトラック運送事業者は基本的には割増賃金率の引き上げの適用が猶予されていた。
23年4月、中小企業における月60時間超の時間外労働への割増賃金率の適用猶予は廃止される。
これによって中小企業でも、60時間超の割増賃金率は50%(60時間以下の割増賃金率は25%)となり、こちらも違反した場合には6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金という「罰則」が課される(図表4)。
乗務員の給与体系と労働時間の関係性 割増賃金率の引き上げも、年960時間の時間外労働の罰則付き上限規制適用も、いずれも時間外労働を抑制することを目的としたルール変更である。
「他業種と比べて2割長い」という労働時間だけが、トラックドライバー不足の大きな要因であったのであれば、これらは一見して何の問題もないこと、むしろ歓迎すべきことのようにもみえるだろう。
しかし、トラックドライバー不足にはもうひとつの大きな要因がある。
それは「他業種と比べて2割低い」といわれる年間賃金である。
トラック運送事業者に多くみられる給与体系は、「固定給+時間外割増+歩合給+諸手当」といった内容である。
固定給を低く抑えて時間外割増、歩合給を厚くしている事業者も多く、こうした給与体系では基本的に「仕事量の分だけ給与が上がる」ことになる。
しかし、これは裏を返せば「仕事量が減れば給与が下がる」ということを意味する。
働くことのできる時間が少なくなれば、運ぶことのできる貨物量や走ることのできる距離は当然これに応じて短くなる。
そして、労働時間が減ることは仕事量が減ること、すなわち年間給与が減ることに直結する。
そのため、トラックドライバーにとって労働時間の短縮は手放しに喜べる話ではないのである。
前述のようにトラックドライバー不足の要因の一つは「他業種と比べて2割低い年間賃金」である。
労働時間短縮によってドライバーが減収になるのであれば、まさに本末転倒だ。
労働時間の短縮が逆にトラックドライバーの大量退出や人材不足を惹起してしまう可能性すらある。
「運ぶことのできる貨物量や走ることのできる距離」が減るということは、運賃水準がそのままであれば、トラック運送事業者にとっても単純に運賃収入の減少に直結することになることは言うまでもない。
それを回避するためには50%の割増賃金を払ってでもトラックドライバーに時間外労働をしてもらう必要がある。
一方で時間外労働に対する罰則付きの上限規制が適用されると、割増賃金を払ったとしても働くことのできる時間は限られてしまう。
従って、運賃収入を確保するために一定の業務量をさばこうとすれば、今までドライバー1人で回していた運行を2人、3人で回さざるを得なくなる。
しかし、トラックドライバーの有効求人倍率は全産業平均に対して2倍近い水準で推移している。
現在の環境下で増員は容易ではない。
すなわち「運ぶものはあっても物理的に運べない」という状況が現実味を帯びてくる。
そうすると事業者はどうするか。
「手間や時間のかかる荷主の案件は受けられない」ということになるだろう。
「物流は経済の血液」と言われる。
物流はわが国の経済にとって重要なインフラであり、それは日本の貨物輸送量の約9割を占めるトラック輸送によって支えられている。
そのトラック輸送が「運ぶものはあっても物理的に運べない」あるいは「手間や時間のかかる荷主の案件は受けられない」ということになれば、わが国の経済は危機的な状況に陥る。
繰り返しになるが「他業種と比べて2割長い労働時間」と「他業種と比べて2割低い年間賃金」がドライバー不足の主要因である。
このうち労働時間の方が割増賃金率の引き上げと時間外労働の罰則付き上限規制適用により改善されるという前提で考えれば、残る最大の問題は「他業種と比べて2割低い年間賃金」ということになる。
ドライバーはトラック運送事業者の社員であり、その待遇は一義的には事業者の責任ではあるが、その原資となるのは他ならぬ、荷主からの収受運賃である。
運賃や料金の水準が低迷する状況下において、ドライバーの労働条件の改善には荷主の理解と協力が必須ということである。
■2024年問題への処方箋 「ホワイト物流推進運動」 内閣官房副長官を議長とし、関係省庁の局長などを構成員として17年6月に設置された「自動車運送事業の働き方改革に関する関係省庁連絡会議」は翌5月に「自動車運送事業の働き方改革の実現に向けた政府行動計画」をとりまとめた。
そこには、自動車運送事業の働き方改革の実現に向けた政府行動計画として88の施策が掲げられるとともに、荷主を含めた幅広い関係者が連携して多様な人材が活躍できる労働環境の実現に取り組む「『ホワイト物流』推進運動の展開」に関する施策などが盛り込まれた。
これを受けて、18年12月14日に第1回ホワイト物流推進会議が開催された。
その会議において、トラックドライバーの、より「ホワイト」な労働環境の実現に取り組む「ホワイト物流」推進運動を、荷主企業、トラック運送事業者、国民などの関係者が連携して強力に推進することが決定された。
この「ホワイト物流」推進運動は、荷主企業とトラック運送事業者、消費者が理解、協力してトラックドライバーの労働環境を改善するためのプラットフォームといえる。
これを「荷主の理解と協力が必須」という点から考えれば、その効果が最大限発揮されるためには、より多くの荷主企業の賛同が望まれるところである。
21年12月末時点の「ホワイト物流」推進運動の自主行動宣言提出企業1315社の内訳を見ると、全体の半数以上が「運輸業・郵便業」であり、荷主の中心となる「製造業」と「卸売業・小売業」を合わせても「運輸業・郵便業」の企業数に対して7割弱の水準にとどまっている。
企業がこのような宣言を行う際には社内のコンセンサスが必要である。
大企業ほど、そのプロセスは複雑であり、かつ時間もかかるのが常であるため「宣言提出企業が少ない=運動が広がっていない」ということではないと筆者は捉えている。
しかし、ドライバーの労働条件の改善には荷主の理解と協力が必須という観点からは、いささか物足りなさを感じる。
■2024年問題への処方箋 「標準的な運賃の告示制度」 トラックドライバーの賃金の原資ともなる収受運賃に関しては、もうひとつの動きがある。
それが「標準的な運賃の告示制度」である。
トラック運送事業者の多くは、運賃や料金の水準が低迷する中で適正な水準の運賃が収受できず、その結果としてトラックドライバーの労働環境の改善やそのために必要な賃金アップのみならず、トラックドライバー確保策や確保に向けた投資などが円滑に実施しにくい事業環境に置かれてきた。
18年12月の改正貨物自動車運送事業法では、荷主の配慮義務の新設や荷主勧告制度の強化に加えて、トラックドライバーの労働条件を改善し、トラック運送事業者が法令を遵守して持続的に事業を行っていくための参考となる運賃を示すことを目的とする「標準的な運賃の告示制度」を23年度末までの時限措置として導入した。
同時に国土交通大臣による荷主への働きかけなどの規定を新設することで、荷主企業の協力のもとでトラックドライバーの労働環境改善を進めることが示されている。
このような経緯から持続可能な物流の実現に向けて、取引の適正化・労働条件の改善を進めることを目的として、20年4月24日にトラック運送業に関わる「標準的な運賃」が告示された。
この「標準的な運賃」は、①ドライバーの労働条件を改善するとともに、②貨物自動車運送事業の健全な運営を確保し、③その担う貨物流通の機能の維持向上を図ることを目的に、能率的な経営の下における適正な原価と適正な利潤を基準として、国土交通大臣が望ましい水準の運賃を示したものである(図表5)。
「標準的な運賃」の策定に当たっては、前述の①②③を実現するために必要な費用を適正な原価に含めるとともに、このような費用が現在のトラックドライバーの平均労働時間(約2600時間)ではなく、全産業平均の労働時間並み(約2086時間)の労働によって回収することができるよう算出されている。
つまり「他業種と比べて2割長い労働時間」と「他業種と比べて2割低い年間賃金」の双方を解決することの可能な水準を念頭に置いているというわけである。
解決には荷主の理解と協力が不可欠 ここまで述べてきたように、2024年問題の根本にあるのは、これまでの日本の物流が「他業種と比べて労働時間が2割長く、年間賃金が2割低い」というトラックドライバーの労働環境によって支えられていたという事実だ。
そのような状態が正常であろうはずがない。
2024年問題は、1990年の物流二法に端を発するわが国の物流が抱えている問題そのものである。
ドライバー不足はトラック運送事業者のみならず、荷主企業が直面する問題でもある。
そうした認識のもと、ドライバーの長時間労働や手荷役、低賃金に支えられる物流から、「人に優しい物流」へと転換する必要がある。
輸送力の確保に向けた『荷主とトラック運送事業者がWin-Winとなるパートナーシップの確立』が荷主にとってもトラック運送事業者にとっても重要なのである。
これにより新規参入事業者が増え、以降の約25年間で事業者数が1・5倍以上に増加した。
一方、「失われた20年」とも呼ばれる景気低迷期には輸送需要が低迷し、減っていく貨物を増えていく事業者が取り合うという構図の中で事業者間の荷主獲得競争が激化した。
これらが相まって物流業界では運賃や料金の水準が低迷していくこととなった。
トラック運送事業は、総経費の約半分を人件費が占める典型的な労働集約産業である。
運賃水準の低迷は人件費の圧縮に直結し、荷主獲得競争の激化はトラック業界の荷主に対する相対的な立場の低下を招いた。
そのことが「他業種と比べて労働時間が2割長く、年間賃金が2割低い」という現在のトラックドライバーの労働環境へとつながっていったのである。
トラックドライバーについては「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(以下、改善基準告示)と呼ばれる、ドライバー特有の法的ルールが存在している(図表1)。
この「改善基準告示」の中では、一般的な労働者とは大きく異なるトラックドライバーの労働時間や運転時間、休息期間などにおける特別な規制が設けられている。
他産業ではみられない労働時間と休憩時間を合わせた「始業から終業までの時間」、いわゆる「拘束時間」についても規定されている。
しかし、こうしたルールに関する違反が高水準で推移しているのが実態である。
物流業界の多重的な請負構造によって適切な運行管理がなされていないという問題が長年にわたって指摘されている。
ドライバー特有のルールが存在していること自体を、荷主が十分に理解していないケースもかなりある。
ドライバーは脳・心臓疾患の労災支給決定件数が最も多い職種にもなっており、その労働条件および安全衛生の確保と改善を一層推進することが喫緊の課題となっている。
「働き方改革関連法案」の成立と 「貨物運送事業法」の改正 2018年6月29日、「働き方改革の総合的かつ継続的な推進」「長時間労働の是正と多様で柔軟な働き方の実現等」「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」の三つを柱とした、いわゆる「働き方改革関連法案」が可決・成立した。
これにより、大企業については19年4月1日から、中小企業については20年4月1日から、年720時間の時間外労働の罰則付き上限規制が適用されることとなった。
しかし、トラックドライバーを含む自動車の運転業務に関しては、移行のための十分な猶予期間を設定するため、その適用時期を24年4月1日とした。
さらに「将来的には一般則の適用を目指す」こととして、上限については年960時間(=月平均80時間以内)から段階的に実施することで、長時間労働を是正するための環境整備を強力に推進することとされた。
こうしたことを背景として、トラック運送業の働き方改革の実現と労働力の確保に向けて、1990年の物流二法施行によって緩和されたトラック運送業への参入規制を再び強化するとともに、悪質な事業者の排除と荷主対策の深度化を柱とする改正貨物運送事業法が2018年12月8日に可決・成立した。
改正貨物運送事業法では、荷主の配慮義務の新設や荷主勧告制度の強化に加えて、23年度末までの時限措置として標準運賃の告示制度を導入するとともに、国土交通大臣による荷主への働きかけなどの規定を新設した。
トラックドライバーの労働環境改善のためには荷主の協力が不可欠であることを明示的に盛り込むことで、荷主の理解・協力のもとで働き方改革・法令遵守を進める内容となっている。
一連の流れを時系列で示したのが図表2である。
見て分かる通り、トラックドライバーの働き方改革に関しては19年以降、毎年のように新たなルール改正が進められている。
その総仕上げと位置付けられる内容が24年4月1日の「年960時間の時間外労働の罰則付き上限規制が適用」なのである。
これに合わせて、先に示した改善基準告示についても改正することが決まっており、厚生労働省で既に検討が進められている。
それでは、なぜ自動車運転者の上限規制適用にだけ5年もの猶予期間が設定されたのか。
その理由は、960時間という上限値が実際のトラックドライバーの労働時間とあまりにもかけ離れていたからである。
従来から36協定で定める時間外労働については上限の基準が、一応は定められていた。
しかし、このルールには罰則による強制力がなかった。
その上、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合には、「特別条項付きの36協定」を締結することで、限度時間を超える時間であっても、上限なく時間外労働を行わせることが可能だった。
そこには、一般則である720時間に対して240時間も長い960時間であっても、一朝一夕にはこれを遵守させることが難しいという行政の判断があった。
そのために、上限規制適用に5年の猶予期間が設けられたわけである。
トラックドライバーの労働環境がいかに厳しかったのかを雄弁に物語っているといえよう。
これが今回の改正によって、24年以降は特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が年960時間に定められ、違反した場合には6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金という「罰則」が課されることになった(図表3)。
働き方改革関連法の中には、実はもうひとつ、多くのトラック運送事業者に適用が猶予されていた内容がある。
それが「割増賃金率の引き上げ」である。
月60時間を超える時間外労働については、大企業に対しては既に10年より50%の割増賃金率が適用されていた。
だが、中小企業に対しては従前の25%に据え置かれ、当面の間は適用が猶予されていた。
つまり、大半が中小零細企業であるトラック運送事業者は基本的には割増賃金率の引き上げの適用が猶予されていた。
23年4月、中小企業における月60時間超の時間外労働への割増賃金率の適用猶予は廃止される。
これによって中小企業でも、60時間超の割増賃金率は50%(60時間以下の割増賃金率は25%)となり、こちらも違反した場合には6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金という「罰則」が課される(図表4)。
乗務員の給与体系と労働時間の関係性 割増賃金率の引き上げも、年960時間の時間外労働の罰則付き上限規制適用も、いずれも時間外労働を抑制することを目的としたルール変更である。
「他業種と比べて2割長い」という労働時間だけが、トラックドライバー不足の大きな要因であったのであれば、これらは一見して何の問題もないこと、むしろ歓迎すべきことのようにもみえるだろう。
しかし、トラックドライバー不足にはもうひとつの大きな要因がある。
それは「他業種と比べて2割低い」といわれる年間賃金である。
トラック運送事業者に多くみられる給与体系は、「固定給+時間外割増+歩合給+諸手当」といった内容である。
固定給を低く抑えて時間外割増、歩合給を厚くしている事業者も多く、こうした給与体系では基本的に「仕事量の分だけ給与が上がる」ことになる。
しかし、これは裏を返せば「仕事量が減れば給与が下がる」ということを意味する。
働くことのできる時間が少なくなれば、運ぶことのできる貨物量や走ることのできる距離は当然これに応じて短くなる。
そして、労働時間が減ることは仕事量が減ること、すなわち年間給与が減ることに直結する。
そのため、トラックドライバーにとって労働時間の短縮は手放しに喜べる話ではないのである。
前述のようにトラックドライバー不足の要因の一つは「他業種と比べて2割低い年間賃金」である。
労働時間短縮によってドライバーが減収になるのであれば、まさに本末転倒だ。
労働時間の短縮が逆にトラックドライバーの大量退出や人材不足を惹起してしまう可能性すらある。
「運ぶことのできる貨物量や走ることのできる距離」が減るということは、運賃水準がそのままであれば、トラック運送事業者にとっても単純に運賃収入の減少に直結することになることは言うまでもない。
それを回避するためには50%の割増賃金を払ってでもトラックドライバーに時間外労働をしてもらう必要がある。
一方で時間外労働に対する罰則付きの上限規制が適用されると、割増賃金を払ったとしても働くことのできる時間は限られてしまう。
従って、運賃収入を確保するために一定の業務量をさばこうとすれば、今までドライバー1人で回していた運行を2人、3人で回さざるを得なくなる。
しかし、トラックドライバーの有効求人倍率は全産業平均に対して2倍近い水準で推移している。
現在の環境下で増員は容易ではない。
すなわち「運ぶものはあっても物理的に運べない」という状況が現実味を帯びてくる。
そうすると事業者はどうするか。
「手間や時間のかかる荷主の案件は受けられない」ということになるだろう。
「物流は経済の血液」と言われる。
物流はわが国の経済にとって重要なインフラであり、それは日本の貨物輸送量の約9割を占めるトラック輸送によって支えられている。
そのトラック輸送が「運ぶものはあっても物理的に運べない」あるいは「手間や時間のかかる荷主の案件は受けられない」ということになれば、わが国の経済は危機的な状況に陥る。
繰り返しになるが「他業種と比べて2割長い労働時間」と「他業種と比べて2割低い年間賃金」がドライバー不足の主要因である。
このうち労働時間の方が割増賃金率の引き上げと時間外労働の罰則付き上限規制適用により改善されるという前提で考えれば、残る最大の問題は「他業種と比べて2割低い年間賃金」ということになる。
ドライバーはトラック運送事業者の社員であり、その待遇は一義的には事業者の責任ではあるが、その原資となるのは他ならぬ、荷主からの収受運賃である。
運賃や料金の水準が低迷する状況下において、ドライバーの労働条件の改善には荷主の理解と協力が必須ということである。
■2024年問題への処方箋 「ホワイト物流推進運動」 内閣官房副長官を議長とし、関係省庁の局長などを構成員として17年6月に設置された「自動車運送事業の働き方改革に関する関係省庁連絡会議」は翌5月に「自動車運送事業の働き方改革の実現に向けた政府行動計画」をとりまとめた。
そこには、自動車運送事業の働き方改革の実現に向けた政府行動計画として88の施策が掲げられるとともに、荷主を含めた幅広い関係者が連携して多様な人材が活躍できる労働環境の実現に取り組む「『ホワイト物流』推進運動の展開」に関する施策などが盛り込まれた。
これを受けて、18年12月14日に第1回ホワイト物流推進会議が開催された。
その会議において、トラックドライバーの、より「ホワイト」な労働環境の実現に取り組む「ホワイト物流」推進運動を、荷主企業、トラック運送事業者、国民などの関係者が連携して強力に推進することが決定された。
この「ホワイト物流」推進運動は、荷主企業とトラック運送事業者、消費者が理解、協力してトラックドライバーの労働環境を改善するためのプラットフォームといえる。
これを「荷主の理解と協力が必須」という点から考えれば、その効果が最大限発揮されるためには、より多くの荷主企業の賛同が望まれるところである。
21年12月末時点の「ホワイト物流」推進運動の自主行動宣言提出企業1315社の内訳を見ると、全体の半数以上が「運輸業・郵便業」であり、荷主の中心となる「製造業」と「卸売業・小売業」を合わせても「運輸業・郵便業」の企業数に対して7割弱の水準にとどまっている。
企業がこのような宣言を行う際には社内のコンセンサスが必要である。
大企業ほど、そのプロセスは複雑であり、かつ時間もかかるのが常であるため「宣言提出企業が少ない=運動が広がっていない」ということではないと筆者は捉えている。
しかし、ドライバーの労働条件の改善には荷主の理解と協力が必須という観点からは、いささか物足りなさを感じる。
■2024年問題への処方箋 「標準的な運賃の告示制度」 トラックドライバーの賃金の原資ともなる収受運賃に関しては、もうひとつの動きがある。
それが「標準的な運賃の告示制度」である。
トラック運送事業者の多くは、運賃や料金の水準が低迷する中で適正な水準の運賃が収受できず、その結果としてトラックドライバーの労働環境の改善やそのために必要な賃金アップのみならず、トラックドライバー確保策や確保に向けた投資などが円滑に実施しにくい事業環境に置かれてきた。
18年12月の改正貨物自動車運送事業法では、荷主の配慮義務の新設や荷主勧告制度の強化に加えて、トラックドライバーの労働条件を改善し、トラック運送事業者が法令を遵守して持続的に事業を行っていくための参考となる運賃を示すことを目的とする「標準的な運賃の告示制度」を23年度末までの時限措置として導入した。
同時に国土交通大臣による荷主への働きかけなどの規定を新設することで、荷主企業の協力のもとでトラックドライバーの労働環境改善を進めることが示されている。
このような経緯から持続可能な物流の実現に向けて、取引の適正化・労働条件の改善を進めることを目的として、20年4月24日にトラック運送業に関わる「標準的な運賃」が告示された。
この「標準的な運賃」は、①ドライバーの労働条件を改善するとともに、②貨物自動車運送事業の健全な運営を確保し、③その担う貨物流通の機能の維持向上を図ることを目的に、能率的な経営の下における適正な原価と適正な利潤を基準として、国土交通大臣が望ましい水準の運賃を示したものである(図表5)。
「標準的な運賃」の策定に当たっては、前述の①②③を実現するために必要な費用を適正な原価に含めるとともに、このような費用が現在のトラックドライバーの平均労働時間(約2600時間)ではなく、全産業平均の労働時間並み(約2086時間)の労働によって回収することができるよう算出されている。
つまり「他業種と比べて2割長い労働時間」と「他業種と比べて2割低い年間賃金」の双方を解決することの可能な水準を念頭に置いているというわけである。
解決には荷主の理解と協力が不可欠 ここまで述べてきたように、2024年問題の根本にあるのは、これまでの日本の物流が「他業種と比べて労働時間が2割長く、年間賃金が2割低い」というトラックドライバーの労働環境によって支えられていたという事実だ。
そのような状態が正常であろうはずがない。
2024年問題は、1990年の物流二法に端を発するわが国の物流が抱えている問題そのものである。
ドライバー不足はトラック運送事業者のみならず、荷主企業が直面する問題でもある。
そうした認識のもと、ドライバーの長時間労働や手荷役、低賃金に支えられる物流から、「人に優しい物流」へと転換する必要がある。
輸送力の確保に向けた『荷主とトラック運送事業者がWin-Winとなるパートナーシップの確立』が荷主にとってもトラック運送事業者にとっても重要なのである。
