2022年3月号
特集
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荷主企業のリスク ・問題解決策・成功事例
2024年問題「荷主リスク診断表」
2020年2月に始まったコロナ禍は、人々の暮らしや経済に大きな影響を与えただけでなく、日本の物流業界に極めて痛い「失われた2年間」をもたらした。
本来であれば20年、21年を含め4年~5年がかりで、2024年問題の解決に向けた料金改定や取引改定などが行われるはずだった。
それがほぼ停滞してしまった。
図表1〜3は当社が昨年末に実施したアンケート調査の結果だ(有効回答131社。
うち荷主企業117社、物流企業11社、その他3社)。
「2024年問題の概要は理解しているが、具体的な行動には至っていない」を選択した企業が最も多く、回答の半分以上(54%)を占めている(図表1)。
一方、24年問題の具体的な対策を立案して、実行に移している企業では、長距離輸送と待機時間問題に着手していることが見て取れる(図表2)。
しかし、気になるのは図表3において、「社内の協力が得られない」という回答が25%に上っていることだ。
物流部門が製造部門や販売部門との調整役を果たすことが、いかに困難であるのかを想像できる。
24年4月まで2年余りに迫った今、カウントダウンが始まっているにもかかわらず、足元ではオミクロン株の急拡大により、またしても“待った”がかかっている。
このような状況で、果たして24年問題を乗り越えることができるのだろうか。
このまま24年4月を迎えた時には、いったい何が起きるのだろうか。
荷主企業においては、大きくは次の五つのリスクが想定される。
①元請け物流業や3PLからの強烈な運賃・作業費などの値上げ要請 ②取引縮小要請 ③取引撤退要請 ④実運送会社の廃業や倒産による輸配送分断もしくは停止 ⑤国内サプライチェーンの寸断 これらの危機的な状況を回避して問題を乗り切るには、ドライバーの拘束時間削減、付帯作業の抑制、待機時間の短縮などが重要なキーファクターとなる。
いずれも荷主の物流部門が調整役となり率先して改善を図っていかないと解決されない問題だ。
現場のオペレーションを3PLもしくは元請け協力会社に委ねていても、ドライバーの拘束時間や残業時間には、荷主から出される指示内容が大きく影響している。
荷降ろし地におけるドライバーのリフト操作や付帯作業を改善するには、荷主の営業部門を通じて納品先の顧客と交渉しなければならない。
図表4は24年問題対策のために当社が作成した荷主企業向けの「リスク診断表」だ。
荷主の物流実務家は自社の現状に当てはめて、該当する項目の影響を確認してほしい。
まずは正しく現状を把握して想定されるリスクを明らかにすることが2024年問題のスタートラインである。
“生き残り運賃”と市況のギャップ ドライバーの残業時間規制に起因する中長距離輸送の課題について、分かりやすい例を挙げよう。
ある大阪の実運送会社は、関西で荷物を積んで東京まで運び、関東で帰り荷を取り翌日に戻る往復輸送をメーンにしている。
ドライバーは1カ月当たり10回前後往復する。
しかし、現在の運行体制では月の残業時間が80時間を超えてしまうため、24年4月以降は運行回数を7回程度に減らす必要がある。
その結果、ドライバー1人当たりの運賃収入は20%~30%減少する。
ドライバーの賃金は運行回数や積荷手当などの歩合比率が高く、運行回数が減ることで支給可能な給料は少なくなる。
全産業比で総労働時間が20%多く、平均賃金が20%低い、とされるトラックドライバー職の給与がさらに下がれば、多くの離職者を生んでしまうことは明らかだ。
新卒や他業界からの転職は皆無となるだろう。
とりわけ現在、中長距離輸送を担っているドライバーの大半は、地場便と比べて手取りが多いことに魅力を感じて、長時間労働と毎日自宅には戻れないという労働環境を受け入れている。
それが中長距離を走っても稼げないということになれば、とりわけスポット便の供給は大幅に減少することになるだろう。
実運送会社は是が非でも運賃改定を実現しなくては生き残りが難しくなる。
それでは、実際にどこまで運賃を上げればいいのだろうか。
次頁の図表5〜7は国土交通省が20年4月に交付した「標準的な運賃」と現在の実勢運賃の水準を比較したグラフだ(当社分析値)。
小型から大型いずれの車種も、近距離輸送(100キロメートル圏内)で約25%~35%、中長距離輸送では40%以上の乖離がある。
このギャップを元請けや3PLレベルで±10%程度まで引き上げないと、実運送は立ち行かなくなると当社では想定している。
今、取り組むべき五つの施策 2024年問題を乗り越えるために、これから荷主企業が取り組むべき具体的な施策は大きく五つある。
その要点を以下に説明する。
①24年問題のリスクを抽出する まず図表4の「荷主リスク診断表」を活用して、ドライバーの負荷となり得る付帯作業・待機などが恒常的に発生していないか、現状を把握する。
それに合わせて協力運送会社との取引スキームを確認する。
日本の物流業界に特徴的な多重下請け構造は、24年問題に直面した今、大きなリスク要因だ。
保有車両で輸配送を行っている実運送会社と荷主の間に元請けや2次請けなどが介在していると、現場の声が荷主に届きにくい。
実際、多重下請け構造において荷主と実運送会社は運賃について直接対話できない環境に置かれている。
そのため荷主が元請けに支払っている運賃が相場レンジ内であったとしても、実運送会社に十分な運賃が渡っているかどうかを確認することができない。
図表8の右側に「危険な取引スキーム」として取り上げた事例では、荷主が支払った8万円の運賃が実運送会社の段階では6万3千円(78・7%)になっている。
現状の運賃水準のままで残業規制が厳しくなれば、実運送会社にとっては死活問題だ。
とはいえ、コロナ禍で荷動きが低迷している今、実運送会社は元請けに運賃改定を言い出せない。
このケースでは実運送会社に対して3千円の運賃の上積みがあれば問題を解決できる可能性がある。
しかし、そのために元請け会社は荷主に1万円前後の値上げを要求するだろう。
このように現状の取引スキームを確認して、そこに潜在的な課題を見つけた場合には24年が来るまでに対策を講じる必要がある。
②脱炭素(CO2削減)施策の実行 物流における脱炭素化は、荷主自身で実行できることに限りがある。
主体者は物流企業となるため、荷主企業は“選択”と“評価”の2点に注力することが現実的な対策となる。
まずは自社の物流オペレーションに関わるCO2排出量を正しく把握する。
競合企業などの他社の排出量をベンチマークするのは事実上困難なので、自社の現状からスタートして改善を進めていく。
そして脱炭素に取り組んでいる物流企業を選択し、定期的にその取り組み成果を評価する仕組みを構築する。
③サスティナビリティ・ロジスティクスの構築 荷主企業における物流部の使命とは端的には、“何が起きても物流を止めないこと”、そして“コストを予算内に収めること”の二つだった。
しかし、ESG経営が重視される時代を迎えて環境対策が最優先課題の一つとなり、「エコロジカル・フットプリント」の削減が荷主と物流企業の双方に課せられた社会的責任となった。
「環境」「安定」「ローコスト」「高品質」「最適化」の五つを重視して、将来にわたって持続可能なロジスティクス体制、すなわち「サスティナビリティ・ロジスティクス」を構築するのに欠かせないのが、荷主企業における組織改革だ。
現状の日本の会社組織は、物流部・購買部・海外部などサプライチェーンに影響を持つ部門がそれぞれ組織として独立し、部門長も複数任命されている。
しかし、ロジスティクスを最適化してサプライチェーン全体を管理するには、“サプライチェーン本部”として機能する統合組織が必要となる。
欧米をはじめとするグローバル企業では従来から「CLO(チーフ・ロジスティクス・オフィサー)」を最高責任者として、サプライチェーン全域を網羅する組織管理体制が定着している。
遅ればせながら日本企業も部分最適から脱却して、サプライチェーン全体の情報を一元管理して最適化を追求する組織体制を整備する必要がある。
④物流BCPの再策定 何があっても止めない物流を実現するための最大の対策は、有事の際に慌てないように事前の想定を可能な限り行っておくことだ。
とりわけ、サプライヤーから顧客への直送、非常時の仮設拠点の設置、引き当て優先顧客のルール作りなどは、事前に整備しておかないと実行には移せない。
⑤物流部業務の再設計 荷主企業の物流部門は右に挙げた施策を実施するために、日々のルーティンワークを全て3PLや物流子会社に移管して、自分たちの役割と業務を「企画」「計画」「評価」「改善」の四つに絞り込む必要がある。
そのためには情報システムの整備と物流情報の可視化が必須となる。
以下に、物流の24年問題にいち早く取り組み、大きな成果を挙げた荷主企業の成功事例を二つ紹介する。
【宵積みから朝積みへ】 大日精化工業は顔料や機能性材料を製造・販売する化学品メーカーだ。
同社はコロナ前の18年ごろから、構内物流および国内物流を委託している大手3PLと共に、さまざまな改善施策を実行に移してきた。
その施策の一つとして、工場近隣にある自社物流センターからの出荷業務を、いわゆる“宵積み”(翌朝一番に出荷するため前日の夕方以降に車両に荷物を積載する運営方法)から、“翌朝積み”に切り替えた。
工場出荷の遅れや夕方の出荷ピークのために積み込み時間が遅くなり、最終積み込みの地場ドライバーの拘束時間に大きな影響が出ていたからだ。
一般に出荷業務は遠方の納品先から順次進めて、チャーター便や地場便(同一地域内)は路線便(特積み)などの後に回されることが多い。
しかし、従来通りの運用で24年を迎えれば、ドライバーの残業時間規制を順守することが難しくなることが想定されたことから、3PLと共に検討を重ね、地場便を宵積みから朝積みに変更する、という判断を下した。
しかし、それは容易ではなかった。
実際、物流センターの出荷業務体制の変更や仮置き場の確保など課題は山積していた。
とりわけ早朝からの積み込み業務は、フォークリフト作業担当者の勤務シフトに大きく影響する。
大日精化工業の物流センターでは、構内の全てのリフト操作を3PLの構内作業員が担っている。
協力会社のトラックドライバーがフォークを操作することは原則として禁じていた。
ドライバーの安全確保や付帯作業の軽減を目的に採用した体制だったが、朝積みへの切り換えでは逆に制約になった。
しかし、3PL側で構内荷役担当者の勤務シフトを調整することで、これを解決した。
その改善効果として、ドライバーの待機時間も含めた拘束時間がそれまでの1日1台平均12時間04分から10時間56分に短縮した。
月間にして約20時間の残業が圧縮された。
24年4月以降の残業時間規制をクリアした。
さらに、これまで荷主が負担していた支払い待機料金が年間26・4%削減されたのである。
【受注当日出荷を翌日出荷へ転換】 接着剤メーカーのコニシの物流子会社、ボンド物流は21年1月に大きな転換点を迎えた。
それまで同社は業界の慣習に合わせて受注当日出荷を実施してきた。
しかし、24年以降も持続可能なロジスティクスを構築するため、同業他社に先駆けて受注翌日出荷に転換した。
ボンド物流は親会社のコニシから二つの物流センター(栃木・滋賀)の運営を受託して、日に数百トンもの入出荷業務を行っている。
しかし、両センターは人手不足から長時間労働が慢性化して、早出と残業の合計が月平均290時間程度にも上っていた。
出荷業務が遅くなることで、積み込み時間も後ろ倒しとなり、路線便の集荷時間に間に合わず少なからず残貨が発生していた。
路線事業者から集荷カット時間の引き上げ要請も厳しく迫られていた。
ボンド物流の実運送子会社のKB LINEでも、ドライバーの拘束時間は問題視されていた。
このままでは24年を待つまでもなく、現場が保たなくなるとの危機感から、親会社を交えて改善策を協議した。
親会社としても安定的な供給体制の構築をサスティナビリティ経営の一環と受けとめて、受注翌日出荷への変更を決断した。
受注締め切り時間を延長して、競合他社より遅い時間でも注文を受け付けることで差別化を図ろうとする荷主はこれまでも多く見られたが、受注から出荷までのリードタイムを翌日に伸ばすというのは稀なケースであり、大胆な経営判断と言えるだろう。
実際、親会社の営業活動への影響は大きな不安となってのしかかった。
それでも、事前の入念な顧客調整に加え、コロナ禍という非常時で理解を得られやすかったという事情もあり、大きな混乱なく新体制に移行することがでた。
この施策により、ボンド物流の総残業時間は37・8%削減された。
翌日の作業シフトを前日に組んで要員計画が立てられるようになった。
路線便を含め協力輸配送会社に対しても前日に出荷確定データを送付できるようになるなど、多岐にわたる効果を生んだ。
ボンド物流の橋本啓子社長は「親会社が全面的に協力してくれたことで、大胆な物流改革が実行できた。
これで2024年問題にも十分に対応できる。
今後も改善を重ねて残業ゼロを目指したい」と自信を深めている。
これまで物流企業は、荷主企業の利便性を高めることを使命として努力を重ねてきた。
しかし、時代は変わる。
今後は物流現場の労働環境改善、過剰な物流サービスの撤廃や安定・継続性などを重視した物流体制の構築、効率化によるCO2削減などが物流企業の新たな使命となる。
コニシの取り組みはその先駆的な事例と言えるだろう。
本来であれば20年、21年を含め4年~5年がかりで、2024年問題の解決に向けた料金改定や取引改定などが行われるはずだった。
それがほぼ停滞してしまった。
図表1〜3は当社が昨年末に実施したアンケート調査の結果だ(有効回答131社。
うち荷主企業117社、物流企業11社、その他3社)。
「2024年問題の概要は理解しているが、具体的な行動には至っていない」を選択した企業が最も多く、回答の半分以上(54%)を占めている(図表1)。
一方、24年問題の具体的な対策を立案して、実行に移している企業では、長距離輸送と待機時間問題に着手していることが見て取れる(図表2)。
しかし、気になるのは図表3において、「社内の協力が得られない」という回答が25%に上っていることだ。
物流部門が製造部門や販売部門との調整役を果たすことが、いかに困難であるのかを想像できる。
24年4月まで2年余りに迫った今、カウントダウンが始まっているにもかかわらず、足元ではオミクロン株の急拡大により、またしても“待った”がかかっている。
このような状況で、果たして24年問題を乗り越えることができるのだろうか。
このまま24年4月を迎えた時には、いったい何が起きるのだろうか。
荷主企業においては、大きくは次の五つのリスクが想定される。
①元請け物流業や3PLからの強烈な運賃・作業費などの値上げ要請 ②取引縮小要請 ③取引撤退要請 ④実運送会社の廃業や倒産による輸配送分断もしくは停止 ⑤国内サプライチェーンの寸断 これらの危機的な状況を回避して問題を乗り切るには、ドライバーの拘束時間削減、付帯作業の抑制、待機時間の短縮などが重要なキーファクターとなる。
いずれも荷主の物流部門が調整役となり率先して改善を図っていかないと解決されない問題だ。
現場のオペレーションを3PLもしくは元請け協力会社に委ねていても、ドライバーの拘束時間や残業時間には、荷主から出される指示内容が大きく影響している。
荷降ろし地におけるドライバーのリフト操作や付帯作業を改善するには、荷主の営業部門を通じて納品先の顧客と交渉しなければならない。
図表4は24年問題対策のために当社が作成した荷主企業向けの「リスク診断表」だ。
荷主の物流実務家は自社の現状に当てはめて、該当する項目の影響を確認してほしい。
まずは正しく現状を把握して想定されるリスクを明らかにすることが2024年問題のスタートラインである。
“生き残り運賃”と市況のギャップ ドライバーの残業時間規制に起因する中長距離輸送の課題について、分かりやすい例を挙げよう。
ある大阪の実運送会社は、関西で荷物を積んで東京まで運び、関東で帰り荷を取り翌日に戻る往復輸送をメーンにしている。
ドライバーは1カ月当たり10回前後往復する。
しかし、現在の運行体制では月の残業時間が80時間を超えてしまうため、24年4月以降は運行回数を7回程度に減らす必要がある。
その結果、ドライバー1人当たりの運賃収入は20%~30%減少する。
ドライバーの賃金は運行回数や積荷手当などの歩合比率が高く、運行回数が減ることで支給可能な給料は少なくなる。
全産業比で総労働時間が20%多く、平均賃金が20%低い、とされるトラックドライバー職の給与がさらに下がれば、多くの離職者を生んでしまうことは明らかだ。
新卒や他業界からの転職は皆無となるだろう。
とりわけ現在、中長距離輸送を担っているドライバーの大半は、地場便と比べて手取りが多いことに魅力を感じて、長時間労働と毎日自宅には戻れないという労働環境を受け入れている。
それが中長距離を走っても稼げないということになれば、とりわけスポット便の供給は大幅に減少することになるだろう。
実運送会社は是が非でも運賃改定を実現しなくては生き残りが難しくなる。
それでは、実際にどこまで運賃を上げればいいのだろうか。
次頁の図表5〜7は国土交通省が20年4月に交付した「標準的な運賃」と現在の実勢運賃の水準を比較したグラフだ(当社分析値)。
小型から大型いずれの車種も、近距離輸送(100キロメートル圏内)で約25%~35%、中長距離輸送では40%以上の乖離がある。
このギャップを元請けや3PLレベルで±10%程度まで引き上げないと、実運送は立ち行かなくなると当社では想定している。
今、取り組むべき五つの施策 2024年問題を乗り越えるために、これから荷主企業が取り組むべき具体的な施策は大きく五つある。
その要点を以下に説明する。
①24年問題のリスクを抽出する まず図表4の「荷主リスク診断表」を活用して、ドライバーの負荷となり得る付帯作業・待機などが恒常的に発生していないか、現状を把握する。
それに合わせて協力運送会社との取引スキームを確認する。
日本の物流業界に特徴的な多重下請け構造は、24年問題に直面した今、大きなリスク要因だ。
保有車両で輸配送を行っている実運送会社と荷主の間に元請けや2次請けなどが介在していると、現場の声が荷主に届きにくい。
実際、多重下請け構造において荷主と実運送会社は運賃について直接対話できない環境に置かれている。
そのため荷主が元請けに支払っている運賃が相場レンジ内であったとしても、実運送会社に十分な運賃が渡っているかどうかを確認することができない。
図表8の右側に「危険な取引スキーム」として取り上げた事例では、荷主が支払った8万円の運賃が実運送会社の段階では6万3千円(78・7%)になっている。
現状の運賃水準のままで残業規制が厳しくなれば、実運送会社にとっては死活問題だ。
とはいえ、コロナ禍で荷動きが低迷している今、実運送会社は元請けに運賃改定を言い出せない。
このケースでは実運送会社に対して3千円の運賃の上積みがあれば問題を解決できる可能性がある。
しかし、そのために元請け会社は荷主に1万円前後の値上げを要求するだろう。
このように現状の取引スキームを確認して、そこに潜在的な課題を見つけた場合には24年が来るまでに対策を講じる必要がある。
②脱炭素(CO2削減)施策の実行 物流における脱炭素化は、荷主自身で実行できることに限りがある。
主体者は物流企業となるため、荷主企業は“選択”と“評価”の2点に注力することが現実的な対策となる。
まずは自社の物流オペレーションに関わるCO2排出量を正しく把握する。
競合企業などの他社の排出量をベンチマークするのは事実上困難なので、自社の現状からスタートして改善を進めていく。
そして脱炭素に取り組んでいる物流企業を選択し、定期的にその取り組み成果を評価する仕組みを構築する。
③サスティナビリティ・ロジスティクスの構築 荷主企業における物流部の使命とは端的には、“何が起きても物流を止めないこと”、そして“コストを予算内に収めること”の二つだった。
しかし、ESG経営が重視される時代を迎えて環境対策が最優先課題の一つとなり、「エコロジカル・フットプリント」の削減が荷主と物流企業の双方に課せられた社会的責任となった。
「環境」「安定」「ローコスト」「高品質」「最適化」の五つを重視して、将来にわたって持続可能なロジスティクス体制、すなわち「サスティナビリティ・ロジスティクス」を構築するのに欠かせないのが、荷主企業における組織改革だ。
現状の日本の会社組織は、物流部・購買部・海外部などサプライチェーンに影響を持つ部門がそれぞれ組織として独立し、部門長も複数任命されている。
しかし、ロジスティクスを最適化してサプライチェーン全体を管理するには、“サプライチェーン本部”として機能する統合組織が必要となる。
欧米をはじめとするグローバル企業では従来から「CLO(チーフ・ロジスティクス・オフィサー)」を最高責任者として、サプライチェーン全域を網羅する組織管理体制が定着している。
遅ればせながら日本企業も部分最適から脱却して、サプライチェーン全体の情報を一元管理して最適化を追求する組織体制を整備する必要がある。
④物流BCPの再策定 何があっても止めない物流を実現するための最大の対策は、有事の際に慌てないように事前の想定を可能な限り行っておくことだ。
とりわけ、サプライヤーから顧客への直送、非常時の仮設拠点の設置、引き当て優先顧客のルール作りなどは、事前に整備しておかないと実行には移せない。
⑤物流部業務の再設計 荷主企業の物流部門は右に挙げた施策を実施するために、日々のルーティンワークを全て3PLや物流子会社に移管して、自分たちの役割と業務を「企画」「計画」「評価」「改善」の四つに絞り込む必要がある。
そのためには情報システムの整備と物流情報の可視化が必須となる。
以下に、物流の24年問題にいち早く取り組み、大きな成果を挙げた荷主企業の成功事例を二つ紹介する。
【宵積みから朝積みへ】 大日精化工業は顔料や機能性材料を製造・販売する化学品メーカーだ。
同社はコロナ前の18年ごろから、構内物流および国内物流を委託している大手3PLと共に、さまざまな改善施策を実行に移してきた。
その施策の一つとして、工場近隣にある自社物流センターからの出荷業務を、いわゆる“宵積み”(翌朝一番に出荷するため前日の夕方以降に車両に荷物を積載する運営方法)から、“翌朝積み”に切り替えた。
工場出荷の遅れや夕方の出荷ピークのために積み込み時間が遅くなり、最終積み込みの地場ドライバーの拘束時間に大きな影響が出ていたからだ。
一般に出荷業務は遠方の納品先から順次進めて、チャーター便や地場便(同一地域内)は路線便(特積み)などの後に回されることが多い。
しかし、従来通りの運用で24年を迎えれば、ドライバーの残業時間規制を順守することが難しくなることが想定されたことから、3PLと共に検討を重ね、地場便を宵積みから朝積みに変更する、という判断を下した。
しかし、それは容易ではなかった。
実際、物流センターの出荷業務体制の変更や仮置き場の確保など課題は山積していた。
とりわけ早朝からの積み込み業務は、フォークリフト作業担当者の勤務シフトに大きく影響する。
大日精化工業の物流センターでは、構内の全てのリフト操作を3PLの構内作業員が担っている。
協力会社のトラックドライバーがフォークを操作することは原則として禁じていた。
ドライバーの安全確保や付帯作業の軽減を目的に採用した体制だったが、朝積みへの切り換えでは逆に制約になった。
しかし、3PL側で構内荷役担当者の勤務シフトを調整することで、これを解決した。
その改善効果として、ドライバーの待機時間も含めた拘束時間がそれまでの1日1台平均12時間04分から10時間56分に短縮した。
月間にして約20時間の残業が圧縮された。
24年4月以降の残業時間規制をクリアした。
さらに、これまで荷主が負担していた支払い待機料金が年間26・4%削減されたのである。
【受注当日出荷を翌日出荷へ転換】 接着剤メーカーのコニシの物流子会社、ボンド物流は21年1月に大きな転換点を迎えた。
それまで同社は業界の慣習に合わせて受注当日出荷を実施してきた。
しかし、24年以降も持続可能なロジスティクスを構築するため、同業他社に先駆けて受注翌日出荷に転換した。
ボンド物流は親会社のコニシから二つの物流センター(栃木・滋賀)の運営を受託して、日に数百トンもの入出荷業務を行っている。
しかし、両センターは人手不足から長時間労働が慢性化して、早出と残業の合計が月平均290時間程度にも上っていた。
出荷業務が遅くなることで、積み込み時間も後ろ倒しとなり、路線便の集荷時間に間に合わず少なからず残貨が発生していた。
路線事業者から集荷カット時間の引き上げ要請も厳しく迫られていた。
ボンド物流の実運送子会社のKB LINEでも、ドライバーの拘束時間は問題視されていた。
このままでは24年を待つまでもなく、現場が保たなくなるとの危機感から、親会社を交えて改善策を協議した。
親会社としても安定的な供給体制の構築をサスティナビリティ経営の一環と受けとめて、受注翌日出荷への変更を決断した。
受注締め切り時間を延長して、競合他社より遅い時間でも注文を受け付けることで差別化を図ろうとする荷主はこれまでも多く見られたが、受注から出荷までのリードタイムを翌日に伸ばすというのは稀なケースであり、大胆な経営判断と言えるだろう。
実際、親会社の営業活動への影響は大きな不安となってのしかかった。
それでも、事前の入念な顧客調整に加え、コロナ禍という非常時で理解を得られやすかったという事情もあり、大きな混乱なく新体制に移行することがでた。
この施策により、ボンド物流の総残業時間は37・8%削減された。
翌日の作業シフトを前日に組んで要員計画が立てられるようになった。
路線便を含め協力輸配送会社に対しても前日に出荷確定データを送付できるようになるなど、多岐にわたる効果を生んだ。
ボンド物流の橋本啓子社長は「親会社が全面的に協力してくれたことで、大胆な物流改革が実行できた。
これで2024年問題にも十分に対応できる。
今後も改善を重ねて残業ゼロを目指したい」と自信を深めている。
これまで物流企業は、荷主企業の利便性を高めることを使命として努力を重ねてきた。
しかし、時代は変わる。
今後は物流現場の労働環境改善、過剰な物流サービスの撤廃や安定・継続性などを重視した物流体制の構築、効率化によるCO2削減などが物流企業の新たな使命となる。
コニシの取り組みはその先駆的な事例と言えるだろう。
