2022年3月号
特集
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「超効率化」実現に向けた物流子会社政策
建設業界の先行事例が示唆するもの
今年4月1日から中小企業において月60時間を超える時間外労働への割増賃金率が従来の25%から大企業と同じ50%へと引き上げられる。
さらに来年4月1日にはトラックドライバーの時間外労働の上限が年間最大960時間に制限される。
いわゆる「物流の2024年問題」だ。
物流企業、荷主、最終顧客にそれぞれどのような影響を与えることになるのか、まずは整理してみよう(図1)。
物流企業では時間外労働時間の制限によって当然ながら業務量が減少する。
人手不足の環境下で大幅な従業員の増員は難しく、そのままでは売り上げが減る。
一方、60時間超の時間外労働に対する割増賃金率の引き上げで労務単価は上昇する。
従って、何の手も打たなければ深刻な減収減益に陥る。
単価を引き上げざるを得ない状況、効率的な仕事を選ばざるを得ない状況を迎える。
物流業界全体ではサービスの総供給量が減少するのに対して、EC市場の伸長によって需要は今後も増加していくことが予想される。
需給バランスを反映して物流単価は引き上げられる。
その結果、荷主企業においては商品やサービスに占める物流費の割合が増大して、利益が圧迫される。
物流費の上昇分を顧客に転嫁せざるを得ない。
結果として、最終商品やサービスの価格が上昇する。
さらに繁忙期においては、モノを運べない状況がより深刻になる。
少なくとも従来のサービスレベルはコミットできなくなる。
短納期、日にち指定、時間指定などが難しくなる。
ECのラストワンマイルでは、自宅まで配達するのでなく、顧客が宅配BOXや物流拠点にモノを取りに行くというオプションが増加するかもしれない。
これから物流業界はどこに向かうのか。
それを予測する手がかりを与えてくれるのが、建設業界の動きだ。
建設業界は物流業界と同様に典型的な労働集約型産業であり、働き方改革関連法でも24年までの猶予期間が与えられたが、東京オリンピック需要などを抱えていたこともあり、労働力不足対策が物流業界よりも一足先に進んでいる。
建設業界では2010年ごろから、先端技術やソフトウエアなどを活用した「建設テック」による生産性や安全性の向上、コスト削減などを図る動きが始まった。
ICTの発達、ドローンやセンサー自動化技術などの発展、AIによるデータ解析の深化、そしてこれらの技術を利用するコストの低下により、現場へのテクノロジーの実装が本格化した。
さらに昨今は新型コロナ禍が追い風となり変革に拍車がかかっている。
この建設テックにおいて目下の焦点となっているのが、建設プロジェクトのオーナーや建設会社はもちろん、下請けやサプライヤーを含む関係者全てをつなぎ、プロジェクトの企画や管理、決済などを一括管理するプラットフォームの構築だ。
日本では大手建機メーカーのコマツ(小松製作所)が中心となって、建設業界向けIoTオープンプラットフォーム「LANDLOG」の運用を18年に開始している。
建設プロセスにおける機械や材料などのあらゆるデータが一元管理されて、ユーザー企業などと共有されている。
LANDLOGはAPIが公開されているため誰でもアプリケーション開発に参加できる。
建設会社や保険会社、商社、IoT関連デバイスメーカー、アプリケーション開発業者などがパートナーとして参加しており、さまざまな企業が協調・競争することによる新たなビジネスの創出が期待されている。
大手ゼネコンのスタートアップ投資や建設業界以外からの参入も加速している。
物流の「超効率化」が始まる これから物流業界でも建設業界と同様の変革が始まる。
折からの労働力不足に加え、24年問題によってさらに供給量が減少するとなれば、限られたキャパシティーを社会全体で効率的に共有する以外に有効な対策はない。
これまでとは次元の違う物流の「超効率化」が追求されていくことになる。
まずは必要な輸送能力の確保だ。
完全自動運転車の実用化にはまだ時間がかかる。
ドライバーの正味の運転時間を確保することが当面の現実解だ。
現状ではドライバーの拘束時間の約半分が、手待ち時間や荷役時間、その他付帯作業に費やされている。
このうち手待ち時間は、トラック受付/予約システムの活用などにより短縮できる。
荷役時間も、画像認識技術とAIの活用により高精度かつ高速で自動化できるようになってきた。
現在は無償で提供されているドライバーによる荷下ろしなどの付帯作業が、今後有償化されていくのに伴い、自動化投資がいっそう本格化していくだろう。
次に配送そのものの省力化だ。
中長距離においてはトラックの無人隊列走行、ラストワンマイルでは無人配送ロボットやドローンの活用、カーボンニュートラルの側面からも効果が期待されるモーダルシフトなど、この分野においても既に積極的な研究開発や投資、実証実験が行われている。
これらの技術開発と並行して、超効率化を目的とした標準化が進められる。
海外と比較して日本はパレットの種類が多く、標準パレットの普及率は低い。
しかも、いまだ約35%がバラ積みだ。
企業間、業界、地域単位でトラックなどの物流リソースをシェアリングして、社会全体で稼働率を向上させる上で大きな弊害となる。
物流の超効率化が進むと、これまでのように荷主企業それぞれの都合に合わせた柔軟な運び方はできなくなる。
商品のサイズや荷姿、使用するパレット、出荷のタイミングや頻度、在庫保持レベルなど、標準に合わせてさまざまな仕様を変更しなくてはならない。
そうしなければモノが運べなくなる。
つまり事業が継続できなくなる。
一方、物流企業は新しい設備やテクノロジーの活用に向けて多大な設備投資やIT投資が必要になる。
物流大手は既に年間の売り上げの5〜10%を競争力強化に向けた先行投資に振り分けている。
物流企業だけではない。
ロボットやAIなどに強みを持つ異業種も、物流の超効率化に向けた投資を開始している。
図2はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた技術開発事業」に参画して実証実験に乗り出した企業の顔ぶれだ。
日本郵便や佐川急便などの物流大手と並び、NTTドコモ、ソフトバンク、楽天などのIT企業やパナソニック、東芝などの大手メーカーが並んでいる。
いずれの企業も、物流の新たな局面をビジネスチャンスとして捉え、巨額の先行投資を実施して次世代型の物流インフラを構築することで、プラットフォーマーとして独占的な地位を得ることを目指している。
物流子会社のM&Aが加速する このような環境において、大規模な投資の難しい中小の物流企業やメーカー系物流子会社の戦略は大きく二つに分かれる。
一つは大手やプラットフォーマーの傘下に入ることである。
図3は物流子会社のM&Aの最近の事例だ。
現在も水面下で多くのメーカーが検討を進めている。
そしてもうひとつは、特定の業界や領域で高いシェアを獲得するというアプローチである。
食品業界では味の素、カゴメ、日清オイリオグループ、日清製粉ウェルナ、ハウス食品グループ本社の5社が共同出資でF-LINEを設立、既存の物流子会社を吸収してプラットフォーム化を図っている。
いずれもM&Aがカギを握る。
物流子会社を持つ親会社は「超効率化」の実現という新たなテーマに基づいて、子会社政策を再検討する必要がある。
その主な論点は以下の通りである。
①事業ポートフォリオの見直し 事業の選択と集中は大きな経営課題であり、企業価値向上の観点からも投資家の注目度が高くなっている。
物流機能をノンコアと位置づけたメーカーは、その帰結として物流子会社の売却を検討する。
その場合には物流子会社の収益性や、競争力強化のために必要とする成長投資などの負担が総合的に評価される。
②BCP(事業継続計画) 東日本大震災以来、BCPをキーワードにしたさまざまな検討が進んでいる。
全国に複数の物流拠点や流通チャネル・流通在庫を保有することは有事の際に大きな備えとなる。
しかし、投資負担は重く、ハードルは高い。
そのためBCPを目的の一つとして既存の物流子会社を大手にグループ入りさせることで、物流基盤を強化するという選択肢が検討される。
③事業環境の変化 24年問題で労働規制が強化されて労務単価が上昇していく局面に入っても、経営の効率化や将来に向けて必要な投資を先送りしていると、物流子会社の経営はいっそう困難なものとなる。
深刻な事態を迎える前に意思決定を下す。
④脱炭素化 物流の脱炭素化にもやはり投資が必要だ。
物流子会社にその体力がない場合には大手へのグループ入りが選択肢になる。
これらの問題はいずれも24年問題に直面する以前から論じられてきたものばかりだ。
しかし、24年問題を契機として、それが待ったなしの課題になる。
物流業界の再編が大きく加速していく。
さらに来年4月1日にはトラックドライバーの時間外労働の上限が年間最大960時間に制限される。
いわゆる「物流の2024年問題」だ。
物流企業、荷主、最終顧客にそれぞれどのような影響を与えることになるのか、まずは整理してみよう(図1)。
物流企業では時間外労働時間の制限によって当然ながら業務量が減少する。
人手不足の環境下で大幅な従業員の増員は難しく、そのままでは売り上げが減る。
一方、60時間超の時間外労働に対する割増賃金率の引き上げで労務単価は上昇する。
従って、何の手も打たなければ深刻な減収減益に陥る。
単価を引き上げざるを得ない状況、効率的な仕事を選ばざるを得ない状況を迎える。
物流業界全体ではサービスの総供給量が減少するのに対して、EC市場の伸長によって需要は今後も増加していくことが予想される。
需給バランスを反映して物流単価は引き上げられる。
その結果、荷主企業においては商品やサービスに占める物流費の割合が増大して、利益が圧迫される。
物流費の上昇分を顧客に転嫁せざるを得ない。
結果として、最終商品やサービスの価格が上昇する。
さらに繁忙期においては、モノを運べない状況がより深刻になる。
少なくとも従来のサービスレベルはコミットできなくなる。
短納期、日にち指定、時間指定などが難しくなる。
ECのラストワンマイルでは、自宅まで配達するのでなく、顧客が宅配BOXや物流拠点にモノを取りに行くというオプションが増加するかもしれない。
これから物流業界はどこに向かうのか。
それを予測する手がかりを与えてくれるのが、建設業界の動きだ。
建設業界は物流業界と同様に典型的な労働集約型産業であり、働き方改革関連法でも24年までの猶予期間が与えられたが、東京オリンピック需要などを抱えていたこともあり、労働力不足対策が物流業界よりも一足先に進んでいる。
建設業界では2010年ごろから、先端技術やソフトウエアなどを活用した「建設テック」による生産性や安全性の向上、コスト削減などを図る動きが始まった。
ICTの発達、ドローンやセンサー自動化技術などの発展、AIによるデータ解析の深化、そしてこれらの技術を利用するコストの低下により、現場へのテクノロジーの実装が本格化した。
さらに昨今は新型コロナ禍が追い風となり変革に拍車がかかっている。
この建設テックにおいて目下の焦点となっているのが、建設プロジェクトのオーナーや建設会社はもちろん、下請けやサプライヤーを含む関係者全てをつなぎ、プロジェクトの企画や管理、決済などを一括管理するプラットフォームの構築だ。
日本では大手建機メーカーのコマツ(小松製作所)が中心となって、建設業界向けIoTオープンプラットフォーム「LANDLOG」の運用を18年に開始している。
建設プロセスにおける機械や材料などのあらゆるデータが一元管理されて、ユーザー企業などと共有されている。
LANDLOGはAPIが公開されているため誰でもアプリケーション開発に参加できる。
建設会社や保険会社、商社、IoT関連デバイスメーカー、アプリケーション開発業者などがパートナーとして参加しており、さまざまな企業が協調・競争することによる新たなビジネスの創出が期待されている。
大手ゼネコンのスタートアップ投資や建設業界以外からの参入も加速している。
物流の「超効率化」が始まる これから物流業界でも建設業界と同様の変革が始まる。
折からの労働力不足に加え、24年問題によってさらに供給量が減少するとなれば、限られたキャパシティーを社会全体で効率的に共有する以外に有効な対策はない。
これまでとは次元の違う物流の「超効率化」が追求されていくことになる。
まずは必要な輸送能力の確保だ。
完全自動運転車の実用化にはまだ時間がかかる。
ドライバーの正味の運転時間を確保することが当面の現実解だ。
現状ではドライバーの拘束時間の約半分が、手待ち時間や荷役時間、その他付帯作業に費やされている。
このうち手待ち時間は、トラック受付/予約システムの活用などにより短縮できる。
荷役時間も、画像認識技術とAIの活用により高精度かつ高速で自動化できるようになってきた。
現在は無償で提供されているドライバーによる荷下ろしなどの付帯作業が、今後有償化されていくのに伴い、自動化投資がいっそう本格化していくだろう。
次に配送そのものの省力化だ。
中長距離においてはトラックの無人隊列走行、ラストワンマイルでは無人配送ロボットやドローンの活用、カーボンニュートラルの側面からも効果が期待されるモーダルシフトなど、この分野においても既に積極的な研究開発や投資、実証実験が行われている。
これらの技術開発と並行して、超効率化を目的とした標準化が進められる。
海外と比較して日本はパレットの種類が多く、標準パレットの普及率は低い。
しかも、いまだ約35%がバラ積みだ。
企業間、業界、地域単位でトラックなどの物流リソースをシェアリングして、社会全体で稼働率を向上させる上で大きな弊害となる。
物流の超効率化が進むと、これまでのように荷主企業それぞれの都合に合わせた柔軟な運び方はできなくなる。
商品のサイズや荷姿、使用するパレット、出荷のタイミングや頻度、在庫保持レベルなど、標準に合わせてさまざまな仕様を変更しなくてはならない。
そうしなければモノが運べなくなる。
つまり事業が継続できなくなる。
一方、物流企業は新しい設備やテクノロジーの活用に向けて多大な設備投資やIT投資が必要になる。
物流大手は既に年間の売り上げの5〜10%を競争力強化に向けた先行投資に振り分けている。
物流企業だけではない。
ロボットやAIなどに強みを持つ異業種も、物流の超効率化に向けた投資を開始している。
図2はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「自動走行ロボットを活用した新たな配送サービス実現に向けた技術開発事業」に参画して実証実験に乗り出した企業の顔ぶれだ。
日本郵便や佐川急便などの物流大手と並び、NTTドコモ、ソフトバンク、楽天などのIT企業やパナソニック、東芝などの大手メーカーが並んでいる。
いずれの企業も、物流の新たな局面をビジネスチャンスとして捉え、巨額の先行投資を実施して次世代型の物流インフラを構築することで、プラットフォーマーとして独占的な地位を得ることを目指している。
物流子会社のM&Aが加速する このような環境において、大規模な投資の難しい中小の物流企業やメーカー系物流子会社の戦略は大きく二つに分かれる。
一つは大手やプラットフォーマーの傘下に入ることである。
図3は物流子会社のM&Aの最近の事例だ。
現在も水面下で多くのメーカーが検討を進めている。
そしてもうひとつは、特定の業界や領域で高いシェアを獲得するというアプローチである。
食品業界では味の素、カゴメ、日清オイリオグループ、日清製粉ウェルナ、ハウス食品グループ本社の5社が共同出資でF-LINEを設立、既存の物流子会社を吸収してプラットフォーム化を図っている。
いずれもM&Aがカギを握る。
物流子会社を持つ親会社は「超効率化」の実現という新たなテーマに基づいて、子会社政策を再検討する必要がある。
その主な論点は以下の通りである。
①事業ポートフォリオの見直し 事業の選択と集中は大きな経営課題であり、企業価値向上の観点からも投資家の注目度が高くなっている。
物流機能をノンコアと位置づけたメーカーは、その帰結として物流子会社の売却を検討する。
その場合には物流子会社の収益性や、競争力強化のために必要とする成長投資などの負担が総合的に評価される。
②BCP(事業継続計画) 東日本大震災以来、BCPをキーワードにしたさまざまな検討が進んでいる。
全国に複数の物流拠点や流通チャネル・流通在庫を保有することは有事の際に大きな備えとなる。
しかし、投資負担は重く、ハードルは高い。
そのためBCPを目的の一つとして既存の物流子会社を大手にグループ入りさせることで、物流基盤を強化するという選択肢が検討される。
③事業環境の変化 24年問題で労働規制が強化されて労務単価が上昇していく局面に入っても、経営の効率化や将来に向けて必要な投資を先送りしていると、物流子会社の経営はいっそう困難なものとなる。
深刻な事態を迎える前に意思決定を下す。
④脱炭素化 物流の脱炭素化にもやはり投資が必要だ。
物流子会社にその体力がない場合には大手へのグループ入りが選択肢になる。
これらの問題はいずれも24年問題に直面する以前から論じられてきたものばかりだ。
しかし、24年問題を契機として、それが待ったなしの課題になる。
物流業界の再編が大きく加速していく。
