2022年3月号
特集
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滋賀近交運輸倉庫 長距離トラックからクロスドックチェーンへ
長距離トラックから完全撤退
滋賀近交運輸倉庫は滋賀県長浜市に本社を置く広域運送会社だ。
北海道から九州まで各地に営業所や関係会社を置いて「近交グループ」を形成している。
保有車両台数は合計900台以上。
グループの売上高合計は約240億円(2021年3月期)に上る。
1955年に創業。
大手メーカーを主要荷主とする貸切輸送を長年メーンにしてきた。
コロナ禍の今、物量が減少している荷主も少なくはない。
しかし、近交グループの業績は好調だ。
従来の長距離チャーターに代わる新たな輸送システムが年率フタ桁ペースで伸びている。
東北、関東、中部、関西、中国・九州にそれぞれ26トントレーラーのシャーシを交換する中継拠点を設置、片道最大約250キロの運行をつなぎ合わせて長距離を輸送している。
先日は香川県観音寺市から福島県東白川まで、片道約1千キロの輸送を受託した。
大阪、静岡、つくばの3カ所で中継して送り届けた。
一千キロをワンマン運行で走った場合、2日間平均9時間の運転時間規制を順守すると、到着は翌々日になる。
中継輸送は荷物を止める必要がないため翌日に着く。
中継を繰り返して運ぶこの輸送方式を同社は「クロスドックチェーン」と名付けて特許を取得、実用新案も登録した。
新システムの開始に伴い、長距離トラックの運行からは撤退した。
新システムの運賃は、長距離チャーターの実勢運賃と比較すると1割前後高い。
それでもドライバーの残業時間規制が強化される24年4月が近付いてくるにつれ、大手荷主が次々に従来の長距離チャーターを新システムに切り換えている。
近交グループの会長も務める滋賀近交運輸倉庫の山田普会長は「もちろんまだ、コストにこだわる荷主は多い。
しかし、無理に(新システムの利用を)お願いはしていない。
法令違反をしない限り運べなくなると分かれば、黙っていてもお声はかかる。
そのために今は先行投資でネットワークの整備を進めている」という。
同社が新システムの構築に本格的に乗り出したのは、多数の死傷者が出た16年1月の軽井沢スキーバス転落事故を受け、労働基準監督所と国土交通省が運送事業者の取り締まりを大幅に強化したことがきっかけだった。
その対象は観光バスに始まりトラックへと広がった。
長距離トラックの運行はドライバーの長時間労働を前提にしている。
一般産業界のルールをそのまま適用すれば事業が成り立たなくなることから、従来から労働規制に猶予が与えられてきた。
違反が発覚しても「勧告」で済んだ。
その方針が大きく変わった。
勧告が2度続いたら3度目は営業停止もしくは事業許可の取り消しだと、行政関係者から忠告された。
実際に取り消し処分を受ける運送会社が各地で相次いだことから、山田会長は「長距離トラックはもう続けていけない」と覚悟した。
その代替策としてクロスドックチェーンを発案した。
1970年代に当時の主要荷主から滋賀県の本社工場と北関東の新工場を結ぶ拠点間輸送を請け負い、中型トレーラー6台を投入して箱根の乙女峠でドッキングする中継輸送を運営したことがあった。
それをグループで展開すればいいと考えた。
しかし、役員をはじめ経営幹部全員が反対した。
大規模な先行投資が避けられない上、牽引免許を持つドライバーを相当数確保する必要がある。
中継拠点でトレーラーを交換するには、双方から来る荷物の量とタイミングを常に一致させなければならない。
それほど都合良く荷物はない。
できない理由が山積みだった。
それでも山田会長は、「難しいことは分かっている。
しかし、今のままではやっていけない。
新システムに挑戦するか。
それとも運送会社をやめてしまうか、二つに一つだ」と反対を一蹴。
まずは東京─大阪間を静岡でドッキングする中継輸送からスタートするため、1台約3500万円の26トントレーラー10台を見切り発車で発注した。
道路交通法はトラクターヘッドとトレーラーシャーシの組み合わせに制約を設けている。
車検証に牽引登録していない車両同士は連結できない。
クロスドッキングに使用する車両は同じタイプに統一する必要があった。
全車両を新規に購入しなければならなかった。
専用の運行管理システムも開発した。
先行投資は総額で50億円近くに上った。
運転時間を基準に輸送網を再構築 シャーシの交換を安定させるため、年間を通して物量の波動が小さく予測も立てやすい部品や仕掛品などの中間製品をメーンのターゲットに定めた。
当初は交換する荷物のあてはなくても輸送を請け負い、片荷のままトレーラーを走らせた。
そこから営業をかけて3ヵ月以内に必要な荷物を獲得して荷台の空きを埋める戦略だった。
しかし、上手くいかない。
2年目に入っても赤字が続いた。
新品のトレーラーが稼働せず何台も駐車場に並んでいる日が多かった。
その光景は社員や関係者を不安にさせた。
それでも、ドライバー不足で長距離トラックの確保が日に日に難しくなっていったことに加え、19年4月に働き方関連法が施行、「ホワイト物流」推進運動もスタートして、物流現場の労働環境に対する荷主の責任を問う声が高まったことが追い風になった。
引き合いは徐々に増えていった。
関東─静岡─関西ルートの運行が安定すると、続いて「仙台─つくば─静岡─関西」をスタートした。
北関東─関西を長野県伊那市でドッキングする中央道経由の新ルートも構築した。
首都高経由と比べて走行距離を約40キロ短縮できる。
21年1月には岡山県倉敷市に新拠点を設置、広島・四国を対象エリアに収めた。
ただし、北九州には岡山から出発しても片道300キロを超えてしまうため1日では往復できない。
そこで広島県大竹市、山口県宇部市に新たな拠点を設置する計画だ。
既に物件も押さえたという。
北海道から九州までをカバーするクロスドックチェーンの構築にほぼメドが立った一方、足元ではネットワークの設計変更が必要になっている。
24年4月からドライバーの時間外労働の上限は現状の月100時間未満から80時間以内に制限される。
これに合わせて片道の走行が4時間以内になるように中継地点を修正しなければならない。
関東―関西は途中2回のドッキングが必要になる。
そこで近交グループは、関東・関西の大消費地を面でとらえた事業展開に移る。
関東は1都3県に北関東を加えて一つのエリアと見なす。
関西も兵庫まで含めた広域をブロック化する。
東西の2大エリアを静岡県三島市周辺と名古屋周辺で2回ドッキングして結ぶことを想定している。
こうして近交グループは、長距離トラックからクロスドックチェーンに輸送方式を転換した。
同社のドライバーは毎日自宅に帰れるようになった。
それでも手取りは長距離に引けを取らない水準を維持しているという。
新たに入社するドライバーは半分以上を紹介が占めるようになり、牽引免許の取得を希望する若手も増えている。
新システムは環境面での優位性でも注目されている。
26トントレーラーをワンマン運行するため、13t増トン車を2台走らせるのと比べて燃料使用量を36%削減できる。
当初は反対していた経営幹部たちも今では新システムに対する自信を深めている。
北海道から九州まで各地に営業所や関係会社を置いて「近交グループ」を形成している。
保有車両台数は合計900台以上。
グループの売上高合計は約240億円(2021年3月期)に上る。
1955年に創業。
大手メーカーを主要荷主とする貸切輸送を長年メーンにしてきた。
コロナ禍の今、物量が減少している荷主も少なくはない。
しかし、近交グループの業績は好調だ。
従来の長距離チャーターに代わる新たな輸送システムが年率フタ桁ペースで伸びている。
東北、関東、中部、関西、中国・九州にそれぞれ26トントレーラーのシャーシを交換する中継拠点を設置、片道最大約250キロの運行をつなぎ合わせて長距離を輸送している。
先日は香川県観音寺市から福島県東白川まで、片道約1千キロの輸送を受託した。
大阪、静岡、つくばの3カ所で中継して送り届けた。
一千キロをワンマン運行で走った場合、2日間平均9時間の運転時間規制を順守すると、到着は翌々日になる。
中継輸送は荷物を止める必要がないため翌日に着く。
中継を繰り返して運ぶこの輸送方式を同社は「クロスドックチェーン」と名付けて特許を取得、実用新案も登録した。
新システムの開始に伴い、長距離トラックの運行からは撤退した。
新システムの運賃は、長距離チャーターの実勢運賃と比較すると1割前後高い。
それでもドライバーの残業時間規制が強化される24年4月が近付いてくるにつれ、大手荷主が次々に従来の長距離チャーターを新システムに切り換えている。
近交グループの会長も務める滋賀近交運輸倉庫の山田普会長は「もちろんまだ、コストにこだわる荷主は多い。
しかし、無理に(新システムの利用を)お願いはしていない。
法令違反をしない限り運べなくなると分かれば、黙っていてもお声はかかる。
そのために今は先行投資でネットワークの整備を進めている」という。
同社が新システムの構築に本格的に乗り出したのは、多数の死傷者が出た16年1月の軽井沢スキーバス転落事故を受け、労働基準監督所と国土交通省が運送事業者の取り締まりを大幅に強化したことがきっかけだった。
その対象は観光バスに始まりトラックへと広がった。
長距離トラックの運行はドライバーの長時間労働を前提にしている。
一般産業界のルールをそのまま適用すれば事業が成り立たなくなることから、従来から労働規制に猶予が与えられてきた。
違反が発覚しても「勧告」で済んだ。
その方針が大きく変わった。
勧告が2度続いたら3度目は営業停止もしくは事業許可の取り消しだと、行政関係者から忠告された。
実際に取り消し処分を受ける運送会社が各地で相次いだことから、山田会長は「長距離トラックはもう続けていけない」と覚悟した。
その代替策としてクロスドックチェーンを発案した。
1970年代に当時の主要荷主から滋賀県の本社工場と北関東の新工場を結ぶ拠点間輸送を請け負い、中型トレーラー6台を投入して箱根の乙女峠でドッキングする中継輸送を運営したことがあった。
それをグループで展開すればいいと考えた。
しかし、役員をはじめ経営幹部全員が反対した。
大規模な先行投資が避けられない上、牽引免許を持つドライバーを相当数確保する必要がある。
中継拠点でトレーラーを交換するには、双方から来る荷物の量とタイミングを常に一致させなければならない。
それほど都合良く荷物はない。
できない理由が山積みだった。
それでも山田会長は、「難しいことは分かっている。
しかし、今のままではやっていけない。
新システムに挑戦するか。
それとも運送会社をやめてしまうか、二つに一つだ」と反対を一蹴。
まずは東京─大阪間を静岡でドッキングする中継輸送からスタートするため、1台約3500万円の26トントレーラー10台を見切り発車で発注した。
道路交通法はトラクターヘッドとトレーラーシャーシの組み合わせに制約を設けている。
車検証に牽引登録していない車両同士は連結できない。
クロスドッキングに使用する車両は同じタイプに統一する必要があった。
全車両を新規に購入しなければならなかった。
専用の運行管理システムも開発した。
先行投資は総額で50億円近くに上った。
運転時間を基準に輸送網を再構築 シャーシの交換を安定させるため、年間を通して物量の波動が小さく予測も立てやすい部品や仕掛品などの中間製品をメーンのターゲットに定めた。
当初は交換する荷物のあてはなくても輸送を請け負い、片荷のままトレーラーを走らせた。
そこから営業をかけて3ヵ月以内に必要な荷物を獲得して荷台の空きを埋める戦略だった。
しかし、上手くいかない。
2年目に入っても赤字が続いた。
新品のトレーラーが稼働せず何台も駐車場に並んでいる日が多かった。
その光景は社員や関係者を不安にさせた。
それでも、ドライバー不足で長距離トラックの確保が日に日に難しくなっていったことに加え、19年4月に働き方関連法が施行、「ホワイト物流」推進運動もスタートして、物流現場の労働環境に対する荷主の責任を問う声が高まったことが追い風になった。
引き合いは徐々に増えていった。
関東─静岡─関西ルートの運行が安定すると、続いて「仙台─つくば─静岡─関西」をスタートした。
北関東─関西を長野県伊那市でドッキングする中央道経由の新ルートも構築した。
首都高経由と比べて走行距離を約40キロ短縮できる。
21年1月には岡山県倉敷市に新拠点を設置、広島・四国を対象エリアに収めた。
ただし、北九州には岡山から出発しても片道300キロを超えてしまうため1日では往復できない。
そこで広島県大竹市、山口県宇部市に新たな拠点を設置する計画だ。
既に物件も押さえたという。
北海道から九州までをカバーするクロスドックチェーンの構築にほぼメドが立った一方、足元ではネットワークの設計変更が必要になっている。
24年4月からドライバーの時間外労働の上限は現状の月100時間未満から80時間以内に制限される。
これに合わせて片道の走行が4時間以内になるように中継地点を修正しなければならない。
関東―関西は途中2回のドッキングが必要になる。
そこで近交グループは、関東・関西の大消費地を面でとらえた事業展開に移る。
関東は1都3県に北関東を加えて一つのエリアと見なす。
関西も兵庫まで含めた広域をブロック化する。
東西の2大エリアを静岡県三島市周辺と名古屋周辺で2回ドッキングして結ぶことを想定している。
こうして近交グループは、長距離トラックからクロスドックチェーンに輸送方式を転換した。
同社のドライバーは毎日自宅に帰れるようになった。
それでも手取りは長距離に引けを取らない水準を維持しているという。
新たに入社するドライバーは半分以上を紹介が占めるようになり、牽引免許の取得を希望する若手も増えている。
新システムは環境面での優位性でも注目されている。
26トントレーラーをワンマン運行するため、13t増トン車を2台走らせるのと比べて燃料使用量を36%削減できる。
当初は反対していた経営幹部たちも今では新システムに対する自信を深めている。
