2022年3月号
特集
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《海外論文》トラックドライバーの職業性ストレス
イントロダクション
トラックドライバーを持続可能な職業であらしめることは、それほど簡単ではない。
彼らは雇用主である企業・荷主・届け先の三者を同時に満足させなければならない。
また、各種の安全規制を守る必要があるにもかかわらず、それを忠実に守ればステークホルダーたちのご機嫌が損なわれることは確実である。
勤務スケジュールは不規則であり、どこかの駐車スペースで都合良く睡眠を取れるという保証はなく、ドライバーの睡眠の質はいつも脅威にさらされている。
質の良くない睡眠は心身のストレスに直結する。
さらにトラックドライバーは、配車係と彼らの仕事の進め方に大きく依存せざるを得ない。
配車係の“心の知能(EI=emotional intelligence)”が、ドライバーの精神的ストレスと深く関係することになる。
こうした労働条件が職業性ストレスを引き起こし、結果的にドライバーの健康とウェルビーイング(良い生活状態)を蝕む。
彼らの持続可能なエンプロイヤビリティ(継続して雇用されるための能力、雇用可能性)と労働参加率を維持するために、われわれはドライバーの置かれている状況により多くの関心を払う必要がある。
世界中の物流セクターでドラックドライバー不足が問題となっていることを考えれば、これには特別な重要性がある。
また、輸送距離が長いほど、そして車両の年式が古いほど離職率が高いという研究もある。
従って、ドラックドライバーのメンタルヘルスの改善と治療は、極めて重要な分野であり、であるからこそ、この問題は輸送環境というより広い文脈の中で検討されなければならないのである。
常に時間に追われている、社会的孤立、相手に見下したような態度をとられることが多いこと、気候の変化や道路交通状況などの障害、暴力ないしは暴力の恐れなど、トラックドライバーが直面しなければならない職業性ストレスは数多い。
そしてトラック輸送の安全性は単なる輸送管理ではなく、公共政策にも関わる問題である。
トラックの大事故は、けが人や死者などの深刻かつ直接的な被害だけでなく、さまざまなレベルの大きな社会的損失や、あらゆるタイプのサプライチェーンの機能不全をもたらす。
しかし、トラックドライバーのバーンアウト(極度の疲労、燃え尽き症候群)についての実証研究は、これまでわずかしか例がない。
バーンアウトには睡眠障害が付きものだが、職業性ストレスも睡眠障害と関係がある。
トラックドライバーという職業には、睡眠障害や仕事の役割ストレスなど、身体的・精神的ストレスが多い。
トラックドライバーのバーンアウトには、どの役割ストレスがどの程度関わっているのか。
それについて理解を深めることが、この研究の目的である。
バーンアウトの主症状は、「情緒的消耗感」・「脱人格化」・「個人的達成感の低下」の三つである。
職業性ストレスは、トラックドライバーの情緒的消耗感に影響を与える。
多くの研究者は、バーンアウトの主たる症状が情緒的消耗感であると考えている。
しかしながら、他の二つの症状についても見ていくことが必要である。
職業性ストレスは一つではなく、それらがバーンアウト全体にどのような影響を与えるかを把握しなければならないからである。
さらに今回は、睡眠の質と配車係の心の知能が、そうした関係性に影響を与えるかどうかについても検証する。
理論的背景 トラックドライバーのバーンアウト バーンアウトは一般に、情緒的消耗感および悲観的態度として定義されることが多いが、その主症状は「情緒的消耗感」である。
情緒的な資源(リソース)が枯渇すると、働き手は生理的にそれ以上仕事に専念することができないと感じる。
また、クライアント(サービスの受け手)に対してネガティブで冷淡な感情を抱き、それを態度にも表すようになる(「脱人格化」)。
三つ目は自分自身の評価、中でも特にクライアントに提供する仕事内容についての自己評価が低下する傾向が見られる。
それを「個人的達成感の低下」と呼ぶ。
働き手は自分自身を不幸に感じ、仕事上の達成感が得られなくなる。
これら「情緒的消耗感」・「脱人格化」・「個人的達成感の低下」が、バーンアウトの3本柱である。
バーンアウトのこうした症状は、スタッフやクライアント、そして彼らが関係する大きな組織にとっても重大な結果を招く恐れがある。
スタッフが提供するケアやサービスの質の低下につながり、高い離職率・無断欠勤・モラルの低下などを引き起こすことが考えられる。
さらには身体的疲労・不眠・アルコールやドラッグへの依存など、個々人が感じるさまざまな苦痛だけでなく、結婚生活にさえ影響する。
「JD─Rモデル(仕事の要求度─資源モデル)」に基づく最新の研究によると、バーンアウトの発現には主に二つのプロセスが関係する。
その一つである、いわゆる“モチベーションプロセス”とは、仕事の資源(job resources)と個人の資源(personal resources)の維持ないしは成長のことをいう。
このプロセスは、仕事の要求度(job demands)が利用可能な資源を越えない限りで発動し、新たな資源を創造する一助ともなり得る。
仕事の要求度は、それが障害ではなく、やりがいとして感じられる場合には、ウェルビーイングにプラスの影響を及ぼす。
もうひとつは“過剰エネルギープロセス”と呼ばれており、バーンアウト発現の直接的な原因になる。
こちらのプロセスは、仕事の要求度が資源の限界を越え、リソースの回復が不可能なほどエネルギーが枯渇することを指す。
そうなると仕事の要求に応えられなくなり、ウェルビーイングが低下してバーンアウトへと至る。
そうした意味では有害となる恐れもある仕事の要求度は、対人関係の葛藤から雇用不安、そして種々の役割ストレスにまで影響する。
次に、ストレスに関する研究で重要視される、役割葛藤と役割曖昧性について見ていくことにする。
役割葛藤と役割曖昧性 役割葛藤は、「仕事として二つ以上のプレッシャーが同時発生している状態、あるいは役割として期待されることへの不適合」と定義される。
一方の役割曖昧性は、「役割に期待されること、それを実現するための手順、役割を遂行した結果、などに関する明確な情報が不足している度合」という意味を持つ。
プロのトラックドライバーは、職務上数々の難題に直面する。
勤め先の企業・荷主・届け先など、ドライバーは複数のステークホルダーの意向に沿うことを余儀なくされると同時に、安全規制の遵守も求められる。
ドライバーがたとえ労働時間外(安全規制による)であっても、配車係はとにかく荷物の配送を最優先するなどが役割葛藤の一例である。
役割曖昧性とは例えば、荷主がドライバーに敷地内の複数の場所での荷下ろしを望んだとしても、ドライバーはまず配車係にお伺いを立てなければならないことなどである。
役割葛藤と役割曖昧性の関係性、そしてトラックドライバーの情緒的消耗感について、初めて研究論文を発表したのがKempらである。
これを要約すれば、役割葛藤は情緒的消耗感と大いに関係するが、役割曖昧性はそれほど関係しない、ということになる。
ここでわれわれの最初の仮説を掲げておこう。
仮説1 トラックドライバーの役割葛藤と情緒的消耗感の間には相関関係がある。
仮説2 トラックドライバーの役割曖昧性と情緒的消耗感の間には相関関係がある。
役割葛藤は、仕事という場で相矛盾する要求を突きつけられることであり、その目標達成には、より多くのエネルギー資源が必要になる。
そしてそれは資源を浪費するにとどまらず、クライアントやステークホルダーに対する否定的で冷笑的な態度を助長するまでに至る。
このことを称して脱人格化と呼ぶわけである。
また、このプロセスは個人的達成感を損なうことにもつながる。
役割曖昧性とは仕事上の要求が不明確であることであり、見方を変えれば、何をすべきか自分なりに解釈する余地が大きいということもできる。
しかしそれは、仕事を達成するのに何をすればよいのかよく分からない、という不安要素を抱えることでもある。
仮説3 トラックドライバーの役割葛藤と脱人格化の間には相関関係がある。
仮説4 トラックドライバーの役割曖昧性と脱人格化の間には相関関係がある。
仮説5 トラックドライバーの役割葛藤と個人的達成感の間には相関関係がある。
仮説6 トラックドライバーの役割曖昧性と個人的達成感の間には相関関係がある。
睡眠の質 睡眠は日常生活の機能回復に役立つが、それが不足すると、情緒的でストレスフルな刺激および出来事に敏感になる。
睡眠と自動車の運転に関する最新の調査では、睡眠不足が、トラックドライバーとしてのあらゆる機能とウェルビーイングに影響することが証明されている。
長距離輸送ドライバーは、睡眠不足を招く過密スケジュール・食生活の乱れ・孤独感などによって心身の健康が損なわれがちであり、実際その例には事欠かない。
この職種に付きものである睡眠不足とその質の低下は、役割ストレスをさらに悪化させてバーンアウトの一因となる。
睡眠不足には、仕事の役割ストレスとバーンアウトの結びつきを強化する効果がある。
一方、良い睡眠は役割ストレスのもたらす負の影響を緩和する。
つまり、良い睡眠は大きな意味を持つのである。
仮説7 全体的に良好な睡眠の質は、役割ストレスとバーンアウトの関係性を弱める効果を持つ。
配車係の心の知能 近年、感情に関する情報の処理とそれを活用する能力は人により異なる、ということに注目が集まっている。
この背景には、感情を理解してそれを表現し、感情的な経験に意味を付与し、感情を制御できる人は、精神的・社会的に適応しやすいという考え方がある。
こうした能力は一般に、「心の知能(emotional intelligence)」と呼ばれる。
人の心をよく解する配車係のドライバーに対する態度は、ドライバーの顧客に対する態度や関係性に影響を与える。
ただし、配車係の心の知能がドライバーのバーンアウトの重要な要因の一つであるか否かについては、今後の研究を待つ必要がある。
従ってここでは、配車係の心の知能が、種々の役割ストレスとバーンアウトの調整変数(*編集部注 二つ以上の変数=ここでは役割ストレスとバーンアウトの関係に影響を及ぼす変数のこと)かどうかということを検討することにしたい。
つまり心の知能指数の高さが、仕事の要求度を下げたり、役割ストレスを軽減するといったバッファーとしての機能を果たすのかどうかということである。
あるいは逆に、配車係の心の知能指数が低いと、ネガティブな意味合いの関係性が強化されるということもできる。
仮説8 配車係の心の知能指数の高さは、さまざまな役割ストレス(役割葛藤や役割曖昧性など)とバーンアウトの関係性を弱める。
調査方法 調査にあたっては、できるだけ多くのトラックドライバーのデータを集める必要があった。
質問内容は役割ストレス、バーンアウトの構成要素、睡眠の質、配車係の心の知能、などについてである。
総回答数534件のうち、有効回答数は214件であった。
予想されたように、この職種は男性が多く全体の93%、女性が7%である。
年齢層は20〜29歳(18%)、30〜39歳(21%)、40〜49歳(34%)、50〜59歳(21%)、60歳以上(7%)である。
また勤務時間は定時が27・6%、午前29%、午後25%、夜間16%である。
(その他の詳細は省略) 調査結果 トラックドライバーの役割ストレス(役割葛藤と役割曖昧性)とバーンアウトの3症状(情緒的消耗感、脱人格化、個人的達成感の低下)との関係性を検証すること、それがこの研究の目的であった。
調査結果から、仮説1、3、5、6はその妥当性が確認された。
役割曖昧性が情緒的消耗感および個人的達成感の低下につながるとした仮説2と4は、その関係性が検証されなかった。
質の良い睡眠と配車係の心の知能指数の高さが、役割ストレスとバーンアウトの関係性を緩和するという仮説7および8も、確認するまでには至っていない。
しかしながら、緩和ではなく直接的な影響があることが判明した。
これらを要約すれば、まず役割葛藤と配車係の心の知能が、バーンアウトを引き起こす脱人格化・個人的達成感の低さと大いに関係するということがいえる。
役割曖昧性については、情緒的消耗感および脱人格化との結びつきは証明されなかったが、個人的達成感とは多少の関係性が認められた。
睡眠の質と配車係の心の知能のバッファーとしての機能は、期待されたほどではなかった。
しかしながら心の知能は、バーンアウトの3要素全てに直接的な影響がある。
睡眠の質も、3要素のうち2要素に大きく影響を与えるようである。
図表2には、トラックドライバーが感じるストレスの原因のうち、上位の10項目を掲げた。
考察 ドラックドライバーの役割葛藤がバーンアウトの三つの症状全てと深い関係がある一方、役割曖昧性は個人的達成感にのみ関係する。
役割曖昧性と他の二つ、すなわち情緒的消耗感および脱人格化の間には、特別な関係性は認められない。
米国のトラックドライバーの役割葛藤と情緒的消耗感の関係性については、先にKempらの研究があり、彼らもわれわれと同じく役割曖昧性にネガティブな効果はないとしている。
適度な役割曖昧性は、役割が判然としない状況を自らの創意工夫で乗り切る契機ともなり得る。
この見方からすれば、働き手が自分なりのやり方で問題を解決する余地があるという意味で、役割曖昧性というストレス要因は、仕事の妨げどころか逆にやりがいをもたらすこともあるとすることも可能であろう。
だが、トラックの運転手という立場で個人の裁量の幅が広いことが、果たして本当に良いことかどうかは大いに疑問が残る。
従って、役割曖昧性よりも役割葛藤の方が、トラックドライバーの経験とより深い関わりがあって影響力も大きい、とした方が適切であるかもしれない。
睡眠の質については、役割ストレスとバーンアウトの関係性には影響を与えないことが明らかになった。
しかし睡眠の質は、それ自体がさまざまな影響を及ぼす。
トラックドライバーにとってだけでなく、道路交通の安全面にも関係するという大きな社会的影響を持つことからも、質の良い睡眠については、より一層の認識と研究が求められる。
睡眠不足であったり、あるいはその質に問題があると、感情的/ストレスフルな刺激や出来事に対して、われわれは必要以上に敏感になる。
また、バーンアウトが疑われる人びとの間では、睡眠障害を訴える声が多い。
バーンアウトの主たる危険因子の一つが睡眠不足(1日6時間以下)であることからすれば、睡眠の質が果たす役割の解明は急務といえる。
配車係の心の知能は、トラックドライバーのバーンアウトに直接的な影響を与える。
従ってそれは、トラックドライバーが仕事の要求に応えるために必要な、仕事の資源の一つとして重要な役割を果たすことになる。
あるいはそれが低いレベルにある場合、そのこと自体が仕事の妨げや別の役割ストレスになる。
既に存在する役割ストレスとバーンアウトとの結びつきを強化することにはならないが、バーンアウトの三つの症状に直接的な影響を与えることは明らかである。
配車係の振る舞いが、トラックドライバーの行動に影響を与えることはつとに知られているし、会社を辞めたいという気持ちや顧客に対する態度にも関係がある。
提言 一般的に、トラックドライバーは決して楽な職業とはいえない。
ドライバーのエンプロイヤビリティと、物流セクターにおける安定雇用の確保という観点からは、トラックドライバーのウェルビーイングに対し、もっと大きな関心を寄せることが強く求められる。
バーンアウトというリスクからトラックドライバー自身が身を守る方法としては、とりわけ仕事における役割葛藤という要素をうまくコントロールするということを、われわれは推奨したい。
ステークホルダーにはそれぞれの立場で異なる優先順位があるのに、彼らの要望に同時に応じなければならないということが、役割葛藤の根幹となっている。
そこで、他のドライバーがいかなる理由でどのように優先順位を付け、その結果がどうなったかなどについて、ドライバー仲間と私的に会話を交わすこと(直接、もしくはソーシャルメディアを通じて)が、なにがしかの役に立つと考えられる。
トラックドライバー同士が、仕事をこなすために本当に必要な優先順位をお互いに学び合い、そうすることで社会的な理解を得ることにもつなげていくのである。
もうひとつの提案は、職場で直属の上司を交え、役割葛藤のリスクについてオフィシャルな議論を行うことである。
相矛盾する要求に対して会社としてドライバーにどのような対応を求めるのか、それをはっきりさせることで、“この仕事に付きもの”である難題に対する共通の理解を得ておくわけである。
われわれの研究が明らかにしたストレスのトップスリー(他の道路利用者からの嫌がらせや威嚇、適当な休憩場所確保の問題、運転時間の強要)は業界全体の通弊であり、それだけにドライバーがこの職業に見切りをつけずに済むよう、関係者が一丸となって取り組む必要がある。
道路利用者の攻撃性を抑えるためには、まずは政府がコマーシャルや広告掲示板で自分の運転スタイルをあらためて省みるよう呼びかけたり、運転マナーに対する規制をより厳しくするなどの措置をとることが求められる。
あるいは、運転に関わる職業のトレーニングや教育の場で、道路上での危険行為に対して一層の注意を促すというのも一法であろう。
適当な休憩場所の確保の問題、運転時間の強要、デジタルタコグラフの導入などは、トラックドライバーの睡眠の質を保証するどころか、低下につながる可能性がある。
ドライバーからは、「適当な休憩場所の確保がますます難しくなってきている」「常に時間に追われている」「運転時間が1分でも超過するとデジタルタコグラフに記録される」などの声が上がっている。
駐車できるスペースがもっとあれば、こういったストレスは多少なりとも緩和されるはずである。
睡眠はバーンアウトの3症状のうちの二つに直接的な影響を与える、ということをわれわれは見てきた。
規則的な睡眠パターンが可能になる定時勤務は、疲労解消にも効果があるが、その対象となり得るドライバーは全体のわずか27%にすぎない。
それでも安心して駐車できる施設があれば、自分の身やトラックおよび積荷の心配をする必要がなくなるため、ドライバーは質の良い睡眠をとることができる。
また配車係の心の知能も直接的影響力を持つため、この知見を生かし、より柔軟なやり方で配送のスケジュール組みや順番決めをすることをわれわれは提唱したい。
そうすることでドライバーは、自分のペースで適宜休憩をとって体調を管理することができるようになる。
また、経営陣は配車係に対し、ドライバーへの接し方を改善するトレーニングの機会を与えるべきである。
さらに大事なことは、それぞれの配車係が受け持つドライバーの人数を、1人で目の届く範囲に抑えておくことである。
配車係が忙し過ぎれば当然のようにイライラが募り、個々のドライバーの状況をいちいち把握する余裕がなくなるからである。
配車係を採用する際にも、チェック項目として心の知能指数を加えることが求められる。
最後に、例えば適当な駐車スペースを見つける、時間通りに指定場所にまでたどり着く、電車や船の出発時刻に間に合わせる、といったプレッシャーがあると、つい乱暴な運転をしてしまうとドライバーたちは口をそろえる。
こうした自覚を危険運転は絶対しないという方向へ導くことができれば、道路交通の状況は多少なりとも改善に向かうであろう。
(翻訳構成 大矢英樹)
彼らは雇用主である企業・荷主・届け先の三者を同時に満足させなければならない。
また、各種の安全規制を守る必要があるにもかかわらず、それを忠実に守ればステークホルダーたちのご機嫌が損なわれることは確実である。
勤務スケジュールは不規則であり、どこかの駐車スペースで都合良く睡眠を取れるという保証はなく、ドライバーの睡眠の質はいつも脅威にさらされている。
質の良くない睡眠は心身のストレスに直結する。
さらにトラックドライバーは、配車係と彼らの仕事の進め方に大きく依存せざるを得ない。
配車係の“心の知能(EI=emotional intelligence)”が、ドライバーの精神的ストレスと深く関係することになる。
こうした労働条件が職業性ストレスを引き起こし、結果的にドライバーの健康とウェルビーイング(良い生活状態)を蝕む。
彼らの持続可能なエンプロイヤビリティ(継続して雇用されるための能力、雇用可能性)と労働参加率を維持するために、われわれはドライバーの置かれている状況により多くの関心を払う必要がある。
世界中の物流セクターでドラックドライバー不足が問題となっていることを考えれば、これには特別な重要性がある。
また、輸送距離が長いほど、そして車両の年式が古いほど離職率が高いという研究もある。
従って、ドラックドライバーのメンタルヘルスの改善と治療は、極めて重要な分野であり、であるからこそ、この問題は輸送環境というより広い文脈の中で検討されなければならないのである。
常に時間に追われている、社会的孤立、相手に見下したような態度をとられることが多いこと、気候の変化や道路交通状況などの障害、暴力ないしは暴力の恐れなど、トラックドライバーが直面しなければならない職業性ストレスは数多い。
そしてトラック輸送の安全性は単なる輸送管理ではなく、公共政策にも関わる問題である。
トラックの大事故は、けが人や死者などの深刻かつ直接的な被害だけでなく、さまざまなレベルの大きな社会的損失や、あらゆるタイプのサプライチェーンの機能不全をもたらす。
しかし、トラックドライバーのバーンアウト(極度の疲労、燃え尽き症候群)についての実証研究は、これまでわずかしか例がない。
バーンアウトには睡眠障害が付きものだが、職業性ストレスも睡眠障害と関係がある。
トラックドライバーという職業には、睡眠障害や仕事の役割ストレスなど、身体的・精神的ストレスが多い。
トラックドライバーのバーンアウトには、どの役割ストレスがどの程度関わっているのか。
それについて理解を深めることが、この研究の目的である。
バーンアウトの主症状は、「情緒的消耗感」・「脱人格化」・「個人的達成感の低下」の三つである。
職業性ストレスは、トラックドライバーの情緒的消耗感に影響を与える。
多くの研究者は、バーンアウトの主たる症状が情緒的消耗感であると考えている。
しかしながら、他の二つの症状についても見ていくことが必要である。
職業性ストレスは一つではなく、それらがバーンアウト全体にどのような影響を与えるかを把握しなければならないからである。
さらに今回は、睡眠の質と配車係の心の知能が、そうした関係性に影響を与えるかどうかについても検証する。
理論的背景 トラックドライバーのバーンアウト バーンアウトは一般に、情緒的消耗感および悲観的態度として定義されることが多いが、その主症状は「情緒的消耗感」である。
情緒的な資源(リソース)が枯渇すると、働き手は生理的にそれ以上仕事に専念することができないと感じる。
また、クライアント(サービスの受け手)に対してネガティブで冷淡な感情を抱き、それを態度にも表すようになる(「脱人格化」)。
三つ目は自分自身の評価、中でも特にクライアントに提供する仕事内容についての自己評価が低下する傾向が見られる。
それを「個人的達成感の低下」と呼ぶ。
働き手は自分自身を不幸に感じ、仕事上の達成感が得られなくなる。
これら「情緒的消耗感」・「脱人格化」・「個人的達成感の低下」が、バーンアウトの3本柱である。
バーンアウトのこうした症状は、スタッフやクライアント、そして彼らが関係する大きな組織にとっても重大な結果を招く恐れがある。
スタッフが提供するケアやサービスの質の低下につながり、高い離職率・無断欠勤・モラルの低下などを引き起こすことが考えられる。
さらには身体的疲労・不眠・アルコールやドラッグへの依存など、個々人が感じるさまざまな苦痛だけでなく、結婚生活にさえ影響する。
「JD─Rモデル(仕事の要求度─資源モデル)」に基づく最新の研究によると、バーンアウトの発現には主に二つのプロセスが関係する。
その一つである、いわゆる“モチベーションプロセス”とは、仕事の資源(job resources)と個人の資源(personal resources)の維持ないしは成長のことをいう。
このプロセスは、仕事の要求度(job demands)が利用可能な資源を越えない限りで発動し、新たな資源を創造する一助ともなり得る。
仕事の要求度は、それが障害ではなく、やりがいとして感じられる場合には、ウェルビーイングにプラスの影響を及ぼす。
もうひとつは“過剰エネルギープロセス”と呼ばれており、バーンアウト発現の直接的な原因になる。
こちらのプロセスは、仕事の要求度が資源の限界を越え、リソースの回復が不可能なほどエネルギーが枯渇することを指す。
そうなると仕事の要求に応えられなくなり、ウェルビーイングが低下してバーンアウトへと至る。
そうした意味では有害となる恐れもある仕事の要求度は、対人関係の葛藤から雇用不安、そして種々の役割ストレスにまで影響する。
次に、ストレスに関する研究で重要視される、役割葛藤と役割曖昧性について見ていくことにする。
役割葛藤と役割曖昧性 役割葛藤は、「仕事として二つ以上のプレッシャーが同時発生している状態、あるいは役割として期待されることへの不適合」と定義される。
一方の役割曖昧性は、「役割に期待されること、それを実現するための手順、役割を遂行した結果、などに関する明確な情報が不足している度合」という意味を持つ。
プロのトラックドライバーは、職務上数々の難題に直面する。
勤め先の企業・荷主・届け先など、ドライバーは複数のステークホルダーの意向に沿うことを余儀なくされると同時に、安全規制の遵守も求められる。
ドライバーがたとえ労働時間外(安全規制による)であっても、配車係はとにかく荷物の配送を最優先するなどが役割葛藤の一例である。
役割曖昧性とは例えば、荷主がドライバーに敷地内の複数の場所での荷下ろしを望んだとしても、ドライバーはまず配車係にお伺いを立てなければならないことなどである。
役割葛藤と役割曖昧性の関係性、そしてトラックドライバーの情緒的消耗感について、初めて研究論文を発表したのがKempらである。
これを要約すれば、役割葛藤は情緒的消耗感と大いに関係するが、役割曖昧性はそれほど関係しない、ということになる。
ここでわれわれの最初の仮説を掲げておこう。
仮説1 トラックドライバーの役割葛藤と情緒的消耗感の間には相関関係がある。
仮説2 トラックドライバーの役割曖昧性と情緒的消耗感の間には相関関係がある。
役割葛藤は、仕事という場で相矛盾する要求を突きつけられることであり、その目標達成には、より多くのエネルギー資源が必要になる。
そしてそれは資源を浪費するにとどまらず、クライアントやステークホルダーに対する否定的で冷笑的な態度を助長するまでに至る。
このことを称して脱人格化と呼ぶわけである。
また、このプロセスは個人的達成感を損なうことにもつながる。
役割曖昧性とは仕事上の要求が不明確であることであり、見方を変えれば、何をすべきか自分なりに解釈する余地が大きいということもできる。
しかしそれは、仕事を達成するのに何をすればよいのかよく分からない、という不安要素を抱えることでもある。
仮説3 トラックドライバーの役割葛藤と脱人格化の間には相関関係がある。
仮説4 トラックドライバーの役割曖昧性と脱人格化の間には相関関係がある。
仮説5 トラックドライバーの役割葛藤と個人的達成感の間には相関関係がある。
仮説6 トラックドライバーの役割曖昧性と個人的達成感の間には相関関係がある。
睡眠の質 睡眠は日常生活の機能回復に役立つが、それが不足すると、情緒的でストレスフルな刺激および出来事に敏感になる。
睡眠と自動車の運転に関する最新の調査では、睡眠不足が、トラックドライバーとしてのあらゆる機能とウェルビーイングに影響することが証明されている。
長距離輸送ドライバーは、睡眠不足を招く過密スケジュール・食生活の乱れ・孤独感などによって心身の健康が損なわれがちであり、実際その例には事欠かない。
この職種に付きものである睡眠不足とその質の低下は、役割ストレスをさらに悪化させてバーンアウトの一因となる。
睡眠不足には、仕事の役割ストレスとバーンアウトの結びつきを強化する効果がある。
一方、良い睡眠は役割ストレスのもたらす負の影響を緩和する。
つまり、良い睡眠は大きな意味を持つのである。
仮説7 全体的に良好な睡眠の質は、役割ストレスとバーンアウトの関係性を弱める効果を持つ。
配車係の心の知能 近年、感情に関する情報の処理とそれを活用する能力は人により異なる、ということに注目が集まっている。
この背景には、感情を理解してそれを表現し、感情的な経験に意味を付与し、感情を制御できる人は、精神的・社会的に適応しやすいという考え方がある。
こうした能力は一般に、「心の知能(emotional intelligence)」と呼ばれる。
人の心をよく解する配車係のドライバーに対する態度は、ドライバーの顧客に対する態度や関係性に影響を与える。
ただし、配車係の心の知能がドライバーのバーンアウトの重要な要因の一つであるか否かについては、今後の研究を待つ必要がある。
従ってここでは、配車係の心の知能が、種々の役割ストレスとバーンアウトの調整変数(*編集部注 二つ以上の変数=ここでは役割ストレスとバーンアウトの関係に影響を及ぼす変数のこと)かどうかということを検討することにしたい。
つまり心の知能指数の高さが、仕事の要求度を下げたり、役割ストレスを軽減するといったバッファーとしての機能を果たすのかどうかということである。
あるいは逆に、配車係の心の知能指数が低いと、ネガティブな意味合いの関係性が強化されるということもできる。
仮説8 配車係の心の知能指数の高さは、さまざまな役割ストレス(役割葛藤や役割曖昧性など)とバーンアウトの関係性を弱める。
調査方法 調査にあたっては、できるだけ多くのトラックドライバーのデータを集める必要があった。
質問内容は役割ストレス、バーンアウトの構成要素、睡眠の質、配車係の心の知能、などについてである。
総回答数534件のうち、有効回答数は214件であった。
予想されたように、この職種は男性が多く全体の93%、女性が7%である。
年齢層は20〜29歳(18%)、30〜39歳(21%)、40〜49歳(34%)、50〜59歳(21%)、60歳以上(7%)である。
また勤務時間は定時が27・6%、午前29%、午後25%、夜間16%である。
(その他の詳細は省略) 調査結果 トラックドライバーの役割ストレス(役割葛藤と役割曖昧性)とバーンアウトの3症状(情緒的消耗感、脱人格化、個人的達成感の低下)との関係性を検証すること、それがこの研究の目的であった。
調査結果から、仮説1、3、5、6はその妥当性が確認された。
役割曖昧性が情緒的消耗感および個人的達成感の低下につながるとした仮説2と4は、その関係性が検証されなかった。
質の良い睡眠と配車係の心の知能指数の高さが、役割ストレスとバーンアウトの関係性を緩和するという仮説7および8も、確認するまでには至っていない。
しかしながら、緩和ではなく直接的な影響があることが判明した。
これらを要約すれば、まず役割葛藤と配車係の心の知能が、バーンアウトを引き起こす脱人格化・個人的達成感の低さと大いに関係するということがいえる。
役割曖昧性については、情緒的消耗感および脱人格化との結びつきは証明されなかったが、個人的達成感とは多少の関係性が認められた。
睡眠の質と配車係の心の知能のバッファーとしての機能は、期待されたほどではなかった。
しかしながら心の知能は、バーンアウトの3要素全てに直接的な影響がある。
睡眠の質も、3要素のうち2要素に大きく影響を与えるようである。
図表2には、トラックドライバーが感じるストレスの原因のうち、上位の10項目を掲げた。
考察 ドラックドライバーの役割葛藤がバーンアウトの三つの症状全てと深い関係がある一方、役割曖昧性は個人的達成感にのみ関係する。
役割曖昧性と他の二つ、すなわち情緒的消耗感および脱人格化の間には、特別な関係性は認められない。
米国のトラックドライバーの役割葛藤と情緒的消耗感の関係性については、先にKempらの研究があり、彼らもわれわれと同じく役割曖昧性にネガティブな効果はないとしている。
適度な役割曖昧性は、役割が判然としない状況を自らの創意工夫で乗り切る契機ともなり得る。
この見方からすれば、働き手が自分なりのやり方で問題を解決する余地があるという意味で、役割曖昧性というストレス要因は、仕事の妨げどころか逆にやりがいをもたらすこともあるとすることも可能であろう。
だが、トラックの運転手という立場で個人の裁量の幅が広いことが、果たして本当に良いことかどうかは大いに疑問が残る。
従って、役割曖昧性よりも役割葛藤の方が、トラックドライバーの経験とより深い関わりがあって影響力も大きい、とした方が適切であるかもしれない。
睡眠の質については、役割ストレスとバーンアウトの関係性には影響を与えないことが明らかになった。
しかし睡眠の質は、それ自体がさまざまな影響を及ぼす。
トラックドライバーにとってだけでなく、道路交通の安全面にも関係するという大きな社会的影響を持つことからも、質の良い睡眠については、より一層の認識と研究が求められる。
睡眠不足であったり、あるいはその質に問題があると、感情的/ストレスフルな刺激や出来事に対して、われわれは必要以上に敏感になる。
また、バーンアウトが疑われる人びとの間では、睡眠障害を訴える声が多い。
バーンアウトの主たる危険因子の一つが睡眠不足(1日6時間以下)であることからすれば、睡眠の質が果たす役割の解明は急務といえる。
配車係の心の知能は、トラックドライバーのバーンアウトに直接的な影響を与える。
従ってそれは、トラックドライバーが仕事の要求に応えるために必要な、仕事の資源の一つとして重要な役割を果たすことになる。
あるいはそれが低いレベルにある場合、そのこと自体が仕事の妨げや別の役割ストレスになる。
既に存在する役割ストレスとバーンアウトとの結びつきを強化することにはならないが、バーンアウトの三つの症状に直接的な影響を与えることは明らかである。
配車係の振る舞いが、トラックドライバーの行動に影響を与えることはつとに知られているし、会社を辞めたいという気持ちや顧客に対する態度にも関係がある。
提言 一般的に、トラックドライバーは決して楽な職業とはいえない。
ドライバーのエンプロイヤビリティと、物流セクターにおける安定雇用の確保という観点からは、トラックドライバーのウェルビーイングに対し、もっと大きな関心を寄せることが強く求められる。
バーンアウトというリスクからトラックドライバー自身が身を守る方法としては、とりわけ仕事における役割葛藤という要素をうまくコントロールするということを、われわれは推奨したい。
ステークホルダーにはそれぞれの立場で異なる優先順位があるのに、彼らの要望に同時に応じなければならないということが、役割葛藤の根幹となっている。
そこで、他のドライバーがいかなる理由でどのように優先順位を付け、その結果がどうなったかなどについて、ドライバー仲間と私的に会話を交わすこと(直接、もしくはソーシャルメディアを通じて)が、なにがしかの役に立つと考えられる。
トラックドライバー同士が、仕事をこなすために本当に必要な優先順位をお互いに学び合い、そうすることで社会的な理解を得ることにもつなげていくのである。
もうひとつの提案は、職場で直属の上司を交え、役割葛藤のリスクについてオフィシャルな議論を行うことである。
相矛盾する要求に対して会社としてドライバーにどのような対応を求めるのか、それをはっきりさせることで、“この仕事に付きもの”である難題に対する共通の理解を得ておくわけである。
われわれの研究が明らかにしたストレスのトップスリー(他の道路利用者からの嫌がらせや威嚇、適当な休憩場所確保の問題、運転時間の強要)は業界全体の通弊であり、それだけにドライバーがこの職業に見切りをつけずに済むよう、関係者が一丸となって取り組む必要がある。
道路利用者の攻撃性を抑えるためには、まずは政府がコマーシャルや広告掲示板で自分の運転スタイルをあらためて省みるよう呼びかけたり、運転マナーに対する規制をより厳しくするなどの措置をとることが求められる。
あるいは、運転に関わる職業のトレーニングや教育の場で、道路上での危険行為に対して一層の注意を促すというのも一法であろう。
適当な休憩場所の確保の問題、運転時間の強要、デジタルタコグラフの導入などは、トラックドライバーの睡眠の質を保証するどころか、低下につながる可能性がある。
ドライバーからは、「適当な休憩場所の確保がますます難しくなってきている」「常に時間に追われている」「運転時間が1分でも超過するとデジタルタコグラフに記録される」などの声が上がっている。
駐車できるスペースがもっとあれば、こういったストレスは多少なりとも緩和されるはずである。
睡眠はバーンアウトの3症状のうちの二つに直接的な影響を与える、ということをわれわれは見てきた。
規則的な睡眠パターンが可能になる定時勤務は、疲労解消にも効果があるが、その対象となり得るドライバーは全体のわずか27%にすぎない。
それでも安心して駐車できる施設があれば、自分の身やトラックおよび積荷の心配をする必要がなくなるため、ドライバーは質の良い睡眠をとることができる。
また配車係の心の知能も直接的影響力を持つため、この知見を生かし、より柔軟なやり方で配送のスケジュール組みや順番決めをすることをわれわれは提唱したい。
そうすることでドライバーは、自分のペースで適宜休憩をとって体調を管理することができるようになる。
また、経営陣は配車係に対し、ドライバーへの接し方を改善するトレーニングの機会を与えるべきである。
さらに大事なことは、それぞれの配車係が受け持つドライバーの人数を、1人で目の届く範囲に抑えておくことである。
配車係が忙し過ぎれば当然のようにイライラが募り、個々のドライバーの状況をいちいち把握する余裕がなくなるからである。
配車係を採用する際にも、チェック項目として心の知能指数を加えることが求められる。
最後に、例えば適当な駐車スペースを見つける、時間通りに指定場所にまでたどり着く、電車や船の出発時刻に間に合わせる、といったプレッシャーがあると、つい乱暴な運転をしてしまうとドライバーたちは口をそろえる。
こうした自覚を危険運転は絶対しないという方向へ導くことができれば、道路交通の状況は多少なりとも改善に向かうであろう。
(翻訳構成 大矢英樹)
