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2022年1月号
特集

米ウォルマートの脱チェーンストア戦略

小売業の枠を超えた事業展開  米ウォルマートの米国事業「ウォルマートUS」の店舗数は2020年1月期に前年度の4769店舗から13店舗減少した。
21年1月期にはさらに13店舗減少して4743店となった。
1962年の創業以来、店舗数を増やし続けてきたウォルマートが2年連続で国内店舗数を減らした。
過去に例のないことである。
 しかし、業績は伸びている。
ウォルマートUSの21年第3四半期の売上高は966億ドルで前年同期比9・3%増だった。
既存店売上高(ガソリン販売は除外)も同9・2%増で、14年の第3四半期から実に28四半期連続で前年を上回っている。
小売業は店舗数を増やせば売り上げを伸ばせると盲信してきた人たちには信じられないことが起きている。
 同社のダグ・マクミランCEOは21年11月16日に発表した第3四半期(8月~10月期)の決算発表で、「われわれは『Walmart GoLocal』『Walmart Connect』『Walmart Luminate』『Walmart+』『Spark Delivery』『Marketplace』『Walmart Fulfillment Services』などの事業を立ち上げている」と語った。
 このうち「GoLocal」は配送サービス、「Connect」はデジタル広告、「Luminate」はデータサービス、「Walmart+」はサブスクリプションサービス、「Spark Delivery」はネットスーパーの即配サービスである。
つまりウォルマートは小売業とは別事業を次々に立ち上げているのである。
 世界最大のチェーンストアに一体、何が起きているのか? 結論から言えば、ウォルマートは従来型のチェーンストア展開とは決別した。
急拡大したネットスーパー事業がウォルマートのDXを加速させて、新たなビジネス機会を次々に創出している。
その結果、ライバルのアマゾンに似た、BtoBビジネスを幅広く手掛けるビジネスモデルへの転換が進んでいるのである。
 実際、マクミランCEOが挙げた新事業の一つ「Marketplace」は、アマゾンのマーケットプレイスと同様、ウォルマートのサイトでサードパーティが新商品もしくは中古品を出品して売り手と買い手を結びつける事業である。
09年に開始して現在までに1億6千万点以上の商品を扱っている。
 そして、マーケットプレイスに出品する販売業者を対象に、注文を処理して返品を管理して、カスタマーサービスまで手掛けるのが「Walmart Fulfillment Services」だ。
出品者はウォルマートの効率的なロジスティクス機能をリーズナブルなコストで利用できる。
 他の事業も、もう少し紹介しておこう。
「Spark Delivery」は、クラウドソーシングをベースにギグワーカーを募り、ネットスーパーの宅配を委託するプラットフォームサービスだ。
ドライバーは自分の車を使って好きな時間に勤務をリクエストして宅配業務にあたる。
 「GoLocal」は、Spark Deliveryを利用してウォルマートが他の小売業のラストワンマイルを代行するサービスだ。
21年9月にローンチしたばかりだが、翌10月にはホームセンター最大手のホーム・デポが最初の大口顧客となった。
ホームデポの受注システムとウォルマートの配送システムをAPIで連携させて、ネット注文品をホームデポの店舗から当日もしくは翌日に宅配する。
つまり「Buy Online Deliver From Store(BODFS:ボドフス)」を実施する。
 「Luminate」は、小売店やメーカーなどが特定のカテゴリーや商品に関して、実用的な知見を得るためのデータ分析サービスだ。
ウォルマートのネットとリアルの客数は1週間当たり1・5億人にも達する。
その膨大なデータを解析してメーカーやサプライヤーに有用なかたちで提供する。
 そしてウォルマートの別事業の中でも特に注目されているのが「Walmart+」と「Walmart Connect」の二つのサービスだ。
 Walmart+は「アマゾンプライム」に対抗する有料のメンバーシッププログラムとして20年9月にスタートした。
年間98ドル(月額12・95ドル)の会費を払うと、ウォルマートのスーパーセンターで販売されている食品や日用品、オモチャ、家電品などを無制限かつ無料で当日配達する。
当初は購入金額35ドル以上を配送無料の条件にしていたが20年末に制限を撤廃した。
 会員はガソリンの割引や店内の買い物時に利用者が商品バーコードを専用アプリでスキャンして決済を終える「Scan&Go」などの特典も受けられる。
21年6月には処方薬の割引特典も付加した。
ウォルマートの薬局で処方薬を購入すると一部の処方薬は無料、その他数千種類の処方薬が最大85%引き、平均65%引きで購入できる。
 ウォルマートは21年の年末商戦期にセールイベントを3回に分けて実施して、Walmart+の会員にはネット販売で一般客より4時間早くアクセスができる権利を付与した。
日本でも抽選販売となっているソニー「プレステ5」など超人気商品もその対象に含まれている。
 これによってドイツ銀行は21年9月、Walmart+の会員が3200万人まで増加することを予想している。
翌10月にはモルガン・スタンレーが最大1400万人と予想した。
二つの予想には2倍以上の開きがあるが、大量の会員を獲得することは間違いないであろう。
 もうひとつの「Walmart Connect」は広告ビジネスだ。
アメリカ人の9割がウォルマートで買い物をしている。
そして買い物客との物理的な情報接点は無数にある。
店内に設置されたテレビモニターやデジタルサイネージ、セルフチェックアウトレジだけでも17万台に上るという。
さらにはネットスーパーで商品の検索後に表示するレコメンド機能などを広告媒体として最大限利用する。
 ウォルマートは今後5年で広告事業の売上高を10倍以上に拡大して、国内の広告代理店上位10社に食い込むことを目標としている。
既に成果は現われている。
21年第2四半期の同社のメディア売上高は前年同期に比べ95%増加したという(売上高自体は非公表)。
極小物流拠点の展開が本格化  ウォルマートは21年2月、22年1月期の設備投資額が前期比36%の約140億ドル(約1・47兆円)になると発表した。
興味深いのはその内訳だ。
17年のウォルマートUSへの設備投資額は79・2億ドルで、そのうち「新規出店等」への投資が27・4%を占めていた。
それが20年に1%以下まで縮小した。
 一方、「Eコマース、テクノロジー、サプライチェーンその他」への投資比率は17年に52・5%だったものが、18年に60・7%、19年に67・9%と年々増加して20年には国内の設備投資額79・0億ドルのうち71・4%を占めるようになった。
21年には72・6%にまで拡大した。
 設備投資のなかでも注目されるのが21年初頭に発表された「マイクロ・フルフィルメント・センター(MFC)」の展開だ。
スーパーマーケット店内もしくは店に併設する形で小規模物流センターを設置して、ネット注文のカーブサイドピックアップや宅配の依頼に対応する。
ウォルマートでは「ローカル・フルフィルメント・センター(LFC)」と呼んでいる(写真2)。
 一般的なLFCの規模は1万平方フィート(約280坪)。
1・5万~1・8万アイテムを扱い、60アイテムの注文をピッキングから袋詰めまで5分程度で処理する。
着工から4カ月程度で稼働できて、1カ所当たりの工事費は300万ドル前後という。
 ウォルマートはロボット物流スタートアップのアラートイノベーション(Alert Innovation)と提携してLFCのシステムを開発、19年にニューハンプシャー州セイラム地区のスーパーセンターで第1号施設を稼働させた。
 同センターの延べ床は約2万平方フィート(560坪)。
うち8千平方フィート(220坪)のピッキングエリアを高さ20センチ幅60センチのカート型ロボット「アルファボット(Alphabot)」が動き回り、注文品をピッキングしてピックステーションに運ぶ。
 ピックステーションではスタッフが、カーブサイドピックアップもしくは宅配サービスのドライバー用に荷物を仕分ける。
青果・精肉・鮮魚などの生鮮品は担当スタッフが店内を歩き回ってピッキングするマニュアルピッキングとなっている。
 ウォルマートによると20年初頭の段階で同センターには約30台のアルファボットが稼働しており、2万アイテム中の2割強に当たる4500アイテムをピッキングして、マニュアルピッキングと合わせて1日当たり200件近くの注文を処理したという。
アルファボットは最大100台まで拡張可能という。
 テキサス州プレイノ地区とルイスビルにあるスーパーセンターでもLFCの工事を開始した。
アーカンソー州ベントンビルの本社近くやユタ州アメリカンフォーク地区の店舗でも近く同工事を開始する計画という。
 システム開発ではアラートイノベーションの他にも、大手マテハンメーカーのDematicや、MFC開発ベンチャーのファブリック(Fabric)とも提携を結びLFCを展開していく。
ミドルマイルに完全自動運転トラック  自動運転車にも積極的に投資している。
21年11月、自動運転トラックを開発するガティック(Gatik)と提携して、完全自動運転トラックで物流センターと店舗間を結ぶ世界初のトライアルを発表した(写真3)。
2台の無人トラックがダークストアと店舗間の往復7・1マイル(約11キロメートル)を毎日12時間にわたり巡回運行する。
 場所は本社のあるアーカンソー州ベントンビル。
ダークストアから2マイル(3・2キロメートル)の短いルートでのドライバー付き自動運転システムのテストを開始して、21年8月からは安全要員を除いた完全無人状態で試験運用を行っている。
 公開された動画には、マルチ温度管理のトラックに改造されたフォード製「トランジット350HD」が、ダークストアと「ネイバーフッドマーケット」(ウォルマートが展開する中規模の総合スーパー)を往復する様子が映し出されている。
 車両がダークストアに到着すると担当者がトラックの側面に設置されているタッチスクリーン端末をタッピングして後方のドアを開ける。
するとネットスーパーの注文品を入れたブルーのコンテナがパワーゲートを介して自動で車内に運び込まれる。
 そのまま無人のトラックが出発。
店舗に到着すると、やはり担当者がタッチスクリーン端末でリアドアを開け、パワーゲートで荷物を下ろし、利用者が店舗に受け取りに来るまで、もしくは宅配するまで一時保管する。
 ウォルマートは延べ床5千坪以上のスーパーセンターを全米に3570店舗展開している。
さらにスーパーセンター間の空いた商圏を埋めるように1200坪前後のネイバーフッドマーケットを700店近く配置している。
 ダークセンターとして機能するスーパーセンターとピックアップ拠点となるネイバーフッドマーケットのミドルマイルに自動運転トラックを導入、リアルの店舗網をECに活用することで、ルーラルエリアにおける効率的なネットスーパーのネットワークを構築していく。
 自動運転車による宅配サービスは3都市でテストしている。
フォード・モーター、自動運転スタートアップのアルゴAIをパートナーに、テキサス州オースチン、フロリダ州マイアミ、ワシントンDCでそれぞれ自動運転技術を搭載したハイブリッド車「エスケープ」を使ったテストを始めた。
 利用者はウォルマートアプリを介してネット注文。
生鮮品などの注文品をエスケープのトランクに積み、利用者宅まで運ぶ。
到着通知を受けた利用者が、利用者宅前に停まった車のトランクから注文品を取り出す。
 自動運転車を使った宅配サービスのテストはもはや珍しくはないが、一度に3カ所で同様のテストを行うのは大手チェーンストアでは初。
同社は人口密度の高い3都市でさまざまな宅配テストを実施することで、他社の試験プログラムと差別化できるとしている。
 他にも複数のプロジェクトを動かしている。
18年にはアルファベット傘下の「ウェイモ(Waymo)」と提携した送迎サービスのテストをアリゾナ州フェニックスで開始すると発表した。
これは顧客がネット注文した商品を自宅に迎えにくるウェイモの自動運転車に乗って取りに行くというもの。
 また、19年にはスタートアップの「ユーデルブ(Udelv)」と提携、自動運転バン「ニュートン(Newton)」による配達サービスの実証実験をアリゾナ州サプライズ地区で実施した。
21年4月にはゼネラル・モーターズ(GM)の傘下の「クルーズ(Cruise)」に出資して自動運転車両による配達のテストを行うと報じられた。
飛行機型ドローンで超速デリバリー  陸上のアクセスに制約が多いエリアや災害の被災地への緊急輸送などは、空からのデリバリーに活路を見出そうとしている。
21年11月、ドローン開発のジップライン(Zipline)と提携、同社の自律飛行ドローンによるオンデマンドの超速宅配サービスをローンチした(写真4)。
 ドローンは翼幅3・4メートルの飛行機型で、機体上部のプロペラを動力源とする。
安全性を確保するため補助のプロペラも搭載している。
従来型の回転翼のドローンより悪天候に強く、かつ高速で最高飛行速度は時速80マイル(約128キロメートル)に達する。
 サービス対象エリアは、本社所在地のアーカンソー州ベントンビルから車で北東に20分弱のところにあるネイバーフッドマーケットのピーリッジ店から50マイル(約80キロメートル)圏内。
ドローンが1度に運べる重量は4ポンド(約1・8キログラム)まで。
対象商品は市販薬やバンドエイドなどヘルス&ウエルネスとなっている。
 注文にはジップラインのアプリを使う。
受注した商品をウォルマートのスタッフが店内でピッキング、生分解性プラスチック製のパラシュートが付いたコンテナに格納する。
これをドローンの腹部にセットして、店舗よりも高い25フィート(約7・5メートル)に設置したローンチパッドから発射する。
自力で滑走して離陸するだけの推進力を持たないため発射台が必要なのだ。
それでも最短90秒間隔で発射できるため、1日に数百回の宅配が可能になるとしている。
トレイラーに発射台を載せる方法も検討されている。
 固定翼機は回転翼機のドローンと異なり、空中で停止する「ホバリング」ができない。
そのため注文品はドローンの機体の底部のハッチが開いて、パラシュートで投下する。
ジップラインによるとその目標精度は「駐車スペース2台分」としている。
そのことからも大都市や郊外より、地方や田舎での展開を目指していることが分かる。
 帰還したドローンはスリングショットに似た設備を使って着陸させる。
二つのタワーの間にケーブルを張り、飛行中のドローンの尾翼の下にあるフックを引っ掛ける。
緊急時には、ドローンから着陸用のパラシュートが開く。
着陸の衝撃で損傷を受けることを考慮して、機体は発泡スチロールなど容易に取り替えが可能な安価なパーツで構成している。
 ジップラインとの提携発表からわずか数日後、ウォルマートは別のタイプのドローンを使って商用宅配を開始することを発表した。
ドローン開発のドローンアップ(DroneUp)と組んで、空輸宅配サービス「Delivery on the fly」を開始する。
 ドローンアップのドローンはジップラインとは異なり、通常の回転翼タイプ。
発射台などの大掛かりな施設は必要なく、すぐにローンチできる。
ドローンが注文者宅の裏庭に到着すると80フィート(約24メートル)まで下降し、ホバリングしながらケーブルを地面にまで降ろして注文品を届ける。
最大積載重量は3ポンド(約1・4キログラム)。
 ヘリコプターのようにゆっくり下降しながら着陸できるのもメリットだ。
ただし、自律飛行できるジップラインと違って、フライトオペレーターが必要。
機体に据え付けられたカメラでモニタリングしながら操縦する。
ジップラインほど飛距離もないため、対象地域は管制塔から数マイル程度に限られる。
 まずはアーカンソー州ベントンビルから車で南に約30分のところにあるファーミントン地区のウォルマート・ネイバーフッドマーケットに移動式の管制塔を設置する。
同店があるエリアにはドローン用ハブ空港も設置されている。
ファーミントン地区以外でもアーカンソー州ロジャースのネイバーフッドマーケットと、ベントンビルのスーパーセンターでテストを予定している。
 アマゾンのジェフ・ベゾス氏がドローン宅配「アマゾン・プライム・エア(Amazon Prime Air)」の構想を公表したのは13年だった。
物流センターから飛び立つドローンの宅配イメージ動画に当時、世界は驚いた。
しかし、今日に至るまでアマゾンの構想は実現していない。
実験などのニュースさえ聞こえてこない。
それと比べると現在のウォルマートの積極的な姿勢は際立っている。
「宅内」デリバリーの普及には課題  ウォルマートは21年11月、留守宅の冷蔵庫に荷物を届ける「インホーム・デリバリー(InHome Delivery)」をワシントンDCでも開始した。
19年10月に、ミズーリ州カンザスシティ、カンザス州カンザスシティ、フロリダ州ベロビーチ、ペンシルベニア州ピッツバーグでローンチしたサービスだ。
 しかし、パンデミックの影響で20年8月にサービス内容を一部変更していた。
ミズーリ州カンザスシティとベロビーチではキッチン内の冷蔵庫に届けるサービスを一時中断、家のドアの内側に注文品を置いていくだけにとどめた。
しかし、現在は配達員の検温や手袋の着用、さらに冷蔵庫のドアなどを作業後に消毒するなどの処置をほどこして再開している。
そして21年に入ってからアーカンソー州北西部、フロリダ州パームビーチ、ジョージア州アトランタにもエリアを広げている。
 インホーム・デリバリーの利用者は、スタートアップの「レベル・ホーム(Level Home)」が開発したスマートロックを勝手口やガレージに取り付け、ウォルマート・アプリとは別にインホーム・デリバリーの専用アプリをダウンロードする。
利用料金は年額148ドルもしくは月額19・95ドル(サインアップから30日間は無料)でサブスクリプション「Walmart+」の会費込み。
つまりインホーム・デリバリーの利用者は自動的にウォルマート・プラス会員となる。
 宅配時間は午前9時~午後6時まで。
配達員は利用者宅で専用アプリを使ってスマートロックを開錠。
シューズカバーに手袋・マスクを着用して留守宅に入り、注文品を冷蔵庫に詰めたり、ガレージの冷蔵庫内に置いたりする。
返品も配達員が持って帰ってくれる。
梱包したり宛先ラベルを貼る必要はなく、ドアの近くに置いておけばいい。
翌日にはシステム上の返品処理が完了する。
 配達員はカメラを装着しており、利用者は宅配の様子をリアルタイムでスマートフォンで確認できる。
録画データ(保存期間は宅配から7日間)を後からチェックすることもできる。
配達員が万が一、利用者宅に損害を与えた場合に備えて最大100万ドル(約1・1億円)の損害賠償保険に入っている。
配達員へのチップは不要。
宅配を頻繁に利用する利用者にとってはそれだけ割安で利便性が高いサービスだ。
 ただし、普及には壁がある。
調査会社シビック・サイエンス(CivicScience)が4月19日~21日に成人3426人を対象に行った調査によると、10人中9人がプライバシーの問題から同サービスは不要と答えている。
また、調査会社アプトピア(Apptopia)はインホーム・デリバリー専用アプリのダウンロード数が鈍化していることを報じていた。
 インホーム・デリバリーの専用サイトでは、それぞれの地域で活躍する配達員の画像に名前、勤続年数や役職のプロフィールを掲載し、各配達員に届いた顧客の声まで見せている。
配達員は少人数で構成していることも強調しており、心理的なハードルを取り除こうと腐心しているのがうかがえる。
 この留守宅内への配達サービスはアマゾンが先行した。
17年にプライム会員向けに「Amazon Key」をローンチした。
その後、「Key by Amazon」に改称して21年4月時点で国内5000以上の都市に適用している。
 その一方、アマゾンは18年4月にスタートした、配達員が利用者の自動車のトランクを開けて配達する「Amazon In-Car Delivery」を、21年10月時点で無期限停止にしている。
理由は明かされていないが車種が限定されていたことが要因だろう。
「ピックアップタワー」を撤去  同様にウォルマートもイノベーションのビルド&スクラップを重ねている。
21年4月にはネット注文した商品を店舗で受け取るBOPIS用の「ピックアップタワー(Pickup Tower)」を撤去した(写真5)。
ピックアップタワーは、エストニアのロボット開発企業クレヴァロン(Cleveron)の「クレヴァロン401」で、高さ16フィート(約5メートル)・幅8フィート(2・4メートル)、最大300箱(箱の大きさは60センチメートルx40センチメートルx40センチメートルまで)の注文品の保管が可能だった。
 その利用を中止したのは、コロナ禍でカーブサイドピックアップの需要が急増したことが理由という。
ウォルマート広報担当者は「お客さまは一カ所でピックアップしたいのです。
お店の外で受け取りたいのです」と話している。
つまり、生鮮品と一緒に他の商品も駐車場で受け取りたいということだ。
そこでウォルマートは1500カ所に展開した最新設備の撤去を決断したのである。
 これに先立つ20年11月には、スタートアップのボサノバ・ロボティクス(Bossa Nova Robotics)との契約を破棄して同社の物流ロボット「オートS」を突然“クビ”にしている(写真6)。
 ボサノバのオートSはAIやスキャニングセンサーを搭載した高さ約1・8メートルのロボットだ。
売り場の通路を進みながら欠品や在庫少、置き間違い、値段間違いなどを一つ一つ念入りにチェックしていく。
オートSが得たデータは中央のコンピューターに送信されて、スタッフに商品補充など適切な行動を提案する。
 秒速20センチメートル(分速12メートル)の速さで移動して一つの通路を2分~3分、1時間以内に店舗内を一巡する。
ライダー(LiDAR:Laser Imaging Detection and Ranging)を搭載、棚や陳列物、障害物などをよけながら移動して買い物客など人を察知するとスキャニングを一時停止する。
 ウォルマートは17年からオートSの導入を開始して約500台まで増やしておきながら、ここに来て利用を中止した。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙が匿名の情報として報じたところによると、コロナ禍で増えたピッカーの方がロボットよりも欠品や品薄などの在庫管理が効果的だったとしている。
またウォルマートUSのジョン・ファーナーCEOが店内ロボットに対する顧客の反応についても懸念したと伝えられている。
 カスタマー・エクスペリエンスを向上するためであれば、ウォルマートは大金を投じたハイテク設備のビルト&スクラップも躊躇しないのである。

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